「──うーん。まだ居ないかぁ」
ばあちゃる学園を卒業して何年経っただろうか、とちえりはぼんやりと物思いに耽る。それぞれがそれぞれの道に進んで輝いているのを見ると、あの日々が懐かしく感じる。
決して疎遠になったワケではないけれど、濃密なあの日々を思い返すと一抹の寂しさを感じる。
しかし、今日は久し振りに皆が集まる。他の子たちはパーティー会場の設営準備。そして私のお仕事は───主賓のお迎えだ。
「待たせるのはちえりの専売特許なのにー。ピノちゃんに“にゃん”以外は渡した覚えはないんだけどなぁ」
そう。桜が咲き初める3月の今日。我らがアイドル部の妹分カルロ・ピノのばあちゃる学園卒業式の日なのだ。
式の終了まで待ちぼうけのちえりはかつての学舎をぐるりと見渡す。全くもって、変わりがない。
まるで過去をそのまま再現出来るかのようだ。なんて思ってしまうが私達は大人になって、もう学生ではないのだ。
そんな何とも言えない郷愁を抱いていると懐かしいチャイムが鳴り響いた。
キーンコーンカーンコーン
門出を祝福するような、背中を押すような。そんな鐘の音。続々と証書を抱えた生徒達が晴れやかな顔で門を潜って出ていく。
その集団を眺めているとふと気付いた。少し離れたところに部活の仲間か、別れに堪えきれず泣いているグループが居た。数人の学生とそれより少しだけ幼い少女が一人。
なんとなく、私達の卒業式の日を思い出す。あの時はピノちゃんがくたびれて眠るほど泣いていたっけ。
今生の別れでもないというのに…………まぁ、それを言うと私も相当恥ずかしい所を皆に見せてしまっているのだが。
そう時間を考えずに追想していると俄に視界が暗くなった。ようやくやって来たかと視線を上げると、思ったより高いところに顔があった。
「──ピノちゃん?」
「お久しぶりですね。ちえりお姉ちゃん」
お待たせしましたか?とクスリと微笑んだ彼女は昔のままに純粋で、目を瞠るほど綺麗になっていた。
「ず、随分大きくなったねピノちゃん。一瞬わからなかったよ」
ついさっき到着したところだと軽く流しつつビックリして空いた間を誤魔化すように言葉が反射的に飛び出す。ついぞ160cmを越えることは出来なかった私より頭一つデカイ。
「あれからスクスクと成長していきましたのよ」
───まるで私の方がお姉ちゃんになったみたいですね。
そう言って彼女は手を伸ばして私の頭に積もったらしい桜の花弁を丁寧に落として梳いていく。咲き始めのこの時期故にあまり多くは積もっていなかった。しかし、そうされて初めて自分が思ったより長いこと待ちぼうけていたことに気付かされた。
つまりはそういうことで、よく見るとその顔には子供のような得意気な笑顔が浮かんでいた。
「ちえりお姉ちゃん、そんなに私に会いたかったんですの?」
頭を撫でる手の優しさが増し、心地のよさが全身に広がっていく。気恥ずかしくて振り払いたくなったけれど、そんな姿を見せるのは私の──そう。お姉ちゃんの沽券に関わる。
頭に乗せられた手をどけて不思議そうな顔をする彼女の胸元のタイを掴んで軽く顔を引き寄せ、つま先を立ててそっと耳打ちをする。
「──ええ、貴女に会いたくて待ちきれなかったのよ」
精一杯の色気ある声で囁いてやると林檎のように耳まで赤く染めさせることに成功した。
そう、まだまだ私の方がお姉さんなのだ。いいや、いつまで経っても私は彼女の──
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