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ありがとうございます
「かわいいなぁ……」
ふっ、と己の口から声が漏れた。呟くような小さな言の葉。
静寂に支配された部室で放たれたその言葉は空気に溶けて消えることなく、しっかりと相手の耳に届いてしまった。
「急になぁに?ピノちゃん」
ピノと共に部室に居る彼女──ちえりは手元のスマホから視線を外し、目を細めて意地悪く笑う。
誰かの秘密を聞きつけた子供のような猫撫で声で、わざわざ答えを言わせようと、そういう態度で先を促している。
「──、ちえりお姉ちゃんはかわいい。改めてそう思いましたの」
気恥ずかしくて、どうにかして誤魔化したかったが、転嫁する対象もなく、観念するしかなかった。
窓によって切り取られた光がお姉ちゃんを淡く照らして、笑顔がとても美しくて、本当に様になっていて───意図せず口をついて出る程かわいかったから。
そんなピノの心の内を知ってか知らでか、ちえりはふふん、と腰に手を当て堂々と胸を張った。
「もー!ちえりがかわいいのは当たり前じゃん!!」
いつも通りの自信に満ち溢れた返答。思うままに言葉を返す。
「ええ、ちえりお姉ちゃんは蝶々さんのように綺麗でかわいいですわ」
「ありがと~、もっと言ってもいいんだよ~」
甘い甘い、
(どうして──)
モヤモヤとした不明瞭な気持ちが心の片隅に現れて。
(どうして──)
本当の本当に、心の底から思っているのに。そんな軽く、等閑に流されて欲しくない。そういう、ものじゃ、ない。
そこからはよく、覚えていない。簡単に纏めるなら、今まで抱いていた感情が溢れるようにして漏れ、言葉の奔流となっていった。如何にちえりお姉ちゃんが可憐で愛しいのかを語った。
最初は「えへへ~」とはにかんだり、ピノの言葉に同意などしていたちえりだったが、思いの外ストレートなピノの褒め言葉に押されていき次第に蚊の鳴くような細い声になり、仕舞いには耳までさくらんぼのように真っ赤に染めて、隠すように俯いてしまった。
それでもピノの弁舌は止まることがなく、刻々と時は過ぎていった。
「ピ、ピノちゃん!!」
彼女の一声によってピノは意識を引き戻された。ちえりの瞳が部屋のあちこちをさ迷う。
「ぅあ……あの、ね?言ってくれるのは嬉しいん、だけど……その…………恥ずかしい」
そう、絞り出すように漏らされた。
ああ、そうだ。この姿だ。砂糖に包まれたその下の、熟れた果実。色とりどりの飾りによって引き立てられた主役。
言うなれば、彼女の核。素だ。
飾るまでもなくかわいらしい彼女の姿がどうしようもなくいとおしくて。
「本当に、かわいい」
と、意趣返しをしてしまうのだった。