ある雪深い村の話   作:みあ

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長らく離れてたのでリハビリ


うさぎさぎ そのいち

 気付いたら毛玉に囲まれていた。 

 白くてふわふわの毛玉。 

 ここは洞窟の中のようだ。 

 入り口から差し込む柔らかい光は月であろうか? 

 月明かりに照らされた毛玉には長い耳が生えている。 

 自分の記憶と照らし合わせてみると、どうやらウサギの子供のよう。 

 右手をそっと上げてみる。 

 目の前のウサギたちと同じように真っ白な毛に包まれた右手。 

 きっと、今の私もこのウサギたちと同じ姿になっているのだろう。 

 親の姿は見えない。 

 私はおそらくは兄弟たちと思われる毛玉に包まれながら微睡みの中で朝を待つことに決めた。 

 

 私は多分、人間だったことがあるのだと思う。 

 それが前世というものだったかは定かではない。 

 ひょっとすると、ただの夢だったのかも。 

 でも、そうでなくてはこの知識量は説明が付かない。 

 夢うつつにそんなことを考えていたら周りの毛玉が動き出した。 

 暖かな布団を剥ぎ取られるような切なさ。 

 途端に襲い掛かってくる朝の冷気。 

 洞窟の出口へと向かう毛玉たちを慣れない四本足で追い掛けた。 

 

 洞窟を抜けるとそこは雪国だった。 

 見渡す限りの銀世界。 

 どうやら雪山の中腹にある洞窟らしい。 

 山の麓には湖や森、緑の草原が広がっている。 

 雄大な景色に見惚れていると、周りの毛玉たちが再び洞窟の中に戻っていく。 

 慌てふためいて転がるように、というか転がる姿は実に愛らしい。 

 そこで彼らに続こうと一歩進めたことは限りない幸運だったのだろう。 

 その一瞬後に背後に金属を打ち合わせるような音が響いた。 

 一足飛びに洞窟に――実際には岩穴と呼ぶのが相応しかったようだが――飛び込んで振り向いた。 

 そこにいたのは青い表皮に包まれた巨大なトカゲ。 

 二本足で跳ね回り、哀れ逃げ遅れた毛玉のひとつを咥え込んで去っていった。 

 あんな生き物は知らない。 

 少なくとも私の知識にはない。 

 どうやら一匹だけだったようで、早々に気配が無くなったのを確認するとまた毛玉たちが出口へと歩き出す。 

 あのトカゲのように、私達も腹ごしらえをしなければ生きていけないのだ。 

 空腹に鳴くお腹を抱えながら、私もその後に続いた。 

 

 雪の間から顔を見せる緑色の葉っぱを食べては岩陰に身を潜める。 

 夜になれば巣穴へと帰り、再び寄り集まって朝を待つ繰り返し。 

 その間に何度か会話を試みたのだが、結局の所通じなかったのは不幸中の幸いだったのかもしれない。 

 毛玉は日に日に数が減っていき、ついには私一人だけ、もとい一匹だけになってしまったのだった。 

 一匹だけになっても私の生活は変わらない。 

 朝になると活動し、草を食べては隠れ、夜になったら寝るだけだ。 

 一体どれだけそのサイクルを繰り返したことだろう。 

 朝日とともに目覚めた私はその日の食事を求めて雪山を彷徨う。 

 雪の間から青々と伸びた草を口にしていると、目の前にいつぞやのトカゲが現れた。 

 咆哮を上げながら飛び掛ってくるトカゲを力を込めてぶん殴る。 

 雪山を転がるようにして崖下へと消えていくトカゲを見て思う。 

 

 ……これ、ウサギじゃないや。 

 明らかに私の知識の中にあるウサギとは一線を画する生物。 

 それが白兎獣ウルクススという生き物だと知るのはもっと未来の話だった。

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