俺の仕事はハンターだ。
村に現れる獣を倒し、その亡骸から採取される資源を持って帰るのが使命。
村の者は皆、俺に単独でのハンターは危険だと口々に言う。
だが、アオアシラだってイャンクックだって俺の敵ではなかった。
このハンマーの前には巨大な獣たちも無残に屍を晒すのみ。
俺の獲物はこんな奴らじゃない。
最終目標は雷狼竜ジンオウガ。
俺の爺さんがその昔倒したという竜だ。
森の中、ぽっかりと開いた草原で闇夜に放電が舞い踊る。
真っ青な毛並みはまさに蒼い閃光となって襲い掛かってきた。
だが遅い。
俺の身体は既にそこにはない。
半身を捻りながら僅かに避け、振り向き様にハンマーを叩き付ける。
余韻に震えながら全身の毛が逆立つような感覚を覚え、全力でその場を離れた。
半回転して起き上がった俺の目の前で奴は放電を始めた。
これまでに何度もしてやられた超帯電状態に移行するのだろう。
あの状態になったジンオウガは今までの比ではない。
速度も耐久力も一段どころか二段階は上がるといってもいい。
だが……それを倒してこそハンターの誉れ!
ガアアァァァァァァァ!
怒りの咆哮が闇夜を貫く。
猛れ! 吼えろ! そう来なければ面白くない!
ちっぽけな身体ひとつで巨大な獣に立ち向かう俺を村人は笑った。
ハンマーに振り回されても俺はハンターであることを選ぶ。
例えここで朽ち果てようともな!
幾度かのぶつかり合いに俺も回復薬を飲む暇も無い。
そして奴もまた、力尽き果てる時が来たようだ。
脚を引き摺りながら逃げ出そうとする奴を追い掛けようとした時、森の茂みが揺れた。
ジンオウガが逃げる方角。
その真正面に人の姿が見えた。
くそっ! 気付かなかった!
俺がジンオウガを倒すのが速いか、ジンオウガが逃げ出すのが速いか……いや、違う。
今するべきことはそんなことじゃない。
ハンマーを捨て、身軽になった俺は人影に向かって全速力で走った。
弓を背中に背負った女。
知らない顔だが装備を見るに初心者ハンターだろう。
輸送クエストの途中で運悪く出会ってしまったというところか。
近付くに従って女の表情が見えるようになった。
その顔は恐怖でひきつっている。
無理もない、ジンオウガはなりたてのハンターが出会うことなどまずない本物の怪物だ。
脚を引き摺りながらも突進するジンオウガ!
その正面でへたりこんだ女を、俺は全速力で蹴り飛ばした。
その刹那、俺の身体にとんでもない衝撃が走った。
ジンオウガの全速力の突進である。
脚を引き摺りこそすれ、その巨体による体当たりは今までの攻撃全てを凌駕するほどの一撃。
ガハァッ!
肺の中の空気が強制的に身体から絞り出された。
受け身を取る隙などありはしない。
大木に叩き付けられたまま無様に転がるしかなかった。
あまりの衝撃に息が出来ない。
痙攣する俺を振り返ることなく、ジンオウガは森の奥深くへと消えていった。
「大丈夫?」
しばらくして、女ハンターが覗き込んできた。
涙を流した跡が見える。
今回のことは、周りを見ていなかった自分の責任だ。
だがそれでも、怒りがこみ上げてくるのは抑えようがない。
「ふざけるニャ! お前が邪魔しニャきゃ今頃勝利の雄叫びを挙げてたはずニャ!」
「ううっ……本当にごめんなさい」
女の泣き顔は苦手だ。
自分がハンターになったのは泣き顔を増やすためではない。
笑顔を増やすためだ。
ジンオウガ憎しで何もかもを見返らなかったのは俺の間違いだったようだ。
「仕方ないニャ……償いとして手伝ってもらうニャ」
「え?」
この女を一人前のハンターとして育て上げて、もう一度ジンオウガに挑むとしよう。
森の奥を見据えながら、俺はそう誓った。
「ちょ、ちょっと待って! 私の意思は?」
「知らないニャ。明日からビシビシ行くニャ!」
それが生涯を共にすることになる、女ハンターとの出会いだった。