ある雪深い村の話   作:みあ

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うーさうさ


うさぎさぎ そのに

 今日は山の麓に行ってみることにした。

 いい加減、雪とトカゲだけでは気が滅入るというものだ。

 いつも食べている雪の間に生える草をいくつか摘んで束にした。

 ちょっとしたお弁当といったところか。

 たまにはピクニックに行くのもいい気分転換になるだろう。

 このウサギのようでウサギでない身体。

 お腹が亀の甲羅のようにスベスベとして硬い。

 幼い頃に見た兄弟達の中にはボディスライダーのようにお腹を下にして滑る者も居た。

 今日はそれを試すとしよう。

 

「キュゥゥゥゥクルルゥゥゥゥゥ!」

 

 圧倒的なまでのこのスピード!

 個人的にはイヤッホォォォォォー!と叫んだつもりだったが、やはり人の言葉を話すのは無理なようだ。

 しかし、この爽快感は今までの何よりも素晴らしかった。

 少し身体を傾けただけで曲がることも止まることも自由自在!

 雪が小さな丘を作っているのが前方に見えた。

 前方に体重を乗せて全速力で跳躍!

 

「キュゥゥゥゥクルルルゥゥゥゥゥ!」

 

 空中で身体を捻って三回転、そして着地!

 痺れにも似た衝撃が足の裏から耳の先まで伝わっていく。

 ……気持ちいい。

 今のは良かった、もう一回!

 と振り向いた私が見たのは数十メートルはあろうかという断崖絶壁。

 帰る時、これ登るのイヤだな。

 せめて何かしら成果を持って帰りたい。

 

「キュルル?」

 

 麓に広がっていた緑は湿原地帯だった。

 雪山には見掛けなかった虫の姿も見える。

 しかし、あれだな。

 比較対象が無いのがダメだな。

 何かこの虫、明らかに大きいんだが。

 ここから見えるのは一匹だけだが、大きさが半端ない。

 あの雪山にいたトカゲの頭くらいの大きさだぞ?

 私の前世の記憶にはそんな大きな羽虫は居ない。

 見た目的には蚊にも見えるがあまりにも巨大すぎる。

 あんなのに血を吸われた日にはどうなることやら。

 しかし、巨大羽虫はこちらに来ることはなく湿原の向こうへと消えていった。

 これ……ひょっとしたら私の身体、ミニサイズなんじゃ?

 巨大羽虫の大きさを三センチとするなら私はせいぜい二十センチといったところだろうか。

 それはそれで省エネかな。

 独りだと変なことばかり思い付いて困るな。

 

 足元がぬかるんで歩きにくい。

 真っ白な毛も膝下はもう泥だらけだった。

 どこかに水場は無いものか。

 しばし足を止め、耳を澄ます。

 ちょろちょろと水の流れる音が聞こえた。

 

「クルルゥ」

 

 そういえば水を飲んだことなかったな。

 草の水分だけで足りているのか、雪を口にしたことすらなかった。

 もっとも、空腹に耐えかねて雪を食べた兄弟たちは皆死んでいったわけだが。

 低体温症なるものだと私の記憶が告げていたのだが、兄弟たちに伝える術はなかったので仕方がない。

 それはさておき、湿地を歩き回った私の前に小さな泉が現れた。

 小さいとはいっても私が三匹くらいは優に寝そべれそうなほどの大きさ。

 さっきの巨大羽虫のせいで目測が出来ないので正確にメートルで表していいものか。

 澄んだ水面を覗き込む。

 

「キュアッ!?」

 

 あ……私か。

 鋭い牙が並んだ怪物がこっち見てるから何かと思った。

 これ……私か。マジか。

 やっぱりウサギじゃないや。

 改めて私の知る世界では無いことを再確認することとなった。

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