「タマ! アオアシラくらい一人で倒すニャ!」
「タマじゃなくてミタマ! 私の名前はミタマだって言ってるでしょ!」
「一人前になるまではタマでいいニャ!」
ピーピー泣いてるだけの女かと思ったら意外に気が強くて困る。
もっとも、ハンターとして生きていこうなんて考える人間が気が弱いはずもない。
正直、俺はコイツを舐めていた。
早々にハンターに見切りを付けて逃げるとでも思ってたんだが。
「タマはどうしてハンターにニャりたいニャ?」
「……別に。若い女が一人で生きていこうと思ったら身体を売るか、ハンターになるかの選択肢しか無かっただけよ」
明らかに嘘だろう。
人間関係に疎い俺でも分かる。
俺の問いかけに答える彼女の視線は空中を泳いでいた。
何か訳有りのようだが突っ込んだところでやぶ蛇になりかねない。
「まあいいニャ。目標はあるニャ?」
「あんたに『ご主人様』と呼ばせてやること!」
「……頑張れニャ」
やっぱり女は面倒くさいな。
アイルーも人もそう変わりはしない。
「まずは距離を取るニャ。接近戦はオレがするニャ」
「あんたってアイルーっぽくないよね」
「よく言われるニャ」
皆一緒のままでは発展などない。
ましてや俺はジンオウガに挑もうとするレベルのバカだ。
当然ただのアイルーのままでは居られない。
アイルーの枠を逸脱するのは仕方がない。
「アイルーはオトリでいいニャ。本命はタマの弓ニャ」
「それでいいの?」
「オレに当てるくらいの覚悟で行くニャ」
初めての連携で相手に遠慮していたら何も出来やしない。何も為せやしない。
自らが中心になって動くくらいの気概は持たねばハンターなんてやっていられない。
「あ……ごめん」
実戦で連携を試さねばとジャギィを練習相手に選んだ矢先、後頭部に軽い衝撃を感じた。
俺は冷静にジャギィにトドメを刺した後、自分の後頭部に突き立った矢を引き抜いた。
まずは的当てから始めた方が良さそうだ。
その前にやるべきことも出来たが。
「オレに当てろとは言ってニャいニャ」
「当てるつもりでって……ごめん、ホントごめん」
申し訳なさそうな顔をするタマ。
人間もアイルーも美醜はよく分からないがおそらくは美人に属するのだろう。
人間の男どもの妙な視線が集まってるのを感じる時がある。
「まず、長髪は結ぶか切るか選ぶニャ。矢を抜く時に引っ掛かって死にたいニャら自由ニャ」
タマは言われるがままに髪を結い上げ始める。
多分、コイツはまともにハンター教育を受けていない。
弓が使えるからハンターやってみましたレベルだ。
元は軍人か、もしくは軍人に連なる家の娘か。
軍人であっても見習いレベルだが。
「ビンの扱いは心得てるニャ?」
ハンター用の弓には毒薬を取り付けることが出来る。
睡眠毒や麻痺毒、あらゆる効果を与えて相手に合わせて戦術を変えられるのが弓の強みだ。
「え、要るの?」
「やれやれニャ……」
まずは基本からだな。
色々と教えることがありそうだ。
「弓の基本は距離を空けつつの円運動ニャ」
演習場を借り切っての基本訓練。
俺もどんな武器が自分に合うのかを試行錯誤した経験がある。
弓を扱うには不器用すぎたが立ち回りくらいは教示出来るはずだ。
「相手の動きを予想しつつ動くニャ。常に射程範囲に入れニャがら一定の距離を保つニャ」
尻尾を持つ相手ならギリギリ尻尾の届かない位置。
体当たりが武器の相手なら避けられるギリギリの距離。
「まずは相手の情報を手に入れるニャ。どんな攻撃をしてくるか、攻撃の前兆行動や癖を徹底的に分析して行動に落とし込むニャ」
先輩のハンターに聞いてもいい、実際に観察に行くのもいい。
いきなり出会って初見で倒せるのはよほど熟練のハンターか、よほどのバカのみ。
大抵は逃げるのが先決だ。
「どんニャ毒が効くのか、どんニャ攻撃が有効ニャのかは実際に戦うまでは分からニャいニャ」
「それじゃあ、依頼はどうするの?」
「一度の失敗で消えるようニャ依頼はほとんどニャいニャ。緊急依頼はお前みたいニャ初心者には来るはずもニャいニャ」
「私だって、その……多分やれば出来るよ!」
「無理ニャ」
俺の言葉にタマはむくれる。
まだまだ子どもだ。
背も低ければ、胸もほとんど膨れていない。
だからこそ育て甲斐がある。
これから成長期に入ればハンターとして伸びていくだけ。
爺さんも昔言っていた。
最強のハンターを育て上げてこそ最高のハンターだと。
「的を中心に置きつつ、走りながら当てるニャ」
的を見ていた俺の頭が前にカクンッと傾げた。
後頭部にはいつぞや感じた痛み。
そして、既に逃走の姿勢に入ったタマを見る。
逃げの判断は実に的確になったものだ。
「……体力テストに切り替えるニャ」
俺は愛用のハンマーを構えつつ、後を追う。
「ご、ごめんなさーい!」
「追い付かれたら後頭部にハンマーニャ」
「それ死ぬやつ!」
「大丈夫、峰打ちニャ」
「ハンマーに峰なんか無いし!」
突っ込みを入れながら走る様子を見るにまだまだ余裕はありそうだ。
ジンオウガを倒すまでには何年掛かるか分からない。
でも、これはこれで楽しくなってきたのもまた事実。
結局この日は耐久レースで終わったのだった。