美 味 す ぎ る!
こんがり肉量産機と化している少年を尻目に、久しぶりの焼き肉を味わう私。
相棒の猫ちゃんの方はたまに塩や香辛料を振り掛けては私の食欲をそそってくる。
結局、残っていたアプトノスのもも肉はほとんど私が食べてしまった。
指に着いた脂すら愛おしい。
ごちそうさまでした!
「おそまつさまニャ」
「もう、いいのか? 俺、一生分くらい肉焼いたぞ?」
本当に美味しかった!
思わず少年を抱き寄せて頬擦りをする。
「うわ、や、止めろ! 俺は美味くないぞ!」
「感謝してるだけニャ。安心するニャ」
慌てる少年と、それをなだめる猫。
感謝の念は絶えない。
「落ち着いたところで話をするニャ」
こうなったのは簡単だ。
なんと、この猫ちゃんは私の言葉を理解してくれたのだ!
人間とは話が通じないのは不便この上ないが、猫ちゃんだけでも初めての会話が通じる相手。
この出会いはきっと幸運だったのだろう。
「で、コイツは何てモンスターなんだ? こんな友好的なモンスターは初めて見たぞ?」
「白兎獣ウルクススニャ」
「ウルクススニャ?」
「ウルクスス、ニャ。ニャはいらニャいニャ」
ウルクスス……どうやらそれが私の種族名らしい。
もちろん人間が勝手に付けた名前なので種族的には何か他の呼び方があるかもしれない。
でも、同族とは何故か言葉が通じなかったので分からない。
「ウルクススは基本的に人間に害を与えることはニャいニャ。だから依頼に載ることも滅多にニャいニャ」
「じゃあ、元々友好的なのか?」
「それも違うニャ。人間と友好的ニャのはボクたちアイルーくらいニャ」
この猫ちゃんはアイルーという種族のようだ。
私はいきなりこの世界に放り出された。
だから何も知らない。
見える物、聞こえる物、全てが新鮮だ。
「ウルクススが住むのは人が居ない雪山や氷原、基本的に人と出会うことがニャいだけニャ。ボクも本物は初めて見たニャ」
この少年はハンターと呼ばれる職業なのだそうだ。
ハンターとは、モンスターを狩って肉や皮を採り生計を立てたり、ギルドと呼ばれる上位組織による依頼で動いたりするそうだ。
アイルーはその手助けをする種族なのだそう。
「俺の名前はテオだ、よろしくな」
「ボクはハカセと呼ばれてるニャ。本名は違うニャ」
「え、マジで!?」
「……何でご主人が驚くニャ?」
私の個体名は無い。
誰も呼ぶ者が居なかったのだから仕方がない。
それよりも何かお礼をしなくては。
何か無いか、そういえばさっきの魚。
「それはハレツアロワニャとバクレツアロワニャニャ」
「一応言っとくとアロワナ、な」
絶命すると爆発する性質があるのだとか。
物騒な魚である。
そうだ、食べるといえばお弁当があった!
腹の硬い皮膚と毛の間に挟んでおいたんだった。
それを取り出すとハカセの眼の色が変わった。
「ニャニャ! 雪山草ニャ!」
「何かあるの?」
「ギルドが特別に引き取ってくれるニャ!」
どうやら人間の世界ではそれなりに貴重な物らしい。
お返しにはちょうど良かったようで安心した。
「薬草も混じってるニャ。こっちの丸い葉っぱが薬草で真っ直ぐなのが雪山草ニャ。ケガをしたら薬草を潰して塗るといいニャ」
「薬草も調合で回復薬になるんだ。俺は調合苦手だけどな」
テオが取り出した小さなビンには緑色の液体が詰まっている。
これが回復薬なのだそうだ。
飲んでも塗ってもケガが治るとは、今までで一番ファンタジーな気がする。
「そうニャ! 肉焼きセットも持ってくニャ」
「さっき予備を手に入れたから一つ余ってんだ。売っても二束三文だしな」
え、いいの?
これがあったら肉や魚も焼いて食べられる。
テオの話ではたいして価値があるものでもないらしいが、私にとっては何よりも嬉しい申し出だった。
「俺たち以外のハンターに会ったら逃げろよ? 友好的でないハンターの方が多いからさ」
「ライガって名乗るアイルーに気を付けるニャ。いつもハンマー振り回してる乱暴者ニャ」
「ここらには俺たちと師匠とその相棒のアイルー……そのライガって奴くらいしか居ないけどな」
覚えておこう。
テオとハカセ以外の人間は危険と。
基本的には近付かないようにしよう。
「縁があったらまたな!」
「バイバイニャ!」
テオとハカセに手を振って雪山に戻ることにした。
これから色々と楽しいことが起こりそうだ。
その前に、どうやってこの崖を登ろうか?
遥か高い頂を見上げながら、少しだけ後悔していた。