テオとハカセと別れた後は穏やかな日々だった。
食生活の充実は実に素晴らしい。
ちなみにあの青いトカゲは不味かった。
肉食獣はあんまり美味しくないという前世の記憶はあるが、ファンタジー世界にも通用するようだ。
「キュルル……」
満足感に思わず声が出る。
見よ! この素晴らしい景色を!
見よ! この乱立する雪だるまを!
周りは常に雪まみれ、そして私は雪に特化したモンスター。
そうだ、雪だるまを作ろうと思うのは当然のことだ!
出来た小さな雪だるまに猫耳を乗せる。
うん、君はハカセだ。
この世界に来て初めて出会った言葉が通じる友人。
私の胸くらいの背の雪だるまはテオだ。
こんがり肉を片手にガッツポーズする姿が思い浮かぶ。
あれは美味しかったな……。
今度会うことがあったら肉を焼くコツを教えてもらおう。
なかなかにタイミングが難しい。
少しでも早ければ生焼け肉、遅ければコゲ肉だ。
食えなくもないんだが時々むせるのは何なのか。
草食動物しか美味しく食べられないからたまに出くわすデカいイノシシくらいでしか練習も出来ない。
雪玉をぶつけて弱ったところを滑走して体当たり、引っ掻いてみたり蹴ってみたり。
私の武器が一体何なのかよく分からないからやるだけやっているんだが、やはり色々と難しい。
肉を手に入れるのも解体の腕が必要となるし。
雪だるまもまた日々の練習の一環なのだ、多分。
「チェェェストォォォーーニャ!」
突然、目の前の雪テオだるまを粉砕しながら何かが飛び出してきた。
ハンマーを振り回す、直立歩行の猫!
「くっ、不意打ちのはずニャ!?」
「キュルアッ!?」
雪だるまに隠れつつ、距離を空ける。
あのハンマーに殴られるのは痛そうだ。
「逃げたニャ!?」
ここまで離れたら大丈夫だろう。
雪だるまの林を抜けて雪に同化すれば見抜けはしまい。
ふと顔を上げた私の鼻先を何かが掠めた。
「キュッ?」
思わず声が出てしまう。
「そこニャ!」
すかさずアイルーに見つかってしまった。
さっき飛んできたのは一筋の矢。
雪だるまの林の外から撃ち込んできたのだろう。
私の目には雪だるまが邪魔で見えない。
まんまと罠に誘い込まれてしまったようだ。
雪だるまを作ったのは私自身だけどな!
「キュルル……」
距離を詰めようとジリジリと近付いてくるアイルー。
距離を空けようと逃げれば矢の雨が降ることだろう。
仕方がない。
「バカにしやがって……ニャ!」
手のひらを上に向け、指をクイクイと動かす。
簡単な挑発だがあっさりと乗ってきた。
飛び込んでくるアイルーを迎えるのは雪!
新雪のパウダースノーを舞い上がらせて煙幕替わりに。
「また逃げたニャ!?」
いや、違う。
私は全く動かず目の前に居る。
雪だるまと同化した私を見抜けなかったのがお前の敗因だ。
柔らかく丸めた雪玉をアイルーの上から被せた。
「ニャ!? ニャんニャんニャ!」
そしてそのまま転がしてさらに大きな雪玉に仕上げる。
きちんと頭を出しておかなければ窒息してしまう。
完成! アイルー雪だるま!
矢を撃っていたのは仲間だろうから放っておいてもそのうち助けが来るだろう。
矢の放たれたのは山の下から。
ならば簡単なこと、上に逃げればいいだけである。
「こら逃げるニャ! まだ負けてニャいニャ!」
上に逃げた……振りをして隠れて見守る。
もしものことがあったらさすがに寝覚めが悪い。
アイルーはさんざん喚きまくり、ぜぇぜぇと呼吸が怪しくなった頃に、人影が姿を現した。
「ぷーくすくすー……自信満々で出て行って負けてやんのー」
人影は女のようだ。
アイルー雪だるまをツンツンと触っては煽りまくっている。
「う、うるさいニャ! お前がちゃんと援護しニャいのがいけニャいニャ!」
「えー……ひとりでやるから手を出すなって言ったのは誰でしたっけー」
もう見ていなくても安心だろう。
こっそりとその場を離れる。
女ハンターが一瞬、こちらに向かってウィンクしてきたような気がした。
あれがライガと師匠だろうか?
テオが言っていたハンター達。
面倒くさいなぁ……それだけが私の感想だった。
にゃんサイドは過去、うさうさは現在となっております