「行け! 攻め立てろ!」
一人の武将の言葉に兵士達は雄叫びを上げて砦へと攻め込む。
「「「オォーーーーー!!」」」
その様子を見て武将は笑みを浮かべる。
「やりましたな」
「ああ。ここを落とすのには苦労をしたが、これで平家の喉元に噛み付けるな」
副官の言葉に武将は安堵するようにため息をつく。
この砦を攻めて早一月…自分を信じて任せてくれた主君に対して良い報告が出来るというものだった。
「ようやくここが落ちたな」
「ああ。流石の清盛の爺さんもここが落ちるのは予想外だっただろ」
藤原石丸は自分の城で、友である北条早雲と共に地図を見ている。
その地図に×印をつけ、満足そうに笑う。
「しかし時間がかかったな」
「帝レースで必死になってるのは俺達だけじゃ無いって事だな。清盛の爺さんの所にも人が集まっているからな」
帝レースの存在はJAPANの一般人にも広まり、藤原石丸の所にも力になりたいという者が集まっているように、帝候補の平清盛の下にも多くの人が集まっている。
これは当然の成り行きであり、これからの戦いが厳しくなるのを石丸も予測していたがその通りとなった。
これまでよりも激しい戦いとなり、JAPANの西と東の境目で大きな衝突が何度も起こった。
そして平家の主要の城とも言える城をようやく攻略出来たのだ。
「俺が行けばもっと早くいっただろうにな」
「それを言うな。お前が死ねば藤原家は途端に瓦解する。もしそうなれば、天下は平家か妖怪王のものになってしまう」
帝レースの参加者は3名…藤原石丸、平清盛、そして妖怪王の黒部。
この中の誰かが脱落した時点で、残りの者と1対1になるのだが、この状況で不気味なのが未だに動きを見せていない妖怪王の存在だった。
「妖怪王黒部か…どんな奴なんだろうな」
「さあな…一つ分かっているのは、多くの者が妖怪王の討伐に向かったが、誰一人として帰ってきていないという事実だけだ」
妖怪王黒部はその言葉の通り妖怪の王であり、強大な力を持つと伝えられている。
誰も敵わない最強の妖怪…それが妖怪王黒部なのだ。
「しかし不気味だな…妖怪達がこの状況でも全く動きを見せないのが気になるな」
「ああ…これまでは結構活発に動いていたっていうのにな」
帝レースの開催から、妖怪王黒部は全くと言って良いほど動きを見せていない。
ただ一つ分かっているのは、このJAPAN中の妖怪が黒部の元へと集まっているという事だけだが、それでも音に聞こえたあの黒部が全く動いていないというのは不気味だった。
「このまま動かないで居てくれれば有り難いのだがな…」
「俺としては動いてくれた方が嬉しいけどな。出来ればよ…黒部の力を見てみたいしな」
どこか楽しそうに笑う石丸に早雲はため息をつく。
「全く…お前は藤原家の当主だというのにまだそんな子供みたいな事を言っているのか」
「男なら誰だって一度は思う事だろ? 最強になりたいってな」
藤原石丸はまさに天才だ。
1対1ではまさに敵無し、その力は噂に名高い魔人にすら匹敵すると言われている。
それだけの才を持ちながらも、長男では無いという理由で家を継げなかった事から一人旅をしていた時に地獄へと赴いた。
そして帝ソードと呼ばれる剣を持ち家に戻った時、藤原家を継げるのは自分しか残っていなかった。
それから藤原家は快進撃を続け、友である北条早雲、そして己に協力を申し出た月餅と共に藤原家を拡大させてきた。
更にはこの帝レース…まさに今が藤原石丸の最大の好機といえた。
即ち、このJAPANを統一し争いの無い世界へとするための。
「だが今の状況で妖怪王の横槍が入らないというのは朗報だな。このまま大人しくしてくれてればいいのだが…」
「だけどよ。もしかしたらあえて動いていないって可能性もあるぜ。俺と清盛の爺さんとの戦いが終わるまで静観してるとかな」
「その可能性も無くも無いが…俺が一番怖いのは、妖怪王の沈黙が他の者の入れ知恵だった場合だな。その場合は…この争い、長く拗れるかもしれないな」
「それならそれでいいさ。尤も俺としてはそうであっても構わないけどな」
石丸の言葉に早雲は苦笑する。
昔から強いものとの戦いを好み、英雄色を好むを地でいく男。
そんな男には不思議と人が集まり、今はこうしてJAPANを2分にする大名にまで成り上がった。
(だからこそ…妖怪王が動かないでくれるのを望むのだがな)
いくら石丸でも妖怪王と戦うのは危険だと早雲は考えている。
何しろ相手はオロチの牙から生まれたと噂されている大妖怪なのだ。
勿論早雲の考えは裏切られることになる…この時点で既に黒部は動いていたのだ。
正確には黒部と共に居るランスが黒部を動かしているのだが、まだその事は誰も知らない。
LP期におけるアフリカ地方の最南端…そこに黒部を筆頭とした、JAPANの名高い妖怪達が一同に集まっていた。
勿論それは妖怪王である黒部をこのJAPANの支配者にするためにだ。
そこには己の欲望を満たすため、あるいはただ人間を食いたいため等、理由は様々ではあるがこうして妖怪が一同に集まるなど未だかつて無かった事だ。
「おう! 来たかおめぇら!」
黒部の怒鳴り声が雷鳴の如く響き渡る。
「「「おおおおおおおお!!!」」」
その声に妖怪達が勢いよく応える。
妖怪たちからすれば、とうとうこの日が来たといった感じなのだ。
妖怪王である黒部が、このJAPANの頂点である『帝』という存在になれる。
そうすればこのJAPANは妖怪の天下になるのだ。
「ここに集まったって事は皆俺の下で戦うって事でいいんだな?」
「「「おおおおおおおお!!!」」」
黒部の言葉に妖怪達が再び雄叫びを上げる。
その様子を見て黒部はニヤリと笑う。
「だったらなってやろうじゃねえか!」
「「「おおおおおおおお!!!」」」
黒部の言葉に妖怪たちのテンションは最大限にまで高まる。
あの黒部が、自分達の王である黒部がとうとうその決意をしてくれた事への喜びに溢れている。
「がはははは! これがお前の部下の妖怪共か!」
その時、黒部の後ろから一人の人間が出てくる。
この場に人間が出て来たことに妖怪達から小さなどよめきが生まれる。
「おう、間違いなく俺の配下だよ」
しかも妖怪王である黒部がその人間に親しげに話している。
(黒部様が嬉しそうにしているだと…?)
以前から黒部に仕えていた妖怪の一人は、これまでの何かに苛立ちをぶつけるように暴れていた時の目とは全く違う目をしている事に驚く。
「おい…あいつ、黒部様と戦った人間だぞ」
「何だと? 黒部様と戦って生きているだと?」
一体の妖怪の言葉が波紋となり、それが津波のように妖怪達の間に広まっていく。
「よーし! ちゅーもーく!」
人間―――ランスの言葉に全妖怪がランスの方を向く。
そこには警戒や敵意もあるが、中には好奇心が含まれた視線も多々ある。
「お前等よく聞け! この天才である俺様がお前達の指揮をしてやる!」
その言葉に先程よりも強い反応が返ってくる。
それは怒声であり、罵倒であり、聞くに堪えない声であるがランスは顔色一つ変えない。
「静かにしねえか!」
黒部の雷鳴のような一喝に全ての妖怪がその口を閉ざす。
妖怪王の言葉はそれほどまでの迫力と重圧がある。
「お前もうるさいぞ。まあいい」
ランスはそこで一歩前に出ると、
「お前等! 黒部を帝にしたいんだろ! だったらぶつくさ言ってないで俺様に従え! そうすれば必ず黒部は帝になれる!」
ランスの言葉に妖怪達の間でどよめきが生じる。
何故ここに人間がいるのか、そして何故人間が黒部を帝にしようとしているのか、妖怪達にはその理由が全く分からない。
「いいかお前等! お前等だけで黒部を帝に出来ると思っているのか!」
「何言ってやがる! 出来るに決まってるだろ!」
「そうだそうだ!」
妖怪達から返って来る言葉にランスは呆れたように、そして馬鹿にしたように笑う。
「そう言っている奴はただの馬鹿だ! いいか! お前等妖怪共はこのレースの最下位どころかスタートラインにすら立っていないんだぞ!」
その言葉に全ての妖怪達が首を捻る。
妖怪は強力であり、個の力でいえば人間をも凌駕している。
勿論中にはその人間に退治される者もいるが、ここに居る妖怪はこのJAPANの中でも有力な妖怪の集まりなのだ。
「おう、これを見ろ!」
黒部はそこでアマテラスから渡された巻物を開く。
そこに描かれているのは妖怪王黒部と、他の帝候補である人間が二人。
「いいか! お前達が今動いてもこの二人の人間が手を組んで向かってくるだけだ! お前等もそれくらいは理解できるだろう!」
ランスの声に妖怪達が再びどよめく。
あの妖怪王黒部が帝になると宣言した事でテンションが上がっていたが、確かにこの人間の言うとおりだと気づく妖怪が多かった。
もしここで黒部を筆頭に妖怪達が動けば、人間達がひとまず手を組んで黒部を脱落させるのは至極簡単な事だ。
「俺が帝になるためには人間の力が必要だ! 俺達だけじゃ数が圧倒的に足りねえ!」
黒部の言葉に集まった三千もの妖怪達が互いに顔を見合わせる。
確かに黒部は強いし妖怪も強いが、やはり数は三千しかいないのだ。
質も重要だが、戦乱において重要なのはやはり数でもあるのだ。
「が、お前達だけでは人間の協力など得られんだろう! だから俺様が力を貸してやると言っているのだ!」
その言葉に妖怪達のどよめきは最高潮に達する。
そんな中、一体の妖怪が前に出てくる。
「力を貸すと言ってもの。一体どうするというんじゃ。妖怪は基本的に人と敵対しておる。そんな中でどうやって協力を得るというのじゃ?」
「そうだそうだ!」
その妖怪の言葉に他の妖怪も追随するように声を上げる。
それでもランスは不敵な笑みを崩さない。
これまでの言葉は全てランスの―――いや、スラルの予想通りの言葉だったからだ。
ランスは一歩前へ出ると、腰に下げている剣を地面へと突き刺す。
すると眩い光と共に、その剣から一人の女性の幽霊が現れる。
「な、なんだあれは!?」
人間の持つ剣から突如として半透明の人間が現れた事で、妖怪達は別に意味にどよめき始める。
その幽霊はここ最近に現れた巫女と呼ばれる女の服を着ている。
「静まりなさい」
半透明の人間の言葉に呼応するように妖怪達が一斉に言葉を止める。
巫女服を纏った半透明の女性―――スラルにはそれほどの威厳と力強さが感じられたのだ。
「お前達が人の力を得る事は非常に簡単…黒部が人に尊敬され、敬われる存在へとなればいい。そうでなければ帝になどなれるはずもない」
「人に敬われる…」
「帝にはなれない…か」
スラルの言葉を聞いて、妖怪達の間にどこか納得したような空気が漂う。
「スラルちゃん。中々いい演技ではないか」
「やってる事は殆ど詐欺だけどね」
それは妖怪達が集結する少し前の事―――
「それでランス。いい手段が見つかったみたいだけど、どんな手段よ」
ランスが思う存分にレダの体で楽しんだ翌日、ランスは魔法ハウスのリビングに皆を集めていた。
思う存分に抱かれたレダは、何処か満足そうに見える。
「黒部。お前は俺様がここに居る事に感謝するんだな。手っ取り早く恩を売りつつ数を増やす手段を見つけてやったんだからな」
「まあお前の策が当たれば感謝してやるよ。で、どんな案なんだよ」
黒部もとりあえずこれからどうすれば良いか考えては見たのだが、生憎と良い手段は思い浮かばなかった。
それはスラル達も同じなようで、少し胡散臭そうにランスを見ている。
「ふっふっふ、それは非常に簡単だ。黒部、お前も妖怪なら呪い付きという言葉は聞いた事があるだろう」
「呪い付き…ああ、人間がそんな事を言ってたな。妖怪に呪いをかけられた人間の事だな」
妖怪が人間から嫌われ、恐れられている理由の一つに呪いが存在する。
それはカラーの呪いと同様に、かけられればそれだけで体に影響が出たり、時には寿命が半分になるといった強烈な効果がある。
「それを解くようにお前の部下に言え。勿論ただじゃないぞ。妖怪王黒部の所に来れば呪いが解けるようにこのJAPAN中に知らせろ」
「は、はぁ?」
黒部にはランスが何を言っているか今一分からない。
確かに妖怪が人間に呪いをかけているのは知っているが、それを解く事がどうして黒部が帝になる事に近づくのかが分からなかった。
「なるほど…そうする事で、黒部さんが妖怪を完全に統治している事を知らしめるんですね」
貴族であったエルシールはランスが何を言いたいかが理解できた。
「だとすると…それなりの場というものも必要よね。それと実際に呪いを解かれたという人間も必要になるわ」
スラルにもランスが何を言いたいかが分かったようで、面白そうに笑みを浮かべる。
「どういう事?」
エンジェルナイトであるレダにも今一分からないようで、首を捻る。
「説明くらいしやがれ!」
黒部はランスの言葉の意味がやはり分からず、犬歯を剥き出しにしてランスに詰め寄る。
「がはははは! 簡単な事だ。人間からお前達に協力するように仕向ければいい」
「仕向ける? それと呪いを解除するのが何が関係あるんだよ」
「妖怪の黒部さんには分からないかもしれませんね。妖怪の方がかけた呪いを黒部さんが解くように命じることで、呪いをかけられた方々に恩を売るんです」
「…それで恩が売れるのかよ」
エルシールの言葉にも黒部は少し懐疑的だ。
何しろ黒部は今まで山で迷子になった子供を人里に送り届けても、人食いの妖怪として敵意を向けられてきた。
今までの出来事から、黒部は少し臆病になってしまっていた。
「必ず売れる。人間なんてそんなもんだ」
「ランスの言葉はちょっと意地が悪いけどその通りよ。妖怪王であるあなたの命令で呪いを解いたとなれば、妖怪に苦しめられて来た人達は必ずあなたに感謝するわ」
スラルも魔王としてこれまで人間の世界を見てきた。
人間とはそういうものではあるが、それが別に悪いとも思っていない。
「…そんなもんか」
「そういうものよ。だからまずはそのための準備ね。黒部、あなたが知っている限りの妖怪の呪い付きを探してちょうだい。出来れば立場や実力がある人間がいいんだけど…そこまで行くと流石に贅沢かしらね」
スラルの頭の中には既に黒部をどうやって帝にするか…その計画が頭の中で練られていく。
これまでのJAPANの旅の中で妖怪は魔物ほどでは無いが人間には敬遠されているのは分かっている。
問題はそれをどう緩和するか、もしくはそれを無視出来るほどの力を黒部が得られるかという事で頭がいっぱいだ。
「まずは黒部の威厳を出すための住居を作らないと…でも私は全部ガルティア任せだったからなあ…黒部! とりあえず力自慢の妖怪を集めといて! 後建設に詳しい妖怪もいるなら教えて!」
「お、おう…」
スラルのあまりの迫力に黒部は思わず返事をしてしまう。
それほどまでにスラルの目はキラキラと輝いていたのだ。
「ランス…スラルの奴どうしたんだ?」
「またスラルちゃんの病気が出ただけだ。帝がどういう感じなのか見たいんだろ」
「そういうことか…」
好奇心の塊のようなスラルは帝とはどのような存在なのかを是非その目で見てみたいのだろう。
だからこそ、黒部を帝にしようと画策しているのだ。
「あ、そうだ。それとランスを手っ取り早く受け入れてもらうために、そこそこの強さを持って人間に対してあまりいい感情を持っていない妖怪がいるといいんだけど。力が全てって感じの妖怪なら尚いいわね」
「妖怪なんて大体がそんなもんだぞ。俺が妖怪王と呼ばれているのも、俺が妖怪の中で一番強いからだしな」
「それなら話は早いわね。後は…そうね、時間があまり無いからこの際ちょっと詐欺紛いの事をしてもいいかな…」
スラルはこれからの事をシミュレートする。
この帝レース、一番不利なのは勿論黒部なのだがそれでも問題は無いと考えている。
何故なら、ここには自分とランスとレダが居るのだから。
「フフフ…楽しくなりそうね」
「それにしてもランス…服装を変えろだなんて無茶言うわね。まあ出来たから良かったけど」
「スラルちゃんの体が戻ったらその服装でHするのもいいな」
「はいはい、戻ってからね」
今のスラルの服装はまさにJAPANの巫女とも言うべき服装だ。
ランスに「服装は変えられんのか」と聞かれたとき、そういえば試してなかったと思い、想像してみたらまさかの衣装の変更が可能となっていた。
するとランスがJAPANに居るのだからと、巫女服を着るように薦めてきたのだ。
「ちょっと待ちな!」
妖怪達がスラルの言葉に納得しようとした時、黒部に勝るとも劣らない体格の妖怪が出てくる。
それは二足歩行の虎というべき存在だ。
「何だこいつ。新種のバンバラか?」
「バンバラじゃねえ! どっから見ても違うじゃねえか!」
ランスは最初新しいバンバラ系のモンスターかと思ったが、確かにバンバラ系のモンスターとは違う。
その背中には翼のように見えるモノが生え、尻尾から蛇が生えている。
「おう窮奇。何が不満だってんだ」
「全部だ全部! お前が帝になるっていうんなら俺は止めねえ! だがよぉ! そのために何でこんな奴等の力が必要なんだよ」
窮奇と呼ばれた虎の妖怪はランスを指差して唸り声を上げる。
そこにあるのは間違いなく人間への敵意だ。
しかし当のランスは不敵に笑うだけだ。
「なんだ。にゃんにゃんの妖怪か」
「猫じゃねえ!」
虎の妖怪がランスに向かって吼える。
その妖怪の背後には、やはり最初からランス達に不満があったであろう妖怪が無数に居る。
「ハッ! ならお前で白黒つければいいじゃねえか。いいだろ? ランス」
「構わんぞ。まあ貴様らに俺様の力を見せ付けるいい機会だ」
ランスは地に突き刺した剣を抜くと、それを窮奇に向かって突きつける。
「いいぞ。俺様の実力を見せてやる。とっととかかって来い」
これも全てスラルの筋書き通りだ。
勿論相手が人間を気に入らないというのも既に黒部から仕入れてあるのだ。
普段ならランスは戦うのを面倒臭がるが、今回はランスの実力を妖怪に見せ付けることにある。
だからこそランスはあえて相手の挑戦を受けているのだ。
「人間が!」
窮奇は四つん這いになって獰猛に吼えると、黒部と同じくらいに大きな体でランスに襲い掛かる。
「ふん」
普通であればその速度と威力で人間の体など紙切れのように切裂かれるだろう。
ランスはその一撃を真正面から剣で受け止める。
「何だと!?」
まさか自分の一撃を受け止められるとは思ってもいなかった窮奇が驚愕の表情を浮かべる。
「がはははは! 死ねーーー!!」
そしてランスはすぐさま反撃に移ると、今度は窮奇があっという間に追い詰められる。
(なんだこいつ!? 強すぎるぞ!?)
窮奇も黒部には負けたとはいえ、妖怪を束ねる長の一人であった。
黒部との激闘に破れ、それからは黒部を妖怪の王と認めてこれまでついて来た。
そして風の噂で人間に負けたと聞いたがそれは間違いだと信じてきた。
しかしこうして黒部の横に人間が立ち、更にはその人間が黒部が帝になるのに協力するという。
そんな事は窮奇には断然認められなかった…自分達が黒部を帝にするのだと決意を固めていた。
(なのによぉ…)
目の前にいる男は自分の決意を嘲笑うかのように自分を追い詰めていく。
「がはははは! その程度か!」
ランスの剣はこれまで戦ってきた武士の剣とは全く違う。
その一撃は異常なまでに重く、更にはその軌道が全く見えてこない。
何処からともなく飛んでくる殺意の高い一撃は避けるので精一杯だ。
「嘘だろ…窮奇様が追い詰められてるぜ」
「あいつは本当に人間か?」
妖怪達はランスのあまりの強さに完全に呑まれていた。
「こいつでトドメだ! ラーンスアターック!」
(今だ!)
窮奇はランスが剣を振りかぶり飛び上がるの見て、それが大技だと判断する。
そしてその大技をかわした後には必ずチャンスが有る、そう考えランスの必殺技であるランスアタックを避けるべく身構える。
だが、彼の予想を大きく上回る速度でランスの一撃が放たれ、ランスアタックをギリギリの所で避けようとした窮奇の体を大きく切裂く。
「ぐわーーーっ!」
窮奇はその体を上下に両断される。
「あ、やりすぎたか」
その結果にランスも思わずやりすぎたと思ってしまう。
「やりすぎたかじゃないでしょ」
そこに金色の美しい髪をした絶世の美女が現れる。
勿論ランスがこの妖怪に負けるとは思ってはいない。
自分の役割はランスに負けた妖怪を癒す事で、その存在感をアピールする事だったのだが、ランスの一撃は明らかにやりすぎであり相手が真っ二つになってしまっている。
普通に考えれば即死している。
「まあ妖怪だからこれくらいじゃ死なないんでしょうけど…ヒーリング!」
レダが真っ二つになった窮奇に向かってヒーリングをかけると、真っ二つになったはずの下半身がひとりでに動いて上半身にくっつく。
「うわぁ…不気味」
その光景に思わず微妙な顔をするレダだが、上半身と下半身がくっついた窮奇は跳び上がる。
「まさか…俺が負けたのか」
「おう、お前はランスに負けた。この俺がハッキリと見届けさせてもらったぜ。文句はねえな、窮奇」
「………」
窮奇は黒部とランスの二人を見る。
そしてまだ納得がいっていないという風にだが、
「ケッ! 妖怪は力がある奴こそが正しい。俺を倒したってんなら認めてやるよ」
ランスの事を認める発言をする。
「がはははは! 俺様の力を見たか! いいかお前ら! この俺様がお前等を上手く使ってやる。いいなお前ら! 勝つために死ぬ気で働け!」
「「「オオォォォォーーーーー!!!」」」
あまりにも乱暴な言葉だが、妖怪達はその言葉に呼応する。
今自分達に見せた戦いはまさに圧倒的であり、妖怪王黒部に匹敵するかもしれない力に興奮していた。
この人間と妖怪王が手を組めば、必ずや黒部は帝になる…それを思わせるには十分だった。
「人間…」
「俺様の名前はランス様だ」
「そうか…じゃあランス。お前は俺達は帝レースに遅れているといった。だったらどうするってんだ」
冷静になった窮奇はランスに尋ねる。
「ふっふっふ…その前にだな。お前らの中で人間に呪いをかけた事のある奴は出てこい!」
ランスの言葉に妖怪達は顔を見合わせるが、次々にランスの前に現れる。
その中には先程ランスに倒された窮奇の姿もあった。
「何だ、お前もいたのか」
「あまりにも俺を倒そうとする人間が鬱陶しかったからな。呪いでもかけてやれば大人しくなると思ってよ。まああんまり効果は無かったみたいだけどよ」
倒そうとする、という言葉にスラルは思わず笑みを浮かべる。
これこそまさに好都合な展開だったからだ。
「じゃあその人間をここに連れてきなさい。あなたなら直ぐにでも出来るでしょ?」
「まあここからそう遠くは無いからな…だけど連れてきてどうするってんだ」
「それは連れてきてからのお楽しみよ。でもその前に…あなた達! この妖怪王のために立派な住まいを作りなさい! まずはそこからよ!」
スラルの言葉に妖怪達の雄叫びが木霊する。
時はNC期…本来はこの時代に存在しないはずの英雄、そして膨大な知恵を持つ元魔王…それらが組み合わさり、JAPANは更なる戦乱の渦に巻き込まれようとしていた。
窮奇は進行役として必要となったオリ妖怪です
イメージとしては日本に伝わる妖怪の鵺です
いつも疑問に思ってばかりですけど、藤原石丸ってどれくらいの期間でJAPANを制圧したんでしょうね
20年程かけて大陸の半分を制圧はしていますが、これは果たして早いのか遅いのか
でもその辺の話は明かされないんだろうなぁ…