大陸とJAPANを繋ぐ天満橋…その橋にある地は、交易の場所として今栄えつつあった。
JAPANからはJAPAN独自に発展したもの、大陸からは大陸でしか得られぬものがあり、そして人と人が会えば必ず交流が始まる。
そしてJAPANの入り口とも言える地は、商いによって発展したある意味治外法権のような地となっていた。
西を収める平家はこの商人達と深く繋がる事で、武力に勝る藤原家と互角に渡り合っていた。
東の藤原家は、この地とは遠すぎる故に関わり合う事が難しかった。
何しろこの大陸とは強い繋がりが有る為、懐柔しようにもそれが難しい状況だ。
平家も藤原家もこの地を手に入れたいと考えてはいるが、そこで始まったのが帝レースだ。
その帝レースのおかげで、この地は更なる繁栄を遂げようとしていた。
平家にはこれまで通りに武器、兵糧、時には大陸の人間を傭兵として売り込むことで多大な富を得ていた。
それを何とかしたい藤原家の間者もこの地には来ているが、この地の代表である男―――ロシナンテは決して首を縦には振らなかった。
大陸から来たAL教から新たな名前を与えられたこの男は、武の才能は無かったが商の才能があった。
金の匂いを嗅ぎ取るのが上手いこの男の下には、同じ様な者達を集めとうとうこの地を収める程にまで勢力を拡大していた。
帝レースはその商売をさらに加速させた。
「ホホホホホ…これで更なる儲けが出るザンスよ」
ロシナンテは算盤を片手にニヤニヤと笑みを浮かべている。
「まったく…帝レースさまさまザンスねぇ。おかげで金が貯まる貯まる」
帝レースが始まってからこの男がしたのは、このJAPANから武器や食料を買いあさる事だった。
それは功を奏し、集まった武器や食料は高く売れ、多大な利益を出した。
平家、藤原家が挙って大金を叩いて自分達から大量の武器と食料を買う…それは今でも続いている。
「このままレースが続けばいいザンスが…流石にそうもいかないでしょうね」
現状は平家が藤原家に押されている。
押されている平家に大量の援助をしたが、それでも藤原家の勢いは止めることは出来ないと踏んでいる。
「まあどっちが勝ってもミーには関係無いザマスが」
そう、どっちが勝とうが自分には本当に関係は無い。
どちらが勝っても自分のスタンスは一切変わらないからだ。
自分はあくまで商人であり、金を稼ぐために手を尽くすのは当然の事だ。
そして何よりも、勝ったほうに取り入りさえすれば何も問題は無いのだ。
「清盛も石丸も馬鹿じゃ無いザンス。ミーの利用価値をきっと分かってるでしょ」
JAPANの経済を担っている自分を切ることは出来ないのは明らかだ。
金を失うのは痛いが、失ったものは後で取り戻せばいいだけ…そう考えてた。
だからこそ、この男にはこれから起きることは全く理解が出来ない事だった。
「た、大変です!」
「騒々しいザンスね。何事かね」
伺いもせずに自分の部屋に入ってきた部下に、ロシナンテは非難の目を向ける。
「妖怪が…妖怪が攻めて来ました!」
「妖怪? 何時ものように蹴散らせばいいザンス。そのために高い金を払ってるのだから」
帝レースが始まっても、この男が余裕でいるのはその莫大な富があるからだ。
高い金を払い、大陸からは傭兵を、JAPANからは陰陽師や僧兵を雇っている。
世の中金を払えば自分のために働く人間などいくらでもいるのだ。
「そ、その中に…黒部が! 妖怪王黒部がいるんです! 黒部が妖怪達を率いて攻めて来たのです!」
「な、なんですと!?」
今そこではまさに、妖怪がまるで津波のような勢いで迫っているところだ。
そしてその先頭に立つのは一際大きな体躯を持つ、妖怪王黒部だ。
その黒部に並ぶようにして、一体の巨大な虎が駆けている。
「がはははは! 中々いい感じではないか! 俺様の無敵ランス号に比べればまだまだだがな!」
「言うじゃねえか!」
巨体の虎に乗っているのは、ランスとレダの二人だ。
「突撃だー!」
「おうよ!」
ランスの声に合わせる様にして、黒部と窮奇がその進軍スピードを上げる。
「がはははは! 突っ込めー!」
こちらに向けて呆然とした視線を向けている足軽達に向けて、黒部と窮奇が猛烈な勢いで突っ込んでいく。
「な、なんだアレは!?」
「ま、まさか妖怪王!?」
「う、うわあああーーーーー!?」
そして黒部と窮奇はその勢いのまま足軽達に突っ込み、人が宙を舞う。
「がはははは! 可愛い女の子は殺すなよ! 男はいらん! ぶっ潰せ!」
ランスは窮奇が跳躍した勢いのまま跳び上がると、
「ラーンス! アタタターーーーック!!」
そのままの勢いのままで己の必殺技を放つ。
「「「うわーーーーっ!!!」」」
足軽達の悲鳴と共に、無数の足軽達の体が粉々になる勢いの衝撃波が生じる。
「よーし! 突っ込め!」
「「「おおーーーーーー!!!」」」
ランスの声に呼応するように妖怪、そして人間の声が響き渡る。
その者達の目には既に不安は無い。
妖怪王と共に駆け、自らが前線に立ち敵を蹴散らすランスに皆はある種の希望を持ち始めて来ている。
即ち、この男ならばやってくれるという希望を。
「弓隊! 放て!」
「むっ」
その声と共にランスに向けて無数の矢が放たれる。
「はいはい、下がってなさいよ!」
そこで前に立つのはレダだ。
レダは盾を構えるとそのままランスを守るために自らが矢面に立つ。
その矢はレダの構えた盾に阻まれランスには1本も届かない。
それどころか、その無数の矢はレダの体に対しても傷一つつける事は出来ない。
「エンジェルカッター!」
そして放たれた魔法の刃が弓隊の体を切り刻む。
「弓隊を守れ!」
その威力を見た将らしき男が部下の足軽に必死に指示を出す。
足軽達はランスとレダの力に腰が引けながらも、それでも必死で前に出る。
「しゃらくせえ!」
そしてその足軽達に突っ込んでいくのが、この帝レースの候補者である黒部だ。
「ひっ!」
そのあまりの迫力に足軽達は完全に恐れをなしている。
そして黒部の一撃が足軽達を襲い、その衝撃で人が宙を舞う。
そのまま黒部はその強靭な肉体を使い足軽達を蹂躙する。
ある者はその爪で引き裂かれ、ある者はその牙で噛み砕かれ、ある者はその強靭な肉体で踏み潰される。
それはまさに暴力という名の嵐だった。
「あ、ああ…」
「こ、これが妖怪王黒部…」
生き残った足軽達、そしてその暴虐を見ていた者達が呆然と呟く。
黒部はそんな人間達を見て牙を剥き出しにして笑う。
「おう、これ以上俺の前に立ち塞がるってんなら…」
そこで黒部はその大きな口から血に濡れた舌で自分の唇を舐めるように動かす。
「食っちまうぞ!」
「う、うわーーーーー!」
その黒部の恫喝に足軽はおろか、弓隊すらも蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
ランス、レダ、黒部だけで相手の戦意を完全に砕いたのだ。
逃げていく人間達を尻目に、黒部が先程の獰猛な顔が嘘のように首を傾げる。
「これでいいのか? スラル」
「勿論よ。私達の目的は決して相手を滅ぼす事じゃないもの。今逃げていった奴等も未来の部下よ。そうしなければ私達は相手と対抗出来ないでしょうしね」
スラルがランスの剣から姿を現す。
今回の最初の突撃…ランス、レダ、黒部による先駆けは全てスラルの指示によるものだ。
「まず最初に黒部…そして黒部と協力関係にある人間の強さを示す。その事で、妖怪と人間が共に協力している事をアピールするのよ。今逃げ帰っている奴等も、妖怪だけじゃなくて物凄い強い人間も居るという事でパニックになってるはずよ」
スラルは腕を組みながら得意そうな笑みを浮かべる。
魔王になった当初は、絶大な力を持っていながらも人間すら警戒して慎重に行動していた。
それ故、人間の事は黒部よりも…ランスよりも詳しい自信がある。
(ランスは例外中の例外ね)
スラルはランスをチラリと見ると、一人頷く。
「で、こっからどうするんだ?」
ランス達を背に乗せた時と同じ様に獣の様に四足のまま窮奇が追いつく。
そんな窮奇を見てランスは当然のようにその背中に乗る。
「おいランス。そんな簡単に俺の背に乗るな」
「いいではないか。お前の背中は悪くない。このまま俺様専用の乗り物になる事を許すぞ」
「ケッ! もっと強くなって絶対お前を倒してやるからな!」
ランス達が話していると、後ろから追いかけてきた部隊がランス達に追いつく。
「綾、被害は?」
「ありません。妖怪の方々が中心になっていましたから…」
綾はそのまま正面を見据える。
ランス達の前にあるのは、中々に堅牢な砦だ。
ここが大陸との交易の中心なので、ここに城を建てる事は出来なかったという事情があるのは知っていたが、それでもこの数で攻め落とすには難しいのは目に見えて分かる。
「…中々どうして攻め辛い砦ですね」
与一が目を細めて砦を見渡す。
「見えるのか?」
「ええ。目は弓使いの命ですから…ここを攻めるとなると被害も多そうですね」
「さて…どう攻めたもんかね」
黒部は砦をじっと見る。
これまで人間と争った事は有れど、大抵は人間が自分達の領域に来るのがほとんどだ。
人里にも行った事はあるが、流石に人間の城や砦等には手を出した事は無い。
「で、ランス、スラル。ハッキリ言って俺はこっからどうしていいかわからねえ。力押しでぶっ壊すって訳にもいかないんだろ?」
黒部はこと戦略に関しては素人同然と言ってもいい。
今までした事が無いのだから、こいう所はハッキリとランスに任せるべきだと考えている。
「俺様の手にかかればこんなちんけな砦等簡単なのだがな。スラルちゃん、何か考えがあるんだろ」
「ええ…ただ単純にここを落とすというのであれば簡単よ。でも黒部が帝という立場になるためには、全てを力で解決する訳にはいかない」
スラルの言葉を聞いて、窮奇がため息をつく。
「面倒なもんだな。まあこれも黒部が帝になるためってんならいいけどよ」
窮奇の言葉に妖怪達が頷く。
黒部は妖怪王と呼ばれるだけあり、妖怪達からの信頼を集めていた。
「もし帝レースなんてものが無ければ目の前の砦を潰してもいいんだけどね…でもここで砦を潰すと帝レースにおいては不利になる可能性が高い」
「どういう事ですか?」
スラルの言葉が理解出来ないようで、ランスとエルシールを除く全ての物が首を傾げる。
「この状況を三すくみにまで持っていく必要があるからです」
エルシールの言葉にスラルが頷く。
「ほのかや妖怪達が齎した情報では、今は少しずつ藤原石丸が戦線を押している…この状況で平家が潰れるのはまずいし、だからといって圧倒的な力でここを落とすのも良くない」
「…話が難しすぎて良くわかんねーな」
黒部の言葉はこの場に居る全ての者の言葉だろう、皆が頷く。
「言ったでしょう。私達はまだ帝レースのスタートラインにも立ってないって。確かに私達に協力をしてくれている者はいるけど、それは他の候補者に比べれば遥かに少ない」
「ですので、私達が戦力を整えるためにはやはり人の力が必要になります。そのためにはなるべく犠牲を最小限にしてこの砦を落とす必要があります」
「…そうか」
スラルとエルシールの言葉に黒部は頷く。
ただ暴れるだけでは駄目だとは理解していたが、まさかここまで頭を使う事になるとはあまり考えていなかった。
「それにここが俺様達の新しい拠点になるからな。あんまりぶっ壊すと後が面倒だ」
ランスがJAPANを統一した時も、ランス本人はまったく興味が無かったが後で香姫や3Gが色々手配はしていたのは知っている。
その後始末等の事も考えれば、出来るだけ無傷で手に入れたいとランスも考えていた。
実際にリーザス解放戦の時も、ミネバ・マーガレットが占領していた町は酷いもので、リーザスの国力を持ってしても復興には時間がとられたようだ。
「成程な…だからランスもアレを使わないって訳か」
「そういう事よ。アレを使えば勿論ここを落とすのは楽だけどね…それにこんな所で早々に切り札をきるのも勿体無いわ」
黒部のいうアレとは、勿論黒部も地獄で見たランスとスラルの必殺技の事だ。
(流石にこれだけ味方がいるとアレは使えないしね…それにアレは本当に大事な所で使わないといけない。こんな所で使って相手方に情報を渡す必要は無いわ)
スラルが見据えているのはこんな小さな戦いでは無く、近い将来に必ず訪れる帝レースの重大な一戦だ。
ランスの技は、その時にまで温存してもいいと思っている。
確かにランスと自分の放つ合体技は強力だが、対策手段は存在するのだ。
「それに…圧倒的な力でここを落とすと、もしかしたら妖怪王に対抗するために一時的に平家と藤原家が協力してくる可能性もある。その状況になったら負けよ」
「じゃあどうするってんだ? まさかここで連中とずっとにらめっこをしてる訳じゃ無いだろ?」
窮奇の言葉にスラルはニヤリと笑う。
「手は既に打ってあるわよ。そのためにずーっと噂を広めさせてたんだから」
スラルの言葉に合わせるかのように、これまでここにいなかったほのかが姿を現す。
「戻ったか」
「はい。スラルの言うとおり、手紙を投げ込んできました」
「ありがと。さて…少しの間待ちましょ」
スラルの言葉に綾が少し不安そうに眉を顰める。
「相手が打って出てくるという事は無いでしょうか。もし一斉に攻めてきたら…」
「アレを見て打って出る覚悟があるのならね。ここに居る連中は帝レースとは関係無い連中だし…ほのかの情報では金で雇われてるんでしょ?」
「はい。ここの城主…ロシナンテは、色々と裏で平家と藤原家に争いに介入しています。そして何よりも信じているのは金でしょうから」
ほのかは忍者としては見当かなみより遥かに優秀だった。
ランスの目から見ても、もしかしたらあのフレイヤをも上回ると思っている。
流石に規格外の鈴女と比べる訳にはいかないが、ランスが知る限りでも相当な実力者だ。
「相手が動かなかったら…まずは一度仕掛けましょう。それで相手の動きを見る。それにこういう戦いは今後も続くから、慣れる必要もある」
「よーしお前ら! スラルちゃんの指示した通りに動け!」
「訓練通りにやれば何も問題は無いわよ」
ランスとレダの言葉に妖怪と人間が緊張した様子で慌ただしく動く。
意外と手馴れた手付きで人間用のテントを張っていく。
妖怪達はそんなモノは必要無いので思い思いの場所で寛ぎ始める。
「お手並み拝見といった所かしらね…フフフ」
スラルは魔王であった時のように薄く笑みを浮かべた。
「どーーーーーするザンスか!」
ロシナンテの悲鳴が混じった怒声が響く。
妖怪達の集団が己の治める地に攻め込んできた…それはまさに青天の霹靂だった。
帝レースにあたって、最早平家と藤原家の一騎打ちになると思っていた。
未だに動きを見せない妖怪王黒部は既に帝になる事を諦めているか、帝レースに興味が無いと思っていた。
しかしその黒部がついに動いた…その挙句、自分の地を攻めてくるとは考えてすらない。
「どうにかするザンスよ!」
「は、はい…」
ヒステリックな声に部下達もただ返事をするしかない。
だが、この場に居る全ての者達の思いはこうだ。
『妖怪王黒部に勝てるわけが無い』という事に尽きる。
相手は妖怪王として長い間このJAPANに名を轟かせた存在なのだ。
その妖怪王がとうとう攻めてきた…しかも妖怪王と共に人間の姿も確認されている。
それは妖怪王黒部がとうとう一部の人間と手を組んだという事だ。
「あの噂は本当らしいな…」
「ああ…妖怪王黒部の元に行けば、呪い付から解放されるというのは事実なのか」
「何でも黒部に協力すれば、人間でも問題無くとりたてられるらしい」
妖怪王黒部の話は確かにこのJAPANに広まっていたが、そんな事ある訳が無いというのが皆の話だ。
しかし藁にも縋る思いで黒部の所にいった人間が呪い付きから解放されたという話が広まってきたのも事実だ。
そして噂が伝わるに連れて、何時の間にか『黒部が人間の兵を集めている』や『力のある人間は重用される』という話まで広まっている。
この噂が徐々に徐々に広まっていき、最近は妖怪王の元へと行く人間すらもいるという話が出るくらいだ。
「…今の内に下るか?」
「それは待て。黒部が噂通りの奴とは限らん。実際に奴は人食いの妖怪として恐れられている。もし黒部が我々を食うつもりなら…」
「まずは兵達を嗾けてからでも遅くは無いでしょう。それにいざとなれば逃げる準備もしなければ…」
ロシナンテは金しか信用しない。
だから人望も無いし、周りの人間もそんなロシナンテから甘い汁を吸おうとするような奴ばかりだ。
だが、金を稼ぐという能力は本物なので皆は従っているのだ。
そしてその決断こそがこの後の彼等の運命を決めていた。
翌日―――
「黒部様! 人間共が出てきました!」
砦を見張っていた妖怪が黒部の元へ報告に来る。
「出てきやがったか…これも予定通りってやつか?」
「そうね。私達にとっては一番いい展開かしら。黒部、分かってるでしょ?」
「ああ。その辺は徹底させたからな」
スラルの言葉に黒部は少し苦い顔をする。
「しっかし意外と面倒臭いな。ただ暴れるだけってなら楽だけどよ」
「それも含めてよ。今はまだ我慢。その内嫌でもあなたが暴れる展開が待ってるもの」
「ヘッ! それは楽しみだな。まあその楽しみのために今は我慢するか」
黒部は立ち上がると、悠然と部隊の先頭に立つ。
「いいかお前等! これが俺の…いや、俺等の本当の意味での最初の戦いだ!」
「「「おおおーーーーーーっ!!!」」」
妖怪、そして人の声が響き渡る。
「必ずしも奴等を全員ぶちのめす必要はねえ! ほどほどの所で勘弁してやれ! 行くぞ!」
その言葉で黒部が駆ける。
黒部の後を妖怪が、そして人が続く。
「じゃあランス、お願いね」
「まったく、とっととスラルちゃんの体を捜さん事には俺様も好きに動けんではないか」
「何よ、ランスが私を救ったんでしょ? だったら最後まで責任とってよ」
ランスの言葉にスラルが何処か嬉しそうに笑う。
スラルはランスの持つ剣からは遠くに離れることは出来ないので、どうしても移動にはランスの力を借りる事になる。
「私自身も初めての試みだし…その結果は見ておきたいのよ」
「まあ元魔王だしな」
魔王スラルはこの世界最強の存在として君臨していたため、こういった人同士の争いには興味が無かった。
元々スラルの時代には人と魔物の争いが主であり、人同士の争い自体がそんなに多くなかったという事、そしてスラル自身がその争いに興味を示さなかったという事もある。
だが今は自分は魔王としてではなく、一人のスラルとしてこの戦いに参加している。
だからこそ、自分の考えた結果がどんなものなのかを知る必要がある。
「ランスさん。準備は出来ています」
「うむ、ご苦労」
エルシールの言葉にランスは用意してあったバイクに乗り込む。
「じゃあレダ。私達がいない間は頼んだわね」
「分かったわよ。まあ私がいなくても滅多な事は無いでしょ」
「当たり前だ。俺様は無敵だからな」
ランスはバイクに跨ると、この人と妖怪の争いを見ることの出来る高台へとバイクを走らせる。
そしてこの戦いを見晴らせる場所についた時には、既に争いは始まっていた。
「………」
スラルは何も言わずに真剣な顔でこの戦いを見ている。
そこには黒部達にこの戦いの意味を説いていた時の割と得意気な顔や、呪い付きの人達に向けて話していた時の神妙な顔とも違う。
「何だスラルちゃん。随分と真剣ではないか」
ランスがこれほど真剣な顔をしているスラルを見るのは実に久しぶりだ。
幽霊となってランスと共に冒険してから、スラルは好奇心の塊のような存在で、喜怒哀楽が結構激しい少女という感じだ。
魔王だった時は余裕のある感じを出しながらも、どこか警戒をしているような印象があった。
「…そうね。もし私が魔王だったら…この状況も楽しんでいたのかもしれないわね。でも今は違う…私の言葉で今妖怪と人が争ってるような気がして」
黒部を帝にするというのはスラル自身も望んだ事だ。
興味もあるし、こうして自分の力を試せるのが楽しみという感情もある。
「魔王だった時はさ…別に人間の命も、魔物の命もどうでもよかったような感じもしたの。魔人も…ガルティアとケッセルリンクしか作れなかった。だからあなたとレダを魔人にしたくて…色々やってたのよね」
「ふーん。まあ魔王だった時の事を考えても仕方ないだろ。考えるだけ無駄だ。だから今を楽しめばいいだろ」
ランスが子供になってしまった志津香やナギにするようにその頭に手を伸ばす。
勿論幽霊であるスラルには触れれないが、それでもランスはそうした。
「それにこんな光景はこれから何処ででも起きることだぞ。その度に考えるのは無意味だ無意味」
「…それで慰めてるつもり?」
「無意味だから無意味と言っとるんだ。その度に落ち込んでたらキリが無いぞ。だったらいっその事開き直ればいいだろ」
ランスの言っている事は極端すぎる。
だが、それでもスラルにはその言葉が有り難いと感じられた。
「…やっぱりさ。ランスには私の魔人になって欲しかったな。ランスなら、私が魔王だろうと今の様に話してくれるでしょうから」
「当たり前だ。魔王だろうが幽霊だろうがスラルちゃんはスラルちゃんだ。俺はスラルちゃんを俺の女にすると決めたからな」
「ありがと。時間はもう巻き戻らないものね…だったら、私もうじうじ悩んでないでこの状況を楽しむようにするかな」
(ランスみたいにね…)
ランスと一緒にいて、この男はどんな境遇でも何処か楽しんでいるように感じられる。
自分に捕らわれていた時もガルティアとは普通に話してたし、あのカミーラとも普通に付き合えている。
シャロンを助けた時も、パレロアを助けた時も、エルシールを助けた時もそうだ。
そしてあの強大な力を持ったレッドアイと戦った時もどこか楽しそうにしていた。
「それにしても敵も大したこと無いな。ヘルマンの4軍の方がまだマシだぞ」
今妖怪とぶつかっている兵は、かつてヘルマン革命の時に戦ったヘルマン第4軍よりも弱いのは明らかだ。
かつてのJAPANで戦った時は、JAPANの兵の強さを感じてたがそれに比べれば雲泥の差だ。
「まあこれは前哨戦みたいなものでしょ。ここを乗り越えてからが本番。今はまだ私達は周回遅れ…それも2周以上も遅れてるんだから」
この戦いもこれから起きる戦いに比べれば非常に小さなものだ。
まずはここを簡単に乗り越えられるくらいでようやく差を詰められるのだ。
「スラルちゃん。やりたいんなら好きにしろ。俺様がいるんだから最後は勝つに決まってるからな」
「そうね。当てにしてるわよ。最後にものをいうのはあなたの力だって私は思ってるから」
スラルはそう言って楽しそうに笑った。
今ここに出てるオリキャラ(ほのかと綾)の元ネタは同じアリスソフトの学園KINGという作品のキャラなのですが、流石に古すぎるにも程が有りますよね
なにしろ同じ古い作品のキャラも出るにょ系の作品にすら出てこないし…
自分も中古のアリスソフトの作品のおまけディスクに入っているのをプレイしただけです
でもぷろすちゅーでんとgoodという稀代のバカゲーを教えてくれた某作品には感謝しか有りません
与一だけは完全なオリキャラですが、まあランスのトラウマを刺激したくなったので…
ぶっちゃけるとこのJAPAN編でしか出ないキャラなので、技能レベルとか限界レベルの紹介とかは必要かな? とも思ってしまいます。