ランス再び   作:メケネコ

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NC戦国ランス③

「とっとと歩け!」

「ひ、ひぃ~」

 ロシナンテとその取巻きが縄を打たれ、広場へと連れてこられる。

 そこにいるのは黒部を筆頭に、妖怪の重鎮達だ。

 そして一際異様なのは、黒部の横に居る一人の明らかにJAPANの者では無いと分かる3人の人間だ。

 一人は黒いマントを纏った茶髪の剣士、一人は金色の美しい髪をした絶世の美女、一人は青い髪をしたローブを纏った美女。

 妖怪の集団だと思っていた人間達は、そこにいる三人の人間を見てどよめく。

「ランスさん…どうしてそんなに不機嫌なんですか?」

「ああ…それはね。金目のものはあったけど、肝心の女がいなくて腹を立ててるのよ」

「…いなかったんですか? これほどのお金持ちの所で?」

 貴族であったエルシールにはそれは意外な言葉だった。

 何しろ金持ちと女は切っては切れないもの…自分の父も綺麗どころを集めていたのは事実だ。

「女より金だったんでしょうね。残っているのもランスにとってはハズレだったみたい」

「…ランスさんの基準が高すぎるだけじゃないですか?」

 ランスは女が好きだが、それでも好むのはとびきりの美女である事は分かっている。

 そしてランスに一番近いのは、間違いなくこの絶世の美女であるレダだ。

 エルシールの目から見てもレダ程の美女は見た事が無い。

 カミーラ、ケッセルリンクも非常に美しいとは思うが、人間であるエルシールにはそれは恐ろしい美しさに見える。

「貴様…美女が一人もいないではないか。どういう事だ」

 ゲシッ!

「ぴぎっ!」

 ランスの容赦無い蹴りがロシナンテの取り巻きを襲う。

「お前等みたいな強欲な奴らは美女の一人は捕えて色々しているのが定番だろうが。そこを俺様がかっこよく助けてお礼の一発を決めるはずだったのにどうしてくれる」

「そ、そんな事を言われましても…」

 あまりに理不尽なランスの言葉に皆が震える。

 ランスの顔は真剣であり、もし何か気に入らない事があれば間違いなく斬り殺されそうな空気を放っている。

「はいはい、落ち着きなさいランス。取り敢えずその話は後ね」

 スラルがランスの剣から姿を現す。

 そのスラルの姿に皆が驚愕し、一部の人間は思わず跪いてしまう。

「さて…ここにあなたの財産の目録もあるけどこれで全部かしら」

 妖怪の一人が持つ目録を見ながらスラルがその手に炎を生み出す。

「ひっ! ま、魔法!?」

「そんなに驚かなくてもいいんじゃない。あなたも雇ってたでしょ? 大陸の魔法使いを。で…私の質問に答えろ。これが全てか? もしあるのならば素直に言え。言えば命だけは助けてやってもいい」

 スラルの言葉は何処までも冷酷だ。

 そのスラルの様子には普段のスラルを知っているの者も思わず冷や汗をかくほどだ。

 それ程のプレッシャーをスラルは放っているのだ。

「ほ、本当です! そこにあるので全部です!」

「う、嘘じゃありません! ですから命だけはどうかお助けを!」

「と言ってるけど、実際の所はどうなの? ロシナンテ…いや、田吾作さん」

 スラルの細い目に射抜かれて、ロシナンテの体が震える。

「え…な、何で…」

「そう、私は何でも知っている…だからね、今この人達が嘘を言ってる…いえ、その嘘を信じ切ってるのも分かるの。ねえ…この人達可哀そうだと思わない? あなたが本当の事を言えば助かるのに」

 スラルの手の炎をが更なる熱を帯び、幽霊であるはずのスラルの顔を妖しく照らす。

 薄い笑みを浮かべたスラルの顔は非常に美しいが、そこにあるのはいかなる嘘も許さない氷のような笑みだ。

 長い間人と商売をしてきたロシナンテ達には嫌でも理解させられていた…もし嘘を言えば間違いなく自分達は殺されるだろうと。

 だからこそ、ロシナンテはこれを最後のチャンスだと考えた。

(こ、ここはどうするザンスか…もし間違えれば間違いなく殺されるザンス…)

 ロシナンテを遠巻きに囲んでいるのは何も妖怪だけでは無く、これまで散々こき使ってきた人間達もいるのだ。

 この者たちが自分を裏切り妖怪王についたのは腹立たしいが、それでも何よりも大切なのは命だ。

 どれだけ金や財産が有ろうが、自分の命が無くなっては何の意味も無い。

 だがそれでも、この男にとっては金が全てなのだ。

 その自分の財産を誰かに奪われるなど、絶対にあってはならない事なのだ。

「そ、それが全てザンスよ。ミーだって命は惜しいザンス。だ、だから何とか命だけは助けて欲しいザンス」

 ロシナンテは震えながら何とか許しを請う演技をする。

 実際に自分の持っている隠し財産は彼にとっての全てだ。

 これまで平や藤原に散々投資したのは、将来のリターンが大きいのが分かり切っていたからだ。

 どちらが帝になっても、自分の立場は安泰…それこそが彼の思い描いていた未来だった。

 しかしそれはまさかの三人目の帝候補によって打ち砕かれてしまった。

(ミーの隠し財産だけは何とか守らなければ…この損失は大きすぎるザンスが、あの財産があれば何とか再起は出来るはず…)

 ここにある財産を全て無くしてでも、他は守らなければ商人として終わってしまう。

 それが何よりも恐ろしかった。

「嘘だな」

 ゲシッ!

「おうふっ!?」

 ランスの容赦の無い蹴りが頭を下げるロシナンテの頭を踏みにじる。

「ランスさん!」

 エルシールが咎めるような声を出すが、ランスは構わずその頭をげしげしと蹴っている。

「お前みたいな奴がそんな簡単に全財産を出すはずがないだろ。どうせどこかに金を隠しとるんだろ」

 ランスの言葉にロシナンテの体が震える。

 これまでの冒険の中でランスは色々な人間を見てきたが、この手の人間は絶対何処かに自分の財産を隠しているものだ。

 ランスとて自由都市のランス城だけでなく、世界に色々と隠れ家を作ってある。

 それは冒険者としてランスの師とも言える者に教えられた事であり、同時に商人とはずるいからこそ商人なのだとも教えられた。

(それにコパンドンの事もあるしな)

 コパンドン・ドット…世界有数の金持ちであり、とうとう一都市丸ごと買い取ってしまった女の事を思い出す。

 彼女も金稼ぎに関してはあくどい所もあるし、中々に油断のならない人間であるのも事実だ。

 何しろコパンドンはゼスの崩壊からも金を稼ぎ、JAPANにはマリアから奪ったチューリップ1号を持ちこんで売っているような人間だ。

 だが、この男とコパンドンには決定的な違いがあるとランスは感じている。

 コパンドンは金は大事だろうが、使う時はしっかりと使うし、ゼスの時もあのプルーペットと交渉したりもしていた。

 それに何よりもキサラ・コプリとその妹を救うため、ランスに協力してくれている。

 が、この男にはそのコパンドンのような感じは全く感じられない。

 どこまでも強欲で、己のためにしか動かない男…それがランスの評価だ。

 そしてこういう奴は絶対に自分の財産の全てを差し出すという事は無い。

「でしょうね…ああ本当に残念だわ。連帯責任なんて本当に可愛そう。でも最初に私は忠告したししょうがないわね。そうよね、黒部」

 スラルの言葉に黒部はその目に怒りを宿して立ち上がる―――勿論あらかじめの打ち合わせの通りに。

「てめえ! この期に及んでまだ嘘をつきやがるか!」

「「「ひぃぃぃぃぃっ!!!」」」

 黒部の雷鳴のような怒声にロシナンテ達だけでなく、そこにいる人間達も思わず震え上がる。

「こいつらがお前達に搾取されていると聞いてよぉ…妖怪の俺が思わず腹が立っちまったぜ。もちろんこいつらが弱いって事もある」

 黒部はそのまま借金で苦しんできた者達を見る。

 この中には自業自得で借金を抱えた者、そして中には妖怪の呪い付きで借金を背負った者、騙された者等数多くいるだろう。

 それは己の弱さなのだろうが、その弱さに付け込むのが黒部は気に入らなかった。

 自分に真正面から挑んできて、全く臆さないランスという男が現れてからは尚更だ。

「だがなあ! 俺はそれ以上にテメエ等が気に入らねえ! お前等…まさかまだ助かるとか勘違いしてるんじゃねぇだろうな」

 黒部がその巨大な足で一歩踏み出すだけで、ロシナンテとその取り巻きは一斉に涙を浮かべて地に頭をこすり付ける。

「お、お願いです! 何とか…何とか命だけは!」

「ロシナンテ! 貴様! 早く本当の事を言え!」

 自分の配下だった者にも責められ、ロシナンテはきつく唇を噛む。

「ま、待つザンス! よ、妖怪王は帝になろうとしているんですよね!?」

「それがどうした?」

 黒部の言葉にロシナンテは希望を見つけた様に縋りつく。

「だ、だったらミーを使わないザンスか!? ミーならば妖怪王に必ずは富を授けられるザンス!」

「ほう」

 ロシナンテの言葉に黒部は唇を少し上げる。

 それを好機と見たのか、ロシナンテは喜色を浮かべて黒部に自分のメリットを説明していく。

 その光景を借金で縛られた者達は不安な目で見ているが、黒部をよく知る者は冷めた目でロシナンテを見ている。

 あの黒部が…妖怪王である黒部が、こんな奴を認めるはずがないのだ。

「おい黒部、いい加減俺様はこいつの話を聞くのが飽きた。さっさとぶっ殺すぞ」

 ランスがもう飽きたと言わんばかりに…そしてここに居る連中の命になど全く興味が無いという感じを丸出しにしてランスが剣を抜く。

「おいおいランス。こいつは富を授けられるとか言ってるぜ? いいのか?」

 黒部の何処かからかうような言葉にランスはくだらない言わんばかりにため息をつく。

「駄目だ。こういう奴等は簡単に寝返るからな」

 ランスには分かる…この手の連中は自分の命のためなら簡単に裏切るような奴等だ。

 何よりもコパンドンとそこが全く違う。

 もし彼女ならば、どんな状況でも決してランスを裏切るような事は無いだろう。

「そ、そんな! ミ、ミーの力があれば帝には簡単に…」

「ハッ! 金の力だけで帝になれる訳が無いだろうが。それからよ、俺は最初からお前を生かしておく気はねえからな。レダ、もう大丈夫か?」

 黒部の言葉にレダが頷き、スラルもその唇に冷酷な笑みを浮かべる。

 スラルにしてもこの男をこのまま生かしておく気は毛頭無かった。

 魔王時代から常に臆病に、そして慎重に生きてきた結果として無駄に人を見る目だけは肥えて来たと思っている。

 スラルのロシナンテの評価は、金稼ぎの才能はあってもそれは決してランスと黒部のためにはならないという事だった。

 ランスの言うとおり、この手の人間は簡単に寝返るだろうし金で情報を漏洩する男だ。

 そのくせ金に対する執着心は異常で、もしこのまま尋問したとしても死んでも金の在り処は吐かないだろう。

「黒部が散々脅してくれたおかげでね…簡単に覗くことが出来たわ」

 レダの手元にあるのは、アイリーダーというアイテムだ。

 このアイテムは相手の思考や情報を読む事が出来るというアイテムだ。

 黒部とスラルが相手の隠し財産の事を追求したのは、このアイテムで相手の思考を覗くためだ。

 生憎と黒部達にはまだ時間が足りず、こんな事で時間を取られている暇は無い。

 だからこそ、このアイテムで手っ取り早く相手の思考を覗く事を選択したのだ。

「そ…それは!」

「もう飽きた。死ね」

「ぎゃーーーーーーーー!」

 ザクーッ! とランスがあっさりとロシナンテを何時もの様にする。

 ランスとしてもこんな不愉快な奴にこれ以上喋られるのも不快だし、何よりもお目当ての美女が見つからなかったので、若干八つ当たり気味に斬り殺される。

「まったく、声だけでも不愉快だ。それよりもとっととこいつの隠し財産とやらを探しに行くぞ」

「それは私が行くわよ。ここを纏めるのにはスラルの力が必要だしね。綾、ついてきて」

「はい」

 レダを先頭に、綾とその配下達がロシナンテの隠し財宝を探しに行く。

「ど、どうか命だけはお助けを!」

 ロシナンテが斬られたのを見て、固まっていた取巻きたちが一斉にランスに土下座する。

「黒部、どうする?」

 スラルの言葉に黒部はニヤリと笑う。

「俺は別に金だの女だのには興味はねえ。お前達にもな。別に俺は殺すつもりもねえよ」

「おお…」

 黒部の言葉に取巻きたちは一斉に喜色を浮かべる。

 命だけは助かるかもしれない…そんな希望が湧いてくる。

 しかし、その後に放たれた言葉が再び彼らを地獄へと突き落とした。

「だからよ…今までお前達の下にいた奴等に全部任せるぜ。俺にはまだまだやる事があるからな。ランス、スラル、これからはどうするんだ?」

 黒部は最早興味が無いと言わんばかりに背を向ける。

 ランスもロシナンテを斬ってすっきりしたのか、黒部同様に興味を無くして歩き始める。

「エルシール、与一、窮奇、後は任せて大丈夫よね? 私達はこれからの事を考えないと。私達はむしろこれからが始まりだしね」

 

 

 

 魔法ハウス―――

「まーおー…」

 魔法ハウスのリビングのテーブルに置かれている一つのピンクの人形。

 その人形の口からは確かに気の抜けた声が放たれる。

「まーおー!」

 ピンクの人形のマントがうねり、そのマントが人形―――大まおーの体を包み込む。

 そして大まおーの体がマントに飲み込まれたかと思うと、そのマントごと大まおーの姿が消える。

 謎のナマモノである大まおーが、今ここに復活しようとしていた。

 

 

 

 JAPAN―――

 妖怪王黒部が帝レースに参戦する―――そのまさかの知らせはこのJAPAN全土に衝撃を与えた。

「まさかあの人食いの妖怪黒部が帝に…」

「いや、でも俺は全ての呪い付を解放するって聞いたぞ」

「何でも大陸から凄腕の奴がその黒部と対等だって話も有るぞ」

「私が聞いたのでは妖怪王の元に神から使者が送られたって…」

 その衝撃は色々と背びれ尾ひれがつけられ、JAPAN全土に広まっていく。

 そして何よりも、その黒部を帝にしようとしているJAPANの者が居る、という事が何よりの衝撃だ。

「知ってますか? 黒部の部下になれば呪い付を無償で解除してくれるようですよ」

「黒部はお金に興味が無いから、金払いは凄い良いらしいよ」

 その噂を信じて、あるいは縋るように黒部の元へ人が押しかけていく。

 全てはスラルの策略の元に。

 

 

 

 藤原家―――

「ははははははははは! やってくれるぜ妖怪王!」

 藤原石丸は妖怪王黒部の電撃参戦に腹を抱えて笑っていた。

「笑い事じゃ無いんだがな…」

 北条早雲は頭を抱えている。

 その他の石丸の部下達も、この状況にはどうすればいいかを主君である石丸に聞きに来ていた。

「で、どれくらいまずい状況だ?」

「…まずはあの男から送られてきた奴等の脱走だ。それはまあ仕方ない…一部は残ってくれてはいるが、半分以上が居なくなったよ」

「…それは大きいな」

 早雲の報告に石丸は流石に笑うのをやめて真剣な顔になる。

 気に入らなかったが、ロシナンテが平に人を送っている以上、自分達もそれに乗るしかなかった。

 それに彼が送ってくる武具や食料は確かに自分達の助けにはなっていたのだ。

「そして一番まずいのが…呪い付きを家族に持つ者の殆どが黒部の所へ向かった」

「…やってくれるな、妖怪王」

 石丸がその顔に苦いものを浮かべる。

「俺達には出来ない所に付け込んだって訳か…」

 妖怪による呪い付きの解除は、呪いをかけた妖怪を倒すしかない。

 しかし今の状況でそれが難しいのは分かっている。

 石丸も何とかしてやりたいが、その妖怪を探すのも一苦労であり、迂闊に妖怪に手を出せば妖怪との全面戦争も有り得た為に二の足を踏んでいた。

 北条家としても妖怪の呪の事は頭の痛いところであり、酷い時にはその呪い付きの家族毎始末しなければならない事もあった。

 そんな呪い付きの者たちが妖怪王の『自分に従えば全ての呪いを解除する』、という言葉に縋るのはある意味必然だった。

「そしてこれが最大の問題点だが…黒部に凄まじい参謀、そして黒部と対等に戦える奴が黒部についたようだ」

 それが何よりの問題点だ。

 妖怪達はこれまでの行動や、その行動原理からJAPANの者には嫌われている。

 中には人間に協力してくれる妖怪もいるのだが、そんなのは非常に稀だ。

 その妖怪に協力する者が現れた上に、その協力者は凄まじい能力を持っているという噂だ。

「そいつは凄いな…って事は今回の事も全部その参謀の仕業だって訳か」

「間違いなく。今回の妖怪の呪い付きの件にしてもそうだ。最初は無償で呪いを解いていたようだが、今では黒部の部下になれば解除だからな…それに何よりあいつらには金がある」

「ロシナンテから奪った財宝か…」

 ロシナンテが平と藤原両方を相手に商売をしているのは誰もが知っている。

 気に入らないと言えば気に入らないが、商人とはそういう物だ。

 それが気に入らないからと言って潰してしまえば、それこそ自分達に商売をする者が居なくなってしまう。

 しかし妖怪は違う…奴等は金に執着しない。

 正確には、その金が人間達の間でどのように流通しているかも詳しくは把握していないだろう。

「その金で…奴等は平を支援し始めた。平も不承不承だがそれを受け入れた。まったく…意外なほどに狡猾だよ。平がこっちに重点を置いていることを知っている」

「今更妖怪王を倒すために協力…なんて事は出来ないだろうな」

 石丸の言葉に早雲はため息をつく。

「無理だな…俺達は先の戦いで奴の息子の一人を殺した。平にとっては俺達藤原家は息子の仇であり、妖怪王はそれを金で支援してくれている奴という事になっているからな」

「妖怪王はそれを待ってたって訳か」

「おそらくな」

 石丸はその事実に頭を抱える。

 正直この帝レースが始まった時、自分と平との一騎打ちになると思っていた。

 妖怪王が組織だった行動を取れない事は分かっていたし、何よりもスタートの位置が違いすぎた。

 だが、妖怪王はこちらの足を引っ張る事でこちらに追いつこうとしている。

 そのためだけに、これまで全く動きを見せていなかったのだ。

 こちらが平の血族を討つのを息を潜めて待っていたのだ。

「これもその参謀の仕業って事か」

「ああ…そうでなければJAPAN人を集めるなんて出来ないだろうよ。相当に頭がきれる奴さ…それこそ月餅殿に匹敵するな」

「それに加えて妖怪王黒部と対等の人間か…これはもうアレだな。俺が出るしかないよな」

 石丸の顔は深刻そうだが、その配下達は皆知っている…また石丸の悪い癖が出たのだと。

「全くお前は…だがそれしか無いだろうな。お前が前線に立てば必ず勝てるからな。結局は大将の力が全てなのかもしれないな」

「それが帝レースだろ。俺も…このJAPANから争いを無くしたい。それに…妖怪も俺達と共存出来ると思っている」

 藤原石丸の悲願…それはこの争いが続くJAPANを統一する事だけでなく、妖怪達も何とかしたいとも思っていた。

 妖怪の呪い付きに苦しむ者達を救ってやりたいし、何よりも妖怪とも分かり合えると考えている。

 その証拠に、自分達にも少数だが協力してくれている妖怪は居る。

「そしてよ…その参謀と黒部と互角の人間って奴にも会ってみたいな。出来れば俺の部下に欲しい所だな」

「お前という奴は…まあ今更か。俺もその参謀とやらには興味がある。如何すればこんなあくどい手段を考えられるかとかな」

「まずは…清盛の爺さんには悪いが、全力で相手をさせてもらうか」

 この日、とうとう藤原石丸が動き出す。

 それはこのJAPANの戦いがより一層激しくなる事を意味していた。

 

 

 

 ???―――

 一人の老人の面をしている者が、異質な空間を満足そうに見ている。

 その老人は己の面を外すと、その顔が露になる。

 それは人ならぬ異形の姿…複眼に口元から触手の生えた不気味な姿をしている。

 それも当然、この者は悪魔王ラサウムに仕える第参階級魔神なのだから。

「ようやくここまで来たか…」

 悪魔…月餅は満足そうに笑う。

 このJAPANが出来てから、月餅は積極的に動いてきた。

 JAPANの国土改造、農作物の改良、戦略や戦術の開発、大軍を動かす兵站管理など数えればキリが無い。

 勿論最初から上手くいくはずは無かったが、ようやくその努力が実を結び、本来の目的を果たすために動くことが出来ていた。

 それも藤原石丸という規格外の人間に出会えた事が大きい。

「フン…あやつの言う事もたまには当たるものだな」

 ここにはいない自分と同じ階級の女悪魔の事を思い出す。

 自分がこの計画を持ちかけた時、あえて名前を名乗る事を自分に言った奴を。

 そのおかげで自分は問題なく藤原石丸の知恵袋として動くことが出来ている。

「そして帝レースとかいう神の戯れ…まあ利用させてもらうがな」

 何でも帝になれば、このJAPANの者を完全に支配する力を得られるとの事だ。

 月餅にとってはそれは好都合で有り、藤原石丸を帝にしようと動いている。

「が…余計な奴等も動いたか」

 余計な奴とは、決して動く事は無いと思っていた存在、妖怪王黒部だ。

 が、それでも何も問題は無いと思っている。

 既にこのJAPANに陰陽術という名の術を広めている。

 その術者は鬼を使役する以外にも、妖怪に対しても有効な術が無数に有る。

 まだ完全に形にはなっていないが、そう時間はかからないと考えている。

「幸いにも優秀な奴も居る事だしな…」

 北条早雲はその中でも恐ろしいほどの力を持った人間だ。

 まさか人間の中でこのような力を持つものに二人も会えるとは思っていなかった。

 だがこれもまさに天に導きというやつなのだろう…それが悪魔の力になるとは全く皮肉なものだと月餅は苦笑する。

「後はこれを効率よくする事だが…さて、それはどうするか…」

 月餅の役目は、悪魔王ラサウムの元に死者の魂を送ることだが、その効率的な手段がまだ思いついていない。

 まずは藤原石丸に取り入り、合法的な権力を得る事…それに邁進してきたのだから無理も無い事ではあるのだが。

「やはり…これも神を真似るのがいいのかもしれないな」

 自分達の敵である神にも、あの1級神ALICEの名を使用したAL教があるのは知っている。

 ならばそれと同じ様に、自分も宗教を作り上げるのも皮肉が利いていて面白いと月餅は笑う。

「さて、何はともあれこの貯まった魂をラサウム様に送らなくては…しかし本当にラサウム様も気の長いお方だ…」

 まあそれでも何も問題は無い。

 我々悪魔は気が長い方なのだから、ゆっくりと時間をかけて確実に力を蓄えればいいのだ。

 月餅が貯まった魂をラサウムの元へ送ろうとした時、

「まーおー…」

 突如として気の抜けた声が響き渡る。

「…何だ?」

 月餅は直ぐに老人の面を顔につけると周囲を見渡す。

 ここは自分しか来れぬ場所だが、それでも万が一という事はあるため慎重に動くに越したことは無い。

「まーおー!」

「む…何者だ!?」

 すると空間から突如としてすべすべしてそうなピンク色の肌を持ち、その片手は巨大な鎌、そしてその背に黒いマントをしたナマモノが現れる。

「…本当に何者だ!?」

 その姿に月餅は驚愕する。

 姿だけを見れば悪魔…なのかもしれないが、非常に気が抜けるデザインをしている。

「…新種のベベターか?」

 地上で行動する事が出来る下級の悪魔であるベベターに近い姿をしているのかもしれないが、月餅が警戒したのはその得体の知れなさだ。

 ここは自分にとっては秘密の場所であり、同僚である悪魔にも教えてはいない。

 中にはこの魂を掠め取るはぐれ悪魔等もいるため、月餅はここの場所が漏れない様に徹底して行動をしていたはずだった。

「まーおー」

 月餅が警戒していると、そのナマモノは突如としてその口を大きく開ける。

 すると月餅が集めていた魂がそのナマモノに吸い込まれていく。

「な…」

 月餅が驚いた時はもう遅く、これまで蓄えていた魂は全てそのナマモノの口内に吸い込まれてしまった。

「き、貴様…! これは私がラサウム様のために集めた魂…貴様、それをよくも!」

「まお?」

 月餅の言葉にもナマモノは首を傾げるだけだ。

「ぐ…!」

 怒りのあまり月餅はそのナマモノに攻撃を加えようとするが、突如として膨れ上がったナマモノの気配に思わず後ずさる。

 それは第参階級魔神である自分に匹敵する程の恐るべき力だったからだ。

「な、何者だ!? はぐれ悪魔にしてはこの気配は…!?」

「まーおー!」

 月餅の言葉が聞こえていないのか、そのナマモノの体がマントに覆われたかと思うと、そのままナマモノの姿が消えていく。

 後に残されたのは、呆然とした顔で虚空を見ている月餅だけだった。




これから少し更新が遅くなります…
年末は年末で忙しかったのですが、今回は別の意味で急遽忙しくなるのが決定しました…
PCに向かう時間も大幅に少なくなるので、どうしても更新が難しくなります
何とか書ける時間には書いく所存ですが、こればかりは本当にどうしようもないです
本当に申し訳ないです…

リーダーの魔法の使い道がちょっと難しい…いや、ある意味万能過ぎて
だから01に習ってアイテムで補完しました
普通に考えれば戦闘には使えないけど、交渉とかだと使えすぎるんじゃないかなあ
よって当作品ではほぼ封印の方向で…本編でもあんまり出てこない魔法だったし

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