藤原と平の戦場―――
「むぐぐぐぐぐ…藤原を止められないモリか!?」
「駄目です! 藤原石丸が強すぎます! それに合わせて北条が来ては流石に…」
「これでは重森兄の仇が取れないモリ! でも今の戦力では無理モリか…」
平清盛の子供の一人、平森盛は口に入っているお菓子を一気に飲み込む。
「森盛様…ここは退くしかありません! 前線は崩壊し、最早勝負は決しました!」
部下の報告に森盛は唇を強く噛むが、それでも彼はまだ冷静だった。
これまでに父清盛と兄重森を支え、その容姿に見合わぬ意外な程に冷静な観察力と戦術眼から、平の大将の一人としてこれまで前線を支え続けてきたのだが、それは兄の死によって崩壊してしまった。
新たな勢力として頭角を現した妖怪王からは金や装備、そして大陸からの傭兵が宛がわれたが、それを持ってしても藤原を止める事は出来なかった。
それだけ藤原家当主、藤原石丸と、北条家当主、北条早雲は圧倒的だった。
「森盛様!」
「森盛様…如何なさいます」
部下の言葉に平の知恵袋である森盛は考える。
この戦はどう考えても平の負けは揺るぎ無い。
いや、妖怪王の勢力と藤原に挟まれた時点で既に運命は決まっていたのかもしれない。
「…下がるモリ。父上に話を聞かなければならないモリ」
そう言う森盛の言葉は硬い。
彼も既に分かっているのだ…もう平家は藤原家に対抗するだけの力が残っていない事を。
兵士達は既に藤原家に投降し始めている。
藤原は平の兵士すらも取り込み、この戦を有利に進めている。
そうなってしまえば最早出来る事は何も無い。
「しかしこのまま引き下がる森盛では無いモリ。必ず兄上の仇は討つモリよ」
平森盛は今の状況でも決して弱音は吐く事は無い。
彼はこの時点で既にある決意を固めていたのかもしれない。
だからこそ、この戦はまだ長引く事になる。
平の脱落は避けられないが、まだ帝候補は残っているのだから。
「がはははは! とーーーーっ!!」
「ぎゃーーーー!」
ランスの強烈な一撃が人の波を吹き飛ばす。
その一撃は強力無比、魔物将軍すらも一撃で断ち切り、魔人にすらダメージを与えるその攻撃に耐えれるものはいない。
それを間近で見てスラルは何度目かのため息をつく。
(はあ…やっぱりランスの剣は本当に凄い…私が知る限りではガルティアが一番だったんだけどね。でもランスも最初に会った時よりレベルも随分上がってるせいか、格段に強くなったわね…)
ランスのレベルは今は70程もあるため、最早普通の人間では相手にならないだろう。
鬼、悪魔、ドラゴン、魔人とも斬り合ったランスには物足りない相手だろう。
「将軍が一撃で殺されたぞ!?」
「に、逃げろー!」
ランスがあっさりと斬り殺した相手は将軍だったようで、もうそれだけで相手は総崩れになってしまっている。
「ランス殿に続け!」
相手が逃げ腰になった所に綾がすかさず指示を出す。
彼女ももう部隊の指揮にも慣れてきたようで、的確な動きとなり相手を圧倒する。
「もう終わりかしら。やっぱり人間は脆いわね」
その様子を見てレダは呆れた様にため息をつく。
エンジェルナイトである彼女は当然のように人間を遥かに超える力を持っている。
今は力が上手く使えないが、それでもレベルが上がっている分その力は確実に上がっている。
(私が元の力を取り戻せればいいんだけど…そう上手くはいかないか)
力が使えない理由はまだ分からないが、それでも神魔法は以前のように使えているし、技能はそのまま使えている。
魔人の無敵結界を無視できない、空を飛べないという不便な所はあるが、今の所はそれで十分だ。
むしろこれまでの魔人カミーラや今は魔人となっているレッドアイ、そして2級神バスワルドといった強大な存在と悉く出会ってしまうランスが異常なのだ。
だからこそ女神ALICE様が守るように命令したのだろうが…それでもただの人間がこれほどの事に巻き込まれるのはやはりおかしい。
「なんかランスの奴…やけにはりきってるな」
「黒部」
ランスを見ていたレダの横に黒部が立っている。
黒部こそがこの黒部軍のトップではあるのだが、それでもこうして前線に赴いている。
黒部は非常に強く、ランスと共に並び立てばそれこそ敵はいない…そんな状況だ。
「まあ…分かるでしょ? 今回ランスがやる気になってるのは」
「分かるけどよ…本当にああいう奴だったんだな。俺のやりあった時も本気じゃ無かったって事か?」
「本気なのは間違いないわよ。ただ、女が絡まないと色々な意味で本気にはならないのでしょうね」
かつて自分と戦った時もそうだった。
あの悪魔の女を守るために、ランスは自分にも一歩も退かずに、それどころか自分達を圧倒した。
それも全ては『女』が絡んでいるからだ。
ケッセルリンクの時もカミーラの時も…ランスの行動には全てが女が絡んでいる。
そして今回ランスがやる気になっているのは全ては女絡みだ。
「ほのかの報告を聞いてから本当にやる気になってね…」
「まあ…そういう奴だしな」
黒部も呆れているが、それがランスという男だという事は嫌でも分からされていた。
「それよりも黒部。そろそろあなたも行かなくていいの? あなたが行かないと本当の意味では終わらないわよ」
「わかってるさ。さて、俺も行くとするか。レダ、お前も来るだろ?」
「ランスが乗り込むなら当然よ」
レダと黒部はそのまま前線へと向かって駆ける。
「おう! 妖怪王黒部のお通りだ! 死にたい奴はかかってこい!」
黒部は叫びながら、自分へと向かって来る敵をその拳で殴り飛ばし、あるいはその爪で切裂く。
それだけで人からは悲鳴が上がり、ランスの力で崩壊していた相手に止めを刺す事になる。
「く、黒部だ!」
「妖怪王だ! もう駄目だ!」
異常なまでに強い男に加え、とうとう妖怪王が出て来た事で、相手方は完全に崩壊してしまう。
そのまま一斉に逃げ始める。
残るのは命知らずの馬鹿か、本当に逃げ場所の無い者だけだ。
それでもランスと黒部に勝てる訳も無く、とうとう城にまで攻め込んでいく。
「いやいや…本当に凄いな。ランス殿と黒部殿が揃えばまさに敵無しだな」
「流石にあの二人は別格ですね」
ランスに続くトオトヨと与一が半ばあきれた声を出す。
こうしてランスの下について数多の戦いに出たが、この二人が出た戦いではまさに負け無しだ。
軍の指揮をした事が無いという黒部は、その圧倒的な力を持って妖怪達を従えている。
その様子はまさに妖怪の津波と言っても過言では無く、その津波に飲み込まれれば最後、後には何も残らない。
ランスは黒部とは違い、見事な指揮能力を持っていると言ってもいいだろう。
とてもどこかの国に仕えていたとも思えないが、それでもその能力は凄まじいものだ。
特に戦場の空気を読む力がずば抜けている。
「そしてスラル様も…」
「そうですね。スラルさんが私達の頭脳ですしね」
何よりもこの人間と妖怪の集団を纏め、最適な指示を出しているのが謎の幽霊のスラルだ。
彼女の言葉は重みがあり、今の状況を作り上げたのも彼女の言葉があってこそだ。
「いささか過激な部分もあるようだが…」
「時折ですけど…凄い冷たい目をする時があるんですよね」
与一は勿論ランス、レダ、スラル、エルシールに感謝しているが、中でもレダとスラルだけは今でも苦手だ。
レダは凄い綺麗だし、その容姿にからは考えられないくらいに強い。
それこそランスや黒部に渡り合える人間の一人だろう。
だが、そんな彼女だが自分達に向ける目はどちらかと言えば無関心が近いだろうか。
勿論無下にされているという事は無いのだが、ランスやエルシールに比べれば壁があるように感じられる。
ランスやスラル、エルシールに対してはそんな事は無いのだが、自分達に対しては少し素っ気無い態度でいる事も多い。
そしてスラルだが、彼女は喜怒哀楽が分かりやすい少女のように見えるのだが、時折その眼差しに冷たいものが混じる。
そこが恐ろしくもあり、頼もしくもあるのだが、それでも人とは違う何かがあるように感じられる。
そんな彼女だが、何よりも凄いのはその知識量だ。
豊富な彼女の知識があってこそ、今現在の自分達が居ると言ってもいい。
ランスの剣からは離れられないとの事だが、あんな体でありながら魔法も得意というのだから、そんな彼女が羨ましいと与一は思ってしまう。
「与一殿…その…ランス殿にはそういう気は無いと思いますよ」
トオトヨは若干与一から距離をとる。
与一は一見すると女性と見間違う程の容姿をしているが、男だ。
呪い付きで性別が入れ替わっているときに、ランスに手を出されたらしいが、ランスはそれがトラウマなっており与一に対する態度は厳しい。
「いいんです…でもね、諦めてはいないんですよ。何でも性別を反転させる神殿があるとか…何としても見つけます」
そう言う与一の目はギラリと輝いており、トオヨトはその気迫に思わず後ずさる。
「そ、そうですか。あ! ランス殿と黒部殿がとうとう城門を落としましたよ!」
謎の気迫を発している与一から何とか話題を逸らそうとしていたトオトヨは、固い城門が開かれるのを見て喜びの声を上げる。
それはもうすぐこの戦いが終わるだろうという言葉と、与一の話を切り上げようとする言葉の二つがある。
トオトヨの狙いは的中し、先ほどまで不気味な気配を発していた与一の目が一気に真剣なものへと変わる。
「では…私達も乗り込みますか」
「そうですな。ほのか殿ももう既に進入しているでしょう。それに…ランス殿を止める必要もあるでしょうしな」
次は次で別の事でトオトヨは頭を悩ませる。
「ランスさんですからねえ」
与一もそれには頭を悩ませている。
ランスが好色なのは別に構わないし、戦で負けた側が犯されるのはある意味当然の事だ。
そこで当然のように女性をお持ち帰りするのがランスだ。
女性に関してはランスはかなり煩く、それに関しては自分の邪魔するものは容赦しない人間だ。
レダなら止められるのだが、彼女は特にランスを止めるような事はしない。
「さて…行きますか」
「そうですね」
トオトヨと与一は少しだけ気が重くなりながらも、戦後の処理の事も考えながら自分達も開かれた門へと進み始めた。
「がはははは! 邪魔する奴は皆殺しじゃー!」
ランスが城の中をずんずんと進んでいく。
「随分と機嫌がいいわね、ランス」
馬鹿笑いしながら進んでいくランスに、レダは少し頭が痛くなる。
ランスがこういった笑いをしている時は、大抵は女が絡んでいるからだ。
「おいほのか! ここの城主の愛人はここにいるんだろうな!」
「それは間違いないです。ここの愛人は本妻よりも大事にされているのは有名でしたから」
「うむうむ。そのためにこれまで我慢をして来たのだ。さぞかし美人なのだろう」
ほのかの報告にランスは満足そうに笑う。
これまでは攻め入った所ではほとんど女性を襲うというさながら盗賊なような行為をしてきた。
「それでか…まあ分かってた事だけど」
ランスの機嫌が良いことにレダは本格的に呆れる。
自分やエルシール、他のも己の意思でランスに抱かれている者も居るというのにまだ欲しがるのか…とも思う。
(流石に天使である私達にも恐れず無理矢理しただけあるわね…)
長い事ランスと行動しているが、そこは死んでも直らない部分であるだろうと思う。
ランスに女を抱けなくなる呪いとかをかければ、ランスは自殺してもおかしくは無い…それほどまでの女好きだ。
「がはははは! 愛人ちゃんはどこじゃー」
「無礼者!」
我が物顔で進んでいくランスに対して薙刀を構えた女性が切りかかるが、そんな動きでは当然ランスは止められない。
持っていた剣で薙刀を叩き切ると、そのままその手で顔を掴む。
ランスにその顔を掴まれた女性はそこそこの美女とも言えるだろう。
「うーむ…83点と言った所か。普段ならばそのままずばーっとやる所だが、今はその愛人ちゃんの方が重要なのだ」
そのままランスはその女性を手放すと、そのまま突き進んでいく。
解放された女性は目をパチクリとさせているが、ランスはそのまま一瞥することも無く進んでいく。
噂に名高いその愛人とやらとずばっとやるために我慢しているのだ。
「で、ほのか。どの辺にその愛人ちゃんがおるのだ」
「ここの城主のすぐ側でしょう。常に自分の側に置いているとの事ですから」
「だったら話は早いな。ズバッと斬ってズバッとヤればいいだけだ」
ランスは再び何時ものように笑いながら進んでいく。
「ランス! こっちだぜ!」
「おう、黒部か」
すると別行動をしていた黒部、綾、与一達と出会う。
この城に入ってから二手に分かれていたが、どうやら黒部達の方が当たりだった様だ。
「がはははは! 行くぞー!」
そしてそのままの勢いで襖を蹴飛ばす。
そこに居たのは一人の30歳くらいの中々鋭い眼光を持った男と、脅えた様子でこちらを見ている若い女性だった。
「来たか…妖怪王よ」
「おうよ、来てやったぜ」
黒部の鋭い眼光にも男は毅然として睨み返す。
「一つ聞きてぇんだけどよ…お前が俺達につかなかった理由はなんだ?」
「ある意味当然の事だろう。貴殿は妖怪…人を食い、人を殺す存在。そんな者の下につけると思うのか? 例え帝の候補だとしても」
男の言葉に黒部は苦笑する。
「確かにな。普通だったら誰も俺の下にもつかねえな。だがよ、こうして俺が妖怪王でも俺を帝にしようとしてくれている奴等も居る」
「それもまた然り…だが私は貴殿につく訳にはいかぬ」
男は立ち上がると、腰につけてある刀を抜く。
それは中々様になってはいるが、それでもランスや黒部には決して及ばないだろう。
いや、それどこらか綾にすら及ばないだろう。
それでも男は退くつもりは全く無い。
「実朝殿…」
「済まぬな、瑠伽よ。これも城主の務め…ここで退く訳にはいかぬのだ」
女の言葉に男はどこか自嘲するように笑う。
「さあ来い妖怪王!」
「おう、上等じゃねえか!」
男―――実朝の声に黒部は一歩前に出る。
敵わないと分かっていながらも自分に向かってくる…愚かな選択かもしれないが、黒部はそんな馬鹿は嫌いではない。
だからこそ、大将として自分が相手をする…それが自分に出来るただ一つの事だ。
「感謝する…妖怪王」
実朝は笑うと、刀を構えて一直線に黒部へと向かっていく。
その動きは何処までも真っ直ぐで、どう見てもそれは黒部には届かないのが分かる。
そして振り下ろされる刀を黒部はあえてその体で受ける。
まるで鋼にぶつかったような音を立て、刀がその筋肉に阻まれる。
黒部の一撃が実朝に突き刺さり、実朝は血反吐を吐きながら吹き飛ばされる。
「こいつで終わりだ。この地は俺達が貰うぜ」
「実朝様!」
倒れる実朝に女が駆け寄る。
黒部の一撃を受けたが、息がある事に安堵のため息をつく。
「殺しはしねえよ。俺は帝になりたいだけだ。無用な殺しはするつもりはねえ」
「…ありがとうございます、黒部様」
その言葉に瑠伽は黒部に向かって頭を下げる。
こうして戦いは黒部達の勝利に終わる―――のだが、そこでランスがその顔に何時ものようにいやらしい笑みを浮かべながら瑠伽に近づいていく。
「がはははは! 君がどうなるかはもうわかっているな?」
「ちょっとランス!」
ランスの言葉にレダが抗議をするように声を出す。
が、それを止めたのは意外にもほのかだった。
(ちょっとほのか?)
(いいんです。あの人もたまには痛い目にあってもいいと思いますから)
ほのかの言葉にレダは頭の中で?を浮かべる。
目の前の女性はどこからどう見ても美しい容姿をしている。
「ぐふふふふ、今までずっと我慢してきたからな。それはもうしっかりと…」
ランスが瑠伽に近づき、その服を脱がしてすぱーっとやろうとしたとき、唐突にランスの背筋が凍りつく。
(…なんだ、この感覚は。何か前に味わったような感覚だぞ)
それは一体何時だったか、もう二度と味わうことは無いだろうと思っていた感覚。
この背筋が凍りつく程の戦慄を受けたのは一体何時のことだったかランスは必死で思い出す。
そうしなければ、自分がとんでもない事をしてしまうのでは無いかという思いに駆られたのだ。
(えーとあれは…確かJAPANであったような…)
それはランスがJAPANに居たときに味わった感覚。
大量の魔軍を引き連れていながらも、大将であった自分に喧嘩を打って来た馬鹿で有り、そしてあのノスやカミーラよりもランスを戦慄させた存在。
『お前は俺の一番星だ!』
その言葉が頭の中で鳴り響くと同時に、目の前の美女が非常に恐ろしい存在に見えてくる。
「………お前、まさか男か!?」
ランスは本当的にそれを感じて、慌てて瑠伽から距離を取る。
「わ、私は体は男でも心は女です!」
その告白にランスは体を完全に凍りつかせる。
「お…男…こんなもののために俺様は必死で我慢を…」
それはかつてゼスで女だらけの盗賊団を排除した時にもあった事。
あの時は必死で我慢してきたが、その盗賊団のボスは非常に不愉快なブ男だった。
しかし今回はどう見ても女にしか見えない。
それがあの時よりもランスを追い詰めていた。
「…ぷっ」
ランスの剣の中でスラルが思わず噴出す。
自分が幽霊になってから長い間ランスを見てきたが、こんなランスは今まで見たことが無かった。
ショックを受け、大きく口を開け涙目になっているランスを見る機会など滅多に無いだろう。
「くくく…もうだめ…あははははははははは!!」
とうとうスラルは堪えられなくなったようで、ランスの剣から姿を現すと大笑いを始める。
「く…ぷっ…あーっはっはっはっは!」
レダもランスの顔を覗き込むと、何時もと全く違うランスの顔に笑いが堪えきれなくなる。
「く…くくく…」
エルシールもランスから顔を背け、口を必死に押さえて笑いを堪えている。
「ククククク…はーっはっはっは!」
黒部はと言うと笑いを堪えることなく、ランスを指差して大声で笑い転げる。
綾もほのかもトオトヨも必死に口を押さえて笑いを堪えている。
(ねえほのか…あなた分かってたでしょ)
(私は美人の愛人が居るとは言いましたよ。勝手に女だと思ったのはランス様ですから)
(まあそうね。いい薬かもしれないわね)
やはりほのかは全て分かっていた上で黙っていたようで、必死に笑いを堪えている。
「う、うがーーーー!!」
「きゃーーーーーー!!」
ランスがとうとう限界に達したのか、その剣を振り上げる。
「ちょ、ちょっとランス!」
「おいランス!」
その剣を振り下ろそうとするのを、黒部、レダ、綾が必死で止める。
「はーーなーーせーー! 俺様を騙した奴は絶対に許さん!」
「落ち着きなさいよ! って凄い力…!」
「待てよランス! うおっ!?」
結局ランスはスラルのスリープの魔法で眠らされ、強制的に連れ戻された。
その夜―――
「ほのか! ほーのーかー!」
スラルに眠らされ、目が覚めた時には既に夜になっていた。
自分に何が起こったのか一瞬理解出来なかったが、段々とあの忌々しい記憶が甦ってくる。
思い出した事で再び吐き気と眩暈がランスを襲うが、ランスはそれを必死で押し殺してほのかの名前を呼ぶ。
「何ですか。ランス様」
気絶していたランスを警護していたほのかが屋根裏から下りてくる。
「お前! 最高に綺麗な愛人がいると言っていたではないか! アレは何だ!」
「特に間違った事は言っていないと思いますが…」
「普通は男の愛人は女だろうが!」
ランスの言葉にほのかは少し呆れた様にため息をつく。
「大陸ではそうかもしれませんが、ここはJAPANですから。JAPANには衆道というものが…」
「やかましい! お前、知ってて言わなかったな!?」
「…何の事でしょうか」
その言葉にほのかは顔色一つ変えない。
が、ランスはほのかが一瞬だけ…本当に一瞬だけその顔が笑っていたのを見逃さなかった。
「うがーーーー! 許さん! おしおきじゃー!」
完全にきれてしまっているランスを見てほのかは少しまずいと思い始める。
だから、ランスを煙に巻いてとっとと逃げようとしたのだが、何時の間にか自分の体にはロープが巻き付いている。
「…あれ?」
「逃げられると思っとるのか!」
「うーん…抜けれない!?」
忍者である自分は当然壮絶な修行をしている。
その自分を持ってしても何故かこのロープからは抜け出す事が出来ない。
そしてあっという間に天井に吊るされてしまう。
「えっと…その…」
「がはははは! おしおきターイム!」
ほのかの目の前でランスが一瞬で全裸になる。
そして当然の如く天を向いているランスのハイパー兵器が目に入り、ほのかは思わず顔を赤くしてそむける。
「なんだ、忍者の割には経験が無いのか」
「わ、私は呪い付きでしたから。それに…こんな不気味な目をした女を抱こうとは誰も思いませんでしたし」
少し苦い顔をしたほのかの顔をランスは間近で見る。
その目は確かに彼女の言うとおり、普通の人の目とは違う。
長い間光を見る事が出来なかったその目は、くすんだ灰色になってしまっている。
改めて他の人間…特にレダやエルシールのような綺麗な目をした女性を見て、ほのかは今の自分の異質さを思い知った。
「ふーん。個性があって良いと思うがな」
「え…」
ランスは何とも無いと言わんばかりに言いのける。
「それはそうと、ずばーっとやらせてもらうとするか! がはははは!」
「え、あ、ちょっと待って…きゃーーーーーー!」
ほのかの体の後ろに回り込んだランスが、一気にハイパー兵器でその体を貫く。
痛みに耐える訓練をしてきているほのかが、それだけで悲鳴を上げる。
「がはははは! 朝までしっかりと付き合ってもらうぞ!」
「あ、朝まで…そんな…」
ランスの言葉にほのかはその顔に脂汗を浮かべる。
縄で縛られて動けない体が、ランスが動くたびにぎちぎちと音を立てる。
「まずは一発め…とーーーーーーっ!」
「んんーーーー!!」
その日、ほのかの悲鳴がランスの部屋から絶えず響き渡ったが、幸いにもそれを知るのはスラルだけだった。
遅れ過ぎですね…
繁忙期に今の状況が相まって、忙しすぎる状況に
本当にいつ終わりが来るのか…リアルで不安です