「来たか…」
「ああ、来てやったぜ。平清盛」
今目の前には妖怪とまで言われた、平の主にして石丸と同じく帝候補である平清盛が座っている。
名前は聞いた事はあったが、見ると聞くのではやはり違うものだが石丸は笑みを浮かべる。
自分の年齢の2倍以上生きている男だが、その目にはまだ絶えぬ野心がぎらついている。
だからこそ、この帝レースにも積極的に参加していた。
「フン…儂ともあろう者が見誤ったか…いや、お前と妖怪王に挟まれた時点でこうなるのは決まっていたかもしれんがな」
「ああそうだろうな。俺もまさか妖怪王が参加してくるなんて思ってもいなかったよ」
清盛と石丸は互いに笑う。
まさかの妖怪王の参戦は、平と藤原の両方の計算を多大に狂わせた。
特に平はその煽りを受け、負けるにしても自分の想像よりも早くに帝レースから脱落する事となってしまった。
「それで…大人しく帝ハチマキを譲ってくれる気は無いんだよな」
「カッカッカ! それは出来んなぁ。これは儂が貰い受けた物…これには凄まじい力があるのは明らかだ。だからこそお前も帝になろうとしているのだろう」
「そうだな。俺があんたの立場でも断ってただろうな…じゃあ力ずくででも貰い受けるか」
石丸は三種の神器の一つであり、帝の証とも言える帝ソードを抜く。
その帝ソードを見て清盛はより一層笑みを深くする。
「それが帝ソードかい…なるほど、確かにこれが3つ揃えばこのJAPANを手にする事も出来るだろうよ」
「かもな…ここで大人しく降服してくれりゃあアンタにも帝の姿を見せてやる事が出来るのにな」
「ほざけ若造。この清盛の力、甘く見られては困るなあ!」
清盛が帝ハチマキを頭に巻き付けると、清盛から凄まじい気迫が溢れ始める。
「こいつは…」
その様子には流石の石丸も額に汗を浮かべる。
まさか気迫だけでここまで姿が大きく見えるとは思ってもいなかった。
その気迫はついに天井にまで届き、天井が悲鳴を上げ始める。
「…ってちょっと待て爺さん! あんたの体物理的に大きくなってるぞ!?」
「何か問題はあるのか!?」
「お前のような爺さんがいるか! もうちょっと小さくなってくれないと天井が壊れる」
「む、そうか。こんなものでいいか」
「あ、もう少し…ああ、そんな感じで」
自分よりも一回り程大きな体になった清盛に対し、石丸は改めて帝ソードを向ける。
「じゃあ始めようか…本当の帝レースを!」
「小童が…30年早いわ!」
そして二人の帝候補の激しいぶつかり合いが始まる。
その結果、地に膝をついていたのは―――
「くぅ…儂ともあろう者が、やはり年には勝てんか…」
「そうだな…出来れば全盛期のあんたとやりあいたかったな」
そこには荒い息を吐き、下から石丸を睨む清盛の姿があった。
「…フン、全盛期の儂でもお前には勝てなかっただろうよ」
清盛は自分と石丸の力の差を嫌というほど感じ取っていた。
それは努力という言葉では決して埋まらなぬ差…神が与えた才能という絶対的な壁が存在していた。
剣戦闘LV3…本来の歴史において、彼しかこの技能を持った人間は存在しない。
その力はあの魔人ザビエルにすら脅威を抱かせるものだ。
「しかしこれでスッキリしたわ。くれてやる」
そう言って清盛は額に巻いていた帝ハチマキを石丸に手渡す。
「いいのか。俺はアンタの息子を…」
「それこそ戦場の常よ。まあ森盛はお前の事を許さないと言ってたがな…それもアイツの人生よ」
戦とは言え、石丸は清盛の息子である重盛を討った。
その結果、当然の事ながら弟である森盛は復讐を誓い、石丸の命を狙っている。
「だから儂はお前の好きにしろと言った。あいつも子供じゃない、自分の生死は自分で決めるだろうよ」
「…俺としては、アイツを俺の部下にしたかったんだけどな」
平森盛…それは平家の頭脳として石丸を苦しめてきた男だ。
重森と森盛の兄弟が纏まれば敵は無い…そう言われてきた。
だからこそ、石丸は森盛という男が自分の部下として欲しかった。
「それはお前次第だ。森盛がお前を認めれば…アイツはお前の下につく」
清盛はそう言って立ち上がると、そのまま外に向かい空を見上げる。
そしてその後で一面に広がる湖を見る。
「さて…儂は奴との決着をつけに行くか。帝になれば奴とも互角に戦えるかと思ったのだがな…」
「アンタでも勝てなかった相手がいるのか?」
「おう、サンマという巨大生物がな」
清盛は不敵に笑うと、そのまま手摺に足をかける。
そして石丸を振り返った時、そこには彼と戦った時とはまた違う真剣な表情が浮かんでいる。
「石丸…妖怪王は儂よりも遥かに手強いぞ」
「そんなにかい?」
妖怪王黒部の噂は当然石丸も知っている。
一度会ってみたいとは思っていたし、話もしてみたい。
人食いの妖怪として恐れられているが、何故そうなったのか…本人の口から聞いてみたいと思っている。
「ああ…そして一番の問題は、その妖怪王の周りに居る異人だ。奴等が黒部軍の指揮をしていると言ってもいい」
最初に黒部からの手紙を預かった時、清盛が感じたのは言いようの無い不気味さだった。
天満橋を押さえたのはまだ良い…自分もロシナンテが気に入らなかったという事はあった。
勿論ロシナンテを殺すという気は全く無かったが…それでも奴は妖怪王に殺された。
そして妖怪王黒部が自分に宛てた手紙は、こちらを支援するというものだった。
それは事実であり、実際に妖怪王からは武具や兵糧、そして大陸の傭兵だという人間が送られてきた。
それでも藤原家に勝つ事は出来なかったが、妖怪王はそれを尻目に着実に自分の力を増していった。
今は西側を完全に押さえており、藤原と平に並び立つ存在になったと言ってもいい。
だが、そうなるのには当然の事ながら理由がある。
「相当に頭の切れる奴がいる…平の敗北を完全に予想していたのだろう。見事なまでに儂の部下を受け入れおったわ。お前が重盛を討った時からこの結末を見抜いていたという事だな」
「…例の異人か」
清盛の言葉に石丸は苦い顔をする。
妖怪王の躍進には当然理由はあるのは分かっていたが、生憎と距離が離れすぎていたために妖怪王の情報は殆ど入ってこない。
ただ、大陸から来た異人が黒部を帝にするべく行動をしていると聞いた程度だ。
「森盛も恐らくは妖怪王の所へ行っただろうな…」
「そんなに凄いのか…その異人は」
「勝つためにはどんな手段でも使う…儂はそんな感じがした。奴等は大きな切り札を持っているだろうよ。尤も、それが何かは分からんがな」
清盛はそう言うと、石丸に背を向ける。
「爺さん!」
「儂はサンマとの決着をつけに行こう! 後はお前らがやって見せろ!」
そう言って清盛は手摺から勢いよく宙を舞う。
石丸がそこから下を覗き込んでも、もう何も見る事は出来ない。
「…最大のライバルはそのサンマだったって訳か。喰えない爺さんだ。そして妖怪王と異人か…」
石丸本人としては平清盛が自分の最大の壁だと思っていた。
何しろ清盛は自分が生まれる前からこのJAPANに名を馳せていた大人物だ。
だが、今はその清盛すらも警戒する妖怪王黒部…そしてその黒部に協力する大陸の人間。
そしてその大陸の人間がここまで黒部の勢力を盛り上げてきたのだ。
「ここからが本番って事か」
石丸の顔には自然に笑みが浮かぶ。
それは強い者と戦えるというある種の喜びが浮かんでいる。
「さて…どんなものかな」
石丸はまだ見ぬ妖怪王、そして大陸から来た異人と出会える事を心から楽しみにしていた。
「大変です! 平が陥落しました!」
ランス達が何時ものように過ごしていた時、ほのかが音も無く現れ報告する。
その言葉に一部の者は表情を硬くし、一部の者はその顔に笑みを浮かべる。
「ふーん、ようやく終わったか」
ただ一人ランスだけはどうでもいいような顔をしているが。
「父上は…父上はどうなったモリ!」
つい最近、黒部の下へと投降した平森盛がほのかに詰め寄る。
「清盛殿は…行方知れずという事です」
ほのかは清盛の結果を普段と同じ様な顔で話す。
「…そうモリか。良かったモリ」
「いやいいんですか!?」
安心したような森盛の言葉にエルシールは思わず言葉を発せずにはいられない。
彼女の父親は、自分と同じ立場の人間から疎まれ、ついにはエルシールの家そのものが没落した。
幸いにも自分だけはランス達と共に国を出る事は出来たため、森盛の言葉が少し信じられなかった。
「別にいいモリ。あの父上がそう簡単に死ぬはずが無いモリ。きっと宿敵であったサンマと決着をつけにいったモリよ」
「宿敵のサンマですか…」
森盛の言葉にエルシールは思わず頭を抱えてしまう。
彼女にとって、どうしてもJAPANの人間が理解出来ないからだ。
「で、向こう側の動きは?」
「今はまだありませんが…近いうちにこちらへと進軍してくるでしょう」
スラルはランスの剣から姿を現すと、真剣な顔でほのかの言葉を聞く。
平が敗れるというのはスラルにとっても予想していた事であり、また敗れる時期もスラルの想定の範囲内だ。
だからこそ、チャンスは今なのだ。
「よーし、じゃあ早速一発ぶちかますか」
「そうね、今がチャンスよね」
ランスが立ち上がると、スラルも直ぐにその顔に笑みを浮かべる。
(やっぱりランスには戦場の空気を読む力がある)
スラルがランスに興味を持ったのは、その並外れた剣の腕だけでは無い。
何よりもスラルがランスを認めたのは、自分の予想のつかない事をやってのける事、そしてその強運だ。
そして一緒に居て分かった事は、ランスにはずば抜けたセンスがある事だ。
それは自分のような慎重…いや、臆病な者には決して思いつかない事。
「し、しかし攻めると言っても何処を。それに、距離があり過ぎます。そこに移動するまでに、藤原は防備を固めるでしょう」
トオトヨの言葉にランスは何時ものように笑い、スラルも薄い笑みを見せる。
「何も私達が全軍で攻め込む必要は無いのよ。それに…今回は挨拶みたいなものだし」
「だったら当然俺も行くぜ」
黒部もその顔に楽しげであり、同時に獰猛な笑みを浮かべる。
「挨拶ならよ…大将の俺が行くのが筋だろうがよ」
「当然よ。足の速い者だけで行くから…まあ大丈夫よ。相手だって今は無茶は出来ないしね」
そういうスラルの笑みは、楽しげであると同時にどこか冷酷さを感じさせるものだった。
「で、あれが藤原の軍って訳か」
高台から見下ろせる場所に、藤原の領地がある。
かつては平の地であった場所には藤原の旗が立ち、やはり藤原家の家紋が入った軽鎧を纏った足軽に、同じように藤原家の家紋が入っている武士が歩いている。
「それはいいけどよ、この数で大丈夫なのか?」
この場について来た足の速い妖怪である窮奇は少し不安そうにランスを見る。
豪気な気性を備えた窮奇であるが、これまでのランス達と共に戦った経験、そして絶対に負ける事が出来ない戦のためか、そこには慎重さが見て取れる。
「何だ、ビビっとるのか」
「んな訳無いだろ! でもよ…この数で十分なのかと思ってよ」
窮奇も既に人間の力を認めている。
自分をも下したランスもそうだが、ランスの隣に立つレダの強さや、大陸の人間の使う魔法の力もこの目できちんと見て理解している。
そして今までの自分では経験する事も出来なかった集団での戦いと、それに伴う戦後の処理等、これまでの生活からは想像も出来ない事だった。
この場に集ったのは約150程度という戦を仕掛けるに当たっては少ない数とも言える。
「そんな心配しなくても大丈夫よ。ここで決着をつける訳じゃ無いんだから。あくまでも挨拶よ、挨拶。相手を知らなきゃこれからの詳しいプランを立てられないし」
スラルは気楽そうに笑う。
実際、こんな戦いでは決着はつかないとスラルは確信している。
これまで調べた情報では、帝候補の藤原石丸とその周囲はやはり一筋縄ではいかない人物が揃っているようだ。
藤原石丸を中心に、彼を支える優秀な人材が揃っている。
(尤も、人材で負けてるつもりは無いけどね)
こちらも帝候補の黒部を筆頭に、有力な妖怪に加え、人間の纏め役にはランスがいる。
数の上では不利だし、人間の兵士の質も圧倒的に劣っているという自覚はある。
(それでも…負けるつもりは無いけどね)
この戦いもまた、相手の出方を見る大切な一手だ。
大将である藤原石丸がこの地に居ない事は確認済み…そしてこの少人数ならば問題無く撤退が出来る。
「よーし、もうちょい明るくなってから一気に行くぞ。その後はさっさと逃げるぞ」
「了解」
ランスの言葉に、この場に居るランス以外の唯一の人間であるほのかが答える。
ランスがほのかの顔を見ると、ほのかは黙って顔をそむける。
「なんだほのか。まだ怒っとるのか」
「…無理矢理襲われて怒らない人間がいると思いますか?」
ほのかは非難の視線をランスへと向ける。
今は装束に隠れて見えないが、ランスに縛られて一晩中犯されていたため、縄が体に食い込んで痕になってしまっている。
おかげで、今までは何の問題も無く入れていたお風呂に入るのが躊躇われてしまっていた。
「馬鹿者、あれはおしおきだおしおき。大体お前が悪いんだろうが」
「まあ黙っていた事は認めますけど…それでも物事には限度があると思います」
ほのかはその呪い故に、くのいちとしての修行はどうしても出来なかった。
容姿こそ整ってはいるが、その整った容姿を活かす事が出来なければ意味は無い。
それにほのかは忍者としての才能に溢れており、これまでも多大な任務を請け負ってきた。
だからこそ、つい先日にランスに無理矢理犯されたのがほのかにとっては初体験であった。
(別に初体験だからどうだという事は無いんですが…)
その時の事を思い出すだけで、ほのかは自分の顔に血が上るのを理解する。
忍者として激しい修行を積んでいる故に、顔に出す事は無いが自分で顔が赤くなるのは嫌でも自覚してしまう。
(本当に一晩中でしたし。それよりも…)
世の中の権力者がそういうものだという事は分かっていたが、その中でもこの男は別格だ。
(これまで私が見て来た権力者とは違う。本当に女しか興味無いし…)
これまでランスについてきて、この男の女好きなのは嫌でも理解させられたが、この男は本当に女しか好きじゃない。
ただそれでも本当に拒めばこの男は無理矢理犯すような事はしないという事は分かる。
自分は無理矢理やられたが、それはまあ自分が悪いと思うしかない。
「それはまあいいです。私は私の任務を遂行します」
ほのかはそう言うと一瞬でその場から姿を消す。
それを見てランスは少し複雑な顔をしている。
「どうしたの? ランス」
そんなランスの顔をレダは不思議そうな顔で見る。
「いや…やはりJAPANの忍者はあれくらいが標準なのか? かなみを見ているとな」
かなみという名を聞いて、レダも少し複雑な顔をする。
「まあ…彼女はね? ランスも言ってだでしょ、彼女はハンデだって」
「うーむ…ま、いいや。それよりもとっとと行くか」
ランスはそう言って窮奇の背中へと乗る。
「お、行くか」
ランスが戦闘態勢に入ったのを理解し、黒部もまた獰猛に笑う。
「適当に暴れてとっととずらかるぞ。よーし! 突撃じゃー!」
「行くぞお前等! 遅れるなよ!」
「「「オオォォォォォーーー!!!」」」
ランスと黒部の号令に一斉に妖怪達が動き出す。
今ここに、このJAPANの帝の座を巡り、最後の戦いが始まろうとしていた。
旧平家領地…今は藤原家が治める地だが、特に問題も起きる事も無く、駐在する兵士達も気が緩んでいた。
それだけ藤原家の治安が良いという表れなのだが、それよりも平という藤原家最大のライバルを倒した事、残りは妖怪王黒部だけだという事実が油断を招いていたのかもしれない。
「ようやく戦が終わるな…」
「そうだな…後は妖怪王黒部だけだしな」
「なーに大丈夫だろ! 何しろ石丸様だぞ!? それにかの有名な妖怪狩の方も参加してくれてるんだ!」
若い兵士の言葉に皆が笑う。
何しろ藤原石丸はまさしく王となるべくして生まれた存在だ。
その剣の腕はまさに天下無双、彼に勝てる人間は存在しないとも言われている。
それに加え、高名な妖怪退治の専門家も協力してくれている。
もう妖怪王なぞ恐れるに足らず…そんな空気が藤原家には蔓延していた。
「ハハハ! そうだな! 俺もようやく妻の所へ帰れそうだよ」
「俺も息子と娘に出会えそうだよ。もう少しの辛抱だな」
「自分はこのまま妖怪王の首をとってやりますよ!」
「おお! 大きく出たな!」
年若い兵士の言葉に皆が喝采を浴びせる。
もし本当に妖怪王の首をとれれば大手柄だろう。
実際にはそんな事はありえないだろうが、それでもそうした希望を言える位には藤原家は優位に立っている…皆がそう信じて疑っていなかった。
―――この瞬間までは。
「…? なんだ?」
皆で笑いあっていた内の一人が怪訝な顔をする。
「どうした?」
「いや…何か聞こえないか?」
その言葉に皆が耳を澄ますと、確かに何かの音が聞こえてくる。
そして間違いなくそれは近づいてくる。
「な、何の音だ?」
一人が不安そうに声を出すと、その不安が周囲に伝わり、更なる混乱を呼ぶ。
が、その不安と混乱はあっという間に吹き飛ぶ。
ベギャッ!!
大きな音を立て、頑丈なはずの門が拉げたかと思うと、次の瞬間にはまるで大砲でも受け止めたように爆散する。
そしてその門から現れたのは、人よりも遥かに大きな体躯を持つ獣の姿だった。
さらにはもう一体巨大な四足の獣と、その上に乗って居る黒い剣を肩に担いだ人間が現れる。
「がははははは! 俺様参上!」
「よう、来てやったぜ」
巨大な獣―――黒部はにやりと笑うと、自分の首を取ると言っていた若者の前へとその歩みを進める。
「俺が妖怪王黒部だ。俺の首を取れるって言うなら取ってみな」
「あ…」
若者は呆然と目の前の巨大な妖怪を見る。
妖怪王黒部…このJAPANには知らぬものは居ないとも言われる人食いの妖怪であり、これまで数多の人間を返り討ちにしてきたまさに妖怪の王だ。
そして見ると聞くのでは大きすぎる差があるのを若者は嫌でも理解させられる。
見上げなければならない程の位置にある頭部には、非常に鋭い牙がいくつも並んでいる。
その毛皮の下には俊敏かつ強力な筋肉があるのは明らかだ。
そして何よりもその手には獣のような鋭い爪が見えている。
「こねぇってんなら俺から行くぜ」
黒部の腕が振り下ろされると、若者は言葉すらも発せずに倒れる。
その爪には若者の血が付き、赤い雫が地に落ちる。
「く、黒部だ! 妖怪王黒部だ!」
怒鳴り声にも似たその声が響くと、混乱の極みにあった兵士達がようやく目の前の状況を理解する。
「さて…悪いけど私達の目的のためには死んでもらうわ。氷雪吹雪!」
男…ランスの剣からスラルが姿を現すと、その強力無比の魔法が兵士達を氷付けにする。
「がはははは! 俺様の経験値になるがいい! ラーンスあたたたーーーっく!!」
ランスは窮奇の背から跳躍すると、そのまま己の必殺技を兵士達に向かって放つ。
魔物兵の大軍すらも吹き飛ばすランスの一撃はそのまま兵士達を飲み込み、その命を容易く奪う。
「私も別に遠慮する必要も無いしね…ライトボム!」
レダの魔法が兵士達を飲み込み、吹き飛ばす。
それはまさに一瞬の出来事。
「おうお前ら! 思う存分に暴れやがれ!」
「「おおーーーーーー!!」」
黒部の言葉に妖怪達の雄たけびが上がる。
こうして戦いとも呼べぬ、一方的な蹂躙が始まった。
「大変です!」
「どうした? 騒がしいぞ」
突如として己の大将の部屋に入ってきた兵士に対し、石丸と共に居た北条早雲が眉をひそめる。
ようやく長い平との戦いに勝利し、石丸と早雲はようやく一息つく事が出来ていた。
「く、黒部が…妖怪王黒部が現れました!」
「何だと!?」
早雲はその場で勢い良く立ち上がる。
石丸も目を見開き、その手に持っていた盃を取り落とす。
石丸は直ぐに気持ちを切り替えると、その手に帝ソードを取り武人の顔になる。
「どこだ」
「す、すぐ側です! そこにいきなり妖怪達が奇襲を…」
「案内しろ!」
「は、はいっ!」
石丸の言葉に兵士は悲鳴のような返事をすると、少しもつれた足で走り出す。
それを追って石丸も駆け出す。
「…まさかこれほど早く妖怪王が仕掛けてくるとは」
妖怪王が動くとは思っていたが、まさかこれほどまでに早く動くとは思っても居なかった。
距離が離れているという事もあるが、それ以上にここまでの情報網を妖怪が持っているとは考えても居なかった。
それも平との戦いがようやく終わった瞬間を狙って。
早雲も唇を噛み締めながら、石丸の後を追って走り出した。
石丸がその場についた時…目の前には自分についてきてくれた兵士達が倒れていた。
そしてその倒れている兵士達の向こう側に、巨大な妖怪の姿…そして黒い剣をその手に持った人間の姿が見える。
石丸は黒部の姿を見た事は無かったが、直感的に目の前に居る巨大な妖怪が黒部だという事に気づいた。
相手も同じ事を思ったのか、その顔には楽しそうな笑みが浮かび上がる。
こうして、残りの帝候補の二人が今ここに始めて顔を合わせる事となった。
それこそ、最後の、そして過酷な帝レースの始まりであった。
何とか大丈夫です
更新スピードを戻したいけど、もう少しお待ち下さい…
なんでも質問受け付けの答えで少しプロットの変更も有りました
剣戦闘LV3のイメージが少し薄れた感じなんですよね…空間を斬る事とかは流石に出来ないみたいで
実際に描写にある魔法LV3に比べ、直接戦闘の技能LV3って今一実感がつかめないんですよね
ガルティアのムシ使いLV3とかなら体に入れられるムシの数が多いとかイメージ出来ますけど