ランス再び   作:メケネコ

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NC戦国ランス⑨ 

 ランスは窮奇の背の上で不満そうに唇を歪めている。

 理由は単純、とっとと帝レースを終わらそうと思ったら、まさかのスラルによるストップが入ったからだ。

「おいスラルちゃん、どーいう事だ」

「ランスの不満も分かるけど…ちょっと懸念があってね」

 スラルはランスの剣から姿を見せる事は無いが、それでも腕を組んで考え事をしている姿が目に浮かぶ。

「今回の帝レース…あくまでもJAPAN人のためにあるレースなのよね。ランスが帝リングをつけようとしても、つけられなかったでしょ?」

「そう言えばそんな事もあったな」

 それは最初にアマテラスから帝リングが授けられた時、ランスは自分に嵌めようとしたが、残念ながらそれを装着する事は出来なかった。

 それで早々にランスはその帝リングから興味を失ったが、勿論スラルは今でも大いに興味がある。

「私の懸念っていうのがね、もしあそこでランスが藤原石丸を倒しても、それは黒部が帝になれるという事には繋がらないと思って」

「何だと?」

「あくまでもランスはこのJAPANに住まう民では無く、大陸で生まれた人間…帝レースの部外者よ。その部外者が帝の候補者を倒した所で神が黒部を認めるか、と思って」

「むぅ…」

 スラルの言葉にランスは少し考え込む。

 神…それはこの世界の管理者であり、その力は絶大だ。

 レベル神に過ぎないウィリスですら、ランスのレベルを強制的に下げる事が出来る。

 それくらいならランスも何時もの様に笑い飛ばすかもしれないが、生憎とランスはこれまで神の力を何度か目にしている。

 自分を散々翻弄しているセラクロラスも神であるし、今はランスのレベル神をしているクエルプランも1級神と言っていた。

 そしてランスと戦った破壊神ラ・バスワルド…それらを考えれば、ランスも考えてしまう。

「じゃあ黒部があの藤なんちゃらを倒せばいいという訳か?」

「それなら100%大丈夫でしょうね。あの巻物にも平清盛に大きくバツ印がついてただけだし…ランスの目的はあくまでも黒部を帝にする事でしょ?」

「…うーむ」

 ランスの目的は黒部を帝にする事…ではなく、スラルの新しい身体を見つけて、スラルと思う存分セックスをする事だ。

 そのためには今の現状のJAPANでは自由に探索する事は難しい…何よりも、何時セラクロラスによって飛ばされるか分からないからだ。

 だからこそ、黒部が帝になれば手っ取り早いと思っていたし、ランス自身も再びこのJAPANを楽しみたいという思いがあった。

「それにあの状況で藤原石丸を倒すのは難しいとも思ってたしね…ランスだって分かってるでしょ?」

「何を言う。俺様は最強だ。あんな奴は俺様の敵では無いわ」

「私が付与をすれば確かにランスが勝つわ。でもそれだとランスの目的は果たせないかもしれない…悩ましいわね」

 スラルの目から見てもランスと石丸は互角…剣の腕は僅かに石丸が上回るだろうが、ランスの持つ力にはスラル自身の力も含まれている。

 この剣はランスが自ら見つけた物なのだから、その剣の中にいる自分は当然ランス自身の力と考えている。

 簡単に言えばスラルがランスの剣に入っている限り、相手はどうあっても2対1で戦うのと同じなのだ。

 スラルはそれを卑怯だとは思っていないし、自分が有利な状況で戦うのは当然の事だと思っている。

 だからこそ、スラルはランスが卑怯とも言える悪知恵を大いに認めている。

「でも大丈夫なの? 戦力は相手の方が上でしょ?」

 ランスの背にその体を預けているレダが疑問を出す。

「だからこそ、ほのかに食料を狙わせたんでしょ。ランスって本当にそういう事は考え付くんだから…」

「がはははは! 油断する奴が悪い!」

 今回はスラル達からしてみれば、ほんの挨拶代りのはずだったのだが、その裏でランスはほのかに命じて藤原の食料を攻撃していた。

 ただ燃やすだけなら生温いと、妖怪の力を使って食料を腐らせるという手段だ。

「本当にランスって抜け目無いわね…」

 エンジェルナイトである自分には全く思いつかない事だが、やはり人間は違うのだと思い知らされる。

(いえ、これはランスが特別なだけよね…)

 この男は勝つためならばどんな手段でも使う事が出来る男だ。

 だからこそ、自分よりも遥かに強い相手にも向かっていく事が出来るのだ。

(でももう少し正面からぶつかるって事は考えないのかしらね…私だって正面から倒されたのに)

 自分達を倒した時は真正面から、それも後で自分達を犯すために殺さないという余裕すらあったのにと思う。

「ランス、スラル。こっからどうする?」

 窮奇と共に並走していた黒部がランスとスラルに尋ねる。

 今まで好き勝手に動いていた黒部にはこうした組織だった行動や作戦がどうしても思いつかない。

 ここ最近は少しは理解出来る様になってはいたが、それでも人間には遠く及ばないと自覚していた。

 実際にこれまではランスの指示に従っていたが、それは見事に決まっていた。

「うむ…で、どうする。スラルちゃん」

「そうね…一先ず相手の出鼻は挫く事は出来たし、私達が戦いやすい場所に相手を誘導出来るように動ければいいんだけど…」

 ここでスラルは頭を捻る。

 こうした戦い方は人間が得意としていた事を思い出す。

 かつて自分が魔王であった時、地力で劣る人間達は魔物に対抗するために色々な知恵を出していた。

 指揮能力は自分の代にいた魔物大将軍が上回っていたが、それでも人間に遅れを取ることはあった。

 その魔物大将軍すら追い詰めたのが、かつて人間だったガルティアなのだ。

(それに何よりも…ランスは無敵結界があるにも関わらず、魔人を撃退している…人間にはそれを埋め合わせるだけの知恵がある)

 だというのに、自分の思考は最終的には力押し、という結論に達してしまうのが少し情けなかった。

 それもそのはず、魔王はこの大陸最強の存在であり、魔王に逆らえるものはいないのだから。

 今はその力は存在しないのに関わらず、どうしても最終的には力という結論に達してしまう。

「ねえランス。そこからどうすればいい? 正直私こうした経験が無くて…」

 ランスと共に居て、その魔力と知恵、観察眼等でランスの力になっているとは思っているが、こうして誰かを率いるという事に関しては自分は完全に向いていないのを思い知らされる。

「フン、そうだな…」

 ランスはスラルに問われて考える。

 今回の襲撃に関してはランスの勝利ではあるが、それはあくまでも小さな勝利であり戦略的にはあまり意味は無い。

 相手の進軍速度はいくらか遅らせることは出来ただろうが、それは決して勝利には結びつかない。

 しかも今回の勝利の条件は、黒部があの藤なんちゃらに勝つというが条件なのだ。

 これまでのようにランスが乗り込んで、相手の頭をズバーッとやればいい話では無いのだ。

「まあそれでもやる事は変わらないな」

 ランスが考えているのは、やはり以前でのJAPANでの事だ。

 あの時も国の一つ一つに喧嘩を売り、どんどんと相手を制圧していった。

 その結果、最終的には魔人ザビエル率いる魔軍との争いとなったが、その以前の時の様に相手の土地を一つずつ奪っていけばいい話だ。

「がはははは! どっちにしても俺様が勝つ事には変わりは無い!」

 ランスは何時もの様に笑っていた。

 

 

 

 石丸の城―――

 最初の妖怪王、そして異人との邂逅の後、石丸の城では重臣が集まり会議が行われていた。

 最大のライバルと目された平清盛を倒し、後は妖怪王のみだと思った時、その妖怪王からまさかの奇襲を受けた。

 そして一番の問題点は、こちらの最大戦力である藤原石丸と互角に渡り合う異人が相手にいるということだった。

 が、それでも重臣たちの間には不安は無い。

 何しろ、国力や兵士の数はこちらが圧倒的に上であり、尚且つ妖怪狩りのスペシャリストもこちらに加わっているのだから。

 だが、その頭首である藤原石丸は重臣達のように楽観視はしていない。

 そして何よりも、彼にはある思いが宿っていた。

(妖怪王とあの異人…どうにかして俺の部下にしたいな)

 妖怪王もそうだが、何よりもあの異人…妖怪と人間を纏め、一大勢力までのし上ったのは恐らくはあの異人の力があっての事だろう。

 だからこそ、妖怪王黒部があの異人を守ったのだ。

(…羨ましいな)

 本当は自分が最初に人間と妖怪の間の溝を埋めたかったのが、どうやらそれはあの異人に先を越されたようだ。

 勿論それに関しては何も問題は無い。

 むしろ、人と妖怪は共存できるという事を教えてくれた。

(しかしなあ…)

 問題はやはりあの異人だろう。

 戦ってこそ分かるものも有り、あの異人は自分同様に誰かの下につくという事を嫌がるタイプだ。

 そして何よりもあの異人は自分に全く興味が無い。

 もしこれで相手が自分を意識してくれればとも思うが、恐らくはあの異人にとっては自分はただの障害物に過ぎない。

 あの強さ、覇気を感じ取った自分としては、異人…ランスと呼ばれていた人間を自分の配下にするのは不可能のように思えた。

「月餅殿がいらっしゃいました!」

 何とか妖怪王や異人を自分の配下に出来ないか頭を捻らせていた時、自分の最大の相談役とも言える月餅が入ってくる。

 その正体は誰も知らないとされており、その能面のような顔からは何の感情も窺うことは出来ない。

 だがそれでも彼が齎した知識や術は今ではこのJAPANの礎となっている。

 言わば、JAPANの基礎を築いた存在と言っても良く、石丸も彼の言葉は素直に受け入れていた。

「月餅殿」

「…妖怪王と争ったそうだな」

 翁の仮面をつけた月餅だが、それを気にする者はもはや誰も居ない。

 彼はそういう存在なのだという事を皆が受け入れているからだ。

「ええ…正確には妖怪王と一緒に居る大陸の人間ですがね」

(大陸の人間か…)

 石丸の言葉を聞いて、翁の仮面の下で月餅は少し苦い顔をする。

 それはここに来る少し前の事…

 

 

 

 月餅が人の魂を集めていた秘密の場所…そこには以前よりも遥かに少ないが、それでも人の魂が集まっている。

 此度の帝レースでは多くの人間が死に、その魂の何割かはこの場所に溜まっている。

 天志教…それは大陸にあるAL教団というものに肖り、月餅が作り上げた組織だ。

 通常は人も魔物も魂を持つ者は等しく地獄を経由し、最終的には創造神ルドラサウムへと還って行く。

 それこそがこの世界のシステムであるが、月餅はこの魂の輪廻の輪から外し、己の主であるラサウムの元へ送るべく効率的な方法を模索した結果、皮肉にも神が創ったシステムを真似する事となった。

 そこに少し思うことが無い訳ではないが、それでも悪魔王ラサウムのため最大限の事をしているつもりだ。

「やはり…まだ効率は良くないか」

 月餅がまだ下級悪魔だった頃よりかは遥かに早いペースで回収は出来ているが、それでもまだまだ長い時間がかかるのは想像に難くない。

 大前提として神と天使に見つからぬ様に行動をする必要があるため、あまり目立つ事をしたくは無かった。

「しかし天使か…」

 それは以前に再会した自分の同僚である、第参階級魔神であるフィオリとの会話だ。

 自分が苦労して集めた魂を掠め取った謎の悪魔が天使と共に居る…これは生粋の悪魔である月餅にもにわかには信じ難い話だ。

 だが確かにあの奇妙なピンクの悪魔は存在し、自分が集めた魂をその口で飲み込んで消えたのは事実だ。

 そしてその天使が今は帝レースに参加しているという。

「どうするべきか…」

 月餅は今非常に悩んでいる。

 ここまでは色々と試行錯誤しつつもやってきたが、流石に天使がいるとあってはそうもいかない。

 帝レースには特に関わるつもりは無かったし、何よりも危険すぎた。

 あの帝ソードは間違いなく『神』が作ったアイテムだからだ。

 だからこそ、自分が直接動くといらぬ干渉を招いてしまうかもしれないため、これから先の事を考えればやはり動くのも難しいとも感じる。

 月餅の目標は、この天志教を大陸へと広め、より効率的にラサウムへ魂を捧げる事なのだが、今はまだ早いとも思っている。

 それらの事も合わさり、どう行動すべきかまだ決めかねていた。

「あやつに偉そうな事を言っていた割には中々決まらぬものだな」

 フィオリの申し出は有り難いのかもしれないが、それがこれからの未来にどう影響を及ぼすかは未知数だ。

 本来は自分だけが任されているのに、そこに同じ階級の悪魔が出張ってくるのはやはり避けたい。

 天使も厄介だが、同僚である悪魔も厄介になるとは流石に思ってもみなかった。

 その時、月餅の周囲の空間が揺らぐ。

「…貴様か、フィオリ」

「随分な挨拶ね。未だに動くことが出来ないあなたの変わりに、私が動いてあげようと思ってるんだけどね」

 月餅の目の前に現れたのはその問題の悪魔であるフィオリだ。

「で、決まったかしら?」

「…正直未だ決めかねている。ここは藤原石丸に任せるのも得策かもしれんとも考えている」

 月餅の言葉にフィオリは驚いたように目を見開く。

「あら…第参階級魔神であるあなたが、随分と人間を買っているのね」

「私やお前が動くのではなく、人間であるあいつが動くことに意味がある。そうでなければ人の間には我が教えは広まらぬ。それは忌々しい神の奴等が証明している」

「AL教か…」

 AL教の名前を聞いて、流石のフィオリも忌々しそうに唇を歪める。

 AL教の教徒はまさしく正しい意味で神の奴隷だ。

 だが、その代わりに人間達に神魔法を広め、悪魔に対する技術も作られている。

 忌々しいことだが、やはりこの世界を回しているのは神なのだ。

「三魔子様もこちらへの干渉は極力避けられている。あまり表立って動く訳にもいかんだろう。してフィオリ、大陸の方はどうだ」

「相変わらずよ。はぐれ悪魔を狩るために時たま見かける程度…JAPANの方には来る気配は無い。あなたの事がばれていないのか、それとも泳がされているか…」

 二体の第参階級魔神は顔を合わせる。

 月餅は人ではない顔のため、何を考えているかは分からないが、フィオリは楽しそうに笑う。

「で、話は戻るけど、どうするの?」

「先の通りだ。藤原石丸に当面は任せるだけだ。我々の表立った干渉はなるべく控えるべきだ。だが…その大陸の人間が藤原石丸の手に負えない時は、お前に任せよう。だが、私は一切の関与はしない。たとえお前が敗れてもだ」

 月餅の言葉にフィオリは笑う。

「いいわ。ここはあなたが育てた地…私もいたずらにそれをいじくるのは本意では無いもの。でも言質はとったわ。後はあなたの選んだ人間があの男を倒せるように願うのね。もっとも…そう簡単にはいかないでしょうけどね」

 フィオリはそのまま意味深な笑みを浮かべたままその姿を消す。

 残された月餅は一度ため息をつくと、その顔に翁の仮面を装着する。

「この第参階級魔神ともあろう者が人間を信じるか…人と接するうちに変わったか? だが、全てはラサウム様のため…石丸よ、そのためにはお前を帝とやらにせんとな…」

 

 

 

「石丸…お前の好きにするがいい」

 月餅の言葉に皆がどよめく。

 そんな中、石丸は少し楽しそうに月餅を見る。

「そろそろ俺も卒業って事か?」

「…思い上がるな。だが、この程度を跳ね除けねばお前の大望を果たすなど夢のまた夢…ならばお前の手で帝レースを終わらせてみろ」

「手厳しいな…でもそれでこそさ。俺もやる気が出てきたな。よーし、早速行くとするか!」

「待て石丸! 行くって何処へだ!?」

 早雲の言葉に石丸は不適な笑みで答える。

「勿論妖怪王黒部の所さ。何よりも、まずは俺はあいつと話をしてみたい」

 あまりにもいい顔で宣言する石丸には、誰もが唖然とする。

 が、こんな破天荒な男であっても、必ず結果を出してきた男なので、その信頼は厚い。

「それにあの異人もな。あいつにも俺の下で働いてもらいたいと思ってな」

 その言葉には早雲は非常に難しい顔をする。

 仮面故にその表情は全く分からないが、月餅もその仮面の下では苦い顔をする。

「それは難しいと思うがな。あの異人は間違いなくお前の手にも余る…そんな感じがする」

 早雲が何よりも脅威に感じたのは、あの妖怪王が異人を庇ったという事だ。

 つまりはそれだけ妖怪王との信頼関係が有り、妖怪王が庇うほどの価値がある人間だというが分かる。

 その間柄はどちらかと言えば主従関係というよりも、どこか親しい間柄にすら見えたものだ。

 それに自分の式をあっさりと防いだあの金色の髪をした異人…あの存在は早雲には非常に不気味に感じてしまった。

 そして何よりも、今JAPANで広まっている噂では神が遣わせた巫女が黒部の元に居るという事。

 勿論そんなものは根拠の無い噂である事は分かっているが、あの時異人の隣に居た巫女服を着た幽霊の女…彼女こそが噂の巫女なのだろう。

 噂の出所は西からで、まさしく妖怪王達がそんな噂を人を使って意図的に流しているのだろう。

 そんな考えを妖怪王がするとは考えにくい…とすると、間違いなくあの異人が噂の出所だろう。

 最初から早雲はこれまでの妖怪王の躍進については疑問に思っていたが、あの異人達と出会った事で確信を得た。

 間違いなく、あの異人達が妖怪王黒部を焚きつけているのだろう。

「だったら尚更さ。そんな奴を従えてこそ、俺は帝になれると思っている」

 それでも自信有りげに胸を張る石丸に対し、早雲はその表情を曇らせたままだ。

「石丸。妖怪王はともかく、俺はあの異人達に関しては反対だ。あの男は飼いならす事が出来ない…そんな感じがする。お前と同じなんだ。誰かの下に付く事をよしとする人間じゃない」

 早雲の言葉に石丸は笑ってみせる。

「かもな。そうなった時はその時さ。今はそれよりも妖怪王との決着をつけ、帝になる。それが今の第一目標だ」

 そう言う石丸の顔は真っ直ぐに、そして力強い視線を放っている。

「…まったく、お前という奴は」

 その顔を見て早雲は逆に安心する。

 石丸はしっかりと目の前を見据えており、自分が心配する必要が無かった事を思い知らされる。

「それに…あの金髪の異人と、幽霊の女性とはお近づきになりたいからな」

「お前という奴は…」

 石丸の顔を見て早雲は再びため息をつく。

 英雄色を好む、その言葉通り藤原石丸は女性には目が無い。

 まあ全ての女性に本気だし、女性達もそれを分かった上で石丸と一緒にいるのだから、自分が文句を言う筋合いは無いとは思う。

「だが…相手は強敵だぞ?」

「だろうな。特にあの金髪の異人は俺に興味すら持っていないみたいだったからな」

 あの無機質に自分を見ていた金髪の異人の視線は石丸には忘れられないものだった。

 だからこそ、何としてでも手に入れたいとも思う。

「さーて、まずは妖怪退治だ。行くとするか」

 

 

 

 藤原家が改めて戦の準備をしていた時、正に黒部率いる妖怪軍もまた戦の準備に忙しかった。

「やれやれ…まさに総動員ってやつか?」

「どうせこちらは藤原家に比べれば戦力は圧倒的に少ないモリ。援軍を期待できないなら、短期決戦しか無いモリよ」

 黒部の呆れたような声に、平森盛が答える。

「…やっぱりまともにやるのはキツイのか?」

「当然モリよ。確かに妖怪王もランス殿も異常に強いモリが、やっぱり戦いに必要なのは数モリよ」

 軍師である平森盛の言葉に黒部はどこか感心したようにため息をつく。

 こうして人と接し、話す事により黒部の頭には今まで考えもしなかった事が入ってくる。

 その知識もまた、黒部にとっては新鮮なものだった。

「ただ、個々の実力では妖怪の方が上回っているモリよ。勝機を見出す事が出来るとすればそこモリよ。それにランス殿とスラル殿の言葉も最もモリよ」

「当然だ。だからお前もさっさと俺様の言うとおりにしろ」

 そこにランスが現れる。

 その顔は何時もの様に自信に満ち溢れており、これから大決戦が始まるというのにどこか楽しそうにすら見える。

「ランス殿の言葉も最もモリよ。でもまずは全力で相手の出鼻を挫く事が必要モリよ。それにしても…スラル殿、本当にランス殿にそんな事が出来るモリか?」

 森盛は少し不安そうにスラルを見る。

 ランスとスラルの言葉を聞いた時、森盛は最初はその言葉を信じられなかった。

 だからこそ、そんな不安要素を戦いに持ち込むのは軍師としては避けたかったが、大将である黒部がそれを肯定した事でそれを前提にした策を練っていた。

「当たり前だ。だからお前は俺様が全力を出せるようにしろ」

「勿論それには全力モリよ。ランス殿と黒部殿ならば藤原石丸に対抗できると信じてるモリよ」

「当然だ俺様が負ける訳が無いからな」

 ランスはそのまま何時もの様に笑いながら立ち去っていく。

 恐らくは誰か女性の元へと向かったのだろう。

 そんなランスを尻目に森盛は少し不思議そうにランスが去った後を見ていた。

「どうかしたのか?」

「いや…ランス殿は大陸から来たのは知っているモリが、どこかの国で将軍でもやってたモリか?」

「将軍だあ? ランスが将軍ってタマかよ」

 森盛の言葉に黒部は豪快に笑う。

 あのランスが誰かの下に付くなど黒部には全く考えられなかった。

「うーん…それにしてもランス殿の剣技もそうモリが、それ以上に見事な指揮能力モリよ…」

 森盛は軍師故にランスの実力が良く分かる。

 剣の腕の鋭さは既に分かっている。

 石丸と長い間戦っていた故に、ランスの剣の腕はあの石丸に匹敵しているとも思っている。

 だがそれ以上に、ランスが見事な指揮能力を持っている事に驚いている。

「だから何処かの将軍でもやってと思ったモリが…」

「それは絶対に無いですね」

「おう、エルシールじゃねえか。綾も一緒か」

「どうも」

 そこにエルシールと綾が現れる。

「ランスさんが誰かの下に付くなんて絶対に無いです」

 エルシールは力強く断言する。

(何しろ、ランスさんはあの魔人の使徒になる事すら拒んでいるんですから)

 彼女はこの場ではランスを知る数少ない人間だ。

 ランスと共に旅をし、魔人カミーラや魔人ケッセルリンク、そして魔人メガラスと一緒にラ・バスワルドと共に戦った事もある。

 最も自分はその戦いには全くと言っていい程役には立っていないのだが。

「そうモリか…それを考えるとやっぱりランス殿は凄い才能モリね。まあそれもエルシール殿と綾殿も同じモリが」

「稀代の軍師、平森盛殿にそう言ってもらえると嬉しいですね」

「恥ずかしながら…私にそういう才能があるとは思ってもいませんでした」

「いやいや、二人とも十分に凄いモリよ。経験を積めば一軍の将になれるモリよ」

 平森盛は世辞でも無く本気でそう思っている。

 綾はその剣術もさることながら、その指揮能力も非常に高い。

 そしてエルシールも大陸の魔法使いと聞いていたが、それ以上に驚いたのは人を纏める事が出来る才能だ。

「それでどうモリか? 魔法使い部隊は」

「まだまだ若輩ですが…それでも何とかやれると思います」

「それはよかったモリ。魔法使い部隊はJAPANにはいないモリよ。そこは藤原にも無い強さモリ」

 かつてロシナンテに雇われていた魔法使い達だが、今はランスの下で働かされている。

 そしてそれを率いるのが同じ魔法使いであるエルシールだ。

 JAPANには居ない魔法使いの部隊であり、そこは石丸にも無い強みではある。

「しかし相手には北条早雲がいます」

 綾の言葉に森盛は難しい顔をする。

「確かに早雲も強敵モリね…でもランス殿と黒部殿ならば勝てるモリよ」

 平森盛はそこは全く疑っていない。

 これは相手を倒すだけの戦いでは無く、帝レースなのだ。

 黒部が石丸を倒す事が出来ればそこで戦いは終わる。

 そのために森盛は策を練るだけだ。

「こちらには妖怪という大きな戦力があるモリよ…必ず兄上の仇は取るモリよ」

 平森盛はその目に強い意志を持ってその手を強く握った。

 

 

 

「ぐふふふふ…綾の連れてきたまくらちゃん…眠ってばかりだが、そろそろ食べ頃だな」

「ランスにかかれば誰でもそうなるんじゃないの? でも眠っている女性を襲うのは感心しないわね」

 ランスは黒部達と別れてから、綾の部屋へと向かっていた。

 目的は勿論、未だに眠り続けている綾の友人であるまくらを襲うためだ。

 スラルはそんなランスに呆れた様にため息をつく。

「ランスって意識の無い女の子を襲ったりするのね」

「がはははは! 呪いだか何だか知らんが、セックスした拍子に起きるかもしれんだろ」

「それは無いと思うけど…」

 何処までも前向き…というよりも完全に危ない思考のランスにはスラルも嘆息するしかない。

(まあいざとなったらスリープで眠らせればいいか…)

 本当にまくらを襲おうとするなら、力づくで眠らせればいいかとも思っている。

 いくらなんでも眠っている女性を襲うなど許されない事なのだから。

「がはははは! お邪魔しまーす!」

 ランスが勢いよく襖を開けた時、

「まーおー!」

 眠っているまくらの腕の中にある、奇妙なピンクのぬいぐるみのような物体が嬉しそうに声をだす。

「ってまおー! 大まおーじゃない!」

 スラルは嬉しそうにピンクの物体…これまで目覚める事の無かった大まおーを見る。

 大まおーはまくらの腕の中から転がりながら離れると、その勢いを利用して起き上る。

「まーお! まおっ!」

 そのまま胸を張って自分の存在をアピールする。

「良かったわ! 目覚めないかと思ったわよ!」

 スラルはランスの剣から姿を現すと、大まおーを抱きしめようとするが、その手は当然のようにすり抜ける。

「まーおー!」

「うーむ…まあ役に立つからいいか」

 こうして大まおーが復活を遂げた。




やっぱり原作での描写が無いキャラは扱いが難しい
特に悪魔の月餅をどうしようか少し悩みました
この作品においては、ランス本編の大多数の悪魔と同じように慎重論で進めることにしました
実際ネプラカスが働き者過ぎるんでしょうね…悪魔界は

そして無敵結界がどうにか出切れば魔王以外は何とかなると言われた藤原石丸
でも石丸にしろMMルーンにしろ最終的に待っているのは魔王というムリゲー
石丸がランスの立場ならどれくらい上手くいけるか考えてみましたが、結局はジルで積むんだよな…

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