黒部軍と藤原軍は互いに激戦を繰り広げていた。
数で上回る藤原家は、妖怪王黒部がどれほど強かろうと勝てると思っていた。
だが、目の前の妖怪王、そして黒い剣を振るう異人の強さはまさに『異常』と言えるものだった。
「がはははは! 金と女をよこせー!」
「そんなもんか!? もっと強い奴を出しやがれ!」
ランスが剣を振るうたびに足軽だろうと武士だろうと簡単に倒されていく。
鎧の上からも軽々と相手を叩き斬るランスの剣を誰も防ぐ事は出来ない。
そして何よりも、
「がはははは! ラーンスあたたたーーーーっく!!」
「わーーーー!」
ランスの剣が光り輝き、ランスが己の必殺技を放つとその一撃で無数の兵士達が吹き飛ばされる。
「な、なんて威力だ…!」
「つ、強すぎる…」
その威力はまさに絶対的であり、ランスの必殺の一撃で戦線は切り裂かれる。
そこを黒部率いる妖怪達が襲い掛かり相手を蹂躙する。
が、それは相手にも言える事であった。
「行くぞ! 突撃だ!」
藤原石丸が帝ソードを構えて黒部軍率いる妖怪達に切り込んで行く。
「アレが藤原石丸だ! 奴を倒せば黒部殿が帝だ!」
「奴を倒せ! 倒せば大金星だぞ!」
妖怪達は挙って藤原石丸へと群がる。
大将を倒せば全てが終わる、それだけを考えて藤原石丸に攻撃を仕掛ける。
だが…
「はあっ!!」
「ぎゃーーーー!」
藤原石丸の剣の腕もまた『異常』だった。
目にも止まらぬ速さで剣が振られたかたお思うと、石丸を取り囲んでいた妖怪の体が四方八方に飛び散る。
恐ろしい程の速さの剣は、妖怪達を切裂くだけでは無く、その衝撃波でも妖怪の体にダメージを与えていた。
「な、なんだこいつは!?」
「まるでランスみたいな剣をしてやがる!」
それは妖怪達も認めた妖怪王黒部の隣にいる人間と同じ様な一撃だ。
いや、もしかしたらランスの一撃よりも早いかもしれない。
そんな藤原石丸を見て流石の妖怪達も腰が引けてしまう。
「行け! 殿に続け!」
そんな腰が引けた妖怪達を見て、石丸の配下の武将の声に合わせて人間達が妖怪に群がる。
個々では人間を上回る妖怪だが、流石にこれだけの数が相手では厳しくどんどんと討ち取られていく。
そして人間達がそのままの勢いで進もうとした時、
「エンジェルカッター!」
「ぎゃーーーー!!」
「この声は…!」
この戦場には似つかわしくない美しい声が響き、放たれた光の刃が石丸の部下達を切り裂いていく。
不気味な獣の妖怪が天から降り立つと、その背中に乗っていた女性が剣を抜き放つ。
「…あの時の美人さんか」
「別に覚えてなくてもいいわよ。覚えて貰おうとも思っていない」
その声はその美貌と同じくらいに冷たい。
「お前が藤原石丸か」
そしてその美女を乗せて降って来た四足の妖怪が石丸を睨む。
「ああ。俺が藤原石丸さ」
「ならお前が死ねば黒部が帝になるって訳か。ならちょうどいい、ここで死ねや」
四足の妖怪―――窮奇は天に向かって吠えると、そのまま石丸へと襲い掛かる。
その動きは非常に素早く、普通の人間ならば対処不可能な動きだろう。
しかしこの場に居るのは皆普通の者では無い。
ガッ!!
窮奇の爪を受け止めたのは藤原石丸では無く、藤原石丸とはまた違う鎧を着た一人の武者だった。
「妖怪窮奇…貴様を討つのは私だ」
30手前程の武者が窮奇の鋭い爪を受け止め、窮奇を睨みつける。
「なんだお前…」
窮奇は自分に向けられる強い憎しみを感じ、眉を顰める。
が、同時に本来の人間が妖怪に向ける視線を感じ、内心では少し安堵する。
「貴様等は人に呪いをかける。その呪いから解放するためには貴様を討つのがより確実だ」
「そいつはどうもな。だがな、お前達がちょっかいをかけてこなければ、俺は別に呪いをかけようだなんて思わなかったぜ」
武者…源頼光の言葉に窮奇は笑う。
実際に窮奇が人に呪いをかけたのは、いい加減に人間がしつこかったという面が強い。
中には気に入った人間を手に入れるため、又は気に入った人間が自分を拒絶したからという理由で呪いをかける妖怪も多いのは事実だ。
その手の呪いは、呪った本人である妖怪の存在すらも歪めてしまう。
窮奇は多数の人間に呪いをかけてきたが、別に死ぬほどの呪いでは無い。
ほのかには太陽等の光を浴びる事が出来なくなる呪いを、ある者にはわんわんやにゃんにゃんに触れられなくなる呪いを…等、中にはふざけとも言える呪いをかけた事もある。
小さな呪いだからこそ、窮奇は己の存在を歪める事無くこれまで生きてこれた。
「勝手な事を!」
窮奇の言葉に頼光は怒りで力任せに窮奇の爪を弾く。
そして返す刀で窮奇の体を斬ろうとする。
それを見て窮奇は何か嫌な予感が自分の体を巡り、相手の剣を弾いて一撃を入れるのを躊躇い避けようとする。
頼光の刀はそんな窮奇の動きを予想したように、窮奇の体を薄皮一枚斬る。
その時、窮奇の顔が歪み、斬られた場所を思わず押さえる。
すると、そこからは血と共に白煙が上がり、まるで己の存在を焼き尽くすかのような痛みが広がっていく。
「な、なんだ…その刀は!?」
「これこそ妖怪を斬る刀…膝切よ!」
確かに感じる刀の魔力のようなものに、流石の窮奇も思わず後ずさる。
力を持つ大妖怪である窮奇だからこそ、相手の持つ刀の力が分かる。
後の世には間違いなくバランスブレイカーとして回収対象となる刀が、今目の前に存在している。
「妖怪は斬る!」
「人間が!」
頼光の振るう刀を窮奇は必死で避ける。
もし一撃でもクリーンヒットすれば、自分は消滅してしまうのでは無いかという恐怖にかられる。
黒部が…そして自分が認めた人間であるランス程の動きではないが、もし当たれば一撃で自分は消えるという恐れに流石に逃げ腰になってしまう。
窮奇はこんな所で死ぬつもりは毛頭ない。
ようやく黒部が…自分が認める妖怪の王がJAPANの支配者となるのだ。
それを見るまでは決して死ぬ訳にはいかない。
が、
「ぐおっ!?」
「今だ! 頼光!」
飛んできた矢に窮奇の体勢が崩れる。
「窮奇! 終わりだ!」
そこに襲い掛かってくる刀を避ける事が出来ないのが窮奇にも分かる。
(ここまでか…!?)
窮奇が己の死を覚悟した時、
ゴウッ!
凄まじい勢いで自分の横を矢が通っていく。
「!」
その矢は真っ直ぐに頼光を襲う。
矢は頼光を貫くと思ったが、その矢が何かの見えない壁に弾かれる。
それと同時に頼光も吹き飛んだため、窮奇は九死に一生を得る。
(こいつは…与一か!?)
自分達の中で、これほどの弓の使い手は与一しかいない。
(ありがてぇ!)
窮奇はこの隙に頼光から距離を取る。
相手は中々の使い手だが、何よりも相手の攻撃が当たれば自分は確実に死ぬとなると、流石に相手をするのは難しい。
もしこれが自分だけの戦いならば最後まで戦うという選択肢もあるのだが、今自分はこんな所で死ぬ訳にはいかない。
(だがどうするか…)
大妖怪窮奇は、目の前の自分を消滅させる事が出来る存在の前に喉の奥で低い唸り声をあげた。
そしてもう一方ではレダと石丸が激しい戦いを繰り広げていた。
本来の歴史…APからLPの長い人間の中でも、若かりし頃のフレッチャー・モーデルと同じく、唯一の魔法技能以外の技能LV3の持ち主である石丸はやはり凄まじい力を持っていた。
レダの構えた盾にも強い衝撃が伝わる。
その度にレダは顔を歪める。
(クッ…この人間、ランス並に強い…いや、純粋な剣の腕だけならランスよりも強い)
自分を倒した人間であるランスの強さにも驚いたが、目の前の人間の強さにも驚かされる。
今の自分はエンジェルナイトとしての力が十分に使えないとはいえ、それでもランスと戦った時よりもレベルが上がっている。
ドラゴン、魔人、悪魔、そして2級神であるラ・バスワルドとの戦闘で強くなっているにも関わらず、目の前の人間には防戦を強いられている。
「どうしたよ、異人さん!」
「よく吠えるわね…いい加減に消えなさい!」
石丸の剣をレダは盾と魔法の壁を使って受け止める。
人間とエンジェルナイトという、決して埋められぬ種族の差でレダは石丸の剣を防ぎ続けていた。
だがそれでもレダが押されているのは事実だ。
しかも自分を殺さ無いように手加減すらされている感じもする。
「余裕のつもり?」
「アンタを殺すつもりは無いからな。それに、アンタとは色々話してみたくてね」
石丸の言葉にレダは唇を歪める。
まさか人間にそんな事を言われるとは思ってもいなかった。
最初から欲望を全開にして自分に接してきたランスもアレだが、目の前の人間は違う。
自分と話したいという言葉に決して嘘は無いだろう。
だがそれがレダのプライドを刺激された。
いくら二人がかりでランスに負けて犯されたと言っても、ランスは完全に別格なのは一緒にいて嫌でも理解させられる。
しかし目の前の人間はそのランスをも上回るかもしれない…が、それが何よりレダには気に入らなかった。
「生意気ね」
「それはどうも。だからこそ、アンタと話が…いや、アンタが欲しい」
「………」
石丸の言葉にレダの目が細くなる。
石丸が言っている言葉は事実だろうと思う。
が、それこそがレダにとっては面白くない言葉だった。
「生憎と私にはお前と話す事なんて無いわね」
「そうか。だったら無理矢理にでもその機会を作るだけだ!」
そう言う石丸の攻撃はさらに鋭くなる。
その一撃を防ぐことが出来ているのは、エンジェルナイトの身体能力と、レダ…レダ0774が持つガード技能のおかげだ。
LV3技能には及ばないが、それでもガードLV2を持つレダは非常に堅牢だ。
それに合わせて、
「ライト!」
「な…ぐっ!」
レダの放つ魔法が石丸に直撃し、その体が吹き飛ばされる。
「石丸様!」
それを見て足軽達が石丸の前に立ち、これ以上レダを進ませまいとレダの前に立ち塞がる。
勿論レダにはそれに手を出すつもりは無い。
この場で石丸を倒していい理由が無いからだ。
帝候補である黒部が倒さねば意味は無いという言葉をレダは信じている。
これは自分の遥か上の存在である、2級神マアテラスが用意した日本人用のレースなのだから。
「…これが大陸の魔法って訳か。まさか魔法まで使えるなんてな」
石丸はレダの魔法で傷ついた部分を撫でると、再び前へと出てくる。
その体にはもう傷がついておらず、レダは少し顔を歪める。
(神魔法…じゃないわね。JAPANに伝わると言われる術かしら?)
大陸の担当だったレダにはJAPANの陰陽術や、巫女の術には興味が無かった。
だから、今の石丸の傷を癒したのが何であるかは分からない。
だが、間違いなく相手の傷は塞がっている。
(人間達が言ってた巫女の術ってやつかしら? 本当に人間の中には突拍子もない技術を考える奴がいるものね)
もしランスと出会わなければ、地上に住まう人間と関わる事無く一生を天界で過ごしていれば、このような考えをする事は決して無かっただろう。
だからこそ、レダは相手が人間でも決して油断だけはしない。
「ここまでの強さに加えて大陸の魔法ってやつも使えるのか。これは是が非でもアンタを手に入れたくなったな」
石丸は笑うが、その笑みが決してハッタリでは無い事に当然レダは気づいている。
(まずいわね…何だかんだ言っても、私よりも強いか。まさかランス以外で私よりも強い人間がいるなんてね)
確かにレダの魔法は当たったが、下級魔法のライトでは相手を倒す事は出来ない。
ライトより上級のエンジェルカッターやグレイトライト、ホワイトレーザー級ならばダメージになるだろうが、流石にこの相手を前に魔法の詠唱は難しい。
下級の魔法ならば片手で使う事は出来るが、上級魔法は両手を使わなかければ唱えることが出来ない。
これはこの世界の魔法のルールであり、それはエンジェルナイトであっても例外では無い。
レダでも、剣と盾を構えて戦いながらでは最下級のライトくらいしか使えない。
しかし詠唱しながら戦うのは、これほどの使い手と数の前では不可能だ。
レダが自分の不利を悟り、どうしようか頭を巡らせていた時、慌てた様子で藤原家の兵士が石丸の側にやってくる。
「大変です! 早雲様の軍が妖怪王と異人の軍に襲われています!」
「何! 早雲の部隊が抜かれたってのか!?」
北条早雲は藤原軍の中でもNo2であり、兵の数も多く配置されている。
陰陽師の部隊である北条には多くの壁となる足軽が配備されているのだが、妖怪王はその壁を蹴散らしたようだ。
「…俺は早雲を助けに行く! ここは任せたぞ!」
「ハッ!」
石丸は部下の一部を引き連れてこの戦場から離れていく。
それを見てレダは少し安心したようにため息をつく。
もしまともにぶつかっていれば、自分でも勝つ事は出来なかったからだ。
「さて…私はこっちね。ライトボム!」
レダは腰が引けている窮奇を攻撃している男達に向けて魔法を放つ。
「「「「「うわーっ!!」」」」」
その一撃は窮奇に群がる男達を吹き飛ばす。
「レダ! 助かったぜ!」
「こいつらは私が引き受ける。そっちはそっちでやりなさい」
「おう!」
窮奇は心底安心したように頷くと、そのまま別の戦場へ向けて走り出す。
「異人の女…邪魔をするな」
レダの魔法を受けたにも関わらず、男達は立ち上がる。
(陰陽術とかいうので防いだ? よく分からないけど出来ても不思議ではないか)
レダは男達に向かって笑う。
その笑みはどこまでも冷たく、頼光はその目に思わず気圧されてしまう。
「私からすれば邪魔してるのはそっち。消えなさい」
レダは剣を構えて男達へと向かって突っ込む。
まだ戦いは始まったばかりだった。
そしてもう一つの戦場―――そこでは戦いとは言えぬ惨劇が繰り広げられていた。
決して数は多くは無い。
だが、その勢いはまさに津波の如く、人は悲しいまでにその津波の前には無力…そう感じさせずにはいられない絶望的な勢いだ。
「止めろ! 止められんのか!?」
「駄目です! 強すぎます!」
将軍の怒鳴り声が響くが、それに返ってくるのは悲痛な悲鳴だった。
「相手は我らの半数以下なのだぞ!? それでも止められんのか!?」
「無理です! う、うわぁぁぁぁぁ!!」
悲鳴と共に将軍の体に血が降りかかる。
「お前が将軍か。なんだ、男か。よし殺そう」
「ぎゃーーーーー!」
ざくーっと将軍があっさりとランスに斬り殺される。
ランスと黒部率いる妖怪の精鋭の勢いは本物だった。
全妖怪の中で、1000体ほどの妖怪の精鋭を率いたランスと黒部だが、たったそれだけで藤原家率いる3000の兵を蹴散らしていた。
ランスの指揮は実に巧みで、相手の弱い所を見抜いてそこを食い破る。
その開いた穴に黒部率いる妖怪達が攻め入り、人間を蹴散らす。
そんな戦いが続いていた。
「早雲様! これ以上は危険です! 退却も視野に入れるべきでは!?」
「まだだ! 何とか持ちこたえろ! 今ここで逃げ腰になれば相手に付け込まれる! 鬼を出すぞ!」
部下の言葉に早雲は必死で指示を出す。
(まさかこれほどまでの勢いを持ってるとは…)
早雲の額に大粒の汗が流れ、その目には凄まじい勢いでやってくる妖怪達の姿が見える。
ある程度の予想はしていたが、まさかここまでの強さだとは思ってもいなかった。
妖怪は確かに個としては人間よりも強いかもしれないが、集団で戦えば数と連携に優れるこちらが有利ではないかと思っていた。
が、その甘い考えば敵の将である異人によってあっさりと砕かれた。
「読み違えたか…まさかここまでの進軍速度を持っていたとは。いや、あの時に見抜けなかった俺が間抜けなだけか…」
思えば最初の妖怪軍の襲撃で、相手にはこちらの想定以上の進軍速度が有る事は分かっていた。
が、まさかその妖怪軍をここまで見事に指揮してみせるのは流石に予想もしていなかった。
妖怪王黒部が集団で人間と戦ったという記録は無く、彼は好き勝手に暴れていただけだった。
だとすると、この指揮能力はあの異人の力という事になるが、まさかここまでだとは流石に思っていない。
(本気で石丸と互角か…だが、こちらが負けているという事は無い)
剣の腕、指揮能力も石丸に並び立つ本物の英雄の資質を持っているようだが、それでも早雲は石丸の勝ちを疑っていない。
それは藤原家の方が黒部よりも遥か先に戦の準備をしていたという事だ。
いくら黒部や異人が強かろうと、長きに渡って戦の経験がある藤原家が有利なのは明らかだ。
(この一戦で負けたとしても、それは俺達の敗北になる訳じゃ無い。だからと言って、死ぬ訳にもいかないけどな)
だからこそ、早雲は貴重な鬼の部隊を惜しげも無く前線に出す。
月餅の広めた陰陽術は、JAPANに出現する鬼を使役する術でもあった。
それによって、北条家は多大な戦力を得る事に成功した。
まだ力ある陰陽師の数がそう多くも無く、使役する鬼の数にも限りはあるが、初代北条早雲はそのカテゴリーには当て嵌まらない。
「早雲様! 石丸様がこちらに向かって来てくれています!」
「そうか! ならば前線を上げろ! 石丸と共に挟み撃ちにするぞ!」
今は責められているが、石丸が来てくれるのであれば何も問題は無い。
何人かの将が討たれているが、それでも前線が崩壊しないのは一重に藤原石丸という圧倒的なシンボルのおかげだ。
そしてこのまま一気に妖怪王と異人を討ち取る…そんな考えで早雲は鬼を動かす。
「ランス! 相手が動いたぜ! 鬼が見える!」
「フン! 鬼だろうが何だろうが俺様の敵ではないわ!」
ランスは昔JAPANで北条家と戦った時、それこそ大勢の鬼を相手にしてきた。
だから相手が鬼だろうが全く関係は無い。
「スラルちゃん! そろそろいいか!」
「ええ! もうちょっと引付けて! そしたら私が一撃を放つわ!」
スラルはこれまでランスの剣の中で魔力を集中させていた。
普段であればランスの剣の外で、ランスやレダ、エルシールを援護する魔法を使うが、今回は違う。
最も効率良く相手を倒すため、タイミングを見計らっていたのだ。
そして相手はこちらの思惑通り、真正面からこちらを潰すようだった。
「じゃあランス、黒部! 私が思いっきりやるから、あなた達もやりなさいよ!」
「誰にモノを言ってやがる!」
「がはははは! 俺様に不可能はない! だからスラルちゃんも思いっきりぶっ放せ!」
ランスと黒部の言葉にスラルも剣の中で笑う。
「さーて…目にモノ見せてやりましょうか!」
スラルがランスの剣から姿を現す。
その手には強大な魔力が宿り、それが放たれる時を今か今かと待ちわびているようだった。
そして鬼がこちらに一直線に向かっているのを見た時、スラルは溜めに溜めていた魔力を解き放つ。
「吹き飛びなさい! 白色破壊光線!」
それはLP期でも使い手が少ない強力な魔法。
ランスの周囲では魔想志津香が得意としていた光の魔法。
スラルの放った白色破壊光線は鬼の集団を飲み込み、消滅させる。
光りが消えた後に見えたのは、ランスから見て無防備でしかない陰陽師の集団だった。
「がはははは! 突撃だ!」
ランスの言葉に妖怪達が雄叫びを上げ、無防備な人間達に向かって突っ込んでいく。
「どうした!? テメェ等の力はこんなもんか!?」
黒部の鋭い爪が鎧すらも切り裂き、周囲には人の悲鳴が上がる。
その光景を早雲は珍しく呆然として見ていたが、直ぐに頭を切り替える。
(ま、まさか今のが大陸の魔法か!? まさかこれ程の威力がある魔法があるとは…!)
辛うじて式による防御で直撃を防いだが、その衝撃はこれまで早雲が体験した事の無い威力だった。
だが大多数の鬼が光に飲み込まれ、鬼達を前線に送ったのが完全に仇となってしまった。
「早雲様を守れ!」
だがそれでも藤原軍は恐慌する事無く、早雲達陰陽師を守る。
「しゃらくせぇ!」
黒部は必死に壁になろうとしている人間達に向かって突っ込む。
そこには策も何も無い、ただただ己の肉体をぶつけるという単純な一撃。
だがその単純な一撃こそが恐ろしい威力を伴い、早雲達陰陽師を守るべく立ち塞がった足軽達を吹き飛ばす。
しかしそれでも足軽達は隊列を崩さないように、互いに互いをフォローしながら黒部に立ち塞がる。
そしてその少しの足止めでも早雲には十分だった。
早雲の式神…それは他の陰陽師とはまさにケタが違う威力を持っている。
(この一撃で妖怪王を止められるとは思えないが…だが今はそれで十分だ!)
そしてその式神を放とうとした時、その腕に手裏剣が突き刺さる。
「ぐあっ!」
その鋭い痛みに思わず符を落としてしまう。
(当たった)
手裏剣を投げたのは、その諜報力を買われてランスと黒部について行っているただ一人の人間、ほのかだった。
相手は北条早雲、稀代の陰陽師として知られ、藤原石丸の軍の実質的なNo2と言える存在だ。
(ここで北条早雲を討つ)
ほのかが再び手裏剣を構えて、北条早雲に狙いをつける。
足軽達が壁になるが、そんなものはほのかにとっては障害にはならない。
何しろ、ランスがその足軽に向かって突っ込んでいったからだ。
ランスの力は共に戦ったほのかも嫌というほど知っている。
その証拠に、ランスの突撃によって足軽達があっさりと吹き飛ばされ、隙間が出来る。
(北条早雲…その首、頂く!)
そして再び手裏剣を投げると、それは北条早雲の首に向かって真っ直ぐに飛んでいき、その首に突き刺さる―――かに見えた手裏剣が一本の剣によって叩き落される。
「無事か! 早雲!」
そこに居たのは、相手方の総大将である、藤原石丸だった。