ランス再び   作:メケネコ

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NC戦国ランス⑫

「石丸!」

「無事か!? 早雲!」

 ほのかの投げた手裏剣から早雲を救ったのは、藤原家当主であり帝候補の藤原石丸だ。

 今はその全身に鎧を着こんではいるが、その手には鎧とは一見不釣合いに見える帝ソードが握られている。

 このJAPANで独自の進化を遂げた刀とは違うが、石丸が持っていると不思議と様になっている…と早雲は思っている。

 石丸は改めて自分の眼前に居る妖怪王黒部と、自分と互角…もしかすれば自分を上回るかもしれない異人を睨む。

 前に顔を合わせた時も戦場ではあったが、これほどまでの威圧感を感じなかった。

 しかし今は目の前の黒部が非常に大きく見える。

「妖怪王黒部…こうして戦場で会うのは初めてだな」

 石丸の言葉に黒部は犬歯を見せて獰猛に笑う。

「おう。テメェもな…藤原石丸」

 二人の帝候補は強く睨みあう。

 それだけでその空間には異様なプレッシャーが放たれ、藤原軍、妖怪軍も思わず息を呑んで己の大将を見ていた。

「そしてお前もな、異人…いや、ランスと言ったか」

 石丸は黒部の隣にいるランスを見る。

 この戦場にいるからか、その鎧には大小の傷が見られるが、その背につけている漆黒のマントだけがまるで新品のようで非常に不気味だ。

 そしてその手に握られている漆黒の剣…それらが相成り、目の前の異人が異質な何かにも見えてくる。

「今度こそ、どっちが強いかハッキリさせようぜ」

 石丸はその手に握られている帝ソードをランスへと向ける。

 そして一方のランスはと言うと、

「誰だお前」

 本気で、本当に自分が誰なのかが分からないように言い放った。

「………は?」

 その言葉に石丸は思わず間の抜けた顔をする。

 いや、それは石丸だけでは無い、あの時にランスと石丸の戦いを見ていた者全員だ。

「お、おいランス! 前に会っただろ!? お前と戦ってただろ!」

「…知らん」

 あんまりな言葉に黒部すらも思わず石丸のフォローを入れる。

 その様子を見てスラルは思わずため息をつく。

(ランスの事だから本気で覚えていないんでしょうね…)

 これまでランスと共に行動を共にして、嫌でもランスという男の性格を見てきたスラルには分かる。

 この男は本気であの時の戦いを覚えていないのだと。

 正確には『戦った』という記憶はあるのだろうが、それが藤原石丸だという記憶が無いのだ。

 ランスにとってはいくら強かろうが、「男」でしか無い以上は記憶に留めておく必要すら感じていないのだろう。

 スラルの推察は正しく、ランスが「敵」として記憶している男は、かつてランスと激闘を繰り広げた人類最強と呼ばれた男、トーマ・リプトンと自分の友達の体を奪い、JAPANを地獄に引きずり込んだ魔人ザビエルくらいだ。

 後は敵ではないが、ランスと付き合いの長いリック・アディスン、意外とランスと仲が良く、お前のような魔法使いはいないとされるガンジー、そして少し記憶が曖昧だったが非常に特徴のある男であるパットンや、しつこくランスに仕える事を申し込んでいた真田透淋くらいだ。

 他にも特徴のあるフリーク・パラフィンや何故か覚えているバレス・プロヴァンス等、ランスが記憶に残している男は非常に少ない。

 あの魔人ノスの事すら忘れていたランスが、一度戦っただけの男である藤原石丸を覚えているはずが無いのだ。

「ちょ、ちょっと待て! お前はあの時の事を覚えてないのか!?」

 石丸も思わずランスに対して声を出す。

 あの時の出来事は石丸にとっても忘れられない時間だ。

 自分と互角に戦う男…そして妖怪王と共に自分に宣戦布告をしてきた男。

 何よりもこれまで負け知らずだった自分を完全にやり込めた男。

「知らん。男なんぞ記憶に残すだけ無駄だ」

「ぐっ…」

 ランスの顔を見れば嫌でも理解させられる…この男は本当にあの時の自分との戦いを記憶に残してすらいないのだ。

 思わず肩を落とし震える石丸を見て、黒部の方が思わず同情してしまうほどだ。

「………与一」

 ぼそっとほのかがつぶやくと、ランスの顔色が目に見えて変わり、ランスは思わず言葉を発したほのかの頭を叩く。

「俺様の前でその名前を出すな!」

「…男は記憶に残らないはずなのでは?」

「やかましい!」

 ランスの顔色は真っ青で、目に見えて気分が悪いのが分かる。

「本当に…本当に俺の事を覚えてないのか?」

 石丸がどこか縋るようにランスの顔を見る。

 ほのかの頭をぐりぐりとしていたランスがもう一度石丸の顔を見る。

「しつこいぞ。知らんものは知らん」

「うぐ…」

 ランスが本当に自分の事を欠片も覚えていないと事実に石丸は思わず崩れ落ちる。

 石丸としては、ランスの事を妖怪王と並ぶ最大の強敵であり、ライバルだと認識していたのだが、相手にとってはそんな事は全く無かったのだ。

「石丸! しっかりしろ!」

「あ、ああ…大丈夫だ。俺は冷静だ…」

 崩れ落ちた石丸を早雲が必死で介抱する。

 その甲斐あってか、石丸は立ち上がるとその剣を黒部へと向ける。

「こうして日の下で会うのは初めてだな。妖怪王!」

「お、おう…」

 先程までとのギャップに黒部は思わず曖昧な返事をしてしまう。

 正直言うと、ランスのあまりの態度には黒部も思わず石丸に同情してしまった。

「改めて見ると…わんわんにそっくりだな」

「犬じゃねえって言ってんだろ!」

 石丸の言葉に黒部は犬歯を剥き出しにして唸る。

「まあどうだっていいさ。こうして俺とお前と…強い方が帝となる。それがシンプルで一番いい」

 その言葉に黒部は先程とは違う意味で笑みを浮かべる。

「そいつぁいい。俺もまどろっこしい真似は好きじゃねえ…テメェも十分に美味そうだ」

 黒部もその鋭い爪を見せると、二人の間に凄まじい重圧が生まれる。

 帝候補同士で行われる激しい戦いに、人間も妖怪も思わず動きを止めて己の大将を見る。

 誰が何と言おうとも、これが帝候補同士の最後の争いであり、このJAPANの未来を決める重大な一戦で有る事は誰もが理解している。

「がはははは! おしおきじゃー!」

「ラ、ランス殿…こんな所でダメです…」

 が、勿論ランスはそんな事には全く興味を示さず、ほのかの体に触れて楽しんでいる。

「ちょっとランス! 始まるわよ!」

 流石にスラルがランスを咎めるが、ランスはどこ吹く風といった感じにほのかの胸を揉むのを止めようとはしない。

「ほのかはかなみに比べれば出る所は出ているな。うむうむ」

 ランスは全く興味が無いといった感じにとうとうほのかの服の中にまで手を伸ばし始める。

 ほのかも何とか逃れようとするのだが、ランスの技は何故か忍者であるほのかでも逃れられないようで、その顔は少し紅く染まり始めている。

「炎の矢」

「あちちちちち! 何をするスラルちゃん!」

 スラルは実力行使でランスの行動を止める。

 ランスの手が緩んだことで、ほのかは乱れた服を直しながらスラルに一礼する。

「馬鹿な事やってないで。今から始まるわよ。本当の意味の帝レースがね」

 そう言うスラルの顔が、何時になく楽しそうな顔をしているのをランスは理解する。

「ふーん。どうせ黒部が勝つだろ」

 ランスはそれでも興味が無いといった感じにスラルの横に立つ。

「黒部の事認めてるんだ」

「アホか」

 そういうランスだが、実際には黒部の実力は十分に分かっている。

 かつて奥州で妖怪王正宗と、彼が率いる4人の嫁の野菊、ノワール、折女、お町といった強力な妖怪と戦ってきたランスだから理解出来る事もある。

 そしてランスが感じ取った実力では、黒部は間違いなく正宗の力を上回っている。

 これまでランスが戦ってきた強敵である魔人には及ばないだろうが、それでも人間には負けないくらいの実力があるのは分かっている。

 勿論そんな事はランスは口にはしないが、スラルには何となくランスが黒部を信用しているんだなあと何故か嬉しくなる。

「じゃあ見ましょうか…帝レースとやらを」

 スラルは腕を組んで完全に見学体勢を取る。

 ランスは興味が無いを言わんばかりに丁度良い大きさの岩に座る。

 そんなランスの姿を見ていた訳では無いだろうが、黒部と石丸が互いに笑いあうと、一気にその距離を詰める。

(早い!)

 スラルはその二人の動きを見て思わず口の中で呟く。

 黒部は妖怪なのでその速度も人を超えているのは分かっていたが、対する石丸の速さも明らかに人の限界を超えていそうな速さだ。

 そして黒部の爪と石丸の剣が交差する。

 それだけで轟音が鳴り響き、黒部の爪と石丸の剣の間で激しい火花が上がる。

(力も互角…いや、違う。黒部の力を技で抑え込んでいる?)

 剣の才能が無いスラルにはその原理は全く分かないが。

 ただ一つ言えるのは、人間を遥かに上回る力を持つ黒部に、人間である石丸が対抗できているという事だ。

 交差する時間は短かったのか長かったのかは分からないが、力では不利だと感じた石丸は即座に動く。

 その流れるような動きには無駄が全くと言っていい程存在しない。

 ランスの動きが激しい滝だとすれば、石丸はどこまでも静寂な水面…スラルはそう感じた。

 それは黒部も感じ取ったようで、あの妖怪王黒部が石丸の鋭い…いや、鋭すぎる攻撃を後ろへ飛ぶようにして避ける。

 だが、それでも黒部の顔からは笑みが消える事は無い。

「やるじゃねえか」

「お互い様だ。流石は妖怪王という事か」

 黒部と石丸の戦いはまさに互角…技で上回る石丸に対し、妖怪という種族とその圧倒的な身体能力で上回る黒部。

 それらが合わさり中々決着はつかないように思われた。

 ランスもそれを見て、スラルに耳打ちする。

「スラルちゃん。隙を見てあいつに魔法を打ち込め」

「ええ…まぁそれが正しいのだろうけど」

 ランスの言葉にはスラルも少し難色を示す。

 確かにランスの言っている事は戦場においては正しい。

 馬鹿正直に一騎打ちを受ける必要は全く無いのだ。

 ちなみにランスはこれを卑怯だとも何とも思っていない。

 ランスに言わせれば、勝つための当然の手段を行使しているに過ぎないのだ。

「なんだスラルちゃん、反対なのか」

「うーん…私の悪い癖かなぁ。どうしても相手の力が見たくなっちゃうのよね…ランスとケッセルリンクの時もさ、オウゴンダマの魔人をどうやって倒すかずっと見てただけだったしね」

 勿論危なくなれば魔王の力を行使してランス達を助けるつもりだったが、スラルとしては相手の力をどうしても見たくなってしまう。

 魔王であった時からの悪い癖なのかもしれないと自覚もしている。

「でもランスの言う事も最もね。今のうちに黒部が倒せればそれでいい訳だし…私としても、不完全な技術を当てにする戦いは本意じゃ無いし」

 ランスが発案し、軍師である平森盛が細かな部分を調整した作戦があるのだが、出来ればそれに頼りたくないとスラルは思っている。

 確かに強力ではあるが、まだまだ制御が不十分なため、味方にも甚大な被害を被る可能性は捨てきれない。

 あれから確かに強くなってはいるが、それでも不安なものは不安なのだ。

 だとすると、ランスの言うとおりに魔法を撃てばいいのではあるが…

(問題はあっちも同じ事を考えていた場合ね。あちらの方が数は多い…私だけの魔法じゃ無理ね。エルシールの魔法部隊がいればわからなかったけど…)

 自分がランスと共に常にいられるというのは利点でもあるが、欠点でもあるとスラルは今になって感じている。

 確かにランスは強いし、そこに自分の魔法の援護が常に得られるのだから、その相乗効果によってどんな強者とも戦える面もある。

 しかしスラルの目から見てもランスは強いし、自分の援護が無くても大抵の事は何とかできるだろう。

 流石に魔人や悪魔が相手ではランスでも厳しいだろうが、そういう時こそ自分が協力する事により危機を乗り越えて来ているのだ。

(私がランスに付きっきりだと、どうしても部隊を率いるのには不向きか…)

 もし自分に自由に動ける体があれば、エルシールが率いている魔法使いの部隊を自分が指揮していたかもしれないとは思う。

(…でも私にエルシールみたいな統率力や、ランスみたいなカリスマが有るとは思えないけど)

 魔王でなくなってから分かる、自分が意外と何も出来ない事に気づかされたのは良い事だと思ってはいるのだが。

 そんな考えは取り敢えず置いといて、スラルはランスの背中にさり気なく移動すると、魔力を集中させる。

(ここにエルシールが居れば、彼女達と協力して一斉に魔法を撃てたかもしれないけど…それは相手にも言える事か)

 こうして今自分は何時でも魔法を放てるように準備しているが、それは相手にも同じ事だ。

 しかも相手の場合、スラルが知らない方法で魔法のような物を使っているとしか分からないため、何をしているのか分からないのがキツイ。

 相手の情報が分からない事ほど恐ろしいものは無い。

 それがスラルが魔王として500年生きてきた結論だ。

 そんなスラルの思いとは裏腹に、黒部と石丸の戦闘は激しくなっていく。

 黒部の一撃は石丸には当たらず、当たったとしてもそれは石丸の剣によって受け流されているだけだ。

 一方の石丸も黒部の体にその攻撃は確かに当たってはいるのだが、その分厚く柔軟かつ硬い筋肉に阻まれ致命傷には至らない。

 完全に互角…ただの人間にしか過ぎない石丸が、妖怪王であり聖獣オロチの牙から生まれた妖怪王と渡り合っていることに人間達は希望を覚える。

「流石は妖怪王…一筋縄ではいかないな」

「ハッ! まさかランス以外で俺とやりあう奴がいるたぁな!」

 黒部は純粋に喜んでいた。

 確かに石丸は予想外の強さを持っている…だがそれが黒部には嬉しくてたまらない。

 ただ名声のために自分に挑んで来た者とは違う。

 純粋な力のぶつかり合いを挑んでくる馬鹿がこのJAPANに居たことが純粋に嬉しいのだ。

「だったらよ…もっと楽しもうぜ、この瞬間を!」

 そう言うと石丸の力の持つ剣が光り始める。

 それを見て黒部は石丸の必殺の一撃が来るのかと警戒をする。

 ランスもそうだが、必殺技を放つ時というのは何故か剣が光ったりする。

 異界の魔王である来水美樹も、ランスの必殺技は光ってかっこいいと言い、自分のボーイフレンドの開発した必殺技に意見した事もある。

 とにかく、必殺技というのはこの世界では光ったり派手だったりはするらしい。

 だから黒部もその必殺技を警戒していると、石丸の放つ光は剣だけでなく石丸自身にも及び始める。

「何…?」

 その光はまるで煙のように石丸へと絡みつき、その全身を覆ったとき、黒部は凄まじい重圧を感じる。

「これが俺の全開だ」

 光りを纏った石丸の力を感じ取り、黒部は戦慄よりも興奮を覚える。

「ヘッ…中々楽しめそうじゃねえか!」

 初めて自分と渡り合える人間であるランスと出会った事で、黒部の人間の見方も大きく変わった。

 そして目の前にいる人間は、ランスと同じ様に自分をこうまでも昂らせてくれる。

 それが何より黒部には嬉しかった。

 だからこそ、黒部は真っ直ぐに石丸へと向かっていく。

 そんな黒部に応えるように、石丸も真っ直ぐに黒部へと向かっていく。

 そして二人は再度ぶつかる。

 先程までは力で上回る黒部に対し、石丸はその圧倒的な技で対抗していた。

 しかし、

「何だと!?」

「まさか…黒部様が!?」

 そこにあるのは妖怪達からすると信じられない光景だった。

 光りを纏った石丸の剣が黒部の体を簡単に傷つけたからだ。

 黒部は妖怪の間では無敵の存在としてあがめられていた。

 その黒部と互角に渡り合えるランスの存在は知っており、その実力は妖怪達も認めていた。

 が、まさかこの世界に黒部と渡り合える人間が二人も居るなど想像もしていなかった。

「行くぞ妖怪王!」

「上等じゃねぇか!」

 石丸の剣を黒部はその巨体に見合わぬスピードで避ける。

 が、石丸の動きはそれを上回る程の正確さを持っていた。

 それは傍から見れば非常に不思議な光景だろう。

 スピードで上回るはずの黒部を、石丸は異常な程の正確さで黒部の体を傷つける。

 その動きはまるで黒部がどう動くかを完全に予測しているかのようだった。

「凄い…」

 黒部と石丸の戦いを見ているほのかが呆然とつぶやく。

 忍者である彼女は最初からこの戦いを黙って見ているつもりは毛頭無かった。

 何時でも石丸を攻撃できるように武器を構えていたが、この二人の戦いを見てそんな気は完全に無くなっていた。

 おそらく自分が手裏剣を投げても、藤原石丸にはまったく効果が無いだろうと思うくらいに。

 それほどまでに、人間であるはずの石丸の動きは異常だった。

「凄いわね…まさか人間であれほどの動きが出来るなんて。剣だけならガルティアよりも上ね…」

 スラルも感心したように石丸を見ている。

 かつて自分がスカウトした唯一の人間である魔人ガルティアだが、彼はムシ使いとして破格の力を持っていたが、それと同じくらいに剣の腕も優れていた。

 それ故に、同族である人間からも疎まれ、ついには仲間によって餓死させられようとしていた。

(勿論ガルティアと藤原石丸が戦えば無敵結界の力でガルティアが勝つ…でも無敵結界が無ければどうなるか)

 魔人の強さはその恐るべき力もあるが、何よりも無敵結界の存在が非常に大きい。

 今現在において無敵結界を破る手段は無く、魔人オウゴンダマや魔人カミーラのようにわざと無敵結界を使用しないか、又は無敵結界が通用しない神や悪魔による攻撃以外では魔人とは戦う事もままならない。

「ランス…断言するけど、間違いなく今の石丸はあなたよりも強いわよ」

「なんだと」

 スラルの言葉にランスはぎろりとスラルを睨む。

 そのランスの視線に怯むことなく、スラルは淡々と言葉を紡ぐ。

「今の状態では、よ。ランスの剣と石丸の剣が違うタイプという事もあるけど…石丸の方が間違いなく自分の力を引き出しているわ」

 スラルは知識として、この世界には技能レベルというものがあるのは知っている。

 所々記憶が抜け落ちてはいるが、それでもこの部分の知識は残っていた。

 ランスの剣も確かに異常ではあるが、石丸はそのランスをも上回っているのは間違いない。

 どちらかと言うと力任せで剣を振るうランスに対し、石丸は技術面ではランスよりも一枚も二枚も上回っている。

 勿論ランスが『負ける』とは思っていない。

 もし純粋な殺し合いになればランスの方が上だと思っている。

「俺様が負けると思っているのか」

「純粋な剣の腕だけならね。ランスはまだ自分の剣の腕を完全に引き出させていないと思っているわ。それに対して石丸は完全に引き出している。ランスもあれと同じ事は出来ないでしょう」

 ランスの必殺の一撃であるランスアタック、そしてその上位版でる鬼畜アタックと称する技の威力はスラルが一番よくわかっている。

 その純粋な一撃の威力だけならば、ランスは石丸を上回っているがこと技術面に関して言えばランスはスラルから見ても未知数過ぎた。

 傍から見れば無茶苦茶な剣だが、それでもカミーラと渡り合い、悪魔とも渡り合った。

 言葉には出来ない不気味さがランスにはあるのだ。

 だからこそ、純粋な技術だけで見れば石丸の方が遥かに洗練されて見えるのだ。

「俺様だってあれくらい出来るぞ…多分」

「そうかもね。ランスと石丸は全く違うタイプだしね…」

 このJAPANに来てスラルが驚いた事の一つに、このJAPANで使われている独特の武器だ。

 刀と呼ばれる剣の存在はスラルにとっても非常に興味深いものだ。

 大陸で使われている両刃の剣とは全く違う武器故に、その戦い方も全く違う。

「ランスが普通に刀を使えるのは驚いたけど…」

 それなのに、ランスもある程度だが刀を使えていた。

 勿論ランスの剣の腕が凄いというのもあるだろうが、スラルが感じた事は『ランスは刀という武器を使った事がある』という感想だった。

「俺様は天才だからな。刀だろうがなんだろうが使えるのだ」

「…否定はしない」

 実際にランスはJAPANの刀を使った事はある。

 玄武城に迷い込んだ時はカオスも無かったため、現地で拾った武器を使用していた。

 その際には刀もあったため、ランスも使いこなせているという訳では無いが、それでも普通に戦えるのだ。

 重い剣で相手を叩き潰すように戦っているだけで、使えない訳では無い。

「っとそれよりも…どのタイミングで放つべきか」

「フン。全く黒部もだらしない奴だ。俺様がいないと何も出来んようだな」

 黒部と石丸の戦いには大きな変化が訪れていた。

 目に見えて黒部が押され始めたのだ。

 石丸の刃が黒部の体を切り裂く事が多くなり、その傷のためか黒部の動きが鈍ってきている。

 だがそれでも黒部の戦意は衰えることなく、石丸にその爪を振るう。

 本来の歴史であれば―――石丸は一騎打ちにて黒部を打ち倒す程の実力者である。

 それなのに黒部がここまで戦えているのは、ランスとの出会いがあったからだ。

 それまで人間達相手に憂さ晴らしをするように戦っていた黒部だが、ランスと出会い共に冒険した事によりその実力は上がっていた。

 共に地獄にて鬼と戦い、黒部の実力は上がっていた。

 だからこそ、こうして歴史に名を残す英雄である藤原石丸にも喰らいついていけていた。

 だが、それにも限界があり、とうとう黒部にも限界が近づいてきているのは本人が一番よく知っていた。

(チッ…こいつはマジでつえぇ…本気でランス並みとは思ってもいなかったぜ)

 自分を初めて倒した人間であるランスの実力はまさに人間を超えていたが、この藤原石丸も十分に人間を超えている。

 いや、純粋な剣の腕だけで比較をすればランスを上回るのは既に黒部も理解している。

(だがそれでもよ…そんな簡単に負けてやるわけにはいかねえな!)

 今の自分は一人では無く、妖怪達だけでなく自分を帝にしようとしてくれる人間も少ないながらもいる。

 そして何よりも、自分とランスが手を組んで敗れるなど黒部は全く思っていない。

 いや、負けるなど許されない事だ。

 黒部は覚悟を決めて構えを取る。

 その巨大な体を本物の犬の様に屈めると、その四肢に凄まじい力が溜められていくのが分かる。

 それを見て石丸は一度黒部と距離を取る。

(こいつは…)

 黒部の姿勢を見て石丸は冷や汗を垂らす。

 これまでの戦いは誰が見ても石丸が有利だと思うだろうが、実際には石丸とて紙一重の戦いだ。

 黒部の恐ろしい程の力はこうして対峙して初めて理解出来た。

 妖怪の王という肩書は伊達では無いということだ。

 ランス以外の誰もが妖怪王がいつ動くのかと冷や汗を垂らす。

 先程までの凄まじい熱気とは違い、今は恐ろしい程の静寂と冷気に包まれている。

 この戦場の熱が全て冷気に変わってしまったような感覚に、人間達は思わず体を震わせている。

 そして妖怪王黒部がとうとう動く。

(来る!)

 石丸の目から見てもそれは恐ろしい程のスピードだった。

 殆ど肉眼では捉えきれない程のスピードだが、石丸には黒部がどのような動きを取るのか理解出来る。

 自分が身に纏っている『気』が、妖怪王黒部がどのように動くのかを教えてくれる。

 だがそれでも黒部の放つ強烈なプレッシャーは恐ろしいものだ。

 そして一瞬でも動くのが遅れれば、自分はその巨体によってミンチにされるであろう事も。

 石丸は黒部の動きを完全に読み、そこでカウンターを決める事で黒部を倒そうとする。

(狙いは頭だ…!)

 頭部から突っ込んでくる黒部の首を刎ねる…そのつもりで構える。

 そして黒部に一撃を加える事が出来る十分な距離に引付け、その首を刎ねようとした時、黒部の動きが一瞬止まる。

(止まりやがった!)

 完全にこちらに突っ込んでくるタイミングに合わせて剣を構えていたため、その剣が黒部の急所に届かないのが嫌でも理解出来た。

 だがそれでも、藤原石丸は間違いなく天才だった。

 泳いでしまった自分の体を必死で制御し、その剣先を黒部へと向ける。

 石丸の頭部を噛み砕こうと体を動かした黒部の体…その急所であろう心臓部に向かって石丸は剣を突き刺す。

 が、黒部もまた正しく化物であった。

 無茶な体勢であったにも関わらず、その心臓部を避けてあえてその剣を己の体で受け止める。

 石丸の剣はスムーズに黒部の体を貫くが、黒部はその程度では止まらない。

「黒…部!」

「石丸!」

 その視線が交わされたのは一瞬、だがその一瞬でも動けるのがこの二人の化物だ。

 石丸は剣を捻りその傷口を広げようとし、黒部はそのダメージに負けずその鋭い爪を石丸へと突き刺す。

 本来であれば人間の体など平気で貫ける黒部の爪は、何か硬い壁のようなものに阻まれるような感触があるが、それでも黒部は構わずにその爪を突き刺す。

 その爪は石丸の鎧を貫き、その傷は石丸の内臓にも達する。

 黒部と石丸は同時に呻いて吐血する。

 しかし二人の戦意は全く衰えない。

 石丸が握る剣に再び力が宿り、そのまま黒部の心臓を切裂こうと剣が少しずつ動く。

 一方の黒部の爪も石丸の傷口を広げていく。

(このままでは石丸が死ぬ!)

 その状況に北条早雲の顔が青くなるが、それでも彼は非常に冷静だった。

 石丸と黒部の一騎打ちと言っても、目の前の異人がそれを黙ってみているとは思っていなかった。

 だからこそ、部下と共に何時でも陰陽術を使える用意はしていた。

「石丸!」

 早雲が式神を放とうとしたとき、

「くたばれ! ラーンスあたたたたーーーーーっく!!!」

 突如として膨れ上がる気と共に、異人の声が響く。

 早雲は反射的に用意していた式神を防御に回す。

 もしこれが歴代最強の陰陽師である北条早雲で無ければ間に合わなかっただろう。

「くっ!」

 ランスの必殺の一撃を早雲のバリアで弾かれる。

 だが防げたのは早雲の周囲の者だけで、他の者はランスアタックの衝撃に飲み込まれてその体がバラバラになる。

 そして早雲は見る。

 恐ろしいほどの一撃を放った異人の横に、凄まじい魔力を溜めた女が居ることを。

 女はこちらに向かって笑ったかと思うと、

「雷神雷光!!」

 こちらに向かって強力な魔法を放つ。

 それは強烈な雷となって藤原軍を襲う…と思われたとき、その雷が見えない壁のようなもので弾かれる。

「!!」

 早雲が驚きで目を見開いたとき、自分の前に一人の人間の姿があることに気づく。

 その手には自分の親友である藤原石丸の姿がある。

「月餅殿…!」

 そこに居たのは、自分に陰陽術を教えるだけでなく、このJAPANの発展を施した男…月餅の姿があった。




戦闘LV3の戦闘に関しては完全にオリジナルとなっております
最初は空間に干渉できるみたいな感じでプロットを組んでいたのですが、
ハニーキングに出来ないと言われれば仕方ないです。
だから結構な変更点が出てきましたが、何とか修正しなければと頭を捻ります。
LP期よりも間違いなく過去の藤原軍や聖魔教団の方が人類は強いのだろうなぁと思います
無敵結界を何とかできれば魔王以外は何とかなったみたいだし
そう考えると第二次魔人戦争は本当に運が良かったと思います
魔王に関しては本当にどうしようも無いですけど
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