藤原領―――
そこは戦時中にも関わらず、賑やかな所であった。
人々が笑いながら買い物をし、食事所にも人が集まり談笑している。
(…どうやらもう勝った気でいるようですね。まあ間違ってもいないのですが)
綾は周囲を見渡しながら、懐かしい場所を歩いていく。
かつては自分も歩いた道ではあるが、何故かそれももう懐かしく感じてしまう。
(まだそれほど時間は経っていないというのに…時が経つのは早いですね)
自分がまくらを連れて妖怪王の元に向かってそんなに時間は経過していないが、思えばそれを感じさせない程の激動の時間を過ごしたと思う。
妖怪王黒部のまさかの帝レースの参戦、そしてその黒部と対等の関係の人間。
それがこのJAPANの覇権をかけて争っているというのだから、人生とは分からないものである。
(そしてその自分が北条の使者ではなく、妖怪王の使者として戻って来る…昔の自分に言っても信じないでしょうね)
綾―――北条綾は久しぶりの藤原石丸の城へと向かっていく。
自分が出奔してから何も変わっておらず、安心さえしてしまう。
そして一際大きな城を見て、気を引き締める。
そこには当然の如く門番が立っているが、綾は構わずに歩いていく。
「待て! ここは藤原家の城だ!」
「分かっています。これで宜しいですか?」
門番が自分の事を止めるのは当然分かっている。
だからこそ、自分は敢えて北条の家紋が入った短刀を見せる。
まくらを助けるために北条家を出奔し、北条とは縁を切ったつもりだった…が、親から貰ったこの家紋の入った短刀だけはどうしても捨てる事が出来なかった。
(今はその事に感謝ですね…)
「これは…北条家の家紋入りの短刀…」
「この短刀は北条家の縁の者のみ…あなたはもしや!?」
「はい…私は北条家の者です。北条早雲殿に会いに来ました」
「は、ははっ! 少々お待ちください!」
門番の一人が慌てた様子で場内に走っていく。
残された門番達は困惑しながら顔を見合わせている。
「おい…あれは間違いなく北条家の家紋だよな?」
「ああ…早雲殿も持っていたからな…」
北条早雲…彼は藤原石丸の親友にして、この藤原家を支える実質的なNo2とも言える存在だ。
その北条家の家紋が入った短刀を持つ者が現れる…これは相当な事が起こったのだろうと門番たちは内心冷や汗をかく。
待つ事数分、北条早雲が息を切らせながら走ってくる。
「早雲殿!」
「挨拶はいい。それよりも…本当に綾殿なのだな…」
そう言う北条早雲の顔には、喜びでも驚きでも無く、苦虫を噛み潰したような表情が浮かんでいる。
その様子に門番達は困惑するが、結局は北条早雲は女性を招き入れる。
女性は門番達に優雅に一礼すると、臆する事無く早雲の後について行く。
「…凄い美人だな」
「ああ…でも綾って名前は聞いた事が無いな…」
「それもそうだな」
あれ程の美女で、さらには北条早雲と縁が有る者ならば、名前くらいは聞いてもいいとは思った。
が、門番達も新兵のため、その名前には全く心当たりが無かった。
ただ一人、古参の門番を除いては。
「…これは荒れるかもしれないな」
「どういう事ですか?」
その老兵の言葉に新兵達が首を傾げる。
「北条綾…彼女は既に北条家を出た身だ。そして今は妖怪王に身を寄せていると聞いている」
「えっ!? 妖怪王に!?」
妖怪王の名前が出た事で、新兵達に動揺が広がる。
「落ち着け。もしかしたら戻ってきたのかもしれない。儂等が判断する事では無い」
「は、はい…」
老兵の言葉に新兵達は不安そうな顔をしながらも頷く。
だが、老兵自信、何かが起こるという予感を確実に感じ取っていた。
「この戦い…まだまだ終わりそうには無いな」
老兵の言葉は幸いにも誰にも聞かれなかった。
藤原の城の中を二つの足音が響く。
北条早雲にはその足音がやけに大きく感じられた。
今自分の後ろを歩いてるのは自分の親戚だというのに、早雲には冷や汗が流れる。
しかもその親戚―――北条綾は自分に何か言いたい事があるはずだと言うのに、何も言わないのが早雲には耐えられなかった。
「…綾殿、あなたがここに来たのは…黒部からの使者と考えていいのだろうか」
「その認識で構いませんよ。今の私は間違いなく、妖怪王黒部の下で働く人間ですから」
バッサリと斬り捨てるように言う綾に、早雲は沈痛な面持ちで顔を俯かせる。
彼女がこうなった理由を彼は当然の様に知っている。
知っていて、自分にはどうしようも出来なかった…その後悔が今になって自分に強く圧し掛かってくる。
「戻る事は…出来ないのだろうな」
「ええ。まだまくらは目覚めませんが、妖怪王…そしてランスさんが居れば必ず目が覚める。私はそう思っています」
「妖怪王…そしてランス、か」
ランスという名前はもう藤原家は皆が認識している。
妖怪王黒部の右腕とも言える人間であり、ある意味黒部軍を作り上げた人間だからだ。
「まくら殿はまだ目覚めないのか…尤もそれが良い事かどうかはわからないが…」
まくらという女性の事は当然早雲も知っている。
北条綾が名前も地位も全て捨て、妖怪王の元へ走ったのは彼女がいたからだ。
呪い付きとなったため、見捨てられてしまった少女。
早雲もどうにかしたかったが、その呪いは早雲をもってしてもどうしようもなかった。
そして何よりも…彼女が呪い付きとなってしまった事で、何よりも彼女は恐れられるようになった。
「まくらの呪いは必ず解かれます。黒部殿が帝になれれば」
「…それは石丸の所でも出来るんじゃないのか?」
早雲の言葉に綾は笑う。
その笑いは何時ものような明るい笑いでは無く、どこか影を感じさせる笑みだ。
「それまでにまくらを守れますか? あなたでも守る事は出来なかった。だから私は北条を捨てた」
「………」
綾の言葉に早雲は何も答える事は出来ない。
彼女の言う事は正しく、自分の力を持ってしても彼女の命を守るのは難しかった。
それは今の石丸でも同じだろう…彼女の持つ力はそれほどまでに恐ろしいものなのだ。
しばらく無言の時間が続き、早雲はある部屋の前で立ち止まる。
「ここに石丸が居る。俺が同席させて貰うが構わないな?」
「ええ、構いません」
綾の言葉を聞いて、早雲が襖を開ける。
一際大きく豪勢な部屋の奥には、一人の男が座っている。
この男こそ、黒部の最大の障壁にして、このJAPANの生んだ天才…藤原石丸だ。
(彼が藤原石丸…)
こうしてはっきりとした形で藤原石丸を見たのは実は初めてだった。
北条の出と言っても自分は分家の身であり、ましてや女だ。
女の地位は残念ながらまだ低い…自分も家に残っていれば、まず間違いなく藤原石丸の側室にと差し出されていただろう。
「よく来たな。いや、この場合はよく来れたなって言う方が正しいか?」
藤原石丸は何処か楽しそうに笑う。
綾は早雲に促され、藤原石丸の前に座る。
「まずは歓迎しよう。俺が藤原石丸だ」
「綾と申します。今は妖怪王黒部に仕えております」
綾が藤原石丸に一礼する。
(成程…聞くと見るとでは大違いですね)
何処か飄々としような、捉え所が無さそうな感じが少しランスに似ているような気がする。
しかし何よりも、その人としての覇気と言えば良いのだろうか…身に纏う空気はこれまで見てきた人間とは段違いだ。
それこそランスと同じ様な気を纏っている。
「まずはこちらを…」
綾が懐から筒を取り出す。
その動作に石丸の気配が変わったのを綾は理解する。
こんな動作一つにも石丸は決して油断をしていない…その辺はランスとは大違いだ。
「黒部殿よりの書状になります」
綾の言葉に石丸の目が見開く。
まさかの言葉に、流石の石丸も驚きを隠せなかった。
確かに黒部とは一度ゆっくりと話してみたかったが、それはこの戦いが終わってからになると思っていた。
それだけ激しい戦いを繰り広げているという事ではあるのだが、まさかその黒部から…妖怪から書状が届くとは考えてもいなかった。
「受け取りますよ」
「!!」
突如として自分の横から聞こえてきた言葉に、綾の体が震える。
(何時の間に!?)
確かに今は藤原石丸に神経を集中させていたとはいえ、まさか自分に気取られる事無く自分の側にいるなんて思ってもいなかった。
「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ」
自分から筒を受け取った女性が朗らかに笑う。
その笑みはまさに太陽のようで、綾は思わずその笑みに見惚れてしまった。
「巴殿、趣味が悪いですよ。それに彼女は今は妖怪王の使者ですよ」
早雲の言葉に巴は「失礼しました」と一礼すると、そのまま書状を石丸に渡す。
そしてその横から書状を覗き見ているのを見て、早雲はやはりため息をつく。
「………これ、るろんたやにょ~の絵?」
「違います。まあ確かに見辛いのは認めますが」
綾も黒部の書状を見てみたが、確かに同じ感想が浮かんだ。
平森盛やスラルが一日で仕込んだようだが、今思えば森盛が書いても良かったのかもしれないとも思う。
だが、全てはこれからの目的のため、黒部には苦労をしてもらったのだが…
「ごめんなさい。私にはちょっと読めない。辛うじて決戦とかは見えるんだけど…」
「言うな。俺も必死に解読しているんだ。あ、なんか少し楽しくなってきた」
石丸はどうやら解読に夢中になっているようで、食い入る様に黒部からの手紙を見ている。
そこで早雲がため息をつきながら、石丸の手にある手紙を取り上げる。
「おい、早雲!?」
「黙ってろ。えーと…うむ、確かに読みにくいが…まあ何とか読めるな」
早雲は黒部からの手紙が何とか理解できるようで、所々眉を顰めながらも何とか解読していく。
「…なんだと」
そして全てを読み終えたのか、早雲は顔色を変えて手紙を石丸に渡す。
「…何でお前が先に理解するんだよ」
石丸は早雲を睨むと、再び手紙に目を向ける。
その横から、巴も目を細めてその手紙を見る。
「確かに言われればそう読めるな…」
「…私は今でも分からない」
石丸はようやくその手紙の全容を掴む。
それはまさに驚くべき内容であり、そして石丸の心を昂らせる手紙だった。
「まさか妖怪王から決戦を挑まれるなんてな…」
要約すれば、黒部はこのまどろっこしい戦いをやめ、一気に決着をつけようと言って来ているのだ。
「はい…黒部殿は一気に決着をつけるつもりです」
「………面白ぇ」
綾の言葉に石丸はその顔に獰猛な笑みを浮かべる。
(…成程、ここはランス殿とは違う所ですね)
ランスと石丸にはある種の共通点がある。
それは並外れた強さと、底知れないカリスマのようなもの…しかし決定的な違いがある。
(もしこれを受けたのがランス殿なら…決してあのような笑みは浮かべない)
藤原石丸という人間を今になって理解出来たような気がする。
(藤原石丸は…戦うのが好きなのだな)
別に戦闘狂という訳では無いのだろうが、それでも彼には『強い者を倒す』という事に喜びを見出している感じがする。
そして妖怪王黒部、そして異人であるランスやレダすらも配下に欲しがる事から、ある程度の支配欲もあるのだろう。
勿論綾はそれが悪い事だとは思っていない。
人であれば当然の事でもあるし、人の上に立つ事を目指しているのならばそれもまた当然の事だ。
(そこがランス殿との決定的な違いか)
だが、自分達の上にいるランスは石丸とは違う。
ランスは戦いという行為に別に喜びを感じている訳では無いし、強い相手を倒すという事に特に関心が無いのだろう。
支配欲もあるのだろうが、それ以上にその欲望は女性に向いている。
何よりも…ランスがこの帝レースに黒部を焚き付けたのは、ランスと共にいるスラルの肉体を手に入れるためだ。
ランスにとってはこの帝レースすらも、自分の女を助けるための手段でしかないのだ。
(…ある意味分かり合えない存在なのかもしれません。ランス殿と石丸では向いている方向が全く違う)
もしランスという人間がもっと早くにこのJAPANに現れていれば…もっと大きな争いに発展していたのではないかと思ってしまう。
「いいぜ。受けたぜ」
綾が長々と考えていると、石丸が唐突に立ち上がる。
その顔には非常に楽しそうな笑みが浮かび、その体から楽しみでたまらないという空気が見て取れる。
「妖怪王が書状をくれたなら、俺も返さないとな。少し待っててくれ。おい、紙と筆を持ってこい!」
石丸が指示をすると、紙と筆を持った者が入ってくる。
石丸は直ぐに紙に文字を書くと、それを黒部と同じ様に筒に入れるとそれを綾に手渡す。
「黒部殿に伝えてくれ。決着をつけようぜってな」
「…分かりました。必ず黒部殿にお渡しいたします」
綾は書状を大事そうに受け取ると、石丸に一礼する。
そしてそのまま優雅に部屋を出ていく。
石丸、早雲、巴の三人だけになった所で、早雲が口を開く。
「いいのか。十中八九罠だぞ」
「そうね。起死回生の策があるのかもしれないけど…それでも乗るの?」
早雲と巴の言葉に石丸は本当に楽しそうに笑う。
「ああ。それでもだ。本当に罠なら、相手がこの状況でどんな罠を仕掛けたのかも気になるからな…それに、ここで俺の力を見せれば黒部も異人も勧誘しやすくなるかもしれないからな」
「まだ諦めて無いか…まあそう簡単に諦めるような奴じゃないが」
今でも妖怪王、そしてあの異人を自分の配下にしたいと思っているのだろう。
だからこそ、罠だと知っての上で尚妖怪王を打ち負かす必要がある。
「本当に嬉しそうね。そんなに気に入ってるの?」
巴の言葉に石丸は本当に嬉しそうに笑う。
「ああ。何しろ一人でも俺と互角…もしかしたらあっちの方が上じゃないかって思ってよ。そんな奴等が俺の部下になってくれればってな」
石丸の夢はこのJAPANの統一では無く、まだ見ぬ大陸の制圧…世界征服だ。
月餅から聞いた大陸の話もあるが、何よりも大陸から来た異人…あのランスという人間との出会いが石丸の夢を加速させた。
世界は広い…だからこそ、まだ見ぬ世界を見てみたい。
そしてそれを手に入れたい…それこそが藤原石丸の夢であり、野望なのだ。
「あなたがそこまで言うなんてね…私も興味が出て来たわね」
「もし異人がJAPANの大名なら…もしかしたら巴を政略結婚に出してたかもな」
「あら、それは凄いわね…あなたがそこまで相手を評価するなんて」
巴もまた嬉しそうに笑う。
彼女も石丸の強さを十分に分かっている。
こうして自分が姉のように振舞っているが、もし本気の戦いならば自分は彼の足元にも及ばないだろうとも。
「私も行こうかしら。これでも戦いには自信もあるし」
「それはちょっとやめて欲しいな…」
「同感だ。巴殿が来ると大変な事になりそうだ。いや、必ずなる」
「あら酷い」
石丸と早雲の言葉に巴は頬を膨らませる。
それを見て石丸も早雲も大きく笑う。
彼らは自分の勝利を疑っていない…今の状況は、最早将棋で言う王手をかけた状態なのだ。
あとは相手の王を取るだけ…それでこの帝レースは終わりのはずだった。
しかし彼らは思い知る事になる…今相手をしている男は、そんな簡単な相手では無いという事を。
その男は、王手をかけた状況を別の意味でひっくり返してくる男だという事を。
黒部軍陣地―――
「これが藤原石丸からの返事です」
「うむ、ご苦労」
綾から差し出された書状をランスは何時もの様に偉そうに受け取る。
受け取ってからあっさりとそれをレダに渡す。
「よし、読め」
「あんたね…まあいいけど」
レダは少しランスを睨むが、それでも素直にその書状を広げる。
「どれどれ」
スラルもランスの剣から体を出すと、その書状に目を通す。
スラルがその書状を読み上げ、その場にいる全員に聞かせる。
それが終わると、黒部は楽しそうな笑いを上げて立ち上がる。
「向こうが圧倒的有利だってーのに乗ってきやがった。気に入ったぜ」
相手が『勝つ』ためには最早こんな決戦はもう必要ない。
詰将棋の如く、じわじわとこちらを追い詰めていけばもう終わりなのだ。
そうなれば最早ランスでもどうする事も出来なかっただろう。
「最大の懸念がこれで払われたわね。まあ相手も罠を用意している可能性はあるけれど…まあこっちが相手の罠に嵌るなんてありえないしね」
スラルは不敵な笑みを浮かべる。
相手が罠を仕掛ける可能性も当然考えているが、そもそもこちらが相手の罠に嵌る可能性はほとんどない。
何故なら、こちらは既にもう罠を張っているのだ。
そして相手はその罠に片足を踏み込んだ。
ならば後は相手の足を掴んで、頭まで沈めるだけだ。
「そのためにあんな訓練をしてきたのよね。全く…こんな案を出すランスもランスなら、それを実践しようとする黒部も相当ね」
スラルの呆れたような声に黒部は豪快に笑う。
「どんな戦いにしろ負けるのは御免だからな。最後の最後に勝てるんならそれでいいさ」
黒部の笑い声に配下の妖怪達も笑う。
「で、森盛よ。準備は出来てるんだろうな」
「それは大丈夫モリよ。しかしこんな訓練は前代未聞モリよ…」
黒部の言葉に平森盛はため息をつく。
真っ当な軍師である平森盛には、ランスの言う作戦は前代未聞であったし、そのための訓練というのも非常に厄介だった。
何しろ普通に考えればそんな訓練は全く必要無いからだ。
「でも賽は投げられた…後は実行するしかありません」
綾の言葉に誰もが頷く。
どんな事をしようが、どんな事を考えようが、最早勝つためにはこれしか方法は無いのだ。
誰もがもうどうしていいか分からない…そんな状況にも関わらず、この男だけは笑っていた。
「フン、俺様の策に失敗は無い。だからお前達もしっかり働けよ」
ランスだけはこの状況をまるで楽しんでいるかのように笑う。
この男は何時でもそうなのだ。
例えどんな危機的状況であろうとも、ランスは変わらない。
かつてのパットン・ヘルマンがヘルマンの未来をランスに賭けた時と同じように、その顔は大胆不敵だ。
ランスの不敵な笑みを見ていると、黒部は不思議とランスならばやってくれるという気持ちにさせられる。
その時、一体の妖怪が会議の場所に入ってくる。
「うわっ!」
その妖怪を見て与一は思わず声を上げる。
妖怪はもう見慣れたと思っていたが、こうも急に入ってこられると流石に心臓に悪い。
ましてやその妖怪は、巨大なクモの妖怪だからだ。
「おう、牛鬼。どうした?」
「ランス殿に頼まれた物が出来た。これでいいのか」
そのクモそのものの顔からは何の表情も窺う事は出来ない。
「えーと、これね」
レダがクモの妖怪の腹部に乗せられていた一本のロープを受け取る。
その他にも、入れ物に入った白い妙な物体もある。
「おう、出来たか」
ランスはレダからロープを受け取ると、その感触を確かめるようにして握る。
「うむ…少々硬いような気もするが、まあ大丈夫だろう。と、いう訳でとーーーっ!!」
「えっ?」
ランスはロープの一部を結び、そのままロープを投げる。
投げられたロープはそこに立っていた綾の体を通ると、不思議とそのままロープが綾の体に絡みつく。
「あの…ランスさん?」
「がはははは! 綾を捕獲じゃー!」
「えーと…その…あれ?」
綾はロープから逃れようとするが、そのロープは意外な程の力を持っており、綾の力を持ってしても解く事が出来ない。
「うむ、十分な強度を持っているではないか。まったく…これくらいを用意するのにも一苦労だな」
ランスは動けない綾を見て満足そうに笑う。
「これがランスが欲しがってたってやつか」
黒部も興味深そうにランスの手にあるロープを見る。
それはランスが黒部に作らせた、相手を捕獲するためのロープだ。
捕獲ロープ…それはLP期には普通に道具屋に売られており、ランスも何度も使ったものだ。
その捕獲ロープとは若干違うが、それでも似たような物は完成したようだ。
「うーん…便利なものね」
スラルも興味深そうにロープを見る。
勿論ランスがどのような物を望んでいたかは知っているが、こうしてそのアイテムを見ると成程と感心させられる。
何しろ魔王の時はこんなまどろっこしい事をするまでも無く、力で相手を捩じ伏せれば良かったのだから、このような発想がスラルには無かった。
「妖怪の糸を練り込んだ特性のロープだぜ」
黒部もその結果には非常に満足そうだ。
「他にも色々と作らせてたみたいだけどよ…これは何だ?」
ランスに頼まれていたのは、この特性のロープだけでなく、容器に入った白い粘液のような物もそうだ。
黒部にはこれをどのように使うか、正直想像もつかなかった。
「がはははは! それは使った時のお楽しみだ! これでようやく連中をぶっ潰せるな」
ランスは手にしたロープを片手に何時もの様に笑い続けた。
「………ところでこのロープはどうやって外すんですか?」
「…あ」
結局、このロープは使い捨てとという事で結論がついたのだが、スラルはそれを非常に残念がっていた。
展開が進まなくて少し巻きが入りました…実際このシーン必要か? とも思います
もう少しでこの話が終わるかもしれないけど、オリキャラの簡単なプロフィールを
平森盛
LV 31
才能限界 35
技能 軍師LV1 政治LV1 書道LV1
目標 石丸を倒して兄の敵を討つ
藤原巴
LV 56
才能限界 68
技能 柔術LV2 槍戦闘LV1 冒険LV1 家事LV1
目標 自分の知らないことを知る事