エロのために全力をかけるのがランスです
「がはははは!」
「わはははは!」
薄暗い空間に二人の笑い声が響く。
(うう…どうしてこんな事に…)
エンジェルナイトのレダは、今の状況に生きた心地がしなかった。
ランスと獣の悪魔は互いに馬鹿笑いをしながら酒を酌み交わしていた。
「いやー人間も色々と苦労してるんだな!」
「ふん、俺様にとってはこの程度苦労になどならんわ」
獣の悪魔がランスの肩をバンバンと叩き、上機嫌に酒を飲んでいる。
取り巻きの女性悪魔はランスと獣の悪魔だけでなく、レダ達にも酒を注いでいる。
「どうぞー」
「あ、ありがと…」
レダは複雑な表情で酒を受け取る。
エンジェルナイトと悪魔は不倶戴天の敵であり、断じて酒を酌み交わすような相手ではない。
相手ではないが…
(ちょっと状況が悪すぎでしょ…)
エンジェルナイトのレダには嫌でも分かってしまう。
今ランスと酒を酌み交わしている悪魔は明らかに自分達よりも上…いや、恐らくはあのオウゴンダマの魔人どころか魔王すらも上回る存在。
そんな悪魔が何故か一介の人間と親しく酒を飲んでいる状況に混乱する。
「いやーでも人間もやっぱりエロが好きなんだなあ」
「男でエロい事が嫌いな奴などおらんだろ。いるとすれば不能かホモだ」
ランスと獣の悪魔は割と好き勝手な事を言いながら酒を飲む。
「大体エロに神も悪魔も人間も無いだろう」
「そうだそうだ! エロは世界の共通言語だ!」
(こいつらは…)
人間と悪魔がエロで意気投合するなど、天使の常識としては考えられない。
大体悪魔というのは、創造神の魂を掠め取り創造神に成り代わろうする連中だ。
ただ、その割には消極的であり目立たないように行動する。
レダとて何体もの悪魔を倒してきたし、第1階級魔神ネプラカスが管理する悪魔回廊を監視してきた。
悪魔は魂の輪廻を邪魔しする創造神の敵であり、人間を堕落させる存在…それがレダの認識だった。
(なのに…)
この獣の悪魔はひたすらランスとエロトークをしている。
人間を決して見下す事無く、どちらかというと非常に大らかな雰囲気だ。
「さて…」
ギラリ、と悪魔の眼が光る。
その眼を見てレダだけでなく、ケッセルリンク達カラーも身震いする。
それほどの恐ろしくも鋭い眼光…まさに獣と悪魔が融合した眼。
「お前は今までどんなエロい苦労をしてきた」
獣の悪魔の言葉にレダ達はずっこける。
「俺にはわかる。お前は絶対エロい事で苦労をしてきた男だ」
「…分かるのか」
「ああ…俺とて同じ…俺も今猛烈に悩んでいるのだ」
あんまりと言えばあんまりの言葉にレダは絶句する。
しかしランスはその言葉に共感を覚えたらしい。
「まあ俺様も色々な女とHしてきた…悪魔ともやったし天使ともやったし魔人ともやったし魔王ともやった」
「おお…」
ランスの言葉に獣の悪魔は感嘆の声をだす。
「だが…俺様の自信もある言葉で砕かれた…」
「お前ほどの人間の自信が砕けるだと…」
(いや、何でアンタもそんなに驚愕してるのよ…)
ランスの言葉は何時もに比べると非常に重い。
(そしてアンタもアンタで何でそんな事でシリアス気味になってるのよ…)
「俺様はデリカシーもムードも無いと」
((((あー…))))
この言葉にはレダとカラーの3人も内心頷く。
この男にそれを期待するのは些か難しいだろう。
「な、なんと…」
獣の悪魔は本気で驚愕し、慄いている。
「そんなに上手じゃないだの…」
「うぐ…」
「入れて、早く動かすだけというのはテクニックではないだの…」
「ぬぐぅ…」
「まあ色々といわれた」
「お前にそんな過去が」
(なんか何時の間にか友達っぽくなってるし…内容は最低なのに)
獣の悪魔は本気で悩み、女性型の悪魔も何故か頷いている。
(でもランスって…その…最初はアレだったけど今は凄いと思うんだけど…)
レダはランスとの逢瀬を思い出し一人頬を紅く染める。
「後は俺様のハイパー兵器がでかすぎるからもっと小さいほうが丁度いいとか言われたり…」
「ああ…それはどうしようもないな」
獣の悪魔がランスを慰めるように肩を叩く。
「まあ俺様も散々言われた…」
「分かる…分かるぞ…」
女性型悪魔が無言で獣の悪魔から目を逸らす。
どうやらそういう事らしい。
「さらに俺様には試練が降りかかったのだ」
「まだあるのか!?」
((((まだあるのか(んだ)…))))
獣の悪魔とレダ達の心の声が一致する。
「LV35以上の相手としかセックスできず、しばらくヤらないとホモになる上に、ヤった相手のレベルが1になる呪いをかけられた」
「な、なんという恐ろしい呪いだ…」
ランスの言葉に獣の悪魔は本気で冷や汗を流し、取り巻きの女性悪魔もざわざわと騒ぎ出す。
「それで…お前はどうしたのだ?」
「無論探した。俺様ほどになればLV35の女は沢山いたが、1発しか出来ないという事実が俺様に襲い掛かった…」
「なん…だと…」
1発しか出来ないという言葉に獣の悪魔は本日何度目かの戦慄を味わう。
条件が厳しい上に、しかも1発しか出来ない…それもしばらくするとホモになる…それは正に地獄の苦しみだ。
「お前…凄い苦労をしたのだな…」
「フン!」
が、ここでランスの雰囲気が一変する。
今までの重苦しい空気から、普段のランスの態度へと変わっていく。
「だがしかーし! その苦労をしたからこそ俺様は大人になった!」
(ランスさんが大人…?)
(どうみても大きな子供にしかみえませんねー)
(むしろ大人になってこうなのか…)
(大人の定義ってなんだっけ…)
「俺様も一人一人じっくりと女を可愛がるまでに成長したのだ!」
「「「おおーーーー!」」」
獣の悪魔と女性悪魔達が一斉に拍手をする。
ランスは腰に手を当てて何時ものバカ笑いを上げる。
「凄いなお前。普通ならホモになって終わってるぞ。ちなみに俺がホモになったら間違いなく自殺するな」
「俺様も自殺を考えた…だが俺様は最後まで諦めなかった。だから今の俺様があるのだ」
「で、それからはどんな性生活を?」
獣の悪魔が興味深げに聞いてくる。
「…聞きたいのか?」
「是非」
ランスはここで悩む―――素振りを見せる。
悪魔達に背を向けた形になるが、レダ達はランスのその悪い笑顔を見てしまった。
ランスは再び振り返ると、その顔は苦悶に溢れていた…もちろん外面だけ。
「俺様も話してやっても構わんが…しかし相手のいる事だからなぁ…」
「む…」
ランスの言葉に獣の悪魔は言葉に詰まる。
「確かに悪魔ならともかく、人間ならば嫌がるか…」
(あんたもそこで納得するのか…)
レダは今日何度目かの突込みを心の中で入れる。
「しかーし! 俺様も寛大だ。どーしても言うのならば構わんぞ」
「ほ、本当か!?」
「だがタダと言うのはな…俺様も自分の女の話をするのは少し躊躇うがな…」
「なんと…」
獣の悪魔はその大きな手で頭を抱える。
「ちょっと! ちょっとランス!」
「ん? なんだ」
レダとケッセルリンクは悩んでいる悪魔を前に、ランスに手招きする。
「どういうつもりよ。相手は悪魔よ」
「ランス…危険すぎるのではないか」
「そんな事分かっているわ」
三人は小声でヒソヒソと話す。
レダはここで悪魔を見るが、未だに悩んでいるようだ。
「悪魔と取引なんて危険よ。私はアンタを悪魔から守るために来ているのよ」
「それにお前に何かあっては今までの苦労が水の泡だ。カラーの未来も危うくなる」
「…そういやそんな事を言っていたな。だが大丈夫だ。ケッセルリンクもだ」
ランスはそういってニヤリと笑った後で、好色な笑みを浮かべる。
(そうだ。そう言えばレダは俺様を悪魔から守るという事で来たんだったな)
そこでランスは一つ閃く。
それは自分の目的を果たすとともに、自分の欲望を満たすまさに一石二鳥の閃き。
「レダ、ケッセルリンク。お前達は俺様の事が心配なのだろう?」
「私は任務なの任務。アンタが悪魔と契約したなんて事になったら、任務失敗どころの騒ぎじゃ無いのよ」
「…今はお前が頼りだと言わざるを得ないからな。それに…」
ケッセルリンクはあの時の事を思い出す。
自分がヴェロキラプトルに一撃を受けた時のランスの言葉と顔を。
(まあ私も女だ…という事なのかもしれないな)
「まあとにかく俺様に任せろ。多分お前達の協力が必要になると思うしな」
レダとケッセルリンクはお互いに顔を見合わせる。
ランスのいう協力、というのが何を意味するのか分からない…というのもあるが、何よりこの男の考えている事はある意味計り知れない。
もしかしたらとんでもない事に巻き込まれてしまうかもしれないという不安、そしてこの男がどうやって切り抜けるのかという期待。
それらが合わさり、どうしても複雑な思いにとらわれてしまう。
ランスは獣の悪魔の方を向くと、
「がはははは! どーした!?」
「うぐぐぐぐぐぐ…聞きたいが悪魔としてそれはどうなのかとも思うし…」
獣の悪魔は揺れていた。
ランスはまるで悪魔のような笑みを浮かべて獣の悪魔に耳打ちする。
「ちなみにあの4人の中だとどれがタイプだ?」
獣の悪魔はランスと共にいた4人を見る。
金色の髪をした、まさにこの世のものとは思えぬ美女…スタイルもかなりのものだ。
カラーには珍しいショートヘアで、これもまたスタイルも抜群…そして何よりもあの目が良い。
後はなんか非常に五月蠅そうなのと、目が前髪で隠れたよくわからないの。
「あの金髪と、ショートヘアのだな」
(ぐふふ…予想通りだ)
この獣の悪魔と酒を飲んでいたのは何れも結構なスタイルの持ち主の女性悪魔だ。
明らかな人外の姿をしたのもいるが、やはり人型に近いのがほとんどだ。
そしてランスは悪魔の囁きをさらに続ける。
「もし俺様があの二人との行為を見せてやるといったらどうする?」
「な、なんだと…!?」
それは正に悪魔の言葉…いや、自分達は正真正銘の悪魔だが、この男の言葉はその悪魔すらも魅了する恐ろしい言葉だった。
「何が望みだ…」
「話が早いな。俺様はここに剣を探しに来た。悪魔のお前なら何か用意できるだろう?」
「剣…か。それは俺ではなく弟の担当なのだが…」
獣の悪魔は葛藤する。
弟は数多の武器の収集を趣味としており、契約によってその武器を貸し出したりもしている。
だが契約に厳しく、守らなければ即切り殺すという苛烈な一面を持っている。
「…よし、頼んでみるか」
獣の悪魔は即悪魔界に戻って行った。
「ランス、アンタ何言ったの?」
「あーそれなんだがな」
ランスは神妙な顔をして皆を集める。
「もしかしたら今回の目的を果たせるかもしれんぞ」
「何…では剣が見つかるというのか?」
「本当ですか!?」
「いやーランスさんって転んでもタダでは起きませんねー」
「だがな…」
ランスはここで苦渋の表情をする―――勿論演技なのだが。
「レダとケッセルリンクがセックスしてるところを見たいんだと」
ランスの立てた計画、それは悪魔との取引を利用しレダとケッセルリンクとHをする事だった。
あの悪魔がレダとケッセルリンクを見ていたのはランスも理解できた。
そしてエロい事が大好きだというランスと似たような性格。
さらには最近エロい事で少し悩んでいたという状況。
何よりもエロい事に全てをかけているというランスという男との出会い。
その全てがランスにこの計画を立てさせたのだ。
「………本当か?」
ケッセルリンクの眼が鋭くランスを射抜く、
まだ短い付き合いだが、彼女はランスとはどのような人間なのかをある程度理解はしていた。
その本質はまだ見抜けないが、分かっているのは無類の女好きである事と―――そして自分を抱きたいという確固たる意志。
「ランスさん! それは駄目ですよ!」
「アナウサ…」
「だってケッセルリンク様は…」
アナウサの目には涙が溜まり、その顔は紅潮している。
ただしその吐息は非常に酒臭い。
「もう100年ものの処女なんですから!」
「……は?」
「見てわかりませんか!? ケッセルリンク様と言えばカラーの中でもキング・オブ・処女!」
「ちょっと待てアナウサ」
「カラーではレズは禁忌ですが、そのカラーすらも惑わすカラーの中のお姉さま! でもぶっちゃけ処女!」
「アナウサ、お前いいかげんに…」
「そのケッセルリンク様に悪魔を満足させるHが出来るわけないじゃないですか! だって処女ですよ処女!」
「アナウサちゃん凄い酔ってる…」
アナウサは言いたいことを言うと、その手に残っている酒を一気に飲み干す。
「ほら! ケッセルリンク様のクリスタルはこんなに赤い! まさに処女の純潔…あだっ!」
「お前いい加減にしろ」
ケッセルリンクがアナウサの頭を叩く。
「何するんですかケッセルリンク様!」
「それは私の言葉だ。お前こそ何を言っているんだ」
「私は事実をですね」
「事実だから良いという話ではないだろう」
「まあとにかくだ! ケッセルリンク、大丈夫か?」
ランスはすまなそうに言うが、やはり口元には笑みが浮かんでいる。
それを見てケッセルリンクはこの日一番のため息をつく。
「ランス。本当に必要なのか?」
ケッセルリンクの眼差しは力強い。
嘘ならば許さないという強い意志を感じられる。
だからこそランスも、
「奴が必要というなら必要なんだろう」
力強く答える。
まるで後ろめたい事など無いという態度に、ケッセルリンクは取りあえず納得はした。
もしここにランスとの付き合いが長いシィル、かなみ、マリア、志津香が居れば止められただろう。
だが今彼女たちは存在しない…よってランスを止める事の出来る人間は一人もいない。
「まあ私も別に後生大事に処女を守っている訳では無い。私の処女一つでカラーの未来が開けるなら安いものだろう」
ケッセルリンクは普段と変わらぬ様子で話す。
彼女にとっては処女等別に気にするものでも無いのだろう。
「ねぇランスさんランスさん」
メカクレがランスの袖を引っ張る。
「あん? なんだ?」
「あれ…嘘ですよねー」
メカクレが他の二人に聞こえないように耳打ちする。
「…そんな事は無いぞ」
「いや、分かりますよー。でも別にランスさんを責めるつもりはないですからー」
「どういうことだ?」
メカクレは優雅に酒を飲んでいるケッセルリンクを見る。
「ケッセルリンク様…昔から私達を守ってくれてたんですよー。だからそろそろ一人のカラーとして生きるのもいいんじゃないかと思いましてー」
「あん?」
「それにケッセルリンク様の子供とかも見てみたいですしねー。ランスさんとならきっと凄い強いカラーが生まれますよー」
「お前…どういうつもりだ?」
メカクレは真剣な表情でランスの目を覗き込む。
「ランスさん…カラーの事を変な意味で知っているから」
「どういう事だ?」
「ランスさんが知ってるカラーと、今のカラーが一致しない…ランスさんそう思ってるでしょ?」
「むぅ…」
ランスは言葉に詰まる。
それはランスが常々思ってきた事…すなわちカラーという種族が自分の記憶と一致しない事。
ランスの知っているカラーは人間に対しては容赦が無かった。
パステル・カラーには酷い目にあわされたり(自業自得なのだが)、そのカラーの呪いの強さを身をもって体験している。
何よりも人間に対して非常に排他的であり、殺意も存在する。
が、ここではそんな事は無い。
人間だからといって命を狙われる事も無ければ、呪いをかけられる事も無い。
「だからー、ランスさんもあんまり遠慮する必要は無いんですー。むしろもっとガツーンと」
「…お前、変なカラーだな」
「そうですかねー。まあ私もそろそろですから」
「あん? 何だそろそろって」
「それは内緒ですー。まあ何が言いたいかというと、ケッセルリンク様をお願いしますという事です」
「お前がお願いするのか…」
メカクレはそこで微笑む。
「私、こう見えても誰よりも年上なんですよー。ケッセルリンク様も知らないですけどねー」
「なんと…」
ランスはメカクレの言葉に大いに驚く。
てっきりケッセルリンクが一番年上だと思っていたのだ。
「でもこれ内緒にしてくださいね。変に気を使わせるのも嫌ですから」
「別にそんな事誰にも言わんわ」
(…本当に御願いしますね、ランスさん)
メカクレは自分の過去を思い出す。
自分はあの森で生まれたカラーではない。
こことは違う場所…そこで生まれたカラーであり、今の森にいるのは黒髪のカラーのおかげだ。
魔人に襲われ、自分の住んでいた村は壊滅した。
そこを黒髪のカラーが助けてくれ、今の村に流れ着いた。
あの黒髪のカラーは、世界に散らばっているカラーを探しているようだが、大丈夫なのかと心配になる。
それからは苦労の連続だった…ケッセルリンクが生まれるまでは。
ケッセルリンクがカラーの先頭に立つようになって、ようやくカラーは安心して暮らせるようになった。
だが、ケッセルリンクすら及ばぬムシが現れたと思ったら、今度はモンスターまでもが現れた。
もう駄目かもしれない…そう思った時に現れたのがこの男だ。
不思議な人間だった。
あのような経験値は見た事も無いが、それでもその強さは本物だ。
何よりムシだけではなく、魔人とも戦おうとしているその意思の力…それこそが自分が無くしてしまった希望だ。
(あとどれくらいかは分からないけど…きちんと見届けませんとねー)
自分にはもう時間があまりない…黒髪のカラーに助けてもらった時に言われたことだ。
だからこそ自分はこれからのカラーの行く末を見てみたいと思った。
(お願いです…もう少しもってくださいね)
「あ、戻ってきた」
アナウサの言葉通り獣の悪魔が戻ってくる。
が、その獣の悪魔は何故か頭部に巨大なタンコブを作って戻ってきた。
「あー…その…すまん。弟に断られた」
その言葉にランス一行の冷めた視線が獣の悪魔を射抜く。
「うっ…」
その視線に怯み獣の悪魔はランス達に背を向ける。
「何だ、お前のエロへの執念はその程度のものだったのか」
「グッ…」
「あーがっかりだな。どれだけの悪魔かと思ったが、この程度も出来んのか」
「ウググ…」
ランスの言葉に獣の悪魔は言葉に詰まる。
「その、な。違うのよ。弟が言うには『契約するなら自分でやれ』と真っ当な事いわれてな?」
「言い訳かっこ悪いぞー」
「それこそ代用品を用意できないあなたに問題があると思いますよー」
アナウサとメカクレの野次に獣の悪魔は小さくなる。
(うぐぐ…こうまで言われては流石の俺も引っ込みがつかない…ああでもやっぱり見てもみたいし…あ!)
そこで悪魔は思い出す。
それは自分がここで手に入れた一品…珍しい武具を集めるのが趣味の弟も『見つけた者が持つべきだ』と言わせた一品。
父にも見せたが、これこそ『神への一撃になるかもしれない』と言わせた品物。
兄からも『お前が見つけたからにはお前が管理しろ』と言われ、自分が所持していたもの。
(だが…なあ…)
流石にこれを出すのは抵抗がある…もしかしたらこれが父の切り札になるかもしれないからだ。
(いや、待てよ…)
そこで弟の事を思い出す。
(そうだ! 弟はそういえば気に入った奴にその武器を『そいつが死ぬまで』という期間で貸していたはずだ!)
獣の悪魔はうんうんと一人頷く。
(俺もそれに倣えばいいんだ。相手は人間、どうせ後80年もすれば死ぬだろうし、問題は無い!)
「いや、待て! あった! 俺にもお前に渡せる武器があった!」
「あん?」
突然自信を回復させ、腰に手を当てて笑い出す悪魔をランス達は奇妙な表情で見る。
「それをお前が死ぬまで貸してやってもいい! それでどうだ!?」
「…他に何かとんでもない条件はつけないでしょうね」
レダは完全に不審の目で悪魔を見る。
エンジェルナイトの彼女からすれば、悪魔の約束など宛にはならないものだ。
「大丈夫だ! 俺も約束は守る!」
「で、それはどんな武器なんだ」
ランスの言葉に今度は獣の悪魔が笑みを浮かべる。
「何とそれは剣だ! いやー偶然ってあるもんだなー。まさか俺の希望とお前の希望がぴったり合うとは!」
「じゃあ見せてみろ」
「ふっふっふ…しかと見てみろ!」
獣の悪魔が異空間から取り出したのは、一本の剣だった。
柄から刀身まで黒い剣…ランスが持つ魔剣カオスよりもより深い黒を纏った剣。
だが、その柄の部分には丸い何かが埋め込まれており、そこには『QD』と刻まれているのが特徴だった。
「どうだ! 何でもこれは異世界のドラゴンの剣…らしい」
「らしいとは何だらしいとは」
「いや…何というか全貌が不明でな…俺も剣を使わないからわからないんだよ…」
「そんなものを押し付ける気か…」
「だが切れ味は確かだぞ。弟のお墨付きだ。さっきも言ったが、この剣をお前が死ぬまで貸してやろう」
「いいだろう」
それに答えたのはランスではなく、ケッセルリンクだった。
「おいケッセルリンク」
「私は構わない。それでカラーの未来が開けるのであれば安いものだ」
ケッセルリンクの言葉にランスは神妙な表情を浮かべるが、その下にあるのはいつもの高笑い。
(ぐふふ…俺様の一石二鳥作戦、見事に成功したな。これもあの少女のおかげだな。今度会った時は俺様が口説いてやろう)
ランスは廃棄迷宮の情報をくれた少女に感謝する。
「じゃあ始めるか」
ランスの言葉にケッセルリンクは頷いた。
1話で済ますつもりが思いがけずに2話になってしまいました。
獣の悪魔は固有名詞こそ出してないけど丸分かりですよね
ただ一番下の弟よりもやっぱ真ん中のエロ担当こそがランスに相応しいと思いました
困った時の「QD」印ですが、本編をやった事は分かるかもしれませんが、彼女は色々な物を割りと適当にその辺の異世界にばら撒いています。
神だの魔王だのを相手するには人間だと不可能だと思いました
あまり頼りすぎるのもなんですので、「QD」印はこれで最後にします
次回はただのバカエロ話(露骨な描写は無いよ!)
だから話は実は進んでいないんだよなぁ…