妖怪王と藤原石丸の戦い―――それは激しく続いていた。
妖怪の怒号と人間の叫びがぶつかり合い、大量の血が地を染め上げていた。
そんな中、一人の人間が非常に楽しそうに声を上げる。
「ははははは! 流石は早雲が期待するだけあるわね!」
「くっ…」
放たれる刃を綾が必死で刀で弾く。
非常に楽しそうに笑う女性―――藤原巴の薙刀が凄い速さと力で綾を襲う。
綾とて自分の強さに自信が無い訳では無いが、目の前の女性はその自分を凌駕していると言ってもいい。
それでも綾が崩れないのは、彼女にも決して譲れないものがあるからだ。
「あなたが北条を捨てた理由も聞いてるけど…妖怪王黒部に活路を見出したの?」
「ええ…妖怪王黒部と、その友に」
「石丸よりも?」
「…はい。あの人食いの妖怪黒部を変えたあの人に」
綾は何よりもランスに期待している。
あの黒部と対等であるだけでなく、何よりもあの底の知れなさが魅力的に見えている。
ランスが妖怪王黒部の戦力を上げるべく、呪い付きを解除するように黒部に言ったのは知っている。
ランスからすれば戦力を整えるための手段でしか無かったのかもしれないが、それでも間違いなく呪いに苦しむ者を救っている。
それだけでなく、ランスの持つ人を惹きつける力や、その意志の力も尊敬に値する。
だからこそ、自分は黒部に…そしてランスに賭ける気になったのだ。
例え藤原石丸がどれ程の英雄であったとしても。
「だったら尚の事その異人に会いたくなったわ」
「ならばせめて私を倒して欲しいものです」
そう言う綾の表情は硬い。
こうして対峙しているだけでも足が竦み、体が硬くなる。
相手は自分よりも遥かに格上だが、それでも退く訳にはいかないのだ。
「行きます!」
「来なさい」
綾は何とか巴の懐に入ろうとするが、彼女の持つ薙刀がそれを許さない。
リーチは相手の方が上で、中々踏み込む事が出来ない。
「くっ!」
「中々…だけどまだまだね」
巴は薙刀を自在に操り、綾を寄せ付けない。
近づく事すらままならず、綾の着ている鎧には次々に傷がついていく。
特に上質な鎧という訳では無いが、それでも鎧に容易く傷をつけて行く事に相手の技量の高さ、そして相手の持つ薙刀の上質さが分かる。
自分の持つ刀も決して悪い訳では無いが、最上質という訳でも無い。
業物の類は既に藤原に流れててしまった後だった。
だがそれでも、負ける訳には絶対にいかないのだ。
(こういう時…あの人ならあっさりと突っ込めるのでしょうね)
もしランスなら…彼ならどうするのかを考えてしまう。
忘れはしない、あれはランスと初めて模擬戦をした時だ。
「という訳でやらせろ、綾ちゃん」
「何がどういう訳でしょうか」
こうしてランスがストレートに自分とやらせろというのは別に珍しい事では無い。
中には素直にランスに抱かれる女性もいるが、綾はというと流石にそこまでは考えていなかった。
確かに良い人…とは言えないが、特別悪い人という訳では無い。
欲望に正直すぎる…いや、まるで子供がそのまま大きくなったような人だと感じられる。
「うーむ…中々綾ちゃんは素直になれんな。本心では俺様に抱かれたがっているはずなのに」
ランスは本気で首を傾げる。
勿論ランスは本気で言っており、この世界の全ての女性は自分に抱かれることが最高の幸せだと信じて疑っていないのだ。
「申し訳ありません。まくらの事があるまでは…」
別にランスの事が嫌いなわけでは無い。
確かに我儘で短気で子供っぽい所もあるし、他にも色々な欠点も数多い。
だがそれでも、それを補って余りある強さ、そして人を惹きつける力を持っているのも事実だ。
(まあ一部からは非常に嫌われているのも事実ですが…)
「だったらどこまでだったら許す?」
「どこまでも何も…私はそういう気にはなれなくて」
「ふーん…堅物だな、綾は。まあそれはそれで悪くないとは思うが」
「…ありがとうございます」
ランスと居ると、悩んでいる自分が馬鹿馬鹿しく思う事もある。
それもまた、この男の魅力ではないのかとも感じている。
「…ランス殿、一度手合わせを願えませんか?」
「あん?」
「一度ランス殿の剣の腕を味わってみたいのです」
「うーむ」
ランスが悩むのはやはり面倒臭いという思いだ。
ランスは己を鍛えるという行為を殆どした事が無い。
言い方は悪いが、どんな時でも行き当たりばったりで物事を解決してきたのだ。
だから、自分に勝負を挑まれるという行為もランスにとっては面倒事でしかないのだ。
だがまあそれも男に限って言えばの話だ。
「がはははは! だったら俺様の強さを教えてやろう! その変わり…やるのは無理そうだから、おっぱいを揉ませろ」
「む、胸を!?」
「うむ、揉ませてくれたらいくらでも俺様の剣を味あわせてやろう」
「…本当にあなたと言う人は」
綾はランスの言葉に呆れると共に、納得もしてしまう。
ランスならばこれくらいの事は平気で言うだろうとも。
「わかりました。ただしランス殿も約束は守ってくださいよ」
「オーケオーケ。いくらでも守ってやる」
そして皆が何時も訓練をしている場所―――そこには妖怪王黒部を始めとした、主なメンバーがランスと綾の戦いの始まりを楽しみにしていた。
「なんでこんなにおるのだ」
「あんたが模擬戦だなんて珍しいからじゃない?」
レダもまた少し楽しそうにランスを見る。
「そうですね…私もランスさんが戦い以外で剣を振るうのは初めて見るかもしれません」
エルシールもランスと旅をして結構時間が経っているが、ランスが戦闘以外で剣を振るうのは非常に稀だ。
モンスターとの戦いはランスと共に何度か経験しているが、エルシールはランスが鍛錬をしているのを見た事が無かった。
「暇人共め…まあいい。俺様の華麗な剣捌きでも見ていろ」
そう言ってランスが腰の剣を抜こうとした時、
「ちょっと待ったランス。この剣を使うのは駄目よ」
スラルがランスの剣から出てきて、ランスを止める。
「何でだ」
「何でも何も…この剣を使ったら模擬戦にならないでしょ。この剣は強すぎるんだから」
ランスが悪魔との取引にて手に入れたこの剣は強すぎるため、模擬戦には全く向いていない。
何しろドラゴンの鱗を切り裂き、魔人にすら傷をつける事が出来るのだ。
「そいつはその通りだな。ランス、これを使えよ。得物は同じ方がいいだろ」
そう言って黒部がランスに渡したのは、一本の刀だ。
「む…」
それは何の力も無い、ただの一般的な刀だ。
ランスはその刀を抜いて少し素振りをするが、
「使いにくい」
「ランスも少しは別の剣に慣れればいいんじゃない? 何時でもこの剣を使えるとは限らない訳だし」
「うーむ」
ランスもスラルの言う事が分からない訳では無い。
ゼスでのカミーラ達、魔軍との戦いからランスはカオスを使っていたし、JAPANでもカオスを使っていた。
気に入らないが、カオスは魔人を倒せるだけでなく武器としても凄まじい威力を持っている。
JAPANでの戦いが終わってから、あの煩いカオスを使わない時期もあったが、結局はカオスで戦い続けてきた。
しかし今はそのカオスが手元には無い。
この世界に来てから(ランスの認識ではここは異世界なのだ)、一時期は剣に苦労したことがあった。
何しろ、普通の剣ではランスの技術に耐えきれないのだ。
ランスの持つ剣は、ランスが望めば手元に戻っては来るが、実際にカオスが今手元に無いのと同じように、この剣が手から離れる可能性はあるのだ。
「それに…私もランスが刀で何処まで戦えるか見てみたいし」
スラルが期待に満ちた目でランスを見る。
「む…」
その目を見てランスの中の「女性に良い恰好を見せたい」という欲求が湧いてくる。
「私も見てみたいです。ランスさんの剣は正直見ていてよく分からない所も有りますし」
「私も興味ある。ランスって剣を殆ど鈍器扱いしてるし」
そこにエルシールとレダも期待を込めた目でランスを見る。
エルシールは元貴族という事から、兵士の事は見る機会は多かったが、ランスの剣は正直見ていてよく分からないというのが本音だ。
レダとしても、ランスが刀を持てばどうなるのか、という事は戦士として興味があった。
「じゃあやってみるか」
ランスもそんな視線に少し気を良くしたのか、刀を抜く。
(昔使った時はどんなんだったかな)
JAPANの刀を使ったのは、リズナと出会った時のあの奇妙な城や、JAPANの騒動を解決した後ランス城を作った時くらいだ。
バスタードソード等の分厚い剣を好むランスにとって、軽くて細い剣は扱いにくいものだ。
ヘルマン革命の時、リックが使っていた刀を使おうとしたが、扱いにくくて直ぐに放り投げたくらいだ。
「では…行きます!」
掛け声とともに綾がランスに迫る。
その動きはランスの目から見ても素早く、綾もかなりの腕前の戦士である事が分かる。
が、ランスから見ればそれだけの戦士という事でもある。
確かに強いのだろうが、ランスが知る上杉謙信には数段劣る。
「フン」
ランスが刀を振るうと、それを受け止めた綾の腕が痺れる。
(なんて力…まともに受ければそれだけで体力が削られる)
その一合で綾もランスの腕を嫌でも理解出来た。
ランスもまた『化物』と呼ばれる類の人間であることも。
(それでも…!)
綾はそれでも全く退く気は無い。
ここで退いては、何のためにランスと模擬戦をしているのか分からない。
綾はギアを上げてランスに激しい攻撃を浴びせる。
上段、中段と差をつけてランスに攻め入る。
だがランスもそれをいとも容易く防ぐ。
踊る様に剣を振るい、ランスを追い詰めた上杉謙信の嵐のような攻撃に比べれば何も問題無い。
「今度はこっちから行くぞ!」
刀の感覚を掴むように防御に徹していたランスだが、今度は自ら攻めに転じる。
普段のように刀を振るっては、その力だけで刀が歪んでしまうだろう。
それでは何にもならないため、ランスも極力繊細に刀を振るう。
感覚的には女の子モンスターを捕獲する時に、手加減をするのと似たような感じだ。
「くっ…!」
それだけでも一転して綾は防戦一方になる。
ランスの一撃は一見すると滅茶苦茶に見えるが、時には予想外の所から攻撃が来たり、非常に受け辛かったりと綾は困惑している。
(何…この剣は…)
これまで色々な武士とも戦ってきたが、それには全く当てはまらない剣…規格外とも言うべき剣技に綾は翻弄されていた。
(でもそれでも…!)
綾はそれでもただで負けるつもりは無い。
綾は意を決して、ランスに突っ込む。
「む!」
流石のランスもこれには驚く。
防御の事などまるで考えていない、文字通りの特攻だ。
綾の目にはランスがそのマントを右手に掴むのが見える。
それが何を意味するのかは分からないが、綾が勝利をするためには肉を斬らせて骨を断つしか無いと思い、ただ突っ込むだけだ。
「ふん!」
しかしその刀は何とランスのマントでいなされる。
「なっ…」
まさかマントでいなされるなど考えてもいなかった綾は、体のバランスを大きく崩す。
「とーーーっ!」
キンッ!
そして綾の刀がランスの一撃に耐えられずに斬られる。
「っ!」
同じ刀を使っているはずなのに、斬られた自分の刀を見て綾は驚愕する。
もし自分が同じことをしろと言われても不可能だろう。
それだけの力の差を見せつけられた。
「俺様の勝ちだな」
「…はい、私の負けです」
綾はがっくりと項垂れる。
(強いとは思っていました…でもまさか相手にもならないなんて…)
これまでまくらを守りながら戦ってきた。
それなりに腕があるつもりだったが、見事なまでに打ちのめされた。
(しかも…ランス殿は不慣れな刀を使っていたというのに)
綾の目から見ても、ランスの刀の使い方は異質としか映らなかった。
自分の渾身の一撃もあっさりと防がれ、刀を折られる…それが今の自分とランスの力の差なのだ。
「うーん」
それを見ていたスラルは少し首を傾げる。
確かに結果はランスの圧勝だが、ランスが刀を使いこなしていたとは言えないだろう。
そこがスラルには不満だった。
(駄目ね…やっぱりランスをガルティアやケッセルリンクみたいに見ちゃう癖があるわね。獣の王に夜の王…二人とも私が見出した魔人だし。もしランスが本当に刀を使うなら…ある程度の基礎を教える人物が必要ね。尤も、ランスが素直に覚えるとは思えないけど…女性以外で)
過去を思い出すと同時に、過去に捕らわれているとも感じてしまう。
「綾には悪いけど、レベルが違うわね」
「そうなんですか? 私には凄すぎて良く分かりません」
レダはこの結果が分かっていたように頷き、エルシールはこの戦いを見ても何だか良く分からなかった。
綾がランスに向かって突っ込んだと思ったら、何時の間にか綾の刀がランスに斬られていた。
「ぐふふふふ。負けたからには分かっているだろうな。おっぱいたーっち!」
「きゃあああああ!」
ランスは崩れ落ちている綾の背後から手を伸ばすと、その意外と豊かな胸を揉みしだく。
「意外とあるではないか。柔らかー」
「ラ、ランス殿!」
結局綾は、ランスが満足するまで胸を揉まれていた。
(そう、巴殿は私よりも強い…でもランス殿より強い訳では無い)
ランスと対峙したからこそ分かる、相手の強さ。
確かにランスも本気では無かったが、そのランスよりは戦いやすい。
完全に予想外の技を持つランスに比べれば全然楽だ…と思うことにする。
実際には自分では彼女には勝てないのは分かりきっているからだ。
(それでも…私は諦めるつもりは無い)
全ては親友であるまくらのため…そして今は妖怪王黒部とそれを助けているランスのため。
だからこそ、ここで負ける訳にはいかないのだ。
(私は私の役目をやるだけだ)
そのためにはどうあっても彼女と戦わなければならない。
それも相手を倒す程の勢いで。
綾は覚悟を決めて真っ直ぐに巴を見る。
その綾を見て、巴もその顔から笑みが消える。
彼女の決意を感じ、巴も真っ直ぐに綾を見る。
相手は自分よりも格下ではあるが、それでも油断は全く無い。
それはこれまでの彼女の動きを見ても分かる。
そして何をしてくるかも理解する。
「ふぅ…」
巴も一度深呼吸をして、相手の動きに全神経を集中させる。
「はっ!」
そして意を決したように綾が巴に向かって来る。
それは防御の事など全く考えていない、悪く言えば玉砕とも言うべき行為だ。
だからこそ、それは鋭く早い。
「!」
巴はその動きに素早く反応し、薙刀の先を向ける。
石丸の希望は理解している…彼はこれからの先の事を考え、優秀な人材を集めようとしている。
その考えは当たり、今では優秀な人材が石丸の元に多数集まっている。
先にも言葉にはしなかったが、彼女…北条綾の事も部下に欲しいと思っているだろうとも。
それと同時に、自分の友である早雲のためにも何とか彼女を生かして捕えたいと考えているであろう事も。
「っ!」
綾の動きを止めるべく、巴は薙刀を横一閃に薙ぐ。
刀を使わなければ胴を両断しかねない一撃だが、彼女を止めるためにはそれ以外に手段は無い。
そして自分の想像の通りに、綾は薙刀を己の刀で受け止める。
だが、彼女の勢いは全く止まらず、巴の一撃で痺れる腕の痛みを無視して接近してくる。
そしてその逆の手には小太刀が握られている。
両の手で薙刀を握る巴にはその小太刀を防ぐ術は無い。
少なくとも綾はそう思い、巴に向かって行く。
巴の一撃を受け止めた腕が悲鳴を上げるが、それよりも早く綾は巴にその小太刀を突き立てようとした時、腕の悲鳴が止む。
それが巴が薙刀を手放したと本能で理解し、何とか彼女を組み敷こうとした時、綾を襲ったのは突然の浮遊感と背中への強い衝撃だった。
「がっ!」
その衝撃に息がつまり、短く悲鳴が上がる。
何が起きたか分からぬまま、綾は自分の手から小太刀が離れたのを感じる。
「特攻とはあまり感心しないわね」
そして目の前には巴の顔が有り、彼女の手が完全に自分を抑え込んでいるのを理解する。
あまりの衝撃に声も出せない綾の顔を覗き込み、巴は笑う。
「生憎だけど、私は薙刀よりもこっちが得意なの」
(柔術…まさかこんな手が…)
まだ声も出せないが、その力の前に綾は自分が完全に相手に踊らされていたのが分かってしまう。
相手は自分の特攻を分かったうえで、完全に上をいかれたのだ。
(上には上がいる…分かっていましたけど…)
悔しいが、自分では全く相手にならなかったという事だ。
この世界は才能が努力を上回る世界…それが世の成り立ちなのだ。
だが同時に、やはりこうなったという納得をしてしまう自分もいる。
そしてこれが自分の役目であったとも。
(ランス殿…黒部殿…まくらを頼みます)
ランスは知らない事だが、これは軍師である平森盛からも言われていた事だ。
今回の策を実行するには、どうしても誰かが犠牲になる可能性が高いと。
それが自分だった…ただそれだけの話だ。
綾が何処か晴れやかな顔をした時、
「綾殿!!」
「邪魔だ!」
足立トオトヨとその部下、そして窮奇が綾を助けるべく突っ込んでくる。
「巴殿!」
「くっ!」
部下の声に巴は綾から手を離す。
このまま絞め落とそうとしたが、完全にそのタイミングを逸してしまった。
「ゴホッ!」
巴の手が離れた事で、綾は大きく息を吸い込む。
「御無事で!」
「トオトヨ…どの」
綾は何とか起き上ると、そのままトオトヨの部下の手で窮奇の背に乗せられる。
「窮奇殿! 後は頼みます!」
「分かったぜ」
「「「うぉーーーー!!!」」」
トオトヨの部下達が、包囲しようとした藤原軍に突っ込む。
その隙に窮奇はまるで宙を駆けるように飛び、辛くもこの危機を乗り越える。
「そんな…」
綾は遠目で自分を助けるためにトオトヨの部下が討ち取られる所を見てしまう。
「窮奇殿!」
「言うんじゃねえよ! あいつらが望んだ事だ!」
窮奇の言葉に綾は唇を強く噛む。
「第二段階だ! あいつらの死を無駄にしたくないならお前がしっかりやりやがれ!」
「…はい」
そう、窮奇の言葉通りまだ戦いは終わっていないのだ。
「泣くのは後でも出来る…皆の想いを無駄にしないためにも」
そしてランスが居る戦場―――
「いい加減くたばれ!」
ランスの剣がセキメイの体を切裂こうとするが、それは見えない壁のようなものに阻まれる。
その感覚は魔法バリアにぶつかったのと同じような感覚で、それが陰陽師の技なのは容易く予想がつく。
「オオオオオオ!!」
振るわれる拳をランスはそのマントで捌く。
そしてカウンターで相手の体を斬るが、その筋肉はまるで鋼の如く硬い。
「むぐぐぐぐ」
流石のランスもその硬い体を簡単に切り裂く事は出来ないようで、攻めあぐねている。
「強いわね…無敵結界が無いだけで、間違いなく魔人級よ」
スラルも流石にこれ程の力を持つ存在には驚愕する。
「フン、ただ硬いだけだ!」
だが、問題なのはセキメイだけでなくそれをサポートする陰陽師の存在だ。
相手は防御に集中しており、何重にも張られたバリアの前には流石のランスも手を焼いている。
必殺のランスアタックもバリアによって威力が軽減され、セキメイの体に傷をつけるには至らない。
細かい傷はつけることは出来ているのだが、相手の巨体の前には大してダメージにはなっていない。
(面倒臭いぞ…魔人というよりは闘神だな)
ランスがかつて戦った非常に固い存在としては、まず真っ先に出るのが闘神だ。
人の形をしている分、闘神MMよりも闘神ユプシロンが思い出される。
闘神ユプシロンもまた、魔法だけでなく格闘戦も得意だった。
だが、後ろにいる陰陽師の事を考えれば、ユプシロンよりも面倒くさいかもしれない。
「ランス。別に無理をする必要は無いわよ。だから私も手を出さない訳だし」
スラルがランスにしか聞こえないくらいの小さな声で呟く。
「うーむ」
スラルの言うとおり、必ずしもここで相手を倒す必要は無い。
ここで敗北したとしても最後に勝てばいい、それがランスの考え方だ。
「黒部とレダが居れば勝てるでしょうけど、今は私達だけだもの。ここで勝つのは不可能よ。それにこんな局地戦で勝っても意味は無いわよ」
「…一理ある」
この戦いは藤原軍には『決戦』ではあるが、ランスから見ればこれは只の『局地戦』でしかないのだ。
それにこの戦いはあくまでも前哨戦であり、これからがランスにとっては本番なのだ。
だとすると、こんな戦いで体力を消耗させるのはランスとしても本意では無い。
「それでも相手をおびき寄せるための何かが欲しいんだけどね…黒部の方もまだ手間取ってるのかしら」
「まああいつなら上手くやるだろ」
ランスの言葉にスラルは剣の中で微笑む。
「あら、随分と信頼してるのね。ケッセルリンクならまだしも」
「アホか」
「さーて、どうしましょうかね…私が援護できないのがもどかしいわね」
襲い掛かってくるセキメイの攻撃を避けながらランスが剣を振るう。
それは互いにダメージにはならず、ただただ時間だけが過ぎていくだけだ。
その状況に苛立っているのはランスだけではなく、セキメイを使役する早雲も同じだ。
もしセキメイを操るのと一緒に式神を使うことができれば、間違いなく相手を倒すことが可能だっただろう。
しかし、北条家の中で最も強いとされる初代早雲をもってしても、セキメイと同時に式神を使うことは難しい。
それ故に完全な膠着状態となってしまった。
そして時間だけが無常に過ぎていく中、とうとう早雲達に待ち望んでいた報告が飛んでくる。
「早雲様! 石丸様が黒部を退けました! 今追撃中です!」
「そうか!」
その報告に早雲は笑みを浮かべる。
この戦いは別に異人を倒す必要は無く、石丸が黒部を倒せさえすればそれで十分なのだ。
早雲がランスを倒したいというのは、個人的な感情に過ぎない。
「よし! 全部隊出撃だ! もう遠慮は不要だ!」
「「「オオォォォォ!!」」」
早雲の言葉に後方で待機をしていた足軽、そして武士達が前に出てくる。
それを見て流石のランスも顔を歪める。
「うげ…なんか色々出てきたぞ」
「相手のあの動き…もしかしたら」
相手の動きを察知し、スラルがある考えに達する。
それを裏付けるように、この戦場を忙しく動き回っていたほのかがランスの側に現れる。
「ランス殿、黒部殿の部隊と、綾殿の部隊が破れました。予定通りです」
「そうか。で、綾ちゃんは?」
「窮奇と一緒に問題なく撤退しました。後は予定通りに」
「そか。だったら俺様もとっとと逃げるか」
「そうね。じゃあほのか。予定通りにお願いね」
「はっ」
スラルの言葉に頷いて、ほのかが再び姿を消す。
迫り来る石丸の軍勢を見て、ランスも一度不敵に笑うとそのまま一目散に逃げ出す。
「異人が逃げるぞ!」
「追え!」
ランスが逃げ出した事で、石丸軍がさらに勢いを増す。
ランスが率いていた妖怪、人間の混合軍も蜘蛛の子を散らすようにバラバラに逃げ出す。
「さーて…後は上手く奴等が釣れるかどうか…そこは黒部を信じるしかないわね」
スラルはこれからの事を考えながら、魔力を練り始める。
全てはスラルの想定通りに物事が運んでいる。
後の事はランスと黒部を信じるだけだ。
「がはははは! 俺様の作戦に間違いは無い! 次がホントの決着じゃー!」
改めて戦国ランスをプレイしましたが、内容をかなり忘れているものです…
ですがやっぱり戦国ランスは名作だと思いました