ランス再び   作:メケネコ

121 / 369
NC戦国ランス⑱

 黒部と石丸の総決戦…その中心で、黒部と石丸が激闘を繰り広げていた。

 そこには策など何もない、ただの力と力のぶつかり合い。

 その激しいぶつかり合いを、両軍は固唾をのんで見守っていた。

「黒部!」

「やるじゃねえか! 石丸!」

 黒部は石丸の強さを改めて感じとり、今までの人間との退屈な戦いが嘘であるかのように楽しそうに笑う。

 その楽しそうな笑みは人間から見ればとんでもなく恐ろしい形相なのだが、石丸もまた非常に楽しそうに笑う。

「お前もな! 黒部!」

 石丸もまた、自分と互角に渡り合う存在を前にして声が弾んでいる。

 これまでの相手は石丸にとっては『全力を出せる相手』では無かった。

 剣戦闘LV3…魔人すらも怯ませるその剣技は圧倒的で、石丸が本気を出すまでも無く相手を捩じ伏せることが出来る。

 それ故に、石丸は自分が本気を出せる相手という者を探している節があった。

 しかしそんな相手は中々存在せず、この前に戦った平清盛くらいしかいないのではないかと思っていた。

 だが現実は、自分とこうして互角に戦える者がいる…それも二名もだ。

 目の前にいる妖怪王黒部、そしてその黒部の協力者であるランス。

 それらの存在と雌雄を決することが出来るこの戦いは石丸にとっては最高のものだった。

 既にオーラを纏った石丸の剣が黒部に襲い掛かるが、黒部はそれを軽やかな動きで避ける。

 その鋭く尖った爪は石丸の鎧ごと肉を抉り、石丸に確実にダメージを与える。

 だがその程度では石丸も止まらず、返す刃で黒部の腕を傷つける。

 石丸の剣を受けた黒部の手から血が滴り、それを見て黒部は唇を釣り上げる。

 やはり純粋な剣の腕ではランスよりも上だろう。

 ランスも強いが藤原石丸も強い…両者はただ強さのベクトルが違うだけだ。

 純粋に相手を上回りたいという思いが強く伝わってくる石丸と、相手に勝つためには如何なる手段…それこそ卑怯、卑劣と言われようとも全く気にしないランス。

 どちらも強者には違いないが、両者はある意味対極の立場なのかもしれない。

(どっちも面白れぇ…だがどうせなら勝つ方がもっと面白れぇよな)

「なあ黒部。お前は何故帝を目指す? 同じ帝候補同士、それは聞いておきたい」

「目指す理由? そんなんは…」

 石丸に問われて黒部は思わず口を閉ざす。

 このJAPANの妖怪のため―――そう口に出そうとしたが、それは黒部にとっては建前に過ぎない。

(俺が帝を目指す理由は…)

 黒部の頭にあるのは、自分に純粋な眼差しを向けるスラル、そしてこんな自分を全く恐れずに『ついてこい』と言ったランスだ。

 時折寂しそうな顔でランスを見るスラル、そんなスラルに何とか新しい身体を用意しようとするランス。

「へっ、下らねえ理由だよ。別に話す必要もねえ。だがよ、こうしてお前とやり合うのも楽しいってのも事実だぜ」

「楽しい、か。それは嬉しい言葉だよ、妖怪王。だからこそ、俺はお前が欲しい」

「生憎よ、そういうのは間に合ってるぜ。俺が今気になってるのは俺とお前のどっちが勝つかって事だけだぜ」

「それについては同感だ。じゃあ続きと行こうか!」

 黒部と石丸は笑いながらぶつかり合う。

 そこにはもう帝レースの事など頭には無く、ただどちらが強いかという思いだけがある…はずだった。

(だけどよ…どうやって誘き寄せりゃいいんだ?)

 戦いながらも頭にあるのは、どうやって石丸を目的の場所まで誘き寄せるかが黒部にとっては難しかった。

 今まで策も何も使わず、ただ己の力だけで乗り越えてきた…乗り越えられてきたのだ。

 だからこそ、こういった頭を使った戦いというのは今一ピンと来ない。

 しかし黒部もまたランスと共に行動することで、策略の大切さを嫌というほど思い知った。

 確かに力で相手を捻じ伏せて勝つというのもいいが、今の相手にはそれが通用しないという事も理解している。

(何分始めての事だからな…まあ勝つためなら何でもするぜ、特に今はな)

 相手が強ければ、相手を罠に嵌めてでも勝てばいい。

 そのためならば今は何でもするし、何でも使う覚悟がある。

 だがそれでも、藤原石丸と戦うのは楽しかった。

 ランスとは違う高揚感を与えてくれるのが、黒部にはなによりもたまらなかった。

 それは石丸も同じの様で、その顔には笑みさえ浮かんでいる。

 石丸の剣が黒部の皮膚を切り裂き、黒部の爪が石丸の体を抉る。

 互いが互いに致命傷を与えられぬ戦いが続いていく。

 だが、そんな小競り合いが終わると、どんどんと黒部の方が押されていく。

 黒部の一撃は確かに大きく鋭い。

 しかし、石丸はその黒部を凌駕する剣の冴えを見せていた。

 石丸の剣が黒部の体を捉えつつあった。

「チッ!」

 その動きに黒部が思わず舌打ちをする。

(やっぱりこいつもつえぇ…剣の速さが段違いだぜ)

 その剣はまさに変幻自在と言うべきか、黒部の首を狙ったかと思ったら何時の間にかその刃が身体を切り裂いている。

 石丸の動きに黒部は段々と追い詰められていった。

「貰うぞ! 黒部!」

「しゃらくせぇ!」

 黒部の胸に向かって突かれた剣を、黒部は何と跳び上がって避ける。

「!」

 石丸はまさかの事に一瞬言葉を失う。

 石丸から見れば、突如として黒部が消えた様にしか見えないからだ。

 黒部はその跳び上がった姿勢のまま、その爪を石丸に向かって振り下ろす。

 死角となる頭上からの攻撃は並の男ならば…いや、腕のある男でも黒部の一撃を避けるのは難しいだろう。

 それも石丸の体は完全に伸びきった状態であり、黒部ですらもその首を獲ったと思ったほどだ。

 しかし―――

「な、何だと!?」

 地に降り立った黒部は、ずたずたに切り裂かれた自分の腕を呆然と見る。

 完全な死角からの攻撃にも関わらず、石丸はその一撃を神速の動きで防いで見せた。

 それだけは足りず、攻撃を仕掛けた黒部の腕を大きく切り裂くほどの威力の攻撃を加えて見せた。

「何で攻撃を仕掛けた俺の腕が!?」

「遅い!」

 そしてその一瞬の隙は石丸にとっては十分すぎる隙だった。

「うおっ!?」

 その一瞬の間で石丸は黒部との距離を詰める。

 眼にも止まらぬ勢いで放たれた剣が黒部の体を傷つける。

 その黒部はと言うと、自分が死なないように急所を守る事で精一杯だ。

 黒部の胸、腹、腕、足とその身体から勢いよく血が噴き出る。

 それでも死なないのは、黒部がオロチの牙から生まれた大妖怪だからに過ぎない。

 が、これで大勢は決したも同然だった。

 藤原石丸は妖怪王黒部よりも強い―――それがこの戦いを見ていたものの認識だ。

「ぐっ…」

 それを証明するかのように、黒部が地に膝をつく。

 まだ致命傷では無い…だが、この状態で戦っても結果は火を見るよりも明らかだ。

「ま、負けた…黒部様が負けた!」

「逃げろ! 勝てる訳が無い!」

 そしてそれは妖怪王黒部の強さという絶対的なカリスマで維持していた、黒部軍の士気を打ち砕くには十分だった。

 黒部の部下に付いた者…人間達が悲鳴を上げながら逃げていく。

「な! てめえら!?」

 それを見て黒部は本気で驚く。

 その目は大きく見開かれ、思わず大きく開けた口からは血が滴り落ちる。

 その様はまさに壊走と言ってもいいものだった。

 人間達は我先にと一斉に逃げ出す。

「勝ったぞ! 石丸様が妖怪王を倒したぞ!」

「今だ! 攻め込め!」

 それを見て、これまで黒部と石丸の決闘を見ていた将が一斉に声を上げる。

「ここまでだな、黒部。俺の勝ちだ」

 石丸が勝利を確信したように黒部へと剣を突き出す。

「黒部様!」

「逃げて下さい! 黒部様!」

 黒部の配下の妖怪達が一斉に動き、石丸へと襲い掛かる。

「はっ!」

 しかしそれは石丸の凄まじい剣技の前にはあまりにも無力だ。

「黒部様! どうやら今が好機のようです」

「好機? …そういう事かよ」

 配下の耳打ちによって、ようやく黒部はこの状況を理解する。

 先程の人間達の逃走には本気で驚愕し、一瞬黒い思いが体を駆け巡りそうになったが、部下の言葉を聞いて黒部はようやく冷静になる。

(森盛の奴…俺にも秘密にしてやがったな)

 自分の部下になったあの軍師の事が頭に思い浮かび、黒部は口の中で毒づく。

 確かに自分は気の利いた演技など出来ないが、まさか大将である自分にすら秘密にしてあるとは。

「すまねぇ…お前等!」

「黒部様が生きてれば俺達は負けじゃねえ!」

「黒部様を守れ!」

 妖怪達が黒部を守る様に立ち塞がる。

 それを見て黒部は痛む体に鞭を打って急いでこの場から逃げ出す。

「黒部様! こちらです!」

 黒部に向かって声をかけるのは、綾と与一同様に最初から自分を帝にしようと協力してくれている者だ。

 戦闘力はあまり無いが、足が速く連絡役としてうってつけという事で使われている。

 その男を見て黒部はその顔に笑みを浮かべる。

(全てはこのために、か。全く…ランスとスラルもとんでもない作戦を考えやがる)

 黒部としては自分の力だけで石丸を倒したかったが、気に入らないが今の所は石丸の方が実力は上だ。

 だが、この戦いは個人の実力だけでなく、周りの者の力も必要だと嫌と言うほど思い知らされた。

「だったら喜んで逃げてやるぜ…最後の最後に勝つためにな)

 自分が浮かべた表情を石丸が浮かべる事を考え、黒部はその体に大きな傷を負っているのにも関わらず、その顔には不敵な笑みが浮かんでいた。

 

 

 

「勝ったぞ! 石丸様が黒部を倒したぞ」

 その声が響いたのは、レダが源頼光とその配下を追い詰めた所だった。

「…黒部が敗れた、か」

 石丸の勝利の言葉と共に相手の士気が大きく上がったのがレダにも分かった。

 エンジェルナイトであるレダは人間…いや、この地上の戦争というのはよく分からなかったが、ランスと付き合ううちに何となくだが理解していった。

 パイアールに協力した時も、相手の魔物将軍を倒すと魔軍は一気に瓦解した。

『個』では無く、『群』である1エンジェルナイトの自分には分からなかったが、自軍の大将が敗れるというのはそういう事なのだろう。

 いくらでも補充ができ、この魔王を含めたこの存在を『無』に還すことが出来るエンジェルナイトからすれば考えられない事だ。

(という事はランスが言っていた通りの事になる訳か)

 これからの予定を思い出し、レダも撤退すべく背を向ける。

「待て!」

「何よ」

 レダは煩わしそうに自分を呼び止めた男を見る。

 その目は何処までも冷たく、温かみの欠片も無い。

 無機質で、自分達を何とも思っていない…そう思わされる目が頼光を射抜いていた。

「このままお前を見逃すわけにはいかない…!」

 そう言って全身に力を込めて刀を構える。

 見れば、その仲間達も同様に立ち上がる。

 レダ一人にボロボロにされているにも関わらず、その戦意はまだ衰えない。

「見逃すって…それは私の言葉じゃない? 私の方が見逃してあげるからとっとと失せなさいよ。私も暇じゃないし」

 レダはそう言うと、与一と合流して移動を始める。

「で、状況は?」

「黒部さんが負けたのは事実みたいです。それで今は例の場所に移動している途中のようです」

「そう。ランスもそっちに向かってるんでしょう。だったら私達も早く移動した方がいいわね」

 今回の負けもまたある意味想定内の部分でもある。

「それにしても思ったよりも被害が出ませんでしたね。もっと酷い状態になるかなーって思ってたんですけど」

「そうなの?」

 不思議そうに首を傾げるレダに与一は頷く。

「私の予想よりも相手の兵が少ないんですよね。もっと数の暴力で来るかなーって思ってましたから」

 藤原家と黒部軍では何よりも数が違いすぎる。

 これも参戦時期の違いや、大将が妖怪であるという事も原因でスタートラインから黒部は圧倒的に不利だ。

 正直、与一としてもこのまま藤原家とぶつかっても勝つ事は出来ないと思っていた。

 それがここまで持ち堪えられてきたのは、妖怪王黒部の圧倒的な強さや、ランス・レダ・エルシールといった異人達の力が大きい。

 ランスとレダはその圧倒的な強さで。

 エルシールは人を纏めるという才能で。

「人間も魔物も面倒くさいわね…」

「え?」

「何でもないわ」

 レダは薄く笑う。

 自分自身下界に染まっていってるのが分かるが、それはそれで刺激的だ。

(さて…これからどうなるのかしらね)

 

 

 

「はぁ…はぁ…」

「無事ですか、トオトヨ殿」

「何とか生きているさ」

 綾を助けた足立トオトヨ達は、既に満身創痍で動くことも難しい状況だ。

 その中で『黒部を倒した』という言葉が伝わってきた。

 もう既に綾が率いていた部隊は撤退…いや、壊走しておりどうなったかはもう分からない。

「降伏しろ! 降伏すれば命まではとらない!」

 自分達を取り囲んでいる石丸の兵達の言葉にトオトヨとその部下は笑う。

「お前達…すまないな。こんな事にまで…」

「いいんですよ。あいつの時からの付き合いじゃないですか」

「少なくとも、あいつの下にいて何も知らないで無駄死にをするよりも遥かにいいですよ」

「違いない」

 部下…ロシナンテの下で働いていた時からの部下達の顔は何処か晴れやかだ。

「俺は娘を黒部殿に救ってもらった。その娘ももう嫁に行ったんだ。もう思い残す事は無いですよ」

「儂は孫を抱けた。それだけでも十分じゃ」

「よ、妖怪のお姉さんで童貞を捨てられただけで満足です」

「お前達…」

 部下達の言葉にトオトヨはこれまでの自分の生を思い返す。

 思えば家族が呪い付きとなった事から全ては始まった。

 そこからはまさに地獄のような日々…これまで親しかった人達からは虐げられ、娘も呪いを苦に自殺をも考えていた。

 その内借金で首が回らなくなり、最後にはロシナンテのような男の下で働く事を余儀なくされた。

 だが、それは妖怪王黒部とその仲間のランスという異人によって救われた。

 最初は誰の下でもいいが、とにかくのし上がりたかった。

 これまでの苦労をバネに、何とか歴史に名を残すくらいに偉くなりたいと思った。

(だが現実は非常だ…私は所詮は何処にでもいる凡人の一人だった)

 あの3人の異人を見て、トオトヨはある意味諦めがついた。

 ああいう者達が歴史に名を残す存在…それを嫌というほど見せつけられた。

「綾殿を救えたのです。何よりの名誉ですよ」

「そうだな…」

 部下の言うとおり、綾を救う事が出来たのは何よりだ。

 自分なんかより、人を纏める力がある綾の方が何倍も重要だ。

「行くぞお前達!」

「「「おう!!!」

 満身創痍であるはずの自分達の体からは、不思議と力が戻って来る。

 もう自分達が黒部が帝になる所を見る事は叶わないだろう。

 だがそれでも、黒部が帝になれる事を信じて疑わない。

 それを感じされるだけの何かがあの異人…ランスからは感じられたのだ。

 馬鹿な夢と笑われるかもしれない、だがそれでも自分達はあの異人に賭けたのだ。

「我が名は足立トオトヨ! この首、容易く取れるとは思うなよ!」

 トオトヨはその顔に笑みを浮かべながら石丸軍に向かって突っ込んでいく。

 後を追うようにその部下達も一丸となって雄叫びをあげながら続く。

 こうして足立トオトヨは散った。

 その胸の確かな希望を信じて。

 

 

 

「追え追え! 何としても黒部を倒せ!」

「ここで終わらせるぞ!」

 藤原の兵は黒部への追撃の手を緩めない。

 黒部を倒せさえすればこのJAPANから争いは無くなり、平和と呼べる未来が待っているのだ。

 そして何よりも、大将の藤原石丸が相手の大将である黒部を一騎打ちで破ったという事実が藤原軍の士気を大きく上げていた。

 大将である藤原石丸も自ら率先して黒部を追う。

 石丸からしても、この一戦で全てを終わらせるつもりだ。

 もうこのJAPANに、これ以上の争いを起こすのは御免だった。

「石丸! 随分と嬉しそうね!」

「そりゃ嬉しいさ! これで終わるかもしれないんだからな!」

 自分に並走する藤原巴の言葉に、石丸は声を弾ませて応える。

 とうとう自分は妖怪王黒部を超える事が出来た…それは石丸にとっては何よりの喜びだった。

(後は…出来れば黒部には俺の仲間になって欲しいんだけどな)

 石丸は妖怪だからといって人と区別をつけるつもりは毛頭無い。

 まだ家督を継ぐ前、石丸もまた一人で旅をしていた。

 が、石丸には冒険の才能はあまり無かったようで、罠にかかったりモンスターの群れに襲われたりと散々な結果に終わった事も多々ある。

 その時に自分を助けてくれる人間もいれば、妖怪も居た。

 だからこそ石丸は人も妖怪も区別をする気は無かった。

 その妖怪王が自分の友になってくれれば…という思いは捨てきれなかった。

(それに…何となく分かり合えそうな気もするんだよな)

「子供みたいな顔をして…まあいいけど。でもね、あなたが決めないとダメよ。それがあなたの選んだ道なんだから」

「分かってるさ。所で早雲は…」

 陰陽師故に身体能力はそこまで高くない早雲だが、こういう場に出てこないは正直意外だ。

「早雲はセキメイの制御に苦労しているらしいわよ。異人との戦いで予想よりも疲労したみたい」

「そうか…だが今なら俺達だけでも十分やれるさ」

 石丸は先頭に立ち黒部を追う。

 黒部の傷は決して浅くは無い。

 最初からのこの戦いで決着をつけるつもりだったのだ

 だからこそ、石丸はこの追撃を緩めない。

 相手が弱っているなら、徹底的に叩く…これは戦闘の基本なのだから。

「異人の方はどうするの?」

「まずは帝レースを終わらせる。異人はその後でも何とかなる…と思う」

 異人…特にあのランスは一筋縄ではいかないだろうが、そもそもの本来の目的は帝となる事。

 このJAPANのため、まずはこの戦いを終わらせる必要がある。

 石丸とその部下達は執拗に黒部を追う。

 流石は妖怪王、中々追いつけないが、それでもその姿は決して見失う事は無い。

 そして黒部が逃げた先は、見通しの良い広場だ。

 黒部が跳躍し、膝をついた所でそのバランスを崩す。

 これまでのダメージ、そして疲労が黒部の体を鈍らせたのだ。

「黒部!」

 そこを好機と見て、石丸達はその速度を上げる。

 最早相手は満身創痍、そして黒部の軍は既に壊滅し散り散りに逃げてしまっている。

 異人の姿も見えない…これが最後、石丸を含めて誰もがそう思った。

「貰うぞ! 黒部! …ッ!?」

 石丸が黒部に向かって一歩踏み出した時、その足から感じられる奇妙な感覚に石丸は足をとられる。

 驚いて足元を見ると、そこは地面であるにも関わらず、足首が完全に飲み込まれてしまっている。

「う、うわあああああ!」

「お、押すな! あでっ!」

 石丸と共に黒部を追っていた兵達も、石丸同様にが地面にめり込んでしまっている。

 そこで足をとられた兵達に、後ろから新たな兵が押し寄せついには連鎖的に倒れてしまっている。

「な、何だ!?」

 石丸は嫌な予感を感じて何とか足を抜こうとするが、足元にある白い粘液のようなものが足に絡みついて中々抜け出す事が出来ない。

「石丸!?」

「来るな! 罠だ!」

 巴の言葉に石丸は思わずこう叫んでいた。

 見れば、黒部はその体から血を流しつつもその顔には不敵な笑みが浮かんでいる。

「今だ! やれ!」

 黒部の声に反応するように、黒部の周囲からは大きな蜘蛛の妖怪が這い出てくる。

 そして蜘蛛の妖怪達は一斉にその口から糸を吐き出す。

「う、うわっ!」

「な、何だ!?」

 その糸に絡め取られ、兵士達の体が動かなくなっていく。

 石丸は飛んでくる糸を剣で必死に切り払う。

 粘着性のある蜘蛛の妖怪の糸すらも断ち切る石丸の剣の腕には黒部も改めて驚嘆する。

 だが―――

「がはははは! まんまと罠にかかったな!」

 何時の間に居たのか、黒い剣を肩に担いだ異人が石丸の姿を見て笑う。

「ランス…!」

 その姿を見て、石丸は自分の迂闊さを噛みしめる。

(まさか…あの書状から全て仕組まれてたのか)

 妖怪王黒部の決着をつけたいという書状…それを見て、石丸は次の戦いで決着がつくものだと思い込んでいた。

(あの戦いの結果すらも見越してたってのか!?)

 相手の行動、そして黒部の反応は演技には見えなかった。

 本気で黒部は仲間であるはずの人間の行動に怒り、そして若干の悲しみのようなものがあったのを石丸は見逃さなかった。

 だからこそ、石丸は本気で黒部の軍は壊滅したと思い、追撃をしていたのだ。

「石丸様を助けろ!」

「陰陽隊は壁を!」

 だが幸いにも、居るのは傷ついた妖怪王黒部とその配下の妖怪が少し、そして異人一人だ。

 罠にしても、相手の数が少なければ乗り越える事は出来る…石丸がそう考えた時、目の前には目を疑うような光景が飛び込んできた。

「な、何だアレは…」

「た、大陸の魔法なのか…!?」

 部下達の動揺の言葉に、石丸も思わず信じられない物を見たかのように口を開く。

「…嘘だろ」

 ランスの持つ黒い剣から、凄まじいまでの稲光が放たれている。

 それは持ち主であるランスや、その周囲にも被害を及ぼしかねない程の光だ。

「行くぞスラルちゃん!」

「準備はOK! 遠慮なくやっちゃいなさい!」

 ランスはそう言うと勢いよく跳び上がり、剣を振り下ろす。

「ラーンス…あたたたたたーーーーーーっっっっく!!」

 石丸が見たのは、自分達に襲い掛かる無数の稲妻、そして目を開けていられない程の光だ。

「石丸!」

 そしてその轟音の中に、誰かの声を聞いたような気がした。




改めてランス10でのアイテムの項目を見ていると、やっぱりバランスブレイカーはとんでもないのだなあと
そのバランスブレイカーを3つも持っていた帝は強いのは当然ですよね
まあゲーム上のステータスを鵜呑みには出来ないのですが

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。