ランス再び   作:メケネコ

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NC戦国ランス⑳

 ランスとスラルの放った一撃が消えた後、残された光景は酷いものだった。

 周囲には雷が落ちた跡がクレータとして残り、そこには地面すら焼いたのか煙が上っている。

 そして罠にかかっていた人間はほぼ例外なく消し炭となり、離れていたはずの人間もその体が焼かれている。

 中には感電死したのか、外傷が見受けられない人間もおり、小さいながらも呻き声のようなものも聞こえてくる。

「こいつはすげぇな…」

 黒部も目の前の光景を見て呆然と呟く。

 顔色が全く見えない妖怪達も、ピクリとも動かない。

 目の前の光景が現実のものだと判断できないのかもしれない。

「これ…は…」

 何とかランスの雷を防ぎ切った魔法使い達も、目の前の光景に信じられないような目を向けるだけだ。

「凄い…」

 ランスとスラルの二人の合体技の事を知っていたエルシールでさえ、目の前の光景には驚くばかりだ。

 確かに前にランス達が戦ったラ・バスワルドも巨大なクレーターを作ってはいたが、まさかあんなありえない光景を再び見るとは思ってもみなかった。

「ぐ…あだだだだだだだ!」

 そしてランスはと言うと、突如として剣から手を話す。

「レダ! 回復だ回復!」

 見れば剣を握っていたランスの手には大きな火傷の傷がある。

 その火傷はランスの肘近くまで到達している。

「え? うわ、凄い傷。黒部と一緒に回復するわよ。『回復の雨』」

 レダから放たれる神魔法がランスと黒部の傷を癒す。

「あー…助かったぜ。流石に疲れたからなあ」

 レダの回復魔法を受けた黒部が腰を下ろす。

 ようやく一息ついたと言わんばかりにため息をつく。

 ランスも取り敢えず火傷は治るが、まだ痺れがあるのか少し怠そうにしている。

「スラルちゃん! やり過ぎだ!」

「いやー…まさか私もこんなになるなんて思ってもいなかったから。あ、でも昔私が全力を出した時よりも遥かに被害は小さいわよ!」

「やかましい! 魔王と一緒にするな!」

 目を輝かせているスラルに対してランスが怒鳴る。

 ランスの怒りの理由はスラルも良く分かっており、バツが悪そうに顔を伏せると、

「…ゴメンナサイ」

 素直に頭を下げる。

 いくら自分とランスが強くなっていようが、まだロクに制御できていない技を全力で放ったらこうなるのは分かり切っていた事なのだ。

 それでもやってしまうのは、スラルの研究者としての一面がどうしても試してみたかったのだ。

(思えばランスは人間だものね…危ない危ない)

 流石に雷神雷光を付与するのはやり過ぎたと、目の前の光景が教えてくれている。

 それどころか、技を放ったはずのランスへの反動も非常に大きいようだ。

 まだ手が痺れているのが、剣を拾おうともしない。

 スラルは改めて周囲を見渡し、誰も動いていないのを確認すると安堵のため息をつく。

 ランスの放った技に、普通の人間が耐えられるはずは無い。

 もしこれが黒部が受けたとしても、恐らくあそこにいる人間と同じように消し炭になっているだろう。

 だが、暫くは自分は初級魔法程度しか使えないだろう。

「まあいい。俺様は戦利品を頂く事にするか。おいレダ、ついてこい」

「行かないわよ。こっちにはまだ怪我人もいるし。無茶し過ぎなのよ」

 レダの目から見ても完全に人間の力の範疇を超えた一撃には呆れるしかない。

 幸いにもこちらには死者はいないようだが、それでもその余波で怪我をした者は無数にいる。

 本来であればランス以外にがどうなろうと知った事では無いのだが、流石にこの状況で無視をするのも気が引けた。

「…まあいい。だったら俺様だけで行く。良い物があってもやらんからな」

「別にいらないわよ」

 ランスは剣もそのままに、少しだけ不機嫌そうに戦利品を漁りに行く。

 こういう事は本来は奴隷であるシィルの役割なのだが、今はシィルがいないので自分でやるしかない。

 シィルと出会う前にはよくやっていた事なので、今更何も問題は無い。

(全く。奴隷の分際で肝心な時に居ないとは許せんな。これは見つけた時にはおしおきだな)

 そんなランスを横目に見ながら、スラルは改めて確認をすべく黒部に問いかける。

「時間は経ったけど…まさかもう帝になったなんて事は無いわよね。黒部、あの巻物持ってる?」

「ああ。持ってるぜ」

 黒部はアマテラスから帝リングと共に渡された巻物を開く。

 そこには帝候補である黒部と藤原石丸、そしてもう脱落し×印がつけられている平清盛の絵が載っている。

「…え?」

 スラルはそれを見て呆然と呟く。

 藤原石丸の顔に、平清盛と同じ様な×印がつけられていないのだ。

 スラルは一気に体が冷えるような感覚に襲われ、戦利品を漁りにいったランスを見る。

 そこでは今まさに藤原石丸が倒れていた場所に向かって行くランスの姿があった。

「ランス! 駄目! まだ終わって無い!」

「あん?」

 ランスが思わずスラルの方を振り返った時、石丸が倒れていた場所…何体かの人間が倒れていた場所から一人の人間が起き上る。

「ランス!」

 レダの声にランスは即座に反応する。

 完全な不意打ちにも関わらず、ランスは振り下ろされる薙刀を避ける。

「石丸! 早く逃げなさい!」

 その声と共に、一人の武者が起き上る。

 そして一目散に逃げていく。

「追え!」

 ランスは放たれる薙刀を避けながら指示する。

 それに反応したのがたぬーの妖怪である元康だ。

「………(俺が追うぜ!)」

 その巨体に見合わぬ速度で元康が駆ける。

 石丸も傷を負っているのか、その速度は遅い。

 だから元康の足でも追いつける…はずだった。

「オオオオオオオオオ!!」

 元康と石丸の間に赤鬼が降ってくる。

「石丸! 急げ!」

 響いてきたのは北条早雲の声。

 赤鬼達は石丸を守るべく元康へと襲い掛かる。

 その赤鬼の頭部に手裏剣が刺さり、鬼達が怯んだところに槍を構えた元康が突っ込んでいく。

 手裏剣が刺さった程度では鬼は怯まないが、その隙をついて元康が槍を振るう。

 元康の槍は赤鬼の腹部を貫くが、鬼という存在はそんな事では怯まない。

 むしろ死を望むようにして奇声を上げながら元康へとその拳を振るう。

 元康は素早く槍を手放し、襲い掛かってくる鬼へとその太い腕でラリアートを決める。

 一体どれほどの力で放たれたのか、元康の一撃を受けた鬼の首が歪に曲がり、そのまま一回転してその頭部を地に打ち付けられる。

 槍で腹を貫かれた鬼は構わずに元康の首筋に噛みつこうとするが、元康はそのまま鬼の頭をその手で掴むと、そのまま力任せに鬼の体を持ち上げ、突き刺さっていた槍を器用に振るい鬼の体を両断する。

 そのまま槍を両手に持ち、最後に襲い掛かってきた青鬼をその槍で力任せに頭部から潰して見せる。

 元康が頭を上げた時、そこには既に石丸の姿は無かった。

 そしてランスも襲い掛かる女を前に苦戦を強いられていた。

 純粋に相手が強い、という事もあるが何よりもランスには相手を殺すという選択肢が存在しない。

 今でこそ酷い状況だが、それはランスの目にかなった美女だったからだ。

 だからこそ何としても捕えるという事しか考えていない。

 もし彼女の体調が万全だったなら、ランスの力を持ってしても剣無しでは無力化するのは難しかっただろう。

 しかし彼女は先程のランスの一撃で身体に大きなダメージを受けていた。

 そのせいでバランスを崩したところをランスは見逃さない。

「ラーンスターックル!」

 ランスはそのまま体ごとぶつかって女性―――藤原巴を押し倒す。

 巴も今現在の自分のダメージ、そして想像以上のランスの腕力を前に成す術も無く押し倒される。

 そしてランスと巴の目が合う。

 ランスは巴を見て非常に嬉しそうに笑う。

「おお! さっきは少ししか見えなかったが、美人ではないか!」

「あなたが噂に名高い異人ね…どんな感じかと思ったけど、思った以上にいい男ね。ちょっと口が大きいけど」

 ランスから見て藤原巴は極上の女性に見える。

 美しい黒い髪に、黒い瞳…ランスの女である上杉謙信や山本五十六に勝るとも劣らない美貌だ。

 しかしその二人との違いは、ランスを見るその目だ。

 どちらかと言えば、徳川千…戦姫のような実に楽しげかつ鋭い目だ。

(うーむ、グッドだ! いい女ではないか!)

 ランスは実に楽しげに笑った。

(これが異人…)

 一方の巴も間近で例の異人を見る。

 このJAPANのものでは無い茶色の髪と茶色の瞳、そして特徴的なギザギザな口元。

 だが、何よりも巴が思わず見とれたのは、そのあまりにも強すぎる目だ。

 何者にも従わないという強い目をしている。

 藤原家の者として、長年色々な人間を見てきた。

 強い者、弱い者、そして自分の間近にいる『英雄』と呼べる二人の英傑。

 藤原石丸と北条早雲…その二人とは全く違う何かがこの男にはある、そんな感じさえしてしまう。

 そしてそんな一瞬の隙はランスにとっては十分だった。

「がはははは! 隙有じゃー!」

「あっ!」

 ランスはそのまま巴をうつ伏せにすると、その両手を強く抑え込む。

 巴とて腕に覚えはあるが、ランスの腕力は巴の力を凌駕している。

 そして背後に回された手に何かロープのようなものが巻き付かれるのを感じた。

「ゲットじゃー!」

「あらら」

 後ろ手に縛られたまま、巴は思わずため息をつく。

 まさに一瞬、しかしその一瞬でいくらダメージがあったとはいえ、自分をこうも簡単にあしらうとは思ってもいなかった。

 そのままランスは巴を担ぐと、スキップでもしそうな気軽さでスラル達の元へ戻る。

「がはははは! 戦利品を手に入れたぞ!」

「いや、それはいいけど…」

 スラルはランスが見事に相手を制圧したことに安堵するが、ランスの後ろからとぼとぼと歩いてきた元康を見て唇を噛みしめる。

 そんなスラルの視線に応えるように元康は首を振る。

「逃がした…か」

 スラルの言葉が周囲に重く圧し掛かる。

 これだけの罠を用意し、あれだけの一撃を与えたにも関わらず、相手の大将を逃してしまった。

 それはある意味この戦いの敗北を意味していた。

 絶好の機会を逃してしまった…その事実が黒部達の気を重くさせる。

 黒部とて分かっている…相手は間違いなく自分よりも強く、これほどのチャンスはもう巡って来る事はもう無いのではないかと。

 そんな周囲を余所に、ランスだけは肩に担いだ巴の尻を触りながら何時もの様に馬鹿笑いを浮かべていた。

 

 

 

「石丸! 大丈夫か!」

 何とか北条早雲と合流した石丸だが、ついに地に膝を落とす。

 その石丸を見て早雲はそのボロボロになった鎧を脱がせると、その下の傷を見て顔を顰める。

 そこにあったのは無数の火傷だ。

「これは…」

 通常ではあり得ない傷に早雲も驚く以外に無い。

「巴は…巴はどうなった…」

 石丸の言葉に早雲は黙って首を振るだけだ。

 それだけで彼女がどうなってしまったのか理解する。

 あの時…あの稲光が石丸に襲い掛かって来た時、自分の上に覆いかぶさったのは巴と自分の部下達だ。

(…巴に渡した道具が俺を救ってくれた訳か)

 石丸が手に入れてきた無数のアイテム…ハニージッポと守り神様を巴に渡していたのだが、それが皮肉にも自分を救う結果になるとは思わなかった。

「巴殿は…捕われた」

「そうか…」

 予想はしていたが、その結果に石丸は強く唇を噛む。

 あまりに強く噛みすぎたせいか、その唇からは血が滲む。

「俺のせいだ…」

 今回の事は全て総大将である自分の責任だ。

 妖怪王黒部の言葉を全て真実だと思い込み、その裏を読むことをしなかった。

 恐らくは妖怪ではなくあの異人だろう。

 まさかあんな技を隠し持っているとは思ってもいなかった。

 確実に自分を倒すために、今の今まで隠してきたのだろう。

「自分の単純さが嫌になるな」

「…そうだな。どこかで奴等を甘く見ていたのかもしれないな。だが、お前はまだ生きている。巴殿も直ぐに殺されるという事は無い…と思う」

「ああ。それに相手の被害も大きいはずだ…何の慰めにもならないけどな」

 石丸は痛む体を押して立ち上がる。

「次は…必ず倒す。そして巴も助ける。それくらい出来なければ俺も所詮はその程度だって事だ」

 後悔は一瞬、それから直ぐ先の事を考える。

 確かにこの一戦は良くて引き分け…いや、失った自分の部下の事を考えれば負けに等しい。

 それでも依然としてこちらが有利な事には変わりは無い。

「相手が切札を切ったって事はこれ以上の隠し球も無いって事だ。だったらまだやりようはある」

「そうだな。あれほどの力が連続して使えるなら、もっと前から使っていたはずだ。何らかの理由があって使えないと考えるべきだ」

 この状況でも決して藤原石丸は引かない。

 それは彼が紛れも無く英雄であるからだ。

 二人の英雄の争いはまだ終わらない。

 

 

 

 一方の黒部達はと言うと―――その顔は決して明るいものではない。

 被害は最小限に抑えた…と言っても、やはり少なくない犠牲が出ていたのだ。

 そもそもこのままではジリ貧故に、決戦という形で相手をおびき寄せ、犠牲が出た上での賭けに等しい一戦だったのだ。

 確かに負けはしてないが、勝ったともいえない戦いでしか無かったのだ。

 いや、切札を切ってしまった分こちらの負けと言ってもいいかもしれない。

「………失敗モリか」

 軍師であり、この一戦に全てを賭けていたと言ってもいい平森盛が沈痛な顔で天を仰ぐ。

 こちらの主な人物は皆無事だ。

 だが、それでも足立トオヨトという部隊の纏め役だった者が戦死してしまった。

 その他にも死んでしまった者も複数おり、それらの被害はバカにならない。

「幸いなのは黒部殿とランス殿が無事だという事と、藤原巴を捕らえた事モリか…」

 黒部は大怪我を負ったようだが、こちらに戻ってくる時にはもうぴんぴんしていた。

 ランスの方も、特に怪我も無く戦闘には全く支障は無い。

 他にもレダや与一といったものは無事であり、綾は怪我こそ負ったが次の戦いまでには直る程度の傷だ。

 そして藤原石丸の血族である藤原巴の捕獲…これは確かに嬉しいと言えば嬉しいのだが…

「今の状況で彼女がカードになるモリかね…精々時間稼ぎにしかならないモリよ」

 人質として使う…という事も考えられるが、この状況では返還を条件に戦の引き伸ばしを計るかしか無いように感じられる。

 確かに藤原石丸の血族というのは大きいが、圧倒的に有利なのは向こうなのだ。

 最悪の場合、彼女の事を無視して戦いを挑んでくるかもしれない。

 色々な悪い考えが連鎖的に浮かび、森盛の頭は既に限界だった。

「がはははは! 今夜はお楽しみだな!」

 そんな中、森盛の苦労を他所にランスが何時ものように馬鹿笑いを浮かべながら部屋へと入ってくる。

 勿論底抜けに明るい顔をしているのはランスだけで、黒部も苦い顔を浮かべている。

 主たるメンバーが集まったところで、スラルがランスの剣から姿を見せる。

「ランス…随分と暢気だけど、今の状況分かってる?」

 スラルの顔は何時もよりも非常に暗い。

 彼女としても、これは起死回生の賭けだという事は理解していた。

 そしてそれが失敗に終わってしまったという事も。

 スラルにはこういった人間の戦争というのは今までよく分からなかったが、こうして当事者となる事によって理解する事が出来た。

 自分にはまだ人間同士の戦争において、何か偉そうなことを言える程経験が無いという事も。

「ランス殿…作戦は失敗モリよ。正直もう打つ手が無いモリよ…」

「あん?」

 スラルの言葉と森盛の言葉にランスは怪訝顔をする。

 二人の顔は深刻なものであり、ランスも何時ものようにからかうのは躊躇われる空気が存在している。

 黒部の方も、戦争の知識は薄いものの今の状況が悪いには理解している。

 全力を持ってしても石丸には及ばなかったのは事実なのだ。

 勿論次の時には負けるつもりは無いが、今の状況では厳しいという事も自覚していた。

「今回の戦いでは負けてはいないモリが、勝ってもいないモリよ…でも被害は大きかったモリ。今でこそ脱走は無いモリが、このままいくと…」

「むっ…」

 森盛の言葉にランスも今の状況を真面目に考える。

 勿論ランスは負けるつもりは更々ないが、まさか今の状況がここまで深刻だとは考えてもいなかった。

「少し待て。俺様が一発逆転の作戦を考えてやる」

 ランスは少し不機嫌そうな顔をして、そのまま大足で出て行ってしまう。

 そんなランスを見て、スラルは不安そうにため息をつく。

 こんな時に何の助言をする事も出来ない自分が嫌になってしまう。

(…元魔王が情けないわね。こういう時に何もする事が出来ない)

 スラルはレダを見るが、レダは殆ど我関せずといった態度だ。

 実際にエンジェルナイトである彼女には、人間同士の争いなどどうでもいいのだろう。

 ただ、ランスと共にいる…それだけを考えて戦いに参加している。

 エルシールも貴族ではあるが、戦争経験等無いために何も言う事は出来ない。

 そんな重苦しい空気が支配している中、ただ一人黒部だけが楽しそうに大きく笑いだす。

「ランスの一発逆転の作戦か。実に楽しみじゃねえか」

「黒部?」

 黒部の言葉にスラルは目を丸くして黒部を見る。

「あいつがいないと俺はここまでやってこれなかったんだ。だったらあいつの言葉に乗るさ」

 その言葉にこの場に居る妖怪達が豪快に笑う。

「そりゃいい。俺も乗るぜ!」

「………(俺もやるぜ!)」

「いいでちゅね。ぼくもやるでちゅよ」

「…それが黒部の望みなら」

 妖怪達の言葉にスラルはしばらく呆然としていたが、直ぐに不敵な笑みを浮かべる。

「…そうね。私ならともかく、ランスなら人が考え付かないとんでもない作戦を考えそうだしね」

 妖怪達の言葉、そしてスラルの言葉に他の皆の顔も少し明るくなる。

 ここまで黒部達、そして人間達を率いてきたのはランスなのだ。

 そのランスが何か考えると言っているのだから、必ず何かある。

 そんな期待感を胸に、スラルはランスが消えた場所をただ見つめていた。

 

 

 

 そしてランスはというと、面倒臭そうな顔をしていた。

(なんか面倒臭くなってきたな)

 ランスは女性が絡まない限りは、非常に面倒くさがりで飽きっぽい性格をしている。

 今回はスラルのために何とか体を見つけようと思ったが…想像以上に面倒臭い事になってしまっていた。

 それもこれも藤原なんちゃらが悪いとランスは思っているが、本来の歴史においてはランスこそ完全なイレギュラーなのだ。

(大体それもこれもあの時にあいつを殺せない俺以外の奴等が悪いのだ)

 何時もの様に自分以外が悪いという考えに達するランスだが、ランスとしてもこの状況はどうすれば良いか少々頭を悩ませる。

 これまで何をしても勝ち続けてきたランスだが、今回は今までよりも更に圧倒的に不利だ。

 リーザス解放戦の時はランスは知らないが、バレスやエクスといったLP期の名軍師とも呼べる者の力が大きかった。

 ゼスでの戦いは相手が完全に魔軍であったため、頭を潰せばそれだけで終わっていた。

 JAPANの時も最後には魔人ザビエルが敵となる事で、JAPANがランスの下に一つになってとうとうザビエルを討ち取った。

(なんかヘルマンの時と似ている感じになって来たぞ。あの時よりも数は多いが、それでも何で俺様はこんな苦労をしているのだ)

 ヘルマン革命の時の事を思い出し、ランスはこの場に居ない自分の奴隷2号であるシーラの事を思い出す。

(シーラの奴も一度おしおきせんといかんな。大体あの時もシーラがもっと早く正体を明かしていれば…ん? 待てよ)

 シーラの事を考えていると、あの時のヘルマンでの戦いの事を思い出してきた。

 あの戦いはランスにとって別の意味で大きな衝撃を与えた戦いであり、ランスも意外にもその戦いの事を忘れてはいなかった。

(たしかあの時は…うーむ、行けるか?)

 あの時の事を思い出し、ランスは行けるかどうかを考える。

 メンバーに関しては問題は無い。

 あの時よりも遥かに自分は強いし、レダもヘルマンに居た時の誰よりも強い。

 パットンやリックが相手でもレダは勝つだろう。

(それに意外と戦える奴もいるからな…うむ、流石俺様だ! やはり天才だな!)

 ランスは何時もの様に自信を取り戻すと、そのままスキップをしながら自分の寝室へと向かう。

 そこでは、ランスが捕えた藤原の姫が待っているはずだった。

「がはははは! 俺様参上! む」

 ランスが自分のために用意された部屋の襖を開けた時、そこに居たのは着物を着た上品な女性だった。

 その女性は三つ指をついて軽く頭を下げてランスを迎える。

「お、おお…」

「ふふ…何かありましたか?」

「いーや、何でも無いぞ! がはははは! グッドだ!」

 ランスは上機嫌で巴の肩を抱いて布団へと連れ込む。

 そして改めて間近で巴の顔を見る。

 先の戦場でも感じた通り、やはりランスの目から見ても上位に入る程の美女だ。

 JAPAN人独特の空気とでも言えばいいのだろうか、同じJAPAN人であるはずの見当かなみからは到底発せられないであろう雰囲気がある。

 自分に献身的な上杉謙信や、山本五十六とも違う。

(なんか奈美さんに似てるな)

 ランスが思い浮かべたのは、リーザスでJAPAN風の宿を営んでいる堀川奈美だ。

 よく見れば何となくだが堀川奈美に何処か似ているような気がした。

(まあ何にせよグッドだ!)

 一方の藤原巴も改めてランスを見ている。

(これが異人…)

 こうして見るとただの好色な人間にしか見えないが、実際には恐ろしい力を持つ人間だ。

 だが同時に、この男を倒せばこの戦いが終わるとも確信している。

 石丸が1対1の戦いで妖怪王を撤退させたのは知っている。

 ならば脅威となるのはこの異人だけだ。

(私がここで異人を討つ…)

 巴は覚悟を決めていた。

 この戦いから戦を無くしたいという思いは彼女とて同じだ。

 そして石丸ならばそれが可能だいう事も、幼い時から彼を知っている自分には分かっている。

 だからこそ、ここで石丸の一番の脅威である異人を倒す。

 その結果、自分が死ぬことになったとしても悔いは無い。

 今まで藤原の姫として、好き勝手に生きてきたのだから、最後くらいは華々しく散るのも良いだろう。

「お前は敗者だ。だったらどうなるか分かってるな?」

「ええ。石丸も同じ事をしていますから。自分はやられるのは嫌だなんて理屈は通りません」

「がはははは! 話が早いな! だったら早速頂く事にするか」

 ランスは少し乱暴に巴の服に手をかける。

 巴はなすがままだが、その目だけは獲物を狙う猛禽類のように鋭い。

(…私の服をその手で脱がせた所で仕掛ける)

 ランスの手が自分の服を完全に脱がせた時、巴はランスに向かって掴みかかった。




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