ランス再び   作:メケネコ

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NC戦国ランス 21

 巴は機会を狙い続けていた。

 相手は間違いなく自分よりも強い…が、武器を持たない状態ならば自分の方が強いはずだ。

(相手を倒して、その首を一気に絞める…!)

 巴のプランは無造作に自分に触れようとして来る異人を『てばさき落し』で倒した後、一気に相手の相手の首を絞めて殺す事だ。

 そのためには相手の油断を誘う必要があるため、されるがままにしてきたのだ。

 そしてランスの手が巴の下着に手をかけた時、巴はすぐさま行動を移す。

 それは一瞬の出来事であり、巴の予測では異人を地に叩き付けた後、そのまま決着をつける…はずだった。

「なんとーーー!!」

 だがランスは叩きつけられる前に体を回転させ、投げの威力を完全に相殺する。

「!」

 それには流石に驚いたがそれでも巴は果敢にランスに攻めかかるが、

「甘いわ!」

 ランスの手には何時の間にか巴がしていた帯が握られ、右手で巴の手を封じるとそのまま帯を使って巴の腕を拘束する。

 そのまま力任せに巴を押し倒し、二人はそのまま布団へと倒れ込む形になる。

「フン、驚かせおって」

「………見抜いていたのですね」

 驚いたと言いながらもランスの顔には余裕が感じられる。

「お前、暗殺とかした事無いだろ。殺気がだだ漏れだったぞ」

「…なるほど」

 ランスの言葉に思わず巴は納得してしまう。

 手には帯が巻かれた上に、ランスは完全に自分の体に伸し掛かっている形になっている。

 そして感じられるのは異人の持つ力強さだ。

 確かに一見細身ではあるが、そこには強靭な筋肉が秘められているのが嫌でも理解できる。

「それにしても…よく私の投げが防げましたね」

「日本人というのはよく俺様を投げてくるからな。嫌でも体が覚えたわ」

 ランスは過去にも何度も女性に投げられている。

 リーザス城にいた堀川奈美もそうだし、ゼスのカオルにも何度も投げられている。

 そして巴の投げは堀川奈美の投げにそっくりだった。

「慣れない事はするものでは無いですね…」

 巴は諦めた様にため息をつく。

 最初から相手の掌の上だった事を悟り、巴は覚悟を決める。

(出来れば…帝が現れる所を見たかったかな)

 帝…それはJAPANの象徴とも言われ、このJAPANの絶対的な支配者でもある。

 石丸でも黒部でもどちらでもいい…とは言わないが、日本人として帝という存在を見てみたかった。

「私の負けです。好きにして下さい」

 これから自分はどうやって殺されるのか、そんな事が頭に思い浮かぶが不思議と後悔は無かった。

 姫という立場でありながら、割と好き勝手に生きてきた。

 ただ、それでも中々外へと出る機会には恵まれず、冒険に出ていた石丸の話が非常に羨ましく、興味を惹かれたものだ。

 今回の事も、石丸が止めるにも関わらずに戦場に出た自分の迂闊さが原因だ。

(でも…石丸を救えたからそれは良かったです)

 もし自分が今回の戦闘に参加していなければ、石丸は死んでいたかもしれない。

 それを防げただけでも十分だと思い、巴は体の力抜いて全てを受け止める覚悟をした。

「がはははは! だったら好きにさせて貰うぞ!」

 巴はそのまま死を覚悟して目を瞑る。

(どうやって殺されるのかな…やっぱり剣で斬られるのかな。それとも絞首刑かな。もしかしたら…犯し殺されるかもしれない)

 覚悟は決まっていはいるが、やはり死ぬのは怖い。

 しかしそんな巴の覚悟とは裏腹に、ランスの手が巴の手から放たれ、何か布のようなものが投げられる音がする。

 するとその後に来たのは、ランスの大きな手が巴の大きくて形の良い胸に触れる感触だ。

「え?」

 そのまま思う存分に胸を揉まれる感触に巴は困惑するしかない。

 慌てて目を見開くと、そこには自分の胸に吸い付いているランスの姿があった。

「ちょ、ちょっと!? な、何をしているんですか!?」

「何って…ナニだろ」

 見ればランスは何時の間にか全裸になっており、その逞しい肉体が巴の前に露わになっている。

「えーと逞しいですね…って違います。も、もしかして…?」

「当然頂くに決まっているだろうが。好きにしろと言ったのだから、思う存分好きにさせて貰うぞ」

「ま、待って! 私はそんな…むぐ」

 尚も言葉を放とうとする口をランスの口が塞ぐ。

 突然の事に巴は目を白黒させるが、そんな巴の困惑などお構いなしにランスは巴の体を味わう。

 自分の首筋に吸い付いたり、その大きな手が存分に胸を、そしてその先端にも刺激を与えてくる。

 初めての刺激に巴は驚き、何とか逃れようとするが、ランスの手がその頭に回されたかと思うと唇が再び塞がれる。

 今度はその口の中に舌が入って来るのを巴は呆然と受け止めていた。

 思う損に自分の口内を蹂躙した事に満足したのか、ランスの唇が自分の唇から離れていく。

 その目の前にはランスの顔があるが、視界が滲んでどんな表情をしているのかは分からない。

 何時の間にか手が自由になっている事に気づくが、その手には力が全く入らない。

「さーて、そろそろ本格的に頂くとするか。心配するな。俺様は処女が相手でも慣れているからな」

 潤んだ視界が元に戻っていくと、改めてランスの肉体がその目に入る。

 そしてその下半身からは非常に大きく、そして天を向いているランスのハイパー兵器が目に入る。

「あ…」

 勿論巴とてこれがどういう行為なのかは知っている。

 石丸も好んで多くの女性と寝ているのも知っているし、また必要な事である事も理解している。

 だがまさか、こうして自分がその立場になるなんて考えてもいなかった。

 漠然といつかはこうなるだろうと思っていただけで、まさかその日がこんなに早く来るなんて予想もつかない。

「という訳でJAPANの姫を頂きじゃー!」

「ま、待って…あ、あーっ!」

 下半身に感じる僅かな痛みと共に、何か大切な物を失ったような感覚に陥る。

 だがそれも直ぐに消え、そこからは痛みと共に自分が感じた事も無い感覚が襲い掛かってくる。

「がはははは! グッドだ! これは朝まで楽しめそうだな!」

「そんな…一日なんて…あ、あーっ!」

 巴の悲鳴は時間が経つにつれて嬌声と変わっていく。

 そしてランスの言葉通り、巴は朝までランスに好きなようにされてしまった。

 

 

 

「ぐがーぐがー」

 幸せそうな顔で眠っているランスを巴は複雑な顔で見ていた。

「本当に朝までだなんて…」

 未だに体には力が入らないため、動くのも辛い状況だ。

 だがそれ以上に、自分を殺そうとした女と一緒に床へ着くこの男の神経の図太さに今は呆れている。

「………」

 そんなランスの鼻を塞ぐと、少し息苦しそうにしていたランスだが、

「うがー! 何をする」

「おはようございます」

 ランスが飛び起きると、そこにはじとーっとした目で自分を睨んでいる美女の姿がある。

「何だ巴か…ではない! 何をしやがる!」

「…本当に朝まで私を好きにしたんです。これくらいいいじゃないですか」

 そう言う巴の顔は羞恥心からか、ほのかに赤く染まっている。

「何だ。お前だって後半はノリノリだったではないか」

「そういうデリカシーの無い事を言わない方がいいですよ。その辺は石丸とは違いますね」

 巴はランスの鼻をつつくと、一度深呼吸をして真剣な表情でランスを見る。

「それで…あなたが大陸からこのJAPANに来た目的は何ですか」

「目的だと?」

「ええ。あなたほどの人なら…大陸で思うままに力を振るう事が出来るでしょう。そんなあなたがどうしてこのJAPANに来たのですか」

 それを問う巴の目からは、ランスを殺そうとした時よりも更に強い力が秘められている。

 返答次第では何をするか分からない…そんな覚悟すら見えている。

 だが、ランスはそんな事などお構いなしに何時もの様に笑い始める。

「がはははは! そんなのは簡単だ! まだ見ぬ美人に会いに来たに決まってるだろうが! あとそれとスラルちゃんの体を何とかするためだな」

「………は?」

「JAPANには何回か来た事があるが、まだ全部を探した訳では無いからな。まだまだ冒険のし甲斐があるからな」

「ぼう…けん…」

「黒部が帝になれば探しやすくなるからな」

 ランスの言葉に巴は目を丸くする。

 何しろ彼女は、この異人が妖怪王を誑かしJAPANを混乱に渦に巻き込んだと思っていたからだ。

 実際にそれは間違いでは無く、ランスが行く所には必ず混乱と厄災が起こり、ランスに関わった人間の運命を大きく左右する。

 中にはランスに救われた者も多くいるだろうが、一方で不幸な目に合される者もいる。

 ランスが意図的にそうした訳では無いが、それがこの男の持つ運命なのかもしれない。

「こうして新しい女もゲット出来た訳だしな」

 ランスはそう言って巴を自分の側に抱き寄せる。

「本当に…それだけですか?」

「それ以外に理由があるのか?」

「…このJAPANをどうにかしたりとかは」

「そんな面倒臭い事は知らん」

 能天気に笑うランスに巴は一瞬呆然とした後、堪えきれなくなった様に口を押さえる。

「ぷ…くく…あははははは!」

 そしてとうとう笑うのを押さえ切れなくなる。

「な、何だ?」

 ランスはそんな彼女に困惑するが、彼女は今のランスの事など頭に無いように笑い続けた。

 

 

 

「あー可笑しかった」

 巴は随分と笑い転げてから涙を拭く。

 まさか自分が…いや、藤原石丸とJAPANを二つに分けて戦っている異人がこんな男だとは思ってもいなかった。

 大陸からの干渉ではないかと思った自分が非常に馬鹿らしかった。

 この男はただ単に…本当に女のためだけにJAPANに来たのだろう。

 そしてこの帝レースですら、自分が好き放題するための道具にしか過ぎないのだろう。

「でも運命というのは本当に残酷ですね。もしかしたらあなたが石丸と同じ道を歩んだかもしれかったのですが。いえ、それは無いですね」

 自分で言っておいて、自分でそれを否定する。

 この男は誰かの下で満足するような人間では無い。

 そしてそれは石丸も同じ…何かの間違いで一緒に戦ったとしても、結局は将来的にはぶつかってしまう、そういう間柄だろう。

 恐らくは黒部のような存在だからこそ、ランスと馬が合うのだろう。

「急にどうした。いきなり笑い転げおって」

「ごめんなさいね。本当に可笑しかったもので…」

 巴は改めてランスを前にして正座をすると、改めてランスに一礼してみせる。

 その動きはランスの目から見ても非常に優雅で美しかった。

 ランスが知る姫という存在に相応しいものだ。

「改めてご挨拶を…藤原巴と申します」

「うむ。俺様がランス様だ」

 ランスもそれを受けて堂々と胸を張って名乗る。

 最も二人とも全裸なので、今一締まらないのだが。

「それでひとつお願いがあるのですが…」

「俺様の女になりたいというのであれば何も問題は無いぞ」

「それはそれで面白そうなのですが…それよりも、妖怪王黒部殿に会わせて欲しいのです」

「…黒部みたいなのが好みなのか」

 ランスは黒部の姿を思い浮かべる。

「心配しなくても私にはそういう趣味はありませんよ。ただ、一人の人間として黒部殿に興味があるのです」

「まあ別にいいが。そういえば俺様の完璧な策を奴等に教えてやらなければならんな。全く、俺様がいなければ何も出来ん奴等だ」

 ランスは笑いながら己の服を着る。

 巴もそれを受け、無造作に投げられている自分の服を着こむ。

 簡易的な服であり、到底相手の大将との会談が出来るような服では無いが、この際それは関係ないだろう。

(さて…私も本気で黒部殿に挑まないと)

 妖怪王黒部…正直言えば、ずっと会ってみたかった。

 石丸と互角の存在で、この異人と共に石丸を苦しめてきた存在。

 人食いの妖怪として恐れられた黒部が何故ランスの手を取ったのか…それがどうしても知りたかった。

 

 

 

「うむ、お前ら揃っているな」

 ランスが来ると、そこには黒部軍の中の主なメンバーが勢揃いしている。

 その中でも人間達の表情は暗く、逆に妖怪の表情は何処か楽しそうにしている感じがある。

 ただ、ランスとしては常に自分の側にいるはずのスラルの表情が暗いのが気になった。

 一方のレダはというと、特に興味が無いと言わんばかりに何時もと変わらない。

「で、ランス。何かいい案が出たのか?」

 黒部は何処か楽しそうにしながらランスを見る。

 それを見た訳ではないだろうが、ランスも何時ものように得意気に笑うと自分のために用意された椅子へと座る。

「まったく。お前達は俺様がおらんと何もできん奴等だな。だがそんな事はどうでもいい。この俺様について来れば間違いないぞ」

「…どんな手があるっていうのよ。もうあの技だって通用するかどうか分からないわよ」

 スラルの不安そうな声にもランスはただ笑うだけだ。

「まあアレはアレで便利だが…今はそんな事はどうでもいい。俺様の素晴らしい頭脳が導き出した答えは簡単だ」

 ランスが立ち上がると、皆が一斉にランスに注目する。

「まずは俺様専用の部隊を作る。それもただの部隊じゃない。精鋭を集めた部隊だ。それで奴らに仕掛けるぞ」

 その言葉を聞いて人間達がどよめく。

 妖怪達はいまいち分からないようで、黒部も少し考え込むが結局は分からないようだ。

「で、それで何するってんだ」

「そうモリよ。今は藤原軍も行動を起こせないモリが、それはこっちも同じモリよ。むしろ被害はこっちの方が大きかったモリよ」

 森盛の言葉にランスは得意気に笑うだけだ。

「奴等が動けないからこそ今こっちが動くんだろうが。それに数は多く無くていい。そうだな…俺様も入れて15ほど居ればいいか。ただし中途半端な奴は駄目だ」

「15? まさかたったそれだけの数で動くっていうの!?」

「そうだ。数は少ない方がいい。俺様とスラルちゃんとレダは確定だな。それとエルシールもな」

「ちょっと待てよ。俺は入ってないのかよ」

 不満そうに声を出す黒部にランスはお前は何を言っているんだと言わんばかりに黒部を見る。

「当たり前だ。お前は囮だ囮。囮らしくぎゃーぎゃー騒いで奴らの注意を引き付けてればいいんだ」

「つまんねえな。俺はお前と一緒に暴れるのが何より楽しいのによ」

「アホか。お前がこっちに来たら狙われるだけだろうが」

「わかったよ。こいつは退屈だな」

 黒部は苦笑いを浮かべるが、他の者は皆難しい顔をしている。

「たったそれだけでいけるモリか? 移動も大変モリよ」

「…そうか、そういう事か」

 厳しい顔をする森盛を余所に、スラルは何かを思いついたように顔を上げる。

 そこには先程の重苦しい空気は無く、楽しい事を思いついたように目をキラキラさせている。

「ランス。メンバーは私が選んでもいいかしら?」

「そこは任せる。可愛くて強い奴を選べよ。がはははは! エルシール、お前はアレの用意をしろ」

「アレ…はい、わかりました」

 アレ、と言われるだけでエルシールはランスが何を言っているのか理解した。

 確かにアレが有ればこの戦いに大きな利点になるだろう。

 何より、元々が使っていない場所が多すぎたのだ。

 本来は、こうした事に使われるものなのだろうとエルシールは常々思っていた。

「森盛。今のメンバーの中で足が速くて尚且つ強い奴を選ぶわ。あなたの意見を聞かせて欲しいわ」

「い、いいモリよ。でも何の事か説明をして欲しいモリよ」

 スラルと森盛は相談を始め、それに呼応するように場が慌ただしくなっていく。

「そうだ、黒部。巴がお前と話をしたいだと」

「巴? ああ、お前が捕まえたあの女か」

「…俺様の女だから食うなよ」

「そんな事しねぇよ!」

 

 

 

 応接間―――と、いってもそんなに豪華なものでは無い。

 むしろ粗末といっても良い物で、申し訳程度の物しか置かれていない。

 そんな中で藤原巴はただ黒部を待っていた。

 その周囲には誰も居ないが、だからといって逃げられるという事は無い…と巴は確信している。

 優秀な忍びが周囲に控えているのは間違いないだろう。

 それに何よりも、巴は妖怪王黒部と話がしてみたい。

 彼女は捕虜という身でありながら、妖怪王黒部と出会えるのを非常に楽しみにしていた。

 そしてやや乱暴な足取りで黒部が入ってくる。

 黒部は用意されていた質素な台に腰かけると、改めて藤原巴を見る。

 確かに妖怪である自分の目から見ても美人であるのは間違いないだろう。

 ランスが自分の女だというのも理解出来る。

 だがそれよりも…

「おいお前、そんなに俺が珍しいか」

「あ…これは申し訳ありません。ご挨拶もせずに失礼致しました」

 巴も改めて黒部に対して優雅に一礼してみせる。

「藤原巴と申します。捕虜という身にも関わらず、こうして妖怪王と話をする機会を与えてくださって感謝します」

「別に構わねえよ。人間が俺と直接話がしたいなんて珍しいからな」

 黒部もこうして帝候補となり、人と話す機会は多くなってはいたが、それでも人食いの妖怪というのが先だって恐れを抱かれるのが殆ど。

 勿論黒部もこれは仕方のない事だと割り切っているし、中には黒部であろうとも物怖じする事無く話しかけてくる人間もいる。

 ランスに至っては、今でも自分を巨大なわんわん扱いしてくる程だ。

「で、俺に聞きたい事ってなんだ」

「はい…突然の事で申し訳有りませんが、あなたは何故帝を目指すのですか」

 巴は真っ直ぐに黒部の顔を見る。

 これだけは直接黒部へと聞きたい事だった。

 今回の帝レースは正直石丸と清盛の一騎打ちになると巴は思っていた。

 いや、巴だけでなく、このJAPANに住まうものならば誰もが考えたことだろう。

 しかし実際には、今石丸を苦しめているのは間違いなく黒部…そして異人であるランスだ。

 だが、何故黒部が帝へと興味を持ったのか…それがどうしても知りたかった。

「帝か…まあ簡単だ。楽しそうだからだよ」

 巴の言葉に黒部は凄みの有る笑みを浮かべる。

「楽しそう…ですか」

「おう。まあ俺の事をよく知ってる奴等ならもう感づいてるだろうからよ。俺は別に帝になんて興味はねぇ。だが、帝レースって奴には興味があるだけさ」

「…それだけで戦っているのですか」

「ああ。だがお前ら人間に俺をどうこう言うのはおかしいだろうが。元々お前達は俺がいなくても争っていたんだからな」

「それは…」

 黒部の言葉に巴は何も言い返す事が出来ない。

 確かに黒部が動かずとも戦は起きていたし、この帝レースも言わば戦争の延長上にあるものに過ぎない。

「まあ石丸が俺の想像以上にやるってのは驚いたがな。まさかランス以外で俺と渡り合う奴がいるとは思わなかったぜ」

「そうですか…」

 正直巴としては、もっと切迫した事情があるのだと思っていた。

 何しろ妖怪を束ねるだけでなく、人間と協力して藤原家に対抗しているのだ。

 もう少し行動が早ければ、石丸はもっと苦戦を強いられていただろう。

 今藤原家が有利なのは、妖怪達が一致団結するのが遅かったからに過ぎない。

「…では今からでも石丸と話し合う事は出来ませんか?」

「そいつは無理な相談だ。俺はあいつと決着をつけてぇからな…それにランスの奴も納得しないだろうよ」

「ランス殿…ですか」

 巴は黒部率いる妖怪を率いているのがランスなのでは無いかと思ってしまう。

 普通に考えれば、人間がこの妖怪の本拠地ともいえる所で好き勝手に振舞えるはずが無い。

 それにいくら黒部といえども、急に人間の協力を取り付けるのは不可能というものだ。

(早雲の言うとおり、あの人が実質的なトップという事ですね…)

 そう思うと同時に、もしかしたらこの戦を回避出来るのではないかという思いも浮かんでくる。

「ランス殿は何故あなたを帝にしようとするのですか? あの人は大陸の人なんでしょう?」

「さあな。あいつの考えてる事はわからねえよ。まあハッキリ言えるのはあいつにとっては帝だろうがなんだろうが、自分が好き勝手する道具にしか過ぎないって事だな」

「…それはそれは」

 黒部の言葉を聞いて巴は少し頭が痛くなっていく。

(少し石丸と似てる所があると思いましたけど…多分根っこの部分では決して分かり合えないのでしょうね)

 石丸がランスに強い興味を抱いている事は知っている。

 ランスを部下にしたいという事を何度も口にし、その度に北条早雲に止められていた。

 巴自身がランスという人間に出会った事、そして今の黒部の言葉で分かったのは、ランスという人間がとにかく自由であるという事だ。

 何者にも縛られないタイプだという印象を受けたが、どうやらそれは正しかったようだ。

(でも…それでも何とかしないと駄目ですよね。このJAPANのためにも)

「話はそれだけか?」

「はい。有難うございます。それで私の処遇ですが…」

「それはランスに全部任せてるぜ。俺自身はお前の事は別にどーだっていいしな」

「そ、それはそれで複雑ですね」

 妖怪王黒部にどうでもいいと言われて流石に巴も凹む。

 こうして巴と黒部の会談は終わる。

 ある決意を藤原巴に抱かせて。

 

 

 

 そして次の日、再びランス達は集結する。

 そこには若干不機嫌な黒部と、満面の笑みを浮かべているスラルの姿がある。

「…なんだお前。あからさまに機嫌が悪いという顔をしおって」

「うるせえ。俺を仲間はずれにしやがってよ。全くつまらねえ」

 まるで子供のようにいじける黒部を見てランスは少し微妙な顔をするが、直ぐにスラルを見る。

「で、スラルちゃん。俺様の部隊のメンバーは揃ったか。勿論可愛い子じゃないと駄目だぞ」

「うん、そういう戯言はどうでもいいからね。森盛と相談してメンバーを集めたわ」

 スラルは森盛がリストアップした紙を魔法で持ち上げて読み上げる。

「まずは綾でしょ。そしてほのかに与一。そして妖怪からは窮奇とナクア、元康と段蔵」

「………」

 スラルの口から放たれる名前に、ランスの顔がどんどん渋くなる。

 理由は単純、ランスが希望していた美女の集まりではなく、中にはとんでもない奴も存在している。

「大まおーとエルシールとレダ…そして私とランスよ」

「おいスラルちゃん。何でそんな奴等を集めた。綾とほのかはともかく、男なんぞいらん」

「そう言うと思った。でもね、私は勝つための用意をしてるのよ。ランスだって負けたくは無いでしょ」

 スラルの言葉にランスも何も答えない。

 なんだかんだ言ってもランスとて分かっているのだ。

 勝つためにはあらゆる手段を取る必要があると。

「…フン。俺様についてこれなければ置いていくだけだ」

「そう…じゃあ決まりね。私に出来るのはここまで。後はあなた次第よ」

 今のスラルには前日のような重苦しい空気は無い。

 ランスなら何かやってくれるのではないかという期待の目でランスを見ている。

(そう…ランスは魔人や悪魔だけでなく、魔王や神と渡り合ったんだから。それに比べれれば、この程度どうって事無いわよ)

 そんなスラルの目を見て、ランスは何時ものように笑う。

「がはははは! お前ら俺様について来い! 奴等をぶっ潰すぞ!」




人数ですが、残りのメンバーはモブです
ランス10のカナ・ブッタギルみたいなやたらと強いモブ
正直これ以上キャラを増やすと私の力では描写しきれないです

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