その昔…まだ人という種族が創られる遥か前の時代。
ルドラサウムを楽しませるべく、三超神が色々な舞台を整えていた最初期の時代。
試作の魔王であるトロスの失敗から、三超神は『魔人は魔王に逆らう事が出来ない』という制約はつけたが、後につけられる『魔王の寿命は1000年程度』という制約が無かった時代。
そこには最初にして最強の魔王であるククルククルが、この時代のメインプレイヤーのドラゴンと争いを続けていた。
ククルククルは長い生の中で着々と力をつけ、その力を1級神に近づくまでに高めていた。
だが、その力をもってしてもドラゴンとの戦いは終わらない。
そんな中、ククルククルも生物として当然の事である食事をしていた。
その巨大すぎる体から伸ばされる触手が、この時代のモンスターとも言える存在…貝を貪り食っていた。
貝はククルククルの好物であり、数多の貝がククルククルの体内に収まっていた。
勿論貝達もただ食われるのを良しとしていた訳では無く、数多の強者である貝がククルククルと戦ったが、その圧倒的な力の前には無力だった。
しかし、そんな貝の中でも突然変異…人間でいう所の藤原石丸、ルーカ・ルーンのような絶対的な強者が生まれる事もある。
その貝の内の一体が、ダイクウマリュウカイキングと呼ばれる貝だ。
魔王ククルククルの触手の先端には、まるで人間の女性のようなモノがついており、今まさにその触手の先端と、ダイクウマリュウカイギングが睨みあっていた。
巨大…まるでドラゴンのような大きさを持つその巨大な貝は、魔王ククルククルにも臆する事無く向かって行く。
勿論魔王ククルククルが本気ならば、いかにダイキュウマリュウカイキングであろうとも簡単に捕食されてしまうだろう。
しかしククルククルは今はドラゴンと激しい戦いを繰り広げている最中であり、ダイクウマリュウカイキングに対しても全力で向かって行ける訳ではなかった。
それどころか、ククルククルは新たな魔人として欲しいとも思っていたくらいだ。
何しろ作った魔人達はドラゴンに敗れて魔血魂になってしまっている。
残っているのはケイブリスくらいだが、この時期のケイブリスはまだまだ弱く、それこそ穴に隠れているくらいしか出来ない時代なのだ。
そしてククルククルとダイクウマリュウカイキングの戦いが激化し、ついにはその大地に地割れを作る程にもなる。
ダイクウマリュウカイキングはその地割れに飲み込まれ、消えていく。
ククルククルはその光景を触手の先端で見ていたようだが、消えてしまった物はすでにどうしようも無いと考え、直ぐにドラゴンとの戦いに戻る。
こうして、ダイクウマリュウカイキングはkuku期から退場を余儀なくされてしまった。
魔王ククルククルがドラゴンの1体であるアベルに止めを刺され、アベルが魔王となりAV期が始まる。
だが、ダイクウマリュウカイキングはこの時代においてもまだ地割れの底から這いあがる事が出来ずにいた。
それだけ自分の体が完璧に地割れに嵌ってしまっており、抜け出す事が出来ない。
だが、その長い年月でもダイクウマリュウカイキングは生きていた。
冬眠しながらいずれ自分が動けるようになる時期まで、辛抱強く待ち続けたのだ。
ルドラサウムによって、この地上の粛清が始まってもダイクウマリュウカイキングはまだ動けなかった。
それでも彼は待ち続けた。
魔王アベルから魔王スラルへと代変わりしても、まだ動く事は出来ない。
だがそれでもまだまだ待ち続けた。
そしてその機会はとうとうやってきた。
時は魔王ナイチサの時代となり、とうとうその時期がやってきた。
それは聖獣オロチによって、JAPANが生み出された時だ。
それによってダイクウマリュウカイキングはとうとう地割れから逃れる事が出来た。
が、そこでまた新たな問題が発生した。
地割れからちょうど体を出せる状態ではあったのだが、今度はその地割れから地上に上がる手段が見当たらないのだ。
あまりに巨大なダイクウマリュウカイキングの重さでは地上に辿り着く事が出来ない。
またも八方塞かと思いきや、今度は何か水のようなものが染み出し来ており、それを利用すれば不思議と地上へと昇る事が出来た。
実に数千年ぶりの地上に、ダイクウマリュウカイキングは喜びを噛みしめた。
あれほど感じられた魔王の力は感じられず、空を我が物顔で飛んでいたドラゴンの姿も見当たらない。
今度こそ我々貝の時代がやってきたのだ。
今こそ同士を集め、貝の時代を築くのだと決心した時、
「はーにほー!」
そこに居たのはダイクウマリュウカイキングも見た事の無い、王冠を被りマントを羽織った真っ白い奇妙な物体だった。
ダイクウマリュウカイキングは最初の相手だと言わんばかりに真っ白い物体に襲い掛かった。
が、結果は無残なものだった。
その真っ白い物体には手も足も出なかった。
「ごめんねー。今はもう君達の時代じゃないんだよー」
ダイクウマリュウカイキングが再び目が覚めた時は、またあの地割れの中に居た。
またここに戻って来たのかと意気消沈したが、100年単位で再び水が流れてきて出る事が出来た。
が、その度に奇妙な白い物体に敗れ、再び地割れの中へと戻されてきた。
それが何回続いたか、再びこの地上へと姿を現した時、そこにはあの白い物体と共に、見慣れぬ奴等が自分の目の前に居た。
それはダイクウマリュウカイキングが一度も見た事の無い姿ではあるが、誰であろうと関係ない。
今度こそ奴等を倒し、貝の時代を作り上げるのだ。
「グォォォォォォォォ!!」
ダイクウマリュウカイキングは己を鼓舞するかのように、大きな咆哮をあげた。
「これこそダイクウマリュウカイキングだよ!」
「わーかっこいー!」
「わーい大怪獣だー!」
ハニーキングが何時もの様に陽気な声を出している横で、流石のランスも少し呆然として眼前の巨大な貝を見ていた。
確かにそれはランスが収集している貝の中でも珍しいものに値するだろう。
特徴的なのは、貝殻から生えている二本の角で、その角は確かに武骨ながらも美しさがある―――とランスの目には映っている。
「おい、なんだアレは」
「え? だからあれがダイクウマリュウカイキングだよ」
ランスの声にもハニーキングは謎の踊りを踊りながら答えるだけだ。
「………うむ、確かに素晴らしいな。だが流石にこれはな」
「アレはランスの目から見たら素晴らしいんだ…」
ランスの発した言葉にスラルもどこか呆れながら目の前の貝を見る。
スラルもランスのコレクションを見せてもらった事はあったが、生憎とスラルには貝の良さはあまり分からなかった。
スラルが魔王の時代では、まだ貝はLP期ほど珍しいものでは無かった。
前時代の遺物…スラルから見ればその程度のものだった。
何しろ、彼女が魔王として生まれた時代こそが『人類』というあらたなメインプレイヤーが登場した時。
その頃のスラルの脅威は、やはりその時代でも恐ろしく強いドラゴン、そしてムシといった連中だった。
貝は特段スラルの目に留まる事も無く、主に食料として獲られていた。
「でもこれは流石に…」
それは流石のスラルも呆然とするしかない程の存在であり、まずはその視覚に圧倒される。
何しろこれほど巨大な貝というのは今まで見た事も聞いた事も無い。
あのドラゴンにも匹敵するほどの巨大な貝からは、恐ろしい程の力が感じられる。
それこそドラゴン…いや、魔人にすら匹敵するだろう。
その力は、あのカミーラすら上回っているのではないかと感じてしまうほどだ。
巨大な頭部に比例するように大きな四肢は、それこそ巨大な樹木にも等しい。
もしスラルが魔王だったならば、魔人へと誘う事も考えていただろう。
それ程までの力を持っているのが嫌でも理解出来た。
「…おい、本当にこれでいいのかよ」
黒部はその巨体に似合わぬ冷や汗をかきながらランスを見る。
ランスが貝の収集が趣味なのは知ってはいるが、目の前のコレは黒部の目から見ても異常だ。
明らかに自分を上回っているのを嫌でも理解させられる。
コレはそれほどの力を持った存在なのだ。
それこそ自分が生まれる元となった、聖獣オロチに近いのではないかと思うくらいだ。
「今更引き下がれるか! 行くぞお前ら! 突撃だ!」
ランスも半ばヤケクソになってダイクウマリュウカイキングに向かって突っ込んでいく。
こうして古代に生きる貝、ダイクウマリュウカイキング…いや、大怪獣ダイクウマリュウカイキングとの戦いが始まった。
戦いは始まったのだが…それは果たして戦いと呼べるのが疑問のものだった。
それは一重に、ダイクウマリュウカイキングが強すぎた、という事にある。
「うぎゃー!」
ダイクウマリュウカイキングの口から放たれた冷凍ガスが周囲の気温をあっという間に下げる。
他にも謎の粘液や、放水等の攻撃により近づく事すらままならない。
「ちょ、何なのよこれは!」
レダも何とかその攻撃を防ぐが、何しろ手数が多い、一撃が重いとこちらをその圧倒的な力で押している。
その大木のような手足はあの黒部ですら軽々と吹き飛ばされ、既に多数の者がその力の前に倒れている。
「ほ、本当にこんな生き物が今まで何もしてなかったんですか!?」
薙刀を構えて何とかダイクウマリュウカイキングの攻撃を防ぐ巴にも何時もの楽しそうな様子は無く、本気で目の前の恐るべき存在に畏怖していた。
これに比べれば、石丸だろうと早雲だろうと赤子のようなものだ。
「わ、私の弓が全く通用しない…」
与一は果敢に矢を放つが、その巨体の前にはあまり意味が無いようで、傷一つおわせる事が出来ない。
「わーっ!?」
矢が当たった事に怒りを覚えたのか、ダイクウマリュウカイキングの口から触手が放たれ、与一の体を絡め取る。
そのままその触手で与一の体を弄り―――そのまま与一の体を乱暴に放り投げる。
「あうっ」
そのまま地面に落下した与一は絡みつく粘液に気持ち悪がりながらも、再び弓を構える。
「グォォォォォォ!!」
「うわー! ダイクウマリュウカイキングが凄い怒ってる!?」
「王様ー! 王様ー! 今まで以上に怒ってるよ!?」
見ればダイクウマリュウカイキングの頭と思われる部分が真っ赤に染まり、その角が怒りのあまりか赤黒く染まっている。
「うーん…何でだろうね? 与一ちゃんに何かあるのかな?」
ハニーキングは不思議そうに首(?)を傾げるが、怒り狂ったダイクウマリュウカイキングは最早誰にも止められるものでは無かった。
口から放たれる水、そして触手の嵐は例えランスであってもどうする事も出来ない。
その水が当たると、ランスやレダでも力が抜け攻撃を加える事が出来なくなる。
触手の一本一本が強靭で、その一撃はレダや黒部ですら吹き飛ばされるほどだ。
そして何よりも、
「うがぁぁぁぁぁ! いい加減にくたばれ! ラーンスアターック!」
ランスの必殺の一撃がその頭部に炸裂するが、
ガンッ!
まるで鋼にぶつかったような音を立て、ランスの剣が弾かれる。
「なんつー硬さだ! 化物ジジィ並だぞ!?」
流石のランスもその硬さには手を焼いている。
まるでドラゴン形態の魔人ノスの鱗のような感触がランスの手に伝わる。
それに加え、こちらの力を奪う水に、全てを凍らせかねない冷凍ガス、そして大木すらもなぎ倒す触手の前にはランス達でも手が出ない。
「さ、流石にコレは…」
スラルもあまりの相手の硬さと強さには舌を巻くしかない。
ランスの剣に魔力を付与するのだが、その口から放たれる水を浴びるとその力が霧散されてしまう。
魔法バリアで何とか援護はしているが、それも焼け石に水にしかなっていない。
ランス、レダ、スラル、黒部といった絶対的な強者を前にしてもそれを悠々と上回る姿はまさに魔人に等しい。
いや、スラルが知る魔人の誰よりも強い…それこそカミーラやケッセルリンク、メガラスすらも上回っているかもしれない。
つまりは、この状況はどうする事も出来ない…それが現実なのだ。
「ぐわあああああ!!!」
何度もダイクウマリュウカイキングの攻撃を受けてきた黒部がついに地に倒れる。
既にエルシール達も倒れ、立っているのはランスとレダ、そして巴の三人だけになっていた。
「こ、こいつ本気で強いわよ! レッドアイよりも遥かに上よ!」
流石のレダも全身で息をするほど疲労している。
ダイクウマリュウカイキングの攻撃を一番受け止めているのが彼女なのだから、それも当然だろう。
「どうするんですか…」
巴も既に力が入らないのか、薙刀を支えにして何とか立っているような状態だ。
「ぐぐぐ…おいスラルちゃん! 何かいい手段は無いのか! 元魔王だろうが!」
「元は元よ! こんな奴どうしろって言うのよ…!」
流石のスラルもここまで規格外の怪物相手にはどうしていいか分からない。
何しろ自分が今まで見てきた生命体の中でも上位に入ってくる程の強さなのだ。
「来るわよ!」
レダの言葉にランスが反応し、襲い掛かってくる触手を避ける。
「鬱陶しいわ!」
レダと巴はその触手を避けるしかないが、ランスはその触手をあっさりと斬り払う。
その様子にダイクウマリュウカイキングは苛立ち気(?)にランスを睨むが、簡単に触手が生え変わり再びランスを襲い始める。
縦横無尽に襲ってくる触手をランスは時には避け、時には切り払いながら相手の出方を見る。
そして隙を見てランスアタックを放とうとするが、
ブシャー!
「どわっ!」
ダイクウマリュウカイキングの口から放たれる水を浴びせられて、ランスアタックを放つための気が散らされてしまう。
スラルはそれを見て、もしかしたらいけるかもしれないと考えが思い浮かぶ。
(問題なのは…ランスにそれが出来るかどうかね)
自分の考えはかなり無茶だし、自分でやれと言われても決して出来ない事。
だが、剣の腕に関しては自分が知る限りでは一番…そのランスが出来ないのであれば、最早誰も出来ないだろう。
「ランス! 考えがあるわ!」
「なんだ!」
「あの貝の口の隙間! 触手や水で攻撃する時も全部そこから! そしてランスは触手を斬れる…だからあの中身を狙うしかない!」
「何だと!?」
スラルの言葉には流石のランスも驚く。
何しろ相手の体はそれこそドラゴンのように大きく、その分その口も高い位置にある。
さらにはあの力が抜けてしまう厄介な水に、レダすらも吹き飛ばす程の威力の触手、そして冷凍ブレス等多彩な攻撃をしてくる所だ。
それに相手もその巨大な体で動きながら襲い掛かってくる。
そんな中でその口の中を狙えというのは無謀と言うほかない。
「それしか無いのか!?」
「もうそれしか無い! こいつには私の魔法の付与も難しい! もうランスの技以外で相手を何とかする手段が無いのよ!」
「ぐぐぐ…」
スラルの言葉を聞いて流石のランスも悩む。
それはランスの腕でも相当の難易度があるからだ。
これまで何度も窮地を切り抜けてきたランスだが、流石にこのような事はやった事は無い。
「前にも言ったでしょ! イメージよ! カミーラのブレスを斬った時の様に、ランスが出来ると思えば必ず出来るわよ!」
スラルも半ばヤケクソになって言うほかない。
本当にこれ以上有効な手段を打ち出す事が出来ないのだ。
自分の魔法では相手にダメージが通らず、付与の力を使おうとしても相手に無効にされる。
そうなるともう純粋なランスの剣技に縋るしかないのだ。
「だー! だったらやってやるわ!」
ランスも若干自棄になりながらもその剣をダイクウマリュウカイキングに向ける。
ノスとの戦いの時よりも条件は悪いが、それでももうやるしかない。
全てはランスがまだ見ぬ貝のために。
(とは言ってもな…)
ランスは何時もの様に強がってはいるが、内心ではかなり難しいと分かっている。
無敵結界に頼り切り、人間だからと見下している魔人ならばその隙をつけばいいのだが、目の前の存在は何を考えているか分からない怪獣みたいなものだ。
それ故に相手の隙をつくといった戦術は取る事が出来ない。
そもそも会話すら成立しないのだから、相手がどういうタイプの存在なのかが分からないのだ。
力で相手を押し切る以外に方法は無いのだ。
「まったく…とりあえずあなたは起きなさい! ヒーリング!」
レダは倒れている黒部に近付くと、黒部に回復魔法をかける。
黒部は一度痙攣すると、勢いよく起き上る。
「あぶねえ! 思わず気絶してたぜ! ってどわー!」
起き上った黒部だが、そこに待っているのはダイクウマリュウカイキングの触手だ。
黒部すらも吹き飛ばす触手の前では、流石の黒部も逃げの一手を打つしかない。
肩にレダを乗せたまま素早い動きで触手の嵐を防ぐ。
時たま放たれる冷凍ビームはレダが魔法バリアで防いで、何とかランスと合流する。
「よしお前ら俺様の盾になれ!」
「いきなり何言ってるのよあんたは!」
突然の言葉にレダも言葉を荒げる。
「奴の口を狙って俺様がぶっ放す! もうそれしか無いぞ!」
「口を狙って…か」
ランスの言葉にレダは難しい顔をするが、たしかにもうそれしか手段は残されていない。
目の前の相手は、エンジェルナイトの自分を遥かに上回る存在だ。
その放水攻撃は、必殺の一撃を放とうとするランスにとっては大きな障害だ。
それを何とかするためには、自分や黒部が盾になるしか方法は無い。
「だったら絶対に成功させなさいよ!」
「もうお前に任せるしかないってのか」
「…お願いしますね、ランスさん」
レダ、黒部、巴ももう覚悟を決める。
この中で一番攻撃力が高いのはランスであり、ランスでしかもう相手にダメージを与える方法は無いのだ。
「チャージ!」
ランスは剣を構えて力を溜める。
ただのランスアタックでは相手には届かない。
迂闊に近づいても、相手の放つ放水の餌食になるだけだ。
だとすれば、残る手段はあと一つしかない。
「あの象バンバラの魔人との戦いを思い出してよ!」
「わかっとる!」
ランスもスラルの言っている事はよく分かる。
象バンバラの魔人との戦いの時、相手の放つ霧状の麻薬のせいでランスも近づく事が難しかった。
その時に、何とか遠距離から攻撃をしようとして一度使った技を思い出す。
アレからもその技を必要とする場面が無かったため、ロクに特訓もしてこなかったが、それ以外で相手にダメージを与えるのはもう不可能だ。
「さて私も…」
スラルも精神を集中し、ランスの剣へと付与を開始する。
この最中に放水攻撃を食らってしまえば、ランスの必殺の一撃も自分の付与も全ては無駄になってしまう。
そのためにレダ、黒部、巴は必死に相手の攻撃を防ぐ。
ダイクウマリュウカイキングの触手を黒部が必死で防ぎ、冷凍ガスと放水攻撃をレダが何とか防ぐ。
巴も必死に黒部とレダのフォローをしているが、もうその体は限界が近い。
何度目かの触手攻撃を黒部が防いだとき、ランスはその一瞬の隙をついて駆けだす。
そのランスを見てダイクウマリュウカイキングはその口から水を吐き出す。
それに当たればこれまでの苦労は全て水の泡と消えてしまう…のをレダがその身を挺してランスを庇う。
水を浴びた事でレダの体から力が抜けていくが、相手に向かって行くランスを見てレダは少し安心してその意識を手放す。
そして放たれる触手を黒部がその身で防ぎ、巴がその黒部の体を支える。
柔術LV2を持つ彼女は何処を支えれば黒部が一番力を出せるか、それを完全に理解している。
その甲斐あって、黒部は触手の一本を弾き飛ばし、そのままダイクウマリュウカイキングに向かって駆けだす。
それを見て巴は自分の意識を手放した。
再びランスに向かって放たれた触手を黒部はその体で受け止める。
それだけで己の骨が軋み、悲鳴をあげるがそれでも黒部は構わずにその触手に爪を突き立てる。
それが功を奏したのか、ランスに向かっていた触手が黒部に向けられる。
流石の黒部もそれはどうしようも出来ずに吹き飛ばされる。
そして出来た一瞬の隙をランスは見逃さなかった。
「とっととくたばれ! ラーンスアタタターーーック!」
それは普段のランスアタックの様に跳び上がって勢いよく振り下ろす何時もの一撃では無く、その大地にしっかり足をつけて放つ一撃だ。
そしてそれは刃となってダイクウマリュウカイキングに向かって行く。
いくら相手の体が大きいとはいえ、貝ゆえにその口は非常に細い。
が、それでもランスの一撃はほぼ確実に相手の口元に向かって行く。
「グギャアアアアア!」
スラルの魔力の付与が乗ったランスの一撃は相手の角を斬り、そのままその口内に吸い込まれてゆき、ダイクウマリュウカイキングはその口から血を吐き出す。
それと共にその口からいくつもの貝が吐き出されるが、それと同時にランスに向かって冷凍ガスが放たれる。
「くっ!」
スラルは最後の力を振り絞って冷凍ガスからランスを守る。
が、その最後の魔力も無情にも相手の攻撃を完全に防ぐことは出来なかった。
バリアは早々に割れて、そこに触手の一撃が放たれる。
「あんぎゃー!」
流石のランスももう限界だったのか、その触手の一撃を防ぐことが出来ずに吹き飛ばされる。
「ぐえっ!」
そのまま倒れている黒部の体に当たると、打ち所が悪かったようでそのまま意識を手放してしまう。
(ラン…ス…)
限界まで魔力を使ったスラルも、そのまま意識を保てなくなって気絶してしまう。
倒れた人間を見て、ダイクウマリュウカイキングは勝ち誇ったように雄叫びを上げる。
確かに中々に自分を苦しめたが、あのククルククルには程遠い。
その勝利のまま、倒れている者達にとどめを刺そうとした時、あの白い物体が自分の前に立ち塞がった。
「これ以上は駄目だよ。こんな所でランス君たちを死なせるなんて出来ないからねー」
立ち塞がったハニーキングは、放たれる触手をパンチで容易に防ぐ。
放水攻撃も、冷凍ガスもハニーキングには全く効果が無い。
「さーて、悪いけどここでサヨナラだよ。また100年後にねー。キーングフラッシュ!」
ハニーキングから放たれたハニーフラッシュ…いや、キングフラッシュがダイクウマリュウカイキングの巨体を簡単に揺るがし、その威力のまま相手をその崖から突き落とす。
「殺しはしないよ。君もこの世界の怪獣の一体だしねー。もし君を倒すとしたらそれはボクじゃなくて、この世界のメインプレイヤーであるべきだからね」
こうしてダイクウマリュウカイキングは、再び地の底へと消えていった。