ランス再び   作:メケネコ

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NC戦国ランス 26

 藤原石丸と妖怪王黒部の帝レース…それは本来の歴史を完全に逸脱し、まさに混沌とした状況へと変化してた。

「「「あいやーあいやーあいやー」」」

「「「はにほーはにほーはにほー」」」

「「「たおせーたおせーたおせー」」」

 このJAPANに今ハニーの群れが列をなして進軍していた。

「ハニーフラーッシュ!」

「えーい! ぷす!」

「「「うわー!」」」

 ハニーの群れが放つハニーフラッシュ、そして前衛に立つレッドハニーとブルーハニーのフォークが藤原の兵士達に襲い掛かる。

 ハニーの放つハニーフラッシュは防御する事は出来ても決して避ける事は出来ない。

 一部は陰陽師たちの障壁に防がれるが、それ以外はハニーフラッシュの威力の前に吹き飛ばされる。

「な、なんとか出来ないのか!?」

「だ、だめです! 陰陽師の術が通用しません! そ、それにブラックハニーやダブルハニー…そしてスーパーハニーの姿もあります!」

「な、なんとういう事だ…!」

 部下の言葉に将軍は絶句する。

 ハニーという種族は一見するとふざけているし、訳の分からない種族ではあるがそのバリエーションは豊富であり、上位のハニーは普通に強い。

 中でもブラックハニーやスーパーハニー、ダブルハニーやトリプルハニーは並の冒険者では手が出ない程の強さなのだ。

 ハニーは個性的で有りながらも人間社会にある意味溶け込み、ハニーの中には人間の町でバーテンダー等を務めているほどだ。

 幸いにもこれまで人類とハニーがぶつかったという記録は無かったのだが…今目の前にはハニーの群れが実際に立ち塞がっているのだ。

 将軍がこれ以上の前線の維持は難しいと判断し、撤退を命じようとした時、

「ぐがっ!」

「しょ、将軍!?」

 その将軍の頭部に矢が突き刺さる。

 これにより更なる混乱を招き、藤原軍は壊走してしまう事になる。

 それを遠目で見ながら、矢を放った本人である与一は満足そうに笑みを浮かべる。

「あいやー! 流石与一ちゃん!」

「わーい! 将軍を倒したぞー!」

 与一を台に乗せて担いでいるハニー達が喝采を上げる。

「まあ当然よ」

 その与一は顔色一つ変えない。

「凄いねー、与一ちゃんってクールだねー」

「普段は色々とアレなのにねー」

 与一の事を梅太郎と呼び、忌み嫌っていたはずのハニーが与一を称える。

 その与一だが、その体には明らかな変化がある。

 確かに与一は中性的な顔立ちであり、一見すると女性にも見える程の美貌の持ち主なのだが、男だ。

 が、今の与一には女性的な丸みがあり、さらしによって覆われているがその胸は膨らんでいる。

「それにしても…本当にあんなのがあるなんてね」

 与一は嬉しそうに、そして本当に幸せそうに笑う。

 それはハニー達に拉致をされてから少し後の事だった。

 

 

 

「どうしようかしらね…」

「むぐぐ…」

 ランスとスラルの二人は唸っている。

 それは勿論この状況を打破するのが非常に難しいからだ。

 ランスのゲリラ作戦は確かに功を奏したが、それでもこの状況をひっくり返す事は出来ていない。

 ヘルマンの時とは違い移動要塞のような便利な拠点も、パットン一味が予め用意していた反乱軍や瓦解したヘルマン第4軍のような存在もいない。

 何よりも、あの時のヘルマンとは違い誰も藤原石丸の治世に不満を持っていない。

 逆に妖怪という理由で黒部が人間から忌み嫌われている程だ。

 JAPANの時のように上杉・武田・北条の大国による三つ巴も存在しないため、ランスを持ってしてもつけ入る隙が見当たらないのだ。

 純粋に力と力の勝負ではあるのだが、最初のスタートラインが違うためどうしても国力の差がそのまま力の差になってしまうのだ。

 つまりはランスの力を持ってしても手詰まりの状態になっているのだ。

 ランスは軍事的な教育を受けている訳でも無いのに、その能力は歴戦の名将であるバレスやレリューコフも認める所ではあるが、それ故に今の状況を何とかする手段が見当たらない。

 いくらランス個人が強かろうとも、数の力の前にはどうしようもないのが現実だ。

「こういう時にどうすればいいのか全く分からない…」

 スラルもスラルでこんな状況は初めてのため、どうすれば良いのかが分からない。

 元魔王であるため当然ではあるが、自分に対抗できる存在は一応は存在しなかったため、自分が不利になるという状況が初めてだった。

 知識はあるが、こういった軍事的な知識は殆ど無いのでどのようにランスをフォローしていいか見当もつかない。

 勿論普通の者よりも良い言葉は出るだろうが、それでも平森盛に比べれば劣っているのはスラル自身が理解している。

 人を見る目はあるつもりだが、その人の数が相手に比べて少ないのだからそれも中々発揮できない。

「ねえランス。本当にどうするの」

「今考えている」

 スラルの言葉にランスはそう答えるが、答えはやはり出て来る事は無い。

 ランスはかつてのJAPANとの違い、そして思うように事が運ばない事に少しイラついている。

 織田家を見事にJAPANの当主とする事は出来たが、その状況はJAPANが各国で争いをしていた事が大きい。

 しかし今は巨大な藤原家という厄介な存在がランスの邪魔となっている。

 ランスの力を持ってしても厳しい状況というのは、ランスにとっても初めての事だ。

 が、それでも何かを引き寄せるのがランスという人間の性質なのだろう。

 それは第1級神すら動かし、最後にはこの世界のシステムを破壊した男…即ち世界のバグは今の時代でも健在だった。

「ランスさーん!」

 突如としてランスを呼ぶ女性の声に、ランスはその声の方を見る。

 そこには息を切らせながらランスの下へ走ってくる与一の姿があった。

 それを見てランスは露骨に嫌そうな顔をする。

 男に対するランスの態度としては至極当然だが、それでもランスが与一を嫌うのは、呪い付きの状況とはいえ女性の体だった与一を抱いたからだろう。

「ランスさん…やりました!」

「えーい鬱陶しい!」

「あんっ!」

 ランスの蹴りが与一に突き刺さるが、与一はそれでも嬉しそうな顔をしながら倒れる。

 その顔にはランスにぞんざいに扱われているにも関わらず、笑みが浮かべられている。

 それを見てランスはさらに不愉快になるが、与一は直ぐに立ち上がるとランスの手を取る。

「ランスさん…ボクはランスさんの望みを叶えられる存在になりました!」

「な、何をする!?」

 与一はそのままランスの手を自分の胸元へと寄せる。

 

 ムニッ

 

「む…? な、何だと!?」

 本来は固い胸板しか無いはずの与一の胸には、ランスがこれまで何度も何度も触れてきたモノがある。

 ランスは驚いてその両の手で与一の目に見えて膨らんでいる胸を揉む。

 ケッセルリンク程の大きさは無いが、ランスの手に収まるサイズの胸だ。

「あんっ」

 ランスに胸を揉まれている与一は嬉しそうに身をよじらせる。

「…貴様! まさか如何わしい手術でも受けたんじゃないだろうな!? 何を詰めて来た! ぷりょか!? ハニースライムか!?」

「そんな事無いですよ。その証拠に…ホラ。穢れたバ○ルの塔も無いですから!」

 与一がランスの手を己の股間へと導くと、そこにはランスの股間にもあるブツが存在していなかった。

「な…」

 それには流石のランスも絶句するしかなかった。

「…いや、一体何が起きてるのよ」

 スラルもスラルでこの超展開には何を言って良いかも分からない。

 ただ分かっているのは、与一が男から女へなった事、そして…

「わーい与一ちゃんかわいいやったー!」

「メガネをかけてよー」

「与一ちゃん最高だよ! 梅太郎なんて最初からいらなかったんだよ!」

 その与一を崇めているハニーの連中だ。

「はーにほー! まさか世界にあんな神殿があるだなんて…あれこそがまさに世界にも名高いモロッコの地だったんだね!」

 ハニーキングも非常に上機嫌でヘ○ン状態になっている。

「…私もう突っ込むの疲れたわ。本当にランスと一緒にいる人って大変よね」

 ランスと一緒にいると確かに楽しいし退屈はしない。

 だがそれ以上に起こる波乱と超展開には流石に疲れてしまう。

 ランスは誰かを探しているようだが、その人達もランスには苦労しているのだろうなとまだ見ぬ人達を思ってため息をつく。

「うんうん、こうして悪の梅太郎は滅んだし何も問題は無いね。さーみんな! コロッケを食べに行こう! そしてまだ見ぬメガネっ子を不幸にしに行くんだ!」

「わーいコロッケー!」

「不幸なメガネっ子はどこだー!」

「おい待て!」

 ハニーキングの言葉に一斉にハニー達がその後に続くのを見て、ランスはそのハニーキングを呼び止める。

「何かな? ランス君。もう悪の梅太郎は滅んだから、ボク達は新しい不幸な娘を探しに行きたいんだけど」

「まあちょっと耳を貸せ」

 ランスはニヤリと笑いながらハニーキングに耳打ちをする。

 その姿を見て、スラルは再び嫌な予感にあるはずのない背筋が凍る感覚に襲われる。

 それはあの地獄での一幕…ランスとハニーキングの裏取引のせいで、スラルは酷い目にあったのだ。

 最も、その後でランスとハニー達には自業自得と言える結末が待っていたのだが。

「…が…で…どうだ」

「え…そんな事…おお…」

 ランス達の言葉は聞こえないが、スラルにとっても決して良い事では無いのだろうという確信がある。

 何しろこの男とハニーにはこの世界の常識が通用しないのだから。

「はーにほー! いいねいいねランス君! まあボクが直接手を貸すのは無理だけど、他の皆が納得するのならボクは構わないよ!」

「がはははは! 当然だ!」

 得意気に笑うランスとハニーキングの前に、スラルは今日何度目かのため息をついた。

 

 

 

「…で、何なんだよこの状況はよ」

 混沌とする戦場で、黒部を含めた首脳のメンバーはこの状況を呆れた顔で見ていた。

「はにほーはにほー!」

「やれー! 藤原なんてぶっ飛ばせー!」

「メガネだよ! 女の子にはメガネをかけるんだよ! 根暗っぽい女の子なら尚いいよ!」

 黒部達の目の前にあるのはこれでもかと言わんばかりのハニーの群れだ。

 その口から放たれるハニーフラッシュは軽減不可能、回避不能というやっかいなものだ。

 それが大量のハニーから放たれるのだから、相手としてはたまったものではないだろう。

 更には相手の陰陽師の術もハニーには効果が無く、相手の兵士達も部隊の先頭に立つブラックハニーやダブルハニー、そしてスーパーハニーに蹴散らされている。

 そしてハニーの神輿に担がれた与一の矢が相手の武将に突き刺さり、相手を蹂躙していく。

 その与一を狙おうにも、ハニー達が身を挺して与一を守るためにその攻撃は届かない。

「がはははは! 行け行け!」

 そしてその後方にはやはりハニーが担ぐ神輿の上でハニー達を煽るランスが居る。

「あーもう! もうどうでもいいわよ! 白色破壊光線!」

「…もう意味が分からないわ」

 スラルはその上で自棄になったかのように白色破壊光線を放つ。

 その魔法はハニー諸共纏めて藤原の兵を吹き飛ばすが、魔法に対して絶対的な防御力を持つハニーはその光を浴びながらも平気で行進を続ける。

 エルシール率いる魔法使いの部隊も、ハニーを平気で巻き込んで魔法を放つ。

 しかしその魔法による被害は相手にしかいかないのだから、相手としてはたまったものではないだろう。

「も、もうだめだー!」

「撤退だ! 撤退するぞ!」

 藤原家の将軍の言葉に相手が一斉に撤退を始めるが、それを許すランスでは無い。

「がはははは! 行くぞお前ら! この機会を見逃すな! 突撃ー!」

「おー!」

「殿様に続けー!」

「この女の子、見るからに根暗で不幸そうだぞ! メガネをかけろー!」

 ランスの言葉にハニー達は更なる行進を続け、逃げ遅れた女性の兵士達はハニー達に捕まってメガネをつけられる。

 それがこの戦場の至る所で行われていた。

「…なあ黒部」

「まあ…これがチャンスなんだろうなぁ…」

 窮奇の言葉に黒部もまた疲れた声を出す。

 確かに自分達は大幅に不利だったのは確かだ。

 この状況を挽回するためには、何か大きな一手を指す必要があったのだが、まさかこんな手を用意してくるなんて誰が想像しただろうか。

 ランスが用意した手段は本当にとんでもなく、なんとハニーを自分の戦力として使うことだった。

「与一も乗り気だからいいのでは?」

 ほのかの言葉に誰も頷く者はいなかった。

「…本当にこれでいいのかという疑問はどうしても出ますが」

 綾の言葉に皆が一斉に頷く。

 ハニー達がこちら側に協力する条件として、ランスは与一とのセックスをハニーに見せ付けるというとんでもない事をハニーキングに持ちかけた。

 人間の女に対して、色々と酷い事(ハニー視点)をするランスは絶好の人間だったのだろう。

 しかも与一も割りとノリノリでセックスをしていたため、まさにまくらの言うとおり誰も不幸にならない解決策がこれだった訳だ。

 その代わり、相手方が不幸になっているのかもしれないが、ランスはそんな事は全く気にしていない。

「がはははは! 勝てばいいのだ勝てば!」

 ランスはそのまま妖怪、そしてハニーを率いて藤原の軍勢に向けて攻め入る。

「もうどーにでもなーれ」

 非常に上機嫌なランスを尻目に、スラルは疲れた声で何度目かのため息をついた。

 

 

 

「ハニーが…ハニーが…うわー!」

「茂野君! 一つになった僕達は無敵だよ!」

「そうだね佐藤君! それじゃーいくよー!」

「「ハニーフラーッシュ!!」」

 藤原の武士を前に、一体のダブルハニーのハニーフラッシュが襲い掛かる。

 避けることが出来ないその一撃が武士を吹き飛ばす。

「はにほー! メガネの似合う娘はどこかな?」

「あ、佐藤君! こっちにメガネが似合いそうな野暮ったい娘がいるよ!」

 ダブルハニーが指差す先には、一人の陰陽師がへたり込んでいた。

 ハニーは陰陽術が一切通用せず、しかもダブルハニーのその高い能力の前ではガードがいない陰陽師など相手にならない。

「あ…」

「うーん、いいねえ! この野暮ったくていかにも成績が下から数えた方が早い感じが凄いよ!」

「そうだね! 運動をしようにもあまりにも下手で周りから参加を嫌がられてそうな感じが凄いね!」

「ひ、酷い…」

 ハニー達の酷い言葉に陰陽師の女性がダブルハニーを強く睨む。

 が、その睨んだ目には涙が浮かんでいる。

「さあ、君にはこのお婆ちゃんがつけているようなダサいメガネが似合うと思うんだ」

「そうだね。これをつければもっといじめられる事間違いなしだよ!」

「「さあさあさあ!!」」

 ダブルハニーがメガネをその手に持って女性に迫った時、

「「あ、あれ?」」

 ダブルハニーの体が中心から綺麗に真っ二つになる。

「さ、佐藤君…僕達の体が…」

「ああ…茂野君…また僕達は離れ離れになるんだね…」

 そう言い残し、ダブルハニーはそのまま動かなくなる。

「無事か!」

「い、石丸様…!?」

 そこに立っていたのは、総大将であるはずの藤原石丸だった。

 少しの間療養していたのは知っているが、まさかここまで来ているとは思ってもいなかった。

「急げ! 一旦退くぞ!」

 石丸の登場に混乱していた前線が見事に落ち着きを取り戻す。

 だが、そんな石丸の前にはハニー達が立ち塞がる。

「はにほー! こいつ藤原石丸だね!」

「うんそうだね! こいつが梅太郎を囲っている例の変態なんだね!」

「梅太郎を保護するとは許されないね! 粛清だー!」

 訳の分からない事を言いながら、レッドハニーを始めとした無数のハニー達が石丸におそいかかる。

「ハニーフラッシュ!」

 ブラックハニーの放つハニーフラッシュは石丸に直撃するが、石丸はその程度では止まらない。

「邪魔だ!」

「「「あいやー! 割られた!」」」

 それどころかその一瞬で全てのハニー達を斬り裂くほどだ。

 斬られたハニー達はそのまま倒れて動かなくなるが、石丸を囲うハニーの数は減らない。

 そこを1体の金色のハニーが石丸に突っ込んでいく。

 そのスピードはとてもハニーとは思えない程で、流石の石丸もそのハニーに対してはカウンターで一閃とはいかない。

「オッス! オラスーパーハニー!」

 そこに居たのは金色のボディに、その胸元にSと書かれたハニーだ。

「わー! スーパーハニーのガイヤが来たぞ!」

「ボクだけじゃないよー! マッチュ! オレテガ! 奴にジェットハリケーンアタックをかけるぞ!」

「おう!」

「わーい! ボク達金色の三連星!」

 三体のスーパーハニー達が列になって石丸に突っ込む。

 そして先頭のハニーがハニーフラッシュを放つと、その先頭のハニーの後ろからさらにスーパーハニーのハニーフラッシュが襲う。

 流石の石丸もスーパーハニーの放つハニーフラッシュにはダメージを受ける。

 そしてバランスを崩した所で最後のハニーが放ったパンチによって吹き飛ばされる。

「わー! 流石金色の三連星!」

「じゃあボクは赤い彗星!」

「わーい! 今日からボクは青い巨星だー!」

 わいわいと騒いでいるハニー達だが、その実力は非常に高い。

 何しろスーパーハニーは、この大陸を含めたモンスターの中でも最上位種に相当する強者だ。

 それが三体もいるのだから、並の人間であればもう立つ事すら出来ないほどのダメージを受けているはずなのだ。

「やかましい!」

「「「わー!!!」」」

 しかし石丸は並では無い。

 この世界の最初の覇者とも言える存在であり、この大陸を統一一歩手前まで成し遂げたまさに英雄だ。

 個の実力では、LP期までの人間の中でも3本の指に入る強者なのだ。

「がはははは! いい様だな!」

 そこにハニーの神輿に担がれたランスが現れる。

「ランス…」

 流石の石丸ももう気づいている。

 今のこの現状は、間違いなくこの異人が関係しているという事を。

 この男は、妖怪だけでなくハニーすらも動かしているのだ。

「大人しく帝のなんちゃらを渡せば命だけは助けてやるのを考えてやってもいいぞ」

「何言ってやがる。こうして大将のお前がのこのこ出て来たんだ。お前こそ俺の部下になるなら命は助けてやるぜ」

 ランスと石丸の視線が交差し、そこから凄まじい圧力が発生する。

 二人の英雄の持つ何かが、この場を支配しているのだ。

「がはははは! だったらそのまま死ねーーー!!! 行くぞスラルちゃん! レダ!」

「もう分かったわよ。確かにこれはチャンスだものね」

「まあここで死んでもらうのが一番よね」

 そしてランスには正々堂々や一対一で決着をつける等という発想は存在しない。

 ランスにあるのはただ勝つという事のみだ。

 そこが武人気質である石丸とは決して分かり合えない溝なのかもしれない。

 ランスが石丸に剣を向けた時、そのランスに向かって式神の一撃が放たれる。

「石丸! 退くぞ!」

「早雲! 助かったぜ!」

 式神の一撃を放った早雲は、自分の一撃が相手にダメージを与えたかと期待したが、ランスの前にはハニー達が立ち塞がっている。

 魔法は効果が無い事を利用して、自分達を壁にしているのだ。

「がはははは! 逃がすと思ってるのか!」

「生憎とそんな安い命じゃないさ!」

 ランスが尚も追撃しようとしたとき、そのランスの前に今度は鬼が立ち塞がる。

 その隙に石丸達は見事なまでの撤退を行う。

 流石のランスも鬼を前にしては簡単に追撃する事は出来ず、石丸達を取り逃がしてしまう。

 しかし、確実に相手の戦力を奪っていっているのも事実だった。

 

 

 

 ???―――

「…アレが例の異人か。成程な、フィオリの奴が目をつける訳だ」

 ランスと石丸の二人を見ながら、第3階級悪魔である月餅はその翁の仮面の下で苦々しい声を出していた。

「もし奴と石丸より早く会っていれば…いや、無駄か」

 月餅は本能的にランスを利用しようとする事を否定する。

 あの人間は石丸と似ているようで、根本的には大きな違いがある。

 石丸にはある種の使命感や、責任感があるのだが、あの人間からはそれが全く感じられない。

 間違いなく、金や権力などには興味を示さない人間だ。

 そういう人間を騙し、利用するのが悪魔ではあるのだが、月餅の目的を果たすためにはどうあってもあの人間は大きな障害となるだろう。

「やはり奴の力が必要か…最初の状況ならば、石丸の勝利は動かないと思っていたのだがな…」

 月餅はあくまでも藤原家のアドバイザーという立場を崩さない。

 自分自身が動くのはあまり得策では無く、あくまでも藤原石丸という絶対的な指導者という絶好の隠れ蓑が必要なのだ。

「しかしあの人間…どういう人間なのだ。まさかハニーすらも動かすとは…」

 今回のハニーの介入は完全に予想外の事だ。

 当然備えなど出来るはずも無く、自分の伝えた陰陽術が効果が無いという事が非常に痛い。

 魔法である以上、ハニーをどうにかする事が出来ないからだ。

「…だがそうも言ってはいられんか。計画のためにはやはり藤原石丸でなければならぬ。そうで無ければ、これまで築いてきた事が無に帰してしまう」

 全ては悪魔王ラサウムのため…そのために月餅は人に対し色々な知識を伝えてきたのだ。

「だが奴にも釘を刺す必要はあるか…奴の気まぐれに振り回されるわにはいかぬからな」

 月餅はその表情の変わらぬ翁の仮面の下で、苦々しい表情を浮かべていた。


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