ランス再び   作:メケネコ

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NC戦国ランス 27

「で、私の力を借りに来た訳ね」

「不本意だがな。しかし手段を選んでどうにかなる相手でも無さそうだ」

 月餅の秘密の間には、ランスとも因縁のある悪魔である第参階級魔神フィオリがいた。

 月餅はランスを排除するために、この悪魔の力を借りる事を選んだ。

 それも全てはあの異人を排除するため…そして悪魔界のためだ。

 フィオリの力を借りるのは月餅としても避けたかったが、このままずるずる戦いが続けば石丸とてどうなるか分からない。

 何しろ相手は全く得体の知れない相手であり、今度はどんな手段でこちらを追い詰めてくるか分からない。

 さらには自分が動くのは都合が悪く、ここは相手と因縁のあるフィオリが動く方がまだマシなのだ。

「だが条件がある。これだけは守ってもらわなければ困る」

「…何かしら」

 月餅の言葉にフィオリの端正な顔が歪む。

 ここは同じ階級である月餅の管轄であり、本来は自分がこの場にいるのはあまり好ましくないのは理解している。

 それに月餅の計画は、三魔子の一人であるプロキーネお墨付きの計画だ。

 フィオリとしてもそれを邪魔するのは本意では無い。

 彼女もまた、悪魔界のために働く悪魔の一人なのだ。

「お前が手を出すのは異人達だけに留めてもらう。それが絶対的な条件だ」

「…成程ね」

 月餅の言葉も最もだとフィオリは少し苦い顔をする。

 彼の遠大な計画は今も動いている。

 確かにイレギュラーは排除したいが、今のJAPANという地には余計な事をしてほしくないという考えは理解出来る。

 仮にあの人間とエンジェルナイトを排除できても、最終的に月餅の目的が達成できなければ意味は無いのだ。

「分かった、と言いたい所だけど、確約は出来ないわね。いえ、ハッキリと言えば私だけではその条件を満たす事は出来ない」

「………」

「そんな顔しないでよ。言ったでしょ、私だけではとね。だから…あなたも協力しなさい」

「…まあいいだろう。しかしどうするつもりだ?」

 月餅の言葉にフィオリは唇を軽く上げて笑う。

 フィオリは最初からそのつもりだったからだ。

「それは…」

「…! 貴様、正気か!?」

 フィオリの言葉は月餅にとっても驚くべきものだった。

「ええ、正気よ。そしてこれはあなたの出した条件を満たす事にもなる」

「………いいだろう。貴様の申し出を受けよう」

 月餅はフィオリの提案に少しの間考えるが、自分の出したある意味無茶な条件をフィオリは飲んだのだ。

 ならば月餅もフィオリの提案を受け入れるしかなかった。

「それでどれくらいで用意できるかしら?」

「少し待て…流石に直ぐには出来ぬ。それまでは貴様も動くなよ」

「ええ分かったわ。じゃあ用意が出来たらまた呼んでちょうだい」

 フィオリはそう言って薄く微笑むと、そのまま消えていく。

 消えていくフィオリを見ながら、月餅はその翁の仮面の下で顔を歪める。

「奴め…要求するだけ要求しおって。まあやむを得ぬか…まさか私が直接異人とエンジェルナイトと対峙する訳にもいかぬ」

 月餅自らランスを消しに行く事は出来ない。

 相手は自分と同階級の魔神であるフィオリを退けた人間なのだ。

 そんな奴が相手では、負けぬまでも自分の正体が露見する確率も高い。

 それに相手にはエンジェルナイトも居るため、万が一にもその正体を知られる訳にはいかない。

 エンジェルナイトは基本的に皆強いため、いくら第参階級魔神の月餅といえども逃してしまう可能性は否定できない。

 今回は何よりも、神に気取られぬ様に計画を進める必要があるのだ。

(フィオリは以前に奴らと個人的な因縁があるようだからな…万が一の時はフィオリに責任を取ってもらえばいいだけだ)

 フィオリには悪いが、これも全ては悪魔界のためなのだと月餅は自分に言い聞かせる。

「ここまで長い時をかけてきたのだ…そして藤原石丸という最高の隠れ蓑が現れた…このような機会はこれから先に訪れるか分からぬ」

 藤原石丸は月餅にとっては最高の隠れ蓑であると同時に、確かにこの世界を纏める器を持っているという力を感じさせた人間だ。

 その藤原石丸の信用を勝ち取るために知識を、知恵を、そして戦う力を与えた。

 それがようやく芽生え、花開こうとしているのだ。

 いくら悪魔王であるラサウムや、その息子の三魔子が慎重であろうとも、こんな所でもたついている暇は無い。

「いずれは石丸には大陸に出て貰わねばならぬ…そのためには私の邪魔をして貰っては困る」

 月餅はその翁の仮面の下で、決意に満ちた表情を固めていた。

 全ては悪魔王であるラサウム、そして悪魔界のため月餅は次の行動を起こす。

「さて…まずは奴の要望を叶える準備をしなければな。全く…奴も無茶な事を言うものだ」

 

 

 

 今日も戦場では相も変わらずハニー達の甲高い声が響き渡る。

「はにほーはにほーはにほー」

「わーい! 今日も戦争ごっこだー」

「でも梅太郎だけは絶対に許さないよ!」

 ハニー達の快進撃は止まらず、藤原家が圧倒的有利だったにも関わらず、ハニーの参戦によってどんどんと追い込まれていった。

「がはははは!」

 そしてそのハニーを、妖怪を、そして人を巧みに使ってランスは藤原家を追い詰める。

 リーザスの名将であるバレス・プロヴァンス、ヘルマンの象徴とも言えたレリューコフ・バーコフ、そして長い間JAPANで色々な将を見てきた3Gが見事と認めたランスの手腕はやはり本物なのだ。

「…なんかハニーがついただけであっさり逆転出来そうな展開が凄い複雑」

「まあ…気持ちは凄い分かる」

 スラルとレダは非常に複雑な顔をして頷き合う。

 ハニーは全力でふざけているが、その種族の強さを嫌でも見せつけられた感じがする。

「あいやー! 矢が飛んで来たよ!」

「わーい! じゃあ土で壁を作るよー!」

「こねこね…なんか子供と作ってるみたいでいやらしいよね」

 飛んでくる矢に対し、ハニー達は急いで土で即席の壁を作ってその矢を防ぐ。

 そして何処からともなく現れたはっぴーやうっぴー達が攻撃をしかける。

 ハニーの力は強大で、魔法が全く効かないという事も有り藤原の兵達は防戦一方となってしまっている。

「とにかく…私もそろそろやるかな。雷神雷光!!」

 スラルの放つ広範囲の魔法がハニーごと藤原の兵達を襲う。

 魔法が効かないハニー達は、スラルの放つ雷の嵐の中を平気な顔で進軍する。

 そしてそのままハニーフラッシュの嵐が放たれ、ついには藤原家は壊走状態となってしまう。

「がはははは! 俺様勝利ー!」

「わーい! ボク達の勝ちだー!」

「メガネの似合いそうな子を捕えろー!」

「ちょっとえっちな事をしてもいいよね…」

 こうしてランス達はハニーの力を利用して戦況を覆していく。

 確実に勝利は黒部の元へと近づいていく…はずだった。

 

 

 

 

「あーしんどい」

「…大丈夫か、石丸」

 藤原家の陣地で、石丸は大の字になって倒れていた。

 それはやってくる黒部軍…その大半を占めるハニー達への対処が非常に大変なためだ。

 何しろ藤原家に絶対的な覇権を齎せていた陰陽師の術が全く通用しないため、どうしても武士や足軽、そして弓兵の出番が大きくなる。

 無論、武士こそが藤原家の最大の強さではあるのだが、それも陰陽師のバックアップが大きいことが嫌でも分からされた。

「まさかハニーの大軍があれほど厄介だとはな…」

「それよりも…何故ハニーがお前にあれほど敵意を持っているのかが俺には理解できない」

 今回のハニーの厄介なところは、石丸に対してやたら高い敵意を持っている事だ。

「で、梅太郎とは何だ?」

「俺が知るかよ」

 やたらとハニーが連呼する梅太郎という言葉は石丸も全く理解できない。

 理解できないが、それがハニーの士気を高めているのかハニー達の勢いは凄まじいものだ。

 何よりも、まさかハニーがあれほどの強さ、そして連携技能を持っているとは思ってもいなかった。

 魔法が通用しない、遠距離の攻撃も出来る、何よりも集団での行動をアレほどまでこなせるなど考えてもいなかった。

「何よりも厄介なのはあの異人だがな」

「正直俺はあいつを使いこなせる奴が居るのか疑問だな。それがお前でもだ」

 そして一番の問題は、そのハニーを指揮しているのがあの異人である事だ。

 ランスはハニーを巧みに使い、時にはハニーを囮にしてこちらの弱い部分を的確についてくる。

 ハニーを盾にして強力な魔法攻撃を放ったりと戦い方に全く容赦が無い。

 ハニーの大軍に加え、ランスを大将にした機動力のある部隊は確実に藤原家を追い詰めていた。

 このままでは負けるのではないか…そんな気配が部下達にも少しずつ広がっていっている。

 実際に、石丸と早雲にしてもこれでは厳しいのではないかという思いが少しずつ広がっている。

「異人を何とかしなければいけないのだが…正直それが一番難しいな」

「ああ…あいつは個の強さもそうだが、戦における機転や空気を読むのが異常に上手いみたいだしな…」

 相手がただ個人で強いだけならまだ良かった。

 だが、相手は確かな指揮能力を持つだけでなく、確かな人望を持っている。

 このJAPANの争いにも関わらず、異人であるあの男が中心人物になっている。

 それを考えれば恐ろしいことだが、何よりもハニーを味方につけるという無茶苦茶な事をやってのけるのが一番恐ろしい。

「…こうなったら俺も奴らみたいに一発逆転の手を考えるか?」

「やめておけ。お前はそいうタイプの人間じゃない。それにまだ諦めるのは早いだろう」

 早雲の言葉は慰めでもなんでもない。

 事実、彼らの相談役とも言える月餅が動いている。

 彼ならば、きっと上手くやってくれる…そういう信頼がある。

「出来れば俺の力だけで倒したかったんだけどな…」

「お前の負けず嫌いも相当だな。だが、事はもうそんな簡単な事じゃない」

 早雲の言葉に石丸は不貞腐れたように早雲から顔を背ける。

 そんな事をしても何も変わらない事は分かっているが、それでもささやかな抵抗…のつもりだった。

 だが、それも次の言葉で全てが変わる。

「た、大変です!」

「どうした。報告は落ち着いてしろ」

 息をきらせて入ってきた伝令の兵に早雲は落ち着くように諭す。

(…まさかもう奴等が動いたのか? いくらなんでも早すぎるが…あの異人が相手だとどう動くかが全く分からないのは困ったものだな)

 再びあの異人が動いたのかと思うと少し頭が痛くなるが、それを嘆いても仕方が無い。

 出来るだけ迅速に対処をするだけだと考えていたとき、伝令の口から開かれたのはとんでもない言葉だった。

「地獄が…地獄の門が開いて鬼達が現れました!」

「何だと!?」

 その報告には石丸も飛び起きる。

 地獄の門は普段は閉じられており、滅多な事では開かれないはずだ。

「被害は!?」

「そ、それが…黒部達の居る西の方で開いたようです」

「こんな時に…」

 早雲もこの報告には思わず冷や汗が流れる。

 地獄の門が開いたということは、大量の鬼がこの世に現れたということに他ならない。

 今でこそ月餅から伝わった術である陰陽術等での制御が可能ではあるが、その前には鬼による被害は後を絶たなかった。

 月餅がその地獄の門を閉じたからこそ、今このJAPANはある意味人同士で争えるほどの平穏が手に入ったのだ。

「行くぞ!」

「え?」

 石丸の言葉に伝令の兵は思わず疑問の声を上げる。

 鬼が現れたのは、敵である黒部の地なのだから、これはむしろチャンスだと思ったくらいだ。

「鬼が出た以上、相手が何だろうが関係は無い。鬼が相手なら人も妖怪も帝も関係ない!」

「そうだな。鬼はまずい。ある意味ハニーよりも脅威となる存在だ。急ぐぞ!」

 地獄の門が開いたという事は、このJAPAN全体の問題であり決して見過ごすことは出来ない。

 石丸と早雲はそれを解決すべくすぐさま行動を起こした。

 …それを起こしたのは誰かともいう事も知らずに。

 

 

 

「鬼だ! 鬼が出たぞ!」

 人の怒声、悲鳴が響く。

「オオオオォォォォォ! 女ダ! オレノコヲウメ!」

「コッチノ男ハツヨイゾ! オレヲユウシャニシテクレ!」

 現れた鬼達は、思い思いに人々に襲い掛かる。

 鬼は真面目に本職についているのが殆どだが、中にはこのように喜び勇んで人に襲い掛かる者も居る。

 人間の女によって繁殖する鬼にとっては、人間を襲う大義名分が出来たようなものだ。

「オレモオヤジノヨウニナルンダ!」

「やかましいわ!」

 襲い掛かってきた赤鬼をランスは一太刀で斬り殺す。

 首を刎ねられても生きていられる程の生命力を持つ鬼だが、流石に頭から真っ二つにされては死ぬ以外に無い。

「どうなってんだ! 一体何処から現れやがった!?」

 同じく鬼を殴り殺しながら、黒部が忌々しそうに唸る。

 鬼の数は非常に多く、あの時ランス達と共に地獄で戦った時以上だ。

「地獄の門が開いた…? でも意図的に開けるものなの?」

 レダもこの状況には疑問を隠せない。

 鬼は管轄こそ違うが同僚のようなものであり、その生態もよく知っている。

 時たま地獄の門が開くことは聞いてはいたが、まさかこのタイミングで開くのはいくらなんでも都合が良すぎる。

「まずいわね…囲まれてる」

「何だと!?」

 スラルの言葉にランスは改めて周囲を見渡す。

 そこには大量の鬼が人を、そしてハニーすらも襲っている光景がある。

 中にはこんな戦いの最中だというのに、女を犯している鬼すらも存在する。

「貴様等! ぶっ殺す!」

 ランスはその光景に激怒し、女を襲っている鬼の体をバラバラに切り刻む。

「オウ! アイツハツヨイゾ!」

「ギャハハハハ! アイツヲコロシコロサレルノハオレダ!」

 鬼すらも簡単に切り伏せるランスを見て、鬼がランスの元へと殺到する。

 ランスを殺すこと、ランスに殺される事、それはどちらも鬼には名誉であり、どう転んでも良いことしかないのだ。

「貴様等雑魚共が俺様に勝てると思っているのか!」

 襲い掛かる鬼をランスはその剣で切り殺す。

「ランスさん! 右です!」

 聞こえてきた巴の声に、ランスは見ずとも右側から襲い掛かってくる鬼の気配を感じ取る。

 襲い掛かる鬼の拳をランスは流れに逆らわずに後ろに飛ぶことで衝撃を押さえる。

 尚も左右から襲い掛かる鬼の一体をランスは左で握る剣一本で切り捨てる。

 右側からくる鬼の攻撃は避けられないと思い、口を押さえる巴だが、その鬼の手があっさりと切り落とされるのを見て別の意味で唖然とする。

 ランスの手には何時拾ったのか、刀が握られていた。

「邪魔だ!」

 ランスはそのまま右手に握る刀で鬼の心臓を貫く。

 それだけでは鬼は死なないので、ランスはそのまま返す刀で鬼の首を刎ねる。

 流石に心臓と頭を失っては動けないのか、鬼はそのまま崩れ落ちる。

「ランスさん…刀も扱えるんですか?」

「その疑問は後! 今はこいつらに集中しなさい!」

 レダの言葉に巴もその薙刀を鬼へと向ける。

 鬼とやりあうのは始めてたが、鬼という存在の強さに巴も歯を食いしばって戦う以外に無い。

 それほどまでに、鬼という存在が強いからだ。

 早雲が鬼を使役しているのは知っているし、鬼の力も知っているつもりだったが、こうして戦うと鬼の強さが嫌というほど理解できる。

 ただ只管に強いの一言につきる。

 体がでかい、力が強い、動きが早い、生命力がある、それがどれほど恐ろしいものかその身をもって味わっていた。

 

 

 

 そんなランス達を表情の分からぬ仮面で見ている者がいる。

 それこそ、今回の事態を引き起こした、藤原石丸に数々の知恵を授けた月餅だ。

 だが、月餅はその翁の仮面の下で苦虫を噛み潰した表情を浮かべている。

 いくら仕方の無いことだと割り切ろうとしても、中々割り切れるものでもないのだ。

「…フィオリの奴め。これで失敗すればたたではおかんぞ」

 今この場に居ない、この状況のお膳立てをした同僚に対して恨みにも近い言葉を放つ。

 月餅としては何とか最低限の被害で切り抜けたい所だが、フィオリの言うとおりそれは都合が良すぎるといものだ。

 それは頭では理解してはいるが、これまでの自分のかけた時間や苦労を考えると恨み言の一つでも言わざるを得ない。

 今は異人達はパニックになっているだろうが、今回の地獄の門を開いたのはあくまでも限定的にだ。

 月餅の力ならばある程度自由に地獄の門を開けるのは可能だが、流石に天使が動く可能性も否定できないので、これ以上の解放は出来ないと判断した。

「さて…後は奴次第か。そして石丸ももう動いているだろう」

 藤原石丸ならば、もう既に人間を助けるために動いているだろう。

 そういう人間である事は月餅も理解しているし、それはそれで構わない。

 何よりも、ラサウムに魂を届けるためにはその方が都合がいい。

 月餅もいたずらにこのJAPANに混乱を招くのは避けたいのだ。

「さて…後は奴次第だが、更なるお膳立ては必要とはなるな。しかし奴も奇妙な頼みごとをするものだ」

 月餅はそう言いながら前方の争いへと意識を集中させる。

 陰陽師の術で鬼を使役できるように、月餅も鬼を操ることは可能である。

 そもそも、その術を人に伝えたのが月餅なのだから当然の事と言える。

 そして月餅はその鬼をこの遠距離からも操ることが出来る。

 それも第参階級魔神としての月餅の強さを裏付けていた。

「問題の存在は…奴か」

 鬼と視界を共有した月餅は、鬼の視線を介して問題の異人を見る。

「…なるほど、石丸が苦戦するのも頷ける。今の段階では互角…いや、帝とやらの加護がある分石丸が上か。だがそれでも一筋縄ではいくまい」

 鬼をも簡単に切り捨てるランスを見て月餅は感心したように頷く。

 こうして戦っている所を実際に見るのは初めてだが、その強さはまさに人間を超えていると言ってもいい。

 同時に、フィオリが撤退を余儀なくされたのも頷ける話だとも思う。

「そしてアレが例のエンジェルナイトか…しかし翼は見えぬ。フィオリの言うとおり、何か事情があるのだろうがな…」

 金色の髪をし、剣と盾を用いて鬼を倒す女を見て月餅は顔を歪める。

 エンジェルナイトが地上に居るのは然程珍しくないが、こうして人と共に戦うというのは流石に聞いた事が無い。

 基本的に人を見下すほど傲慢な存在なのだが、何か特別な事情があるのだろう。

 特に知りたいとも思わないが、それでもこれからの事を考えれば消えてもらう以外に道は無い。

「さて…どうするか」

 問題なのは黒い剣を持つ異人、そしてエンジェルナイトの二人だけを隔離する事だ。

 これがフィオリの出した条件であり、月餅としても飲まなければならない条件だった。

 恐らくはフィオリもこの状況を何処かで見ているのだろう。

 だとすれば後はタイミングだ。

 そしてフィオリの出したもう一つの条件…いや、これは頼みがある。

 これは可能な限りという事だが、確かにヤレと言われても中々難しい事だ。

 しかし三魔子の名前を出されては、月餅としても無下に断るのも気が引ける。

「さて…ここか」

 月餅は鬼の目を通して現状を具に観察する。

 そしてようやくその機会が訪れる。

 鬼の数が少なくなった事により、明らかに相手の気が抜けてきているのだ。

 ならば後少し…と、月餅が注意深く様子を見ていた時、ついにその機会が訪れる。

 ついに相手側から見て最後の鬼が倒され、問題の男も不快そうに顔を歪めている。

「全く…何処から出てきおった」

「さあ…正直鬼の事は良く分からないから」

 男が何者かと話しているが、月餅にはそれが誰なのかは分からない。

 が、そんな事はどうでも良かった。

 何故なら、絶好の機会がやってきたのだ。

 今男の側にいるのは例のエンジェルナイトのみ…ならば今こそが絶好の好機だ。

 月餅は薄く笑うと、鬼に対して命令を下した。

 

 

 

「これで終わりか?」

 黒部は鬼の襲撃が無くなった事にようやく警戒を解く。

 突然の襲撃には驚いたが、それでも被害は最小限とも言えるだろう。

 ただ、まともに立っていられるのはランス、レダ、黒部くらいしかいない。

 他の者は皆満身創痍とは言わないが、それでも続けての戦闘は難しいだろう。

「黒部殿。ここは一旦体制を立て直すのがいいと思うモリよ。もしかしたらこの期に便乗して藤原達が来るかもしれないモリよ」

「…相手にこの状況が分かるってのか」

「鬼はJAPANでは非常に重要な存在モリ…そしてその鬼を使役しているのが北条家モリよ。だから当然地獄への扉が開いたのは相手も理解していると思うモリよ」

「そんなもんか…」

 鬼の事は詳しくは知らない黒部だが、この平森盛が言うのであればそういうものだと納得する。

「おいランス。とっととここから離れようぜ」

 黒部がそう言ってランスの方を向いた時、

「グォォォォォォ!!」

 何処に隠れていたのか、一体の大柄な鬼がランスに向かって襲い掛かる。

「何だと!?」

 ランスも突然の事で少し反応が遅れ、左手の剣で鬼の攻撃を防ぐが、その巨大な丸太のような腕がランスの剣を弾く。

「フン!」

 ランスは慌てることも無く、右手に握られた刀でその心臓を貫くと、レダが続いてその体をバラバラにする。

 突然の奇襲ではあったが、特に効果がある訳も無く終わり…のはずだった。

 突如としてランスとレダ…そしてたまたまランスの側に居た巴の体を、黒い闇が飲み込む。

「ランス!?」

 スラルの声が響くが、闇が消えた時そこにランスとレダ、そして巴の姿は無かった。

 

 

 

 ???―――

「な、なんだ!?」

 黒い闇が晴れたと思ったら、そこには先程とは全く違う光景が広がっていた。

 先程まで居た場所とは全く違い、そこには何も無い不毛な荒野がある。

「おいレダ! ここは何処だ!?」

「知らないわよ! どうなってるのよ!」

「一体何が…?」

 ランスの疑問にもレダは答えることは出来ない。

 何しろレダもこんな場所を見るのは初めてだからだ。

「おいスラルちゃん! …スラルちゃん?」

 ランスの手には何時もの剣が無い。

「来い!」

 無いなら呼べばいいと何時もの様に剣を呼ぶが、それでも一向にランスの手に剣が収まる気配は無い。

「無駄よ。ここは今まであなた達が居た世界とは違う場所だもの。流石に違う空間までは呼べないでしょ」

 そして突如として聞こえてくる少女の声。

「…この声は」

 その声にレダは冷や汗を流す。

 一度その声を聞けばエンジェルナイトであるレダは決して忘れない。

「久しぶり、と言った所かしらね」

 それは巨大な何かの肩に乗って現れた。

 一見すると人間の少女の姿に見えるが、その実態はそんな生易しいものではない。

「第参階級魔神…」

 そこには以前にもランスと戦った悪魔、フィオリが悠然と微笑んでいた。




月餅が何処までの力があるかは完全にオリジナルです
でも陰陽師や天志教を作ったりと色々と器用なのだと思います
多分明かされることは無いんだろうなぁ…

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