使徒戯骸と聖女の子モンスター…いや、第8級神であるベゼルアイが同時に激突する。
片や181cmの長身、方や131cmと50cm以上の差が有り、誰もが戯骸がベゼルアイを吹き飛ばす…そう思っていた。
だが、
「うおっ!?」
まともにぶつかりあった時、後方に吹き飛ばされたのは使徒であるはずの戯骸だった。
「あら、防いだのね」
「…危ねーな。流石に肝が冷えたぜ」
実際には戯骸はベゼルアイの一撃をまともに受ける事はせず、後方へ跳んで衝撃を逃がそうとしたが、その一撃の予想以上の威力に思わず笑みを浮かべる。
「あんた…もしかして力のベゼルアイかい?」
「そうだけど? まさかこの名前を聞いたからって退く気は無いんでしょ?」
ベゼルアイの言葉に戯骸はますます楽しそうな笑みを浮かべる。
「いんや、ますますやる気になった。どういう経緯かは知らねーけど、俺は全然かまわないぜ」
聖女の子モンスターは全てのモンスターの母とも呼べる存在ではあるが、決してモンスターの味方という訳では無い。
勿論人間の味方でも無いのだが、戯骸にはそんな事はどうでも良かった。
自分と渡り合える強い奴が居る、それが戯骸にとっての何よりの喜びだった。
「じゃあ続けましょうか。何でか知らないけどランス君はあなたとは戦いたくないみたいだし」
「つれないねぇ。まあアンタを倒せば嫌でも出て来るだろ。悪いけどやられてくれや」
戯骸は喜色を浮かべながらベゼルアイにあえて接近戦を挑む。
その体からは凄まじい熱気が溢れており、その周囲が陽炎のように揺らぐ。
「行くぜ!」
そして戯骸の腕からは炎が放たれベゼルアイを包む。
「おお!」
「人間程度、戯骸様の前にはゴミ同然だな!」
炎に包まれたベゼルアイを見て魔物兵達は嘲笑う。
が、次の瞬間にはその笑いが止まる。
その炎の中からベゼルアイはほぼ無傷で出て来る。
そしてその小柄な体には不釣合な程に大きい大剣を振るう。
「っと!」
戯骸はその大剣を決して受けようとはせずに、後方へ飛ぶことで回避する。
ドンッ!
すると巨大なハンマーで大地を打ち付けたような音を立てて地面が揺れる。
「こいつはすげえな!」
ベゼルアイの放った一撃を見て戯骸はやはり嬉しそうに声を上げる。
大剣が打ち付けられた場所には大きな穴が開いており、その一撃の大きさを嫌でも思い知らさせてくれる。
しかしベゼルアイはその一撃に少し不満そうに声を出す。
「うーん…少し調子がおかしいかしら? 上手くコントロールが出来ないわね」
ベゼルアイは自分の体に違和感を感じて首を傾げる。
「まあいいか」
それでもベゼルアイはそんな自分の体の事を置いておき、狙いを戯骸に定める。
この人間と魔軍の戦いには全く興味は無かったが、それでも自分の遥か上の存在からの命令ならば全力でやりぬくだけだ。
ある一人の人間に力を貸すというベゼルアイも驚きの命令だったが、それでも『神』の一人としてそれを実行するだけ。
「じゃあこちらからも行かせてもらうぜ!」
戯骸は迂闊に相手に近づく事はせず、今度は魔法で遠距離から攻撃をする。
炎の矢、火爆破が使徒の魔力によって放たれ辺り一面を火で染め上げる。
「だ、大丈夫なんですか? ランスさん」
その光景に与一は心配になってランスを見るが、ランスの方はというと表情一つ変えていない。
「まあベゼルアイなら大丈夫だろ。あいつ、強いしな」
かつて少しの間だけ一緒に冒険をしたランスだが、ベゼルアイの力は良く知っている。
戦い方は力押しだが、その力が凄まじいのだ。
殴ればモンスターは一撃で吹き飛び、その剣を振るえば一撃でミンチになる。
そんな光景を良く見ていた事と、何よりもその出鱈目な耐久力だ。
「あら、熱いわね」
「…それで流されるのかよ」
炎の中から平然と歩いてくるベゼルアイには流石の戯骸も呆れるしかない。
「流石は力のベゼルアイか。だがその名は力だけじゃねーって事か」
「まーそうね。私達はそういう存在だし」
「ヘッ! じゃあ俺もそろそろ本当の意味で本気でいくとするかね」
そう言う戯骸の空気が変わっていくのをベゼルアイはハッキリと感じ取っていた。
「流石は使徒ねー。まだまだ余裕がありそう」
「余裕って訳でも無いけどな。だけど本気じゃ無かったって言うのは本当だぜ」
戯骸の言葉は嘘では無いのはベゼルアイもその肌で感じ取っていた。
ただ、ベゼルアイは己の体に起きている変化に違和感を感じており、上手く戦う事が出来ないのが気にかかっていた。
(どうしたのかしらね…こんなに不安定になったのは初めて。私もハウもまだ子供を産んで2年くらいしかたってないのに)
新種のモンスターを生んだ聖女の子モンスターは、通常は5年くらいの時間をかけて大人になる。
それなのに今の自分の体から感じるのは、自分が大人になるような感覚だ。
(でもあり得ないわね。私達はそういう存在だし)
人間がメインプレイヤーとなった時、神は新種のモンスターを生み出すために自分を含めた4体の聖女の子モンスターと呼ばれる存在を作った。
そしてその周期は決まっており、多少は前後する事はあっても大きくずれ込むという事は決してない。
ましてや自分が子供産んだのは2年前、大人になるにはあと3年は必要となる。
だからこそ自分の体に起きた違和感を何か別の物だと判断して戦いを続ける。
戯骸とベゼルアイの一進一退の攻防が続く。
その光景を見て、魔軍の中からは不安そうな声が出る。
「戯骸様が苦戦している…?」
「ば、馬鹿言うなよ。あの戯骸様だぞ? 遊んでるに決まってるだろ。だよな…?」
「何を下らんことを言っている! 黙って見ていろ!」
魔物兵の不安そうな言葉に魔物隊長が兵達を叱責する。
が、内心では魔物隊長もまた不安になっているのも事実だ。
(まさか人間がここまでやるとは…プギャラン将軍やラマサイ将軍が討たれたのは相手がここまで強いという事か…)
プギャラン将軍は、その強さで常に前線に立つという魔物将軍の中では異例の存在だったが、そのプギャラン将軍が人間に倒されたという事を今になって実感する。
目の前の子供にしか見えない人間は、あの戯骸を前にして一歩も退かずに戦っているのだ。
使徒…それも最強の使徒と名高いあの戯骸を相手にしてだ。
(いや、だが戯骸様が必ず勝つはずだ。使徒が人間に倒される等あってはならぬのだ)
魔物隊長はいつにもまして真剣な目で、目の前の戦いを見ていた。
一方の人間側の方も期待と不安が入り混じった目で目の前の戦いを注視していた。
使徒という存在の事は人間達にも伝わっている。
あの魔人から血を分け与えられた存在であり、不死では無いが不老の存在であり、恐るべき力を持った敵であるという事を。
その使徒と少女が戦うというのは非常にアンバランスな光景ではあったが、その少女はあの使徒と互角の戦いを繰り広げていた。
「おお…使徒と戦えているぞ」
「凄いな…世界にはまだあのような力を持つ者がいたのか」
ベゼルアイと戯骸の戦いを見ながら人間達は感心したような声をだす。
しかしそんな中ランスだけは何かを考え込むように唸っていた。
「どうしたの? ランス。まあベゼルアイなら勝てそうでしょ」
レダはそんなランスに不思議そうな視線を向ける。
確かにベゼルアイは戯骸と互角に戦っている…それは事実だ。
だが、ランスには何かが引っ掛かっているのだ。
「うーむ…俺様は何かを忘れているような気がするぞ。前にあいつを倒した時はあの童貞メガネがやったんだが…その前はどうしたか」
ランスにとっては戯骸は重大なトラウマを与えた相手であり、正直思い出したくも無い相手だ。
女になった戯骸ならいけるが、男の戯骸は問題外だ。
しかしそんな戯骸に大してどうしたのかどうしても思い出せないのだ。
「えーとあの時は…俺様は何をした?」
JAPANでの戦いのとき、戯骸は今回と同じように大軍を率いながらも自らタイマンを挑んできた。
そしてランスの尻が狙われた事からランスは徹底して戯骸を避けてきた。
ただ、その避けた時の事を忘れてしまっている。
「確か…そうだ、あの時は美樹ちゃんがいたんだ。それで美樹ちゃんが爆発して…」
それはシィルが氷漬となる前の事だ。
「あれだ。日光さんを持った変な奴が魔人になって…」
そこでランスは思い出す。
戯骸と戦いたくないランスは、魔人である小川健太郎を戯骸にぶつけ、その戯骸を倒せない健太郎に対して殴る蹴る等の暴行を加えたのだ。
「…あ」
そう、ザビエルの使徒達は人型をしているが、それはあくまでも仮の姿であり、本気になった時の姿は別にある。
そして戯骸の本当の姿は―――
「ヤバい!」
「え? 何が?」
レダがランスに聞き返した時、まさにベゼルアイは奇怪な姿をした炎の鳥ともいう存在の炎に包まれていた。
ベゼルアイと戯骸の戦いに一つの変化が訪れていた。
それはベゼルアイの動きが明らかに鈍くなっている事だ。
そして当然それはベゼルアイ本人、そしてベゼルアイと戦っている戯骸も気づいている。
「どうした!? 動きが鈍くなってるぜ!」
「そうみたいね。頭も痛いし、全身が怠いわね」
そう言いながらもベゼルアイはその大剣を振るい、戯骸を近づけさせない。
戯骸の方も攻め手に欠けており、いよいよ本気で相手を倒そうと考えているのだが、中々いいタイミングが掴めない。
が、そんな時とうとうベゼルアイがバランスを崩す。
「あら?」
本人も不思議そうに首を傾げるが、その隙を見逃す戯骸では無かった。
「悪いな! 貰ったぜ!」
ベゼルアイの隙をつき、戯骸の姿が変わる。
そこに居たのは一本足の奇怪な鳥としか言えぬ存在だった。
頭部は無く、その翼の生えた胴体に目がついてる。
それこそが魔人ザビエルの使徒戯骸の本当の姿であり、フェニックスと呼ばれる種族が魔王の血を受けた者。
その炎は一瞬でベゼルアイを包み込む。
その光景を見て魔軍は歓声を上げ、人間達は驚愕の声を上げる。
ランスですら驚きの表情を浮かべているのを見て、元の姿に戻った戯骸は楽しそうに笑う。
「来いよ、ランス。俺と遊ぼうぜ」
不敵な笑みを浮かべてランスに近づこうとした時、
「悪いけどそれは無理ね。もう少し私と付き合ってもらわないと」
炎の中から聞こえてきた声に戯骸は慌てて振り向いた時、その喉には先程とは違う大きさの手が迫ってくる。
戯骸は慌ててその腕を避けるが、そこに待っていたのは先程自分に向かって放たれていた大剣だった。
「うおっ!?」
何とかその大剣を避けるが、今度は自分が体勢を崩してしまった。
そこに待っていたはベゼルアイの拳だった。
「へぶっ!」
そのボディに放たれた拳を避ける事が出来ず、戯骸は大きく吹き飛ばされる。
「ぐはっ!」
そしてその腹に受けた衝撃に口から血を吐き出す。
戯骸は何とか立ち上がると、自分を殴った存在を見る。
「おいおい…」
その存在を視界に入れた時、戯骸は唇を歪める。
「うーん…自分でも不思議ね。まだまだ大人になるのは早いはずだったんだけど」
そこに居たのは先程の少女と同じ声をした大人の女性…聖女の子モンスターのベゼルアイだった。
「急に強くなるとかそんなの有りかよ?」
「人の事言えないんじゃない? あなたもさっきの姿が本来の姿なんでしょ?」
ベゼルアイの服は所々燃えてはいるが、その肉体には目立った外傷は見られない。
戯骸の炎を受けて、まだ五体満足で立っている。
「へっ…こりゃもっと楽しめそうだな」
「そう。じゃあ来なさい」
そして戯骸とベゼルアイの戦いは続く。
互いに互いに決定打を与えられないまま時間だけが過ぎていく。
昼頃から戦い始めたはずだが、既に太陽が沈みつつあった。
「はぁ…はぁ…流石は力のベゼルアイって事か。流石に疲れたぜ」
「そう。まあいいんじゃない」
戯骸は攻撃は当たるがそのあまりの防御力と耐久力の高さにダメージを与えることが出来ない。
ベゼルアイも攻撃を与える事は出来たが、そのあまりに高い再生力の前には決定打にはならない。
それが長時間続いた結果、戯骸はこれ以上戦う意味は無いと判断した。
「やめだ。今日は退くぜ。次はあいつが出てくれるように言ってくれや」
「まあ伝えておいてあげるわよ」
戯骸はそのまま引き上げると、魔軍も一斉に撤退していく。
それを見届けてベゼルアイも引き上げる。
「何とかしたわよ」
「しとらんではないか! こーろーせーよー! お前神だろ!? だったらあのホモ焼き鳥を殺せよー! うわーん!」
「あら、本気で悲しんでる」
魔軍の陣地では魔物大将軍バートリーが喜びの声を上げていた。
「助かりました魔導様。まさか魔物将軍を連れてきてくださるとは」
「お、お、お、お前達があまりにも不甲斐無いからなんだな。ザ、ザビエル様は怒ってはいないけど、め、命令はしっかりこなすんだな」
魔軍には新たに魔物将軍が2体と、魔物兵4万が追加されていた。
本隊の兵を減らして態々連れてきたのだ。
「そ、そ、そ、それで戯骸はどうなったんだな」
「おー魔導。お前までこっちに来てたのか」
その時ちょうど戯骸が率いた魔軍が帰還してくる。
戻ってきて早々にキセルを口に咥える戯骸は、魔導の目から見ても非常に満足しているように見えた。
「ぎ、戯骸…遊びは終わらせたのか?」
「いんや。強い奴が複数いたみたいでな。楽しんでるぜ」
そう言って笑う戯骸に魔導のその巨大な顔が歪む。
「ザ、ザビエル様はいよいよ大詰めなんだな。お、お前も早く戻ってくるんだな」
「分かってるさ。もう少し楽しませろよ」
戯骸の顔に魔導は呆れたようにため息をつく。
付き合いは長いが、戯骸は本当に戦う事が好きだ。
主であるザビエルがそういう所も容認しているが、今回は魔王直々の命令なのだ。
楽しむにしても、まずは本来の目的を果たさなければならないのだ。
「と、とにかくザビエル様の所に戻るんだな。じゃあ魔物大将軍…後は任せるんだな」
そう言って魔導はその巨大な体を揺らしながらテントを出て行く。
「それで戯骸様。人間共は皆殺しにしたんですか?」
大将軍バートリーが気分良く戯骸に訪ねる。
今回魔導が援軍を出してくれたという事は、魔人ザビエルもそこまで怒ってはいないのだろう。
さらには使徒である戯骸が前線で戦ったとなれば、相手にはさぞや甚大な被害が出ただろう。
もしかしたらもう人間の軍は瓦解しているかもしれない。
そんな期待を込めて戯骸を見るが、その戯骸から帰って来たのはバートリーの望まぬ答えだった。
「あ? 別に何もしてないぜ。言っただろ、俺はどえらい強い奴とタイマンをしにいったってな」
「…は?」
「さーて、また行くとするかな。今日は楽しく眠れそうだぜ」
そのまま戯骸は笑いながらテントを出て行く。
バートリーは口元を震わせながら、戯骸についていった魔物将軍を見る。
「は、はい…戯骸様は人間と戦うだけ戦って、決着がつかずにそのまま…」
「な、なんだと…? ま、まさか本当に1対1の戦いをしにいっただけなのか!?」
口篭る魔物将軍を見てバートリーは苛立ちを隠さずに、机を強く叩く。
「ぐぐぐ…しかも使徒と互角に戦う人間がいるだと? おのれ…非力な人間の分際で!」
バートリーは今日も一日中神経質に貧乏揺すりを続けていた。
ランスのために用意された部屋―――そこでランスは少し暴れていた。
「もう、落ち着きなさいよ、ランス」
「やかましい! 俺様のケツ穴がピンチなんじゃー!」
(本当に嫌なのね…まあランスの女好きを考えれば当然かもしれないけど)
スラルは今日の報告で重要な情報を聞いていた。
この情報はここにいる者達を大いに落胆させ、逆に魔軍の士気を上げる事になっただろう。
(魔軍に約4万の援軍か)
4万という数は当然の事ながら多い。
何とか魔物将軍を6体も倒せたのは、相手が既に勝利を確信し人狩り部隊等という物を作ったからだ。
完全に魔物の勝利ムードだったのだから無理は無い事だし、むしろランスや自分達というイレギュラーに加え、聖女の子モンスターが二人も協力してくれているのだから、相手からすればたまったものではないだろう。
しかしこのままではジリ貧だという事はスラルも理解している。
(数が違ううえ、こちらは援軍を望めないか…)
魔軍が本気では無い事はスラルも良く分かっている。
もし本当に人間を滅ぼすつもりなら、魔王であるナイチサが動けばいいだけなのだ。
現魔王が何を考えているかは分からないが、人間の救いはそれしかない。
(ランスはこの状況を分かっているのかしら…)
あの使徒と出会ってから様子がおかしいランスを見て、スラルはため息をつく。
だが、このまま滅ぼされるなど真っ平ごめんだし、ランスをこんな所で死なせるのはスラルにとっても本意では無い。
(私達の士気を上げ、魔軍に対抗する…それを出来るのはランスしかない)
スラルはランスという人間を見て、いわゆる英雄と呼ばれる存在である事は認めている。
ただ、そのベクトルが完全に女の方に向いているだけなのだ。
権力にもお金にもそれ程興味を示さず、その頭にあるのは女と冒険の事なのだろう。
(そんなランスだから…手に入れたかったのよね)
が、そんな昔の事を懐かしんでいる暇は無い。
今は何よりもこの状況を打破する必要が有るのだ。
そしてそれが出来るのはこの場ではただ一人なのだ。
(…よし、ここは私が何とかするしかない)
スラルは一人頷くと、ランスの剣の中から姿を現す。
「落ち着きなさい、ランス。このままだと本当にランスはあの使徒に襲われるわよ」
「お、恐ろしい事を言うな!」
「だったら! あなた自身でどうにかしないと駄目でしょ! それに相手には4万の援軍が来ているのよ。それがどういう事かランスなら分かるでしょ」
「む…」
少し語気を強めて話したせいか、ランスの方も少し冷静になったようだ。
「この状況を何とかするには、あなたの力が必要なのよ。だってこの中で一番強いのはランスなんだから」
「当然だ。俺様は強い。俺様がいる限りは負けるはずは無いのだ」
「そのためにはあの使徒を倒さないといけないのよ。そしてランスが1対1であいつを倒す事が出来れば、相手に大きな打撃を与えられるのよ」
「だがなぁ…」
ランスが気乗りしないのは相手がホモという事以外にあるのはスラルにも分かっている。
今回の戦いを見ていたが、あの使徒は本当に強い。
それこそ魔人級の力があるだろう。
「ランスがあいつを倒せたら…私があなたの言う事を何でも聞いてあげるわよ」
「何!?」
スラルの言葉にランスは食いつく。
(うん、予想通りね)
その結果にスラルは内心でガッツポーズをする。
「だがなあ…スラルちゃんは幽霊だから触れんからなぁ…」
ランスはスラルに手を伸ばすが、その手はやはりすり抜けてしまう。
スラルはランスにとっても特上の美少女だが、残念ながらセックスをする事が出来ない。
それがランスにとっては一番の不満であり、だからこそその体を捜すべく今でも冒険を続けているのだ。
「…前にランスが言ってたこと…か、叶えてあげるわよ」
「何だと!?」
ランスは以前にスラルにある要求をした事があったが、それはスラルによって却下されてしまった。
幽霊なので触れず、しかも剣の中に引っ込まれてはランスでもどうしようもない。
だが、スラルはそのランスの希望を叶えてくれるというのだ。
「………がはははははははは! それを聞いて俄然やる気が出てきたぞ! あんなホモ焼き鳥など俺様の敵ではないわ!」
ランスは一瞬で機嫌を直し、何時ものように自信に溢れた高笑いを浮かべる。
それを見てスラルは少し顔を赤らめながら、咳払いをする。
「あの変身だけど…もしかしたら何とかなるかもしれない」
「そうなのか? まあスラルちゃんは元魔王だからな。何か特別な魔法でも知ってるんだろ」
「まあ…私の想像が正しければだけどね。まず間違いないとは思うけど」
「じゃあスラルちゃんに任せる。後は俺様があいつをぶっ殺すだけだな」
ランスは何処までも高笑いを続け、スラルはスラルで一つの覚悟を決めていた。
そして決戦の日は確実に近づいて来ていた。