人間、そして魔軍が見守る中、ランスと戯骸がぶつかる。
「体洗ってきたか!? 一番星!」
「やかましい! さっさと死ねーーー!!!」
戯骸は喜びを隠しきらずに、対するランスはその剣に確かな殺意を込めて斬りつける。
そしてその剣筋を見て戯骸の喜びが驚愕に変わる。
「うおっ! あぶねっ!」
「避けるな! 死ね!」
「おいおい! 無茶言うなよ!」
戯骸は自分の体に触れていないのにも関わらず、自分の体についた薄傷をなぞりながら笑う。
(マジかよ…こいつはあの藤原石丸級だぜ)
戯骸もまた魔人ザビエルの使徒として、藤原石丸の戦いをその目で見た事がある。
その戦いぶりはまさに驚嘆としか言えないものだった。
主であるザビエルに攻撃は通じないものの、その衝撃だけでザビエルに対抗していたのだ。
戯骸はその藤原石丸を見て、是非とも自分でも戦いたいと思っていたのだが、今回はザビエルの上…魔王の命令で藤原石丸を殺すために動いている。
そのために魔人ザビエルが自ら前線に赴いて人間と戦っているのだ。
だが、今目の前にいる人間はあの藤原石丸に勝るとも劣らない凄腕の人間だ。
それに加え、戯骸にとっては今まで見たどんな男よりも凄まじい男だ。
まさに一番星なのだ。
「やっぱり俺の見立てはハズレじゃ無かったな。アンタは間違いなく強い」
「当たり前だ! そんな俺様の尻を狙うなど100年早いんじゃー!」
そう斬りかかるランスも戯骸の強さには驚いていた。
思えばランスはあのJAPANの戦いにおいて、戯骸とはまともに戦った事が無かったのだ。
ランスの尻穴が狙われていると知ってから、ランスは徹底して戯骸との接触を避けた。
そのため、魔人になった小川健太郎を戯骸にぶつけていたのだが、それが今になってランスを驚かせていた。
(こいつ…思っていたよりも強いぞ)
ランスの剣を戯骸はその体捌きで見事に避けて見せる。
攻撃が当たる時もあるのだが、戯骸本人の特性である再生能力の前では、小さな傷など意味をなさない。
(こういう時こそあの馬鹿剣の役割だというのに。全く肝心な時に役に立たん奴だ)
もし今ランスの手元にカオスがあれば、相手が使徒である事は逆にカオスのテンションを上げる結果となり、それこそ絶大な力を発揮するだろう。
魔剣カオスは魔王の血を受ける者に対して絶大な効果を発揮する。
それこそあの魔人アイゼルを一撃で瀕死の状態へと追い込み、魔人ノスの強固な鱗すらも切り裂き、魔人カミーラには消えぬ傷跡を残したほどだ。
魔人の再生能力すら殺すあの剣があれば、ランスが圧倒的に有利に立っていた可能性すらある。
だが、今ランスの手元にあるのは魔剣カオスでは無い。
「楽しくなってきたな! ランス!」
「やかましい! 男が嬉しそうに俺様の名を呼ぶな! 女になって出直してこい!」
「つれないねぇ! じゃあ今度はこういうのはどうだ!」
戯骸は一度ランスから距離を取る。
そしてその手から感じられるのは魔力だ。
ランスはそれを見て、真っ直ぐに戯骸へと突っ込んでいく。
相手の放つのが魔法ならば、それを避ける事は不可能だ。
だったら正面突破、それ以外に方法は無い。
そんなランスを見て戯骸は嬉々として魔法を放つ。
「こいつはどうよ! 火爆破!」
戯骸の放った炎の魔法がランスを包み込む。
「おおっ!」
「やったぞ!」
それを見た魔物隊長や魔物兵は喜びの声を上げる。
偉そうにしていても所詮は人間、使徒の敵では無い…そんな歓声だったが、次の瞬間その歓声は止まる。
炎の中からランスが飛び出して来たからだ。
それも大したダメージを受けていないように、一直線に戯骸へと向かって行く。
「死ねーーーー!!!」
「耐えるか!? こいつは本当に半端ねえな!」
炎の中から出て来たランスを、戯骸は嬉しそうに迎え撃つ。
ランスが大したダメージを受けていないのは、勿論ランスが持っているドラゴンの加護というアイテムの力だ。
バランスブレイカー級の力を持つそのアイテムは、使徒の魔法にすら耐える程の魔法防御力をランスに与えていた。
跳び上がったランスの一撃を戯骸は避けて、そのままカウンターを入れようとする。
が、何処から放たれたのか、逆に戯骸の腕が大きく傷つけられる。
「マジか!?」
「そのまま死ねーーー!!!」
一体いつ傷つけられたか分からないままランスの剣が迫るが、戯骸はそのままランスの剣を受け流す。
それと同時に、戯骸の体から凄まじい熱気が放たれる。
「なんだと!?」
今度はランスがその熱量に驚き、炎を纏った戯骸の腕がランスの眼前に迫る。
ランスはそれを身を捩って避けると、互いにそのまま距離を取る。
そして互いに睨みあいのまま、少しの間膠着状態が続く。
「強いわね、あの使徒。正直変身もしないであの強さなのは私も予想外だわ」
「今更言うな! まったく、レダでもいれば簡単に奴を殺せるものを」
ランスには1対1で相手を倒すという事に何の感情も抱いていない。
殺せるときに殺す、これまでそうしてきたし、それが間違ってるとは微塵も思っていない。
どんな汚い手を使おうが最終的に勝てばいい…これまでそうしてランスは勝ってきたのだ。
「でもね、ランス。ここであなたがアイツを倒せないと、間違いなく私達は負ける。それくらいは分かるでしょ」
「フン、俺様が強すぎるというのも罪な事だな」
言葉通り、ここが最後の砦に等しい戦いなのだ。
あの軍団は間違いなくこの戦いがどう転ぶにしろ、こちらに攻撃を仕掛けてくるだろう。
それだけの数を戯骸は率いてやってきたという事はそういう事なのだ。
「ランス。魔法の炎で無い限り、あなたはあの炎を斬れる。カミーラのブレスに比べればあの程度何てこと無いでしょ」
「カミーラとホモ焼き鳥を一緒にするな。まだカミーラの方が可愛げがあるわ」
「その言葉、カミーラの目の前で言ってみなさいよ。カミーラがどんな顔をするか、私は興味があるわ」
「フン、その前にアイツを殺す。絶対にだ」
ランスは剣を構えて、何時でも戯骸を殺せるようにその瞬間を狙う。
その目を受けて、戯骸は自分の体から汗が流れてくるのを感じる。
その汗は自分の熱気で直ぐに蒸発するが、それでも尚自分の体からは緊張、そして歓喜からか汗が止まらない。
(へへっ、本当にランスは強ぇ…変身しないで倒すのは難しいな)
自分が変身すれば優位に戦える事は分かっているが、勿論戯骸にはそのつもりはない。
全ては目先にあるデートのため、戯骸はどんな事にでも耐える覚悟をしている。
(だがヤバいな…あいつの剣が全くよめねぇ…いつ必殺の一撃が飛んでくるかわからねえな)
ランスの剣はこれまで戯骸が見てきた剣の中でも滅茶苦茶に見える。
が、こうして相対すると改めて相手の強さを嫌でも感じてしまう。
無茶苦茶な体勢から放たれる一撃はそれだけでも自分を倒せるのでは無いかと思ってしまう…そんな必殺の気迫が感じられる。
迂闊に動けばやられるのは恐らくはこちらだろう。
(だからといって魔法もな…どうしても詠唱中は無防備になっちまうし、だからといって小さい魔法じゃあ止められねえ。俺の魔法にも耐えるって事はなんか特別なアイテムでも持ってるって事だな)
自分の火爆破にも耐えるのだから、ファイヤーレーザー級の魔法でなければまともなダメージにはならないだろう。
だからと言って、そんな隙は晒す事は出来ない。
だとすると、残っているのは自分のこの拳と炎のみ。
(面白ぇ!)
このギリギリの戦いには戯骸もこの上なく興奮している。
そして目指すはその先だと決心し、戯骸が動く。
「来る!」
「分かっとるわ!」
スラルの言葉よりも早くランスは反応する。
ほぼ同時に二人は駆け出し―――そして最初に動いたのはやはりランスだ。
そしてランスは何時もの様に跳び上がり、その剣を振り下ろす。
「ラーンスあたたたたーーーーーっく!!!」
それはランスの必殺の一撃であり、戯骸もそれをまともに食らえばただでは済まないだろう。
(焦ったか!? そこからじゃタイミングが合わないぜ!)
ランスが焦れたのか、少しタイミングを外したと戯骸は判断した。
そしてそのままその一撃を振り下ろさせた後、自分の拳をお見舞いする―――戯骸はそう判断した。
が、その時戯骸は自分の判断が間違っていた事に気づかされる。
(…俺を見てねえ!)
ランスの視線の先には自分は存在せず、そこにあるのは自分の炎に焼かれた大地があるだけだ。
そしてランスアタックはそのまま地面に炸裂し、大量の焼けた土砂が戯骸に降り注ぐ。
「うおっ!?」
戯骸はそのまま自分の顔をその手で庇う。
流石に焼けた土砂が自分の目に入るのは避けたかった。
(これくらいじゃ俺は倒せねえぜ! ランス!)
戯骸は土砂を手で振り払った時、そこに見えたのはそのまま剣を腰だめに構えたランスの姿だった。
その姿を見て、戯骸はこの一撃が本命で無かった事に気づかされる。
「くたばれ! もう一発じゃー!」
ランスはそのままの姿勢で戯骸に突っ込んでいく。
それを見ても尚、戯骸はその顔から笑みを消す事は無い。
「やらせるかよ!」
戯骸は臆せずにそのまま真っ直ぐにランスに向かって行く。
ランスが剣を薙ぐのと、戯骸の拳がランスに向けられるのはほぼ同時だった。
ガッ!
鈍い音を立てて、ランスの剣の根元の部分が戯骸の肌に食い込む。
そして同時に戯骸の拳がランスの右肩に当たり、二人は睨みあう。
「いい加減に…死ねーーー!」
「そいつは…御免だな!」
ランスはそのままじりじりと剣を戯骸の体に食い込ませていき、戯骸の手がランスの首目がけて伸ばされた時、ランスは即座に戯骸の胴体に強烈な蹴りを入れる。
まさかこの距離で蹴りをしてくるとは思わなかった戯骸は、まともにランスの蹴りを浴びる。
しかもその部分はランスによって傷つけられた部分であり、その部分からは勢いよく血が噴き出る。
それでも戯骸はその怪我を無視し、その手に炎を宿した時、自分に向かって跳んでくるランスの姿を見る。
「ラーンス…アターーーーーック!!!」
「う、おおおおおおおおお!!!」
戯骸はその手から炎を放つが、ランスの剣の一撃はその炎ごと戯骸の体を斬り裂く。
「マジ…かよ!」
自分の体から急速に力が抜けていくのを戯骸が自覚した時、さらに自分の心臓にランスの黒い剣が突き刺さる。
「いい加減に死ねーーー!」
「へっ…やっぱりお前は俺の一番星だぜ」
ランスが突き刺した剣を捻り、戯骸の心臓を滅茶苦茶にした事で、流石の戯骸も耐えられなくなりついに倒れる。
「はー…疲れた」
もう動かない戯骸を見下ろし、ランスはため息をつく。
「ギリギリだったわね。もしこれで変身してたらランスでも危なかったわね。まあその場合はレダとベゼルアイで袋叩きにするつもりだったけど」
使徒戯骸は本当に変身せずに戦い続けた。
もし彼がスラルの言葉を無視して戦い続ける存在ならば、ランスの命運は尽きていただろう。
「で、次はどうするんだ。奴等はやる気みたいだぞ」
ランスの視線の先には動揺を鎮める魔物将軍の姿が有る。
流石に使徒を倒せば撤退するかと思ったが、どうやら思った以上に優秀な魔物将軍がいるようだ。
「大丈夫よ。私の計画には何も影響はないから。むしろ、ああやって突っ込んできてくれる方が都合がいいのよ」
スラルはランスの剣の中で詠唱を始める。
ランスが使徒を倒す事は勿論計算の内だし、ここで魔物達が遁走しないのもまた計算の内だ。
だからこそ、ランスがこうして使徒と戦っている内から仕込みをしていたのだから。
「じゃあランス。私の合図で本気でやりましょう。お膳立ては出来てるから」
スラルは不敵な笑みを浮かべ、詠唱を完成させる。
そう、全てはこの一撃のタイミングを計っていたのだ。
だからこそ、ランスと戯骸の戦いにはスラルは手を出さなかったのだ。
自分に出来る策はこれで全て揃えた。
後は目の前にいる魔軍を打ち倒すだけ。
「じゃあランス! 行くわよ!」
「それは俺様のセリフだ! 行くぞスラルちゃん!」
ランスは戯骸との戦いでの疲労を無視し剣を構える。
そしてある状態で混乱している魔軍に向かって駆ける。
「がはははは! 貴様等全員皆殺しじゃー!」
「あら、ランス君ったら本当に使徒を1対1で倒したみたい。それにしても変な使徒ねー。本当に最後まで変身しなかったわ」
ベゼルアイはランスと戯骸の戦いの結果を少し呆れた様子で見ていた。
勿論ランスが負けるとはあまり考えてはいなかったが、それでもただの人間であるにも関わらず、使徒を倒すランスの強さには驚かされる。
「ハウ。準備はいいかしら?」
「大丈夫よ。こっちだってやる時はやるわよ。それに大まおーさんの頼みだしね」
ハウセスナースはランスと戯骸の戦いには目もくれず、ある事をしていた。
それは地のハウセスナースだから出来る事であり、全ての準備は整った。
「じゃあ行くわよ。見ててね大まおーさん!」
ハウセスナースは手に持ったハンマーを勢いよく地面に叩き付ける。
すると少し遅れて地響きが魔軍の陣営の方から聞こえてくる。
「準備は整ったわよ。後はあんたの番よ、ベー」
「はいはい。じゃあ行きましょうか」
ベゼルアイはそう言ってここにいる人間達に自分の力を発動する。
ベゼルアイの力により、人間達の力が引き出され、人間達もすぐさま準備をする。
「では皆さん行きましょう! 魔軍を倒す時が来ました!」
「「「おおおおーーーーーっっっ!!!」」」
巴の言葉に皆が雄叫びを上げる。
それと同時に、魔軍の陣地に巨大な稲妻が襲い掛かるのは同時だった。
「え…ぎ、戯骸様がやられた!?」
「そ、そんな…戯骸様がやられるなんて…」
もう動かない戯骸を見て魔軍に動揺が走る。
何しろ使徒戯骸は魔人級の力があると言われており、その力はまさに使徒で一番強いと言われているほどだ。
その使徒が人間にやられる…ましてや1対1の戦いで倒されるなど考えられない事だ。
「落ち着け貴様等! あの人間を見ろ! 既に力を使い果たしている! 今ならこの数ですり潰す事が出来るのだ!」
動揺する魔物兵に魔物将軍ギドゴスアの声が響く。
「その通りだ。今あの人間を殺せば最早人間共にはどうする事も出来ぬ。奴を殺し、その首を刎ねろ! 奴を殺した者には褒美が出るぞ!」
「そ、そうだな。今なら奴を殺す事が出来るぞ!」
「お、俺が殺すんだ! うおおおおおお!」
同じ魔物将軍であるアレキアンドリサの言葉に、魔物達は大いに士気を上げ、今にも全軍が突撃しようとした時、突如として足元が揺れ始める。
「な、なんだ?」
「じ、地震か? でも地震にしては変だな…」
立っていられない程の揺れでは無いが、それでもこの状況では走り出すのは難しい。
揺れはしばらく続いたが、特に何も影響なく収まる。
地震が収まったのを確認してから、ギドゴスアとアレキアンドリサは改めて人間を討つように指示を飛ばす。
「行くぞ! 人間共を皆殺しにしろ!」
「「「うおおおおおおお!!!」」」
魔物兵が喝采を上げたまさにその時、
「ぶわっ! あつつつつつつつ!!!」
一体の魔物兵の足元からもの凄い熱さのお湯が噴出してくる。
その温度は非常に高く、普通の魔物兵でも火傷をするほどの熱さを持っている。
それが魔物兵達の足元から次々と溢れてくる。
「な、何だ!? 一体何が起きたというのだ!?」
「く…水蒸気で何も見えん…!」
二体の魔物将軍も突然の事に混乱する。
次々に足元からは蒸気とお湯が発生し、魔物兵達はその暑さにやられて動けなくなってしまう。
そして次の瞬間、もっとあり得ない光景が魔物達へと襲い掛かる。
ゴゴゴゴゴゴ…
先程の揺れよりも大きな揺れが発生したかと思うと、突如として魔物兵が悲鳴を上げる。
「あ、あちぃ! な、なんだ!? 足の裏が!?」
一体の魔物兵は突如として感じた足の裏の熱さに思わず尻餅をつくが、今度はその尻に凄まじい暑さを感じ出す。
「な、何が起きてるんだ!?」
混乱の極みにあった魔軍だが、その揺れが最高峰に達したかと思うと、地面から再び何かが噴き出てくる。
「ぎゃーーーーーー!!」
その噴き出た物をまともに浴びた魔物兵の悲鳴は、直ぐに掻き消える。
「ば、馬鹿な!?」
「あ、ありえん!? 俺達は一体何を見ているというのだ!?」
二体の魔物将軍が見たのは、先程湯や水蒸気が出て来た所から無数の炎が噴き出るというありえない光景だ。
その炎は魔物を飲み込み、簡単に消し炭にしていく。
「ああ…そんな…まさか…」
魔物隊長の一人が自分の足元から出て来るマグマを感じ取り、絶望的な呻き声を漏らす。
「ギ」
悲鳴を上げる暇も無く魔物隊長がマグマに飲み込まれて消滅する。
「た、助けてくれ!」
「む、無理言うな! うわーーーーー!!!」
魔物兵の足元から地割れが生じ、その地割れから炎が噴き出る。
何とか地割れに手を付き、落ちないように踏ん張る魔物兵が見たのは、地の底から這い出てくる巨大な炎の川だった。
「そ、そんな…」
絶望的な声を出し、何とか這い上がろうとする魔物兵だが、その魔物兵の上からバランスを崩した魔物兵が落ちてくる。
その魔物兵は悲鳴を上げる暇も無く、炎の川に飲み込まれて消滅する。
「こ、こんな…事が…」
魔物将軍ギドゴスアは絶望的な表情で目の前の地獄の光景を見る。
まるで火山の爆発のような光景に、これが本当に現実に起きた事なのか分からなくなる。
それだけ現実感の無い光景だった。
「ベゼルアイもハウセスナースも準備が出来たみたいね! じゃあ行くわよランス!」
「がはははは! こいつで終わりだ! ラーンスアターック!」
ランスは何時もの様に跳び上がって炎を纏った剣を振り下ろすのではなく、そのまま地面に突き刺す。
ランスの持つ剣を纏っていた炎はまるで地面に吸い込まれるようにして消えていく。
「これでいいのか、スラルちゃん」
「ええ。私の計算通りなら、これで魔軍に壊滅的な被害を与えられるはずよ」
スラルは熱湯と水蒸気に襲われている魔軍を見る。
(でも地の聖女の子モンスターハウセスナースか…本当に大地に関する事なら何でも出来るのね)
ハウセスナースから話を聞いて、スラルは大軍を相手取る方法をずっと考えていた。
そしてその結果が今回の作戦なのだ。
そのためには相手を少しの間留めて置く事、そして相手が逃げない事が前提となっていた。
前者はランスと戯骸の戦いで予想通りに相手を止めておくことが出来たが、後者に関しては完全に運任せだ。
今回撤退してくれればそれでも良し、次回に持ち越せばいいと思っていたのだが、どうやら自分の予測通りに相手は動いてくれたようだ。
(そして…これで魔軍はもう行動をとれなくなる)
熱湯と蒸気での足止めは前座に過ぎない。
ランスが剣を引き抜くと、そこには既に炎は存在していない。
「どうやら全てがいったようね」
ランスの必殺の一撃はどうやらスラルの予測通りに、全てが地に伝わったようだ。
すると、魔軍の方から再び地響きが起こる。
そしてランスの必殺の一撃と、ハウセスナースの大地の力が合わさり、とうとうそれが地上に噴き出る。
それは巨大な火柱やマグマとなって魔軍を飲み込む。
「流石はハウセスナース…ここまで的確に力が伝わるなんて」
「なんだか知らんが、俺様が凄い事だけは分かった。流石は俺様だな」
ランスは目の前の壮絶な光景を前にして胸を張る。
そんなランスをスラルは少し呆れた顔で見る。
(本当に自信家なんだから…まあこれはランスとハウセスナースがいないと出来ない技よね)
ランスとスラルの合体技に、ハウセスナースの力を複合させて放つ必殺技。
恐らくはこの一度きりしか使えない技だろう。
今回の事で、ハウセスナースは持っている力をほぼ使い切ると言っていた。
しばらくは充電期間が必要との事だが、切り札を使うにはここの場面が一番だ。
「ベゼルアイも動いたみたいね。ランスはどうする?」
「流石の俺様も疲れた。後はレダに任せればいいだろ」
ランスはそう言って踵を返す。
既に結果は分かり切っており、最早ランスの力も必要無い。
それよりも、ランスはこれからの楽しみに心を弾ませている。
「スラルちゃん。約束はきちんと守れよ」
「うっ…わ、分かってるわよ…」
ランスの言葉にスラルはその剣の中で顔を赤らめる。
ランスをやる気にするために、とんでもない約束をしてしまったと今になって後悔してしまう。
だが、そうしなければランスは延々と戯骸との戦いを拒み続けただろう。
(…恥ずかしいけどやるしかない。もう…ランスの馬鹿)
スラルはランスの要求を思い出し、これから自分がしなければいけない事を想像して悩ましいため息をついた。
魔物将軍二人はしばらく呆然と目の前の光景を見ていたが、直ぐに自分達が戦場に居る事を思い出す。
「い、いかん! アレキアンドリサ! 急いで部隊を纏めて引き上げるぞ!」
「お、おう! これでは戦え…グワーーーー!」
突如として魔物将軍アレキアンドリサの頭に矢が突き刺さる。
「なっ…」
アレキアンドリサはその一撃で倒れ、痙攣している。
そしてギドゴスアが振り向いた時、そこには人間達が迫ってきていた。
「し、しまっ…」
あり得ない光景を見た事で、ギドゴスアの頭は麻痺してしまっていた。
ようやくマグマは収まってきたというのに、肝心の自分が戦場で我を忘れてしまった。
「さあ、行きなさい」
先頭を走るベゼルアイが剣を振るうと、まだ動けていた魔物兵と魔物隊長を吹き飛ばす。
それに鼓舞された人間達が猛烈な勢いで魔軍に襲い掛かる。
「い、いかん!」
ギドゴスアは何とか部隊を纏めようとするが、何しろ自分の周りには僅かな魔物隊長しか存在していない。
その魔物隊長も、白い光の爆発に飲み込まれて爆死し、また一体はピンクの奇妙な物体の口から放たれる熱線に飲み込まれて燃え尽きる。
そして金色の髪をした非常に美しい人間がギドゴスアの前に現れる。
「魔物将軍ね。さっさと死になさい」
「に、人間風情が何を!」
魔物将軍である自分を全く恐れない人間に対し、ギドゴスアのプライドが刺激されその手には鉄球が握られる。
が、その鉄球を振るう機会はとうとう訪れなかった。
凄まじい速度で放たれた剣は、容易に魔物将軍の腹を、そして頭を斬り裂く。
「あ、あ、あ…」
ギドゴスアは急速に力が抜けてくるのを感じるが、その前に自分の眼前に女の剣が迫って来たかと思うと、その剣は容易にその頭を貫いた。
「しょ、将軍!? ギドゴスア将軍!?」
「まーおー!」
悲鳴のような叫びを上げる魔物将軍に大まおーの大鎌が襲い掛かり、その頭部を吹き飛ばす。
「も、もう駄目だ! 逃げろー!」
誰かが叫んだ事で、魔軍の士気は完全に崩壊し、誰もが我先にと逃げ出す。
しかしランスの一撃で地形がガタガタになった事により、炎の川に身を投げ出すように吸い込まれる魔物兵、他の魔物兵に踏み潰されて絶命する魔物兵が出て来る。
魔物将軍と魔物隊長を失った事で、魔軍は完全に崩壊した。
「勝った…勝ちました!」
巴の言葉に誰もが歓声を上げる。
魔人の使徒を倒し、2体の魔物将軍を打ち倒したのだ。
この瞬間、この地域での人類と魔軍の勢力図は塗り替えられた。
しかし、その事がまた新たな波乱…そしてあり得ない歴史が刻まれるのはすぐ先の事だった。
実際聖女の子モンスターって無茶苦茶強いよね
なので今回の滅茶苦茶な行動になりました
次の話は完全に我が栄光だから分けたほうがいいかなぁ…