ランス再び   作:メケネコ

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魔物大将軍の最期

「人間共め…必ず皆殺しだ…」

魔物大将軍バートリーは暗いテントの中でその目をぎらつかせている。

「どうしてこんな目に会わなければならぬのだ…」

最初に魔人ザビエルに命じられたのは、あくまでもこの地域の人間共が藤原石丸率いる本隊に合流させないためだ。

合流させなければ好き勝手して良いと解釈したバートリーは、言葉通り好き勝手していたのだが、今では多大なストレスに襲われていた。

「カミーラめ…何時もの様に自分の城に籠っていればいいものを…!」

今でもこの戦場にやってきて、我が物顔で自分に命令するあの魔人を恨みに思う。

少なくとも魔人カミーラさえ来なければ、自分はこんな思いをしなくて済んだのだ。

魔人や魔王から何か言われるかもしれないが、少なくともこんな所で野営をする等という事は無かったはずだ。

(だがしかし、ここで人間共が来るというのはまだマシか…)

人間達が自分達の進軍行路をどうして知っていたかは謎だが、こんな所で仕掛けて来るとはとんだ無能もいたものだとほくそ笑む。

この地は守るに容易く、攻めるには厳しい地だ。

そびえたつ崖は傾斜が厳しく、そこから奇襲をかけるなど無謀過ぎるし、攻めてくる方向が限定される。

それ故に守備を固めていれば相手の攻撃を完全に防ぐことが出来る。

小刻みに人間の襲撃が来ているが、防衛部隊をローテーションで回し疲労が溜まらないようにしている。

(唯一の悩みはやはり食料か…こればかりは本陣から持ってこなければならぬか)

この数の食料を賄うのはやはり大変だ。

それ故に食料はギリギリまで切り詰めてきたのだが、予想外の足止めで食料の減りは予想を上回ってしまっている。

(それもこれもカミーラが悪いのだ…ならば食料くらいは問題無いはずだ、うん)

カミーラを恨めしく思っても、今の自分の立場は変わらない。

(幸いにも七星ならばその辺りは分かってくれるだろう)

カミーラはともかく、七星ならば自分の立場を考えてくれるはずだと期待する。

部隊の指揮になど興味の無いカミーラに代わり、使徒である七星が指揮しているのはバートリーも知っている。

魔人に部隊の指揮を任せるのがおかしいのかもしれないが、使徒なら話は別だ。

「まあ部下の報告を待っておくか。それよりも儂も疲れているな…とっとと寝るとしよう」

この行軍は魔物大将軍であるバートリーですらも疲労が溜まっている。

予期せぬ足止めとは言え、疲労は回復できているのは幸いだ。

カミーラに追い立てられる形で出て来たが、逆に言えばカミーラのプレッシャーから逃れる事が出来ていると考えればいいのだ。

そして全てのツケは人間共に払わせてやればいい…バートリーはこれからどうやって人間共を苦しめてやろうと考えながら床につく。

が、その時何かの音が聞こえてくる。

「む、なんだ…!?」

自分が疑問に思う暇も無く、自分のいるテントが何かに押しつぶされる。

「う、うぉぉぉぉぉぉ!?」

魔物大将軍バートリーは、そのまま己の居る頑丈なテントに押しつぶされた。

 

 

 

「がはははは! 見たか! これで奴等も一網打尽だ!」

「うん、そうなんだけどね…やってる事が凄い外道過ぎてね…」

巨大な岩が大量に降ってくる光景はまさに悪夢としか言いようが無いだろう。

「…普通、自分達の土地を丸ごと沈めるみたいな戦い方は誰もしませんしね」

エルシールも今の悲惨とも言える光景を見下ろしながらため息をつく。

(これからの統治や復興の手間を考えれば、出来てもこんな手段は取りませんしね…ましてや町として機能しているのなら尚更です)

こういった鉱山都市は無傷で手に入れるのが望ましいし、それが無理にしても被害はなるべく出さないようにしたいのが統治者の考えだろう。

実際藤原石丸もそうしたようだし、魔軍も無暗に人間の住まいを破壊してはいない。

その時間が無かったのも有るが、魔軍もまた人間の施設を占領し使用しているからだ。

いくら人間を殺す事が目的でも、町一つを完全に破壊するなんて無駄な事はしないだろう。

(それもランスさんが統治するなんて事を考えていないからでしょうね…ある意味、権力には全く無縁の方ですから)

ランスは世界を手に入れるとか、世界を征服するだのという事には全く興味が無い。

(だからこんな無茶苦茶な事が出来るのでしょうね…だって責任を取るのはランスさんじゃ無いですから)

これからの事を考えると元貴族としては頭が痛くなるが、今はそれよりも目の前の魔軍だ。

「よーし、ハウセスナース。後はお前の番だぞ」

「まーお、まお!」

ランスの言葉には不満そうな顔をするハウセスナースだが、大まおーが言葉をかけると直ぐに笑顔になる。

「任せて大まおーさん! 今すぐするからね!」

ハウセスナースはそのまま崖をそのハンマーで叩く。

「これでいいわよ」

「…よし、まずはお前が行け」

「えええ!? オ、オラがですか!?」

ランスはハウセスナースが叩いた崖を見て、少し微妙な顔をしていたが自分の側に居た一人の兵士を見てまずはこいつを行かせることにする。

「そうだ。お前に一番乗りを譲ってやろうと言っているんだ。俺様が譲るなど本来はあり得ない事だからな。ありがたく受け取れ」

「ひ、ひええええええ!」

ランスはそのまま兵士の背中を蹴ると、兵士はそのまま落ちていく―――という事は無く、この傾斜の崖をまるで地を走るかのような速度で走っていく。

「おお、本当に走ってるぞあいつ!」

「地のハウセスナースの力だもの、当然よ。さーて、私も行くわよ」

ベゼルアイもそのまま崖を地面のように走っていく。

「流石は力のベゼルアイだな…」

「ベゼルアイならここから普通に落ちても生きてそうよね…」

ランスもレダも少し呆れた様に走っていくベゼルアイを見る。

「皆さん、突撃です! ここで魔物大将軍バートリーを討ち取ります!」

「「「おおおーーーーーっ!!!」」」

巴の言葉に皆が雄叫びをあげ、ベゼルアイの後を追って走り出す。

そこには恐れも何も無く、ただ只管にこれまで自分達を苦しめてきた魔物達、そして魔物大将軍バートリーへの恨みを込めて走っていく。

「さて、私達も行くわよ!」

「私も!」

それを見てレダとエルシールも続いていく。

「じゃあ行きましょう、ランス!」

「フン、真打は最後にやってくるものだ」

そして最後になったランスだが、剣を抜いて他の者と同じ様に崖を地面のように走っていく。

「魔物大将軍というからには、さぞ腹の中に可愛い女の子を入れてるんだろ。がはははは! その女の子は頂きだー!」

 

 

 

「う、う、う、うわーーーー! 落石だ! 岩が降ってギャーーーー!」

突然降って来た岩に悲鳴を上げた魔物兵が押しつぶされる。

その岩の質量は魔物兵を簡単に押しつぶしてしまう。

運良く―――いや、運悪く落石の直撃を受けなかった魔物はその下半身が岩の下敷きになってしまい、地獄の苦しみを味わう。

「に、逃げろ! どけっ!」

「お、押すな! 押すんじゃな…ぐげっ!」

そしてその落石から逃げようとする魔物兵の間で押し合いになり、転んだ魔物兵を踏み潰しながら魔物兵達は逃げ惑う。

「ま、待てお前達! 逃げるな! 逃げ…ぐえっ!」

何とか魔物兵達を落ち着かせようとしていた魔物隊長だが、その頭部に岩が直撃しそのまま即死する。

「しょ、将軍!? ドーリス将軍!」

そして何とかこの事態の収拾のまめに魔物将軍を探していた魔物隊長だが、その魔物将軍が岩の下敷きになり死んでいるのを見て愕然とする。

「そ、そうだ! バートリー様! バートリー様は何処だ!?」

魔物隊長は自分達の纏め役である魔物大将軍を探すが、その魔物大将軍が居たはずのテントが完全に岩の下敷きになっているのを見て恐怖する。

「ま、まさかあの下にバードリー将軍が…?」

魔物隊長と、その部下の魔物兵が魔物大将軍用のテントに近づく。

「バートリー様! バートリー様!」

「………こ、ここだ」

「ご、ご無事ですかバートリー様!」

魔物隊長と魔物兵が声の方向に向かうと、そこには左腕が完全に潰され、同じように左足が奇妙な方向に曲がっている魔物大将軍の姿があった。

「な、何が起きた…」

「落石です! 急に岩が降ってきて、甚大な被害が出ております! ドーリス将軍も岩の下敷きに…」

「落石だと…馬鹿な…いくら崖とはいえ、これほど頑丈な地でそんな事などありえん…それもこんなに都合良く落石が起きるなど…」

そう考えていた時、突如としてどこからか雄叫びが聞こえてくる。

「な、なんだ? 兵達が混乱しているのか?」

「この状況ならば無理はありません。バートリー様、どうか指示をお願い致します」

「う、うむ、そうだな…」

バートリーは痛む体で考える。

(チッ…傷が思ったよりも大きい…考えが中々纏まらん…)

落石はバートリーの腹部の中にある本体にすらダメージを与えていた。

いくら魔物将軍が頑強とは言え、流石にこれ程の質量を持つ一撃を受けてはただでは済まないという事だろう。

「まずは兵達を纏めて…」

「ぎゃーーーーーーー!!!」

バートリーが何とか指示を出そうとした時、凄まじい悲鳴が響き渡る。

「何事だ!?」

魔物隊長が兵を叱責しようとした時、そこにはとんでもない光景が広がっていた。

「魔物大将軍だ! 魔物大将軍を何としても見つけろ!」

そこに居たのは人間だった。

その人間達が落石による混乱で動けない魔物兵達を次々と討ち取っていく。

「な、何だと!?」

「い、一体何処から!?」

突然の人間達の登場に魔物隊長を含めた全ての魔物兵が更なる混乱に陥る。

「がはははは! 皆殺しじゃー!」

「そうね、ここで殺しておけば大分楽になるものね」

「まーおー!」

その中でも黒い剣を持った人間、金色の髪をした非常に美しい女、そしてピンク色の奇妙な物体が異常なまでの強さを見せている。

特に黒い剣を持つ人間は異常で、男が剣を振るうだけで魔物兵の体がいとも簡単に切裂かれる。

「ば、バカな!?」

通常の魔物兵1体でも、普通は人間の兵士が3人が必要となる。

確かに魔物兵を1対1で倒す人間が居ない訳では無かったが、この男はその逆…何と魔物兵3体をたった一人で一瞬で斬り殺したのだ。

しかも魔物隊長である自分があの人間が何をしたのか分からなかった。

「お、魔物隊長だな! 死ねーーーー!!!」

「に、人間如きが!」

魔物隊長が人間―――ランスに向かって剣を振るう。

が、その剣を持っているはずの手が宙を舞う。

「…は?」

魔物隊長はその光景に疑問を覚える事無く、続けざまに振るわれたランスの剣で首を飛ばされる。

その光景を、バートリーは思考が今一纏まらぬ頭で呆然と見ていた。

(な、なんだこの人間は…魔物隊長を一瞬で倒すなど、それこそ藤原石丸ぐらいしか…)

バートリーも藤原石丸の強さは見た事がある。

人とは思えぬ強さに驚愕し、正面からぶつかるのは得策では無いと考えた。

だからこそ魔人ザビエルが藤原石丸を殺すというのであれば、それが最適だとも思っていた。

それなのに、今自分の目の前にはその藤原石丸に引けを取らない人間が居る。

(ま、まさかこの人間がプギャランを…そして戯骸を倒したというのか…?)

ランスが周囲の魔物兵を凄まじい強さで斬り殺していく。

その周囲の者も人間にしてはとてつもない強さを持っている。

そしれランスが魔物大将軍バートリーをその目で捉えた時―――

「………おい、まさかこいつが魔物大将軍なのか?」

ランスの目の前には、魔物将軍を一回り程大きくした不気味な存在が立っている。

「ええそうよ。個々では容姿に差が出るけど、こいつが間違いなく魔物大将軍よ」

「こいつが…」

ランスは目の前の魔物大将軍を見て…

「話が違うではないか!」

「え、え? 何の話?」

いきなり怒鳴り声を上げた。

「あの腹の中にいるオッサンは何だ!? 美少女がいるはずでは無かったのか!?」

「私そんな事一言も言ってないけど!? ランスが勝手に勘違いしたんじゃない!」

「確かに外れの時もあったが、魔物将軍は皆女を入れているだろうが! だったら何でこいつは美少女を入れとらんのだ!」

「私が知るか! とにかく魔物大将軍はそういう生き物なの! あの腹の中にあるのが本体なの! 魔物将軍とは違うの!」

ランスとスラルは至近距離で互いに睨みあう。

「むぐぐぐぐ…」

「むうううう…」

暫くその姿勢のままでいたが、

「まあいいや。こんな褒美も何も無い下らんモンスターはさっさと殺そう」

「最初からそうしておけばいいじゃない」

ランスは仕方ないという態度が丸見えの状態で魔物大将軍に剣を向ける。

スラルも少し拗ねた様にランスの剣の中へと姿を隠す。

その光景を霞がかかった頭で見ていたバートリーが感じたのは―――圧倒的な怒りだった。

(なんだこいつは…まさかこの人間は、この魔物大将軍バートリーを魔物将軍を一緒に見ていたのか?)

魔物大将軍と魔物将軍は似ているようで違う。

この魔物界に7体しか存在する事が出来ない選ばれた存在なのだ。

(この魔物大将軍バートリーをよりにもよって『褒美も何も無い下らんモンスター』と言ったのか?)

そしてその怒りは自分の痛みを忘れさせる程に爆発した。

「貴様! 人間の分際でこのバートリー様を愚弄するか!」

「何を言っとるんだ。褒美も何も無いのは事実だろうが。まあ経験値は多いかもしれんが、どうせ幸福きゃんきゃんよりも遥かに下だろ」

「………!」

あまりの怒りでバートリーは二の句を告げる事が出来なくなってしまう。

しかしランスはそんな事は全く意に介さずにさらに言葉を続ける。

「ハニーと一緒だハニーと。だからとっとと死ね」

「うがああああぁぁぁぁぁぁ!」

『ハニーと一緒』という言葉はとうとう魔物大将軍バートリーを完全に爆発させる。

「人間! 貴様だけは絶対に許さん! その血を全て搾り取って殺してやる!」

「うお! なんだこいつ!」

魔物大将軍バートリが激昂すると同時に、その装甲が逆立ち無数の針が出て来る。

左腕は潰れ、左足も動かないはずだったが、それを上回る怒りとアドレナリンでバートリーはランスに襲い掛かる。

「貴様が! 貴様が俺の邪魔をした全ての元凶だ絶対に許さん! 貴様だけはこの手で殺してやる!」

バートリーはランスに向けてその腕を伸ばす。

そこには必ずこの手で殺すという強い殺意が感じられる。

「馬鹿が! 死ぬのはお前だ!」

そしてランスの一撃がバートリーの体を傷つけるが、バートリーは己の体が傷つくのを省みずにランスに襲い掛かる。

「死ね!」

バートリーがその右腕をランスに向ける。

(む、何かやばいぞ)

ランスはその行動に嫌な予感を感じ、急いでその場を飛びのく。

するとバートリーの腕から放たれた針のようなものがランスの居た場所に通過していく。

「え…あれ?」

その針が当たった魔物兵はしばらく呆然としていたが、その突き刺さった場所からまるでポンプで吸い上げたように、凄まじい勢いで血が吹き出る。

「ぎゃーーーーー!」

恐ろしい悲鳴が響き渡ったかと思うと、その魔物兵は何とかその針を抜こうとするが、深く突き刺さった針はその程度では抜けない。

そしてそのまま倒れて死亡する。

「ランス! アレに当たるとまずいわよ!」

「言われなくともわかっとるわ! さっさとあいつを殺すぞ!」

スラルの言葉にランスは猛然とバートリーへと突っ込んでいく。

「お前は死ねーーーーー!!!」

「死ぬのは貴様だ! 人間!」

魔物大将軍バートリーは怒りのままにランスへと攻撃を仕掛ける。

傷を負っている事を感じさせないその動きは正に鬼気迫る勢いと言っても良いだろう。

(む…こいつは結構強いぞ)

ランスとてこれまで何体もの魔人と戦っているが、スラルの言うとおり無敵結界が無いだけで魔人並みの強さはあると言っても良いだろう。

「皆殺しだ!」

そして魔物大将軍バートリーについている針が一斉に逆立ったと思うと、

「死ね! カス共!」

その体から無数の針が四方八方に飛び散る。

「避けなさい!」

レダの声が響くが飛ばされた針は複数の人間に、そして魔物兵にも見境無く直撃する。

針が突き刺さった者からは大量の血が噴出される。

(やったか…!)

魔物大将軍バートリーは己の奥の手が相手に決まったことを信じて疑わない。

この技は一度の戦闘では一度しか使えない上に、味方ですらも巻き込む技だ。

故にこれは使いたくなかったのだが、今の状況ならば話は別だ。

(何とかここから逃げ出して…)

そう思っていたとき、自分の腹部に強い衝撃を感じる。

「な、なんだと!?」

「何勝った気になってやがる! そんなもので俺様が死ぬとでも思ったか!」

そこには自分の体に黒い剣を突き刺すランスの姿があった。

相当に固いはずの魔物大将軍の体を簡単に貫き、自分の本体である腹の中の顔にもその刃が届いているのをようやく知覚する。

「ぐ、ぐわああああああ!!」

「やかましい! さっさと死ね!」

ランスはそのまま剣を捻ると、さらに傷口を広げていく。

「ぐ、ぐぐぐぐぐぐぐ!」

バートリー唸りながらも残った右腕でランスの頭を砕こうとするが、ランスは直ぐに剣を引き抜く。

もう手応えは十分だからだ。

「な、何故貴様は生きている…」

あの無数の針からは逃れられないはずだった。

ましてやこの男は自分の一番近くに居たのだ。

「残念だけど私が居たからね」

「い、意味が分からん…」

何処からとも無く声が聞こえるが、バートリーには何が起きたのか全く分からない。

答えは極単純、スラルの魔法バリアがランスに向かってくる無数の針を防いだだけなのだ。

しかしその姿を見ることが出来ないバートリーにはそんな事は分からない。

「くたばれ!」

「ぬ、ぬおおおおおお!?」

動かぬ左手を何とか伸ばしてその攻撃を防ごうとするが、ランスの一撃は残ったバートリーの右腕を深く傷つける。

ランスの剣がバートリーの右腕に突き刺さり、その肉を抉る。

腕の筋肉をずたずたにされたバートリーはその口から血を吐き出す。

ランスはその血を避けるために後ろに下がる。

地面に垂れた血が凄まじい臭いをだし、地面を焼く。

自分の一撃を完全に避けられた事でバートリーは悔しげに血を吐き出す。

「ま、まさか俺が負けるのか…こんな所で人間に殺されるというのか…この魔物大将軍バートリーが!」

「フン、何が魔物大将軍だ。所詮は魔人の使い走りだろうが。だからお前はカミーラに切り捨てられたんだろうが」

「な、何だと…?」

ランスの言葉にバートリーが目を見開く。

その顔は驚愕に満ちており、思わず大きく口を開けてしまう。

「カミーラが俺様にお前の全ての行動を知らせて来たぞ。まあカミーラの事だからお前が気に入らなかったんだろ」

「ま、まさか…そんな…」

魔人が魔物を裏切る―――そんな事はあり得ないというのがバートリーの考えだった。

が、これまでのカミーラの動きを思い返してみれば、全てが辻褄が合ってしまう。

(カミーラがここに来たのも…七星が俺達の行動を全て把握していたのもまさか全てこのためだったのか…?)

魔人カミーラは我儘で傲慢で気に入らない存在は殺す―――そんな話は聞いてはいた。

(まさか…それだけで魔物大将軍すらも切り捨てるのか!? そこまでやるのか、あの魔人は!? だから人間共がこんな所で罠を仕掛ける事が出来たのか!)

だが同時に魔人カミーラと言う存在を嫌でも思い知る。

あのベールの向こうの目は、こちらを見てさえいなかった。

つまりは魔物大将軍であろうとも、魔人カミーラにとっては取るに足らない存在だったのだ。

そう、それこそ切り捨てても全く痛くない程度の。

「クク…ククククク…あの女狐が! まさか自分が動けぬからとしてもここまでやるか!?」

「うお! なんだこいつ。いきなり叫びだしたぞ」

「まさかお前等人間に通じていたとはな! あの魔人カミーラが! クククククククク!」

バートリーは狂ったように笑いながら何とか立ち上がる。

「人間! 俺はお前に負けたのではない! 俺はあの魔人カミーラに裏切られてお前達に負けたのだ!」

そんなバートリーをランスは心底馬鹿にしたように笑う。

「それだけお前が気に入らなかったって事だろ。俺様は昔からカミーラに使徒に誘われているからな。いやー、魔人の勧誘も大変だな」

「フハハハハハ! もうそんな事はどうでもいい! どうせ俺は死ぬ! だが、只では死なん! お前だけでも道連れにしてやる!」

魔物大将軍バートリーは最後の力を溜める。

己の体に流れる血を全て集めて、ここで爆発させる。

(そうだ、どうせ戻ってもカミーラに殺されるのだ! だったらせめてこの人間だけでも…)

バートリーがそう思っていた時、

「グハァ!」

「馬鹿かお前は。俺様がそんな隙を与えるとでも思っていたのか」

ランスの剣がバートリーの本体である腹部の顔に完全に突き刺さる。

「魔物大将軍ってもっと冷静だったと思ったんだけどね。カミーラに切り捨てられたと聞いて自棄になったのかしらね」

「そんなのはどうでもいいわ。さっさと死ね」

ザクザクとランスの剣が何度も何度もバートリーの腹部に突き刺さる。

「ぎゃーーーーーーー!!」

何度も何度も本体を傷つけられ、とうとうバートリーは悲鳴を上げて倒れる。

「に、人間を殺すのだ…そしてその血をすべて搾り取り、極上の血のワインを作るのだ…」

「もうあなたにそんな事は出来ない。諦めなさい」

無慈悲に放たれるスラルの言葉に、バートリーは尚も何かを望むようにその手を天に向ける。

「血のウォーターベッドを作るのだ…それも極上の血で…それまで俺は死ねない…死にたくない…誰か助けて…」

「今更都合の良い事を言うな。さっさと死ね」

ランスはその不愉快な言葉を遮る様にバートリーに止めを差す。

「グガッ!」

魔物大将軍は最後に呻くと、そのまま動かなくなる。

「死んだわね」

「フン、最後の最後まで不快な奴だった。だが、これで魔物大将軍は死んだぞ!」

「そ、そんな…バ、バートリー様が死んだ…」

「え…お、俺達どうしたら…」

もう動かない魔物大将軍バートリーを見て、魔物兵達はただただ混乱するだけだ。

「に、逃げろ! バートリー様が殺されたぞ!」

「う、うわあああああああ!」

誰かがそう叫んだことで魔物兵達は一斉に逃げ始める。

それと同時にこの戦いに参加した人間達は一斉に雄叫びを上げる。

とうとう自分達を苦しめていた魔物大将軍を打ち倒す事が出来たのだ。

「ランスさん! やりましたね!」

「おっと。まあ俺様ならば当然だな」

巴がランスに勢いよく抱きつく。

ランスはそれを支えながら巴の尻に手を伸ばすとするが、鎧がそれを阻んでいることに少し不愉快そうな顔をする。

誰もが喜びの声を上げていた時、突如として何者かの悲鳴が響き渡る。

「な、何だ?」

一人の兵士が不安そうに声の方向を向いた時、そこにはとんでもないモノが振ってくる。

それは真っ二つになった魔物兵の死体だった。

「え…何を!?」

「や、やめて下さいレキシ…うぎゃーーーー!」

「だったらどけい! 雑魚共が!」

悲鳴と共に聞こえてくる怒鳴り声に兵士達の体が竦む。

それほどまでにその声が恐ろしい…本能的な恐怖に体が震えが止まらないのだ。

「なんじゃこの岩は! 岩如きがワシの行く手を阻むなど片腹痛いわ!」

 

ビシッ! ビシッ!

 

ランス達の眼前にある岩に見る見るうちにヒビが入っていく。

「う、嘘だろ…」

誰かが呆然と呟いた時、ついに目の前にあった巨大な岩がバラバラに砕ける。

そしてその奥から巨大な何かが笑いながら入ってくる。

「ぐわははははは! ここに戯骸の奴を倒した人間が居るそうだな! このレキシントンと戦え!」

魔人レキシントン…本来の歴史ではありえぬはずの魔人が、今ランスの目の前に立っていた。

 

 

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