ランス再び   作:メケネコ

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魔人レキシントン

 その日、魔人レキシントンは何時もの様に暴れ、酒を飲み、セックスをするという普段と変わらない日々を過ごしていた。

「退屈そうだねえ、レキシントン」

「あん? 退屈だぁ? …まあそうだな。あの喧嘩に参加できないのは確かに退屈だあな」

 そのレキシントンの隣にいる全裸の使徒であるジュノーが笑う。

「そうだねえ。何しろナイチサはザビエルに任せてしまった上に、ほかの魔人には動くなって言ってるからねえ。魔王の命令って本当に厄介だね」

「けっ! その藤なんちゃらとかいう奴とは楽しい喧嘩が出来そうだってのによ」

 魔人レキシントン…鬼の魔人であるレキシントンは何より戦う事を好む。

 酒、戦、セックス、酒、戦、セックスのサイクルで行動をするレキシントンには、今回の人間の討伐は非常に楽しそうな喧嘩になる予感がした。

 しかし魔王ナイチサの判断は、ナイチサの忠臣である魔人ザビエルに一任された。

 それがレキシントンには不満だった。

「だったらケッセルリンクにモーションをかけにいくかい?」

「ケッセルリンクか…それもいいな。だがお前はケッセルリンクが嫌いだろう?」

 からかうようなレキシントンの言葉にジュノーは頭を押さえる。

「そうなんだよねー。何しろケッセルリンクは巨乳だからね。しかもそれをアピールするかのような服も来てるしね。まあ俺にとっては目の毒だね」

「がっはっはっはっは! それを聞いたら余計にケッセルリンクに会いに行きたくなったな!」

「やめてくれよ。ただでさえこの前ケッセルリンクに酷い目にあわされたばかりじゃないか。しばらくは御免だね」

 ジュノーの言葉にレキシントンは豪快に笑う。

 そんな時、自分のもう一人の使徒であるアトランタがやってくる。

「レキシントン様ー! お客様ですよー!」

「あん? 客だあ?」

 レキシントンは自分を訪ねてきたという言葉に怪訝な顔をする。

 戦闘狂であるレキシントンを訪ねる者は決して多くは無い。

 そもそもレキシントンと話すためには酒を飲まなければ話にもならない。

「お、お、お、お邪魔するだ」

 レキシントンを訪ねてきたのは、件の魔人の使徒である魔導だった。

「ひ、ひ、ひ、久しぶりなんだな。レ、レ、レ、レキシントン様」

「何だお前か。えーっと名前はなんつったかな」

「魔導だよ。魔導」

「おう、そうだ。ザビエルの使徒が儂に何の用だ」

 魔導を睨むレキシントンの目は非常に鋭い。

 何時にも増して機嫌が悪そうなレキシントンには流石の魔導も冷や汗が流れる。

 魔人レキシントン…主であるザビエルは完全に見下しているが、使徒である魔導達はそうはいかない。

 なによりも魔人レキシントンは、魔人となって日が浅いにも関わらず、絶大な強さを持っている。

 主であるザビエルには及ばないだろうが、それでも使徒である魔導では相手にもならないだろう。

「ザ、ザ、ザ、ザビエル様からの言伝を預かってるんだな。ぎ、ぎ、ぎ、戯骸を倒した奴が人間にいるんだな。そ、そ、そ、その人間を好きにしていいという事なんだな」

「…何だと?」

「へえ…戯骸が倒されたって?」

「あらら。それは大変ねえ」

 レキシントンたちの反応は三者三様、レキシントンは僅かな驚きを、ジュノーは非常に楽しそうに、アトランタはあまり興味が無いようだ。

「ふ、ふ、ふ、藤原石丸に手を出さなければいいんだな。い、い、い、以上なんだな」

 魔導はそれだけ言うと、レキシントンに背を向けて消えていく。

「………クックック、聞いたかおい」

「そりゃもう。しかし戯骸を倒す人間が居るなんてねー」

「レキシントン様、凄い嬉しそう」

 アトランタの言葉にレキシントンはついに堪えきれなくなった様に大笑いをする。

「そりゃあ嬉しいな。ようやく儂も好きに出来るというもんだ! ジュノー! アトランタ! 行くぞ!」

「ご随意に」

「レキシントン様が行くなら盛大に行きましょう」

 レキシントンの言葉に二人の使徒が笑う。

 今ここに、魔人レキシントンが動き出した。

 

 

 

 そして今魔人レキシントンの前には魔物大将軍バートリーの死体が転がっている。

 それを見てレキシントンは非常に楽しそうに笑う。

 魔物大将軍は魔人に匹敵する力を持つと言われ、実際に魔人並に強い魔物大将軍も存在する。

 魔物大元帥と呼ばれるファープケンも、魔王と魔人を除けば最強の魔物と呼ばれるくらいには強い。

 そして目の前に転がる魔物大将軍バートリーもそれこそ強い。

 その魔物大将軍を倒し、最強の使徒と名高いあの戯骸を倒した人間がここに居るはずなのだ。

 そしてレキシントンは真っ黒い剣を持った非常に強そうな人間を見つけ、笑みを浮かべる。

「おうガキ! 貴様だな!? 戯骸を倒したという人間は! 儂と戦え!」

「…何だこの異常に濃いオッサンは」

「見た所鬼…みたいだけどまずいわね。アレは間違いなく魔人よ」

「アレがか…」

 明らかに男の魔人であるレキシントンを見て、ランスは露骨にがっかりする。

 男の魔人など倒しても褒美は無いし、面倒臭いだけだ。

(…しかしかなり強そうだぞ)

 レキシントンがランスの実力を見抜いたように、優れた戦士であるランスにも相手の力量を見抜く力がある。

 そして目の前の魔人であるレキシントンは、間違いなく強い魔人だ。

 その両の手にある金棒を使って岩を破壊した事からもその事が嫌でも理解させられる。

 全身が筋肉の塊であり、ランスとしては最も相手にしたくないタイプの暑苦しい敵だ。

「ちょっとあなた。レキシントン様が聞いてるのよ! きちんと答えなさいよ!」

 そのレキシントンの背後から、全裸の女が出て来る。

 ランスはその女に見覚えがある。

「…あれ? お前アトランタか?」

「あら? 私の事を知ってるのかしら? 私も人間の間で有名になったものねー」

 アトランタが肯定した事で、ランスは思い出す。

 あれは魔王ジルを倒してから闘神都市イラーピュに跳ばされた時の事。

 そこには恐ろしい力を持つ全裸の魔女が存在した。

 そしてその魔女アトランタはランスを試し、その結果ランスに魔血魂を飲ませようとした存在。

「へえ…アトランタも有名になったもんだね。で、俺の事は知らないのかい?」

 レキシントンの背後から出て来たのは…アトランタと同じ全裸だった―――ただし男だ。

「ちょ、ちょっと! アンタ何で全裸なのよ!」

 流石の全裸とマフラーだけという格好にはスラルも思わず声を出す。

「ただの変態じゃない!」

「どこからともなく声が聞こえるねえ…何故俺が全裸なのかって? そんなのは当然の事さ」

 全裸の男―――使徒ジュノーが笑いながら答える。

「この俺…ジュノーの美しい体を服なんて野暮なモノで隠すなんて勿体無いだろう?」

 ポーズを取るジュノーの下半身の一部がジャキーンと臨戦態勢になる。

「な、な、な、何をしてるんですかあなたは! こんな所で!」

 ランスの隣にいた巴がジュノーの裸を見ないようにランスの背後に隠れる。

「フッ…この俺の美の極致を隠すなんてそれは罪だよ」

 ジュノーの歯がキラリと光る。

「…なんだこいつは」

「気にしなくていいわよ。こいつはただの馬鹿だから。ゴホン…それよりもあなた達、ここに居る方を誰だと思っているの! この方こそ魔人レキシントン様よ!」

「がっはっはっは! 儂こそがレキシントンよ! さあ小僧! 儂と戦え!」

 レキシントンは笑いながら武器を振るいながらランスに金棒を突き付ける。

「断る。面倒臭い」

「あらら…振られちゃったねえ、レキシントン」

 あっさりと断言するランスにジュノーが楽しそうに笑う。

「はっ! お前の答えなど聞いてなどいないわ! 行くぞ小僧!」

 レキシントンはそのまま金棒を構えてランスに襲い掛かってくる。

 その速度はその巨体とは似合わぬほどに早い。

「チッ! 巴ちゃん、離れろ!」

 ランスは自分の背後に隠れている巴の体を離すと、そのままレキシントンへと向かって行く。

 レキシントンはその光景を見てより楽しそうに笑うと、挨拶代わりと言わんばかりにその金棒をランスに向かって振り下ろす。

 ランスはその一撃を避けるが、振り下ろされた金棒の衝撃は凄まじく、地面に大穴を開ける。

 その衝撃を無視してランスはレキシントンに向かって斬りかかり―――無敵結界の前にその攻撃を弾かれる。

「また無敵結界か!」

 ランスは無敵結界の前の怒鳴り声を上げ、一方のレキシントンの方もその無敵結界から生じた衝撃に少し驚く。

「…こいつはすげぇな。まさか無敵結界から儂に直接衝撃が当たるたぁ…楽しみになって来たぞ、小僧!」

 レキシントンは笑いながらランスに詰め寄る。

 ランスはというと、分かっていた事だが無敵結界の前には手も足も出ない。

 いや、それだけではない。

 ランスは決して表立っても認めないだろうが、相手の強さを嫌というほど理解していた。

 レキシントンが振り回す金棒は、かつてランスが見てきた誰よりも洗練されている。

 ランスの仲間にも槌戦闘技能を持つアルカネーゼが居るし、敵ではミネバ・マーガレットが居た。

 しかしレキシントンはその二人を遥かに凌駕している。

 ランスをして強いと認めた、トーマ・リプトンすらも上回っているだろう。

 それに加えて魔人としての強さ、そして無敵結界…流石のランスもこの魔人の登場には唇を歪める。

「行くぞ小僧! 簡単に死んでくれるなよ! せめて汗くらいはかかせろよ!」

 レキシントンは嬉々としてランスに襲い掛かる。

「ランス!」

 レダは明らかに押されているランスの加勢に入ろうとするが、

「おっと、今はレキシントンがお楽しみ中なんだ。余計な事をするのは野暮ってものじゃないかい?」

 そこに全裸の使徒、ジュノーが現れる。

「邪魔する気? ならば容赦はしない」

「そちらが何もしなければ俺からは何もしないさ。レキシントンのお楽しみの最中だからね」

 そう言いながらもジュノーの目は鋭い。

(この男…飄々としてるけど実際には強いわね)

 エンジェルナイトであるレダには目の前の使徒の実力が嫌でも分かる。

 現実に今の自分の動きを許さないと言わんばかりの視線を向けている。

「そういう訳にはいかないわね。私にはあいつを守る義務がある。例え相手が使徒だろうが魔人だろうが譲るつもりは無い」

「へえ、使徒に対して中々言うねえ。でも…君みたいな美しくない奴にレキシントンの邪魔はさせないよ」

 ジュノーの言葉にレダの唇が歪む。

 まさかエンジェルナイトの自分を前にして『美しくない』と言ってのける奴が居るとは思わなかった。

 個々に差があるだろうが、エンジェルナイトは皆が基本的に美しい姿をしている。

 そのエンジェルナイトに向けて面と向かってそんな事を言われたのは流石に初めてだ。

「言ってくれるわね。別に美貌だの何だのと言う気は無いけど…そうまで言われるのなら話は別ね」

「そういう所だよ。だから巨乳は嫌なんだよ」

「…は?」

 心底嫌そうな顔をするジュノーに対し、レダは怪訝な顔をする。

「俺、巨乳って美しくないと思うんだよね。俺の定める美とは対極にあるんだよねー、巨乳は」

「………」

 突如として妙な事を言い始めた使徒に対して、レダの目が思わず点になる。

「ほら、あの子くらいのつるぺたっぷりならいいんじゃないかな」

 ジュノーの視線の先を思わず追ってしまうと、そこには大まおーに引っ付いているハウセスナースの姿がある。

「乳なんてね、あるだけ無駄。害悪を言ってもいい。つるーんとした状態が美だよ。まあ俺の美には敵わないけどね!」

 そこでジュノーの下半身がジャキーンと臨戦状態になる。

「あ、あ、あ、アホかーーーーーーっ!」

「おおうっ!」

 怒りで顔を真っ赤に染めたレダのストレートがジュノーの頬に炸裂し、ジュノーが吹き飛ぶ。

「真面目に聞いて損したじゃない! とっととくたばれ!」

「ぶ、ぶったね…この俺の美しい顔を…」

 吹き飛んだジュノーだが、すぐさま起き上ると鋭い視線でレダを睨む。

「やる気になったわけ? でも今あんたと遊んでる暇は無いのよ。まおー! こいつは任せたわよ!」

「まーおー!」

 レダはジュノーの相手をするのは時間の無駄だと判断し、大まおーにジュノーの相手を任せる。

 大まおーも即座にその声に反応し、ジュノーの前に立ち塞がる。

「やれやれ、今度は君か。所で…頬を腫らした俺、『美』、だと思わないか?」

「まーおー!」

「つれないねえ。まああれ位の障害が無いとレキシントンも楽しめないかな。じゃあ君が俺の相手だね」

「まお! まーおー!」

「さーて、使徒の仕事をするかな」

 

 

 ランスとレキシントンが、大まおーとジュノーが戦ってる中、この戦場には大きな変化が起きていた。

「殺せ! 人間を殺せ!」

「うおおおおおお!」

 魔物大将軍バートリーが死んだことにより混乱していた魔軍が、新たな魔人レキシントンが現れたことによって人類に反撃をして来たのだ。

「あららら。魔人が来たことによって盛り返したみたいね。よっと」

「「「ぎゃーーーーー!!!」」」

 ベゼルアイが適当に薙いだ一撃で魔物兵の体が両断される。

 しかし魔軍の士気は全く落ちず、レキシントンが空けた穴からどんどんと魔軍が押し寄せてくる。

 幸いなのはレキシントンが入って来たところとは逆の方向から魔軍が押し寄せて来ない事だが、慰めにもならない。

「さて、ランス君はどうするのかしら。流石に魔人が相手だとランス君でもきついでしょうし」

 ベゼルアイはこちらに向かって来る魔軍を蹴散らしながら、レキシントンと戦っているランスを見る。

「フレー! フレー! レキシントン様ー!」

 そしてランスはレキシントンの攻撃から何とか逃げる事が出来ている。

 暢気にレキシントンを応援しているアトランタからは、攻撃の気配が無いのが救いだろう。

「ぎゃははははは! 死ね人間!」

「レキシントン様! お手伝いします!」

 そんなランスに向けて、緑魔物兵と灰色の魔法魔物兵が詰め寄ってくる。

 流石のランスもこれはヤバイと思った時、

「何勝手な真似してやがる! この雑魚共が!」

「ぎゃーーーーー!」

「レ、レキシ…うぎゃーーーー!」

 レキシントンがランスに詰め寄ろうとした魔物兵をその金棒で叩き潰す。

「レ、レキシントン様…?」

 その光景に全ての魔物兵の足が止まる。

「誰が余計な事をしろと言った!? 貴様等雑魚共が儂の楽しみを邪魔をするな! すっこんでろ!」

「ひ、ひ…」

 ようやく魔軍は今の状況を理解する。

 魔人レキシントンは自分達の援軍などではなく、ただ暴れるためだけに来たのだと。

「死ねーーーー! ラーンスアターック!」

 レキシントンがランスに群がろうとしてた魔物兵を蹴散らし、ランスに視線を向けたとき、ランスは既に動いていた。

「うおっ!?」

 ランスの必殺の一撃であるランスアタックがレキシントンの無敵結界に阻まれ―――レキシントンはその衝撃にその体を揺らす。

 レキシントンは無敵結界があるにも関わらず、自分がこれだけの衝撃を受けた事にさらに喜色を浮かべる。

「小僧! やるではないか! 次は儂の一撃を受けい!」

「ことわーる!」

 レキシントンの剛腕から放たれる一撃をランスは避けながら考える。

 が、現実は無情なもので、無敵結界を破る手段が一向に見つからない。

 それも当然、ランスはこれまで魔人と戦うときはカオスが無ければ手も足も出なかったのだから。

 魔人カミーラは例外中の例外であり、ランスがどれだけ強かろうとも、例え技能レベルが高かろうとも魔人に勝つことは出来ないのだ。

「あっ」

 レキシントンの攻撃を避け続けたランスだったが、バートリーの死体に躓いてバランスを崩す。

「もらったぞ! 小僧!」

(あ、やば…)

 そして迫りくるレキシントンの金棒を何とか剣で防ごうとするが、タイミングが悪すぎる。

 レキシントンの金棒がランスに直撃しようとしたとき、ランスの体を誰かが無理矢理押し倒す。

「ぐえ!」

 その重さに一瞬息が詰まるランスだが、その体を押し倒した相手はランスの襟首を掴んで無理矢理立たせる。

「何をする! レダ!」

「言葉は後! 来るわよ!」

 突如として現れた人間の女に対し、レキシントンはさらに笑みを浮かべる。

 目の前のいる女…レダが並大抵の相手ではない事を完全に見抜いている。

「女! 貴様も中々やりそうだな! ちょうどいい! 二人纏めて相手をしてやるわ!」

 レキシントンは好戦的な笑みを浮かべながらその金棒を振るう。

「っ!」

 

 ガンッ!

 

 大きな音を立ててレキシントンの金棒とレダの盾がぶつかる。

「防ぐか!」

 レキシントンは己の一撃を人間が防いだ事に気分を良くする。

 まさか人間が自分の一撃を避けるのではなく防ぐとは流石に予想外だった。

 一方のレダは痺れる腕に唇をかみ締めながら、レキシントンを睨む。

(なんて一撃よ…単純な腕力だけならカミーラすら上回る…!)

 レダの知る最強の魔人であるカミーラをも上回る一撃にはレダも舌を巻くしかない。

 レキシントンの金棒をレダは不用意に受け止める事はせずに、ランス同様に回避をする事でやり過ごす。

 やはり無敵結界の前にはどうする事も出来ないのだ。

(私の力が全力なら傷つけるくらいは出来るのに…)

 エンジェルナイトには無敵結界は意味は無いが、エンジェルナイトの力を大きく制限されている今の状態ではやはり魔人の相手は辛い。

 ランスと共に何とか防げているが、このままでは体力の方が限界が来てしまう。

 いよいよ本格的にピンチになってきたとランスが冷や汗をかいていたとき、

「ランス君! こっち!」

 ランスの名を呼ぶ声が聞こえる。

「ベゼルアイ!」

 声の主はベゼルアイで、ランス達が下りてきた崖の方から声をかけてきている。

 そして皆がそっちに集まって、襲ってくる魔軍に対抗している。

「行くぞレダ!」

「分かったわよ!」

 ランスとレダは急いでベゼルアイの所に戻るが、

「逃がすと思っているのか!」

 そこにレキシントンが笑いながら迫ってくる。

「ハウ!」

「分かってるわよ!」

 ベゼルアイがハウセスナースに声をかけると、ハウセスナースは崖に向かってハンマーを叩き付ける。

「いいわよ!」

「ランス君! さっきと同じ要領で行けるわ!」

「ぬおーーーーー!!!」

 迫りくるレキシントンを背後に、人類は切り立った崖を走って登っていく。

「な、なんだぁ!?」

「えええ! ずるくない!?」

「へぇ…中々楽しそうなことしてるねえ」

 レキシントン達は垂直の崖を走って登っていくランス達を呆然と見上げる。

「…おい、どうなってんだ?」

「さあねえ。でもこうやって奇襲してたんだね。そりゃ魔物大将軍もやられる訳だ」

「そんな事言ってないでどうするのよ」

 感心するように笑うジュノーをアトランタが小突く。

「…そうだ! レキシントンなら崖を走れそうじゃないかい?」

「おお! そうだな! やってみるか!」

 ジュノーの言葉にレキシントンは豪快に笑ってランス達と同じ様に崖を走っていく。

「あ、本当にいけた」

「あんたねえ。レキシントン様が変な勘違いしたらどうするのよ」

「まあレキシントンが楽しそうだからいいんじゃない?」

「まあそうね。頑張れレキシントン様ー!」

 二人の全裸の使徒は、崖を駆けあがる主を見上げて呑気に手を振っていた。

 

 

「ハウ! 追って来てるわよ!」

「今はまだ切れない! 今切ったらあの人間が落ちる!」

 ベゼルアイの言葉にハウセスナースも苦い顔をする。

 大地を操作し、この崖を平地のように登れるようにしているが、それは勿論人間達だけという都合のいいものでは無い。

(べーのように大人だったら細かい調整が出来るんだけど…)

 今の子供の形態の力では流石にそこまでの力が無い。

 只でさえスラルの無茶な願いで大分力を使っていたのだ。

 流石にこれ以上の力を使うのは望ましくない。

「があっはっはっは! 小僧! 儂と戦え!」

「やかましい! くどい顔のおっさんがついてくるんじゃねー!」

 ランスも迫りくるレキシントンの気配を感じながら必死で走る。

 しかし人間と魔人では基本的な身体能力が違う。

 追いつかれるのは時間の問題…ランス自身も嫌な予感が止まらない。

 ランス自身も危機を感じていた時、

「ランス! 伏せろ!」

 その時上の方から声が聞こえる。

「この声は…」

「いいから伏せる!」

 ランスは聞き覚えのある声だと思っていた時、隣を走っていたレダがランスを押し倒す。

 崖の上で押し倒すというのは変な話だが、流石は神であるハウセスナースの力、何も問題は無いようだ。

「う、うおおおおおおお!?」

 そしてレキシントンは、自分に目がけて飛んでくるとんでもないモノに流石に驚きの声を上げる。

 レキシントンに迫ってきたのは、直径1m程もある巨大な岩石だ。

 岩石はレキシントンの無敵結界に弾かれるが、無敵結界は衝撃そのものを防いでくれる訳では無い。

 普通ならばこの程度の岩石はレキシントンは受け止める事が出来ただろうが、突然の出来事では流石に受け止める事は出来なかった。

「あっ…」

 その衝撃でレキシントンの両足は崖から離れ、そのまま岩石と一緒に地面に落下していく。

「レ、レキシントン様!?」

 それを見上げていた魔物兵が驚愕の声を上げたのと同時に、レキシントンの体が地面に叩きつけられる。

 ランスはそれを見届けて崖の上に上がる。

「大丈夫か! ランス!」

 そしてランスを待っていたのは、かつてランスと共にJAPANを駆け抜けた存在…妖怪王黒部だった。

 

 


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