魔物界―――今現在の魔物界は静かなもので、魔人ケッセルリンクはこの静かな空間を一人堪能していた。
本来であれば自分を世話する使徒であるシャロンとパレロアが居るのだが、今この二人は魔人カミーラに貸している。
魔人カミーラとは個人的に親しい故に、今は魔王ナイチサからもあまり良い顔をされていないが、ケッセルリンク本人は特に気にしていない。
(運命、か)
ケッセルリンクは今はしていない自分の手袋を見て思わず笑う。
まだ自分がカラーであった頃、ランスと共に奇妙な迷宮で手に入れたアイテムだ。
一度ランスと分かれてからも、それからは奇妙な縁があり、魔人と人間という間柄でありながらも時には協力しあう中だ。
「しかしカミーラの勘もたいしたものだな…まさか本当にランスがいるとは。いや、この場合は皮肉とも言うべきか」
魔王ナイチサによる人類のトップである藤原石丸、そしてその側近である月餅の抹殺が命令されてもうすぐ3ヶ月程経過する。
自分の使徒であるシャロンの手紙で、相手側にランスが居ることは既に確認済みだ。
何でもあの魔人ザビエルの使徒である戯骸を倒したそうだ。
それが本当でもケッセルリンクには驚くには値しない。
自分がまだカラーだった時にはそれ以上の脅威が襲い掛かり、自分達はランスとレダと協力して強大な敵を打ち破ったのだから。
「しかし…レキシントンか。あのプライドの塊のようなザビエルが他の魔人の参戦を許したか。相変わらず魔王には忠実な奴だ」
魔人レキシントンが人間達の所に向かったのはシャロンの手紙に書いてある。
「此度の戦いの結果を早急にナイチサに伝えるように、か。確かに目的の人物さえ死ねばナイチサは兵を引き上げさせるだろうな」
そしてこの手紙の一番重要な所…それは藤原石丸と月餅を討ち取ったら、早急にナイチサに伝えるようにとのカミーラの言葉。
これにはケッセルリンクも納得し、真剣な顔でシャロンからの手紙を読む。
いくらランスが強くても、魔人の持つ無敵結界の前には無力だ。
オウゴンダマは無敵結界を自ら解除した事で倒す事は出来たが、それはあくまでも例外だ。
例えどんな力を持っていようとも、魔人の持つ無敵結界の前には人間は無力だ。
(…いや、パイアールという例外は居たか。どうやら奴は魔人の魔血魂を抜き取り魔人となったようだからな)
その人間の中の唯一の例外、魔人パイアールの事を思い出しケッセルリンクは複雑な表情をする。
ランスの持つバイクもパイアールの作品だし、彼の作るものはケッセルリンクの理解の範疇を超えている。
ただ、魔人の中でも異端で、他の魔人との繋がりはほぼ無いと言っても過言では無い。
唯一、パイアールが人間の時から知っているパレロアが時たま見に行くくらいだ。
(まあ今は関係は無いか…しかしランスは魔物大将軍を倒したか。相変わらずとんでもない方法を取る)
シャロンからの手紙を最後まで読んだケッセルリンクは、苦笑いを浮かべながら手紙を仕舞うと、そのまま手紙を灰にする。
万が一にもこの手紙が流出するのは避けねばならない。
「しかし…不思議とランスが死ぬのは想像出来ないな。それが魔人であってもな」
???―――
スラルが居るのは深い闇の中。
ランスの持つ黒い剣の中は確かに闇だが、スラルはその闇が嫌いではない。
考え事をするにはもってこいだし、酷使した魔力を回復させるのにももってこいだ。
しかし、ある日からここに同居人が現れた。
それはランスがカミーラ、ケッセルリンク、メガラスと共に破壊神ラ・バスワルドと戦ったときだ。
あの時確かにランスはこの剣でラ・バスワルドを貫いた。
が、勿論それが致命傷になったとはスラル自身思ってもいない。
そもそもあの神は魔王よりも強く、この世界の全生命体の力を持ってしても抗うことは出来ないだろう。
唯一可能性があるとすれば、それは魔王以外に他ならない。
自分は強い魔王だとは思っていない…だからこそ、魔王という存在が無敵である事を願ったのだから。
「さて…問題は話が通じるかだけど」
問題なのは、未だにこの相手とは未だに話が通じたことが無いことだ。
ここに居るのは自分とは違い、魂だけの存在ではない。
だがそれでもやらなければならない。
ここで…こんな所でランスを死なせる訳にはいかない。
そして魔人と対抗するためには間違いなく、この破壊神ラ・バスワルドの力が必要になる。
無敵結界も決して完璧ではない…それはスラル自身も理解している。
衝撃までは防いでくれないこと、同じ魔人同士の戦いでは無敵結界は作用しない事。
そして…神と悪魔の攻撃に対して無敵結界は意味が無い事。
(だからこそ…ランスの持つ剣にその力を宿らせる必要がある…例えそれが一瞬だとしても)
スラルは意を決して、ラ・バスワルドに話しかけた。
魔軍陣営―――正確には魔人レキシントンの軍団。
そこでは魔人レキシントンが先頭に立ち、人類の本拠地に向かっている。
しかし、その後に続く魔物兵達の顔は暗い。
それは魔人の部隊に居るはずの魔軍としては極めて異例だ。
「お、おえええええええ!」
「お、お前吐くなよ! 足にかかるだろ!」
「お、俺もダメだ…お、おえええええええ!」
魔物兵の一人が嘔吐すると、それに釣られる様に魔物兵達が嘔吐をする。
「お、お前達しっかりしろ…」
魔物兵達を叱咤する魔物隊長だが、その魔物隊長も足元はふらついており、必死で口元を押さえている。
「があっはっはっは! だらしねえなお前ら! 鬼ならばあの程度の酒で酔うなどと言う事は無いぞ!」
足元がおぼつかない魔物兵達を見てレキシントンは笑う。
魔物隊長を初めとした魔物兵達はこれまでレキシントンの宴に付き合わされている。
(うう…レキシントン様が酒と戦とセックスに明け暮れているというのは本当だったのか…プギャラン将軍が慕う訳だ…)
魔物隊長の一人が今は亡き将軍の言葉を思い出す。
魔物将軍プギャランも戦を好み、この魔人レキシントンと共に行動を共にする事が多いと聞いていた。
その理由が今になってようやく理解出来た。
「レ、レキシントン様…このままでは人間共の所に行っても戦いになりません…」
「お、お願いします。少し休憩を…」
魔物隊長達の言葉にレキシントンの目がギラリと光る。
「ああん!? 儂は別にお前らなんか必要じゃないんだぜ。お前達がただでは戻れないと言うから儂が使ってやるんだ。役に立たないならとっとと消えろ!」
雷鳴のようなレキシントンの言葉と気迫に、魔物隊長以下魔物兵達が震える。
それは目の前にいる魔人への恐怖と、今はここに居ない魔人への恐怖だ。
ここにいる魔物兵達は自分たちのまとめ役である魔物大将軍を失っただけでなく、その配下の魔物将軍も全て失った。
今や残った魔物隊長が何とか魔物兵達を纏めているのだ。
そして今レキシントンが居なければ、ここに居る魔物兵達は全て逃げ去ってしまうだろう。
そうなれば最後、あの魔人カミーラが嬉々として『狩り』に来るだろう。
何しろ魔人カミーラは自分の気に入らない存在を決して許しはしない…と言われている。
実際にカミーラの不興を買い、殺された魔物も少なくない。
その魔人が魔物大将軍バートリーにプレッシャーをかけたのだ。
貴重な魔物大将軍ですら切り捨てるカミーラの前には、自分達のような魔物隊長や魔物兵の命などゴミ同然だろう。
それ故に、ここにいる魔物兵達は休憩もそこそこに、魔人レキシントンについて行くしかないのだ。
「まあまあ落ち着いてよレキシントン。こいつらにもこいつらの立場があるんでしょ。レキシントンの邪魔さえしなければいいんでない?」
そんな魔物兵達を擁護するようにジュノーが主に口を出す。
「…まあ儂にはどうだっていい事だ。だがな! 儂の邪魔だけはするんじゃねえぞ」
「は、はい…」
レキシントンの言葉に魔物隊長たちは震える声で頷くしかない。
人間の命をゴミの様に扱っている魔物達だが、それは魔人にとっても同じ事だ。
同じ魔王に配下であっても、魔人にとっては魔物兵でもゴミに過ぎない。
魔物隊長達は、魔人とは味方であっても恐ろしい存在だという事を嫌という程味わっていた。
戦場―――人類達はあえて城の外に出ての野戦を選んでいた。
いや、選ばざるを得ないというべきだろうか。
「森盛殿! 魔軍が現れました! 先頭にいるのが恐らくは魔人レキシントンかと思われます」
「来たモリか…ランス殿の言葉が正しいなら、上手くいくモリが…」
この戦いの大将であるランスの補佐を任された平森盛は遠方に見える魔軍を睨む。
これまで良いように蹂躙されてきたが、ランスが現れた事により魔物に一矢報いる事が出来た。
いや、一矢どころか相手の大将首である魔物大将軍すらも討ち取った。
しかしその喜びはたったの一瞬、魔物大将軍以上の脅威が襲い掛かってきた。
「本隊である藤原石丸殿ですらも止められなかった魔人…それがまさか増えるとは」
森盛としてももうこの戦いは人類の負けだという事は嫌でも理解している。
帝であり、今現在で存在する最強の人間である藤原石丸、妖怪王の黒部、そして最強の陰陽師である北条早雲の力を持ってしても魔人ザビエルには及ばなかった。
あらゆる攻撃が魔人には通用しない…その事実が人類に重く圧し掛かってきていた。
「恐ろしいものですね…魔人というのは」
「巴殿…」
森盛の横に立つ藤原巴…この戦いの象徴である彼女も難しい顔をする。
「ランス殿がいなければ我等はもっと早く全滅していたモリよ。やはりランス殿が居るだけで大分違うモリよ」
「それは彼と戦ったあなたが一番分かっているでしょうね。人間で石丸を苦しめた唯一の存在なのでしょう?」
「そうモリね…大陸に出てから石丸殿は全戦全勝、それこそ石丸殿を止められる者はいなかったモリよ」
森盛は大陸に出てからの事を思い返す。
この20年、常に前線で戦い続け勝利してきた藤原石丸だ。
その力はとっくに森盛も認めている。
それに対抗できるのは間違いなくランスだけしかいないだろう。
「問題なのはランス殿には権力や統治に全く興味が無い事モリね」
「…そうでしょうね。トップという柄では無い人ですからね」
森盛の言葉に巴も苦笑するしかない。
石丸は自らの力で世界を統一しようとこれまで戦ってきた。
「ランス殿も世界を統一する器の持ち主だと思うモリが…いかんせんランス殿にはその気が全く無いモリよ」
「まあ…政治とかには一切興味が無いみたいですから。あるのは女性の事と冒険の事だけですよ」
巴の言うとおり、ランスの頭にあるのは冒険と女性の事だけだ。
そして今はそれがランスの隣にいるスラルという女性に注がれている。
彼女の肉体を探すために黒部と共に藤原石丸と戦い続けていたのだ。
「しかしランス殿と言えども魔人には勝つ事は出来ない…これは現実モリよ」
「それでも…ランスさんを信じるしかありません。彼が負ければ私達も終わりですから」
巴は最前線にいるランスの方向を見て、苦い顔をする。
全てはランスにかかっている…それは紛れも無い事実なのだから。
「来てるわね…魔人レキシントン」
ランスの隣に立つレダがレキシントンを確認する。
「フン、あんな力任せの奴は俺の敵では無いわ」
「力だけじゃないでしょ。確かな技術を持っているわよ」
強気のランスの言葉をレダはあえて否定する。
あの魔人は間違いなく力だけの魔人ではない。
確かな技量を持っているのはあの一撃を受けたレダも分かっているし、何よりも刃を交えたランスも分かっているだろう。
「余裕だ余裕。あんな奴に真正面からぶつかる必要は無いからな」
レダの慎重な言葉にもランスは余裕の表情を引っ込めない。
「準備は出来てるんだろうな、ハウセスナース」
「ねーねー大まおーさん。私、あなたの子供産みたいなー」
ランスがハウセスナ―スの方に目を向けると、そこには相変わらず大まおーの体に引っ付いているハウセスナースの姿が有る。
そのハウセスナースだが、その体は以前のような子供の姿では無く、ベゼルアイ同様に大人の体に変化していた。
「そんな奴よりも俺様の方がよっぽどいい男だろうが」
ランスの言葉にハウセスナースが鼻で笑う。
「何言ってるのよ。どこからどう見ても大まおーさんの方がいい男じゃない。あんたは絶対に無いわね」
「何だとー!!」
ハウセスナースは大まおーに頬ずりしながらランスを睨む。
「何よ! 埋めるわよ!」
ランスとハウセスナースが睨みあうのをレダは呆れた顔で見る。
聖女の子モンスターはレダにとっても同じ神ではあるが、まさかこんな性格をしているとは思っても居なかった。
人間からレベル神等の神になった者は人間くささが抜けていない者が多いが、まさか最初から神として存在している聖女の子モンスターがこんな感じだとは想像もしていない。
「ねえ…ハウセスナースって何時もあんな感じなの?」
「普段通りね。そしてまた振られて泣いてまた惚れての繰り返しよ」
レダの言葉にベゼルアイは何とも無いという風に答える。
実際に普段通りだし、何時ものように騙されるのもハウセスナースの宿命みたいなものだ。
(私達ってもしかしたら騙されやすいのかもね。ハウもセラもウェーも騙されてるし)
ハウセスナースもセラクロラスもウェンリーナーも非常に騙されやすい性格をしている。
そういう自分も昔に騙されてバンバラ系統のモンスターを産んだ事もあるのだが。
「フン…とにかく準備は出来るんだろうな」
「そんなの簡単よ」
ランスの言葉にハウセスナースは当然のように答える。
「大丈夫よ。地のハウセスナースならね。でもそれだけじゃ魔人は倒せない。それはランス君も分かってるでしょ?」
「別に無理して倒す必要も無いだろ」
ベゼルアイの言葉にランスは当然のように笑って答える。
ランスには真正面から相手を倒すという選択肢は存在しない。
相手次第でそれに相応しい戦い方をするだけだ。
楽に倒せるならそれに越したことは無いのだ。
「ランスさん! 魔軍が動き始めました!」
エルシールの言葉にランスは不敵に笑う
それはこれから魔人を相手にするとは思えないほどだ。
実際にランスは魔人と戦う時には最早緊張すらしない。
それだけ魔人という存在と戦い慣れているからだ。
「よーし、じゃあ手筈通りにやれよ」
「「「了解!!!」」」
ランスの言葉に兵達は一斉に返事をする。
「がはははは! 楽勝だ楽勝!」
「レキシントン様! 人間共です!」
「一々言わなくとも分かるわ! どうやらあの小僧はいるようだな」
レキシントンは遠目から、あの時自分に衝撃を与えた人間が居るのを確認し笑みを浮かべる。
あの時はとんでもない方法で逃げられたが、今度は逃がさない。
思う存分楽しんで、そして潰す。
(あの金髪の女は中々具合がよさそうだな…)
自分の攻撃を防いだあの金髪の女もかなりの強さだ。
戦いの後で犯すのもまた非常に楽しみだ。
レキシントンは唇を釣り上げて笑うと、
「行くぞお前等! 突撃だ!」
「「「オオォォォォォォーーーーッ!!!」」」
雄叫びを上げて人間達に突っ込んでいく。
後が無い魔物隊長を初めとした魔物兵達も、半ばヤケクソになって突っ込んでいく。
退けば地獄、進めば何とか生きながらえる可能性がある…そんな一縷の望みに賭けて魔物兵は突撃する。
「こちらにはレキシントン様がいるんだ! 負ける事は無い!」
「「「おおおおおおお!!!」」」
魔物隊長の鼓舞に魔物兵達はより一層強い雄叫びを上げる。
確かに魔物将軍は討たれ、魔物大将軍すらも討ち取られたが、こちらにはまだ無敵の魔人がいるのだ。
あの藤原石丸でさえも魔人ザビエルには抗う事は出来ずに敗走を重ねているのだ。
ここの人間がいくら強かろうとも、魔人には勝てるはずは無いのだ。
確かに魔軍は一時的に敗れはしたが、まだ魔人の強さは健在だ。
その意味も込めて魔物隊長は魔人が居る事をアピールして士気を上げる。
魔物大将軍や魔物将軍が死んだ後も魔物兵を纏め上げてきた魔物隊長の力は伊達では無いのだ。
「があっはっはっは! 小僧! 儂と戦え!」
そして先頭を走っていたレキシントンは、ランス以外の者には目にもくれずランスの前に現れる。
「フン、何が悲しくてお前のような暑苦しいおっさんと戦わなければならんのだ」
それに対するランスは本当に嫌そうに顔を歪める。
そんなランスを見てもレキシントンは不快な顔一つする事無く笑う。
「それはお前が強いからよ! 儂には分かるぞ、貴様がえらい強いという事はな! それこそ藤原石丸と同じくらいになぁ!」
「何をふざけた事を言ってやがる! この俺様こそが世界最強なのだ。相手をしてやるからとっととかかってこい」
「がっはっはっは! 中々言うではないか! せいぜい儂を楽しませろ!」
レキシントンから放たれる圧倒的な魔人の気配が辺りを包む。
その魔人の力には人類は恐怖するしかない。
魔人が戦場に立つだけで人類は震え竦み上がる…これが常識なのだ。
「行くぞ小僧! 儂の一撃をををおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ…」
レキシントンがランスに向かって詰め寄ろうとしたとき、そのレキシントンの足元が抜けたかと思うとその姿が消える。
「がははははは! やっぱりかかったぞこいつ! おいお前ら! 急いで埋めろ!」
「はい!」
「よーし! 皆埋めるぞ!」
地面に消えていったレキシントンをランスの部下達が一斉に埋めにかかる。
「あー…本当にやったんだ、ランス君」
その光景を見てベゼルアイは呆れたように、そして感心したようにため息をつく。
やった事は極めて単純、ハウセスナースの力を使って深い落とし穴を作り、そこにレキシントンを誘導しただけ。
シャロンとパレロアから話を聞いたランスは、まともに魔人とぶつかる事は早々に選択肢から外した。
ランスが言うには『勝てばいいんだ勝てば。そのための手段など知ったことか』というらしい。
だからこそ成長したハウセスナースの力を使い、落とし穴に嵌めて戦力外にするという手を躊躇いなく使う。
…実際にはランスと言えどもそれしか手は無いという所もある。
ランスは数多くの魔人と戦っているが故、魔人の力は良く分かっている。
だからこそ勝つためにはどんな手段も使うし、それを卑怯だ等とは思っていない。
むしろ無敵結界なんてものを持っている方が卑怯なのだ、そう考えているくらいだ。
なので魔人に対してあらゆる手段を使うのはランスにとっては当然の事なのだ。
「レ、レキシントンー!?」
「ちょ、ちょっとなんて卑劣な真似を!」
「引っかかる奴がアホなのだ! よーし、今の内にあのボケナス共を殲滅するぞ!」
ランスは剣を抜くと、そのまま呆然としている魔軍に向かって突っ込んでいく。
そんなランスに続いてレダやベゼルアイ、そして大まおーが続く。
「た、隊長。レキシントン様が…」
「あ…あ…あ…馬鹿な」
そしてこれまで何とか部隊を纏めてきた魔物隊長は目に見えて動揺していた。
魔物大将軍バートリーの部隊に組み込まれて、人間の残党狩りに等しい任務を与えられた時は、人間を嬲り殺せることに喜びを覚えていた。
実際その通りになったし、人狩り部隊に入ってからは魔物大将軍バートリーの目を盗んで好きにしてきた。
しかしその人狩り部隊の大半が人間に潰された上に、バートリーの上に魔人カミーラが立つ事になった。
そのカミーラが来てからは強いプレッシャーに襲われ、ついには魔物大将軍も魔物将軍も死んでしまった。
魔人レキシントンが来て少しは楽になるかと思ったが、そのレキシントンがまた部隊の事など何も考えていないただ暴れるのが好きなだけの魔人だった。
それでもカミーラに殺されるよりはマシだと思い、最後の決戦に来たと思ったら…その肝心のレキシントンが人間の仕掛けた罠に嵌って消えていった。
「も、もうダメだー!」
その結果、魔物隊長の心は完全に折れてしまった。
魔物大将軍バートリーの下で無茶な行軍にも耐え、レキシントンから酒を飲むように要求されて無理してでも飲みここまでやってきたのだ。
そして頼みのレキシントンは落とし穴の中に消え、人間達が目の前に迫ってくる。
しかも相手の大将はザビエルの使徒の戯骸を倒し、さらには魔物大将軍を倒した相手だ。
「…に、逃げ」
もう一人の魔物隊長が言葉を発する前に、矢の雨が魔軍に対して降り注ぐ。
そして魔物隊長の脳天に矢が直撃し、魔物隊長が倒れる。
魔人が消えて、魔物隊長が倒れてはもう魔軍は何もする事は出来ない。
指揮系統を完全に潰された魔軍は脆い。
強い魔物の下でしか動く事の出来ない魔物はこうなるともう逃げるしかない。
しかしその逃げる魔軍をランス達は逃さずに倒していく。
軽装のJAPANの兵達はこれまでの恨みを晴らさんと言わんばかりに魔軍を斬り伏せる。
そしてランスが、レダが、大まおーが、ベゼルアイの一騎当千の者が魔物達を蹂躙する。
魔人レキシントンが消えた今、最早魔軍の残党にそれを止める力は無かった。
心が折れた魔物隊長もあっさりと殺され、魔物兵は散り散りになって逃げる以外に無い。
「がはははは! 俺様大勝利!」
魔軍が完全に逃げた事でランスが勝利を宣言する。
それに合わせて人類も歓声を上げる。
その光景をただ見ている二人の全裸が存在している。
「あらら、負けちゃったわね」
「まあいいんじゃない? レキシントン的にはどうでもいい連中だったしね」
レキシントンの使徒であるジュノーとアトランタはまさにどうでもいいと言った感じで魔軍を見る。
「なんだ、お前等。まだやる気か」
ランスがジュノーとアトランタに剣を向ける。
相手は使徒、普通の魔物に比べてもその力は段違いだ。
そんなランスに対しても二人の使徒はただ笑うだけだ。
「いいや、少なくとも俺はやるつもりは無いよ。特に…ランスって言ったっけ。君はレキシントンの獲物だしね」
「そうねー。レキシントン様の楽しみを取る訳にもいかないしね」
「レキシントンならもう出てこれんぞ」
ランスの言葉に二人の使徒は余裕の表情を浮かべる。
「レキシントンがそのくらいで死ぬ訳が無いだろ」
「そうよ。もしそう思ってるならレキシントン様を舐め過ぎよ。まあちょっと待ってなさいな。レキシントン様ならその内出て来ると思うから」
ジュノーとアトランタはそう言ってランス達の前から姿を消す。
あまりに余裕のあるその態度にはランスも不審な物を感じる。
「じゃあランス。近いうちに必ずレキシントンが来るから楽しみにしててよ」
「そうよー。じゃないと酷いわよ」
そう言いながら二人の使徒の姿は消えていく。
「…何だったんだ、あいつらは」
この戦いは人類軍の勝利に終わる。
しかし、この後ランスは二人の使徒の言葉を嫌でも知る事となる。
魔人…その脅威はまだまだ終わっていなかったという事を。
深夜―――
「この辺かい?」
「そうねー。レキシントン様の気配はこの辺かしらね」
それは先程の戦場から離れた地。
ジュノーとアトランタは穴に落ちてしまった己の主を探し、その場所から少し離れた地に来ていた。
「それにしても…あの人間、レキシントンが好みそうな奴じゃない? 俺も気に入ったよ」
「あんたの言葉に同意するのは気持ち悪いけど…そうねー。間違いなくレキシントン様は気に入ったわね。それにあの強くて卑怯な性格も中々良いわね」
二人の使徒が笑うと同時に、何かを破壊する音が響いてくる。
「おっと、我らの主のご帰還だね」
「ここですよー、レキシントン様ー」
ジュノーとアトランタの声に合わせるように、地面の一部が盛り上がるとそこから巨躯の鬼が出て来る。
「ああああああ! ようやく出れたぜ!」
「おかえり、レキシントン」
「大丈夫ですか、レキシントン様」
穴から出て来たレキシントンだが、そこにあるのは怒りでは無く喜色だった。
「クックック…まさかあんな手を使いやがるとはなあ…より一層楽しくなってきやがった」
レキシントンは人間に嵌められたとは全く思っていない。
これは戦い、そして戦いには何でもアリだ。
それが例え罠であろうと、レキシントンにはそれすらも踏み潰して相手を倒すという強い意志がある。
「あの小僧…ますます儂の手で倒したくなってきたな」
レキシントンの目がギラリと光り、高まった戦意でレキシントンの周りが歪んで見れる程だ。
そんな主を見て二人の使徒もまた喜ぶ。
この二人の使徒も主が楽しんでいるのが何よりも楽しい事なのだ。
そしてレキシントンは笑いながら歩き始める。
全ては自分が倒すと決めた人間をこの手で打ち倒すために。
聖女の子モンスター使いすぎ! と思いますが、この時代では魔人に対する対抗策が全く無いです
無敵結界が無ければ石丸は魔王以外は何とか出来るという事ですが…
でも無敵結界があるせいでザビエルに負けたのが史実
というかザビエルって歴代魔人の中でもかなり上の方だから、石丸がどれだけ強いんだよって話ですね
流石に2部のランスの子供達には勝てないとは思いますが