ランス再び   作:メケネコ

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歴史に無い戦い

 ランスがレキシントンを罠に嵌めて退散させたのとほぼ同時刻―――

「ぐ…人間風情が…まさか魔人を手こずらせるとはな…」

 魔人ザビエルが藤原石丸の躯の前で荒い息をついていた。

 人類最強と呼ばれ、人類の半分を纏め上げた力は伊達では無かったようだ。

 最初はたかが人間と侮っており、狩りのつもりで戦っていたザビエルだが、その認識は直ぐに改められた。

 それは藤原石丸の想像以上の強さをその身をもって実感したからだ。

 魔人ザビエルには傷は無い…無いのだが、無敵結界の外側から打ち付けられる衝撃までは防ぐことは出来ない。

 藤原石丸だけでなく、その部下の強さもまた並の人間とは次元が違う強さだった。

 その人間達がまさに死兵となって魔人ザビエルに向かってきたのだ。

 勝てぬと知りながらも向かって来る人間達を愚かと嘲笑ったザビエルだが、その力はザビエルをして認めざるを得なかった。

「中々苦労させられたが…これで終わりだ。ナイチサ様に報告をしなければな…」

 ザビエルの全ての忠誠は魔王に注がれる。

 取り敢えず主であるナイチサの命令である、藤原石丸を討った。

「後は月餅か…だが最大の障害は取り除いた。後は烏合の衆よ!」

 思いもしない抵抗にはあったが所詮は人間、結局は魔人に傷一つ負わせる事は出来なかった。

「行くぞお前達! 人間を血祭りに上げるぞ!」

「「「ははっ!」」」

 ザビエルの言葉にその使徒が頭を垂れる。

 今ここに戯骸が居ないのは残念だが、戯骸ならばその内復活するのは分かっている。

 それまでゆっくりと待てばいい…今はナイチサのもう一つの命令をこなすだけだ。

 ザビエルは疲れもそのままに月餅を殺すべく動いた時、

「「「!!!」」」

「何!?」

 ザビエルの使徒達が突然動かなくなる。

 それどころかその使徒の体がまるで彫像のような姿へと変わる。

「これは!?」

「ザビエル…よくぞ私の邪魔をしてくれた…絶対に許さぬぞ」

 驚愕するザビエルの前に、翁の仮面をつけた奇妙な存在が現れる。

 一見人間に見えるその姿だが、魔人であるザビエルはその身に纏っている異様な空気を直ぐに察する。

「死ね! ザビエル!」

 そして人とは思えぬ速度で動いた月餅が、その手に持った鎌でザビエルを斬りつける。

 無敵結界を持つザビエルはその一撃を避けようとはせず、弾かれた衝撃で姿勢を崩すであろう相手を逆に斬るべくその剣を構え―――その体を大きく傷つけられる。

「ぐああああああ! ば、馬鹿な!? 無敵結界が働かぬだと!? 貴様…何者だ!」

「死にゆく貴様に答える必要はあるまい! 貴様だけはこの手で殺す!」

「く…図に乗るな!」

 そのまま鎌で斬りつけてくる月餅に黒い炎を放つ。

 魔人ザビエルは炎ガッパの魔人であり、その黒い炎は全てを焼き尽くす。

 しかし月餅はその炎の中から現れると、ザビエルに向かって魔法を放つ。

「ぐうっ!?」

 流石のザビエルもその一撃には血を吐き出すが、その威力を無視するように剣を振るって月餅を頭から潰そうとする。

 月餅はそれを避けるが、完全には避けられなかったのかその翁の面が音を立てて割れる。

「貴様!?」

 それを見たザビエルは流石に驚きを隠せなかった。

 自分の無敵結界を無視して攻撃を当てたのも驚いたが、月餅の素顔はそれ以上の驚きだ。

 その顔からは触手が生えており、明らかに人の顔では無い。

 だからと言って魔物の顔でも無い…こんな魔物は魔物界には存在しない。

「ザビエル…貴様はここで封じさせて貰うぞ!」

 そして月餅が何かの術を使おうとする。

 ザビエルはそれが何か非常に悪い予感がし、今の自分が出せる全ての力を使って黒い炎を放つ。

 黒い炎は月餅の体を包む…が、同時に月餅の封印術もザビエルの体を包む。

「ぐ…き、さま…!」

「終わりだ…ザビエル!」

 そして月餅もまた全魔力を使いザビエルに封印術を施す。

 第参階級魔神月餅の全力は、魔人四天王であるザビエルすらも封印する事に成功した。

「ぐ…が…!」

 しかし同時に月餅も地に膝をつく。

 そして予備の翁の仮面をその顔に当て、首を刎ねられた藤原石丸を見る。

「まさか…魔王がここまでやるとはな…いや、私の認識不足か…」

 月餅の予想では魔王がここまで執拗に石丸の命を狙うとは思ってもいなかった。

「もう少し時間があれば…いや、今は言っても仕方のない事か…」

 どんなに嘆いた所で藤原石丸は生き返らない。

 月餅の野望…魂を悪魔王ラサウムに届けるシステムは道半ばで潰えてしまった。

「石丸の家族も消えた…最早この大陸全土に天志教を伝えるのは不可能か…いや、まだ終われん」

 月餅は四肢に力を込めて立ち上がる。

 魔人ザビエルの黒い炎は確実に月餅に大きなダメージを与えていた。

 月餅自身ももう自分はあまり長く生きられないのは理解している。

「ラサウム様に魂を捧げる仕組みだけは動かしていかねばならぬ…そして何れ復活するザビエルに対しての備えもな…」

 確かに魔人ザビエルとその使徒を封印する事は出来たが、それは決して永遠に封じ込められる訳では無い。

 100年や200年で破れる封印では無いが、1000年2000年までは分からない。

「…天志教と陰陽術だけは残さねばならぬ。全てはラサウム様のため…」

 月餅は自分の鎌を杖のように使って何とか歩き出す。

 そしてもう動かぬ藤原石丸の躯を見て、足を止める。

「…貴様の事は決して嫌いでは無かったよ。貴様とは利用しあう間柄ではあったがな」

 藤原石丸に20年以上仕えてきたが、決して嫌いでは無かった。

 確かにその力を利用はしたが、石丸自身が突出した人間で有った事は事実だ。

「魔人の無敵結界が無ければ…お前は魔王以外はどうにか出来たかもしれんな」

 魔王には勝てない…それは分かっている。

 だが、それでも魔人に無敵結界さえなければ…と思わなくはない。

「私はまだ死なぬ…全ての段取りを終えるまでは…」

 月餅は痛む体を抑えて、己の弟子の所へ向けて歩き出す。

 今ここに、一つの歴史が終わりを告げた。

 

 

 

 

「があっはっはっはっは!」

「グワハハハハハハ!」

「もっとだ! もっと酒を寄こせー!」

 夜…人類と魔軍の戦争という時にも関わらず、非常に呑気な声で酒盛りを開いている一団が有る。

 その中でも一際体格の良い鬼が、無数の鬼に酒を注がれながら笑い声を上げる。

「オヤジ! コンカイノテキハスゴイツヨインダロ!」

「おう! この儂を虚仮にしてくれた奴よ! だからこそ面白い!」

 鬼の魔人であるレキシントンには、鬼を使役する能力がある。

 最も肝心のレキシントンがその力を酒盛りにしか使用しないため、それが魔軍に広まるという事は無い。

 そしてそのレキシントンだが、沢山の鬼に囲まれて酒をぐびぐびと飲んでいる。

「そーれ! いっき! いっき!」

「相変わらずだねえ。でもこれこそが鬼というものだね」

 レキシントンの使徒であるジュノーとアトランタはその光景を見て呑気に笑っている。

 いっきを煽るアトランタと、時たま馬鹿をやる鬼達を見て大笑いするジュノーを見てレキシントンもまた笑う。

「やっぱ酒だな酒! 戦の前は酒に限るわ!」

「オヤジ! 俺も戦いに連れてってくれ! 俺を勇者にしてくれ!」

「オレモタタカイタイ!」

 レキシントンの戦意に引付けられたのか、鬼達も興奮した様子でレキシントンに詰め寄る。

「ああん? どうすっかな…」

 レキシントンもそれには少しだけ迷う。

 彼とて魔王ナイチサの言葉は覚えている。

 本来はこの戦いは魔人ザビエルだけが参加を許されている。

 今回レキシントンが人間にちょっかいをかけているのは、そのザビエルの要請に近いモノがあったからだ。

 そしてレキシントン的にはそれは渡りに船となった。

 何しろ極上の獲物…それこそ藤原石丸と変わらぬ程の大物が居たからだ。

 何よりレキシントンが気に入ったのは、その強さだけでなく勝つためならばありとあらゆる手を使う滅茶苦茶な所だ。

 最初に遭遇した時は魔物大将軍を落石で倒すという場面だ。

 それにはレキシントンも少し驚いたが、その後に出て来たのは喜びだった。

 次に相手の大将とぶつかり合い、その人間が自分の無敵結界の外側から衝撃を与えてきたという事実に歓喜した。

 そしてその次は…見事なまでに嵌められた。

 勿論これは嵌められた方が悪いのであり、レキシントンはこれを卑怯だとは思っていない。

 人間が『勝つ』ために全力を持って挑んできた結果だからだ。

「よーし! お前等もついてきやがれ! ただし! あの小僧は儂の獲物だ! それだけは忘れるなよ!」

「「「オオオォォォォォッッッ!!!」」」

 レキシントンの言葉に鬼達が歓声を上げる。

 魔人レキシントン…いや、自分達がオヤジと慕うレキシントンと共に戦えるのはこの上ない喜びだった。

「いいんですか? レキシントン様。後でナイチサが煩いんじゃ…」

「いいんだよ! ナイチサの事はあの小僧をぶっ倒してから考えればよ! それよりもアトランタ! つきあえ!」

 レキシントンは己の隆起する股間を見せつけると、アトランタの方も喜び勇んでレキシントンの胸に飛び込む。

「相変わらずだねえ。ま、レキシントンはどこまでも変わらないんだろうね」

 その光景をジュノーはゲラゲラと笑いながらレキシントンを煽っていく。

 鬼達の宴はそのまま夜通しで続けられた。

 

 

 

 ランス達が魔物兵の残党を倒した次の日―――

「大変です! 魔人レキシントンが現れました!」

 巴の元にその報告が寄せられた時には、既に戦いは始まろうとしていた。

「そ、それと鬼です! レキシントンが鬼を率いています!」

「お、鬼を!?」

「何とか食い止めようとしていますが、魔人を止める事は出来ません!」

「…ついに来たモリか」

 平森盛は自分が予期した最悪の展開が来た事に目を閉じる。

(ランス殿が来てから何とか持ち直したモリが…魔人には勝てない事は分かっていたモリ)

 藤原石丸が魔人ザビエルに手も足も出なかった事からこうなる未来はある程度予測できた。

 今まではこちらに来ていた魔人はザビエルただ一人故に予想以上に犠牲は少なかった。

 しかしついにザビエル以外の魔人が動いた…その時点で人類の未来はある程度決まっていたのかもしれない。

「何としても魔人を食い止めます。少なくとも鬼だけでもなんとかしなければいけません」

 鬼はJAPANでは当たり前の様に姿を見せる存在であるし、何よりも北条家が使役している兵でもある。

 だからこそJAPANの者は鬼の強さ、そして脅威を知っている。

 並の兵士では太刀打ちできない程の強さ…それこそ魔物兵よりも強いだろう。

「ここが正念場です! 何としても魔人を食い止めなければなりません!」

「「「はっ!!!」」」

 巴の言葉に皆が一斉に頷く。

 今ここで逃げる訳にはいかない…ここが本隊と分断された部隊の最後の砦なのだ。

 ここから逃げ出しても各個撃破で潰されるだろうし、何よりも普通の民は間違いなく殺されてしまう。

 何としてもここで魔人を食い止めなければならないのだ。

「ランスさん…お願いします」

 巴はこれまでに使徒を倒し、魔物大将軍すらも倒した男の名を呟く。

 ランスはもう最後の希望なのだ…例え魔人に勝てないと分かっていても。

 

 

 

「はあ!? またあのおっさんが来ただと!?」

 ランスは自室で報告を聞き耳を疑った。

 再び魔人レキシントンが来た…それも鬼を率いてやって来るとは思ってもいなかった。

「おいハウセスナース! あいつは地の底にまで落としたんじゃなかったのか!」

「そんな事出来る訳無いでしょ。私を何だと思ってるのよ」

 ランスの言葉にハウセスナースは面倒臭そうに答える。

「それにそんなので魔人を倒せる訳無いでしょ」

「むぐぐ…」

 ハウセスナースの言葉にランスも呻くしかない。

 彼女の言う事は最もであり、ランスとしてもこれだけで魔人が倒せるなんて思ってもいない。

 魔人の強さ、そして生命力はランスも良く知っているからだ。

「それにしても早すぎるな…逃げるか」

「いやランス君、それは無責任すぎないかしら」

 ランスは早々に逃げる決断をするが、それを止めたのはベゼルアイだ。

「俺様がそこまでしなければならん理由は無いだろ。それに魔人と戦うのは面倒だ。無敵結界が鬱陶しい」

「今ここで食い止めないと、皆死ぬわよ」

「知らん。俺様が命を賭ける理由は無い」

「で、ランス。逃げるといっても何処に逃げるのよ」

 レダの言葉にランスも無言になる。

 確かに彼女の言うとおり、今は魔人が人類に向かって攻めて来ている状況なのだ。

 ゼスの時も確かに魔軍が攻めてきたが、あの時は3体の魔人…カミーラ、サイゼル、ジークが来ていたが魔物兵の数はそれほど多くは無かった。

 兵に比べて魔物将軍の数は多かったが、それでも今回ランスが倒した魔物将軍の数よりは少ない。

 しかし今回は200万を超える魔軍が攻めて来ており、更には魔人カミーラもここに居る。

 シャロンとパレロアの言葉ではカミーラは直接戦闘を魔王によって禁じられているそうだが、レキシントンは違う。

 あの手の輩はランスを狙って何度でも追って来るだろう。

「だがなあ…」

 ランスは真っ先に逃げるという選択肢を潰さざるを得ない事に頭を抱える。

 逃げたとしても問題の先延ばしにしか出来ないし、都合よくセラクロラスがやってくるとも限らない。

 だとすると魔人と戦う以外に無いのだが、そもそもその魔人と戦うという事が無茶なのだ。

「あのクソ煩い奴は見つからんしな…肝心な時に役に立たん奴だ」

 もしランスの手元に魔剣カオスがあれば話は別だ。

 攻めて来ている魔人はレキシントンただ一体、これまでの経験から今現在の戦力の全てでぶつかれば勝てる可能性はある。

 これまで倒して来た魔人も手強く、あの時はリックやパットン、志津香やマリアといった人類の中でもトップクラスのメンバーがいたが、今周りにいる者達もそれに勝るとも劣らない。

 いや、戦力だけで言えばカミーラと戦った時よりも上かもしれない。

 しかし無敵結界の前ではそんなものは全くの無意味だ。

 魔人と戦う土俵にすら上がる事が出来ないのだ。

「ランス君、まずは行った方が良いと思うわよ。このままじゃランス君の女だって鬼に襲われちゃうわよ」

「何だと!? それはいかん! 行くぞお前等! 鬼共をぶっ殺すぞ!」

 ベゼルアイの一言にランスは急にやる気を出す。

 自分の女のピンチには躊躇う事無く動くのがランスだ。

 ベゼルアイは短い付き合いだが、何となくだがランスの性格が掴めてきたような気がした。

 

 

 

「がっはっはっは! 貴様等雑魚が相手では汗もかけんわ! あの小僧を連れてこい!」

 戦場―――いや、それは最早戦場とも呼べない。

 魔軍が人間を蹂躙するよりもさらに上の光景が広がっている。

「行かせは…しない…」

 最早立っているのが不思議なくらいの人間が、それでも魔人レキシントンの前に立つ。

 男には家族がいる…それを守るために、何としても魔人を行かす訳にはいかないのだ。

「フン、威勢だけではこの儂を止める事など出来んわ!」

 そしてレキシントンは無慈悲にその人間を蹴り飛ばす。

 蹴り飛ばすと言っても、それは魔人の一撃…男は全身の骨がひしゃげ、そのまま絶命する。

 そのままレキシントン率いる鬼の行進は続き、ついにランス達が居る町が見えてくる。

 それと同時に出て来る人間達を見て、レキシントンは嬉しそうに笑う。

「おうおう、出てきやがったか!」

 先頭にはレキシントンの目当てのあの人間の姿がある。

「レキシントン様ー。私も動いてもいいですか?」

「何かいいモノでも見つけたか? アトランタ」

「ええ…それはもう。久々に私の魔法が唸りますよ」

 アトランタの言葉にレキシントンは豪快に笑う。

「好きにしろ! おいジュノー! お前も好きにしていいんだぜ!」

「そうだねー、俺もたまには運動するのもいいけど…それよりもレキシントンとランスの戦いに興味があるね」

 ジュノーもまたランスの事は中々気に入っていた。

 全ての行動が『美』が基準のジュノーだが、主であるレキシントンを前にしても全く退かず、それどころか罠に嵌めたあの人間の事は非常に気に入っていた。

「だから俺はレキシントンのランスの戦いを観戦させてもらうよ。勿論邪魔者には容赦しないけどね」

「がっはっはっは! それならそれでいい! おいお前等! 景気づけに一発派手なのをかましてやれ!」

「オウッ!!」

 鬼達は威勢よく返事をすると、太鼓を持った鬼達が一斉に叩き出す。

「これよ! この風、肌触りこそ戦場よ! 小僧! 次は逃がさんぞ!」

 魔人レキシントンは嬉々として人間達へと走っていく。

 その目は最早ランス以外の者を映してはいなかった。

 

 

 

「ランス! きやがったぜ!」

 ランスの隣を走る黒部の言葉でランスも前方にいる鬼の軍団を視認する。

 煩いくらいの太鼓が鳴り響き、鬼達もまたランス達に向かって走ってくる。

 その先頭にいるのは一際大きく、すさまじい気を放つ魔人レキシントンだ。

「行くぞお前等! 奴等をぶっ殺すぞ!」

「「「おう!!!」」」

 ランスに付き添った部下達は魔人が相手だというのに恐れずに雄叫びを上げる。

 そして互いが互いに睨みあい、挨拶代わりと言わんばかりにレキシントンの金棒がランスに振り下ろされる。

「小僧! 次こそは逃がさんぞ! 儂と戦え!」

「フン、お前のようなおっさんには用は無い! とっとと死ねーーー!」

 振り下ろされた金棒を避け、ランスの一撃がレキシントンに放たれる。

 が、当然その一撃は魔人の持つ無敵結界に阻まれる。

「また無敵結界か! 魔人はそれしかないのか!」

「があっはっはっは! 使えるものを使って何が悪い! 精々儂を楽しませろ!」

 レキシントンの一撃は凄まじく、その金棒が空振りするだけでもその威力が理解出来る。

「小僧! 小細工は無しだ! 貴様の全力を儂にぶつけろ! そして死ね!」

 レキシントンは笑いながらランスに向かって金棒を振るう。

 一見力任せのように見えて、その実その動きはランスの目から見ても十分に洗練されている。

 その上魔人の持つ無敵結界があるため、ランスをしてもこの状況はどうしようもない様に感じられた。

(いかんぞ、やっぱりこいつは結構強いぞ)

 これまでも強い魔人とは戦って来たが、今の状況が一番厳しい。

 どれ程の才能があろうとも、どれだけ強かろうとも魔人の無敵結界の前には成す術は無い…それがこの世界の常識なのだから。

 それに加えて目の前の魔人がただ単純に強い。

 それこそがランスを追い詰めている一番の原因だ。

「どうした小僧! 貴様の実力はこの程度では無いだろう!?」

「やかましい! 無敵結界が無ければお前なぞ相手にならんわ!」

 ランスはレキシントンの金棒に当たらないように慎重に動く。

 もし一撃でも貰えば、例えランスといえどもただではすまない。

 もしかしたらカミーラの爪をも上回るかもしれない一撃は、ランスをして最大限に警戒せざるを得ない。

「ランス!」

「まーおー!」

 ランスがレキシントンの攻撃に苦しめられていると、そこにレダが現れる。

 鬼を相手のするのにはまずは支援をと考え、全員に気休めでも『鉄の壁』をかけてからランスの援護に現れ、大まおーもまたランスの隣に立つ。

 鬼は黒部を初めとしたほのかや与一、そしてエルシールとベゼルアイが何とか防いでいるが、レキシントンはそうはいかない。

 ランス一人では間違いなく持たない。

 ランスに己の力を見せつけ、屈服させようとしているカミーラとは違うのだ。

「おう女! お前も来るか! 何人来ようが儂は構わん! 儂と戦え!」

 レキシントンは嬉々としてランス達に襲い掛かる。

 強い奴はどれ程増えようともレキシントンには苦でも何でも無い。

 むしろ楽しみが増えるというものだ。

「まーおー!」

 大まおーが口から炎を放ち、レキシントンを炙る。

「ほう! なかなかやるではないか! だが効かんなあ!」

 レキシントンは嬉々としてランス達に襲い掛かる。

 その金棒の一撃は大地を抉る程の強さにも関わらず、非常に早い。

 ランスは何とかその一撃を避ける。

 時には完全に避けることは出来ずに、その剣でレキシントンの一撃を受け流す。

 そうする事でレキシントンは更に嬉しくなる。

「いいぞ小僧! それでこそだ! もっと儂を楽しませろ!」

 レキシントンの笑いが戦場に鳴り響く中、人類はレキシントン率いる鬼の軍団とぶつかる。

 鬼の力は非常に強く、数はそれほど多くは無いがとにかく中々死なない。

 魔物兵は死を恐れるが、鬼は死を尊ぶ。

 鬼との激闘はまだまだ続く。

 

 




次でこの戦いが終わりです
先の戦いがグダグダになってしまったので、なるべく展開は速めにと
ただ、聖女の子モンスターはやっぱり便利すぎて使うのはやっぱり難しいです

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