ランスがレキシントンを罠に嵌めたその夜―――
「カミーラ様! カミーラ様! 大変です!」
魔人カミーラの下に一人の魔物隊長が入ってくる。
ベールの奥にいるカミーラの姿は見えないが、その側には魔人ケッセルリンクの使徒であるシャロンとパレロアが控えている。
「まずは落ち着いてください。そして報告を」
慌てて入って来た魔物隊長をシャロンが落ち着かせる。
ここがカミーラの居場所だというのにここまで慌てて入ってきたのは余程の事があったのだろう。
「は、はっ! ほ、報告いたします! 藤原石丸がザビエル様によって討ち取られました!」
魔物隊長の言葉にベールの奥のカミーラの表情は全く動かない。
それはカミーラの想像通りの報告であり、特に慌てるに値しない情報だ。
むしろカミーラとしてはもっと早くにザビエルが藤原石丸を討ち取ると思っていたくらいだ。
気に入らないが、ザビエルは確かに強い…魔人四天王として君臨しているのだから。
シャロンとパレロアも『ようやく終わった』という思いが強い。
強い…が、同時に何故この魔物隊長がこれ程までに慌てているのかが分からなかった。
「そのザビエル様が…使徒と共に月餅によって封印されました!」
「えっ…」
「そんな…」
魔物隊長の言葉には流石に二人の使徒も驚きの声を上げる。
この魔物隊長の言葉が正しければ、魔人ザビエルは負けたという事になる。
そしてそれはベールの奥にいるカミーラの表情すらを動かした。
シャロンとパレロアのように声を上げるという事は無いが、流石に魔人ザビエルが封印された…敗れたとなれば話は別だ。
「…七星が確認したのだな」
「は、はい…私は七星様と共に藤原石丸の死を確認するためにJAPANに行きました。確かに七星様も確認されました…彫像になってしまったザビエル様を」
「………」
流石のカミーラもその報告には顔を顰める。
己の使徒である七星が確認したという事は決して嘘では無い。
そして恐らく七星はそんな混乱している魔物達を抑えているのだろう。
「…シャロン、パレロア。急ぎケッセルリンクに報告を入れろ。そして確実に奴を動かせ」
「「かしこまりました」」
シャロンとパレロアは返事をすると、急いで己の主の所へ戻るべく行動する。
うし車を飛ばせばケッセルリンクの所へは直ぐにつく。
何しろ己の主にはカミーラの考えの全てを伝えてある。
恐らくはここのギリギリの所までは近づいてくれているはずだ。
後は己の主人の気配を頼りに動けばいい。
二人の使徒が消えた後、カミーラはついに立ち上がる。
それだけで魔物隊長は急にテントの温度が下がったかのように震える。
「おお…カ、カミーラ様…」
魔物隊長はベールの奥から出て来たカミーラに跪く。
それ程までに今のカミーラの気配は圧倒的だった。
「さて…果たして間に合うか…いや、奴ならば死ぬまい」
魔人レキシントンがどうなったかは報告には聞いている。
落とし穴に嵌るという無様な姿を晒したようだが、間違いなく直ぐにランスの元へと向かうだろう。
そうなると時間との勝負になるが、それでもカミーラは確信している。
ランスならば必ずその時間まで持たせると。
「ランス…クッ!」
ランスの剣の中に居るスラルには外の情報が入ってくる。
そして今はあの魔人レキシントンと激しい戦いを繰り広げているという事も。
だが、今のランスでは絶対に魔人に勝つ事は出来ない。
自分の望んだ『魔王は殺せない』という願いは、魔王だけでなく魔人にすらその恩恵を与えた。
その結果が今の魔王と魔人がこの世界を実質的な支配下に治めている世界だ。
スラルの体は霊体ながらも今はその手の一部が消滅している。
「まだよ…破壊神ラ・バスワルド。私は絶対に諦めない。何としてもあなたの力をランスに届けてみせる」
目の前に居るラ・バスワルド…正確にはラ・バスワルドの力の一部がその目をスラルに向ける。
その無機質な目はスラルの事を見ているのか見ていないのかは分からない。
それでもスラルにはやらなければいけない…そうしなければランスは間違いなく死んでしまう。
霊体であるスラルでもラ・バスワルドの力を浴びれば消滅してしまうだろう。
何しろ相手は間違いなく魔王であった頃よりも強い存在なのだ。
「あなたの破壊の力…その力を付与出来ればランスの剣は魔人を斬れる。だからこそ…私は絶対に諦めない」
(そう…ランスは絶対に物事を諦めないんだから。魔王であった私に逆らい、カミーラとも戦い、それ以外の魔人とも戦っている)
スラルが知る限り、ここまで魔人と戦って生き残っている人間はガルティアしか知らない。
そのガルティアも無敵結界が無いころの魔人と戦っていた。
しかしランスは無敵結界を持つ魔人を相手にしても退かない時は絶対に退かない。
だからこそ、自分もこの程度で諦める訳にはいかないのだ。
「もう一度よ…ラ・バスワルド! その力、私が扱ってみせる!」
スラルは霊体ゆえに復元出来た腕を再びラ・バスワルドに向ける。
ラ・バスワルドはスラルに対して敵対行動をとっている訳では無い。
ただ、そこに悠然と存在しているだけだ。
スラルは魔力を込めて再びラ・バスワルドに触れる。
「クッ…!」
触れただけでも感じるその圧倒的な力にスラルは歯を食いしばる。
この剣にあるラ・バスワルドの力は本来の力の5%にも満たないだろう。
それだけでも自分の体がバラバラになりそうな程の衝撃を感じる。
だがそれをしなければランスが死んでしまう。
(私のせいで…ランスを死なせる訳にはいかない…)
自分の願いが巡り巡って今ランスに牙を向いている。
魔王であった時は感じていなかった事が今になって強く感じられる。
「だから…あなたも大人しく私たちに力を貸しなさい!」
「うおおおおおお! 俺を殺してくれ! 俺は勇者になるんだ!」
「コイツハヨウカイオウダ! オレガサキニシヌンダ!」
鬼達は黒部を見つけると、皆が一丸となって黒部へと殺到する。
「チ! 鬼かよ!」
鬼の強さは黒部もよく知っている。
JAPANに居たときから鬼とは戦ってきたし、ランスと共に帝リングを探しに行った時にも戦った。
そして石丸と共に大陸に進出した時は、鬼は北条早雲率いる北条家に使役されていた。
その時は鬼の力も大したものだと思っていたが、こうして敵に回るとやはり厄介だ。
「オラアッ!」
黒部の爪が鬼の頭部を吹き飛ばすが、
「ギャハハハハハハ!」
その吹き飛んだはずの頭が笑いながら黒部の首元を狙って飛んでくる。
そして頭の無いはずの胴体も意思を持っているかのように黒部に襲い掛かる。
「チィ!」
黒部は右手で胴体を吹き飛ばし、左手で鬼の頭部を打ち砕く。
「ウオオオオオオ! ヤツガユウシャニナッタゾ! オレモユウシャニシテクレ!」
その鬼を倒した事で、鬼の士気は更に高まっていく。
「な、なんだこいつらは!?」
その様子に大陸の兵士達は驚愕する。
藤原石丸に長く仕えるJAPANの兵士は鬼の事を知っては居るが、日が浅い大陸の兵士達は鬼の事をよく知らない。
それも北条家に使役されている鬼達は比較的理性的であり、何よりも味方であった。
しかし目の前にいる鬼は違う。
明確な殺気を持って人間達に襲い掛かってくる。
「このお!」
兵士達は魔物兵と戦うのと同じように、決して1対1では戦わない。
大よそ1,000程度の数ならば魔人はともかく鬼は何とかなるかもしれない…そう考えて鬼に向かっていく。
しかしその考えが間違っている事に気づくのに時間はかからなかった。
「ハァーーーーーーッッッ!!!」
後方の鬼達が太鼓を鳴らし、それに合わせるかのように鬼達が一斉に向かってくる。
「ガード部隊!」
指揮官の言葉に盾を構えた兵士達が一斉に整列する。
そして鬼と兵士達がぶつかり、兵士達はその一撃で隊列を崩される。
勿論鬼達もただで済むわけが無く、何体かの鬼には槍や矢が突き刺さる。
これが魔物兵であればそこで怯んだりするかもしれないが、相手は魔物兵ではなく鬼だ。
「ギャハハハハ! いてぇ! いてぇよおおおおおおお!!!」
「イイゾニンゲン! モットオレヲコウゲキシロ!」
鬼達は兵士達の攻撃を受けて逆に笑う。
そして人からすれば狂気としか思えない笑みを浮かべながら突っ込んでくる。
「皆さん! 今です! 氷雪吹雪!」
「氷の矢!」
「電磁結界!」
そこにエルシールが率いる魔法使いの部隊が一斉に魔法を放つ。
ガードの者を決して巻き込まぬように、エルシールは最適のタイミングで魔法を放つ。
彼女が持つ統率の技能、ランスと共に戦った経験は確実に彼女に力を与えていた。
氷雪吹雪を打ち込むだけでなく、彼女は次なる魔法の詠唱を開始する。
自分の隣にいる魔法使い達もそれぞれ詠唱を開始するのを見て、複数の鬼達が彼女達目掛けて走ってくる。
魔法使いは当然ながら接近されると脆い。
だからこそ戦いではその魔法使いを守る者の役割が重要となる。
「危ない!」
そして魔法使いの盾となるのはJAPANの足軽、そして侍達だ。
鬼との戦いの経験のある者が積極的に盾になって魔法使いを守る。
彼らもこの大陸に出て十数年、大陸の魔法使いとの連携はお手の物だ。
こうして侍達が盾となってくれている間に、エルシールを初めとした魔法使い達は詠唱を完成させる。
「炎の矢!」
「雷の矢!」
初級の魔法しか使えない者でも、ここに立っている限りは戦力だ。
初級魔法では鬼を倒すことは出来ないが、足止めくらいにはなる。
何しろ魔法は必ず当たるのだから。
「くらいなさい! スノーレーザー!」
魔法を受けて怯んだ鬼に向かって、今の段階でエルシールが使える最強の魔法を打ち込む。
その威力は中々のもので、鬼の体を貫き氷付けにする。
「ギヒャヒャヒャヒャ!」
鬼は狂気に塗れた笑みを浮かべながら絶命する。
自分の死すらも鬼にとっても関係は無いのだ。
「ファイヤーレーザー!」
「ライトニングレーザー!」
そして次々にレーザー級の魔法が放たれ、その威力は鬼をも倒していく。
完全に倒しきれなかったとしても、相手の腕や足に当たればそれだけでも十分だ。
「いけます! エルシールさん!」
「皆! 射線を空けてください!」
仲間の報告に、エルシールは急いで指示を飛ばす。
その声に味方のが一斉にその魔法使いの射線から逃れる。
「今よ!」
「はい! 白色破壊光線!」
そして魔法LV2の者しか使えない白色破壊光線が鬼を飲み込む。
流石の鬼も、白色破壊光線には耐えられずに光に飲み込まれて消滅する。
「やりました!」
(流石は人類軍と言った所でしょうか…私の居た国とは比較にはなりませんね)
白色破壊光線を撃った魔法使いの少女…まだ自分よりも年下であろう少女を見てエルシールはため息をつく。
(私が彼女の位の時は…何不自由なく暮らしていた時でしょうか)
思えば自分もとんでもない道を突き進んできたものだと改めて思う。
だが、あのまま父や母と共に居れば…自分は想像するのもおぞましい目にあっていた事は間違いないだろう。
(それとこの状況…どちらがマシなのでしょうか)
しかし今はそれ以上の光景…魔軍との戦争というより過酷な状況にある。
それでも自分はまだマシなほうだ。
こうして守ってもらえるだけ十分だろう。
(しかし何よりも大変なのは…間違いなくランスさん達です)
怒号が響く方向を見れば、そこではランス、レダ、大まおーが魔人レキシントンと戦いを繰り広げている。
この場に居る中では誰よりも強いだろうが、流石に魔人が相手では手も足も出ない。
ランスの一撃はレキシントンをよろめかせたりはしているが、無敵結界の前には碌なダメージを与える事は出来ない。
レダも大まおーも何とかランスをフォローしているが、それでも完全に押されている。
いや、勝負にもなっていない…それが現実だ。
「ランスさん!」
だからこそエルシールもランスを助けるために動こうとする。
自分は元々ランス達…そして魔人ケッセルリンクに命を救われ、そして自由を与えられた。
ならば何としてもランスを助けたい…例え自分が役立たずだとしてもだ。
魔法バリアくらいは張れる―――そう思って行動した時、
「あなた…中々やるじゃない。魔法の腕じゃなくてその統率力がね」
エルシールの前に現れたのは全裸の灰色の肌を持った女―――レキシントンの使徒であるアトランタだ。
「使徒…!」
「そうよ。私は魔人レキシントン様の使徒。今はレキシントン様がお楽しみ中なの。だから水を差すのはやめなさいな」
「そういう訳にはいきません。例え使徒だろうと、引き下がるわけにはいきません」
そう言うエルシールだが、目の前の使徒との実力差はハッキリと分かっている。
確かにエルシールも人間にしては中々強くなりはしたが、それでもランスやレダには及ばないのは自覚している。
それでも、エルシールは目の前の使徒から逃げる訳にはいかないのだ。
「強情ねー。ま、私も使徒の仕事をさせてもらおうかしらね」
アトランタはそう言って薄く笑う。
これまでの何処か気楽そうな顔とは違う、真剣な表情。
それだけでエルシールは気圧されてしまう。
(これが…魔人の使徒)
魔人の使徒を見るのは初めてでは無い…が、こうして相対するのは初めてだ。
しかも今は魔法使いである自分しかいないため、到底勝ち目はないだろう。
だがエルシールはそんな事で諦める訳にはいかないのだ。
「心配しなくてもいいわよ。殺しはしないから」
アトランタはエルシールの杖を向けると、それだけでエルシールの体が動かなくなる。
「え…?」
「それじゃあ…鏡になりなさいな!」
その言葉と共に、エルシールは意識を失った。
「中々いいモノが出来たわね」
アトランタは手元にある鏡を覗き込んで薄く笑う。
その鏡の中には先程アトランタと対峙したエルシールの姿が有る。
これこそがアトランタの能力…鏡に人を封じ込める力だ。
アトランタは満足そうに微笑んだ時、アトランタに向かって矢が飛んでくる。
「はっ!」
アトランタの魔法バリアの前に矢は力なく弾かれる。
「魔人の使徒…エルシールを返してもらおう」
「エルシールを返しなさい」
「あら…また私好みの女が現れたわね」
アトランタの前に立つのは、藤原巴と与一だ。
巴は薙刀を、与一は矢をアトランタに向けている。
「嫌よ。返せと言われて返す奴が居る訳無いでしょ。あなた達も中々いい女だし…鏡にしてあげるわ」
「やれるものならやってみなさい」
「覚悟!」
巴と与一はアトランタに向かって攻撃を仕掛ける。
アトランタは笑いながら二人の攻撃をバリアで防ぐ
「殺しはしないわ。あなた達も鏡の中で可愛がってあげるわ」
「ぐわっはっはっは! 貴様等の力はこの程度か!?」
レキシントンの攻撃は更に激しくなる。
その両の手から放たれる金棒は、一見して武骨に見えるが洗練されている。
威力も破格で、レダでも魔法による防御無しではまともに防げる気がしない。
一撃ならば防げるかもしれないが、矢継ぎ早に放たれる攻撃の前にはエンジェルナイトと言えども避けるしかない。
(クッ! せめて私のエンジェルナイトの力が万全なら!)
今ほどエンジェルナイトの力が出せないのが歯がゆいと思った事は無い。
これまでも苦労してきたが、今回の苦労はその域を完全に超えている。
魔王までいくと最早諦めしかないが、魔人相手となれば話は別だ。
本来であればレダの攻撃は魔人の無敵結界は意味が無いはずだが、その力が使えないのであれば意味は無い。
(大まおーは悪魔なのか何なのか分からない存在だし…どうしろって言うのよ!)
もし大まおーが悪魔なら、その攻撃を魔人は無敵結界では防げない。
しかし大まおーの攻撃も無敵結界に弾かれている所を見ると、大まおーはただの悪魔では無いという事を思い知らされる。
「小僧! 儂はお前が気に入ったぞ! もっとお前の力を儂に見せてみろ!」
「だーーーーっ! お前みたいなおっさんに言われても嬉しくも何とも無いわ!」
レキシントンはランスを最大の遊び相手に定めたのか、執拗にランスに向かって攻撃を仕掛ける。
ランスは何とかレキシントンの攻撃を凌いではいるが、相手の攻撃を一撃も貰う訳にはいかないという緊張感からか、肩で息をしている。
嫌でも理解出来る、魔人の攻撃力の高さ。
それは単純な物理攻撃力ではあのノスの人型の形態に匹敵するかもしれない。
あの時はリックやフェリス、そして魔法使いとしてシィルや志津香もいたし、セルというヒーラーも居たが今回は違う。
流石のランスでも、たった3人で魔人の相手をするのは難しい。
カミーラはランスを殺すつもりは無いのは分かってはいたが、目の前のレキシントンは違う。
確実にランスを殺すつもりでその金棒を振るっている。
(スラルちゃんは返事もせんし…どうなっとるんだ!)
こういう時こそスラルの魔力や知識がモノを言うはずだが、そのスラルも今はランスが呼んでも返事すらしない。
(魔人を何とかするする手段があるかもしれんとは言ってはいたが…まだか!?)
ランスは確実に焦っていた。
これまでは何とか魔人と戦えていたのは、魔剣カオスが有る事で相手の無敵結界が意味をなさなかった事、そして魔人側の油断があったからだ。
カミーラは当然として、今まで戦ってきた魔人は完全に人間を見下していた。
だからこそ付け入る隙があったのだが、目の前の魔人は少し勝手が違う。
あの魔人ノスのように純粋に戦いを楽しんでいる。
「いい加減に…死ねーーーーッ!!!」
ランスも何とかレキシントンに攻撃を加えるが、無敵結界の前にその攻撃は弾かれる。
レキシントンは最初はその攻撃でよろけてはいたが、今はランスの攻撃に合わせて力を入れているのかびくともしない。
逆にその衝撃でランスの方が体勢を崩してしまう。
そんな状況では流石のランスも相手の攻撃を避けるのが難しくなってしまう。
それ故に攻撃をする頻度を抑えて何とか隙を伺うが、目の前の魔人にはその隙が見当たらない。
「そろそろ死ぬか!? 小僧!」
レキシントンの攻撃が更に激しくなり、ランスも徐々に相手の攻撃を避けられなくなっていく。
それでもその卓越した技術でレキシントンの攻撃を防ぐが、それを見る事で更にレキシントンの攻撃が激しくなる。
が、ここでランスは有る事に気づく。
レキシントンは時たま自分の無敵結界では無く、その金棒でランスの攻撃を防ぐこともある。
それは戦士としても無意識の行動なのかもしれないが、ランスはそこに一つの可能性を見出す。
と、いうよりも最早ランスが出来る事はこれくらいしかない。
問題はそれが出来るのかという事だが、ランスは全く迷う事無く決めた事に一直線に突き進む。
それが出来ないという考えはもっていない、やらなければ死ぬ…それだけだ。
(ランス、あなたは斬れる。それを当然だと思うのよ)
以前にスラルに言われた言葉を不意に思い出す。
それは魔人カミーラとの戦いで、カミーラのブレスを斬った時にスラルに言われた言葉だ。
その言葉に後ろを押されるという訳では無いが、ランスは意識を集中させる。
「レダ! まおー! このクソボケ魔人を何とか抑えろ!」
そのためにはこの二人の力が必要だ。
「無茶ばかり言ってくれるわね!」
「まーおー!」
レダは文句をいいながら、大まおーは何時ものように声を上げながらレキシントンの前に立ち塞がる。
ランスが何を考えているかは分からないが、これまでランスは確実に戦果を挙げてきた。
戦いにおいてはランスほど信頼できる人間はいないのだ。
「誰が来ようと構わん! 打ち砕いてくれる!」
レキシントンは両手で構えた金棒を振り回しながらレダと大まおーをものともせずに蹴散らす。
しかしそれでもレダと大まおーは直ぐに体勢を立て直してレキシントンの前に立つ。
それを見てレキシントンは更なる笑みを浮かべて二人に向かって行く。
自分と戦える者がいればレキシントンにはそれで十分なのだ。
「来い! 何人来ようと儂は構わん!」
レキシントンの動きがさらに激しくなり、流石のレダと大まおーも徐々に耐えられなくなっていく。
「クッ! いい加減に…しなさい!」
レダの盾がレキシントンの金棒を弾く。
「むっ!?」
レキシントンは己の金棒から嫌な音がした事に気づく。
それは己の過去にもあった事…そう、あのトッポスと戦っていた時に聞いた音だ。
(やれた…か?)
レダは己の技能が決まった音に薄く笑みを浮かべる。
それは『武器壊し』と呼ばれるガードの持つ技能の一つだ。
相手の攻撃を受け止め、逆にその武器を傷つけるというガードの持つ技。
これまでレダはエンジェルナイトの力がある故に、あまりそういう事を考えた事は無かったが、やはり使えて損は無いと確信した。
そしてその瞬間を見逃すランスでは無かった。
「ラーンスあたたたたーーーーーっく!!!」
レキシントンの少しの隙に、ランスは己の必殺技を放つ。
レキシントンは驚きはしたものの、決して慌てる事は無い。
魔人には無敵結界があるので、どんな攻撃も決して魔人を傷つけることは出来ない。
そんな余裕がレキシントンにも存在していた。
だからこそ、レキシントンはランスの意図には気づいていなかった。
「だーーーーりゃーーーー!」
気合と共にランスの剣がレキシントン―――ではなく、レキシントンが持つ金棒に炸裂する。
そしてランスの必殺の一撃はレキシントンの持つ金棒を両断する。
「な、なんだと!?」
流石のレキシントンもこれには慌ててしまう。
長い間戦ってきたが、まさか自分の持つ得物が切り裂かれるとは思ってもいなかった。
そしてランスは返す一撃もう一つの金棒も両断する。
その結果にランスは満足したように唇を上げるが、その後に待っていたのは凄まじい衝撃だった。