ランス再び   作:メケネコ

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破滅への足音

「な、なんだテメェ!?」

「黙れ三下。お前の言葉なんぞ聞いてない。それよりもよってたかってカラーの女の子をいじめるとはどういう了見だ。そんなものは神が許そうがこの俺様が許さん」

 ランスは剣を突き付けてカラーを襲おうとしている男達を睨む。

「こ、この野郎! カラーの味方をするのか」

「やかましい! 貴様らのようなむさ苦しい男共より、かわいい女の子の味方をするのは当然だろうが! そして女の子をいじめる奴等は死ねー!」

「うぎゃーーーーー!!」

 ランスの一撃で男達が倒れていく。

「あーあ、やっちゃった」

 その光景を見てレダはため息をつく。

 ランスらしい行動だが、これはどう見ても非常に厄介な状況だ。

「あ、あの…」

「ん、大丈夫?」

 恐る恐るといった感じでレダに話しかけて来たカラーに、レダはなるべく穏やかに話しかける。

 カラーは特定の時間生きると、その間の行動次第で天使…即ちレダの同僚か、敵である悪魔に変化する。

 だからある意味カラーは同僚であり敵であるとも言える。

「がはははは! 死ねーーーーーっ!!!」

 ランスは笑いながら嬉々としてカラーを襲ってくる連中を叩き斬っている。

「な、なんだこいつ! 強いぞ!?」

 ランスは余裕綽々で男達を蹴散らす。

 それも当然、今のランスに勝てる人間などこの世界を探しても見つけるのは難しいだろう。

「た、助けてくれ! お、俺には帰りを待っている妻と子供が居るんだ!」

「それがどうした」

 命乞いをする男に対してもランスは何の反応も示さない。

 まるで男の命になど興味が無いと言わんばかりの態度に、男は更に土下座をして命乞いをする。

「俺がここで稼がないと妻と子が死んでしまう! だから見逃してくれ」

「ことわーる! 貴様のようなクズは今だけそんな事を言ってもまたやるからな。だからここできっちり殺してやる」

「そ、そんな!? 助け…ギャーーーーー!」

 命乞いをしている男すらもランスはあっさりと斬り殺す。

「ランス…やりすぎじゃない?」

 剣の中からスラルが少し抗議をするように声を出す。

「別に殺さなくてもいいんじゃない?」

「いいや駄目だ。この手の奴等は何度でも湧いてくるからな。舐められん内にきっちり殺しておく必要がある」

「そんなものかしらね…まあこの手の人間が何度も湧くっていうのは同感だけど」

 スラルも人間の弱さ、そして欲望の弱さは良く知っている。

「まあお金のためにカラーを犯して殺そうだなんて言ってる奴にランスが容赦する訳が無いわね…けど一体何がどうなっているのかしらね」

 人間とカラーの関係は決して良くも無いが悪くも無い…そんな認識だった。

 カラーが繁殖するためには人間の男が必要なのは事実ではあるし、自分が魔王だった頃も持ちつ持たれつ…そんなイメージが存在していた。

 それに共通の敵はあくまでも『魔物』という存在であり、人間もカラーも無暗に敵を作るなんて事は無かった。

(確かに少しカラーの間で歪みが生じているとは聞いてたけど…何か大きな変化があった?)

 セラクロラスの力によってまたどこか分からぬ時代に飛ばされたために、現在の状況が分からないのが難点だが、ランスにはそんな事はどうでもいい事のようだ。

「貴様等! 何をやっている!」

 ランスが襲い掛かってくる男共を斬り倒していると、人間の一団が現れる。

「ランス。何処かの軍隊みたいよ」

「ヘルマン…とも違うな」

 カラーを襲う軍、と聞くとランスが一番に思い浮かべるのが、実際にカラーの森を襲ったヘルマン軍だ。

 尤も、カラーを襲った軍はパステルの呪いによって全滅したようなのだが。

 しかし目の前に居る連中の鎧は明らかにヘルマンのものではない。

 ヘルマン人は総じて体格が良く、ブラックナイトと呼ばれる重装歩兵が特徴的だ。

 しかし今こうしてランスに向けて殺意を向けている連中はヘルマンとは全く違う鎧をつけている。

 どちらかと言えばリーザスに近い…かもしれないが、ランスが見慣れているリーザスの鎧とも全く違う。

「何だお前等。俺様はお前等みたいなむさい男共に用は無い。分かったらとっとと失せろ」

「失せろ…だと。貴様、よくも我らの邪魔をしてくれたな」

 ランスの心底どうでもいいような態度に、男達の敵意が増していく。

「我等東オピロス帝国を前によくもそんな態度が出来るものだな」

 男の声に、カラー達が一斉に震えだす。

 そんなカラー達を少し怪訝そうに見ながら、ランスはレダとスラルに声をかける。

「カルピス帝国だかユンケル帝国だか何だかしらんが、お前達は知ってるか」

「知る訳無いじゃない、そんな国」

「オピロスよオピロス。まあ私もそんな国聞いた事無いけど」

「まーおー!」

 レダ、スラル、そしてついでに大まおーが首を振る。

「誰も知らんだと、そんな国。帝国ごっこがしたいなら自分達だけでやってろ。俺様は今はこのカラーの女の子の事で忙しいのだ」

 ランスから見てもやはりカラーは美しい。

 しかしカラー達のランスを見る目は脅えの色が濃い。

「おいお前等。お前等みたいなブ男共がいるからカラーが脅えているではないか。とっとと失せろ」

「プ…アハハハハハハ!」

 そんなランスの事を男達は馬鹿にしたように笑う。

「まさか我等の事を知らん馬鹿が居ようとはな。いや、それどころかカラーが起こした事も知らんと見える。貴様のような田舎者がこの世界にいるとはな」

 先頭の男の言葉に更に笑いが大きくなる。

 だがランスはそんな事は全く気にしていない。

 何故なら―――

「いきなりラーンスあたたたたーーーーーっく!!」

「え? ぎゃーーーーーーっ!」

 その時にはランスは己の必殺技を放っていたのだから。

 ランスの必殺技であるランスアタックをもろに浴びた人間達はあっという間に吹き飛ばされる。

「全く。ごちゃごちゃと煩い奴等だ」

「だからと言って何の躊躇も無く不意打ちする? こいつらからはまだ聞きたい事あったのに」

 スラルとしてもこのままランスが黙っている訳は無いと思っていたが、まさかいきなり必殺技を放って物理的に黙らせるとは思っていなかった。

「そんなのカラーから聞けばいいだけだろ。こんな男共の話など聞くだけ無駄だ」

「うーん、相変わらず男には辛辣ね…まあいいんだけど」

 スラルも今更ランスの性格が変わるなんて思っていない。

 ランスの言うとおり、カラーから話を聞けばいい事でもある。

 だから改めてカラーの話を聞こうとした時、

「お、おのれ下賤な田舎者め…」

「へぇ…生きてたんだ」

 一人の男が起き上った事にスラルは驚くよりも感心してしまう。

 不意打ちでランスの必殺技を受けて生きているとはかなりの生命力だ。

「絶対に許さん! この剣の錆にしてくれる!」

 そう言って腰から剣を引き抜いた時、

「ひっ!」

 カラー達から悲鳴が上がる。

「な、なんだ?」

 まさかのカラーの悲鳴に逆にランスは驚いてしまう。

「フッフッフ…カラー共にはこの剣が何か分かるようだな。そうだ! この剣こそ、お前達カラーのクリスタルで作られた剣! さあ、これでお前も終わり」

「うるさいぞ」

「ぎゃーーーーー!」

 男の威勢のいい声はランスが投擲した剣によって阻まれる。

 ランスの投げた剣は的確に男の心臓を貫いていた。

「よーし、戻ってこい」

 その言葉で男の体に刺さっていた剣がランスの手に戻る。

「ちょっとランス。あんまり乱暴に扱わないでよ。急に投げられると目が回るのよ」

「分かった分かった。それよりもカラーのクリスタルだと?」

 ランスもカラーにはかなり深い縁が有り、カラーのクリスタルの事も聞いている。

 カラーは処女を失うと額のクリスタルが赤から青へと変化する。

 そしてそのクリスタルは凄まじい力を発揮するが、そのためにはそのクリスタルをカラーから外す必要があるが…外されたそのカラーは消滅してしまう。

 ランスもカラーのクリスタルの力はその身で味わっており、あのヘルマンのミネバ・マーガレットがカラーのクリスタルを使ったクリスタルミネバを作り出して襲い掛かってきた。

 その時はランス率いる無法者で何とか倒したが、ランス一人でならばその物量で圧殺されていただろう。

「あ、あの…ありがとうございます」

 カラーの一人がランスの所へ来ると、深々と頭を下げる。

「がはははは! 俺様は女の子の味方だからな。で、お前等は何でこんな連中に追われていたんだ」

「………本当に、知らないのですか?」

 カラー達がランスを見て怪訝そうな顔をしている。

「知らないから説明しろと言っている。大体何でカラーがこんな所に居るんだ」

 カラーは森の中に住んでいる…これがランスにとってのカラーの常識だ。

 LP期においてはペンシルカウは森の中にあったし、ケッセルリンクと会った時もカラーは森の中に住んでいた。

 ランスが辺りを見渡しても、ここはどう見ても廃屋だ。

 人里からは程遠い所にあるようだし、カラーがこんな所にいる理由があまり見当たらない。

「それはだね。人間のカラー狩りだよ」

 その時突如としてランスの背後から声が聞こえる。

 そしてランスの喉元には剣が突き付けられている。

「な!? 何時の間に!?」

 レダは突如として現れた存在に仰天する。

(この私が相手に気づかなかった!? そんな馬鹿な!)

 エンジェルナイトのレダは当然の事ながら凄まじい力を持っている。

 その中でも防御に優れるレダ0774は、相手の気配を読むのもお手の物だ。

 その自分が相手の気配を見逃した事に愕然とすると同時に、これほどの存在が世界には居るのかと言う驚きに満ちていた。

「ハンティ様! 違うんです! この人は私達を助けてくれたんです!」

「ハンティだと!?」

 カラーの声にランスは驚きの声を上げる。

「動くんじゃないよ!」

 しかしハンティのあまりにも硬く厳しい声にランスは動けなくなる。

 ハンティ・カラー…ランスはまだあまり話した事は無いが、共に最強の闘神であるMMと戦った仲だ。

(…こいつ、こんな声だったか?)

 ランスが知るハンティ・カラーはもっと余裕綽々というか、かなり感情豊かな感じだ。

 しかし今のハンティの声には余裕が全く感じられない。

 どこか切羽詰まったような声は、これまでランスが知っているハンティ・カラーとは一致しなかった。

「お願いしますハンティ様! その人間は違うんです!」

「ハンティ様! お願いします!」

 カラー達の懇願にハンティは少し怪訝な表情をするが、やがてその剣をランスの喉元から離す。

「全く、どういうつもりだハンティ! この俺様を…って、お前ハンティだよな?」

「はぁ? 何言ってんだいあんたは」

 ランスの視界に入ったハンティ・カラーだが、その姿はランスの知っているハンティ・カラーとは少し違う。

「…イメチェンした?」

「あんた…頭大丈夫?」

 ランスの知っているハンティ・カラーよりも髪が非常に長い。

 それに肩についていた特徴的なマニュピュレーターが存在しない。

 そして何よりも…その目がランスの知るハンティ・カラーとは違う。

「パットンはどうした」

「誰だい、それは」

「むぅ…お前もか」

 パットンの事を知らない様子のハンティに、ランスは気落ちしてしまう。

 これまで出会ったランスが知っている存在…カミーラも、ベゼルアイも、そしてハンティまでもがランスの事を知らないと言う。

 しかもベゼルアイもハンティも、ランスとの共通の知り合いの事も知らないと言っている。

 またしても訳が分からない状況になっている事にランスは再び頭を悩ませていた。

「ハンティ・カラー…黒髪のカラー!」

 スラルが興奮したようにランスの剣から姿を現す。

「凄い…本当に存在していたのね!」

「な、何よ…」

 少し興奮気味にハンティを見るスラルには、流石の彼女も少し怯んでしまう。

「一度じっくり話を聞きたいと思っていたの! ケッセルリンクも実際には会った事は無いって言ってたし」

「ケッセルリンク…魔人か。という事はあんた達は魔人の一味…という訳でも無さそうだね」

 ケッセルリンクの名前が出た事でハンティは警戒するが、どう見てもランス達は使徒でも無さそうだ。

 カラーの娘たちを助けたのは事実のようだし、ハンティも警戒を解く。

「ああ、でもこの子達を安全な所に運ばないといけない訳だけど…どうしたものかね」

「それならいい方法があるぞ」

「あん?」

 

 

 

 その夜―――

「さっぱりしたー!」

「やっぱりお風呂はいいわねー」

「あ、次私はいりまーす!」

 ランスに助けられたカラーの娘達とハンティは、ランスが持っていた魔法ハウスでのんびりと寛いでいた。

「便利な道具ねえ…でもあんた達が使うにはちょっと大きすぎるみたいだけど」

 ハンティも初めて見る道具には驚きながらもちゃっかりと寛いでいる。

「で、あんた達は本当に何も知らないのかい?」

 ハンティは少し怪訝な表情でランス達を見る。

(人間の男に幽霊に…こっちは人間じゃないか。そして明らかに別世界の生き物が1体…どういう集まりだい)

 改めてランス達を見ると、人間が一人に後は人外という奇妙なパーティーに呆れてしまう。

(しかしこの男…強いな。100年程前に居た藤原石丸とどっちが強いかね)

 100年程前…藤原石丸と言う一人の英雄がこの大陸を制圧しようとし、魔人の前に敗れた事はハンティも当然良く知っている。

 何故なら、今のカラーの状況もその藤原石丸が敗れた事も原因の一端でもあるからだ。

「ハッキリ言って何も知らないわ。何でカラーが人間に追われているのかもね」

「…はぁ。だったらあんた達は無害か。まあ結論だけで言えば人間によるカラー狩りさ。目的はカラーのクリスタルさ」

 ハンティは苦々しく答える。

 彼女自身、まさかカラーの現状がこんな事になるとは想像も出来なかった。

 黒髪のカラーと呼ばれ、神格化されていても実際はただのドラゴンカラーにしか過ぎないのだ。

「それが分からん。何で突然そんな事になる」

「その過程も知らないなら…これも知らないか。カラーが人間を支配しようとしたのさ」

「…はあ?」

 ハンティの言葉にランスは思わず少し間の抜けた声で聴き返す。

「…カラーが人間を支配? 逆じゃなくてか?」

「言葉通りだよ。その結果、カラーは人間の逆襲を受けた…だけど問題はその後、カラーのクリスタルが強力な武器や道具になる…だから狙われているのさ」

 ハンティは自嘲するように唇を歪める。

「まあカラーのクリスタルは色々使われているのは知っているが…それ以前に何でカラーが人間を支配しようとするのだ。そこが分からん」

「アンタがカラーにどんなイメージを持ってるかは知らないけど…まあ簡単さ。今から約100年程前に起きた人間と魔人の戦争。その後で人間達は復興を始めてたけど、カラーがその隙をついて人間の国を支配してしまったのさ」

 そう言うハンティの声には呆れたような、そして酷く疲れたような空気を纏っている。

「最初は良かったけど…結局は人間の数には勝てなかった。その過程の中で人間はカラーのクリスタルが武器やアイテムになる事を知った…その後は単純、人間達は挙ってカラーのクリスタルを狙っている。勿論自分達の国のためにね」

「なるほどね…強力なアイテムがカラーから手に入るのなら、そのカラーを多く殺してクリスタルを奪った者が有利という訳ね」

 スラルは予想を遥かに上回るカラーの惨状に頭を抱えてしまう。

 このままではカラーという種族が絶滅しかねない…それを感じさせる蛮行だ。

「思い上がった奴等が上に立つとこうなるっていう見本さ。だけど全てのカラーがそうであった訳じゃ無い。何も関係ない娘達を放ってはおけないからね」

 ハンティとしてもカラーが滅びるのは本意では無い。

 人間を奴隷にしようとしたのなら反撃されて当然、それは自然の摂理であってハンティもあえて何も言わなかった。

 しかしカラーのクリスタルを武器やアイテムにするために狩るのであれば、ハンティも黙っている訳にはいかないのだ。

「これも正しい歴史を残せなかった弊害かもね…メカクレもアレほど口酸っぱく言ってたのに…魔人の脅威が膨れ上がるにつれて、過去の英雄への憧れも強くなる。困ったものさ」

 魔人ケッセルリンク…過去において魔人を倒したというカラーの逸話はどんどんと膨れ上がっていってしまった。

「そういやメカクレはどうしたんだ」

「メカクレは…天に還っていったよ。あの娘も何とかしたいという思いはあったんだろうけどね」

「ふーん…そうか。結局メカクレとはやれなかったな」

 この前会った時にはパステルの母達と同じ様な状態だったので、他のカラーに憑依できればやれるのではないか…そう思っていたのだが、どうやら遅かったようだ。

 いかにも勿体無いと言わんばかりの態度を取るランスに、ハンティは怪訝な表情を浮かべる。

「アンタ…メカクレの事を知ってるの? いやでもメカクレって100年以上前に消えてるんだけど」

「うむ、俺様がケッセルリンクと共に魔人を倒した男だからな。当然だ」

「…はあああああああ?」

 突然滑稽な事を言いだしたランスに、ハンティは心底呆れたような声を出すが、

(いや、待てよ。確かあの時魔人を倒したのは黒い剣を持った人間…ランスって男と金髪の女だったっけ)

 ハンティがランスの隣の席に顔を向けると、そこには特にこちらには何の反応も示していない金髪の女が居る。

 そしてこの男…ランスと名乗った男が持ってるのは真っ黒い剣だ。

「アンタ…ケッセルリンクが魔人を倒した時のカラーの女王の名前は言えるかい」

「ああ、ルルリナちゃんだろ。あの子ともやれなかったな…結局あの時カラーでやれたのはケッセルリンクだけだな。アナウサともメカクレともやれんとは…俺様とした事が不覚だったな」

「え…」

 ハンティは驚きに目を見開く。

「お、お前のそんな顔初めてみたな。お前もそんなに驚く事があるんだな」

「いやいや…ってまさかホントに!? でもアンタ間違いなく人間だよね」

 ルルリナ、ケッセルリンク、アナウサ、メカクレ…これらは全て1000年以上前の人物だ。

 ケッセルリンクだけは魔人として現存しているし、魔人四天王として恐れられているので知っていてもおかしくは無いが、ルルリナ、アナウサ、メカクレといったカラーの名前を知っているなどありえないはずだ。

「じゃあその時の魔人は?」

「…なんだっけ。気色悪い魔人だったからもう覚えとらんぞ」

「オウゴンダマでしょオウゴンダマ。何でか知らないけど人間の体を持ったオウゴンダマ。やたらと筋肉を誇示してたじゃない」

「そういやいたな…そんな奴」

 金髪の女…レダが発した言葉でハンティは大きく天を仰ぐ。

「ホンモノかい…いやでも何でアンタ等生きてるんだい!?」

 魔人オウゴンダマ…恐らくはその存在を知っているのはカラーしかいないだろう。

 今から1000年以上前に滅んだ魔人であり、その詳細は恐らくは人間には残っていないだろう。

「それは私が説明するわ」

 スラルが驚いているハンティにこれまでに経緯を説明する。

 スラルの言葉にハンティはあんぐりと口を開けるだけだったが、その内納得したように頭を押さえる。

「セラクロラス…時の聖女の子モンスターか。どれだけの力があるかは知らないけど…まあ現実にアンタ達がいるのが証拠か」

 自分の知らない所でとんでもない事を行われてる…それを考えるだけでハンティは頭が痛くなる。

「ある意味アンタ達も元凶かい…まあアンタ達を責める気は無いけどね」

「で、これからどうするつもりなの?」

 スラルの言葉にハンティは難しい顔をする。

「当分の間はカラーが表舞台に出る事は難しいかもね。今は人間達はカラーを金の対象として見てしまっている。当分の間は大人しくさせるさ」

「あ、あの…ケッセルリンク様に頼る事は出来ないのでしょうか…?」

 ランス達の話を聞いていたカラーの一人がおずおずと声をかけてくる。

 あの伝説のケッセルリンクならば…という希望に縋りたいのだろう。

「それは止めた方が良いわね。ケッセルリンクなら助けてくれるかもしれないけど…魔人を頼ればカラーは完全に人間の敵になってしまう」

 その後で起きる事はスラルも想像もしたくも無い。

 カラーという種族は魔物にとっては人間と同じ様な扱いだ。

 ケッセルリンクが本当に何とかできるのであればまだいいが、ケッセルリンクは魔人だ。

 魔人で有る以上、魔王の命令に逆らう事は出来ない。

 結局はカラーの命運は魔王に握られることになるため、それでは意味が無い。

「ケッセルリンクは止めた方がいいね。こいつの言うとおり、今は良くても先の事を見据えればね。それに…カラーは人間が居なければ増える事が出来ないからね」

 スラルとハンティの声に、カラーの娘達の表情が暗くなる。

 先が見え無い状況には誰もが不安になっているのだ。

「心配するんじゃないよ。絶対に見捨てないさ。それにカラーを集める所はもう出来てるからね」

「有難うございます、ハンティ様。そちらの方も…ランスさんと仰るのですよね。助けて頂いて有難うございます」

 ハンティの言葉にカラーの娘達の表情が和らぐ。

 それだけ『黒髪のカラー』と呼ばれるハンティへの信頼は揺るぎないのだ。

「がははははは! ならばまずは助けた礼をしてもらおうか」

「え…お礼ですか? ですが私達には何も差し出すものは…」

「そんなものはいらーん! ずばりセックス!」

「え、ええええええ!?」

 ランスの言葉にカラーの娘達は仰天する。

「アホかアンタは。あんな目にあってたカラーにそんな要求するとか正気?」

 レダがランスの頭を軽く叩く。

「む…」

 ランスも改めてカラーの娘達を見るが…一部のカラーは身を寄せ合って震えている。

 ランスを見るその目も脅えの色が非常に強い。

 流石のランスもそんな女を抱くのは憚られる。

「分かった分かった。そんな目をするな。今のは冗談だ冗談。別に礼もいらん」

 だからランスもあっさりと引き下がる。

 そんなランスを見てカラー達は安心したように体の力を抜くが、一部のカラーは不思議そうにランスを見ている。

「あの…人間って気に入ったカラーを問答無用で浚ってレイプするんじゃないんですか」

「俺様をそんな奴と一緒にするな!」

 カラーの言葉をランスは否定するが、

「ふーん、よりによってランスがそういう事言うんだ」

「説得力って言葉を知ってる?」

「まーおー!」

 ランスの事を良く知る者達は半眼でランスを見ている。

「何だお前等。文句でもあるのか」

「べーつにー。ただ人の振り見て我が振り治せって言葉もあるし」

「何だとー!」

「何よ!」

 軽く睨みあうランスとスラルを見て、ハンティは呆れた様にため息をつく。

「この二人…何時もこんな感じなのかい?」

「最近はそうねー。まあ影響は無いから大丈夫よ」

 ハンティの言葉にレダも呆れた様にため息をつく。

「…まあいい。カラーの子が駄目なら俺様専用の女が居るから問題無し! がはははは! 行くぞレダ!」

 ランスはレダを無理矢理椅子から立たせると、そのままレダの肩を抱いて己の寝室に連れ込もうとする。

「やっぱりそうなるのね。まあいいけど」

 レダは何時もの事と言わんばかりに呆れた表情をしているが、決してランスを拒む事はしない。

「ハンティ様。私達もそろそろ…」

「ああ、しっかり休みな。今日はゆっくりと休めそうだしね」

「はい! さー久々の布団で寝れるぞー!」

 カラー達は嬉しそうにしながら大部屋へと入っていく。

 そこはJAPANでランスが男共を一纏めにしていた部屋だが、こうしてJAPANでの激戦が終わった後も大人数が眠れる部屋として使っている。

 エルシールが気を使って整理してくれていたのだ。

「さて…少し真面目な話をしてもいいかい?」

 残されたのはスラルとハンティ…そして大まおーだけだ。

「私もあなたに話を聞きたかったわ。黒髪のカラー」

 スラルとハンティは少しの間睨みあう。

「アンタ…もしかして先代魔王のスラルかい? 私は遠目でだけどアンタの姿を見た事がある。纏ってる空気は違えど、容姿までは変わって無いからね」

「否定はしない。私は…我は先代の魔王だ。今はこうして自分でも動く事も出来ないがな」

 スラルの言葉を聞いて、ハンティは難しい顔をする。

 ハンティはドラゴンカラー…まだメインプレイヤーがドラゴンであった頃から生きる存在。

 天使による大粛清の後で、他の仲間は皆消滅したが、何の因果か自分だけ今の姿で生き残ってしまった。

「何でそんな姿に…とか野暮な事は聞かないよ。聞きたいのはただ一つ、アンタは今でも人間を…そしてカラーを殺すつもりがあるかとうい事さ」

 ハンティの視線は非常に鋭い。

 だからこそ、スラルも真面目に答える。

「全く無いな…今の我は魔王では無いし、魔王の力も持っていない。ただの幽霊に過ぎない」

「…みたいだね。普通の幽霊とは違うみたいだけど、魔王の力は何も感じない。全く…どうなってるのかね」

 長い年月生きるハンティではあるが、まさか前魔王…しかもその魔王の力を持っていない存在と出会うとは夢にも思わなかった。

「で、あの男…ランスって奴と一緒にいるのかい? セラクロラスの力に翻弄されながら」

「そうね。多分これからもずっと一緒なんじゃないかな。私自身ランスと離れるつもりは全く無いし」

「…魔王の時から知り合いなのかい? ケッセルリンクを魔人へとしたのはアンタだからね」

 ケッセルリンクが魔人となった経緯は当時のカラー達から話は聞いている。

 話が異常に大きくなっていくのはハンティも呆れたが、実際の話はケッセルリンクは魔王に命を救われたのだと。

「ランスは…魔人になる事を拒んだわ。俺様が誰かの下に付くなどありえん、不老不死にも興味は無いって」

「そいつは…凄いわね。不老不死に興味が無い奴なんていないだろうにね」

 長命種であるハンティには分からないが、人は…いや、魔物ですら不老不死を望み魔人へとなりたいと思う者は多いだろう。

 そんな奴を何体も見て来たが、実際に魔人になれるなど夢のまた夢である事も知っている。

「そういう奴なのよ。ランスにとっては私が魔王だろうが何だろうが関係が無いのよ。ランスは…私を魔王じゃなくてスラルとして見てるから」

「…奇特な人間もいたものだねえ。まあだからカラーにも興味が無い訳か」

 これまでのカラー狩りはハンティの力を持ってしてもどうなるか変わらない。

 減ったカラーを増やすにはそれなりの時間がかかるだろうし、人間の意識が変わらなければカラーは人間にとってただの道具に成り下がってしまう。

「私達はカラーの復興には手は貸せないけど、その過程の手伝いくらいは出来るわよ。ランスだってカラーの子にいい格好したいだろうしね」

「私一人じゃあ出来ることにも限界はあるしね…でもあの男の手綱くらいは握っておいてよ」

「保障はしないわよ。ランスは誰にも縛る事は出来ないと思うし」

 

 

 

「で、ここでいいのか」

 ランスが見上げる先には、何度か登ったことがある昇竜山がある。

「ああいいよ。悪いね、ここまで付き合わせて」

 結局ランスはカラー達が集まっているという森の入り口まで付き合うことになった。

 ランスとしても特にやる事も無かったので、いい退屈しのぎにはなっていたのだが…

「結局カラーの子とはやれんかったではないか…」

「はいはい文句言わない。というか散々私を抱いておいて何言ってるのよって感じなんだけど…」

「俺様は常に新しい出会いを求めているのだ」

「それじゃあハンティ、もしこれから会うことがあれば…」

 スラルの言葉にハンティはニヤリと笑う。

「次があれば、ね。今は人間たちが不穏な動きを見せてるからね…特にアンタ達も出会ったあの国はヤバイ予感がするよ」

「あの東オピロス帝国とかいう所? 何かあるの?」

「まだ噂の類だけどね…一番カラーのクリスタルを集めている国さ。そのクリスタルソードみたいのをね」

 ハンティはランスの腰に下げられたクリスタルソードを指差す。

「それなんだけど…本当にいいの? これ、カラーのクリスタルで出来てるんでしょ?」

 スラルの言葉に、カラーの一人が微笑む。

「いいんです。ランスさんならこの剣を正しく使ってくれそうですし。何よりも、ランスさんってカラーの呪いすらも弾き飛ばしそうで」

「志津香がカラーのクリスタルで出来た杖を持っていたが…なんか使いにくいな」

 ランスはクリスタルソードを抜いて素振りするが、やはり今一手に馴染まない。

 ランスが使うには少し剣が軽すぎるのだ。

 切れ味は十分ではあるが、切れ味だけならば今使っている黒い剣を使ったほうが良い。

「まあ持ってれば良いことあるかもよ。それにその剣からはもうカラーの呪いは感じない。それだったらまだアンタみたいな裏表がハッキリしている奴が使った方が安心できる」

「…それは褒めとるのか」

「最高の賛辞のつもりだけどね。とにかくこれまで付き合わせたこと、改めて礼を言うよ」

 ハンティは薄く笑う。

 その笑みを見て、ランスはやはり違和感を覚えてしまうが、

(まあいいか。パットンの事を知らんというなら、俺様が口説いても問題は無いな、うん)

 ヘルマン革命の時、ハンティとはあまりに接点が無かった故に、話をする前にハンティはパットンとくっついてしまった。

 そのパットンがいないのならば、自分が手を出しても問題は無いはずだと考える。

「…雷撃」

「あだだだだ! 何をする!」

「なんか凄い邪悪な事考えてそうだったから」

「そんな事で一々魔法を使うな!」

 ランスがハンティに食って掛かるが、ハンティは何処吹く風と言わんばかりにランス達に背を向ける。

「ここから先は出来れば付いてこないでくれると助かるよ。アンタ達は信用できるけど、カラーの人間に対する恐怖感は大きいからね」

「こういう時こそ英雄である俺様が慰めてやるべきだろうが…まあいい、今はとりあえずスラルちゃんの体を捜す事に戻るか。じゃあな」

 ランスも本来の目的であるスラルの肉体を捜す事に専念することにする。

 本来はスラルの体を見つけるのが目的でJAPANに向かったのだが、紆余曲折があって結局は目的は果たせずしまいだ。

 もう一度JAPANに戻って探索をするのもいいかもしれない。

 ランス達が本当にあっさりと自分達に背を向けた事をハンティは少し喜ぶ。

「人間にも時にはああいう滅茶苦茶な奴が生まれるね。まあ今はそんな事よりも目の前の現実か」

 これからのカラーの未来を考えると、ハンティも頭が痛くなる。

 失ったものは取り戻せないし、数百年は苦難の道が続くかもしれないが、それもカラーの自業自得な所もある。

「何も起きないでくれれば良いけど…多分無理なんだろうね」

 人間達も段々と復興していっている。

 その中でも目覚しい発展を遂げているのが、今回カラー達を襲ってきた連中だ。

 中々キナ臭い話もあり、近い将来何かが起きるような予感がする。

「どうなるかね…」

 しかしハンティの心配は彼女の予想を遥かに超えた形で実現することになる。

 後に死滅戦争と呼ばれる最悪の戦争が近づいているのを、この時点ではまだ誰も予想すらしていなかった。

 

 




一話で収めたら少し長くなりました
特に長引かせる必要が無かった話でしたので…
ここでハンティを一度出しておかないと後々に苦労するのは目に見えているので

ネタバレになるかと思いますが、死滅戦争にはランスは出ません
というよりも、LPケイブリスですらあっさり殺せる勇者と、一体で地上の生命体を絶滅させられる(パイアール談)魔王の戦いに出来る事なんて無いですよね
次は皆が大好き(?)あの方の出番が
だからあと少しだけNC期が続きます

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