ランス再び   作:メケネコ

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奴隷という存在

「…何コレ」

 ジルは己の周りを見渡し、思わず口を半開きにしてしまう。

 それほどこの光景は『ありえない』と言わせるものだった。

「魔法ハウスって言うんだけど…やっぱり世界に認知されてないのかしらね」

「なんか希少らしいからな。まあ俺様は二つも持っているがな」

 ジルが見たのは、ミニチュアサイズの家が瞬く間に立派な家になる光景だった。

 家と言うには大きすぎるが、それが逆にこのアイテムの価値を上げているとジルは考えている。

「とりあえずだけど、服はどうする? シャロンとパレロアとエルシールの分の予備がまだ残ってるけど」

 レダが衣装の収納部屋から何着かの衣装を持ってくる。

 これらはランスと共に旅をした女性達が着ていた物だが、何れの女性も全て訳あってランスから離れてしまった。

 エルシールだけは完全には行方が分からないが、あのケッセルリンクが助けると言うのであれば、必ず助けているだろう。

 あの魔人がそう言うのであれば、必ずできるとある種の信頼があった。

「俺様の奴隷がそんなみすぼらしい恰好では俺様がなめられるからな。取り敢えず好きなのを選んで着ておけ」

「は、はい…」

 ジルは思わず返事をしてしまうが、同時に、

(奴隷って何だっけ?)

 そうも考えてしまう。

 この若い男…ランスは自分を奴隷として買ったと言うのに、自分を一人の女として見ている。

 それを奇妙にも感じながら、ジルは用意された服を選ぶ。

(…メイド服?)

 中には完全なメイド服がそれぞれの大きさで用意されているが、取り敢えずは目に見えた一つの服を取る。

 それは魔法使いとしての服…そう、ジルの本来の職業としての服。

 ジルはそれを着ようとして、

「あの…ランス…様に見られていると着替え辛いのですけど」

「うむ、しっかり見ててやるから着替えろ」

 どうやらランスはじっくりと着替える所を見るようだ。

 すると何故かジルには言いようの無い羞恥心が芽生えてくる。

(わ、私は奴隷として買われたはずなのに…どうして)

 それでも何とか服に袖を通して着替えが完了する。

「少しだけ小さいけど…十分ね」

 自分よりも少し小柄な人物が着ていたであろうが、それほど窮屈という訳では無い。

 ただ、その内新しい服が欲しいとも思うのだが…

(奴隷なのに…そんな要求が通るのだろうか)

 奴隷として買われたという事実にジルの表情が暗くなる。

「ランス、少し小さいみたいね。もっと体にあった服を用意した方がいいわよ」

「それは別に構わん。俺様の奴隷がこんな小汚い服を着るのがありえんかっただけだ。後で好きな服を探せばいいだろ」

「え…?」

 ランスの言葉にジルは思わず目を見開いてランスを見てしまう。

(…私は奴隷なのよね?)

 思わずそう思い返してしまう程だ。

 しかし実際にはこの男…ランスの態度は明らかに奴隷に対する態度では無い。

 ジルも世界を回っていると嫌でも奴隷の事は目に入ってしまう。

 その扱いはどの国でも酷いもので、大凡人間への扱いとは思えないものだった。

「それでジル。あなたは何か出来る事ある? 魔法使いで有る事は分かるけど」

 あの時黒い剣から出て来た半透明の女性がジルに問いかける。

「え、えーと…」

「突然だと驚くでしょ。ああ、彼女はスラル。今は訳あってランスの剣の中にいる…まあ幽霊みたいなものね。あ、私はレダ。ガードをやってるわ」

「ガ、ガードですか」

 ガード…というのは所謂壁役の事だが、勿論その役目は重要だ。

 魔法使いのような非力な存在は、ガードがいなければ魔法を唱えるのも難しい。

 詠唱中はどうしても無防備になるし、強力な魔法は使うのにはどうしても時間がかかる。

 それを補うのがガードという役割なのだが…目の前の非常に美しい女性がガードだと言うのがジルには驚きだ。

 こういうのはもっと屈強な人間がやっている事が多いからだ。

 しかもあの時彼女は魔法も使っていたし、剣も使っていた。

 ジルからすれば、ガードのイメージが大幅に崩れるほどだ。

「私はあなたと同じ魔法使いよ。名前はスラル。そしてこれが大まおー。こいつは…まあ色々できる不思議な生き物よ」

「まーおー!」

「は、はあ…」

 人形だと思っていたピンク色の奇妙な物体が返事をした事にジルは戸惑う。

 どうやら悪意は無いようだが、それでもこの奇妙な物体にはどう接したらよいか悩む。

「そしてこれがランス。とんでもなくスケベで女しか好きじゃないけど、間違いなく人類では最高峰の力を持つ人間よ」

「おいスラルちゃん。それはどういう意味だ」

「そのまんまの意味よ。私はあの時の事、まだ忘れてないからね」

「何を言う。スラルちゃんもあんあん言っていたではないか。気持ちよくしてやっているのに何という言い草だ」

「そ、そういうデリカシーの無い所が駄目なの!」

 二人の言い合いに、ジルは思わず笑ってしまう。

「おい、何がおかしい」

「あ…ごめんなさい。二人ともすごく仲がいいんだなあと思って」

 自分は奴隷として買われたはず…なのに、何故かおかしくなってしまう。

「スラルちゃんは俺様の女なのにいつもこういう口をきくからな。体が戻ったら分からせなければならんな」

「よく言うわよ。今までずっと外れだったくせに」

「フン、最終的に見つければそれでいいのだ」

 言い合いを続ける二人を見てレダはため息をつく。

「で、確認だけどあなたどれくらい魔法は使えるの?」

 二人を無視してジルに能力を聞く。

 どれくらい魔法を使えるか…それはこの大陸において非常に重要な事だ。

 この世界は才能が全てであり、努力が無駄になる訳では無いが、才能で勝てなければそいつにはずっと勝てないという厳しい世界だ。

 その点ランスは才能に恵まれ、これまで何体もの魔人を倒しただけでなく、あの『魔王ジル』にすら真正面から戦い勝利をしている。

「黒色破壊光線までは使えます」

「へぇ…じゃあスラル並みに魔法が使えるのね」

「やるわね…じゃあランス、手頃なダンジョンで試してみましょうよ。私も彼女の実力を見てみたいし」

「分かった分かった。しかしこの辺に手頃なダンジョンなんぞあるのか」

「それは…あります」

 ダンジョンと聞いて、思わずジルは口を挟んでしまう。

 ジルもまた魔人を倒す手がかりを求め、数々のダンジョンを探してはきたが中々成果は上がっていない。

 生憎の冒険技能には恵まれなく、パーティーを組んでダンジョンに突入したのはいいが、その結果が今回奴隷として売られた結果だ。

「ほう。だったらそこに行ってみるか」

 ランスはダンジョンが有ると聞いて、俄然やる気になってくる。

 ランスは何よりも…下手をすれば女性を探すよりも冒険が好きかもしれない。

 だからこそ、地位や権力にも興味が無く、まだ見ぬロマンを求めてシィル、そしてヘルマン革命の後はかなみと共に冒険を続けているのだ。

「え、えーと…本当に冒険に?」

「何か問題でもあるのか。勿論お前も参加だぞ。それだけ魔法が使えるのなら大丈夫だろ」

「は、はい…」

 ジルは今の自分の立場に困惑してしまう。

 先が見えなかった未来だったと言うのに、何故かこうして冒険に出る事になってしまった。

「じゃあ今日は寝るか。お前も疲れをとっておけよ」

「あ…はい」

 ランスの言葉にジルは頭を下げると、自分のために用意された部屋へと入っていく。

 そんなジルを見ながら、スラルはランスを見る。

「ねえランス…どういうつもり? いえ、彼女が逸材なのは分かるけど、あんなに美人なのにランスが手を出さないっておかしいじゃない」

「そうね。アンタならすぐさま部屋に押し入って押し倒しそうなものだけど」

「お前等…俺様の事を何だと思っとるんだ」

 スラルとレダは顔を見合わせると、

「「慢性発情男」」

 ランスに指を突き付ける。

「やかましいわ! まあとにかく俺様も大人だからな。ああいうタイプは俺様に惚れさせてからじっくりと頂くのだ」

 実際にはランスは早速ジルを抱こうとは思っていたが、流石に奴隷から解放された初日に手を出すのは少し躊躇われた。

 が、それ以上にランスはある目的を持っている。

(あの魔王と同じ名前とは偶然もあるんだな。まあだからこそ、俺様に惚れさせるのがいいなうん。そういやあの時は悪い事をしたかもな)

 あの空間に魔王ジルと閉じ込められる事になりそうだったが、最終的にはこの世界に戻ってきた。

 それもあの時シィル・プラインが必死に追ってきたおかげだろう。

 だが、同時にランスは魔王ジルを冷たく突き放した。

(あの時は俺様も余裕が無かったな…今だったら何とかしてたかも…いや、うーむ)

 魔王ジルの存在はそれほどまでにランスにとっては圧倒的だった。

 これまで戦ってきたどんな敵よりも、それこそ直前に戦ったはずの魔人ノスの存在が霞むくらいの。

 しかしその悪意もまた本物で、ランスですら二度は戦いたくは無いと思うくらいだ。

 その魔王ジルと同じ名前で、面影が有る…ランスとしても奇妙な縁を感じずにはいられない。

(魔王のジルちゃんは残念ながら縁が無かったが、ここのジルは俺様が幸せにしてやろう)

 そのためにはまずは自分に惚れさせなければならない…とランスは本気で思っている。

「はあ…まあ好きにすればいいんじゃない」

「…スラルちゃん、なんか不機嫌だな」

「べーつにー。いい加減にしないと本当に刺されるわよ」

「怖い事を言うな! うっ…頭が…」

 ランスは過去に本当に刺された事を思い出し、頭が痛くなってくる。

「まーおー」

 そんなランスの肩をぽんと大まおーが優しく叩く。

「なんでお前みたいな奴に慰められなければならんのだ!」

「まお!?」

 ランスが大まおーの頭を叩く。

「あーかわいそうに。八つ当たりはみっともないわよ」

「やかましい!」

 とにかくランスはこれからの明るいであろう未来に楽しそうに笑う。

 不思議とランスはジルとは強い何かを感じ取っていた。

 それが良いか悪いかはまだ分からないが、とにかくランスはジルの事が非常に気に入っていた。

 

 

 

 ダンジョン―――それは世界の各地に存在しているが、一体何のために存在しているかは誰も分からない。

 しかしそこには強いロマンが有り、時には凄まじいアイテムが見つかる。

 それは世界に影響を及ぼすものであったり、時にはただ金になるだけの事もあるが、兎に角ダンジョンを攻略出来れば実入りも多い。

 ただし、そのためにはそのダンジョンに住まうモンスターを倒さなければならない。

 時には宝を守っていたり、時には凄まじい強さを持つモンスターも存在したりしている。

 だが、ランスはそのダンジョンに強く惹かれていた。

 それはランスの持つ冒険LV2が影響しているのかもしれないが、何よりもランスは自分の知らない新しいモノを見つけるのが何よりも好きだ。

 だから今日もランスはダンジョンを求めて冒険を続ける。

「くたばれ! ラーンスあたたーーーっく!」

 ランスの必殺の一撃がモンスターを吹き飛ばす。

「す、凄い…」

 ジルはその光景を見て思わずランスに見惚れてしまう。

 2体のサイクロナイトを一度にバラバラにした威力は想像を絶するものだ。

「ジル! ボーっとしないで! 後ろに居るわよ!」

「は、はい!」

 レダの言葉にジルは我に返る。

「全く! 何でこんなダンジョンにこんなに強いモンスターが居るのよ!」

 スラルはランスを守るために魔法バリアで相手の攻撃を防ぐ。

「鬱陶しいわね!」

 レダはジルを狙って放たれた砲撃…巨鉄ちゃんの一撃をその盾で防ぐ。

(巨鉄ちゃんの攻撃を余裕で防ぐ…何て人なの)

 巨鉄ちゃんはかなり強力なモンスターで、その砲撃は後衛の防御力の低い魔法使いには致命的になる。

 その上非常に硬く、普通に戦っては返り討ちにあるのが関の山だ。

「ハッ!」

 ジルは神経を集中させ、己の出来る事をする。

 するとジルの足元に魔法陣が浮き上がり、ジルの魔力が高まっていく。

 これこそジルの得意とする技術であり、ジルが賢者と呼ばれる所以。

 知識だけでなく、魔力の構築によって己の魔力をさらに引き上げ、高速の詠唱によってすぐさま攻撃に移れる。

「ライトニングレーザー!」

 魔法陣の効果によって増幅されたジルの魔法が巨鉄ちゃんに突き刺さる。

 あの堅牢な装甲を持つ巨鉄ちゃんが、ライトニングレーザーの一撃を受けて半壊する。

「まーおー!」

 そこを大まおーの鎌が切裂き、巨鉄ちゃんが瓦解する。

「ランス! 下がって!」

 レダの言葉にランスはすぐさま行動を起こす。

 そしてランスが下がった所で、

「エンジェルカッター!」

 レダの魔法がモンスターを切り裂き、とうとうモンスターは沈黙する。

「…終わったか?」

「どうやらそうみたいね…でも何でこんな所にこんな強いモンスターがいるのよ」

 スラルが倒れているランケンやまじしゃん、ナマリダマを見て苦い顔をする。

「確かにこんな所にいていいモンスターじゃないわね…」

 そう言うレダにはかなり余裕がある様に見える。

 ジルは大きく肩で息をしているが、ランス達にはほとんど変わりは無い。

「み、みんな…凄いです…」

 ジルは大きく深呼吸をすると、その場に腰を下ろす。

「あなたも中々やるじゃない。その即席の魔法陣ってあなたのオリジナル?」

「は、はい…でも普段はもっと時間がかかるんだけど…」

 ジルの持つ杖は市販で売っている杖であり、それ程高い威力を持っているという事は無い。

 だが、それでもいつも以上の速度と威力を出せるのは、その手に持っている剣の力が大きい。

「魔法使いに剣を持たせる…一見すると無駄な行為なんだけどね。流石はカラーのクリスタルといった所かしら?」

 ジルがランスに手渡せられたのは、ランスがカラーから預かったクリスタルソードだ。

「少し勿体無い気もしますけど…」

 手元にあるクリスタルソードを見て、ジルは苦笑いを浮かべる。

 カラーのクリスタルは素材として素晴らしく、特に魔力との親和性が高い。

 それ故に貴重品ではあるのだが、今ジルの手元にあるのは生憎と剣なのだ。

「ランス様が持つのが一番だと思うのですけど…折角の剣なのに」

「うーむ…いや、いらん。こっちの方が使いやすい」

(カオスより使いやすいしな)

 ランスは自分の持つ黒い剣と、クリスタルソードを見比べてやはり黒い剣を選ぶ。

 ランスにとってはこれほどぴったりと自分の手に馴染む剣は初めてだし、威力も申し分ない。

 いや、魔人を相手にしないのであれば、この剣の方が圧倒的に使いやすい。

 何よりもスラルの魔法を付与した一撃は強力で、戦士が苦手な霊体系のモンスターもスラルが光の魔法を付与すればあっさりと斬れる。

 カオスではそんな器用な事は出来ないため、使い勝手はこっちの方が圧倒的に上だ。

(何よりもあのダミ声を聞かんで済むしな)

 魔剣カオスは強力だが常にエロい事を言っているし、時には煩くも感じる。

 その分こちらはスラルという美女のため、ランスがこちらを選ぶのは当然の事だった。

「話しは変わるけど、これ程強力なモンスターが跋扈しているダンジョンなんてそう無いはずなんだけど…何かあったのかしら」

「それは…戦争があったから」

「戦争? 何かあったの?」

「知らないんですか?」

 ジルは不思議そうな顔をするスラルを見て逆に驚く。

「今から48年程前…私達人類は魔王の手によって絶滅一歩寸前まで追い詰められました。ですが魔王は突如として姿を消し…魔王と共に攻め込んできていた魔物達も散り散りになりました。その時のモンスターの子孫が根付いた…と考えられているんです。今は各地にこんなダンジョンが出来ているようですから」

「ま、魔王が!?」

 ジルの言葉にスラルは驚く。

 魔王ナイチサ…その残虐さは何度も聞いているが、それほどまでの殺戮を行ったという話しも聞かない。

 実際に藤原石丸が大陸を統一間近であっても、己は動かずに魔人を1体差し向けただけだ。

 人間を殺すが、そこまで人間を締め付けてもいない…それがスラルのナイチサへの見解だった。

 しかし実際には、人類は絶滅間近まで追い詰められていたようだ。

「うーん…とんでもない事が起きたのね。私でもそこまでやろうとは思わなかったのに…」

「え?」

「ううん、何でも無い。とにかく、今は復興途中という事なのね」

「はい。私は…ある伝説の真意を確かめるべく、色々な地を回っていたのですが…こうして裏切られて奴隷として売られたという訳です」

「ふーん…」

 スラルはジルの言葉を聞いてある意味感心する。

 何よりも、このジルという人間は非常に聡明で、魔力も非常に高い。

 特に魔法陣を用いての戦略は見事なものだ。

 己の魔力だけでなく、味方の魔力までも増幅させる魔法陣をアレほどの速さで展開し、自分も強力な魔法を放つ。

 もしかしたら今の自分よりもその技能は上なのかもしれない。

 それを思わせる程、ジルの力は凄い物だ。

(私が魔王だったら、間違いなく魔人にスカウトしてるわね。それ程の逸材よ、彼女は)

 魔力だけでなく、その内面が何よりもスラルは気に入った。

「でも…それだけにこんな奴に買われたのが本当に可愛そう」

「それはどういう意味だ。俺様という偉大な男の奴隷になるのは名誉な事だぞ」

「うん、臆面も無くそんな事を言えちゃうのが本当にランスって酷いなって思う」

「なんだとー!」

 ランスとスラルが顔を突き付けて睨みあう。

「最近随分と喧嘩が多くなってきたわね。まあ犬も食わないってやつだけど」

 最近はランスとスラルはこういう言い合いが少し増えてきた。

 まあランスもスラルも本気でいがみ合っているのではなく、仲の良いカップルの痴話喧嘩みたいなものだ。

「まーおー!」

「え? 地下に続く階段が見つかったって? やるじゃない」

 その時偵察に出ていた大まおーが戻って来る。

 何故かレンジャーの技能を持っている大まおーは、その強さも有り一人(?)で偵察に行く事も多い。

「…本当に強いんだ」

「まあ気持ちは分かる」

 ジルが何とも言えない表情で大まおーを見る。

 どうみてもピンク色の奇妙な生物だが、その強さは見た目とは全く一致しない。

 その大鎌はあらゆる敵を切り裂き、デビルビームや死爆等の闇系の魔法を使いこなし、更には炎を吐いたりする。

 強さだけならばジルをも大きく上回るだろう。

(いや、この大まおーだけじゃない…まさかこれ程の実力者が居たなんて…世界は広いわね)

 ここまで世界を旅し、色々な人間を見てきたが、ランス達はその中でもずば抜けた実力を持っている。

(スラルさんの魔法は凄い…いえ、何よりも判断力が高い。それに付与能力も持っているし、その知識も広い)

 これまで見た魔法使いの中でも間違いなくトップの実力に入るだろう。

(レダさんは…あり得ないくらいに強い。ガードをしながら剣も使えて、魔法も神魔法も使える…そんな人間がこの世にいるなんて)

 類稀なガード技能に加え、魔法も使えて神魔法も使える…そんな人間など見た事が無い。

 それだけでなく、剣の腕も素晴らしいとくれば、まさに引く手数多だろう。

(そして何よりも…ランス様が凄い)

 ジルはスラルとの口喧嘩が終わったらしいランスを見る。

 自分を買った…実際にはただで手に入れたこの男は、とんでもない実力の持ち主だった。

(剣の腕が『異常』だ。一見すると滅茶苦茶なのに、確実に相手を倒している。それにあの必殺の一撃を連発出来るのが凄い…)

 サイクロナイトすらも一撃で倒す一撃は異常と言う他無い。

 何よりもランスはその威力の一撃を連続で放つことが出来る。

 実力に関しては間違いなくジルがこれまで見てきたどんな人間よりも1枚も2枚も上だ。

(それにダンジョンの進め方も凄いスムーズ…私ではああは出来ない)

 ジルが驚いたのは、ランスが自分の想像を遥かに超えた冒険上手だという事だ。

 マッピングこそ自分や大まおーがやっているが、指示は的確であるし、キャンプの手際も非常に良い。

 何か下積みがあっただろう事は予想はつくが、やはり何よりも本人が『冒険好き』というのが大きいのだろう。

 今のこの状況でも明らかにこの冒険を楽しんでいる。

「まーおー!」

「あ、大まおーが次の階段を見つけたようね。じゃあ行きましょ」

「全く、スラルちゃんも随分と口が達者になったな」

「手は出ないけど口は出せるからね。それよりも早く行きましょ。もしかしたら凄いお宝があるかもしれないし」

「まあこれだけ強いモンスターが居れば期待は出来るな。よーし、行くぞお前等!」

 このスラルの言葉は確かに当たる事になる…ただし、それはランスの望まぬ方向でなのだが。

 

 

 

 魔法ハウス―――

「………」

「………」

 魔法ハウスの中で、ランスとスラルが何とも言えない表情で目の前のお宝を見ている。

 そのお宝の正体は―――紛れも無くお宝だった。

 ただし、金銭的な意味でだが。

「あの…どうして二人はこんなに微妙な顔を」

 ジルは不思議に思ってレダを見る。

 これだけのお宝が手に入るという事は滅多に無い。

 事実、ジルも一度の冒険でこれ程の価値がある宝を見るのは初めてだった。

「まあ…正直お金にはそんなに困って無いからね」

「…ああ」

 同じく少し微妙な顔をするレダを見て、ジルは思わず納得してしまう。

 確かに普通の冒険者であれば、これ程の宝は大きな冒険の結果ではあるだろう。

 冒険にはとにかくお金が必要になる。

 関所の通過、宿代、食料等上げればきりがない。

 しかしランス達は普通の冒険者とは違う。

 宿代などこの魔法ハウスがあれば必要無いし、普通の野宿よりは格段に安心だ。

 それにここには食料の貯蔵も有り、中にはこかとりすの肉等の高級食材も有りジルも驚いたほどだ。

(武器も…必要無いからか)

 本来であれば武器や防具等にもお金がかかりそうだが、ランスが持っている黒い剣はあり得ない程の切れ味を持つ上に、クリスタルソードまで持っている。

 レダが持つ剣も市販の物よりも明らかに切れ味が鋭い。

 それを考えれば、武器にお金をかける必要も無い。

 そうなるとあまりお金を使う必要が無いと言うのも分かるというものだ。

 冒険者としては異質だが、それが彼らの当然の環境なのだろう。

「…取り敢えず現金に換える?」

「別に町に寄る必要も無いんだがな…」

 スラルの言葉にランスもあまり気の乗らない声で応える。

 何しろハピネス製薬が存在しないため、ランスが…いや、冒険者だけでなく、国家でも必要となる薬の類が存在しない。

 なので帰り木さえあれば取り敢えずは冒険には事足りていた。

 普段であればこれだけのお金があれば、色々と遊びに使ってお金は直ぐに無くなってしまうのだが、娯楽の数が明らかに少ない。

 魔法TVも無いし、ラレラレ石も見当たらない。

 そんな状況ではランスも女くらいにしかお金の使い道が見当たらないが、

(別に女遊びをする気にもならんしな…)

 何しろランスのすぐ側には何時でもヤれる美女のレダが存在している。

 普通の人間では無く、エンジェルナイトのためその具合は非常に良い。

 勿論女がいれば当然の如く頂きはするが、そんな無理をしてやらなくてもいいかという思いもある。

 別にランスが枯れたとかいう事では無く、今回の冒険が少し不満だった事ゆえの気力の低下というだけなのだが。

「うーむ…そうだ、ジル。お前は他に何処かダンジョンを知っとるのか」

「え? い、いえ…この辺りのダンジョンはもう一通り…ここが一番大きなダンジョンでしたので…」

「むぅ…」

 ジルの言葉にランスは唸るだけだ。

(そういや最近変な戦いばかりで最初の目的が何時の間にかすり替わっていたな。シィルの事もあるが、流石に魔王の居る所には行きたくないぞ)

 最初はやはりホルスの戦艦に行きたいと思っていたが、まさかのヘルマン地方に魔王や魔人が居るとの事で流石に行くのは無理だと判断した。

 だからこそスラルの肉体を探していたのだが、本来JAPANにはそれが目的だったはずだ。

 そこで黒部と出会い帝レースに参加したのは、そもそも黒部を帝にしてJAPANの情報を集めてダンジョン巡りをする事にあったのだ。

 それなのに何時の間にかJAPANで戦争をしたと想ったら、次は魔軍やホモ焼き鳥、更には魔人レキシントンまで出て来る始末だ。

「あの…それなんですが、JAPANには色々な秘宝があるという話なのですが」

 考え込んでいるランスを横に、ジルは賭けに出る。

(…この人は冒険をするのが好きなタイプだ。だったら、奴隷として買われた私でも多少の融通をきかせてくれるかもしれない)

 ランスの人となりを見て、ジルはそう判断した。

 決して悪い人間では無い…自分を奴隷として買っておきながら、自分がやらされたのは炊事や洗濯が殆どだ。

 てっきり体を要求されるとばかり思っていたが、意外にもランスは自分にまだ手を出してこない。

 勿論かなりの女好きなのは理解しているし、レダと何度も体を重ねているのは知っている。

 そして何よりも―――自分と同じ冒険や新たな発見をするのが大好きなタイプだ。

「そうだ、JAPANだ。俺様は元々はJAPANのダンジョンを探しに行ったのだ。それなのに何で俺様は戦争をした挙句に魔人なんぞと戦わなければならなかったのだ!」

「え、え?」

 突如として怒り出したランスにジルは困惑してしまう。

「いや、それも全部ランスが黒部に手を貸したからだと思うけど」

「やかましい! そうだ、JAPANだ! JAPANに行くぞ! がはははは! そうと決まれば早速出発じゃー!」

 




やっぱりジル様は人気だな…それだけ03での影響が大きいという事かな
そういう自分も勿論好きです
無印から03になってああも変化するとは思いませんでした
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