ランス再び   作:メケネコ

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情報収集とはこうやる…らしい

「がはははは! 再びやって来たぞ!」

「やっぱりあっという間ね。本当に便利よね」

 ランス達は再びJAPANへとやって来た。

 あの時は帝レースに巻き込ま…いや、積極的に参加する結果となってしまったが、今度こそダンジョン巡りをするという決意を持ってやって来た。

 勿論いい女をゲットする事も忘れないのがランスだ。

「…どうしたの、ジル」

 何時もの様に馬鹿笑いをするランスの横で、ジルは少し疲れた顔をしながらも歓喜の表情を浮かべていた。

「い、いえ…まさかこんなにも早くJAPANに来られるなんて思っていなかったので…」

 それはJAPANに到着する少し前の事だ。

 

 

 

「JAPANに行くのなら、移動手段が必要ですね。これを換金すればうしぐるまが買えると思います」

 JAPANへと行く…それはジルにとっても非常に喜ばしい事だ。

(もしかしたら伝説の魔人の封印方法が分かるかもしれない)

 ジルが手に入れた情報の一つに、魔人を封印するという技術がJAPANにあるという。

 これまで何度かJAPANに行こうとも考えてはいたが、もう一つの伝説の事を調べていた事も有り、中々JAPANに向かう余裕は無かった。

 それにJAPANに行くまではやはり時間がかかるという事もある。

 国と国と間の移動にも中々煩いモノが有り、ジルとしてもジレンマを抱えていた。

(でもまさか…行く機会があるだなんて)

 今から200年程前、JAPANの藤原石丸が大陸の統一を目指しJAPANから進出した。

 しかしそれは大陸統一の前に、魔王から差し向けられた魔人ザビエルによって潰えてしまった。

 だが、それと同時に魔人ザビエルもまた封印された…という話がある。

 奴隷として買われた今、そんな機会ももう無いと考えていたが、予想外の事にジルの言葉も少し弾んでいる。

「何を言っている。そんなモノはいらん。面倒臭い」

「え?」

 ランスの言葉にジルは固まってしまう。

(まさか…歩いて?)

 そんな嫌な予感がしてしまうが、

「まあ明日まで待て。いいモノを見せてやろう」

 

 そして次の日―――

「がはははは! これが俺様のバイクだ!」

 ランスが持ってきたのは、ジルの知識を持ってしても何だかよく分からない鉄の塊だった。

 一見しただけではそれが何なのか全くわからないが、少なくとも魔法の類では無い事だけは理解出来る。

「…何ですか? これ」

「普通はそういう反応よね。ランスは面倒臭がりだから説明なんてしないし。まあでもこれに関しては乗った方が早いわね」

 スラルはそう言うとランスの剣の中に姿を消す。

「じゃあジルは真ん中ね。ランスにしっかり掴まっていなさいよ」

「え、は、はい」

 ジルは困惑しながらも、ランスの後ろに座ると、そのままランスの体に手を回す。

 そしてその後ろにレダが乗ると、ジルと同じように体に手を回す。

「がはははは! 行くぞ!」

「え…きゃ、キャーーーーーー!!」

 突如として信じられない速度で動き出したバイクに、ジルは悲鳴を上げるしかない。

 ランスは自分に必死にしがみ付いているジルの体に役得を感じながら、バイクを運転する楽しさに没頭する。

 このバイクはランスにとっても非常に楽しみであり、これを使って移動するのは中々の興奮がある。

 道中に色々と有りながらも、ランス達は間違いなくJAPANへと向かって進んでいた。

 

 

 

「はぁ…」

 これまでの事を思い返し、ジルは少し疲れたようなため息をつく。

 色々な事がいっぺんに起こりすぎて、ジルの頭は混乱していた。

 自分が奴隷として売られたこと、それを買ったのがまだ若い男だったこと、その男が生粋の冒険者だったこと。

 そして…自分が知らない色々な事を知っていたり、色々なアイテムを所持している事。

 それらが合わさり、ジルとしても嬉しさと困惑でいっぱいになっていた。

「何をやっておる。さっさと行くぞ」

「あ、は、はい」

 天満橋を渡っていくランスの言葉に促され、ジルも天満橋を歩いていく。

(…私、ついにJAPANに来れたんだ)

 人に裏切られ、奴隷として売られ、このまま一生を性奴隷…いや、恐らくはもっと悲惨な目にあっていただろう。

 そんな自分の境遇を呪い、自分を裏切った者を憎んだ事もあったが、こうして今自分は一つの目的であったJAPANについている。

 それも自分並…いや、ある意味自分以上に好奇心が強い者と一緒に。

「そういえばジルは何のためにJAPANに来たいと思ったの?」

 ランスの剣からスラルが話しかけてくる。

 ジルも最初は驚いていたが、もう完全に馴れてしまった。

「…ここに魔人を封印する技術があると聞いた事があるんです。昔、藤原石丸を破った魔人ザビエルが、その側近である月餅という者に封印されたと聞いています」

「あー…何かそういやそんな話を聞いた事があるな」

 ランスはジルの言葉を聞き、魔人ザビエルの事を思い出す。

 今思い返しても許せない存在ではあるが、ランスの知るザビエルは、魔王リトルプリンセスによってその存在そのものが消滅させられた。

「その技術があれば…私でも魔人を倒せるのではないかと考えて…」

 魔人を倒す―――それはどの時代でも人間が考える事だ。

 ランスの生まれた時代であるGI期、そしてLP期でも人類は魔人によって苦しめられた。

 ランス本人も魔人サテラ、アイゼル、ノス、ラ・サイゼル、ジーク、カミーラ、ザビエル、ますぞえ、カイトと名だたる魔人を戦ってきた記憶がある。

(こういう時こそあの馬鹿剣が唯一役に立つのだがな…いや、今無いのならやっぱり役立たずだな)

 その時は必ずカオスがあったのだが、今は生憎と手元には存在しない。

 魔人の無敵結界の厄介さはランスも身に染みており、メガラス、カミーラ…そしてつい最近はレキシントンと激戦を繰り広げた。

 幸いにもカミーラは無敵結界を全く使用する気配は無いのだが、レキシントンには苦労させられ、ついには妖怪王黒部がその命を落とした。

「魔人を倒す…か」

 ジルの言葉を聞いてスラルは剣の中で複雑な表情をする。

 魔王だった頃は全く無かった感覚だが、こうして人の側に立つ事で魔王と魔人の持つ無敵結界がいかに厄介なのか身を持って思い知っている。

(破壊神ラ・バスワルドの力はまだまだ不完全…そうそう試せる技でも無いしね。それに…たったの一太刀ではいかにランスでも止めには至らない)

 ラ・バスワルドの力を付与すれば無敵結界を無視して攻撃できるが、それでもたった一撃しか放てないのならば意味は無い。

 最低でも一戦闘分は維持をしなければならないのだが、生憎と今は人の身でしかないスラルではそれは不可能だ。

(それに…いくら強くなろうとも、魔王を倒す事は出来ない…)

 確かにスラルの目から見てもランスは異常に強い。

 そしてこのジルもスラルが魔王だったならば魔人としてスカウトするくらいの実力、そして聡明さを持っている。

 だが、それでも魔王の足元にも及ばない。

 それがこの世界で最強の生命体である『魔王』という存在なのだから。

「なんかどいつもこいつも言ってる事は同じだな」

 ランスは『魔人、魔王を倒す』という言葉はもう嫌程聞いている。

 ランスと割と親しい方であるガンジーも似たような事を言っていたし、何よりもランスが持っていたカオスからも常に魔人に対する殺意の言葉を聞いていた。

「魔王と魔人が居る限り、本当の意味で人が自由を得る事は出来ませんから」

「…そんなもんか」

 あまりに当然のように、そしてランスでも分かる程の決意を秘めている言葉には流石のランスでも茶化す事が出来なかった。

 それほどまでに、ジルの顔は決意に満ちていたものだった。

「そんな事よりさ。今のJAPANの状況ってどうなってるのかしらね」

 何となく重苦しい空気になっていたのを読んだ訳では無いだろうが、レダが周囲を見渡して言葉を発する。

 JAPANが藤原石丸の手によって統一された事は何度か聞いているが、今のJAPANの空気はどう考えても統一された国には見えない。

 天満橋を渡り終えると、ピリピリした空気が全員に感じられる。

「今は…藤原石丸が死んだ事により『帝』の存在が失われた結果…再び戦乱の時代に戻ったと聞いています」

「…またか。もう面倒臭いのはごめんだぞ」

 再び戦乱の時代という言葉を聞いて、ランスは流石にゲンナリした顔を見せる。

 これで再び巻き込まれれば、ランスは3回もJAPANで戦争を経験する事になってしまう。

 1回目は魔人ザビエルが現れた事、そしてザビエルに体を奪われた織田信長、そして織田香のために戦ったが2回目は違う。

 帝レースに積極的に参加はしたが、結局はランスは負けてしまった。

 それが腹が立たない訳では無いが、何しろ世界の時間的にはもう200年程前の事なのだ。

 そこまでいくとランスが復讐する相手ももう存在していない。

 再び女を求める…事も考えない訳では無いが、それよりも今は目の前の女であるジルを完璧に自分の女にする方が優先順位が高い。

「そして…天志教が生まれたと。その天志教が魔人ザビエルを封印した…という話を聞いた事が有ります。真実がどうかは分かりませんが」

「天志教…どっかで聞いた事があるな。あ…」

『天志教』という言葉に聞き覚えが有り、ランスも思い出す。

 それはやはり魔人ザビエルと戦った時の事だ。

 その時に嫌という程天志教と関わった。

(確かザビエルを封印したとか言ってたな。まあそんなものに頼らずとも俺様がザビエルをぶっ殺したんだが…)

 ランスは確かに魔人ザビエルを倒したが、それは今の時代では無く遠い未来の話。

「でもそれが本当なら…人は魔人を倒せるという事になります。私はそれが知りたいんです」

「魔人の封印か…」

 スラルはそれを聞いて少し考える。

(もし私が魔王だったなら…そんな技術は危ないって事で全力で潰してたかも…無敵結界は関係ないみたいだし。でも…今は結構興味が有るわね)

「ランス! 行きましょうよ! 私も自分の目で見てみたいし!」

「何だ突然。まあ別に構わんが、飽きたら帰るからな。それよりもスラルちゃんの体をどうにかしなければならんしな」

 ランスは少し面倒くさそうに答えるが、自分の女に頼まれてそれを嫌という男ではない。

 スラルとの付き合いも長いため、もういい加減慣れてきたという事もある。

「でも…その天志教の場所って何処にあるの?」

「それは私が知ってます。あの…早速向かっても良いですか…?」

 ランスの顔色を伺うようにジルが尋ねる。

「その前に宿だ宿。そんな急ぐ必要は無いだろ」

「あ…そうですね」

 ランスの言葉にジルも尤もだと思い頷く。

 確かにJAPANに来た事でテンションが上がってしまっていたが、ランスの言うとおりそんなに急ぐ必要も無い。

(それに…JAPANを少し見てみたい)

 初めて来たJAPANには、ジルも実際には興味津々なのだ。

 だからこそランス達は手軽な所で宿を取ろうとする。

 が、そこでまた新たなトラブルに巻き込まれる…いや、進んでトラブルを起こすのもランスという男なのだ。

 

 

 ランス達が立ち寄った先―――そこではある一つの出来事が起ころうとしていた。

 ただ、それはこのルドラサウム大陸であれば何処ででも起きそうな光景。

 しかし本来はこの場に居ないはずの男が居た事で、ある一人の女の運命が大きく変わる事になる。

 

 屋敷の中の座敷牢…暗くジメジメした部屋に、一人の少女が座っていた。

 その顔にあるのは諦めと絶望―――ただそれだけが少女を支配していた。

 その少女が特に何かしたという事は無い…ただ、只管に家族運が無かったとだけ言える。

「はぁ…」

 少女は何度目かのため息をつく。

 もうここに入れられてどれくらいの時間が経っただろうか、この家の娘だというのに何故こんな所に入れられなければならないのか…何度考えてももうキリが無い。

「まさかあんな人だったとはわかりませんでしたねぇ…」

 少女の名前は加奈代、この家の娘ではあるが、彼女は今理不尽な理由でこんな所に閉じ込められていた。

「はぁ…何でこんな時になんですかねぇ…」

 今思い返しても腹立たしいが、自分の親が決めた事なのだから今更言っても仕方がない。

「でも私は何もしてないんですけどねぇ…」

 ここに入れられて何度目のため息になるだろうか、もう数えるのも面倒くさい。

 彼女がこんな所に入れられた理由はただ一つ、それは濡れ衣を着せられたからだ。

 しかも濡れ衣を着せたのが、自分の姉だというのだから始末に負えない。

 加奈代には尊敬する…いや、尊敬していた姉が居た。

 その姉が婚約をした事は妹として素直に喜んだ。

 喜びはしたのだが…よりにもよって、その姉の婚約者は自分に惚れてしまったようだ。

 勿論加奈代にはそんな気は全く無く、むしろあり得ないという感情の方が強かった。

 だが、その事に嫉妬した姉は、有りもしない罪を妹に着せ、この地下牢に放り込んだ。

 この後自分がどうなるか…それを思うと恐怖で震えてしまるが、もうどうしようもなかった。

 誰も助けてくれる事も無く、親も、肉親も、そして家来の人間が誰もが加奈代を見捨てたのだ。

 そして見捨てられた加奈代に待っているのは―――

「死刑になれば良い方ですか…」

 ただ殺されるだけならまだいいだろう、だが自分に待っているのはそれ以上の悲惨な未来だろう。

 いくら心は諦めていても、これからやってくる恐怖からは逃げられない…そのはずだった。

 その時、突如として慌ただしい声が聞こえてくる。

「な、何だお前は!?」

「やかましい! とっとと死ね!」

「ぎゃーーーーー!!」

 怒鳴り声と共に聞こえてくるのは悲鳴だ。

「はえ?」

 今の悲鳴は間違いなくここの座敷牢に繋がる門番の悲鳴だろう。

 何故なら、その門番が非常に嫌な奴で、散々自分を『死ぬまで可愛がってやるよ』と言っていた人間だからだ。

 もう嫌でも覚えてしまった声だが、最後に聞いたのは断末魔の悲鳴だった。

「がはははは! ここか!?」

 その時加奈代の前に、見た事の無い男が現れる。

「ほう! 話の通りいい女ではないか! うむ、あんな姉よりもよっぽどいいな!」

「やっぱり判断基準は顔なのね…まあ分かってたけど」

 男と一緒にるのは、金色の髪をした異常なまでに美しい女性だ。

「ラ、ランス様。今更ですけど、本当にいいんですか?」

 そしてもう一人、水色の長い髪をした非常に美しい女性が少し顔を引き攣らせている

「………」

 加奈代は思わずその二人の女性に見とれる。

 それはまさに絶世の美女と言っても良いだろう。

 この二人より美しい女性を加奈代は見た事が無い。

「お前が加奈代か?」

「え? は、はい。そうですけど…一体あなた達は?」

「がはははは! 俺様は君を助けに来たのだ。とっととこんな所からは出るぞ」

 男はそう言って剣を抜くと、信じられない事にこの頑丈な座敷牢を一撃で斬った。

「え…?」

 それには加奈代も思わず口をぽかんと開けるしかない。

 本来牢屋というのは脱出出来ないように頑丈に出来ており、普通は鍵を使って開け閉めするものだ。

 だがこの男は、その頑丈なはずの牢屋をその剣であっさりと断ち切った。

「はぁ…なんか凄い大変な事をしている気がするけど…まあランスに今更言っても仕方ないのよね」

 何処からともなく声が聞こえるが、それは先程の二人の美しい女性の声とは違う。

 だが、この場には加奈代以外には女性は二人しかいない。

「立てるか」

「え…あ、はい」

 男―――ランスは加奈代の手を掴むと、些か乱暴に自分に抱き寄せる。

「がはははは! ゲットだ!」

「はいはい。いいからさっさと逃げるわよ。これ以上面倒事はもう沢山なんだから」

「…私はひょっとして、とんでもない人に買われたのでは」

 混乱する加奈代の手を引いて、ランスは暗い牢屋から出る。

 何故こんな事になってしまったのか…ジルはこれまでの経緯を思い返す。

 

 

 

「…全然情報が集まりませんね」

 ジルは思ったように情報が集まらない事で肩を落とす。

 JAPANに来たのは初めてだが、まさかこれ程までに大陸との文化の違いがあるとは思わなかった。

 中々話を聞けないのもあるが、何よりも天志教の情報が殆ど入ってこない。

 入って来るのは、大陸におけるAL教と似たり寄ったりの事でしかない。

 当然ながら、魔人の封印の方法など聞けるはずも無かった。

「こういう時は…どうすれば良いのか…」

 文化が違うため、これまでジルがとって来た手段での情報の収集は難しい。

「ねえランス、これからどうする?昔みたいな情報収集も出来ないでしょ」

 スラルのいう昔とは、妖怪王黒部が配下の妖怪達を使って情報を収集していた時の事だ。

 その時は妖怪達が優秀だったため、情報の収集は容易だったが今回は違う。

 もう黒部は存在しないし、人間達同様に頭を失った妖怪達もまた戦国時代へと突入してしまったようだ。

「そう焦る必要は無いだろ。どうせ時間はあるんだ」

 ランスはというと意外とのんびりしている。

 そんなランスを見てスラルは少し怪訝な表情を浮かべる。

 ランスは結構短気な性格で、面倒くさくなったら直ぐに投げ出す傾向がある。

 勿論魔人が相手だといった退けない時は必ず乗り越える強さを持っては居るのだが。

「とにかくもう少し待つ。まあその内手に入るだろ」

 ランスの気楽そうな表情にスラルは何か薄ら寒いものを感じながらも、自分では動けないので結局は納得するしかなった。

 そして次の日―――

「で、ランス。なんかこの家を気にしてそうだけど、何かあるの?」

 ジルの事はレダに任せ、ランスとスラル、そして大まおーはある一つの大きな家の周囲を歩いている。

「うむ、俺様の勘ではここで何か大きな事が起きる気がする。まあ俺様の直感は外れたことは無いからな」

 自信満々に言うランスに対し、スラルは怪訝な表情をする。

「いや、私達が欲しいのは情報であって褒美とかじゃ無いんだけど…何か考えがあるの?」

「フッフッフ、スラルちゃんは魔王だったからそんな事はしなかっただろうが、俺様は違う。大体情報なんてものはな、持ってるやつに吐き出させればいいんだ」

「…え?」

「見ろスラルちゃん。この家は他の家に比べれば大きい。まあこの辺で一番大きい奴なんだろう。そういう所は何かのトラブルを抱えている事が多いからな。そこに俺様がズバッと解決すれば後は簡単だ」

 自信満々に話すランスに、スラルは非常に胡散臭い表情を浮かべる。

「まあ…言ってる事は分からなくもないけど…でもそんな簡単にトラブルなんて起こる? シャロンやエルシールの時ならともかく、ここはそこまで大きい家でも無さそうだけど…」

 ランスの言う事は確かに一つの手段だろうが、問題のそのトラブルが存在しなければそもそも一介の冒険者でしかない自分達が関わる事は無い。

 そう思ったスラルだが、まさかと思ってランスを見る。

 そのランスの浮かべていた顔は、まさにあの時…シャロンのいた国が崩壊した時の事と一致してしまった。

「がはははは! トラブルが無いならトラブルを作ればいいのだ! 幸いにもこの家の女が婚約するみたいだからな! そこで問題が起きればいいという訳だ!」

「うわー…うわー…そういえばランスはそういう奴だったわ。ここ最近もっと色々な事があったから忘れてたわ」

「と、いう訳で大まおー! 何か適当にトラブルを起こせ。そうだな…その婚約とやらをぶち壊せばいいか。うむ、そうすればここの家の娘も美味しく頂ける、まさに一石二鳥だな!」

「ちょちょちょ! ランスストップ。まさか本気でやる気なの!?」

 昔はランスのやる事の興味があった事も有るし、シャロンの事は遅かれ早かれ必ず戦争にはなっていた。

 ランスのやった事は大勢には全く影響も無く、ただランス達が自由に動ける時間を作っただけだ。

 だが今回は全く違う、ランスは自分の欲望のために一つの家で大きな問題を起こそうとしている。

「当然だろうが。まあこの家には姉妹が居るそうだからな、姉妹丼もいいな」

「いやでも…そんな問題なんて起こせるの? ほら、この辺は平和みたいだし、もっと建設的な方法で情報を集めたほうが…」

「だめだ、面倒臭い。それにスラルちゃんのやり方だと無駄に時間がかかるだけだ。それにスラルちゃんには何かいい手段があるのか?」

「う…そ、それを言われると…」

 ランスの言葉にスラルは何も言えなくなる。

 今の自分は戦闘や知識において助言は出来るが、それ以外の事はからっきしだ。

 ランスの持つ剣からは離れられないし、そもそもそのための知識が無い。

 魔王だった頃は部下を使って効率的に情報を集めることが出来た。

 それも魔人メガラスの存在が大きかったのだが、そのメガラスがどのような手段で情報を集めているかは考えたことも無かった。

「そのために動くのも情報収集だぞ。まずはその婚約者とかいう奴を探すとするか」

 結局スラルは複雑な表情のままランスの行動を見ているしかなった。

 そして幸いにも…いや、この家の者には不幸にもその婚約者の男は見つかってしまった。

「まお! まーおー!」

 大まおーがランスのマントを引いて、一人の身なりの良い人間を指差す。

「む、あいつか」

 その人間は確かにこの家の娘の婚約者と言っても良い身なりをし、それなりの容姿をしていた。

 その男はこの家の前で深呼吸をしている。

 家来らしき男が二人ほど居るが、そんなものはランスからすれば障害でも何でもない。

「よーし、まずはあいつを攫うぞ」

「え!? いきなりそこからなの!?」

「見ろ、幸いにも今は人通りが全く無いぞ。だったらやるのは今だな」

「まーおー!」

 ランスの言葉に、大まおーが任せろと言わんばかりに自分を指(?)さす。

「む、そういやお前は何でか知らんが忍者みたいな事が出来たな。よーし、あの男を攫って連れて来い。あ、あの奴等は殺すなよ。殺したら面倒臭いからな」

「まーおー!」

 大まおーは任せろと言わんばかりに胸を張る。

 そしてそのまま気配を隠し男達に近づき、

「まお!」

 そのまま鎌の柄で二人の男を昏倒させる。

「え?」

 男が何事かと思う前に、大まおーはそのまま男に手早く目隠しをしてその体を縛る。

「ええ…」

 そのあまりに手際の良さにスラルは改めてこの得体の知れない存在に疑問を抱く。

 そして大まおーはランスが隠れている物陰に男を連れてくる。

「まお!」

「よーし、良くやったぞ」

「な、一体何を!?」

「死にたくなければ動くな騒ぐな」

 ランスは混乱する男に剣を突きつける。

 男もその気配が分かったのだろう、そのまま動かなくなる。

「お前、この家の女の婚約者だな」

「そ、そうだ。お主は一体…」

 男の言葉にランスは満足そうに笑うと、

「よーし、スラルちゃん。君は催眠術みたいな事は出来るか?」

「いや、私はその手の類は全然。というか元魔王だし、そんな事しなくても魔人を従えられたし」

「むう…そうか」

 スラルの言葉にランスは少し難しい顔をする。

 元魔王ならエレノア・ランくらいの簡単な催眠魔法を使えるのだとばかり思っていた。

 だが、本人がそう言うのであれば本当に出来ないのだろう。

「まお! まーおー!」

「え? あなた出来るの?」

「まお!」

 大まおーが自分をアピールするように手を上げる。

「ほう…中々便利な奴だな。よし、では俺様の言うとおりにしろ」

 そのままランスは男に聞こえないように、大まおーに耳打ちする。

 そしてスラルは耳が良い故にその声が聞こえてしまう。

(………うっわ。やろうとしている事が鬼畜過ぎる…)

 スラルはランスのやっている事にドン引きしつつ、これから起こるかもしれない悲劇に頭を抱えていた。

 




今更だけどランスってやっぱりエロゲ主人公なのよね
そろそろ鬼畜成分が足りなくなってきたから…

ジルの技能やレベルについては少し悩みます
何しろ原作キャラではあるのですが、設定されてませんから…
将来的に設定される事も考えられるので、あえて記載はしません
ただ魔法レベル2はありそう

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