ランス再び   作:メケネコ

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魔人の最期

勇者は正に命がけだった。

『こいつと戦えば呪いをかけるのは許してやる』

そう言われて思わず頷いてしまった自分を殴りたくなる。

自分の目の前にいたのは、『魔人』と呼ばれる存在。

この世界の支配者である魔王から血を与えられた24体の魔人の一人。

頭はオウゴンダマなのにそれ以外はムキムキの褐色の筋肉をした異形の魔人。

 

「強い…」

 

こうして相手をしていると嫌でも相手の強さが分かる。

初めて魔人と戦うが、まさかこれほどの強さを持っているとは思ってもいなかった。

今まで自分が倒して来たモンスターとは、まさに次元が違う。

自分は愛用の剣を持っていないが、相手も魔人特有の『無敵結界』を使用していない。

が、愛用の剣があったとしてもこの魔人には勝てるかどうか分からなかった。

それ程までに、この魔人の肉体は強靭だった。

オウゴンダマが一直線に突っ込んでくるが、それに当たる勇者ではない。

問題はこの後…周囲の蔦で出来たロープの反動で、こちらに飛んでくるのだが、その後の動きが予想もつかなかった。

勇者の特性として、相手の技を見切り、その技が通用しないというものがあるが、この魔人にはそれが通用していない。

(相手の動きが…予想外すぎる…!)

両足を揃えたドロップキックの事もあれば、そのまま膝蹴りが飛んでくることもある。

それだけでなく、両の手を揃えてのクロスチョップ、果てには肩からの体当たりと、相手の動きが豊富なのだ。

『あーっと! 蟹ユーシャ、オウゴンダマの攻撃の前に避けるので精一杯か!?』

この試合の解説をしているアナウサ・カラーの声が響く。

 

「ぶーぶー!」

「もっと組み合えー!」

 

(ううう…味方がいない…)

カラー達は一向に組み合おうとしない自分にブーイングをする。

もちろんアーズラもその意図は何となくではあるが理解していた。

カラーがブーイングをすると、相手のオウゴンダマはそのカラー達に向けて自分の肉体をアピールしていた。

その度にカラーもオウゴンダマに声援を送るが、これは間違いなくあの椅子にふんぞり返っている男の指示だろう。

(時間稼ぎ…か)

男は自分に魔人を倒すという事を期待してはいない。

男の目的は、先程いなくなった二人が戻って来るまでの時間稼ぎだろう。

(でもせめてあの二人には居て欲しかった…)

あの見事なまでのスタイルを持った二人の女性。

自分が見惚れる程の美貌を持った、スタイルも素晴らしいあの女性達。

(あの二人が居ればもっと頑張れる気がするのに…)

勇者は心の中で涙しながら、目の前のオウゴンダマへと意識を集中させる。

少しでも気を抜けば、相手の大技が待っているだろう。

それは勇者として、冒険者としての自分の絶対的な感。

今までの攻撃は全て様子見に過ぎない。

『あーっと! オウゴンダマ姿勢を低くしています!』

実況の言葉通り、オウゴンダマがまるで四つん這いになるかのように、姿勢を低くする。

それは自分の力を溜めて、一気にこちらに飛び掛かる合図でもある。

(あれはまずい…)

もし捕まれば最後、相手の大技をくらい自分は倒されてしまうだろう。

(だが、勇者というのはピンチな時ほど光り輝く!)

アーズラは自分を鼓舞し、相手の出方を慎重に窺う。

そして獣のような速度で相手が動く。

『これは!』

実況の言葉が妙にスローに感じられる。

しかし勇者はこの状況でも非常に冷静に動いていた。

相手は一瞬消えたように見えたが、それは…

 

「上!」

 

アーズラは一瞬の判断で、相手の腕から逃れる。

そのまま相手は自分の頭を通り過ぎ―――

(しまった!)

ここで自分はとんでもない勘違いをした事に気づく。

ここがリングでなければ今の一撃は完全に避けていたはずだった。

だが、ここはそのリングの上―――自分を通り過ぎたオウゴンダマはそのまま反対側のロープの反動で、アーズラの背後を取る。

『これは! 蟹ユーシャ、オウゴンダマに背後を取られた!』

オウゴンダマの太い両腕がアーズラの腰に回され、

『あー! これは…アトミックドロップだー!』

オウゴンダマの膝にアーズラの尻が叩きつけられ、

 

「うわぁ…」

 

流石のカラーも今の一撃は引いたようで、歓声もあがらない。

 

「ラ、ランスさん、大丈夫なんですか?」

 

ルルリナが心配そうに声をだすが、ランスは何も問題は無いといわんばかりに手を振る。

 

「あー心配はする必要はないぞ。見ていろ」

 

アーズラは尻を押さえて悶絶しているが、オウゴンダマは不思議とそこから追撃をする事は無い。

それどころか、リングの中央で自分の筋肉をアピールし始めた。

 

「…アレは何でしょうか?」

「気にしなくていいぞ、アレはああいう奴らだ」

 

今思えばプロレス男はなんとむさ苦しい奴らだったのだろうかと思い返す。

あれを見ると何故か無性にパットンを思い出してしまう。

(あいつも暑苦しい奴だったな…色々な意味で)

ランスがパットンの事を思い出していると、リングの上に動きが出る。

アーズラが筋肉をアピールしているオウゴンダマに対して不意打ちを仕掛けた。

『これはー! き、汚い! 蟹ユーシャの拳がオウゴンダマのオウゴンダマにー!!』

その攻撃は綺麗にオウゴンダマの股間に当たり、オウゴンダマは股間を抑えて蹲る。

やはり魔人でもそこ攻撃されるのは痛いらしい。

 

「ぶーぶー!」

「汚いぞー!」

 

観客役のカラーがブーイングを入れるが、これも言ってしまえば『ヤラセ』に過ぎない。

プロレス男にも色々な種類が登場するが、前回あのオウゴンダマは己の肉体のみで攻撃を仕掛けてきた。

と、いう事は外人プロレス男のような凶器攻撃を使用することは無い。

言い換えれば正統派のレスラーだという事だ。

(打ち合わせ通りにしているはずなのに、どんどん自分が悪者になっていく…)

アーズラはこんな事はしたくなかったが、呪いにかけられるのはもっと嫌だった。

『おーっと! 立つ! オウゴンダマが立つ!』

アナウサの言葉通り、オウゴンダマは立ち上がると、その表情が一切見えない顔の当たる部分に怒りのマークが浮かんでるように見えた。

(あ、これヤバいかもしれない)

オウゴンダマが今まで以上のスピードでアーズラに迫り、彼もそれを避けるので精一杯になる。

 

「ランスさん…大丈夫でしょうか?」

「うーむ…」

 

突如として動きを激しくしたオウゴンダマに対し、ランスも少しまずいかもしれないと思う。

もし万が一、あのまま怒り狂って攻撃を続けるとすれば、計画が台無しになる可能性が高くなる。

 

「ランスさん…ランスさんが何とか出来ないのですか?」

「駄目だ。今俺様が動けば全てが台無しになる」

 

これだけの大舞台を整えたとしても、チャンスは一度しかない。

今ここで動けばそのチャンスをドブに捨ててしまうに等しい行為だ。

そう、今のランスには無敵結界を打ち砕く手段が存在しないのだ。

だからこそ確実に、そして一度で魔人を倒す必要が出てくる。

それ故にここまで面倒な手段を用意せざるを得ないのだ。

『捕まった! とうとう蟹ユーシャが捕まったー!』

リングの上では新たな動きがある。

ついにアーズラはオウゴンダマの手に捕まってしまっていた。

 

「クッ!」

 

アーズラは何とかその腕から逃れようとするが、やはり魔人の腕力は圧倒的であり、その腕はびくともしない。

(力が駄目ならば技で何とかするしかない…!)

しかしプロレス技能を持たないアーズラには、技能持ちの魔人にテクニックでも劣る。

オウゴンダマはあっさりとアーズラを持ち上げ、

『これは…ブレーンバスターだ!』

アーズラをリングに叩き付ける。

これにはたまらずアーズラも悶絶する。

 

「ところでランスさん…何でアナウサはああもスムーズに解説出来るんでしょうか? それに未知の言葉をさっきから発しているのですが…」

「俺様も知らん」

 

アナウサ・カラー、解説LV1 その技能は今まさに発揮されていた。

(しかしとうとう捕まったか…まあ予想はしていたが、少しは持ったか)

ランスも何時までも相手の攻撃から逃げられるとは思っていなかった。

ただ、ランスの予想に反してあの変態はよく耐えていた。

 

「ランスさん!」

 

その時、メカクレ・カラーが興奮した様子でランスに声をかける。

 

「合図です!」

「む、そうか!」

 

それは待ち望んでいたケッセルリンクとレダからの合図だ。

彼女達も己の役目を果たせたという事だ。

だとすれば、もう少しでランスの目的のモノが到着する。

 

「よし、2段階目に入るぞ」

「ハイ!」

 

ルルリナも表情を引き締める。

ここからは彼女の力も必要になる。

(ケッセルリンク…お願いしますよ)

 

 

 

―――合図が送られる少し前―――

 

「いたな」

「ええ」

 

ケッセルリンクとレダは目的のモノを見つけ出せた。

斥候に出ていたカラーの報告の場所と殆ど離れていなかったのは、彼女達にとって幸いだった。

移動する可能性もあったが、どうやら自分達は賭けに勝ったらしい。

 

「しかもいい具合に寝てるわね」

「ああ、思わぬ幸運だ」

 

ケッセルリンク達の視線の先にいるのは、今現在のカラーの敵であるはずの存在、即ちムシであった。

2体のヴェロキラプトルが眠っていた。

 

「じゃあ予定通りに」

「ああ」

 

レダとケッセルリンクは同時に球のような物をヴェロキラプトルに投げつける。

それは見事にヴェロキラプトルの顔に直撃し、その顔を白く染める。

ヴェロキラプトルは文字通りに飛び起き、自分の顔に何かをぶつけた存在を探す。

ケッセルリンクはその隙に、上空に向けてファイヤーレーザーを放つ。

これだけの魔法であれば、必ずランス達はこの合図に気づく。

ヴェロキラプトルがケッセルリンク達を見つけると、まさに怒りの雄叫びをあげ、走り出す。

 

「じゃあ行きましょうか」

「そうだな」

 

二人は軽やかに答えると、一斉に走り出す。

二人の身体能力はまさにずば抜けており、本気で逃げればヴェロキラプトルにも追いつかれる事は無い。

 

「しかしランスは本当に面白い事を考え付くな」

「そうね…悪辣とも言えるけど、効率的とも考えられるしね」

 

これも全てランスの計画だ。

勿論レダとケッセルリンクの案も織り交ぜた上での計画だが、今の所は上手くいっている。

後はこのヴェロキラプトルを案内するだけだ。

二人はランス達が待つ、リングに向かって走り出した。

 

 

 

リングの上では、アーズラとオウゴンダマが手四つの状態で睨みあって(?)いた。

ランスの予想以上に、アーズラは魔人相手に食い下がっていた。

それは『勇者』という、この世界にただ一人存在する事が許された人間の特性。

勇者は普段は不幸だが、いざとなると恐ろしく強運になるという特性。

確かにカラーに捕らわれたのは不幸だろう。

そのカラーに軽蔑の目で見られているのもまあ不幸だ。

結果、魔人を相手にさせられているのも不幸だ。

しかしその相手はまさに幸運―――プロレス技能を持つ魔人と戦えたのは勇者の強運だろう。

何故ならば、相手は自分の攻撃を食らってくれているからだ。

勇者は手四つを振りほどくと、魔人に対して強烈なキックをする。

もちろんその動作はバレバレであり、魔人ならば余裕で避けれるはずの攻撃だが、その魔人はあえてその攻撃を食らって見せる。

『蟹ユーシャ! 強烈な蹴りを見舞うが、オウゴンダマはあえてその肉体で受け止める! 凄まじい筋肉の鎧だー!』

アナウサ・カラーは敢えてオウゴンダマの筋肉を強調する。

全ては魔人の無敵結界を張らせないためだ。

 

「このまま上手くいってくれるといいのですが…」

「上手くいかなきゃどの道未来は無い。上手くいくのではなく上手くいかせるのだ」

 

ルルリナはランスの言葉に頷く。

その通りだ…今魔人をどうにかしなければ、この先ずっと魔人の脅威にさらされる事になる。

そして今相手は確かに無敵結界を解除している…ならば今しか無いかもしれない。

『あーーっ! これはー!』

実況役のアナウサの声が驚愕と共に響く。

オウゴンダマがアーズラをダブルアームスープレックスの形で掴むと、そのまま勢いよく回転を始める。

 

「「「「ゲェー!」」」」

 

そのままアーズラを上空に投げると、それを追ってオウゴンダマも上空に飛ぶ。

そしてそのままアーズラを掴むと、その腹に頭部を当て、回転しながらリングに叩きつけた。

『決まったー! オウゴンダマの大技が炸裂! あー! 蟹ユーシャ起き上がれない! そしてフォールにいったぁー!』

 

「ワン! ツー! スリー!」

 

カンカンカン!

 

レフリーを務めているカラーの声が響き、そして試合終了の鐘が鳴り響く。

 

「ランスさん…」

「まあ大丈夫だろ。見てみろ」

 

ルルリナは魔人がどういう動きをするのか不安がっているようだが、ランスには不安要素はまったく無かった。

魔人はリングの中央で勝利のポージングをしていた。

レフリー役のカラーがアーズラをリングの下に移動させる。

どうやら気絶しているだけのようだ。

そしてその時、

 

「ランス、いいぞ」

 

ケッセルリンクがレダより先に戻ってくる。

 

「そうか。全ては予定通りだな」

 

ケッセルリンクが戻ってきた事で、椅子に座っていたカラーが一斉に立ち上がり警戒態勢をとる。

このままランスの立てた予定通りであれば…

 

「来たぞ」

 

ケッセルリンクの言葉通りレダがこちらに、正確にはリングに向けて走ってくる。

そしてそれを追って、ヴェロキラプトルもやってくる。

レダがリングの上に上がると、それに続いてヴェロキラプトルがリングに上がる。

それを見て、

『乱入! 乱入です! 謎のペイントムシレスラーの乱入だぁー!』

アナウサが声を張り上げる。

レダはその隙にリングから降り、こちらに向かってくる。

「とりあえずここまでは上手く行ってるわね」

今現在、魔人とヴェロキラプトルは睨みあっていた。

これまでの情報収集で、魔人とムシが縄張り争いをしていたのは把握していた。

どちらかと言えば、ムシの方が魔人に手を出しているという感じだが。

以前、ランス達が魔人と戦っている最中にムシが乱入してきたが、ムシはランス達よりも魔人を襲う事を優先していた。

ランスが立てた作戦は、無敵結界を解除させた上でムシと戦わせる事だった。

『第二試合! 第二試合の開始です!』

 

カァーン!

 

アナウサの言葉に戦いのゴングがなる。

それを意識していた訳ではないだろうが、2体のヴェロキラプトルがオウゴンダマに襲い掛かる。

『あーっと! 傷が! オウゴンダマの体に傷がー!』

アナウサの言葉通り、あの魔人であるオウゴンダマが、小さいながらも体に傷を作っていた。

オウゴンダマは自身の技能故に、この四角いリングの上では己の肉体で全ての攻撃を受けねばならない。

それがプロレス技能を持つ者として、そして己の肉体を絶対とする魔人オウゴンダマの宿命とも言えた。

 

「やれー!」

「頑張れオウゴンダマー!」

 

それを見て、観客のカラーが一斉に声を張り上げる。

勿論これも全て仕込みであり、オウゴンダマをその気にさせるためだ。

そしてランスの予想通り、リングの上ではオウトンダマとヴェロキラプトルの戦いが始まっていた。

 

「…ランスの目論見通りだな」

 

ケッセルリンクは色々な意味で感心した声を出す。

今回ランスの立てた作戦は、魔人の無敵結界を発動させない上で、ムシと魔人をぶつけ合うという中々手間のかかった作戦だった。

本当に無敵結界を消せるのか、そしてムシと魔人をぶつけ合う事など本当に出来るのか…半信半疑だったが、結果は成功だろう。

リングの上では魔人が無敵結界を無しにムシと戦っている。

ムシもムシで魔人しか目に入っていない様で、こちらを襲ってくるような感じはしない。

 

「悪辣というか何と言うか…おいしい所だけを持っていこうっていう感じが凄いわね」

 

レダも若干呆れているが、内心では『これ以外の方法は無い』とは思っていた。

そもそも、魔人に無敵結界を解除させるという考えが自分にも無かった。

 

「それよりもお前らも用意をしろ」

 

レダとケッセルリンクからすれば、以外にもランスは目の前の戦いに集中をしていた。

それはランスが昔に数多くの魔人と戦ったときの経験。

魔人相手ではランスでも気を抜く事は出来ない。

ランスは相手が誰であろうと、奇襲・不意打ち・騙し討ち・何でも有りで戦ってきた。

それだけ魔人という存在は強い。

真正面から向かっていくという選択肢はほとんど無い。

そしてオウゴンダマは、ヴェロキラプトルの爪と牙に傷を負いながらも確実に相手にダメージを与えていく。

『オウゴンダマのDDTが決まったー! これはもう動けません!』

アナウサの言葉通り、オウゴンダマのDDTが炸裂し、1体のヴェロキラプトルが沈黙する。

そしてそのまま後ろから組みつくと、コーナーポストに飛び乗りそのまま己の肉体でヴェロキラプトルを押し潰す。

『決まったー! ムシ達はもう動けません! オウゴンダマ選手、見事に勝利を掴みました!』

アナウサの言葉にカラー達が一斉に拍手をし、歓声を上げる。

オウゴンダマは体中傷だらけで、肩で大きく息をしていた。

それだけムシ達と死闘を繰り広げたという事だ。

『ここで特別ゲストからの花束の贈呈です!』

リングに上がったバニーガールコスのルルリナはその手に花束を一つ持っていた。

彼女はオウゴンダマに近づくと、

 

「おめでとうございます!」

 

とびきりの笑顔で花束をオウゴンダマに渡す。

オウゴンダマはそれを受け取ると、やはりポージングをし、己の筋肉をアピールする。

「…そしてごめんなさい」

ルルリナは本当にすまなそうに声を出す。

心優しい彼女は、やはりこの作戦には少し後ろめたい物を感じていた。

しかし彼女はカラーの女王、皆を守るためにはこうするしかないのだ。

 

「軟体モルルン!」

 

通常であれば魔人はそう簡単にカラーの呪いにはかからない。

しかし、体が、そして精神が疲労状態であれば呪いにはかかってしまう。

そしてカラーの女王が使ったのは、以前アナウサが拾ってきた『幸福ポックリ』という呪いのアイテム。

疲労状態であったオウゴンダマは、急激に自分の筋肉が衰えていくのを感じる。

それでも地に膝をつくような無様な真似はしない。

 

「がはははは! 隙有りだー! ラーンスあたたたーっく!」

 

そんなオウゴンダマの目(?)に映ったのは、ポストから飛び上がるランスの姿。

無敵結界を張る暇も無く、オウゴンダマの頭部から胴体にかけて、ランスの剣がオウゴンダマの体を大きく切裂く。

ランスの攻撃はそれでは終わらず、着地した反動を利用し、さらなる一撃―――ランスアタックと変わらぬ一撃をオウゴンダマの胴に食らわせる。

剣戦闘LV3、そして今のランスの技術に耐えられる剣、それがランスアタックの連撃を可能にしていた。

 

「今だ! やれ!」

 

ケッセルリンクの合図と共に、観客のカラー達が一斉に弓を放ち、またある者は魔法を放つ。

ランスの一撃で大きな傷を負っていたオウゴンダマには、最早無敵結界を張るという事もままならなかった。

そして弓が、魔法が傷ついたオウゴンダマをさらに襲い、

 

「とどめだ。ファイヤーレーザー!」

 

最後の一撃にケッセルリンクの魔法がオウゴンダマの筋肉に大きな穴を開ける。

だが、それでもオウゴンダマは立っていた。

それは魔王の血を持つ魔人としての意地か、決して地を膝にはつかない。

しかし、確実にオウゴンダマからは力が失われていた。

『…皆色々言ってたけど、私はアンタの筋肉はいいと思う』

アナウサの言葉に、オウゴンダマはアナウサの方を見る。

彼女は静かにサムズアップをし、オウゴンダマはそれを見ると右手を天に突き上げる。

そして、その姿が煙のように消え、残っていたのは一つの丸い赤の塊。

 

「これは…」

「これは魔血魂だ。魔人は死ぬと魔血魂になる」

「では…」

「ああ。この魔人は死んだ」

 

ランスの言葉にカラー達は一斉に歓声をあげる。

とうとう、カラーは一つの障害を取除く事に成功したのだ。

 

「ぐふふふふ…」

 

ランスは魔血塊を手に笑う。

とうとう魔人を倒して見せた。

ケッセルリンクを完全に自分のものに出来るといういつものランスの好色な笑み。

ランスがケッセルリンクを見ると、以外にもケッセルリンクは微笑んだ。

(…こいつもこんな顔で笑うんだな)

初めてランスはケッセルリンクの笑顔を見た気がした。

 

 

 

 

「なるほど…こうなった訳ね」

 

スラルはランス達が魔人を倒した事を…非常に満足していた。

無敵結界が存在している今、魔人が倒される事など無いとスラルは思っていた。

しかしあのカラー達は…いや、あの男は見事にやって見せた。

あのオウゴンダマにしか通用しない手段だが、それでも魔人の一体を倒して見せた。

ほとんど賭けに近い方法だったが、不思議とスラルもあの男ならやると思ってしまっていた。

 

「これは決まりね」

 

スラルは久々に楽しいという感情を自覚する。

ついに自分に相応しい魔人を見つけたのだ。

あのショートのカラー、金髪の女性、そして黒い剣を持つ男。

「さて…楽しくなるわね」

スラルの顔には今までに無い笑みが浮かんでいた。




次回!
新たな魔人襲来!
ここからが本当の地獄だ…

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