ランス再び   作:メケネコ

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寄り道 前編

「ん…」

 夜が明けて、ジルはその体に感じる暖かさで目が覚める。

「むぅ…」

 その暖かさが胸に集中しているのを感じて、ジルは思わず唇をへの字に曲げる。

「本当に女好き…」

 隣で寝ているランスの手を優しく退かし、ジルはベッドから立ち上がる。

「ふぅ…」

 自分が思っている以上に、快適な朝だった。

 これまではどこかしこりがあったが、今は非常に気分が良い。

(これも…変な主人のおかげなのかな)

 これまで見てきた人間とは全く違った価値観を持ち、どこまでも身勝手で我儘だけどどこか放っておけない存在。

「あ…スラルさんは大丈夫かな」

 ジルは床に落ちていた自分の衣服を纏うと、昨日自分と同じ様にランスに何かを言いたかった女性を心配する。

 自分よりも付き合いが遥かに長い故に、色々と溜めこんでいる所もあるのだろう。

 そう思ってランスの部屋を出るが、

「あ、おはようございまーす」

「あら…」

 ジルに対して元気な声をかけてきたのは加奈代だった。

 彼女は何故かメイド服に着替え、リビングの掃除をしていた。

「どうしたの?」

「いえ、何か体を動かしていないと少し不安で…それに一晩寝たら意外とスッキリしまして。ランスさんの言うとおり、私も気楽に生きようと思いまして」

「そう…それがいいわね」

 加奈代の言葉にジルも笑う。

「あの…スラルさん。大丈夫ですか?」

「んー…何か色々考え事してたから少しまだ眠いけど…その様子じゃ吹っ切れたみたいね。で、ランスとはしたの?」

「まだしてません。正直自分でも意外でしたけど…凄い女好きですから」

「ふーん…じゃあ本気なんだ」

 最後の言葉はジルに聞こえないように呟く。

 ランスはジルに自分に完璧に惚れさせてからいただくと言っていたが、それは本気だったのだろう。

(私の時は真っ先に襲い掛かってきたくせに…まあ魔王と人間を比較しちゃいけないんだろうけど)

 過去を思い出し少し複雑な気分になってしまうが、同時にランスとジルの間にあった壁が無くなった事を嬉しく思う。

「それよりも…私って笑う時そんなに奇妙な顔をしてました? ほほえみ男みたいだって言われたんですけど…」

「プッ…あははははは! ほほえみ男はいくらなんでも酷いわね!」

「ですよね…せめて女の子モンスターと比較してくれないと理不尽ですよね」

「ランスってデリカシーが無いからね。それでいて女の子にモテたいって常に思ってるんだからお笑いよね」

「…私、ランス様が嫉妬されなかったという理由が良く分かります」

 確かにランスは非常に強く、カリスマも有り人を惹きつける魅力はある。

 が、どちらかというとそれは男向けであるのかもしれない。

「ランスに嫉妬するというのは相当に難しいと思うけど…確かに強いけど正直性格はアレだし…」

 ランスは決して褒められた性格では無いし、本人はそれを自覚している節がある。

 だが本人には全くそれを直すつもりは無いようだが…まあそれは仕方のない事だろう。

「なんか皆さん滅茶苦茶に言ってるんですねー」

「まあ…私は付き合い長いしね。それよりもあなた、全く私に驚かないのね」

「幽霊はJAPANでは珍しくありませんからねー。各地に出る幽霊を天志教の僧が払っているのを見た事ありますし」

「うえ…何時の間にかそんな事になってるんだ…」

 加奈代の言葉にスラルは嫌そうに顔を顰める。

 払われる気は更々無いが、もし自分を付け狙って来るならそれはそれで面倒な事になりそうだ。

 自分が面倒だと言うよりも、腹が立ったランスが天志教に乗り込んで無茶をするのではないかという意味で。

「なんだ、お前等もう起きとるのか」

 スラル達が談笑している、ランスが起きてくる。

 時計を見れば何時もの時間だ。

 ランスは割と規則正しい生活をしており、スラルはそれに驚いたものだ。

 流石に激しいセックスを前日にした時は流石のランスも起きるのは遅いのだが。

「あ、おはようございまーす」

「うむ」

 ランスはそのまま洗面所に行き、何時もの様に身嗜みを整える。

「あら、私が一番最後か」

 そこにレダが起きてくる。

 そしてまた何時もと同じ一日が始まる。

 

 

 

「あのー。ランスさん達は一体何しにJAPANに来たんですか? 今の状況で大陸からJAPANに来るなんて中々無いですからねー」

「うむ、それは崇高な使命があるのだ。スラルちゃんの体を探さなければならんのだ」

 ランスの目的は一貫してスラルの体を探すという事だ。

「体を…ですか? 生き返らせるという事ですか?」

「さあねえ…私自身、どうすれば自分の体が戻るかなんて考えた事無いし。まあランスのしたいようにするのが一番だとも思ってるし」

 スラル自身は自分の体にあまり執着はしていない。

 確かに体があれば便利だが、今の状況でも生前とそれ程変わらない生活が出来ている。

 こういう時こそ自分が元魔王であった事に感謝しなければならない。

「それと…私は天志教の事を知りたくて。今から200年以上前に、藤原石丸が大陸に進出した事、そして魔人ザビエルに敗れた事…そのザビエルが天志教によって封じられた事。私は魔人を封じる術の事を知りたいんです」

「それはそれは…大変ですねー」

 加奈代はジルの言葉を聞いて驚く。

 彼女もまたJAPANの人間故に、天志教の事は信じている。

 事実天志教はこのJAPANでは絶対的な宗教で、尚且つこのJAPANを守っている存在でもある。

「もしかしたら魔人を封印する方法が見つかるかもしれませんから」

(魔人を封印する…うーむ、やっぱり思い出せんな。セルさんがサテラに使ったというのは覚えているのだが、何をしてたのかが思い出せん)

 魔人を封印するという言葉にランスは過去にハイパービルでサテラと戦った時の事を思い出すが、そのために何をやったのかがどうしても思い出せない。

 確かに魔人は脅威だが、魔剣カオスがあるため無敵結界に悩まされる事は少ない。

 今でこそカオスが手元に無い故に無敵結界に苦労させられているが、無敵結界の前に手も足も出なかったのはそれこそサテラやカミーラの時くらいだろう。

「だから父に紹介状を書かせたんですね。私の家は天志教にかなり寄付をしてますからねー。天志教も無碍には扱わないでしょう」

「うむ、その通りだ。君を助けたうえで天志教への繋がりも手に入れる。流石は俺様だな」

 得意げに笑うランスをレダ達は複雑な顔をする。

(言えない…加奈代をこんな目に合わせたのが実はランスだなんて言えない)

(ランス様が画策した事は秘密にしないと)

 スラルとジルは彼女に起こった真実を決して明かすまいと決める。

 それにランスの言うとおり、加奈代の姉が彼女に向けていた憎悪と嫉妬が入り混じった表情を見ると、何れは爆発していたのは間違いない。

 それが早いか遅いかの差で、ランスが彼女を救ったと言えない訳でも無い。

「じゃあ早速天志教の場所へ向かうんですか?」

「いや、その前にだな。なんかダンジョンはあるか?」

「ダンジョンですか? それならここからは遠くになりますが、鬼が出るという事で天志教に封印を依頼されたという場所が有りますよ」

「ほう…それは良い事を聞いたな。よーしお前等、まずはそこに行くぞ」

 ランスの言葉に皆が頷く。

「で、お前は何か出来るのか?」

「一応武家の娘ですからねー。弓ならば少々」

「弓か…だが弓は無いな。まあいい、適当に買ってこい。レダ、ついていってやれ」

「はいはい」

 こうしてランス達は天志教の本山へと向かう前に、一つのダンジョンへと向かう事にする。

 そして―――

 

「ラーンスあたたたたーーーっく!!!」

「ぎゃーーーーー!!!」

 ランスの必殺の一撃を受けて、複数の魔物が悲鳴を上げながら倒れる。

「うっわ…」

 その一撃を見て加奈代は思わずぽかーんと口を開ける。

 仮にも武家の娘ではあるが、ランス達の強さは常軌を逸していた。

 最初に自分の居た牢をあっさりと斬った事から凄いとは思っていたが、自分の想像を遥かに超えている。

 これでは自分の弓など児戯にも等しいかもしれないが、それでも武家の娘としてのプライドも有る。

 ランスに向かって来るモンスターに矢を放ち、その体勢が崩されたところで、

「ファイヤーレーザー!」

「まーおー!」

 ジルの放った魔法と大まおーが口から放つ炎にモンスター達は焼かれていく。

「エンジェルカッター!」

 そして駄目押しと言わんばかりのレダの魔法がモンスターを切裂く。

「いやー…皆さん本当に凄い強いんですね…」

 加奈代は半ば呆れたように全員を見渡す。

「当然だ。俺様は世界一強いからな」

 ランスは当然の如く胸を張るが、加奈代はその言葉が強ち間違ってはいないのではないかと思ってしまう。

 それほどまでにランスの剣は異質だった。

「あの藤原石丸とどっちが上なんですかねー」

 それは加奈代が興味本位で言った言葉だった。

 最早この世界に存在しない、このJAPANを…いや、この世界の半分を統一した異人とどちらが強いのかを思うのはある意味当然だ。

「何を言っておる。俺様の方が強いに決まってるだろうが」

「いやー…私は藤原石丸がどれくらい強かったか知りませんからねー。ただ言い伝えでは、魔人を傷つけた初めての人間との事ですけどねー」

「私もその話は聞いた事が有ります。だからこそ、このJAPANに来たかったんです」

 加奈代の言葉にジルが頷く。

「へー…そうなんだ。でも『帝』ってそんなに凄いのかしらね。魔人の無敵結界を斬れる、となるととんでもない力だけど…」

『帝レース』に参加した事が有り、尚且つ帝リングをこの目で見た事のあるスラルが頭を捻る。

『神』が用意したアイテムの中には、魔王や魔人すらも驚愕させるアイテムが有るのをスラルも良く知っている。

 そんな危険なアイテムが有るのは好ましくない事から、時には魔人を使い、そして時には己の足を使ってアイテムを回収していた。

 その中には無敵結界をどうにかするアイテムがあってもおかしくは無い。

 スラルは、そしてランスも帝となった藤原石丸には会った事が無いため、どれ程の強さを持つかは全く知らない。

 ただ、黒部が言うには黒部すらも倒す程の力を持っていたらしい。

「フン、それでも死んだんだろ。死んだら意味無いだろうが」

 ランスは特に帝にも、そして死んだ藤原石丸にも興味を示さない。

 ランスにとっては藤原石丸も既に過去の存在であり、特に記憶に残るものでは無い。

 確かに人間の中では少しは…いや、結構強い方だと認めてはいたが、所詮は自分の敵だった男でしかないからだ。

「あのさ。どうでもいいけど、ランスの一撃の余波で倒れている奴等が居るんだけどどうする?」

 そんな時、レダが倒れている男達を指さす。

「ううう…」

 そこには倒れている坊主頭や陰陽師達の姿が有る。

「何だあいつら」

「いや、だからランスの一撃の余波で吹っ飛ばされた連中」

 倒れている男達を見て、ランスは詰まらなそうにする。

「なんだ男か。だったら知らん。とっとと行くぞ」

「そうね、行きましょうか」

「いやいや待ってくださいよ。この人達、多分天志教の人達ですよ」

「何だと? じゃあ何か情報を持ってるかもしれんな。おいレダ、助けてやれ」

「はいはい。回復の雨!」

 レダが回復魔法を使うと、倒れていた男達が呻きながら立ち上がる。

「大丈夫ですかー?」

「き、君達こそ大丈夫か…? 何やら凶悪な鬼かモンスターが居るようだが…」

 立ち上がって尚もこちらの心配をする男に、ジルは曖昧な笑みを浮かべる。

 何故ならこの男達を吹き飛ばしたのはモンスターでは無く、ランスの放った必殺技なのだから。

 だがそれを言う訳にもいかないので、何も言葉を発する事は出来ない。

「この俺をお前達と一緒にするな。で、一体お前達は何なのだ」

「わ…我らはここに居るという強力な鬼達を封じに来たのだ。君達こそどうしてここに…」

「お宝を探しに来たのだ。で、お前達が俺の邪魔をするというならこの場でころ…」

「ラ、ランス様! もっとお話をよく聞きましょうよ! それでここに現れた鬼とは?」

 ランスの言葉を遮り、ジルが男達に声をかける。

 このままランスに任せていては、恐らくは話が進まないし、有益な情報を引き出せないと思ったからだ。

 そんなジルの言葉に対応するように、一人の陰陽師が立ち上がる。

「見た所大陸の者か…この時期に大陸の者が来るのは珍しいな。まあJAPANではよくある事で、ダンジョンの奥から鬼が現れたのだ。我々陰陽師は、天志教と協力の元、ここを封じに来たのだ」

「来たのだが…ここには予想以上に手強いモンスターがいるようだな…君たちのおかげで助かった」

 一人の僧がランス達に向かって頭を下げる。

 どうやらこの者達は友好的な者のようだ。

 これが悪人なら、ランスは躊躇う事無く男は殺し、女は犯すというどちらが悪人か分からない態度を取っていただろう。

「封印…ですか?」

 陰陽師の言葉にジルの目が光る。

「それはこのJAPANに伝わる、魔人を封印するのと同じ術法ですか?」

「君は…大陸の魔法使いという存在だな。いや、魔人を封印した月餅殿の術とはまた違うものだ。こちらは北条家の役目だな…こちらの天志教の方々は、ここに妖怪が居た時のためについてきてもらったのだ」

「左様。我々天志教の僧はこの世に留まる霊や、妖怪達を祓う事が仕事…多額の寄付を貰っているのだ、その分働かなければならぬ」

「この世に留まる霊って…私みたいな?」

 そこでスラルがランスの剣から姿を現す。

「うお!? 幽霊! 喝!」

 僧兵の一人がスラルを祓おうとするが、スラルには全く影響がない。

「…で、何?」

「むう…効果が無いだと。しかし私の力で全く影響が無いという事は、私の力以上の幽霊かさもなくば幽霊では無いという事か…」

「…いきなり攻撃しようとした訳? 場合によっては私も反撃することに躊躇いは無いけど」

「も、申し訳ない。ここに来てからずっと戦っていたもので…いや、貴殿は幽霊ではないようだ」

 謝罪を受けたことで、スラルも手に宿していた魔力を消す。

「で、ここって何なの? 封印しに来たって言ったけど」

 スラルの言葉に男達は顔を見合わせるが、その内一人のリーダー格であろう若い陰陽師が言葉を発する。

「大陸の方には馴染みが無いでしょうが、JAPANはよく鬼が出現しましてね…なので我々北条の者が封じるのです。ですが今回は見誤りました…まさかこれほどの強さを持つ魔物が潜んでいようとは…」

「まあ…確かにね」

 男の言葉にスラルは頷く。

 ランスやレダ、そしてスラルもジルも普通の人間よりも遥かに高いレベルを持つから気づかないが、確かにここのダンジョンは中々レベルが高い。

 アカメやクロメ、ランケンやお断りマン、そしてフローズンやデス子、神風等といった中々強力なモンスターが出てくる。

「フン、雑魚の集団なんてそんなものだ。よしお前達、とっとと行くぞ」

「あ…待ってくださいランス様! あの…私もう少し話を聞きたいのですが…」

「あん? こんな連中にか?」

「お願いします!」

 必死で頭を下げるジルに、ランスはいやらしい笑みを浮かべる。

「よーし、ならばこの冒険が終わったら…」

「え、え…そんな…」

 ランスに耳打ちされて、ジルは顔を真っ赤に染める。

 だが、それでも自分の目的のため、そして自分を助けてくれたランスのため、

「わ、分かりました…」

 さらに顔を真っ赤に染めて頷く。

「がはははは! それならいいぞ。おいお前等泣いて喜べ。この俺様がお前達に付き合ってやろう」

「え?」

 ランスの突然の言葉に男達は困惑し、

「はぁ…」

 スラルは呆れたようにため息をついた。

 

 

 

「がはははは!」

 ランスは上機嫌にモンスターを切り伏せる。

「もう…本当にそういう事が関わると元気になるんだから」

 スラルはそんなランスの態度に呆れながらもランスのフォローは決して欠かさない。

「凄いな…あれが大陸の戦士なのか」

「あの男だけではない。あの魔法使いも金髪の異人も皆恐ろしい強さだ」

 ランス以外にも、レダもジルも凄まじい強さを持っている。

「展開!」

 ジルがクリスタルソードを手にすると、足元に魔法陣が展開される。

 そして普通の魔法使いよりも早い速度で詠唱を完了させる。

「電磁結界!」

 広範囲に広がる魔法攻撃が魔法陣の効果でさらに威力を上げてモンスターに襲い掛かる。

 まともに電撃を浴びたモンスターは弱いものならその一撃で即死し、強いモンスターでもその足を止められる。

「異人だけによい格好はさせぬわ! 行くぞ!」

「応!」

 JAPANの者達も負けじと魔物、そして魔物に混じって現れる鬼を倒していく。

 そんなJAPANの者を見てスラルはランスの剣の中で感心したように頷いている。

「中々やるわね。全員かなりの高レベルの持ち主ね…前にJAPANに来た時もその強さに驚いたけど、JAPANの人間は皆レベルが高いのかしらね」

「知らん。それに俺様と比べれば雑魚だ雑魚」

「ランスと比較する訳無いでしょ。私からすれば、カミーラや魔人レキシントンと渡り合ったランスが信じられないんだから」

 ランスは完全に例外、強さの比較として出すのがおかしい。

(まあ藤原石丸も完全に例外の一人なんだけどね…ランスは怒るから言わない方がいいわね)

 そのランスと互角…勿論あの時点ではあったが、技量においてランスの一歩上を行っていた藤原石丸の強さも本当に凄まじかった。

 もしランスが介入していなければ、JAPANはもっと早くに藤原石丸の手で統一されていただろう。

「ねえランス。ランスって陰陽師…って言ったっけ? 結構知ってるみたいだけど実際どうなの?」

「…まあウザかったが俺様にかかれば楽勝だったな、うん」

 陰陽師の事を聞かれ、ランスはJAPAN…正確にはJAPANを統一していた頃を思い出す。

 北条家は厄介だったが、当主である北条早雲が一時的に行方不明になった事もあり、戦争自体はランス率いる織田が勝利した。

(そういえば…蘭ちゃんは一時妙に強かったな、うん)

 南条蘭…北条早雲の恋人であり、使徒戯骸によって殺された少女の事を思い出す。

 彼女の使っていた術は一時的にだが織田の勢いを完全に殺していた。

 だが、それこそが南条蘭の死期を早めていた事まではランスも知らない。

「陰陽術か…興味あるなあ。調べてみたい!」

「またスラルちゃんの病気が始まったか。大体スラルちゃんは符を持てないから意味ないだろ」

「うっ! そ、そういえばそうね…」

 未だに物に触れる事が出来ないため、符を使う陰陽師の術は幽霊には使えない。

 それをランスに指摘され、スラルは考え込む。

「…でも研究したい。何がどうなってるのか知りたいし」

「そんなのは後だ後。今は進むぞ」

「そうね。時間はあるしね」

 ランスは上機嫌にダンジョンを進んでいくが、進むにつれてどんどんと奇妙な感覚に襲われていく。

(うーむ…なんかここ前にも来た事あるような気がするぞ)

 ランスはこのルドラサウム大陸の無数のダンジョンを回っている。

 心の底から冒険が好きで、それがどんな大事件が起きている時だろうがダンジョン巡りをする程だ。

 そしてこのダンジョンは、一度来た事があるような気がしてならない。

「おお…ついに最下層に来たようだぞ」

「ふぅ…ようやくか」

 そしてついに最下層に到達するが、そこはまるで宮殿のような装飾が施された豪華な部屋だった。

「これは…」

 ジルは地面や壁に触れ、まるで大理石のような感触が返ってくるのを感じながらため息をつく。

 彼女もまた新たな発見をするのが非常に好きだ。

 それが人のためになろうとも、ならなくともやはり自分の知らない事を知るというのは非常に楽しみだ。

「感動するのはいいけど…お客さんよ」

 レダの言葉に皆が台座の方を見る。

 そこには何の装飾もされていない鞘に収まっている一本の刀がある。

「なんと…」

 それを見てリーダー格の陰陽師の男が驚愕の声を上げる。

 その刀から発せられる妖気のようなものが強く感じられる。

 しかしその妖気は決して不快なものでは無く、非常に力強い何かを感じされる気だ。

「ですがこれは…」

 同時に視界に入る2体の鬼に、僧兵達は冷や汗を垂らす。

 その鬼は非常に大きな気を放っており、その気を感じるだけで背筋が寒くなる。

「フン、ボスという訳か」

 ランスはニヤリと笑いながら剣を抜く。

「おいスラルちゃん、全力で行くぞ。とっとと終わらせるぞ」

「分かったわ。でも2体いるわね…」

「そんなの1体ぶち殺してからもう一体ぶち殺せばいいだけだろ。行くぞ!」

 ランスはそのまま剣を抜いて鬼の一体に突っ込んでいく。

 2体の鬼もそんなランスに反応し、思いもしない速度でランスを迎え撃つ。

「む!」

 流石のランスもそれには驚くが、剣を使って鬼の攻撃を弾く。

 だが、その鬼の頭を飛び越えて鬼が襲い掛かる。

 突然の事でランスも反応が一瞬遅れるが、

「危ないランス!」

 直ぐにレダが駆けつけてその盾で鬼の攻撃を防ぐ。

「予想以上に強いわよ、こいつら」

「ふん、俺様ならば余裕だ余裕」

 ランスは改めて剣を構えて二体の鬼を見る。

 一方は非常に立派な体躯を持ち、いかにも腕力特化といった感じだ。

 だが、もう一方の鬼は相方と比べると非常に小さいが、それでもランスを奇襲する程の素早さがある。

「むう…この二体の鬼、唯の鬼では無いぞ!」

「前の鬼と後ろの鬼…両方とも厄介な存在だな…」

 陰陽師たちは二体の鬼を見て冷や汗を垂らす。

 中々の強さを持つ者達ではあるが、目の前の鬼は間違いなく強力すぎる鬼だ。

「死ねーーーーーーーーーッ!!」

 しかしランスは構わずに鬼に向かって斬りかかる。

 その一撃は鬼の腕を一撃で飛ばし、さらには返す刃で鬼の心臓を貫く。

 大柄な鬼はそれで倒れ、残るは小柄な鬼のみ。

「がはははは! 雑魚が俺様の邪魔をするからそうなるのだ! よーし、次はこいつをぶっ殺すぞ!」

 ランスはそのまま小柄な鬼に向かって刃を向け、そのまま向かっていく。

 ランスの一撃を小柄な鬼は跳び上がる事によって避ける。

「降りてきやがれ! とっとと俺様の経験値になれ!」

 ランスの言葉に小柄な鬼はニヤリと笑う。

 その時、

「ランス様! 後ろ!」

「あん? ってうおっ!?」

 ランスは慌ててその場を飛びのく。

「な、何だ!?」

 見ると、先程ランスが倒した大柄な鬼が立ち上がり、ランスに向かって拳を振るっていた。

「生き返っただと!?」

 ランスによって斬られた腕も元通りになっており、変わらぬ腕力を持ってランス達に襲い掛かる。

「クッ!」

 ジルはそれを見て意識を集中させる。

 どういう理由かは分からないが、相手はあのランスの一撃を受けても何事も無く復活した。

 ならば体を全て吹き飛ばせばいいと考えて、レーザー級よりも威力のある魔法を使用する事を選択する。

 だが、

「グォォォォォ!」

 小柄な鬼がジルの魔法の詠唱に気づいたのか、信じられない速度でジルに襲い掛かってくる。

(速い!?)

 まさかこれほどの速度で間合いを詰められるとは思いもせず、体が竦んでしまう。

「危ない!」

 だが、鬼が襲ってくる前に見えない壁のようなものが鬼を弾き飛ばす。

(魔法バリア? いや、少し違う…)

 それはジルもよく使う魔法バリアとは根本的に違う何かだ。

「我々が相手だ!」

「覚悟!」

 そして僧達が鬼に向かっていく。

 その僧を守るようにして、陰陽師達も符を構える。

 それを見てジルは更に魔法の詠唱を早める。

 先程は驚いて集中力を切らしてしまったが、今度はそう言う訳にはいかない。

 確実に相手を倒すべく、その魔法の詠唱を完了させる。

「離れて!」

 ジルの言葉に小柄の鬼と戦っていた僧達が一斉に離れる。

 ジルが何をしようとしているのかは分からないが、その手に込められた魔力は理解出来たようだ。

 そして自分の直線状に居る小柄な鬼に対し、ジルはその魔法を放つ。

「白色破壊光線!」

 光属性の高位魔法である、白色破壊光線は小柄な鬼をその体ごと飲み込む。

「おお!」

「やったぞ!」

 光が消えた後には、小柄な鬼の姿は何処にも存在しない。

「ランス! 後はこいつだけよ!」

「余裕だ余裕! 死ねーーーーッ!」

 そしてランスの剣が大柄な鬼を襲うが、相手もさるものそう簡単には倒れてくれない。

 見た目通りの耐久力を持っているようで、ランスの一撃を受けても尚立ち上がってくる。

 ランスの剣が再び鬼を捉え、その胴体を大きく切り裂く。

 しかしランスはその手応えの少なさに少し顔を歪めるが、今度こそ止めを刺すべく必殺のランスアタックを決めようとしたとき、

「ランス! 上!」

 スラルの声が聞こえ、ランスは慌てて上を向くと、そこには白色破壊光線によって消滅したはずの小柄な鬼がランスに向かって落下して来ていた。

「何だと!?」

 ランスは驚きながらも鬼の爪を剣で滑らせてその攻撃を回避する。

 奇襲に失敗したのを理解した小柄な鬼は、すぐさま大柄な鬼の背後に隠れる。

「おい! こいつはさっき死んだだろうが!」

「確かに白色破壊光線に飲み込まれた。魔法は絶対に当たるから回避したという事は無いし、防いだ様子も見えない…間違いなく死んだはず」

 スラルは大柄な鬼と小柄な鬼の2体を見る。

「もしかして…2体で1体の存在? 同時に倒さないと一方が再生させる…という事かもしれないわね」

「なんだと? 面倒だな」

 スラルの推測が正しければ、同時に相手を倒さなければならない。

 しかしそうなると、あの大柄な鬼はともかく小柄な鬼と同時に倒すとなるといささか骨が折れる。

 ランスアタックが2体に直撃すれば倒せるだろうが、戦士のランスにはあの小柄な鬼を同時に巻き込むのは少し難しい。

 魔法詠唱をしているジルを優先的に狙ったところを見ても、知能は決して低くないだろう。

「やっぱり魔法か…」

 2体の鬼が再び動いたときは、それぞれ別の方向から狙ってくる。

 意図的にターゲットを分散させているから当てるのは大変かもしれないが、魔法は必中なので避けられる心配は無い。

「問題になるのはあの鬼の動きを止める必要がある事ね…」

 あの小柄の鬼は中々の運動能力を持っているので、あの大柄の鬼と共に狙うのは難しいがそれでもやるしかない。

 そうする事でしか倒すことは難しいのだ。

「ランス! 距離を取って! まずは作戦を考えないと!」

「チッ…そうするか」

 ランスはスラルの言う事に素直に従い、鬼達との距離を取る。

「追ってこないわね」

「そうみたいね…あの刀を守ってるのかしら?」

 ランス達を追ってこない鬼達を見て、スラルはとりあえず安堵する。

「ランス様! どうすればいいでしょうか」

「知らん。スラルちゃんなら何かあるんだろ」

「うーん…まずはどうやって奴らの足止めをするかよねぇ…」

 同時に倒すとなれば、どうしても足止めをする必要が出てくる。

 しかしその足止めをするのが難しいのだ。

「倒すだけなら問題無いけど同時に倒すとなればね…」

 ランスならば1対1でも倒す事は出来るだろうが、2体同時となれば難しい。

「難しいこと考えないで、同時に倒せるまで戦うとか?」

「却下だ却下。面倒くさい。お前は本当に脳筋だな」

「う…」

 ランスに指摘され、レダは図星を突かれたような顔をする。

「それなのですが…私ならば足止めを出来るかもしれません」

「…本当?」

「ええ。この伊勢新九郎、こう見えても陰陽術に関しては自信が有りますから」

 陰陽師の一人が自信満々に頷く。

「じゃあやれ。ただし失敗しても俺は知らん。まあお前は男だから死んでも構わんしな」

「手厳しいですねぇ…でもそう言われれば嫌でも成功させたくなりますなぁ」

「フン、じゃあ行くぞ。あの面倒くさいだけの奴らの相手などごめんだからな」

 

 

 




数が多くなると人を動かすのが本当に難しい…

更新が遅れたのはリアルが忙しいという事と、現状少しまずい事になっているからです
もしかしたらもしかするレベルでまずい状況なので、本当に気が気じゃないです

唐突ですが、魔封印結界って一体いつからあるんでしょうね
カオスと日光以外で魔人に対抗する唯一の手段と言われてるから、使った人間と使われた魔人がいるはずなんですけどね
聖魔教団っぽい感じがしますが、それだと連携が全く取れない魔人を1体も倒せないはずは無いし…
03をやろうと思いましたが、手元に03が無くプレイ出来ない状態で…

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