「ふーん。で、それで動きを止められるんだな」
「ええ。間違いなく」
ランスの言葉に陰陽師が自信満々に頷く。
「じゃあやれ。お前が死んでも俺は痛くも痒くもないしな」
「…本当に凄い人だな」
ランスの言葉にJAPANの人間達は若干引き気味になっている。
「あのー…ランス様。折角この人達が協力してくれるのなら、もっと言い方が…」
「これがこいつらの仕事だろ。別に俺が無理して奴等を倒す理由は無いからな。何ならここから出ても良いしな」
「えー…」
ジルはランスの言葉に曖昧な表情をするしかない。
かなり変わった性格をしているのは分かってはいたが、ここまで男に対しては極端だとは思ってもいなかった。
「あのー。でも誰があの二体の鬼を同時に倒すんですか? そんな威力を誰か出せるんですか?」
「あ」
加奈代の言葉にJAPANの者達が頭を抱える。
「忘れてた…そういえばどうやってアレを同時に倒せばいいんだ…?」
「流石に拙僧達では無理ですよ。鬼は専門外です」
僧兵の言葉に陰陽師は難しい顔をして腕を組む。
「あの…あいつらを倒すのを任せてもいいですか?」
「ハイ! 任せて下さい! 黒色破壊光線を使えばいくらあいつらでも…あいたっ!」
「何勝手なこと言っている。お前は俺の奴隷だろうが」
「ちょっとランス。やめなさいよみっともない。でもジルの言う通り、黒色破壊光線ならあいつらを一発で倒せるんじゃないかしら」
スラルの言葉にランスは考え込む。
黒色破壊光線…魔法LV2の者が使う中では最高峰の魔法だ。
ランスもその威力はあの規格外の役立たずであるアニスによって痛いほど知っている。
いや、実際痛い目にあっている。
(…それを思い出したら腹が立ってきたな。今度はずばっと犯してやる)
それはともかくとして、確かに黒色破壊光線ならばあの鬼達を一撃で倒せるかもしれない。
(俺様ならば一人でも余裕だが、同時に倒すのは面倒くさい。それに奴隷の功績は俺様の功績だ。うむ、何も問題は無いな)
「まあいい。だがお前たちは死んでもいいからあいつらの動きを止めろ」
「え、ええ…」
伊勢新九郎と名乗った陰陽師は信じられない者を見たかのように唇をひくつかせている。
「気にしないほうがいいわよ。気にするだけ無駄だから。で、どうするの?」
「そ、そうですね。まずはあの鬼の動きを止めないといけないので、あの大柄な鬼の動きをひきつけておいてくれればと」
「だそうですよ、ランスさん」
レダ達の言葉に加奈代がキラキラした目でランスを見る。
「何だ」
「いえ、ランスさんならあの鬼の1体くらい余裕で足止め出来るのではないかなーと」
「当たり前だろ。俺様にかかればあんな奴は余裕だ余裕。だが足止めなんて面倒くさい。そういうのはそういう連中にやらせればいい」
ランスの言葉にスラルは内心ため息をつく。
ランスはこういう事を本気で思っているので始末が悪い。
出来ないのでは無くやらないだけではあるのだが、報酬が無いととことんやる気を出さない男でもある。
そう思っていると、加奈代がニコニコと笑いながらランスに耳打ちする。
それを聞いてランスの顔がどんどんと何時ものような笑みに変わっていく。
「がはははは! そうか、そんなに俺様の活躍が見たいか! よーし、なら見せてやる。だが忘れるなよ」
「いいですよー」
ランスは高笑いしながら剣を構える。
スラルはランスの剣から姿を見せると、ニコニコと笑っている加奈代に近づいていく。
「ねえ加奈代。何話したの? 正直想像はつくんだけど…」
「まあ想像の通りですよ。ランスさんが格好いい所を見せてくれたら私とHしてもいいですよーって」
「…本当にいいの? まあ覚悟が決まってるなら私から言う事は無いんだけど…」
加奈代は少し表情を真面目にすると、
「武家の娘として、ランスさんの強さにも興味があるんですよねー。正直ランスさんの強さって計り知れないですから」
「まあそれはね。でもだからって貞操を捧げる理由としては弱くない?」
「命を救われましたからねー。正直あのままだったら私はあのまま使用人達に輪姦されて、行き着く先は死体置き場でしたでしょうし…」
ランスが言っていた事は決して間違っては居ない…という事を加奈代の口から聞いてスラルは考えさせられる。
本人がそこまで危機感を抱いているという事は、二人の関係は歪なものだったのかもしれない。
それが今まで表面上に浮かんでこなかっただけで、何れ切欠があれば爆発していたというランスの言葉も当たっているのだろう。
「それに…私は実は女の子の方が好きだと思ってたんですが、実はそうじゃなかった事にも気づきまして」
「…は?」
加奈代の言葉にスラルは思わず目を点になる。
「女の子が…好き?」
「はいー。もうジルさんなんかは凄いタイプで。あ、勿論レダさんもスラルさんもタイプで…」
「ストーップ! そう言うの聞いてないから! 私はノーマルだから! あ、でもランスにはあまり聞かれないほうがいいと思うわよ。ランスは同性愛って嫌いだから」
色々と脳の処理が追いつかず、スラル自身自分が何を言っているかよく分からなくなる。
「大丈夫ですよー。私はバイみたいですから」
「そういう事を聞いてるんじゃないの! あーもう…なんでランスの周りにはこう変な奴等が集まるのかしら」
これからの事を考えてスラルは少し頭が痛くなる。
まともな人間だと思っていたが、実はランスとは別の意味でまともじゃない人間だった。
「ランスさんは女性には優しそうですからねー。レダさんの事も普通に抱いてましたし。世の中には縛られてないと興奮しないという父のような人が…」
「もういいから! 聞きたくないから! 何なのあなたの家系!?」
「私としてはランスさんの家系の方が気になるんですけどねー」
「ううう…シャロンもパレロアもエルシールもまともだったのに、どうして彼女だけ…」
これまでの自分達と共に冒険をしてきた者達がまともだったこと、そして常識があるという事はそれだけで素晴らしい事なのだと改めさせられる。
(ランスは言わずもがなアレだし、レダは基本的にランスを守護する以外はアレだし、大まおーもなんて言うかアレだし…味方がジルしかいない気がする)
「あ、準備が出来たみたいですよー」
「もう…とりあえず奴らを倒すことに集中しないと…」
スラルはげんなりしながらもランスの側へと戻っていく。
「どうしたスラルちゃん。なんか疲れてるな」
「だ・れ・のせいだと思ってるのよ! これも全部ランスが悪い!」
「う、うお!? 何だ突然!?」
「前から思ってたけどランスはいきあたりばったり過ぎ! そしてそれが大抵上手くいくのが性質が悪い!」
スラルは怒鳴りながらランスの剣の中へと消えていく。
「…なんで俺が怒られなければならんのだ」
「今までの行動を考えなさいよ! それよりも早く! 準備が出来てるわよ!」
「お、おう…」
ランスが周囲を見ると、そこには既に魔法を使う準備をしているジル、それを守るように側に立つレダと大まおーと加奈代、そして男連中が何かをやっている。
「スラルちゃんの何が不機嫌なのかは知らんが、とにかく奴等はぶっ殺す。そしてお宝は頂きじゃー!」
ランスは大きな体躯を持つ鬼へと向かっていく。
そのランスに呼応するかのように鬼がランスにその爪を向け、一方では小柄な鬼が男達に向かって突っ込んでいく。
「くたばれー!」
「ランス! あくまでも足止めよ! 出来ればもう一体の鬼と一緒にジルの魔法の射線上で釘付けにしないと!」
「うぐっ! 改めて言われると面倒だな」
スラルの指摘に鬼を叩き切ろうとしてたランスの動きが鈍る。
「余裕なんでしょ? だったらそれくらいやって見せなさいよ」
「なんか最近スラルちゃんの俺を見る目がやたら厳しいな」
「少し厳しいくらいがいいのよ。あなたは割りと甘やかされてると思うし。まあそれに完全に甘えることは無いだろうけどね」
「当たり前だ!」
ランスは迫り来る鬼の攻撃を避けながら何とかスラルの要望通りに動こうとするが、それが非常に難しい。
ランスは今まで誰かに合わせて戦ったという事は無い。
その全ては自分のため、または自分の女のためにしか戦わない。
それに誰かの足止め等という事こそ、自分のやる事では無い。
それこそ他の適任者に丸投げすればいいのだ。
「いかん。面倒臭い」
「はや!! いや加奈代と約束したんでしょ!?」
「今思えば既に加奈代は俺様のモノなんだから、別にあいつの許可など必要無いからな」
「もう! やれば出来るくせにやらないのは本当にランスの悪い所よ!」
「がみがみ怒鳴るな。なんか急に志津香並に怒りっぽくなったな」
そう言いながらもランスは鬼の攻撃を余裕の表情で捌いている。
それを実感しているスラルは、尚の事複雑な気持ちになる。
(ランスの剣は磨けばもっと光るのに…本人のやる気が無いなら本当に宝の持ち腐れよね。何とか出来ないかな…)
スラルは内心でため息をつくが、本人にその気が無いのであれば意味は無い。
だが、それを抜きにしてもやはりランスは強いのだ。
そしてスラルがもう一方の方を見ると、陰陽師の作った結界のような力場に何とか小柄な鬼を誘導しようとしている所だった。
(うーん、やっぱりあっちの方が手際が良いわね。慣れてるって感じよね。まあランスがこういった事が苦手なのはわかるけど)
ランスの言うとおり、出来る奴等にやらせれば良いと言うのは間違ってはいないのだとも思い知らされる。
ランスが大柄の鬼の攻撃を防いでいる時、ついに向こう側の術式が完成したようだ。
「ランス。向こうは終わったわよ」
「ようやくか。じゃあこっちもとっとと終わらせるか」
「あら、何かいい方法でも思いついたの?」
スラルとしてはこれは軽い皮肉のつもりだった。
「殺したらいかんのは面倒だが、殺さなければ何でもいいんだろ」
ランスは一瞬で鬼の足を斬り飛ばす。
そして足を失ったことでバランスを完全に失った鬼を蹴り飛ばす。
「あー…そっか、死ななきゃいいのか。って相変わらず斜め上の発想ね」
ランスは言葉通りに足を取る事で相手の動きを止めたようだ。
「賢いと言え。まあこれで十分だろ」
ランスはそのまま鬼に背を向けて、ジルの側へと寄っていく。
「よーしいいぞ。ぶっ放せ」
「はい! 黒色…破壊光線!」
ランスの言葉にジルは頷くと、そのまま溜めに溜めていた魔力を解放する。
黒い光は二体の鬼を同時に飲み込み消滅させる。
「おお…何という威力だ」
その威力には陰陽師達も背筋を冷やすが、ランスにとってはこの程度は驚く事では無い。
実際にランスはこれ以上の威力を持つ、アニスの破壊光線を見ているし、そして今は魔人と化したレッドアイの狂った威力の魔法も目にしている。
「凄い…」
この力には加奈代も絶句するしかない。
皆只者では無いと思ってはいたが、ランス達の実力は加奈代の想像を遥かに上回るものだった。
「…復活はしないみたいね」
暫くレダは周囲を警戒していたが、相手が復活する気配は全く無い。
どうやら同時に倒せば復活する事は無いようだ。
「全く。下らん事で苦労させる奴だ。さーてお宝はあるか」
ランスは一段高い所にある祭壇へと向かっていく。
こういう所には大抵お宝が置いてあるのがお約束というものだ。
そしてランスの予想通り、そこには一本の刀が置かれていた。
「これ…JAPANの刀よね。でもこれって…」
スラルはその刀から感じる妖気とも言うべき妖しい魔力を感じる。
「凄いわね…ランス、持ってみてよ」
「うーん…」
スラルの言葉にランスは少し複雑な顔をしながらその刀を手に取る。
その時、まるでランスを拒絶するかのような感覚がランスを襲う。
「駄目だな。いらん」
「え?」
ランスはあっさりとその剣を祭壇に放り投げる。
「ちょっとランス! どうしたのよ!」
「なんか嫌だ。それに刀よりもこっちの方が圧倒的に使いやすい。いらん」
「そうかもしれないけど…」
スラルは真顔でいるランスを見てそれ以上何も言えなくなる。
その刀を手に取った時、ランスが複雑な顔をしていたのには気づいてはいたが、スラルにはそれが何なのかは分からない。
ただ、ランスが『いらない』と言うのだから、何か余程の理由があるのだろう。
「あら、いいの? ランス」
「別に構わん。俺が欲しかったのは無かったが、そんなもんだ」
ランスは冒険の全てが成功するなどとは思っていない。
たまには外れる時もある、それが冒険だ。
「あ、あの…本当にいいんですか?」
そう聞いてくるのは陰陽師の男だ。
「しつこい。いらんと言ったらいらん」
ランスの言葉にJAPANの者達は複雑な表情を浮かべるが、これ以上特に何も言う事は無かった。
「そ…新九郎殿。早くここを封じましょう。あれ程の鬼が出て来るこの場所は危険です」
「そうだな…ランス殿と言いましたね。我等はここを封印します。構いませんか?」
「好きにすればいいだろ」
ランスはもう興味を無くしたように返事をする。
スラルはそんなランスに少し複雑な顔をしたが、結局は何も言えなかった。
「いやー、あなた達のおかげでここを封印する事が出来ました。礼を言います」
「いえ、べつに」
「そうだ。俺様のおかげであいつらを倒せたんだ。じゃあ礼をして貰おうか」
礼をする男達にジルが『別に構いません』と言いかけた所で、ランスが口を挟む。
「ええ、ですので有難うございますと」
「何を言っている。言葉なんぞいらん。もっと建設的なものをよこせ」
「え、ええ…」
まさかこれほどストレートに要求をされるとは思わなかった陰陽師達は困惑する。
「よーし、じゃあお前等天志教について知ってる事を全部話せ。あとついでだ、天志教のトップに会わせるようにしろ」
「いや、ランス。それは無茶でしょ。言ってる事無茶苦茶よ」
ランスの言っている事は無理にも程がある。
確かにこの人間達はかなり地位の高いにいる人間である事はスラルにも何となく分かる。
しかしだからといって、一介の陰陽師にしか過ぎないこの男達に言うのは流石に無茶だ。
「分かりました。では私から大僧正への紹介状を書きましょう。それでいいですか?」
「出来るなら最初からそうしろ。じゃあとっととやれ」
「ええ、少しお待ちください」
陰陽師はランスの強引な言葉にも嫌な顔一つもせずに、筆を取る。
「あの…ランス様?」
「天志教について知りたいんだろ。だったらちょうどいいだろ」
「そうですけど…いくらなんでも」
「何だ、お前の主人が態々奴隷のために聞いてやってるのにいらんというのか」
「いえそんな事は無いですけど…」
「だったら有難く思え。俺様のおかげで目的に辿り着けるんだからな」
「…そう、ですね。有難うございます、ランス様」
ジルはランスの言葉に少し曖昧な笑みを浮かべるが、心の中では感謝している。
何だかんだ言って、ランスは自分の我儘を聞いてくれているのは事実なのだから。
「はい、これを見せれば大僧正に取り次いでくれます」
「じゃあ貰うわね」
レダはそれを受け取るとランスに手渡す。
「で、実はお前のこの手紙とやらが大したもじゃないとか無いだろうな。まあ役に立たなかったら殺すが」
「大丈夫ですよ。北条の伊勢新九郎の名前を出せば間違いありませんから」
「北条…北条早雲の名前ね。まだ続いてるのね」
スラルが知る『北条』は、かつて藤原石丸に仕えていたあの北条だ。
かつては強力な鬼を使い、ランスと黒部を大いに苦戦させた相手だ。
「さて…封印も出来ましたし、私達はそろそろ戻ります。ランス殿、ありがとうございました」
伊勢新九郎が一礼すると、その仲間達も一礼する。
「男の礼などいらん。本当に俺に礼をしたければ女を寄こせ」
「いやー、それは出来ませんね。見ての通り男所帯ですから」
「見れば分かるわ。じゃあな。もう二度と会わんだろうがな」
ランスは心底どうでもいいと言った感じで背を向ける。
レダもそれに続き、ジルと加奈代は伊勢新九郎達に一礼してランスの後を追っていく。
小さくなっていくランス達を見ながら、男達はため息をつく。
「ふう…しかし彼らがいなければ危なかったなあ。この古代遺跡は『平城京』と名付けるか」
「しかしあの異人…あの刀を持っていきませんでしたね」
「目的が別にあったんだろうね。まあ何にせよ目的は終了、早く報告にいかないとね」
伊勢新九郎は少し疲れた顔をしながらため息をつく。
とにかく今回の仕事は非常に大変だった。
天志教から精鋭の僧を借りたにも関わらず、あの異人達の力を借りなければこうも上手く封印は出来なかっただろう。
北条からもっと陰陽師を連れてこなければいけなかっただろう。
「前の鬼と後ろの鬼…前鬼と後鬼とでも名付けるかな。封印しただけだから、また何れ解かれるだろうけど…とりあえずはもう大丈夫だしね」
「いやいや…しかし流石は次期『北条早雲』ですな。父親を超えたのでは無いですか?」
「まだまださ。初代には遠く及ばないさ」
伊勢新九郎…北条家の次期跡取りは、偉大なる初代北条早雲の事を考えて憂鬱になる。
初代はまさに怪物で、あのセキメイを使役し、あの藤原石丸の右腕と呼ばれた存在。
先祖の名前は非常に重い物だ。
「しかし良かったのですか? 天志教の大僧正の事は…あの異人達、間違いなく月餅の法が目当てでしたよ」
伊勢新九郎はあの水色の髪をした美しい女性の決意を思い出す。
『魔人を封印する手段があると聞いて来ました』という言葉はまさに彼女の信念なのだろう。
だが、それ故に彼女にとって辛い現実が待ち受けているだろう。
「構わないさ…彼女ならまた違った方法に行きつくかもしれない。『月餅の法』はそんな簡単に使えるものじゃない。いや、使えてはいけないさ…」
魔人ザビエルを封印した月餅の術…それは確かに魔人の事を封印できた。
しかし、それは月餅と言う人並み外れた存在だからこそ使えた術だ。
「さて、帰るとするか。死国の事も気になるけど、他にやる事もあるしね」
伊勢新九郎は手の中にある石を見てため息をつく。
異人達は見逃したが、自分の目的はこの『石』にあった。
「石に命を吹き込むか…それ程までに藤原石丸は、月餅は、北条早雲は偉大だったって事かな…」
藤原石丸が魔人ザビエルに敗れてから、JAPANは再び戦乱の世に戻ってしまった。
誰もが藤原石丸が持っていた帝の証を求めて戦いを続ける。
だが、未だに三種の神器を集めた者はいない…それ故に、今の北条早雲は別の手段を求めた。
「JAPANを一つに纏める、か。その器を持つ者は果たして現れるのか…」
伊勢新九郎―――後の北条早雲は自問するように呟くが、その答えは出そうに無かった。
その夜魔法ハウス内―――
「がはははは! これで2つの紹介状が出来たな! これなら万全だな!」
「そうねー。最初はどうなるかと思ったけど、これなら上出来じゃないかしら」
胸を張って威張るランスを見ながら、スラルは呆れたような声をしながらも実際は感心してしまう。
ランスの言葉通り、予期せぬ事から紹介状が2枚もある。
しかも一枚はどうやらあの北条家の縁の者からのものだ。
信憑性はともかくとして、これで目的に近付いたと言ってもいいだろう。
「これで魔人を封印する方法が分かるのでしょうか…」
「ザビエルを封印してたんだろ。だったらあるんだろ」
目的に一歩近づいたと言うのに、ジルの表情は晴れない。
それはここまで情報を集めるうち、ザビエルを封印した月餅という者が凄まじい逸話を残しているからだ。
このJAPANにここまでの知識を広め、そしてそれは大陸に出てからも変わらない。
「で、スラルちゃんは何をやっとるんだ」
「うう…私が使っていた言葉と全然違う…こっちが世界の公用語になったのかしら」
スラルは受け取った手紙を読んではみたが、生憎と内容がさっぱり分からなかった。
翻訳魔法を使う事で会話は成り立つが、文字まではそうはいかない。
どうやらJAPANで使っていた言葉が、何時の間にか世界の公用語になってしまっていたようだ。
「ランスは…読めるのよね」
「一応な…しかしJAPANの連中は何でこんな訳が分からん書き方をするんだ」
ランスは手紙を一応は読めるが、正直何が書いているかは分かりにくい。
この文字はランスが一般的に知っている文字だというのは分かるが、本当にJAPANの上の連中…つまりは大名クラスが書く字は分かりにくい。
「私は問題無く読めるけどね」
レダはエンジェルナイトであり、何故かエンジェルナイトもLP期の公用語を話している。
なので文字の方も何の問題も無く読める。
「ううう…読めないのが私だけ…加奈代!」
「え? は、はい。何ですか?」
突如として名前を呼ばれ、加奈代も流石に驚く。
「私に文字を教えて! 私だけが読めない話せないなんてあってはいけないわ!」
「えーと…話せてますよね?」
「魔法の力でね。でも…『今の私の言葉はわかるかしら?』」
「…何を言ってるか正直分かりません」
スラルの『でも』の後に何かを喋っているようだが、加奈代にはそれが何を言っているのか分からなかった。
「それが魔法の力よ。後半は私が使っていた言葉なんだけど…何時の間にか私が使っていた言葉は廃れてしまったのね…」
自分が魔王だった頃に使っていた言葉は使えない…つまりは藤原石丸が世界の半分を制圧した時、自分達の使っていた言葉を公用語にしたのだろう。
藤原石丸が世界を半分治めたのに20年かかったそうだが、それまでにこの大陸の言葉を変えてしまうなど凄まじい影響力だ。
文句を言っても始まらないので、スラルは何とか今の公用語を覚えるしかない。
いざと言う時に魔力が足りなくて、言葉が通じなくなるなど問題外だ。
しかもランスもレダも問題無く言葉を理解しているとなると、自分だけが理解出来ないなんて許せる訳が無い。
「という訳でランス! 今夜は加奈代を借りるわよ!」
「あ、待て! 加奈代は今日は俺様と」
「セックスは後でも出来る! 今は私が言葉をきちんと理解出来るようになるのが先!」
「お、おう…」
スラルの凄まじい迫力に、ランスですらも思わず反論できなくなってしまう。
元魔王の迫力とも言うべきか、あの魔王ジルに似たようなプレッシャーを感じ、ランスですらも尻込みしてしまう。
「まあいいか。それよりもジル。約束は分かっているな」
「え…あ、はい…」
ランスの言葉にジルは顔を真っ赤に染める。
しかしこれも約束であり、それは守らなければならない。
「がはははは! では早速行くぞー!」
「きゃっ!」
ランスはジルの手を引いて浴室に向かっていく。
それを見てレダは呆れたようにため息をつくが、もうこの辺は諦めるしかない。
エンジェルナイトと知りながら、平気で自分達に手を出すなど歴代の人間の中でもこの男くらいだろう。
(でも…どうせ私の所に来るでしょうね)
ランスがジルに手を出す気配はまだ無い。
二人には言っていないが、ランスとジルの会話はレダも把握している。
万が一が起きないとも限らなかったし、取り越し苦労ではあったのだが、聞いてしまったものはもう仕方が無い。
(人間のように臭うなんて事は無いけど…でもお風呂って何であんなに気持ちがいいんだろ。そこは人間の文化に感謝ねー)
欲求不満のランスが自分の所に来るのは最早既定事項だ。
そのためには自分も身を清めていようと思い、レダは2階にある浴室へと向かって行った。
結果大丈夫でした
ただ、まだ結果が不明な部分もあるので怖いです…
次はもっと話が進めばいいなぁ…