ランス再び   作:メケネコ

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思い出した!

 大僧正との話が終わり、ジルは何とも言えない表情を浮かべながらランスの後ろを歩いていく。

「ジルさん。大丈夫ですか?」

「大丈夫です。覚悟はしてましたから」

 加奈代の言葉にもジルは気持ちを切り替えて答える。

 実際、この結果は予想していた回答の一つだ。

 そう簡単に教えられるとは思っていなかった。

 むしろ相手の言葉を信じるならば、ハッキリと言ってもらっただけまだ気持ちの切り替えが手早くなるというものだ。

「魔人を封印できているという事は事実なんです。なら、方法は他にもあるはずだから」

「前向きですねー」

 ジルの言葉に加奈代も嬉しそうに答える。

 実際にジルの表情は非常に美しく、加奈代から見ても非常に魅力的だ。

(…あればいいんだけどね)

 心の中でレダは苦い顔をしている。

 月餅の正体は間違いなく悪魔であり、月餅の法とは間違いなく悪魔の力だ。

 しかし悪魔の力と言っても、人間に害になるものでは無く、事実魔人を封印するという事に使われている。

 悪魔は天使の敵ではあるが、悪魔は別に人間を率先して狙っているという訳でも無い。

 見方によっては天使よりもよっぽど人間に知識を与えているとも言える。

 実際にランスが持つ剣は、あの三魔子から契約されたもので、ランスへの悪影響は今の所見当たらないし、長い年月が経過しているにも関わらず取り返しにも来ない。

(やめやめ。私みたいな一介のエンジェルナイトが考える事じゃ無い。私は私の任務を守らないと)

 これ以上考えるのはやめ、今はとにかくランスを助ける事をしなければいけない。

 何しろ率先して世界を混乱させ、魔人はおろか神にも戦いを挑むとんでもない人間なのだから。

「ところでランス…どこ見てるのよ」

 そんな中、ランスだけが帰り道とは違う方を見ている。

「いや、俺様の勘ではここにお宝があるような気がする」

 ランスが見ているのは一つの道。

 そこがどうしても気になり、そちらの方をずっと見ている。

「そちらは中庭に続く道になります」

 案内をしてくれている僧の言葉にランスは迷う事無くその方向にすすむ。

「ちょっとランス!」

 そんなランスの後に続き、皆がランスの後を追っていく。

 そして出た先は、先程の僧の言った通りただの中庭でしかない。

「…ここに何が有るっていうのよ」

 レダは周囲を見渡すが、特に気になるところは無い。

「いや、俺様の勘は当たるのだ。絶対ここには何かある」

 しかしランスはやたら自信満々に断言する。

 何しろランスの冒険の勘は殆ど当たってしまう過去がある。

 かつてヘルマンでもランスの何気ない行動が聖魔教団の本拠地に繋がったという事もある。

 そんな今までの経験から何かが有る…ランスはそう確信すらしていた。

「おや…あなたは…」

 その時、中庭の奥から一人の女性の声が聞こえてくる。

「何者だ!?」

 その声を聞いて一番驚いたのは、ランス達の案内をしていた僧だ。

 ここはある場所に繋がる大切な場所であり、その存在は極僅かな者にしか知らされていない。

 この僧ですらも、何があるかまでは知らされていない…そんな場所だ。

「おやおや…まさかこんな所で再会するなんて夢にも思いませんでしたよ。私の一番星様」

 その木々の間から出て来たのは一人の紅い肌をした美しい少女だった。

「な…一体なにもへぶっ!」

「やかましい。少し黙ってろ」

 その少女に対して警戒する僧をランスは気絶させる。

 理由は単純、ランスはその少女の事を覚えていたからだ。

「一番星?」

 スラルはその言葉に嫌な予感がしてその少女を注意深く見る。

 紅い肌と白い髪を持った美しい少女だが…何故か上半身は裸だ。

 一枚の布を体に纏ったその少女から感じられるのは、不気味な魔力だ。

「私からすると約200年ぶりなのですが…あなた達は変わりませんね。一番星様」

「というかお前やっぱり生きてやがったか」

 ランスの言葉に少女は薄く笑う。

「ええ。フェニックスは伊達ではありませんから」

 少女はそのままランスに一礼してみせる。

 それは非常に様になっており、まるで何処かの令嬢を思わせる程だ。

「…ランス、こいつもしかして」

「ああ。こいつは戯骸だ。ザビエルの使徒のな」

「! 使徒!?」

 ランスの言葉にジルが真っ先に反応する。

 魔人ザビエルの使徒…つまりは人間の敵であり、恐ろしい相手だからだ。

「また違った女性を連れてるんですね。ああ、そこの水色の髪の方、心配ありませんよ。私は今は人間と敵対する気はありませんから」

 そう言ってほほ笑む使徒を前に、ジルは冷や汗を垂らす。

 確かに殺気は微塵も感じられないが、それでも目の前の存在が恐ろしく強いという事は分かる。

「落ち着けジル。どうせ戦うだけ無駄だ。こいつは復活するからな。それに男として復活されるくらいなら女として居てくれた方がいい」

「おや…私の事を知っているのですね。嬉しいです」

 ランスの言葉に戯骸は本当に嬉しそうに微笑む。

 その笑みにはジルも、スラルもレダも思わず変な汗が流れる程だ。

「こうして再会出来たのは嬉しいですが…一番星様は何故ここに?」

「俺様の奴隷が魔人を封印する方法を知りたいと言うから来てやったのだ。しかしお前こそ何でこんな所にいるんだ」

「それは色々と理由があるのですが…」

「いやちょっと待って! ランス、何でさも当然の様に使徒と話してるのよ! こいつ、あのホモ焼き鳥なんでしょ!?」

 戯骸と平然と話しているランスに対してスラルは困惑してしまう。

 何しろ、あの使徒戯骸とは死闘を繰り広げただけでなく、性的な意味でランスを狙っていた男なのだ。

「ホモ焼き鳥って…あれ? そういえば何で生きてるの? ランスの一撃を受けて確かに死んだじゃない。それに性別まで変わってるし…」

 これではホモ焼き鳥とは言えないだろう。

 その証拠に、ランスもこいつの事を戯骸と名前で呼んでいる。

「私はフェニックス…死んでも甦るのです。その際に性別が変化するようで…女性として甦ったので、一番星様のために今後はこの路線で行こうかと」

「うむ、お前はずっとその路線でいろ。男として生まれたらぶっ殺すからな」

「つれないお方…でもそんな所がいい」

「う、うーん…」

 ランスと戯骸の会話を聞いてスラルは頭が痛くなる。

 変わった使徒だと思っていたが、まさかこれ程までにぶっ飛んだ存在だとは考えもしなかった。

「あの…ランス様。これは使徒なんですよね?」

「ああ。使徒だな」

「人類の敵なんですよね」

「人類の敵かもしれんが、別に俺様の敵では無いからな。あ、だが男として現れたら敵だな」

「お知り合いなんですよね?」

「私と一番星様は、それは激しく殺し合いをした仲です。私は一番星様に倒されましたが」

「………ああ」

 ジルが倒れそうになるのをレダが抱きとめる。

「ちょっと大丈夫?」

「い、いえ…あまりの出来事に少し眩暈が…」

 こんな所で人類の敵である魔人の使徒と出会ったが、その使徒が人間に対してまるで敵意を持っていない上に自分の主人と知り合いであり殺し合った仲…そんな事を急に言われても中々事実として飲み込めない。

「ま、まあそれはどうでもいいけど。戯骸、あなたがこんな所で何をしてるの? ここは天志教の総本山…あなたの主人を封印した連中の所よ」

「ええ…まあ色々と理由は有りますが、取り敢えず案内しましょう」

 スラルの言葉に戯骸は薄く微笑むと、ランス達に背を向けて歩き出す。

 ランスはそれに疑う事無く続いていき、レダ達もそれに続く。

 そして戯骸が案内したのはある小屋だ。

「こちらです」

 ランス達がその小屋の中に入ると…そこには不気味な銅像が一つ置かれていた。

 その顔は憤怒に染まっており、見ただけでも背筋が凍る程の迫力を持っている。

「これが我が主、ザビエル様です」

「ザビエル…こいつが」

 スラルは銅像になっているザビエルを見て唇を歪める。

 魔人ザビエル…魔王ナイチサの重鎮にして、あの藤原石丸を殺すために送り込まれた魔人四天王の一角。

 あの戦いにおいては戦うどころか会う事すら無かったが、藤原石丸の軍勢…人類軍を1体の魔人で3ヶ月で壊滅させた程の実力者だ。

「…ザビエルってこんなんだったか」

 逆にランスはこの姿のザビエルを見ても今一ピンと来ない。

 それもそのはず、ランスは魔人ザビエルとは戦っているが、その時のザビエルはランスの友である織田信長の体を乗っ取っていた。

 姿形は織田信長の姿であり、今の目の前の銅像のザビエルとは似ても似つかない。

 ただ、その衣装だけは確かに魔人ザビエルと言われればそうかもしれないと思った。

「これが…魔人ザビエル…」

 ジルは初めて見る魔人の姿に息を呑む。

 これが銅像であり動けないという事は分かっていても、目の前にある魔人のプレッシャーは伝わってくる。

「で、あんたはこの魔人の封印を解こうとしているって事?」

 レダはが剣を出現させながら答える。

 そんな剣呑なレダの態度にも戯骸はただ薄く笑うだけだ。

「いいえ。私の力ではどうにもならないので諦めました。というよりも封印した天志教の奴等でも封印の解除は出来ないようですし…だったら大人しく現世を楽しんでいようかと」

「ええ…」

 戯骸の言葉にスラルは変な声が出てしまう。

「魔王の下へ戻ろうとも思いましたが、200年経っても誰もザビエル様を助けようとしませんから…まあプライドの高さゆえに敵も多かったですから。それに他の使徒も軒並み封印されてしまいましたし…ここで私まで封印されちゃうのはまずいですから」

 結局は戯骸の出来る事は、自然にザビエルの封印が解けるのを待つだけだ。

 幸い時間はたっぷりとあるし、戯骸としてもそんな急ぐ必要も無かった。

(…こいつをここでぶっ殺したらどうなるんだ)

 そしてランスが考えた事は、やはり己の友である織田信長の事だ。

 信長の死はランスとしても非常に惜しい物だった。

 リックやパットン、ガンジーのように戦える訳では無いが、不思議と気が合い共に居ても全く不愉快では無かった。

 その信長の体を乗っ取り、そしてランスと戦った結果、信長の体は魔血魂となりリトルプリンセスの手で完全消滅させられた。

 ならばそのザビエルが居なければ、とランスは一瞬考えたが結局は今の所出来る事は無いと判断した。

 今甦られても無敵結界を破る手段が無いし、何よりもザビエルの使徒を纏めて相手にするのは流石に面倒臭い。

 カオスが有り、上杉謙信や名取、毛利元就や政宗級のメンバーが居れば倒せるだろうが、今存在しない奴等の事を考えても仕方がない。

「これが…魔人の封印…」

「ええ、魔を封印する結界のようなものですね。私は幸いにもその時は死んでたので巻き込まれませんでしたが」

 戯骸としても口惜しいが、月餅の法は完璧だった。

 使徒である戯骸を持ってしてもその封印を解く方法は見当たらない。

 むしろここで変に動いて目をつけられる方が厄介だ。

「で…あなたはどうするのよ、戯骸」

「私ですか? 私はこのまま少しの間眠りにつきます。それが何年後…何百年後になるかは分かりませんが」

「ふーん…まあいいか」

 ランスとしても女となった戯骸が敵に回らないのであればそれで十分だ。

 何よりも戯骸の強さは非常に面倒くさいし、下手に倒して男になられるのはもっと嫌だ。

「一番星様はこれから何処へ?」

「知らん。適当にぶらつく。とりあえずJAPANはこれで十分だな。ジル、お前もそれでいいな」

「あ、はい…」

 ランスの言葉にジルは虚を突かれたように返事をする。

 確かにランスの言うとおり、天志教で話を聞くという目的は達成した。

 結果は残念なものに終わってしまったが、それは仕方のない事だと納得するしかない。

「そうですか。私はこのまま眠ります。ではまた縁があれば…いえ、絶対に出会う事になるでしょう。私の一番星様」

「分かった分かった。じゃあな」

 ランスはそのまま戯骸に背を向けて歩いていく。

 ジル達もそれに続き、外に出た時は既に日が落ちようとしていた。

「ランス様…」

「あいつは諦めろ。多分何やっても死なんからな」

 ジルから感じられるのは緊張、そして若干の敵意だ。

 まだ魔人の使徒と相対した時の緊張感が抜けていないのだろう。

 それでもランスの言葉に何とか気持ちを抑える。

「でも本当に魔人を封印したのね…正直驚きしかないわ」

 スラルは感心したように声を出す。

 無敵結界は言葉通り魔王と魔人を無敵にするモノだ。

 無敵結界こそが魔王と魔人の強さの元であると言っても過言では無い。

 しかし現実に魔人四天王と言われている魔人ザビエルはこうして人の手によって封印されている。

 それは完全にスラルの想定外であり、同時に非常に興味深い事でもある。

(私が魔王だったら…その月餅の法とやらを根絶やしにしてたのかしら?)

 魔王を脅かすものはあってはならない…そう考え、常に脅えていた自分ならば全ての禍根を取り除いていたかもしれない。

 しかし魔王で無くなった今、こうして魔人すらも封印する術が生まれたのは非常に面白い。

「魔人を封印する結界のようなもの…果たしてそんな魔法がJAPAN以外にあればいいのだけど…」

 ジルが何気なく言ったその言葉には、加奈代もスラルも難しい顔をするだけだ。

 しかしランスは別の意味で何か難しい顔をしている。

(魔人を封印する結界…セルさんがサテラに何かしたんだよな。えーと何とか結界…魔人なんちゃら結界…あ)

「そうだ! 思い出したぞ! 魔封印結界だ! あの時セルさんがサテラに使ったやつだ!」

「ど、どうしたのランス。突然大声出して」

 スラルの怪訝そうな言葉にランスはただただ笑うだけだ。

「今まで忘れていたぞ! そういえば魔人に対抗する手段が一つあったな!」

 これまでのジル達の言葉でランスは完全に思い出した。

 何しろその時以来、魔人と戦う時は必ずカオスを持っていたので、無敵結界そのものに脅威を抱いてはいなかった。

 なので今までどうしても思い出せなかった。

「ランス様…?」

「喜べジル。この俺様が魔人に対抗する手段を思い出してやったぞ」

 自信満々に笑うランスに、ジルはただ首を傾げるだけだった。

 

 

 

 

 その夜魔法ハウス―――

「で、ランス。あなたが言ってた魔人に対抗する手段って何よ」

 スラルは興味深そうにランスを見る。

 これまで色々自分を驚かせてくれたランスだが、そのランスと言えども無敵結界をどうにか出来た事は無かった。

 魔人オウゴンダマを倒せたのは、あの魔人が己の能力ゆえに無敵結界を解除して戦っていたからだ。

 カミーラもランスに己の力を見せ付けるため、あえて無敵結界を使わずにランスと戦っている。

 それ以外の魔人…この前戦ったレキシントンの持つ無敵結界の前には、ランスといえども歯が立たなかったと言ってもいい。

 最後だけランスの剣にラ・バスワルドの力を付与することで、一太刀だけダメージを与えられたが、無敵結界そのものを何とか出来た訳ではない。

「そうです、ランス様。魔人に対抗する手段を思い出したとは?」

 ジルとしても非常に疑問だ。

 今回JAPANまで来たのも、魔人を封印する手段がJAPANにあると思っての事だ。

 結果は残念な事になってしまったが、実際に魔人が封印されている所を見ると、魔人を何とかする手段は現実に存在しているのだ。

「うむ、俺様もすっかり忘れていたな。まあ一回しか使わなかったし、その後も使う必要が無かったからな…」

 ランスが唐突に思い出したのは、『魔人を封印する結界』という単語を聞いたからだ。

 それに実行はしたものの、邪魔が入った事で魔人そのものを何とか出来た訳ではない。

 なので『封印』という言葉がいまいちピンと来なかったのだ。

「ではその方法というのが?」

「それが魔封印結界というやつだ」

「…随分と安直な名前ね。本当にあるの? そんなの」

 ランスの言葉にスラルは胡散臭そうな顔でランスを見る。

 魔王として長い間生きてきたし、その手の術は嫌というほど調べはしたが、そんな名前の術は聞いたことが無い。

「安直だろうと何だろうと実際にあるものはあるんだ」

「魔封印結界…」

 ジルはその名前を聞いて考え込む。

 そんな名前の術は聞いたことは無いし、確かにスラルの言うとおりストレート過ぎる名前だ。

「なんだ、信じないのか」

「いや…正直無敵結界を破れるのかという事に関してはね…」

 スラルはランスの言葉に苦い顔で答える。

 無敵結界はスラルが魔王であった頃に得たものであり、それこそが魔王・魔人の絶対的な優位性と言ってもいい。

 魔人同士の戦いでも、無敵結界を完全に貫通する訳ではなく、ある程度結界がダメージを減衰するという効果を持つ。

 だからこそ、永遠の命と合わせて誰もが魔人になる事を望むのだ。

「私も聞いたことがありません。一体どういう術なのですか?」

「どういう術…」

 ジルの質問にランスは思わず考え込む。

 どういう術かと聞かれれば、魔人にも有効な術だとしかランスも答えようが無い。

 魔法には縁が無いので、どういう術かと聞かれれば『魔人に有効な術』としか分からないのだ。

「いや、知らん。だが何が必要なのかは覚えているぞ」

 だから素直にそう答えるしかない。

「必要なもの…月餅の法とやらは犠牲が伴うみたいだけど、その魔封印結界とやらも犠牲が必要だとか?」

「男ならいくら犠牲になろうが構わんのだがな…まあそれはどうでもいい。それには変な犠牲なんて必要は無いぞ。必要なのは確か…」

 あの時に使ったのは何だったか…少しの間ランスは考え込んでいたがようやく思い出す。

「…確か聖なるアイテムだったか。そんなのが3つか4つ必要だったな」

「聖なるアイテム?」

「…成るほど、それは確かに関係が有りそうですね」

 聖なるアイテムと言われて少し考え込んだスラルに対して、ジルは何かの可能性に思い当たる。

「聖遺物…と言えばいいのでしょうか。そのようなアイテムが世界にはある事は分かっています。私は神魔法が使えないのでよく知らないのですが…」

「そうなんだ…時代の移り変わりってやっぱり凄いのね…」

 スラルがいた時代にはそんなものは存在していなかった。

 ならば時代が変わっていくのと同じように、色々な新しいモノが生み出されてもおかしくは無い。

「でもどれが聖なるアイテムとか分かるんですか? 珍しいモノなのでしょう?」

 加奈代の言葉にジルは難しい顔をする。

 ランスの言葉が正しければ、その魔封印結界を使用するためには聖なるアイテムが複数必要となるようだ。

 しかしそんなアイテムが簡単に見つかる訳は無いし、ジルにはどれが聖なるアイテムなのか今一判別が付かない。

「それに関しては私が分かるから大丈夫よ。神魔法も使えるし」

「あ、そうだ。レダが居たんだった。じゃあどれが聖なるアイテムなのかは判別が付くわね。ただ問題なのは、それが何処にあるかなんだけどね」

「何を言っている。分からないなら探せばいいだけだろ」

 ランスは悩むスラルを前にあっさりとそう言い放つ。

 スラルはしばらくの間ランスを見ていたが、顔に笑みを浮かべる。

「そうね。無ければ探せばいいのだものね。ランスは昔からそうして来たんだから」

 思えばランスの持つ剣も、この魔法ハウスも、ドラゴンの加護も全てランスが冒険に出た結果得たものだ。

 無いなら探す、それはある意味当然の事なのだ。

「じゃあ聖なるアイテムとやらを探してみましょうか? 世界は広いけど、バイクがあれば移動も楽だし魔法ハウスがあれば何処ででも寝れる。思えば恵まれているわね」

「世界を旅ですかー…何かとんでもない事になってますねー」

「あら、嫌なの加奈代」

「いえいえ。むしろJAPANから出たことの無い身としては、逆に楽しみですねー。それに家事が出来る人も必要でしょう?」

 加奈代も実に楽しそうに笑う。

「よーし、決まったな。じゃあまずは大陸に戻るぞ。JAPANには聖なるアイテムなんて無さそうだしな」

 ランスの声に皆が頷く。

 こうしてランスは今度は聖なるアイテムを求め、大陸へと戻る事となった。

「ジル。分かっているな?」

「…大丈夫です」

 ランスの視線にジルは顔を真っ赤にしながら頷く。

「がはははは! 次は大陸だ!」

 

 

 

 

 魔王城―――魔王が住むその城こそ、この大陸では最も危険な場所だと言えるだろう。

 毎日のように人間が殺され、血の臭いが染み付いたこの城こそ、まさに魔王の城に相応しいと言える。

 しかしここ最近の魔王の城は違っていた。

「ぐううう…」

 魔王ナイチサは己のために用意された椅子の上で唸る。

「ぐはっ!」

 そしてその内に手で口元を押さえると、そこには本来ではありえないモノがついている。

 それこそ魔王の血であり、本来は魔王が血を吐き出すなどありえぬ事だ。

「勇者、か…甘く見ていたか」

 魔王ナイチサは今からおよそ50年前、この世界の半分の人間を殺した。

 それはまさに虐殺であり、僅か1年も経たずに人類は終焉を迎えるのかと人々は恐怖した。

 しかし実際には魔王ナイチサをして、生きているのが不思議なくらいの傷を負ってしまった。

 それこそが勇者の力であり、何とか勇者を殺しはしたものの、再び同じことが起きないとは限らなかった。

 だがそれ以上に問題なのは、今はその魔王ナイチサが寿命を迎えようとしていることだ。

「まだ持つと思ったのだがな…勇者め」

 ナイチサは言葉では無く直感で己が寿命を迎えようとしている事を理解していた。

 それも自分の予想よりも50年ほどは早い…本来であれば1000年は生きていられるだろうと思っていた。

 しかし勇者との激闘で、魔王の寿命は大きく削られてしまった。

 それからというもの、ナイチサは己の血の後継者を探してはいたのだが、未だにその後継者は見つかっていない。

(そろそろ一部の魔人共が好き勝手に動くかもしれんな…)

 ナイチサは魔王としての力が衰えてくるのと同時に、配下の魔人達が自分の命令を聞かなくなっているのを自覚している。

 勿論逆らうという事は絶対に無い…弱っている今でも、全ての魔人を相手にしても一人残らず殺せる力は残っている。

 しかしそんな事をしても意味は無いし、ナイチサ自身もそんな事をする気は毛頭無い。

 だが、下手に配下の魔人が好き勝手をし、再び勇者があの力を持つというのは看過できぬ問題だ。

(何としても…勇者の事を次の魔王に伝えなくては…)

 配下の魔人にそんな事を言う必要は無い。

 魔人は全て魔王の下僕、余計な知識を与える必要は無いのだ。

「しかし…好き勝手に動く馬鹿共は出てくるか…」

 レキシントンは好戦的だが、トッポスや同じ魔人とぶつかる事も多いので問題は無い。

 レッドアイは狂ってはいるが、明確な弱点も存在しており長い間戦場に出ることを好んでいない。

 他の魔人も程度に差はあれど、魔王である自分の命令は守ってはいる。

 だが、それでも一部の魔人…特に魔王が作った魔人ではなく、魔血魂を飲み込んで新たに魔人となったものは違う。

 中にはナイチサ自身ほとんど顔を合わせていない魔人もいる。

 パイアールもそうだが、彼は人間には興味が全く無いので問題は無い。

 問題なのは、それ以外の魔人だ。

「…あまり使いたくは無いが、奴が一番確実か」

 魔王ナイチサも一個人であるため、当然好き嫌いがある。

 人間に封印されたザビエルは非常に扱いやすかったが、人間に封印された事で評価が落ちてしまった。

 別に助けに行く必要も無く、他の魔人も全く動かなかったために放置している。

 他にも色々と配下の魔人はいるが…その中でも使いたくは無いのがカミーラとケッセルリンクだ。

 特に理由がある訳でも無く、個人的に使いたくないだけだが、この魔人達は完全に例外だ。

 何故なら二人とも優秀であり、圧倒的な強さを持つ魔人だからだ。

 強さだけならメガラスも相当するが、生憎とメガラスは魔王を前にしても喋らない。

 実際にナイチサもメガラスが喋っている所を見たことが無かった。

「…やはりケッセルリンクか。こういう事には奴が一番使いやすいか」

 最初は夜にしか動けぬ魔人等には興味は無かった。

 だが、それでもケッセルリンクは非常に優秀だった。

 だからあまり動かしたくなかったのだが、やはりこの先の事を考えれば彼女を動かす必要が出てくる。

「ままならぬものよ…だが、全ては次のためだ」

 ナイチサは苦痛に顔を歪めながらも、その顔には笑みが浮かんでいた。




お使いイベントは多分バッサリカットすると思います
何か重大なイベントがあればいいのですが、この時代にぶっちゃけイベントなんて残ってないし…
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