大陸―――そこは魔王ナイチサの虐殺からようやく復興しつつある場所。
しかしその爪痕は大きく、今でも裏社会が蔓延る力こそが全ての世界になっている。
今のこの世界に明確なリーダーと呼べる存在、又は英雄と呼ばれる者が存在しないという事もあるだろう。
だからこそ、ランス達も動きやすいと同時に狙われやすい存在でもある。
「全く雑魚共が。こういう馬鹿は何処にでも出てくるな」
ランスは倒れているならず者を前にうんざりした顔をしている。
こうしたならず者は今は何処の世界にも存在している。
ランスとしては非常に分かりやすいが、こうした連中が来るのは面倒くさい。
何よりも女はいないし、居たとしてもブスだけだ。
「でも中々見つからないものね。聖なるアイテムってどんなのなのかしらね。ランス、あなたは知ってるんでしょ?」
「あの時はリーザスの聖剣、聖鎧、聖盾を使ってたな」
ランスの表情が少し変わる。
あの時サテラを捕らえられなかったのはそれはそれで良かったが、問題なのはその後だった。
カオスを復活させるのにこれらのアイテムが必要だったが、それこそが魔人ノスの目的だった。
その結果、魔王ジルの封印が解かれ、人類は窮地に立たされた。
最終的にランスは何とかジルを倒したが、その後の事は今思い出してもあまり気分の良いものではなかった。
恐ろしい魔王だったとはいえ、ランスは女を見捨てたのだから。
(やっぱりもったいなかったな…いや、でもあのジルちゃんはなぁ…)
今でもあの時ほど恐ろしい相手と相対した事は無い。
魔王であったスラルも確かに恐ろしい強さだったが、魔王ジルは生物としての恐ろしさが桁違いだ。
力を取り戻すために人間の命を吸い、配下の魔人ですらも使い捨ての道具にしか考えていないようだった。
だからこそ、最後にランスに向けたあの執着心、そして感情を荒げたのが記憶に残っている。
「でもこいつらは何者なんですかねー。夜盗の割には装備が整っていますよねー」
加奈代が死体が身に着けている装備を見ながら首を傾げる。
JAPANにも盗賊崩れの被害が有るため、こういう存在は決して珍しくは無い。
しかし、これほど装備を整えている存在は非常に珍しい。
「どちらかと言えば夜盗と言うよりも犯罪組織なのかもしれません」
「犯罪組織だと?」
犯罪組織、それは何処にでもある集団であり、特段珍しいものでもない。
ランスもLP3年頃、ブハードという地下犯罪組織の幹部になっていた。
しかしランスが出し続けていた要求にブハードは応えられなくなり、交渉は決裂。
その結果、ランスはブハードの幹部を皆殺しにした結果、組織は壊滅する事になった。
「生きてるやつはいるか?」
「ランスにやられた奴は全滅ね。というか鎧ごとばっさりいってるからね…ジルの魔法を受けたやつも死んでるし…あ、加奈代に射られた奴が生きてるわね」
スラルは矢が突き刺さって倒れている人間を見つける。
「死んだふりしても無駄よ。致命傷になってないのは分かってるんだから。死にたくなければ起きなさい。3・2・1」
「わ、分かった! 待ってくれ!」
スラルの手に魔力が溜まっているのを感知したのか、倒れていた男が起き上がる。
「よーし、生きてたなら全部話せ」
「ぜ、全部とは一体何を…?」
「お前の知ってること全部だ。何で俺様を狙ったのか、どうやって俺様の事を知ったのか、そしてお前たちは何処の連中なのか全てだ」
ランスは男に剣を突きつける。
それだけで男は完全に震え上がる。
男はランスの異常なまでの剣を嫌というほど見せつけられた。
鎧を着込んでいる仲間ですら、頭から真っ二つにされてしまった。
二人がかりで襲った仲間は目にも留まらぬ速さで両断された。
そして極めつけはあの一撃…それを受けた者達はみなただの肉片へと姿を変えてしまった。
「は、話します! だ、だから命だけはお助けを…」
「じゃあ直ぐに話せ。5分以内に喋らなければ殺す」
「そ、そんなぁ…」
「もう10秒経ったぞ。残りは4分以内だ。とっとと話せ」
ランスの剣が首筋に当てられ、男は震える声で何とか喋りだす。
「お、俺はお前達が珍しいものを持ってると聞いて雇われただけだ! 雇った奴の事は知らない! お、俺達は唯の盗賊団だ! で、でももう無くなった…」
「珍しいもの…まあ確かにね。魔法ハウスは誰かに見られてるだろうし、バイクだって見た事がある者も多いでしょうしね。大陸はそういう情報が回るのが早いのかしらね」
スラルは今の自分達がある意味目立っているのは自覚している。
正直魔法ハウスも隠せるレベルの大きさでは無いし、バイクもメガラスのような非常識な速さをしている訳でも無い。
それでも未だにランス達が捕捉されないのは、ランスの行動力が高いからだ。
ランスはある一定の場所に留まろうとせず、留まる場合でも大抵は町の中の宿屋を拠点とする。
魔法ハウスを使うのも、遠出の時が主だ。
「…あなたは嘘を言っている。あなたを雇った奴の事をあなたは知っているでしょう?」
その時ジルが男に詰め寄る。
この男が嘘を言っているのは火を見るよりも明らかだ。
大体、雇った奴の事を知らずに襲うなど、三流以下のゴロツキがやる行為だ。
「ほ、ほんとに知らねぇ…あがっ!」
男があくまでも知らないと言い張ったとき、ランスの剣が男の肩を貫く。
「俺様は全部話せといったな。それなのにお前は話さなかった。じゃあ死ね」
そして無造作に男の首を刎ねようとした時、
「わ、分かった! 話す! 話すよ! あ、あんた達に懸賞金がかけられてるんだ! あんた達の持ってる物を奪えば金になる! だ、だから襲ったんだ!」
「懸賞金ねえ…まあ確かにお金で手に入るものじゃないしね」
特に魔法ハウスなんかはどんな人間でも欲しがる代物だろう。
何しろ普段はミニチュアサイズの家の模型が、一瞬にして家そのものになるのだ。
その価値は計り知れない…それこそ金に換えられぬ物だ。
「で、誰が懸賞金をかけたの?」
「こ、ここらの犯罪組織の複合体だ! 奴らが協力してアンタ達を狙ってるんだよ!」
「犯罪組織の複合体? そんなのあるのか?」
犯罪組織というのは、大抵は互いに縄張りを求めていがみ合っているものだ。
どちらか一方がどちらか一方を潰すまでは基本的に戦いは終わらない。
それが協力体制を取るなど、普通はありえない事だ。
「アンタ達はやりすぎちまったんだよ…だから奴等も協力体制を取ることなったんだよ」
「あはは…それは確かに…」
男の言葉に加奈代は少し顔を引きつらせる。
大陸に来てからのランスの行動はそれはもう滅茶苦茶なものだった。
ランスのせいで壊滅した集団は数知れないだろう。
聖なるアイテムを求めてランスは今大陸を駆け巡っているが、生憎とそのアイテムはまだ一つしか見つかっていない。
その過程で多数の組織を壊滅に追い込んだりしているのだから、当然恨みもかっているだろう。
「で、あんたは金に目が眩んで私達を襲ったって訳?」
レダが呆れながら男を見る。
「アンタ達が俺達の取引相手を潰したからだ…だがまさか逆に俺達が潰されるなんて…」
相手は4人、不意をつけば何とかなると考えたのが運のつきだ。
傷一つ負わせる事も出来ずに返り討ちにあってしまった。
「ふーん…で、その犯罪組織の集団とやらは何処にある」
「こ、ここから西にあるウェスティーズだ」
「嘘じゃないだろうな」
「ほ、本当だ! 頼む、信じてくれ!」
ジルは必死に叫ぶ男を注視しているが、やがてランスに向かって頷く。
ランスはそれを受けて、
「ちなみにお前は4分以内に説明する事は出来なかった。だから死ね」
「そ、そんな…うぎゃーーーーー!!」
ランスはあっさりと男を殺す。
「…何も殺さなくても」
「こういう奴らは生かしておいても害になるだけだ。それよりもその犯罪組織とやらをぶっ潰すぞ」
「ぶっ潰すって…そんな事する意味あるの?」
事も無げに言うランスに、レダは少し不満気な顔だ。
あくまでも首を突っ込もうとするランスの行動は、レダにとっては好ましいものではない。
もう諦めてはいるのだが、それでも口には出てしまう。
「いつまでも狙われるのは面倒だからな。それにああいう奴等はお宝を溜め込んでいるからな。その中に聖なるアイテムが一つくらいあるだろ」
「んー…まあね。闇雲に探すよりは遥かに楽ね。私が見ればいいだけだし…」
聖なるアイテムを探して1ヶ月…成果は聖なるうしミイラ一つだけとなると、確かに効率が悪すぎる。
レダは聖なるアイテムを判別出来るとはいえ、ダンジョン巡りでは限界もある。
「よーし、じゃあその犯罪組織とかいう奴を潰しに行くぞ」
こうしてランスは犯罪組織を潰すべく動き始めた。
「いやー、ランスさんって本当に滅茶苦茶ですねー。今度は犯罪組織を潰すなんて言うんですから」
「不愉快な連中は潰すに限るだろ。居なくなっても何も問題は無い」
ランスは加奈代に背中を洗わせながらゆったりしていた。
加奈代も何も躊躇う事無く、ランスの体…背中だけでなく前も、そしてハイパー兵器にも手を伸ばす。
その加奈代の行為にランスは楽しそうに笑っているが、唐突に真面目な表情になる。
「ところで…お前は女の方が好きなんだろ」
「そうですねー。やっぱり女の子は好きですよー。レダさんもスラルさんもジルさんも皆魅力的ですから。あ、大まおーさんも可愛いから好きですよ。勿論ランスさんも好きですよー」
「…まあバイならまだ許す。だがレダもスラルちゃんもジルも俺様の女だ。手を出すのはいかんぞ。まあ3Pだというなら構わんが」
「ランスさんは寛大ですねー」
加奈代はニコニコと笑いながら強弱をつけてハイパー兵器をこすり上げる。
「おっとそこまでだ。このまま出すなど勿体無いからな」
ランスは加奈代の腕を止めると、そのままその体を持ち上げる。
「では行くぞ。とーーーーーーっ!」
「んんっ…」
そして加奈代をそのまま貫き、最初から全開で動き始める。
加奈代はランスの体にしがみ付きされるがままになっている。
「最初は泣いていたくせに、今は随分と慣れたな」
「そ、それは…あれから何十回もしてれば慣れますよー。あ、でも私ランスさんの事も凄い好きですから、誤解しないで下さいね」
「お前が言うとなんか胡散臭いが…まあ楽しめるならなんでもオーケだ」
ランスはそのまま風呂の中で加奈代の体を味わい、風呂から上がった後でも何度でも楽しむ。
それがランスの日常なのだが、こうしてランスが動いているように、今この世界で非常に大きな動きが有る事はまだ誰も知らなかった。
「でもさ、ランス。その犯罪組織だっけ? それを潰すっていってもどうするの?」
「…お前、脳筋のくせにそんな事もわからんのか」
首を傾げるレダに対して、ランスは呆れたようにため息をつく。
「そんなの真正面から一気にぶっ潰せばいいだけだ。まああれだ、スラルちゃんと俺様の必殺技なら余裕だろ」
ランスには公算が有る。
それはスラルとの合体技である必殺技をいきなりぶっ放せばいいのだ。
あれだけの範囲と威力があれば、相手はそれだけで大混乱になる。
その混乱に乗じてお宝を頂く…そんな事を考えていた。
「あのー…ランス様。それだと無関係の人も巻き込まれると思うんですけど…」
「犯罪組織の町ならぶっ潰してもいいだろ。男がどうなろうが俺様の知った事では無いからな」
「そ、それだと犯罪組織に浚われた女性とかも巻き込まれますよ」
「むっ…」
ジルの言葉にランスは考え込む。
彼女の言う事は尤もであり、そういう犯罪組織の商品になるのは大抵は子供か、美しい女性で有る事が多い。
「…じゃあそれは止めとくか」
あっさりと言葉を翻したランスに、スラルは感心した様子でジルを見る。
(ジル…ランスの制御の仕方を分かってきたのかしらね。やっぱり頭が良いわね、この子)
ジルの頭の良さはスラルも認めており、彼女との魔法の談義は非常に面白い。
ランスの言っていた魔封印結界に関しても、スラル、ジル、レダの三人で色々と構成を考えている途中だ。
「ランス、まずは情報収集よ。それが無いとどう戦略を立てればいいかも分からないわ。ただ…私達、思いっきりあいつらに目をつけられてるみたいなのよね」
スラルはまずは情報収集をするべきだと考える。
考える…が、同時にそれは難しい事も理解している。
「相手は組織ですからね…私達の事は知れ渡っていると考えてもいいでしょうし」
ジルも困った顔をしている。
相手が組織というのは厄介で、過去には自分も組織的に狙われて捕えられてしまった。
もしランスが買ってくれなければ、精神を崩壊させられた上で一生慰み者になっていたかもしれない。
「フン、そんなの余裕だ余裕だ」
「また悪い顔をしてますねー、ランスさん」
非常に悪い顔をしているランスに対して、加奈代は楽しそうに笑う。
ランスがそういう顔をしている時は大抵ロクでも無い事を考えている時なのだが、不謹慎かもしれないが何をやらかすか楽しみでもある。
「だがその前にやる事があるな。よーし、明日から早速動くぞ」
勿論ランスに考えはある。
考えはあるのだが…問題は、ランスの考えについていける者が少ないという事かも知れない。
そしてそれに振り回される者達という構図は何時の時代も変わらないものだった。
「…ねえランス、あなた結構堂々と歩いてるけどいいの?」
「こういう場合はこそこそする方が怪しまれるだろ。堂々としてればいいんだ」
「まあ…ランスも変装してるから問題無いと思うけどね。それにしても加奈代には服飾の才能があったのね」
今のランスの普段の緑の服では無く、JAPAN風の格好をしている。
JAPANの藤原石丸が大陸の半分を統一してからまだ200年…JAPANの者の中には大陸に残った者もいる。
なのでこういったJAPANの文化と大陸の文化を合わせたような恰好は珍しくない。
その証拠に、ランスを見る目は特段と変わったものでは無い。
「で、スラルちゃん。何か分かったか」
「…たまに自分の才能が良く分からなくなるわね。なんか特に聞きたくも無い情報とかも入って来るんだけど」
(ランスの濡れ場を見る事が多いのは案外その所為なのかしらね…)
ランスは適当に歩いているというのに、スラルの耳には色々な情報が入ってくる。
全く関係の無い情報もあるが、自分達が必要な情報が入って来る事も多い。
「ランス。どういう手を使うの? シャロンの時やJAPANの時みたいに戦力の確保も難しい状況だけど」
シャロンの時は盗賊団を乗っ取って行動していたが、その盗賊団は中々に優秀だった。
それはあの時に居た人間にその手の才能が有る者が居たからだ。
JAPANの時は呪い付きの者達を解放する事で戦力を増やしていった。
しかし今の状況は勝手が違い、ランスは今は追われる立場だ。
そんな状況でもこんなに堂々と動けるとは、スラルからすればランスは非常に大胆だ。
無鉄砲とも言えるかもしれないが、それでも結果は出すのだからスラルとしても複雑な気分だ。
「何をやるかと言われれば簡単だな。奴等の組織をそのまま乗っ取ればいい」
「乗っ取るって…相手の全容も分からない状況だと危険と言うか無謀と言うか…」
「じゃあスラルちゃんは何かいい手段があると言うのか」
「…この場から離れて別の場所でアイテムを探すとか?」
スラルの言葉にランスは鼻で笑う。
「それはいくらなんでも臆病過ぎだな。それに逃げるのは俺の性に合わん」
「…本当にどうしようもない時は躊躇いなく逃げる癖に」
「何か言ったか」
「いいえ何も。ランスはそう言った嗅覚が抜群だなって思っただけ」
ランスのやる事は不思議と上手く行く事が多い。
JAPANの時の様に目的を果たせなかったりした事もあったが、それでも魔人と幾度となく戦って生き残っている戦士の感覚は本物だ。
「大まおーとの情報も合わせたいし、一度戻りましょうか?」
「そうだな。しかしこの町は活気が無いな。自由都市やリーザスとは大違いだな」
ランスが今居る辺りはLP期における自由都市の辺りだが、そうとは思えない程に活気が無い。
まるでヘルマンの寒村にでもいるように空気が重く感じる。
「ランスが何を言ってるかは分からないけど…確かに重苦しいわね。魔軍と戦っていた時とはまた違う空気ね」
スラルも感じ取っていたのは、この町には活気が無いという事だ。
特段モンスターの被害がある訳でも無く、魔王による人間の虐殺も今から約50年前…魔人も大人しくしているようだ。
特に戦争の予兆もある訳でも無く、ここまで活気が無いというのはスラルには想像も出来なかった。
「とにかく一旦戻るぞ。その後で決めれば良いだけだ」
「それもそうね」
ランス達は一旦レダ達と合流すべく、宿に向かって歩き始めた。
「戻ったぞ」
「お帰りなさい、ランス様」
宿に戻ったランスをジルが出迎える。
「何か変わった事はあったか」
「いいえ、何も。私達がここに居る事をまだ知らないのだと思います」
「そうか」
ランスは宿に戻るとまず一番に着替える。
「あー…ランスさん、やっぱり落ち着きませんか」
その様子を見ていた加奈代は少し難しい顔をする。
自分なりにランスの体に合う服を作ったつもりだったが、気に入らなかったのだろうかと思ってしまう。
「落ち着かんというよりも慣れん格好では戦いにくいからな。お前達も何時でも動ける格好にはしておけ」
「そ、そうですね…分かりました」
ランスの言葉を聞いて加奈代も納得する。
確かに普段着慣れない服ではランスも動きにくいだろう。
「大まおーは戻ってるかしら?」
「まーおー!」
スラルの言葉に合わせてベッドの中から大まおーが現れる。
「…何やってるのよあんた」
「まーおー!」
「大まおーさんって結構あったかいんですよね。抱き枕としてぴったりなんですよ」
加奈代は起き上がった大まおーを撫でながら微笑む。
「いいなぁ…」
スラルはそれを見て、自分も大まおーに触れてみたいと思うが今は触れられないのを残念に思う。
「それよりもだ。そっちはどうだったんだ」
「まお! まーおー!」
「へー…そうなんだ。うん、私も似たような感じ」
「まーおー! まーお! まおまお!」
「なるほどね…だとするとランスの計画も満更行き当たりばったりでは無いって事かな…」
スラルは大まおーの言葉を聞いて、改めてこれからの事を考える。
ランスの言ってる事は正直滅茶苦茶だと思ったが、付け入る隙はありそうだ。
「ねえランス。この場合は速攻で動く必要があると思うし、その後の事も考えないといけないんだけど、こういうのはどうかな」
スラルはこれからの事を考えて笑みを浮かべる。
「うわぁ…」
加奈代はスラルの笑みを見て思わず声を出す。
それは非常に良い笑みであると同時に、非常に邪悪そうな笑みだったからだ。
(スラルさんもあんな風に笑うんだ…いや、流石ランスさんと一緒に居るだけありますね)
そしてランスとスラルは凄い相性が良いのでは、と思っていた。
???―――
ぐちゃぐちゃと何かを咀嚼する音が響き渡る。
その音を出している巨体は、態と咀嚼音を響かせながらソレを恍惚の表情で食べていた。
「オ~…やっぱり子供は柔らかくてベリー食べやすいね」
ソレが手にしているのは人間の子供だった。
緑色の醜悪な体を持つソレが次に手に取ったのは成人男性だった。
そしてその手にした成人男性の頭を丸かじりにする。
そこからは当然のように血が飛び散り、男は絶命する。
「やっぱり絶命の瞬間の痙攣はたまらない。一体につき一度の食感ね」
ソレは醜悪に笑いながら男を、そして子供を交互に食べていく。
少しの間咀嚼を続けていたが、その内その口から食べていた肉体を吐き出す。
「ウグ…グエエエエエエエエ! おっと食べ過ぎてしまったね」
そう笑いながらもその巨体は人間を食べる手を止めない。
「何をやっている。マッキンリー」
「オオウ…トルーマン。食事の時間でーす…」
マッキンリーと呼ばれた醜悪な存在は人間を咀嚼するのを止めない。
そんな姿を見てトルーマンと呼ばれた存在は呆れたようにマッキンリーを睨む。
「下らぬ事は後にしろ。それよりも直ぐにでも人を神の御許に送らねばならぬ」
トルーマンの顔は一見真面目に見えるが、その顔にはマッキンリーと呼ばれた者と変わらぬ醜悪さがある。
魔人トルーマンとその使徒マッキンリーは、魔王ナイチサが動けぬ事を良い事に好き勝手していた。
魔人トルーマンは魔王ナイチサが魔人とした存在では無く、失われていた魔血魂を飲み込んだ事で魔人と化した存在の一人だ。
狂信的なAL教の信者であったトルーマンは、人に在らざる存在となってもその信仰心は失われていない。
いや、より一層その狂気は増幅されている。
人を殺す事は、己の信じる神である女神ALICEへの供物と信じて疑わない。
人であった頃からAL教に従わぬ者を異端とし、女は魔女と決めつけて嬲り殺しにし、男も異端の使徒として殺して来た。
そしてもう一つ、それは神の残したとされる聖なるアイテムを集め、神へと捧げる事。
それこそが魔人トルーマンの全て―――というのは全てトルーマンが好き勝手する動機に過ぎない。
その本質は、強者に媚び諂い、人を己の欲望のままに神へ捧げるという言葉を持って、人を殺す事。
浄化と称し、人に苛烈な拷問を行い殺す事を全てとする狂った魔人、それがトルーマンだ。
そしてNC900年、魔王であるナイチサが勇者と戦いその力を大きく減らしたのを良い事に、人間界で好き勝手している。
「行くぞ、マッキンリー。人間狩りの時間だ」
「イエストルーマン。今度は女を足から丸齧り…ミンチにしてハンバーグもいい…」
そして元人間であった事など微塵も感じさせない異形の存在。
使徒となった今でも人間を喰うのを止められない。
いや、使徒となったからこそその欲求は留まる事を知らない。
老若男女問わず人間を喰い続け、最早人間以外の食事は受け付けない。
レッドアイとは違った狂気を持った魔人と使徒は、既に動いている。
この世界の人間に地獄を見せるために。
新しいオリ魔人ですが、これは元ネタは大帝国です
そして立場ですが、原作にてGL期にケイブリスに殺された奴です
多分アリスソフトもそこまで設定考えてないと思いますので…