面接…それは採用にあたり非常に重要な事。
元魔王スラルは、魔人を作るに当たって重視したのは『その者が自分に忠義を尽くしてくれるか』という点を見ていた。
臆病で慎重と称された魔王は、歴史において2体の魔人しか作らなかった。
それだけ魔人を作るのに慎重だったとも言える。
しかし魔王でなくなった今、スラルが重要視するのはその者の純粋な力だ。
勿論力だけが全てではない…いくら力に優れていようとも、裏切るような奴は問題外だ。
そして居るだけでも害になるという者も論外だ。
魔王として色々な存在を見てきたスラルは、知らず知らずのうちに人を見抜く力が肥えてきた。
「………」
そんなスラルの前に男達が整列している。
スラルは今は幽霊ではあるが、その身に纏うプレッシャーまでは衰えていない。
勿論魔王であった頃の力は全く無いが、それでも彼女の持つレベルと己の中に僅かに残っているであろう魔王の残骸は人間には覿面だった。
(うーん…JAPANの時ほどは人材は多くないか…いや、JAPANが特殊だったと言うべきかな)
JAPANに居た時は中々の人材が集まってきたが、大陸はそれほどでも無いようだ。
(でも…切り捨てるという程でもない。末端は務まるけど、責任のある立場には上げたくない、そんな奴等ね)
まあ優秀な人材などそう集まるものでもない、というのは既に嫌というほど理解している。
問題なのは、ランスを、そして自分達を裏切らない忠誠心があるかどうかだ。
(女に関してはランスに任せても大丈夫ね。というかランスに任せないと子供みたいに怒るし…でも、強い女を惹き付けるのはランスの特性みたいなものだし心配はしてないけど)
そうなるとやはり男なのだが…上手くいかないのはまあ仕方の無いことだと理解もする。
「まあいいわ。あなた達は使ってあげるわ。でも…裏切った場合は殺すわ。ねえ、大まおー」
「まーおー!」
スラルの言葉に大まおーが大鎌を構える。
その大まおーの声に男達は皆震える。
大まおーの力は既に見せ付けられており、この面談の前に何人もの仲間がこの大まおーによって殺された。
新たなボスであるランスもそうだが、この得体の知れない存在には潜在的な恐怖を持たざるを得なかった。
「行きなさい。まずは全ての書類の整理、そして魔法の書を探して持ってきなさい」
「「「はっ!!!」」」
男達は勢いよく返事をしてその場を立ち去っていく。
「次。入りなさい」
「「「はい!!!」」」
スラルの言葉に新しい男達が入ってくる。
「あら」
その男を見て、スラルは少し驚いたように声を出す。
そこに立っていたのは、真っ先にランスに忠誠を誓った中年の男、ゲンバが居たからだ。
「あなたも来たのね」
「ええ。何ていうか…ボスは俺が男ってだけで扱いが悪くなりそうで…」
「ランスが男の扱いを良くするというのは諦めなさい。でも、私は性別によらず正当に評価はするわよ。でも、裏切りは絶対に許さないけどね」
スラルの体から強烈なプレッシャーが放たれる。
それだけでゲンバは背筋が凍るが、同時に新しいボスと、その仲間が恐ろしい力を持っていることに興奮もしてしまう。
「あなた…JAPANの人間? 加奈代がそんな事を言ってたけど」
「いえいえ。俺の祖先がJAPANの人間だとは聞いてますけどね。祖父の代から受け継いできた道具がJAPANから来たと聞いて正直驚いてますよ」
「ふーん…」
ゲンバの言葉にスラルの目が細くなる。
(こいつは…中々の拾い物かもしれないわね。流石にほのか程の力は無いけど、それでも忍者…シーフの技能を持ってるのは貴重だしね)
「まあいいわ。あなたは情報を集めなさい。どんな些細な情報でも構わない。元の組織と敵対していた奴らの事は特にね」
「はっ!」
ゲンバはスラルの言葉に勢いよく返事をする。
彼とて唯の中年ではなく、中々出来る男だとスラルは睨んだ。
彼をトップとして、情報収集の機関を作らなければならない。
ノウハウは幸いにもJAPANの時に学ぶことが出来た。
平森盛やほのか達とのやりとりはこうして今自分を助けてくれている。
「資金はある程度好きに使いなさい。何よりもまずは情報を仕入れる必要がある。それと…聖なるアイテムというのは知ってるかしら?」
「聖なるアイテムですか? それでしたら、我々と敵対していた組織が集めてるって話です。何でもとんでもない力を持ってるアイテムもあるとか…噂だけで俺達も見たことは有りませんが」
「そう…聖なるアイテムを集めている…AL教団関係かしら?」
聖なるアイテムを集めているとなると、真っ先に気になるのがやはりAL教団だ。
自分が魔王の時からそういう宗教があるのは知っていたが、所詮は人間の宗教と見てて大して気にも留めていなかった。
しかし現実には今はこの世界最大の宗教となっており、神魔法は特に人間世界にとっては切っては切れない力になっている。
なので、真っ先にAL教団関係が思い浮かんだのだが、
「どうでしょうか…正直AL教は我々とはあんまり仲が良くないもので…AL教の連中にもテンプルナイトという厄介な集団が居ますし」
「テンプルナイト、か…まあAL教の事はひとまずいいわ。とにかく、聖なるアイテムの事も重点的に探しなさい」
「「「ははっ!」」」
ゲンバを初めとした男達はスラルに一礼して早速動き始める。
どうやらゲンバと共に来た男達は、彼が自ら選んだ部下のようだった。
(手探りに近いけど…地道にやっていくしかないわね。ランスはこういう組織の運営にはあんまり興味が無いみたいだし…その代わりカリスマは本当に凄いんだけどね)
こういった面倒な事に関してはランスはこちらにほぼ丸投げしてくるが、それがかえって有り難い。
(まずは組織をスムーズにしないとね…とにかく、無能な働き者なんてのは論外だしね。そこだけはしっかり見極めないと)
「次、入りなさい」
こうしてスラルの組織運営は静かに進んでいった。
「こちらになります!」
「ありがとう。置いておいて」
ジルはレダと共に書物を読み漁っていた。
書物といっても唯の書物ではなく、魔法に関する書物だ。
勿論中には下らないものや、既に頭の中に入っている物も有る。
だが、それでも今は何よりも手がかりを掴まなければならない。
「レダさん。本当にランス様の言う魔封印結界というのはあるのですか?」
「んー…それに関してはランスを信じてもいいと思うわよ。そういった事に関しては嘘は言わないわよ」
レダもランスの言う魔封印結界に関しては信じている。
確かそんな術があったような気もするが、何しろ人が魔人に対して編み出した魔法の一つだ。
そんなものは魔人の無敵結界を無視できるエンジェルナイトには不必要な魔法だ。
(私の力も早く戻ればいいんだけど…一体いつになったら戻るのか)
ランスと初めて会った時よりもレベルは上がっているが、相変わらずエンジェルナイトとしての力は使えない。
翼は生やせないし、無敵結界も無視できない。
普通の人間よりは遥かに強いが、元の強さから考えればやはり心許ない。
「聖なるアイテムが4つ必要…随分具体的ですけど…」
ジルとしては戦士であるランスが何故そんな術を知っているのか、そして必要な物を知っているのかという疑問はあるが、それよりもまずは魔人に対抗する手段を探すのが先だ。
今はまだ魔王も魔人も動きを見せていないが、何れは再び魔人によって蹂躙される日が来るのは分かっている。
その前に、何としても魔人を倒す手段を見つけ、それを後世に伝えなければならない。
「でも私神魔法使えないんですよね…」
魔封印結界はどうやら神魔法の類であるようだ。
ジルは魔力に秀でて、魔法の才能は確かに有るのだが、生憎と神魔法の才能までは授けてくれなかった。
「それは私が使えるから大丈夫よ。それよりも…中々聖なるアイテムも見当たらないわよね」
「まだ一つですからね…」
神の由来のアイテムを4つ集める、というのは中々難しい。
ランスと何度かダンジョンを回っては見たが、まだ一つしか見つけていない。
「それはスラルとランスに任せればいいわよ。まずは私達はそのための術法を完成させないとね」
「そうですね」
聖なるアイテムを集めるというのもそうだが、それよりもまずは魔封印結界の術法の完成をさせなければならない。
幸いにもスラル、レダ、ジルと魔法にも強い者が集まれば何とかなりそうではある。
「でも…ランス様って相当無茶苦茶ですね。まさかこの組織を乗っ取るだなんて…」
「私からすれば今更だけどね。でも悪いようにはならないでしょ。少なくとも私達にはね」
「…そうですね」
ジルはレダのようにそう簡単に割り切る事は出来ないが、やはり少しもやもやしてしまう。
ランスのやっている事はまさに悪党そのものであり、実力がある分非常に性質が悪い。
(でも…それでも凄い魅力的に見えてしまう)
人に裏切られ、絶望していた自分をある意味暴力で奪った人間ではあるが、何故か嫌では無かった。
一応ランスの奴隷という事ではあるのだが、特に乱暴にされる訳でも無い。
いや、ランスと一緒に風呂に入ってからスキンシップは徐々に激しくなっているが、もう殆ど拒む事が出来ない。
もし今ランスに本気で押し倒されれば、間違いなく自分は受け入れるだろう。
だが、決してそうはしない…本当に自分との約束を守るつもりなのだ。
即ち、魔人を倒すという到底不可能とも言える出来事を。
「ところでランスは何時まで『特別室』とやらに入ってるのかしらね」
「あ、あはは…」
レダの呆れた声に、ジルも曖昧な返事をするしかない。
『特別室』とは、ランスが自分専用に作らせた一室であり、ランスは少しの間そこに籠っている。
(もう…ランス様の馬鹿…)
そこには複雑な乙女心が渦巻いているのを、ランスはまだ知らなかった。
「がははははははーーーー!」
「きゃーーーー!」
ランスの居る『特別室』でランスの笑い声と、女の黄色い悲鳴が響く。
「ランスさん絶好調ですねー」
「とーぜんだ! ようやく俺様に相応しいハーレムが一つ出来たんだからな!」
ランスと一緒に女の子を見てニコニコと笑っている加奈代が、ランスの後ろから抱きつきながらその頬を撫でる。
「それにしてもやっぱりランスさんはランスさんですねー。真っ先にする事がハーレムを作る事なんですから」
「がはははは! 男なら当然だ当然! 俺様のハーレムには際限は無いのだ!」
ランスがこの組織を乗っ取ってから真っ先にした事…それは自分専用のハーレムを作る事だ。
と、言っても無理矢理女の子を引っ張り込んだのではなく、あくまでも志願制によるものだ。
この組織の元のボスは死んだが、新たなボスが現れたと聞いて、この組織に囚われていた者達は気が気では無かった。
もし元のボスよりも残忍だったらどうすればいいのか…そんな不安、そして絶望感に襲われていたのだが、ランスは全く違う男だった。
ランスのハーレムに残ったのは身寄りの無い者や、ランスの側に居て一旗揚げようという野心を持っている者がほとんどだ。
出ていきたいという者は、嫌でなければランスが一発ズバッとやってから金を渡されて返された。
そして好き勝手しているランスではあるが、一人ぶすっとした顔でランスを睨んでいる女が居る。
「…お前はいい加減俺様を睨むのをやめたらどうだ」
「私の勝手でしょ。言ったでしょ、あなたは私にとってはどうでもいい存在だってね」
「ここに居るくせに何言ってやがる。偉そうな事を言っておきながら、俺様の下であひんあひん…」
「そういう所が嫌なのよ! 全く…それだけの器やカリスマがあってどうして…」
褐色の肌をした女はランスを睨むのを止めない。
「ハンナさんはランスさんに不満があるんですかー?」
「大有りよ! そりゃ確かに強いし決断力には文句は無いわ! でもこいつが居ると私がトップに立てないでしょ!」
「それは大変ですねー。でもランスさんを蹴落とすなら、スラルさんとレダさんとジルさんを何とかしないとならないのでは?」
「分かってるわよ! それが難しいから悩んでるんじゃない!」
ハンナは加奈代に言われて盛大にため息をつく。
「何だお前、俺様を蹴落とそうとしてたのか」
「若しくは裏からアンタを操ろうと思ってたんだけどね。だけど殆どスラルが裏のボスみたいなものじゃない」
ランスは確かにこの組織を乗っ取ってボスになったが、実質的にこの組織を動かしているのはスラルだ。
勿論スラルがランスを好きに操っているのではなく、ランスのやりたい事をスラルが整えているだけだ。
「まさか組織の運営を丸投げするなんてね…普通そんなの考えられないわよ」
トップの人間が組織の在り方を丸投げするなど考えられない。
考えられないが、それでも何故か知らないがこの男は上手くやっている。
それもこの男が持つ絶対的な力、決断力、カリスマ…そして何よりも信頼できる有能な者が居る事が何よりも腹立たしい。
一度懐柔しようとしてみたが、それは不可能だと判断した。
あの自分を見透かすような透明な目、そして時折感じられる異常なまでの圧力が恐ろしかった。
「はあ…折角私の時代が来ると思ったのに…」
「まあまあ。スラルさんもあなたには目をかけていますし、何も問題は無いのでは?」
「自由に動けるし、お金もある程度自由に動かせるのはいいんだけどね…それでもスラルの掌中で踊らされてるだけなような気がするのよ」
今のハンナはかなり自由に動けるし、組織の中で頭角を現してきているのではあるが、何よりもトップを目指す事が彼女の目標なのだ。
しかしそのトップの背中が全く見えない者と、背中は見えているのに全く超えれる気がしないのが一番の悩みだ。
「がはははは! まあお前にスラルちゃんを超えるのは無理だな。という訳でセーックス!」
「何が『という訳』なのよ! あ、こら! 気安く触るな!」
「もう何度も俺様に抱かれてるくせに何を言う。とーーーーーっ!」
「きゃああああ!」
こうしてランスは自分のハーレムを心行くまで堪能していた。
そしてランスが新たなボスとなり、2週間が経過した。
勿論ランスもただハーレムで遊んでいた訳では無く、小競り合いの中相手の組織を潰したり、配下に治めたりと色々とあった。
そのため、この組織も当初よりも遥かに大きくなっていた。
ランスとしては組織の運営などどうでも良かったが、スラルが非常に楽しそうだったので特に口は出さなかった。
それよりも、集めた女の子と色々と楽しむ方が先だった。
そして今はこの組織の幹部達が一堂に会していた。
「さて、報告しなさい」
ランスの隣にいるスラルの言葉に皆の表情が引き締まる。
この組織のボスはランスだが、スラルもまたランスと同じくボスに等しい存在だ。
いや、実質的な組織の運営は彼女によってもたらされていると言っても過言では無い。
「その…まだ聖なるアイテムとやらは見つかっていません…」
情報を集める事を主としているゲンバが冷や汗をかきながら報告する。
「何だと」
その短い言葉だけでゲンバの顔色が目に見えて悪くなる。
ランスは女の子には寛大だが、その一方で男には非常に厳しい。
気に入らなければ殺されてもおかしくは無いが、そうされないのはスラルとジル、そして加奈代が止めているからだ。
「役に立たんな。それが出来ないならお前を置いとく必要は無いぞ」
「そ、そうは言ってもですね。そもそも聖なるアイテムなんて中々見つからないもので…」
ゲンバは何とか言い訳をするが、ランスの眼光を感じ取りますます体が震えてくる。
「待ちなさいよ。そんな簡単に見つかる物じゃないでしょ? そもそも聖なるアイテムなんてこいつらには分からないんだから」
ランスを諌めたのはレダだ。
(レダの姉さん…彼女も非常に怖いんだよな…何というか、俺達に興味が無いみたいな冷酷な感じがなぁ…)
非常に美しい外見とは裏腹に、彼女の態度は非常に素っ気ないものだ。
まるで自分達に興味を示さぬその態度は、ランスとは違った意味で恐ろしい。
何よりも、彼女もまた異常なまでの強さを持っている。
「フン。大の大人が揃って何も成果が無いなど許される事では無いな」
レダの言葉にもランスの態度は変わらないが、
「ラ、ランス様…そうは言っても、中々見つからないのは分かっていた事ですから…」
ジルがゲンバをフォローするように言葉を放つ。
(うう…やっぱジルさんは良い人だ)
ジルはランスの奴隷ではあるが、その地位は非常に高い。
奴隷と言っても、彼女に手を出すのは決して許されない。
下手に声をかければ、それだけでランスに斬り殺されても可笑しくは無いのだ。
だが、非常に賢く聡明な彼女はゲンバにとっては何よりの癒しと言えた。
「見つからないのは仕方ないわ。それじゃあ次の報告をしなさい」
スラルの言葉に次々に報告が上がっていくが、当のランス本人は全く興味が無いように足をぶらぶらさせている。
実際に組織の経営になど全く興味が無く、面倒臭くなればいつでもそれを捨てる事が出来るのがランスという男なのだ。
だが、その内にランスが興味を示す話が出て来る…と言うよりも、その報告者に興味を示す。
「こちらは上々です。このままいけば、他の所にも店を出す事が出来るわ」
そう言うのは、金色の髪をツインテールにした少女だ。
「キャロル。そちらの方は何か情報は無いのかしら」
「それはちょっと…一番の問題なのは、その聖なるアイテムというのが判断できない事だから…」
スラルの言葉にキャロルと呼ばれた少女が難しい顔をする。
彼女はスラルが見出した者の一人で、金儲けの才能がずば抜けている。
人間の社会を学んできたスラルとしては、お金の大切さをこれでもかという程に思い知らされた。
魔王であった頃は通貨に価値など見出せなかったし、実際魔物にとっては人間の通貨など殆ど興味が無い物だ。
中には金銀財宝を集める魔物もいるが、スラル個人としてはどうでも良い事だった。
が、こうしてランスと行動を共にし、JAPANでの妖怪と人間の混合部隊を動かすに当たり、金の大切さを思い知った。
人間社会の中では金は重要であり、それが無ければ何をするのも難しいという事を学んだ。
「そればっかりは仕方ないか…レダしか見抜ける者が居ないのも問題ね…それについては神官を抱き込むしかないか」
「それならこちらに伝手が有るわよ。神官といっても脛に傷のある奴等も多いしね」
そう言ったのは、ランスのハーレムに入って何とかランスを裏から操ろうとして結局上手くいっていない女性、ハンナだ。
彼女の野心は当然スラルも気づいていたが、能力も有り、何よりも『残る』と言った以上スラルが何も言う事は出来ない。
(暗殺とかそういう短絡的な手段を取らないのは有難いわね。彼女はあくまでもランスを隠れ蓑にしてそこから組織を動かしたいタイプだし)
ランスを裏から操る…勿論そんな事は出来る訳が無いとスラルは踏んでいる。
もしランスに危害を加えようとするなら、レダが容赦しないだろうし、何よりもランス本人がその事に気づいている。
(それに…どうせランスは目的の物を手に入れて、飽きてしまったらまた何処かへ旅立つだろうしね)
ランスの冒険好きは筋金入りで、ある意味女よりも冒険を求めていると言ってもいいかもしれない。
ただ、その冒険先で必ずランスの目に適う女性が居るというだけだ。
それはともかく、彼女もまた人心掌握等に長けており、何よりも情報を優先するタイプだ。
それ故に情報収集を任せているが、今の所情報を止めているという事は無い。
(そんな事をしている余裕なんて無いしね)
新興組織と言ってもいい今の状況では彼女も好き勝手に出来る事なんてそう多くない。
小金稼ぎ程度ならスラルも見逃していいと思っているし、何よりも重要な情報は出し惜しみはしない。
彼女も今の状況をしっかりと理解しているのだ。
今はランスと言う強大なボスがいるからこそ、組織が成り立っているという事を。
「使えない奴を使うつもりは無いわ。とにかくそこは任せてほしいわね。いくらか資金は包んでほしいけどね」
人間を動かすには金が一番―――それがハンナがこれまでの生で学んだ事だ。
中にはランスのように、金より女という人間もいるのだが、大抵の人間は金で転ぶ。
特にこの町のように裏組織が絡んでいるとなれば尚更だ。
「それは好きにしなさい。ただし…失敗は許さない。全員、それを忘れないようにね」
スラルがそう言った瞬間、周囲の気温が下がったような感覚に襲われる。
それを感じていないのは、ランスとレダくらいだ。
「では動きなさい」
スラルの言葉を待っていたように皆が動き始める。
そして残ったのはランス一味だけだ。
「中々上手くいかないわね。聖なるアイテムというのも見つからないし。ジルの方はどうなの?」
「大丈夫です。結構書物の方も揃って来ましたから。魔封印結界の事は記述は有りませんでしたが、聖なるアイテムに関しては色々と分かって来ました」
「なら良かったわ。そっちはジルに任せるからお願いね」
スラルの言葉にジルは頷く。
そちらの方も実際にそれらしき記述が見つかりつつあった。
一体何処でそんな書物が作られたかは知らないが、確かにその本は用意されていた。
その本はジルからすれば難解な文字であったが、幸いにもレダがその文字を読めるためスムーズに進んでいた。
それは一時代前に使われてた言葉だが、藤原石丸が大陸を統一しようとする際に、全ての言語が当時のJAPANの言葉に統一された。
その言葉は今でも大陸に根付いており、それは遥か未来のランスの生きている時代…LP期においても使用されている。
「しかし思った以上に退屈だ。詰まらん」
「あー…やっぱり?」
ランスが本当に退屈そうにしているのを見て、スラルも苦笑する。
ここ最近のランスは組織同士の小競り合いに駆り出されており、肝心の冒険が出来ていない。
JAPANの時はある程度ダンジョンを巡る時間なども取れたが、今の状況ではそれも難しい状況だ。
最近争いが活発になっているのはランスも理解しているが、本来はランスにはそんな事など知った事では無いのだ。
「おいスラルちゃん。何時までこんな事をする気だ」
「少なくとも聖なるアイテムを後3つ揃えるまでは動けないと思うわよ。正直、私達だけで探すよりも余程効率は良い訳だし」
「詰まらんものは詰まらんのだ」
「もう少し待ってよ。もう少しで安定するから、私達無しでも動くようになるわよ。あいつらも今ランスに抜けられたら困るから、嫌でも言う事を聞かないといけないしね」
スラルの言葉にランスは非常に不満そうな顔をするが、スラルにそう強く言われれば何も言えない。
任せる所は任す、それがランスのやり方であり、スラルの手腕をランスも疑っていない。
そのスラルが今は待てと言うのであれば、待つしかないのだろう。
「ランスも散々楽しんでるんでしょ。だったらそれでいいじゃない」
「フン、その俺様のハーレムにはスラルちゃんも入らなければいけないのだ。それなのに触れられないのでは意味が無いではないか」
「そればっかりはね…あ、そうだ。ランス、そろそろレベルの方はどうなの? 色々あって忘れてたでしょ」
「あ…そういやそうだったな。何か色々とある度に忘れるな…まあこれからはこまめに呼ぶとするか。カモーン! クエルプランちゃん!」
ランスは指を鳴らすが、何故かランス付きのレベル神であるクエルプランが出てこない。
「…あん?」
「クエルプラン様が出てこない…? どうかなさったのかしら?」
レダはクエルプランの事は良く知っており、その忙しさも当然知っている。
そしてこれまでの情報から察するに、魔王によって大量の人間が死に、そしてその数を増やすべく人間が多くの子供を産んだ。
なので魂管理局であるクエルプランが来れなくても仕方のない事だ。
(本来はクエルプラン様がレベル神をするなんておかしいのよね。うん、これが正しい姿だわ)
レダがそう思っていると、突如として部屋の中が眩い光に覆われ、ランスのレベル神を兼用している魂管理局クエルプランが姿を現す。
「お久しぶりですね、ランス」
「なんだ、今回は随分と遅かったな」
「…そうですね、申し訳ありません。少々立て込んでいたもので」
(え、クエルプラン様が人間に謝った?)
レダは1級神であるクエルプランがたかが人間に対して謝ったのを見て仰天する。
「うむ、レベル神なんだから直ぐ来てくれなければいかんぞ。まあ俺様は寛大だから許すがな」
(あんたもあんたで何でクエルプラン様にそんな口をきけるのよ! 魔王だってクエルプラン様には敵わないんだから…)
1級神は魔王すらも超える力を持っている。
その気になれば、この地上を滅ぼすことも可能なのが1級神なのだ。
ランスも知らないとはいえ、1級神に対してよくもそんな大きな口をきけるものだと有る意味感心してしまう。
「それよりもレベルアップだレベルアップ。結構戦ってたから上がってるだろ」
「はい、ではここに居る皆のレベルアップを行います」
クエルプランが呪文を唱えると、ランス達のレベルが上がる。
「ランスのレベルは72になりました」
「がはははは! とうとう70を超えたな!」
「レダはレベル74になりました」
「これからも精進いたします。クエルプラン様」
「スラルはレベル70になりました」
「まあそんなものかしらね」
「ジルはレベル51になりました」
「皆さんのレベルが高すぎて正直驚いています…」
「加奈代はレベル31になりました」
「私、レベル神って初めて見ました」
「ではレベルアップが完了しました。それでは…」
「ちょっと待った! クエルプランちゃん!」
消えようとしていたクエルプランをランスが引き止める。
「ちょっとランス! クエルプラン様に対して何を」
「いえ、良いです。何ですか、ランス」
「お前忘れてるのか。俺様のレベルが70を超えたぞ。サービスはどうしたサービスは」
「…そう、ですね。忘れていました。では…これで如何でしょうか」
クエルプランはそう言うと、彼女の手が露になる。
「おお…ただ手が出ただけだというのに、何かいいな」
それはランスが望む褒美からは程遠い姿。
素足と素手が見えただけで、ランスからすればなんて事は無いのだが、その姿は非常に美しい。
ランスですら思わず手を出すのが躊躇われるほどの、完璧すぎる美しさがそこには存在した。
当のクエルプランはというと、何故だか知らないが少し落ち着かなくなってきた。
たかが人間に己の足と手を晒しているだけだというのに、このエラーは一体何なのだろうかと思ってしまう。
「で、ではランス。またレベルを上げたい時には呼んでください」
そう言ってクエルプランの姿が消えていく。
「あ、コラ! もう少し見せてけ! むぅ…消えたか。しかしこのまま俺様のレベルが上がればあんな姿やこんな姿も拝めるわけか…ぐふふ」
ランスは目の前にいた存在がどんな存在なのかも知らずに何時ものようにスケベな笑みを浮かべる。
「がはははは! レベルが上がるというのも中々楽しみになってきたな!」
今回のオリキャラは大帝国のガメリカで
最初は大悪司でいいかなと思ってたけど、名前の関係でボツに
あまり掘り下げはしないと思います
だってもうすぐアレですし…