ランス再び   作:メケネコ

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普段通り

 ランスが組織を乗っ取ってから更に2週間が過ぎた。

 この頃になると組織の運営も安定し、スラルが直接指示をしなくても情報が入ってくるようになる。

 それは同時に、ランス達に反抗心を持つ者達も集まるという事でもあった。

 

 

 

「という訳で、私達もそろそろ力をつけてきた頃じゃない?」

「いきなり何言ってんのよ、ハンナ」

「えーと…どういう事かな? ハンナ」

「否定はしない。でもそれと何の関係が?」

 ハンナが集めたのは彼女自身が昔から見出していた者達だが、生憎とこれまではあまり自由に動けなかったので、中々コンタクトを取れなかった。

 こうしてようやく人目を気にせずに出会う事が出来るようになった。

「キャロル、クー、ドロシー。あなた達は今のままでいいと思ってる?」

 ハンナの言葉に、各々は顔を見合わせて首を縦に振る。

 その様子にハンナはガクッと崩れ落ちる。

 ある程度予想はしていたのだが、こうして全員に否定されると流石に凹んでしまう。

「新しいボスもスラルさんも凄いし、私としては何も言う事はないけど」

「ボス…ランスさんは良い人では無いけど、今はランスさんの力が無いと空中分解しちゃうよ」

「ボスの強さもそうだけど、周囲の者達の力も凄まじい。もし彼らと対峙する事になれば間違いなく大きな被害がでる。それでは本末転倒」

 キャロル、クー、ドロシーの言葉にハンナは苦い顔をする。

 言ってる事は尤もであり、今ランス達をどうにかする事に意味は無い。

 むしろ組織の弱体化を招き、あっという間に他の組織に飲み込まれるだろう。

「それは私も理解してるわよ。でも、私達は私達で団結すべきだって言ってるのよ」

「言ってる事は分かるわよ。正直ボス…ランスは私達を統治する気なんて全く無いみたいだし。女の子が居ればそれでいいんでしょうね」

「あの人は平時だと暴君かもしれないけど、今みたいな時だからこそ必要な人だよ」

「裏から操るのもやめた方が良い。ボスの周りの者達の懐柔は不可能だと思っていい」

 次から次へと出る、自分の否定の言葉にハンナは頭が痛くなる。

 同時に、言ってる事は決して間違っていない事も理解出来る。

 自分達がこうして要職につけているのはランスが組織を乗っ取ったからだし、スラルの組織運営能力も大したものだ。

 発足してまだ1月程度だというのに、瞬く間に周囲の敵対組織を壊滅、または懐柔してどんどん大きくなっていった。

 それもランスやスラルの力なのは疑いようは無い。

「大体ハンナも分かってるでしょ? 今はまだそんな時期じゃ無いって」

「…まあそうね。ちょっと先走り過ぎたわね」

 将来的にはこの組織を手に入れたい…とは思うが、今はまだまだそんな時期では無い。

 相手の力量から考えても、長期的に見なければいけないだろう。

「あの…そんな事考えなくても、あの人なら目的の物が見つかったら直ぐにどこかに行きそうだけど」

「クーの言う事は正しい。ボスは組織そのものには全く興味が無い。何時でもこの組織を捨てて旅に出るタイプ」

「身も蓋も無い事を言わないでよ。私はあのボスだからこそ、超える事に意味があると思っているのに」

 クーとドロシーの言葉にハンナはため息をつく。

 この二人に言われるまでも無く分かっていた事だが、新たなボスは組織に全く興味を示さない。

 目的の物が見つかれば、もうそれだけで満足して何時でもこの組織を躊躇いなく捨てていくだろう。

 後の事など全く考えない無責任な行動ではあるが、それだけの自由さと奔放さ、そして力を兼ね備えた人間なのは嫌でも分かる。

「それにハンナも進んでボスに抱かれている。昔のように嫌々じゃない」

「そうでもしないと弱点が見つからないのよ! いや、弱点は確かに多いんだけど、女に弱すぎるのは致命的なんだけど!」

 ランスが女に弱いのはもう十分すぎる程分かっている。

 それは致命的な弱点になるのは分かってはいるのだが、

「スラルとレダとジルが居る限り、その弱点は弱点になりにくいのよね。あの3人を出し抜くのは相当に難しいわ」

「あー…あの3人はね」

「正直ボクはレダさんが凄い怖いです…」

「流石にあの3人を同時に出し抜くのは難しい」

 女に弱いランスではあるが、それ以上に周りに居る女性が強すぎる。

 スラルはその絶大な魔力と知識で、レダはその恐るべき強さで、ジルもまたスラルに劣らぬ魔力や知識を持っている。

「特にレダさんは本当に手を出しては駄目なタイプだと思う。ランスさん達の中ではレダさんは躊躇いなくこっちを始末してきそうだし…」

 クーが恐ろしいのは、レダの美しさもそうだが、何よりも障害を取り除くのに全く躊躇が無い事だ。

 敵対すればどんな相手だろうと無慈悲に殺す。

 ランスが止めなければ女子供だろうが躊躇いなく殺せるタイプの存在だ。

 そして彼女はランスを守る事が第一のように感じられる。

「レダは…正直手を出してはいけないタイプね」

 ハンナはそう考えた時、

「うん、やっぱりまだ時期が悪いわね。まずは地盤を固めないとダメか…」

「それが良いわよ。あ、それと私はボスに刃向う気は全く無いわよ。だって凄い面白いし。男としてはアレだけど…」

 キャロルは組織のボスとしてのランスを認めている。

 その実力、決断力、カリスマ共に一級品であり、世が世なら1国の王になる事も難しくないだろう。

 男としては正直タイプでは無いが、無理矢理襲ってくるという事も全く無いので安心している。

「ボクもそうだね。ランスさんの才覚は今の時代に必要なものだよ。まだ魔王の爪痕も残ってるし」

 クーは今の時代にはランスのような存在が必要だと思っている。

 それだけの力があるし、その周囲の者も非常に優秀だ。

 敵に回した時のリスクが大きすぎるし、正直リターンもそれほど多いとは思えない。

「それにボス達の目的はどうやら魔人にある。魔人の脅威は皆が知っている。彼に協力する方がメリットは大きい」

 魔法の才能があるドロシーはジルと共に魔法の研究に当たる事が殆どだ。

 色々な書物を読み漁り、知識を深めていく彼女の事を尊敬している。

 何よりも彼女は魔人に対抗する方法を常に求めている。

 そんな人間と敵対するのは正直避けたい。

「ハンナも何だかんだ言ってドワイトを紹介したじゃない」

「必要経費よ。でも…ドワイトの方はランスを凄い気に入ってるみたいなのよね…」

 今の時代、何よりも必要なのは人材だ。

 だからこそ、自分が知りうる中でも有能で尚且つスラルが求めている人材を紹介したつもりだ。

「はあ…」

 ハンナはドワイトをランスに紹介した時の事を思い出す。

 

 

 

「ボス。彼を紹介したいのですが宜しいでしょうか?」

「男はいらん」

 いきなりの言葉にハンナの唇が引きつる。

 まさに一切の交渉の余地を感じさせない、本当に男に興味が無いと言わんばかりの態度だ。

「待ちなさいよ。ハンナが私達に紹介してくるって事は、今私達が望んでいる存在でしょ。良いわよ、紹介しなさい」

「おいスラルちゃん。何を勝手に言っとるんだ」

「ランス、私が目的のためにはどんな手も使うって事は知ってるでしょ? 本人の意思は尊重はするけど、本来私は強欲なのよ」

「むう…」

 スラルの言葉にランスは唇を曲げる。

 スラルとはもう長い付き合いだが、確かにスラルにはそう言う所もあるのは分かっている。

「まあいい。じゃあ紹介はされてやる」

「はい。ドワイト、入ってきても良いわよ」

「おう、それじゃあ遠慮無く入らせてもらうぜ」

 そう言って入ってきたのは巨漢の男だった。

 それを見てランスはより不機嫌になるが、スラルはと言うと男の強さを感じ取る。

「ドワイトだ。外見からは分からないだろうが、これでもテンプルナイトって奴さ」

「テンプルナイトだと?」

 その言葉にランスが反応する。

 テンプルナイト…それはAL教が使っている兵士のようなものであり、女神ALICEの加護を受けた中々強力な存在だ。

 ランスもクルックー関係でテンプルナイトとも戦った事もある。

(えーと…確か俺様の近くにそういうヤツが居たような…誰だっけ)

 ランスの側にその手の人間が居たような気がするが、どうしても思い出せない。

 思い出せないならどうでもいいやと思い、ランスは男を見る。

「…お前、本当にAL教の関係者か?」

「ハハッ! 良く言われるぜ。でもまあこう見えても結構な立場の持ち主さ」

 ドワイトの容姿はランスが知るテンプルナイトとはまた違っている。

 言われてみれば、確かにこの男が着ている鎧はランスが知るテンプルナイトの鎧に近い。

 差異はあるが、LP期のテンプルナイトに支給されている鎧にそっくりだ。

 そしてテンプルナイトと言えば、頭部まですっぽりと覆っている兜を被っているのだが、男はそれをしていない。

「ハゲか」

「生憎と剃っているだけさ。髪が無い方が迫力はあるだろ?」

「一見するとただのチンピラか山賊にしか見えんがな」

「ハッキリ言うね、気に入ったよ」

 ドワイトは物怖じせずにズバリと言葉を言って来るランスに対して豪快に笑う。

「AL教…この世界で最も広まっている宗教よね。でも、そんな宗教団体が私達に接触してもいいのかしら?」

 スラルもAL教に関しては情報を集めている。

 AL教の聖書とやらも見てみたが、スラルにとってはあまり興味の無い内容だった。

 しかし神魔法には大いに興味がある。

 ランスの言っていた魔封印結界に関係があるのであれば尚更だ。

「まあその辺がある意味グレーだな…でも俺達が積極的に潰すような存在でも無い。人と人同士だ、その辺は持ちつ持たれつって奴だな。柔軟に対応しないとな」

「フン、まあどこの世界にもお前達みたいな連中はいるからな」

「で、ハンナ。こいつを連れてきた理由は?」

 スラルの視線を受けて、ハンナはドワイトの肩を叩く。

「ボスは聖なるアイテムを探していますが、それを鑑定出来るのはレダ様しかいません」

「成程ね…でもAL教にとってはそういうアイテムって重要なものじゃないの?」

「確かに重要かもしれないが、バランスブレイカーで無ければ回収する気は無いさ。それに俺がここに来たのは別の仕事もあるからな。どうしてもここが拠点になるからあんた達にも挨拶をしておかないとな」

 AL教の仕事の一つに、バランスブレイカーの回収という仕事が有る。

 かつてはランスもまたバランスブレイカーとして狙われていた過去があるのだが、クルックーがランスの女になった事により除外されている。

「仕事の内容は? 態々私達に挨拶に来るって事は、何か関係があるんでしょ?」

「ああ…それなんだけどな。あんた達が抗争を起こしている連中の一つに、アンデッドが居るって話になってな。それらを祓うのも俺達の仕事なのさ」

「ふーん…まあいいわ。でも、私達の目的の邪魔をするなら、その時は私達の敵よ」

「OK。さっきも言ったが、バランスブレイカーで無ければ俺達もあんた達を敵に回すなんてしないさ。ただでさえ魔王の爪痕が残ってるんだからな」

 

 

 

「ドワイトも言葉通りボスの邪魔をしてませんし、ボスも何も言わないから大丈夫じゃないですか?」

「それとこれとは話は別よ。私達が必死になって繋いだ関係をボスに取られるなんて事はあってはならないからね」

 ハンナは今でもボスであるランスを警戒している。

 確かにランスはこの組織に興味は無いし、基本的には暴君だ。

 しかし、そんな人間でも実力とカリスマが有れば人はついて行くのだ。

「正直ボスに従っていれば安全だというのは間違いないと思う。ある意味世界の中でも割と安全」

 ドロシーの言葉にハンナは頭が痛くなる。

 しかしどう考えても今はランスの下にいるのが安全なのだ。

「それよりも…アンデッドの件はどうなってるの? 私はここ最近は市場に掛かりっきりだったけど、その辺りの事はハンナの役割でしょ」

「それね…」

 今ハンナの頭の片隅にあるのが件のアンデッドの件だ。

「今の所被害は出てないし、その辺はドワイトに任せるしかないわ。下手に私達が手を出して、万が一AL教に目をつけられるなんて事にはなりたくないしね」

「レダさんが居る限り、アンデッドに負けるなんてそうあり得ませんしね…」

 クーはレダの戦いぶりをこの目で見た事があるが、今思い出してもその強さには寒気がする。

 初級的とはいえ、神魔法の適性があったクーは最初は聖なるアイテムの発見に回されていたが、生憎と自分ではあまり力になれなかった。

 だが、それでも神魔法が使えるという事で戦いの場に連れて行かれたが、その時に感じたのはランス達の恐るべき強さだった。

 ランスの前ではガードでも紙屑同然、その一撃で十数人の人間が吹き飛ばされる。

 スラルとジルの魔法の強さも異常で、同じ火爆破でもその威力はこれまでの者とは大違いだ。

 そして魔法だけでなく神魔法すらも使いこなし、剣も使えてガードも出来るレダ。

 今までどんな組織でも手を出す事が出来なかった理由が嫌でも分かった。

 それをハンナ達に話してから、ハンナも流石にランス達を直接どうにかしようという考えを捨てたようだ。

「そっちに関しては何とか情報を集めるしかないわね。でも…発生源がアイツ等だとしたらどうなってるのかしらね…」

 アンデッドの発生源の近くには、今は自分達と敵対しているが、かつてはこの周辺で一番の勢力を持っている連中がいる。

 大きな組織だけあり、金も人もいるのにアンデッドを排除しないというのは腑に落ちない。

 そういったモンスターは人類の共通の敵だからだ。

 ドワイトといったテンプルナイトもそのために派遣されて来ているのだ。

 彼がこの地を拠点としてくれているのにはハンナの尽力や、ドワイト本人の性格によるものが多きい。

「被害が拡大していくならボスが直接出向く事になるとは思うけど…その辺はまだ出たとこ勝負ね。今はまずは力をつけなければいけない」

「そうね…何をするにしろ、まずは力よね」

「あんまりやり過ぎるとスラル様が干渉してくるかもしれないから、程々にね」

「焦る必要は無い。まずは地力が必要」

 ドロシーの言葉に皆が頷く。

 今はまだ焦る必要は皆無だ。

 なので時間をかけてじっくりと力を蓄えていけばいい…誰もがそう思っていた。

 しかし時間は確実に近づいていっている。

 それも人類の脅威が襲い掛かるという形で。

 

 

 

「雑魚は死ねーーーーーっ! ラーンスあたたたたーーーーーっく!!」

「ぎゃーーーーっ!!」

 ランスの必殺の一撃が目の前の人間を吹き飛ばす。

 まさに向かう所敵無しという言葉が正しいだろう。

 これまでの長い戦いで、ランスはこれまでの戦い以上のレベルを手に入れていた。

 魔人や悪魔との長い戦いで、元から凄まじい戦士の素質を持っていたランスの力は更に上がっている。

 そしてランスの周囲に居る者達も恐ろしいほどの強さを持っているため、こうした人間同士の争いでは最早相手になっていない。

 勿論中には人間の中でも人を超えた存在は生まれるが、そんな人間が生まれるのはそれこそ稀な話だ。

「いい加減に無駄な抵抗だって分かって欲しいわね。エンジェルカッター」

「うぎゃーーーー!!」

 レダが無造作に放った魔法はあっさりと人間達を切り刻む。

「ホントにね。無駄だと分かっていて向かってくる。それは昔から変わらない。でもそれが人間なのかもね…」

 スラルは少し複雑な表情でランス達に倒されていく者達を見る。

 本当に人間は昔から変わらない。

 弱くて愚かで誘惑に弱く、己の欲望の赴くままに動く。

 だが、時にはそんな人間の中でも常識を超えた存在が生まれることがある。

 それがスラルが見込んだガルティアであり、ランスであり、そして人類の歴史を作った藤原石丸なのだろう。

「制圧完了のようですね」

「いやー…やっぱりランスさん達が出たらあっさりですねー」

 ジルと加奈代も少し呆れたように目の前の光景を見る。

 ランスが乗っ取る前から敵対していた相手らしいのだが、こうしてランス達が出張ることによってあっさりと壊滅させられた。

「本当だな。やり過ぎだって言いたい所だけどよ…こいつはヒデェな」

 ドワイトは死んでいる人間の腕を見て眉を顰める。

「何だハゲ。金目のものでもあったか」

「違うよボス。こいつら、薬物中毒者って奴だ。俺がここに来た理由の一つさ。最近ここら辺で麻薬が蔓延しているって話でな。法王もそれには心を痛めているって訳さ」

「何だと。麻薬だと」

 ランスが倒れている男を見ると、確かにその男には薬物らしきものが注射された痕があった。

「本来ならここら辺一帯を浄化するって話にもなってたんだけどな…まあ今思えばボスと争う事にならなくて良かったって思うぜ。流石にボスには勝てそうに無いからな」

「当たり前だ。俺様を雑魚供と一緒にするな。しかし麻薬か…不愉快だな」

 薬物と聞いてランスがあからさまに不機嫌になる。

 幸いにもランスの周りにはそういう者は居ないが、こういった裏社会では良く聞く話だ。

 ランスもキースギルドからこういった組織の摘発を依頼された事はあるが、大抵は碌な結果にならない。

 流石のランスも薬物中毒者とHをするのは嫌だった。

「よーし、じゃあ親玉もろともぶっ飛ばすぞ。こういう不愉快な奴はいらん。スラルちゃんも文句は無いな」

「文句って…まあ私も特には無いけどね」

 スラルはそう言うが、実際にはランスの言葉の中に確かな怒りを感じ取っていた。

 勿論ランスの怒りは、薬物を使ってまで戦わせる者への怒りではなく、この薬物を使われた女性を生み出したことへの怒りだろう。

(ランスってそういう所はまともというか何と言うか…性癖はまともなのよね)

「じゃあさっさと潰しましょうよ。面倒くさいし」

 レダの言葉にスラルは嘆息する。

(レダはレダで極端というか何と言うか…まあエンジェルナイトだから人間なんて取るに足らない存在なんでしょうね)

 金色の髪をした絶世の美女が言い放った言葉に絶句している者達を置き去りにして、レダはどんどん進んでいく。

 立ち塞がる者は魔法と剣であっさりと蹴散らしていく。

 無造作に行われるその行為に皆が恐れをなしている。

 そして戦いは終わり、ランスが最も望んだシーンへと移行していく。

「がはははは! お宝じゃー!」

 ランスはと言うと上機嫌でお宝を見ている。

 一般の人間にはお目にかかれない程の金や宝石が所狭しと集められている。

「麻薬で相当稼いでいたみたいねー。ボス、この金はどうしますか?」

 お金に関しては相当に詳しく、そしてうるさいキャロルが金銀財宝を見ているランスに尋ねる。

「ランス、分かってるでしょ。私達の目的は…」

「スラルちゃんも結構うるさいな…まあスラルちゃんに任せるから好きにしろ」

 ランスは地面に黒い剣を突き刺すと、そのまま宝物庫を後にする。

 それを見ながらキャロルは少し困った顔でスラルを見る。

「いいんですか?」

「いいのよ。お金に関しては私に任せるってランスも言ってるしね。ランスは別にお金が好きって訳でもないし」

「…そうなんですか?」

「あればあるだけ使うタイプだし…こういった事に関しては私も一切譲らないのよ」

 何だかんだ言っても、ランスもスラルもお互いに信用し合っている。

 それにランスも内政のような面倒臭いのは嫌がるし、それでランスに負担をかけるなら出来る者がやった方がいい。

 スラルとてそういった事は疎いのだが、人を見る目はあるつもりなので、自分が見込んだ者ならば大丈夫だという確信も有る。

「お金は好きにしていいわ。でも、この中に聖なるアイテムや、役立つアイテムがあれば貰っていくわ。それでいいわね」

「分かったわ。と、言っても私にはお金以外はよく分からないから、後でクーやドロシーに見分けてもらわないと」

「そこは任せるわ。私達は珍しいアイテムがあれば…」

 スラルがそこまで言葉を発したとき、スラルの体が剣に引っ張られるかのように消えていく。

 その光景を見て、キャロルは真剣な表情へと変わる。

「ボスがスラル様を呼んだ…まだ敵が残ってるのね。お前達、警戒は最大限にしなさい」

「「「はっ!!!」」」

 キャロルの言葉に部下達が一斉に頷き、警戒をする。

「まあボスに限って万が一なんてありえないけどね。というか人間でボスに勝てる奴なんて居るのかしら?」

 

 

 

 ランスに呼び出されているスラルだが、何度経験してもこの感覚には慣れない。

 スラルの視界が元に戻ると、そこには巨人のような姿をしたモンスターが目に入ってくる。

 それと同時にランスがその巨人の棍棒を跳び上がって避ける。

「ちょっとランス! いきなり呼ばないでよ! こっちに出ている状態で呼ばれると大変なんだから!」

「うるさいぞスラルちゃん。それよりも目の前に集中しろ集中」

「もう! たかだがデカントとアイスデカントがいるだけじゃない! こいつらが何だって言うのよ! その腰の剣は飾り!?」

 ランス達の目の前に居るのは、巨大な巨人型のモンスターである、デカントと呼ばれる魔物だ。

 デカントとはかなり有名な魔物であり、その強さは人間にも広まっている。

 巨人型の魔物と言う通り、とにかくでかい。

 そしてその力はとんでもなく強く、レベルが低い者はその一撃だけで戦闘不能になるほどだ。

 ランスも何度か戦った事のある魔物であり、確かに強敵ではあるがランスならば一人でも十分に倒せる敵でも有る。

「とにかく数がいるからな。だからアレをやるために呼んだんだ」

「数がいる? ああ確かに…でも何でこんな所にデカントがいるのよ」

 デカントは言葉通り男の子モンスターであり、そもそもこんな人間の居る所に居るはずがない。

 スラルも自分の居城を作らせた時は、デカントに命令して作らせたものだ。

 その巨体と力が大いに役に立ったのだが、軍隊としては正直微妙と言わざるを得なかった。

 いくらデカントが集まろうが、それでは殆ど役に立たなかったという苦い経験もある。

 魔物は魔物スーツが無ければ軍隊として役に立たないし、スーツを着たら着たで今度はデカントの巨体という利点が殺される。

 スラルがそう思っていたとき、

「魔物使いって奴だ。どうやら向こうのボスは魔物使いだったようだな。その能力でデカントやオッズを従えていたみたいだな」

「あ、本当だ。オッズまで居る」

 デカントが目立ちすぎていたため気づかなかったが、オッズまで存在している。

 確かにこれだけの数が居れば、ランスが自分を呼んだというのも分かる話だ。

「それじゃあ久々にいこうかしら?」

「俺様の力を見せ付けるいい機会だな。一発で仕留めるぞ、スラルちゃん」

「本気は…出さないほうが良いわね。万が一この屋敷が倒壊したら嫌だし…」

 スラルはそう言って魔力を集中させる。

(本当は室内で使うのは避けたいんだけどね…まあ仕方ないか)

 まだ制御が完璧ではない事と、今のランスの力があれば、相手が軍隊でも無い限り使う必要は無いと考えていた。

 だが流石にこれだけの数のオッズとデカントが居るならば使う必要が出てくる。

(相手もこの切り札があるからこんなでかい屋敷を作ってたって訳ね。じゃあここは派手に行くか)

 ランスは迫り来るオッズと斬り伏せながら時間を稼ぐ。

「いいわよ! ランス!」

「がはははは! 久々にいくぞ! ラーンスあたたたたーーーーっく!!!」

 ランスの剣が光り輝くと、ランスはそのまま己の必殺技を放つ。

 それはランスアタックのオーラと共に、スラルの魔力が加わり恐ろしいほどの範囲と威力を持つ。

 オッズどころかデカントすらもその光に斬られ、実にあっさりと死んでいく。

「おいおい…嘘だろ」

 それを見ていたドワイトは流石に呆然とする。

(こいつは…まさしくバランスブレイカーだぜ)

 AL教が回収しているバランスブレイカーは何も物だけではない。

 人すらも回収対象でもあるのだ。

(…まあ見なかったことにするか。ぶっちゃけ回収できる気がしねえしな)

 だからドワイトは何も見なかった事にした。

 それよりも今は自分の仕事を全うする方が先だ。

「がはははは! 余裕だ余裕!」

 そして光が収まったとき、そこに立っているのはいなかった。

「で、ここのボスとやらは何処にいる! ちょうどいいからぶっ潰してやる!」

 ランスが高笑いを浮かべていると、倒れている魔物達の死体を検分しながら、クーが微妙な顔をする。

「あの…ボス」

「なんだ」

「ここで倒れているのがそのボスです…」

 クーの言葉に誰もが微妙な表情を浮かべたのは言うまでも無かった。

 

 




多分今年最後の更新です
普通に忙しくて思うように更新が出来ませんでした
次からきちんと話が進めばいいなぁ…

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