激戦とも言えぬ戦いはアレからも続き、ランスはと言うと最早自由都市の一都市分の裏組織を牛耳るボスとなっていた。
ボス、と言っても組織の運営をしているのは専らスラルで、後はスラルが見込んだ部下がその技能を使って組織の運営を行っていた。
裏組織、と言っても特に犯罪を犯しているという訳でも無く、今では自警団のような組織を作り表社会にすら進出していた。
そして当のランスはと言うと、
「がはははは!」
「ランスさんったら。こんな所でも所構わずですねー」
自分用に用意された豪華な椅子の上で、加奈代の体を弄っていた。
勿論加奈代も嫌がってはおらず、むしろランスの行動に呆れながらもされるがままになっていた。
そんな時、
「ボス、宜しいですか」
ランスの部屋の扉をノックする音が響く。
「入っていいぞ」
ランスは躊躇いなく声の主を招き入れる。
その声が女の声だったからであり、何も問題は無いはずだった。
「失礼します…ってうわぁ!」
「お前か! このカマ野郎が!」
入ってきたのはクーだった。
途端にランスの様子が不機嫌に変わり、加奈代も微妙な表情を浮かべる。
「カマ野郎が俺様の部屋に入って来るな! 空気が汚れるだろうが!」
「そ、そんな事を言われても…」
ランスのあまりにも理不尽な言葉にクーも困った顔をする。
「そ、それよりも加奈代さん! その恰好は…その、困ります!」
クーは衣服が脱げかけている加奈代の姿を見て、顔を真っ赤に染めて目をそらす。
その態度にランスも呆れた表情をする。
「何だ貴様。そんな恰好をしているくせに女は駄目なのか。まあお前みたいなカマ野郎が俺様の女を見るのは100年早いがな」
「あー…クーさんなら私は特に気にしないですけどねー。小動物みたいで可愛いですし」
加奈代はそう言いながらも脱げかけの衣服を元に戻す。
加奈代本人はクーは小動物みたいなものだからあまり気にならないが、これ以上ランスが不機嫌になるのはランスにもクーにも良くない事だ。
「もう大丈夫ですよー。それよりも何ですか?」
「あ、こら加奈代。それは俺様の言葉だろうが」
ランスは軽く文句を言うが、加奈代はそれを無視してクーを促す。
これ以上ランスが何か口を開くと文句しか出ないし、それを遮ってもランスは口では何かを言うが、それ程怒る訳では無いと加奈代は知っているからだ。
「は、はい。こちらが聖なるアイテムとの事です。ドワイトさんにも確認してもらいました。念のためレダさんにも確認してもらおうとも思っていますが」
クーとしてはランスかジルの所にレダが居るのだと思っていたが、どうやらジルの所に居るようだ。
それでもボスであるランスには見せなければいけなかったので、順番が前後しただけだし特に問題は無かった。
「ほう。ようやく一つ見つかったのか。で、何処にあった」
「はい。この前に倒した組織が所持していました。あまりに奇妙だったので、危うく見逃しそうになりましたが…こちらです」
そう言ってクーは箱を開く。
そしてその中身を見て、ランスも加奈代も非常に微妙な表情を浮かべる。
「…これが聖なるアイテムだとでも言う気か」
「どう見ても…イカマン?ですよね」
その中に入っていたのは、奇妙な形をしたイカマンのような存在だった。
ただ、イカマンとは違い人の足の部分が無く、体も真っ白だ。
そしてモンスターであるイカマンとは違い、非常にデフォルメチックな目と口が存在し、頭からは百合の花が咲いている。
「ユリイカ、と言われるらしいです。食べても美味しいらしいですよ」
「ユリイカ…ですか」
加奈代は未だ微妙な表情のまま、皿に乗せられたユリイカを見る。
「イカマンに比べると…可愛いですよね」
「…マジか」
どうやら見ているうちに、加奈代はこのユリイカの事が可愛く見えてきたようだ。
ランスはそれを聞いて驚愕するが、確かにイカマンなんかよりは遥かにマシ…なのかもしれない。
「そよそよ…(足を数えている)」
「うん、癒し系ですよね」
「そうですよね。何か癒される気がします。流石は聖なるアイテム? ですよね」
「これを見て癒されるのか…よく分からんな」
加奈代とクーはコレを見て癒されるらしいが、ランスには良く分からなかった。
「あ、ちなみに食べても美味しいらしいですよ? イカマンに比べると非常に甘みがあるそうです」
「…いや、いらん。というか折角手に入れたアイテムなんだ。レダの所に持って行け」
「はい。それでは失礼します」
クーはそのままユリイカを丁寧に箱に仕舞うと、そのままランスの部屋を後にする。
「聖なるアイテムが見つかって良かったですねー。これであと二つですねー」
「アレが聖なるアイテムとか信じられんが…まあいい。見つかったのなら使うだけだ。がはははは! これで後二つあつめればジルとずっぱりセックスが出来るぞ!」
ランスが楽しそうに笑うのを見て、加奈代は首を傾げる。
「あの…ジルさんはランスさんの奴隷何ですよね?」
「そうだ。俺様の奴隷になれるのは非常に名誉な事だぞ。そんじょそこらの貴族よりもよっぽどな」
「奴隷なのにセックスしないんですか? ランスさんが」
「がはははは! 山は高いからこそ昇り甲斐が有るのだ! 俺様も大人になったからな。俺様にメロメロにしてからじっくりといただくのだ」
ランスが楽しそうに笑うのを見て、加奈代も楽しくなる。
女の娘とセックスをするのが大好きなランスが、未だにあれ程の美貌とスタイルを持つジルに手を出さないのは非常に不思議だった。
(魔人を倒したらって言ってますけど、ジルさんって絶対ランスさんが迫ったら拒みませんよね。面白いから言わないけど)
実際にはジルはランスに好意を抱いているだろうし、ランスが迫れば絶対に拒まない自信がある。
だが、ランスの決意に水を差すのも悪いし、何よりもこんなに楽しそうに、そして意欲的なランスを見るのは非常に楽しい。
それにランスの言う達成感、というのも加奈代も何となくだが分かる様になってきた。
(ランスさんは本当に冒険が好きですからねー。魔人を倒すなんて言う普通に考えればとんでもない事もランスさんには冒険の一種なんでしょうねー)
ランスの冒険好きは筋金入りで、加奈代も付き合う中で嫌でも思い知ららせている。
そのおかげで自分も信じられないくらいにレベルが上がってしまっている。
「あ、そうだ、ランスさん。ランスさんに頼まれていたモノが出来ましたよ」
「お、そうか。流石にそろそろ必要だと思っていたからな。それにしてもお前は結構器用だな」
「自分でも意外でしたけどねー。でもやっているとどんどんと楽しくなってきましたよ」
「うむ、楽しめるのは良い事だ。何事も楽しんでやらなければつまらんからな。よーし、じゃあ早速見てみるか」
「はーい」
ランスは加奈代の案内で彼女の部屋へと赴く。
そこにはランスが望んでいた物が手に入る…はずだった。
「………おい、何だこれは」
「何だと言われましても。ランスさんに頼まれていた服ですよ。ランスさんが私に任せると言ってくれましたから、スラルさんの意見を取り入れて作ってみました」
「………来い!」
加奈代の口から出たスラルの名前に、ランスは己の剣を呼ぶ。
するとランスの手元に愛用の黒い剣が現れる。
「もー何よ。書類の点検をしてたって言うのに」
ランスに呼ばれたスラルは不満そうにランスの顔を見る。
だが、非常に不機嫌なランスの顔を見て目を見開く。
「どうしたよの。そんな顔をして」
「やかましい! あんな要求をしたのはスラルちゃんか!?」
ランスが指を差すのは、一部に豪華な装飾が施された黒を基調とした服、そして黒を基調とした鎧だった。
「フッ、そうよ。いやー、中々苦労したわ。私自身がそう言った才能が無いのが原因だけど、私の言葉だけでこの服を作ってくれた加奈代には本当に感謝ね」
「いえいえ。私も楽しかったから大丈夫ですよー。それにランスさんが喜んでくれれば私も嬉しいですし」
スラルと加奈代は顔を見合わせて満足そうに頷いて見せる。
スラルに至ってはいい仕事をしてくれたと言わんばかりにサムズアップをしている。
「何故俺様の要望通りの服を作らんのだ!?」
ランスは加奈代に詰め寄るが、加奈代は不思議そうに首を傾げる。
「え? だってランスさんは任せるって言ってましたから。それに説明するのは面倒だからスラルさんに聞けって言いましたよ」
「…俺、そんな事言ったのか?」
「自分で言った事忘れてるの? 確かにランスは私に任せるって言ってたわよ」
「うーむ…スラルちゃんは時々俺様の事を騙すからな。これがビスケッタさんなら何も問題無いのだが…」
自分のために常に最高の状態で服と鎧を整備してくれるスーパーメイドならば何も問題は無いのだが、流石にこれはとはランスも思う。
ランスは緑を基調とした服を好んでおり、それはずっと変わらない。
しかし目の前にあるのは黒を基調とした服と鎧だ。
(なんか…スラルちゃんが魔王だった頃の服に少し似てるぞ。襟元とかがやから作り込まれてるし)
その服を見ていると、魔王だった頃のスラルが思い出される。
「で、作り直しは出来るのか」
「今から作り直すとなると流石に…それにこの戦闘用の服はそれこそ一品ものですから。この首元のはカラーのクリスタルを使用してますし」
「カラーのクリスタルだと? そんなのがあったのか」
カラーのクリスタルはランスも良く知っており、その扱いは何処でも変わらないようだった。
リセットが居るからか、ランスはカラーに関しては情報をある程度集めてた。
そしてハンティ・カラーと出会った事、そしてジルから聞いた事からカラーの現状も良く知っている。
その結果が、今ランスの手元にあるカラーのクリスタルで出来ているクリスタルソードだ。
クリスタルソードはランスがある男から強奪したものだが、幸いにもカラーはこのクリスタルソードをランスが使うのを認めてくれている。
ランスが知りうる限り、今現在に置いてカラーのクリスタルはとても貴重で、それこそ限られた数しか取れないレアアイテムのようなものだ。
勿論ランスはカラーのクリスタルの出自を知っているので、カラーのクリスタルを手に入れようと気は全く無い。
しかし、人間の中ではやはりカラーのクリスタルは闇商品として高額で取引されているようだ。
そして今ランスの目の前にある戦闘用の衣装には、その闇商品のクリスタルが使われている。
「うーむ…」
カラーのクリスタルが使われているとなると、流石のランスもそれを着るのは躊躇われる。
クリスタルの効果はイージスから聞いてはいるが、だからこそ使用するのは控えたい。
「大丈夫よ。ケッセルリンクもハンティ・カラーもランスが使うのなら許してくれるわよ」
スラルはランスが難しい顔をしているのを見て、優しく微笑む。
ランスがこの服に躊躇いを持つのは分かってはいたが、それでもランスが魔人や悪魔といった強敵と戦うためには必要な事だ。
「…フン」
スラルの言葉にランスは少し詰まらなそうにしている。
だが、スラルがケッセルリンクの名前を出した事で少しは納得してくれたようだ。
「鎧に関しても今は一品物よ。ランスの使ってた鎧はもう駄目になっちゃったしね」
そして鎧の話になった時、ランスは改めて用意されている鎧を見るが、その顔はやはり微妙なものだ。
ハッキリ言って趣味ではない、これに尽きる。
かつてランスの友である織田信長は『大陸の人間の鎧は重く見える』みたいな事を言っていたが、ランスは決して防具を軽視しない。
流石に今更戦いのスタイルを変えるいうのは難しいし、そんな事をする気も無い。
確かに鎧にガタがきているのを察してからは、なるべく回避に徹しては来たし、レダやケッセルリンクと防御の修練もした。
「ぐぬぬ…俺様の趣味ではないが、仕方ないか」
しかし、ランスには妥協する以外の選択肢は無かった。
ランスの着ていた鎧は魔人レキシントンとの戦いで本格的に壊れてしまっていた。
レダがランスを完全に守っている事と、流石にあれから魔人級の強さを持つ存在との戦いが無かったからそこまで固執もしていなかったが、これからの事を考えればしっかりした防具、そして道具を用意する必要も出て来る。
(ジルを俺様に惚れさせるためには、魔人をぶっ潰さないといかんしな)
ランスは女を抱くためならばそれこそ何でもする。
それこそそれが魔人だろうが神だろうが、女を手に入れる事を邪魔する奴は誰であろうとランスの敵でしかないのだ。
「よし、じゃあ合わせるか。加奈代、出来るな」
「はーい。こう見えても武家の娘ですからねー。こういった事も出来るように教育されて来ましたから」
ランスはまずは自分用の戦闘服に着替える。
取り敢えず着てみた感想としては、悪くない。
今まで着ていた服と感触は何も変わらない。
が、それでも鏡に映る自分の姿を見て微妙な表情を浮かべる。
今まで緑を基調としていた服を好んできていたのに、突如としてそれが黒に変わった上に、何やら装飾が施されているとあっては何か落ち着かない。
そして加奈代は手慣れた様子でランスに鎧を着せていく。
最後にスラルが魔王時代に使っていたマントをつけて完成する。
「うーむ…何か落ち着かんな」
「そんな事無いわよ。ランスも結構黒が似合うと思うわよ」
スラルは本気でそう思って感心している。
(もしランスが魔人になってたらあんな感じだったのかな?)
今回ランスの服や鎧をこのような形にしたのは、スラルの願望とも言うべきものが込められている。
今でもスラルはランスに自分の魔人になって欲しかった、という思いを持っている。
勿論叶わぬ夢だと思っていても、感情を止める事は出来なかった。
(こんな形で私の願望を叶えてごめんね、ランス)
だから心の中でランスに謝る。
「そうですねー。凄い威厳が有るように見えますよ。いかにも悪の組織のボスって感じで。あたっ」
加奈代の言葉にランスは彼女の額にデコピンをする。
「悪の組織のボスとは何だ。俺様は正義の味方だぞ」
「いやー…ランスさんの行動を考えると、間違いなく悪の組織のボスが似合ってると思います。あ、でも普通にかっこいいと思いますよ」
加奈代は嘘偽りなくそう思っている。
確かに今までランスは緑の服を着込んでいたが、黒も似合っている。
「まあいい。とにかく今は使える防具が必要だからな。だが緑の服も作っておけ。いいな」
「はーい。普段の服は緑で作っておきますねー」
「鎧の方もどう? 戦いの邪魔にならない?」
スラルの言葉にランスは剣を手に取ると、軽く素振りをする。
(ランス…さらに強くなってるわね。一体何処まで強くなれるのかしら…)
ランスが剣を軽く振る姿は洗練されてるとは言えないが、それでも力強さが感じられる。
レベルが70を超えたのは知っているが、一体何処までが限界なのかと思ってしまう。
(ランスは自分の才能限界を知らないって言ってたけど…知る手段ってあるのかしら?)
才能限界は人、魔物、そして魔人にも存在し、それは生まれた時から決まっている。
それを知る手段は流石の魔王時代のスラルでも分からなかった。
「まあ問題は無いな。戦ってるうちに慣れて来るだろ」
「実戦型だものね。ランスは」
ランスの言葉にスラルは呆れた声を出す。
(そういえば…ケイブリスってまだ努力してるのかしらね)
そしてふと自分が魔王になる前からの魔人であった、ケイブリスの事を思い出す。
最弱の魔人で有るが故に強者に媚びを売り、決して自分に逆らう事は無かった、常に自分の安全を最優先にしながらも、実は絶えぬ努力を続けていた魔人の事を。
(今でもカミーラの事を想い続けてるのかしらね…無駄な努力かもしれないけど)
ケイブリスはカミーラの事を好きなようだが、当のカミーラには全くその気は無いだろう。
その辺はケイブリスが少し哀れに思ってしまうが、怠惰で我儘なカミーラに惚れたのだから仕方がない。
「じゃあそろそろ次の段階に行ってみる? 私達の敵はあと一つだしね」
「なんだ、まだいるのか」
ランスがボスになってからはこの組織はまさに連戦連勝。
向かう所敵無しで、残っているのは隣の町にある大きな組織だ。
「その敵こそが私達を一番付け狙ってたそうよ。言わば全ての元凶ね」
「何だと。それは許せんな。もののついでにぶっ潰すか」
全ての元凶、と言われてランスが反応しない訳が無い。
ランスは自分を狙った者は決して許さない。
男ならば問答無用で叩き斬り、女ならばおしおきというなのセックスをしてきた。
それは今の時代でも変わらない、ランスの基本的な行動パターンだ。
「これからも狙われるのは面倒臭いしね。全力で潰しましょうか」
そしてスラルとしてもそれは同じ。
自分の敵は必ず倒してきた。
臆病で慎重だったスラルは配下の魔人を使っていたが、最後の止めは自分で刺す。
何事も自分で終わらせるのが一番だからだ。
「でも攻めるまでにはまだ時間がかかるし…少し待っててよ」
「分かった分かった。その辺はスラルちゃんに任せる。まあ俺様はそれまで好きにするとするか」
「ランスはいつも好き勝手してるじゃない。あ、こら! 加奈代を襲う前に私を戻しなさいよ。ランスが運んでくれないと動けないんだから」
ジルに割り当てられた部屋ではジルが色々な書物を手に魔法を使っていた。
「魔封印結界…神魔法だから私は使えないけど、構築くらいは出来るはず…」
手に入れた聖なるアイテムはこれで二つ。
後二つではあるがその二つが大きな障害になるのはジルも予想している。
「でも…これ何なのかしらね」
ジルは皿の上に乗せられているユリイカを怪訝な表情で見る。
どう見ても生きているし、自分の足を数えている姿は非常に愛らしいものがある。
「これがイカマンなら問答無用で焼き殺すかもしれないけど…流石は聖なるアイテム? という事なのかしら」
「気にしても仕方がない。そういうアイテムだと理解するのが重要」
「…そうね。世の中にはハニーみたいな理不尽な存在もいる訳だし」
「ハニワは全て叩き割ればいい…あいつらは害悪」
ハニーの名が出て険しい顔をするのはドロシーだ。
彼女は攻撃魔法の威力こそあまりないが、別の意味で魔法の才能が有る。
リーダー等といった情報系の魔法に彼女は長ける。
なのでジルの助手としても丁度良かった。
「ジルさん。こっちの解析は終わった。やっぱり魔人に関する記録は殆どない。有るのは魔人にはあらゆる魔法が通じないという一文」
「…それも当然ね。実際に人間は一度たりとも魔人を倒していない。無敵結界こそが魔人の強さだもの」
人間が魔人に勝つ事が出来ない最大の要因がその無敵結界だ。
無敵結界が有る限り、人間は決して魔人に勝つ事は出来ない…それがこの世界の常識だ。
「ボスは魔人の無敵結界が有っても魔人を倒す手段が有ると言う。私は正直それが疑わしい」
クーの疑問は尤もであり、魔人をどうにかする方法など聞いた事が無い。
「そうね。確かにまだ確立していない術だもの。でもね…魔人を封印する事は現実に出来る。出来る以上、ランス様の言う通りに魔人を倒す手段が有るという事」
ジルは実際に銅像に封印されている魔人ザビエルを見たのだ。
そしてその魔人の使徒がそれを認めている…それがジルの見た現実なのだ。
「JAPANの逸話…かつて藤原石丸がこの大陸を制覇しようとしたが、魔人ザビエルに敗れたという話は伝わっている。でも本当に魔人が封印されているなんて思いもしなかった」
「実際に魔人が封印されている以上、魔人は決して封印できない存在じゃ無い。でもそのための条件が厳しいだけ…現実に4つの聖なるアイテムもようやく2つが集まっただけ」
「AL教に借りる事は出来るかもしれないけど、ハンナもキャロルもそれを良しとはしない」
最初はAL教から借りるという事も考えたが、それは最終手段だ。
なるべくAL教には借りを作りたくないという面もあるが、AL教はAL教で中々黒い部分もある、というのがハンナ達の見解だ。
勿論敵対するのは論外で、こちらとしても寄付という形でAL教に金を渡している。
自分達で出来る事は自分達でやるべきだし、何よりもそんなに急いで聖なるアイテムを集める必要も無いというのが結論だった。
ランスもそれに関しては特に急かす訳でも無く、むしろ本人が自らダンジョンに向かってアイテムを探す程だ。
「焦る必要は無いと思う。今は魔物達も大人しい」
「そうね。その前に術式を作らないと…」
ジルもドロシーも大量の文献を元に魔封印結界に向けての術式の作成を急いでいた。
とある町にて―――
「ケッセルリンク様。この辺りの情報の収集が完了しました」
「うむ、聞こう」
魔人ケッセルリンクは自分の前に勢揃いした使徒に微笑む。
使徒達はその微笑みを見るだけで幸せな気持ちになれる。
「例のはぐれ魔人の事ですが…まだ発見には至っていません。しかし、その痕跡は確実に見つかっています」
「ここ最近、大量のアンデッドモンスターが現れているとの事です。恐らくは件の魔人が関連しているものかと」
シャロンとパレロアの報告にケッセルリンクは眉を顰める。
「いつ聞いても嫌なものだな…奴の事は。奴はナイチサが直接作った魔人では無いからかもしれないが、魔王の本当の恐ろしさがわかっていないのかもしれないな…」
ケッセルリンクは魔王ナイチサの命令で、魔人トルーマンの捜索を行っていた。
ナイチサは今現在人間への干渉を止めていた。
それも全ては49年前、あの魔王が大怪我を負った事に由来する。
魔王が人間に重傷を負わされるという事は魔物達の間でも大きな衝撃を与えた。
ケイブリスはここ最近になり力をつけてきたが、魔王が重傷を負ってからは完全に大人しくなっている。
ナイチサを疎ましく思っているカミーラも、今は動いていない。魔力を求める事のみに固執しているレッドアイや、あれからランスを探しているらしいレキシントンは割と積極的に動いてはいる。
だがその2体にしても積極的に人間にちょっかいをかける事はしていない。
人間に興味が全くないパイアールだけは、魔王の命令で何か特別な道具をつくったようだが、それが何なのかはケッセルリンクには全く分からなかった。
「魔人トルーマンも表立っては動いていないのだと思います。ですがアレは狂信者ですので、今も神の名の下に殺戮を行っているのだと思います」
「全く…厄介な事だよ」
エルシールの言葉にケッセルリンクも少し呆れた顔をしている。
「そしてそのアンデッドの動きからすると、こちらの方向に進んでいると思われます」
バーバラが用意した地図を見て、ケッセルリンクはため息をつく。
その行動は、確実に人間の住む地域へと向かっていた。
つまりは今現在魔人トルーマンは完全に人間界に居るという事だ。
しかもいくつもの町を死者の町へと変えながら。
「全く…魔人という者はその強さ故に己を万能と勘違いする者が多い。魔人は決して万能では無いというのにな…」
「ケッセルリンク様…」
使徒となってまだ日が浅いバーバラは魔人の強さを絶対だと思っている。
実際に魔人を傷つけられる者は同じ魔人同士意外にはあり得ないはずなのに。
「不思議そうだね、バーバラ」
「え、あ、も、申し訳ありません! で、でもケッセルリンク様は私が知る魔人とはやっぱり違い過ぎて…」
バーバラも他の魔人には会った事はあるが、どれもこれも一筋縄ではいかない存在ばかりだ。
魔人四天王であるカミーラは今でも目を合わせる事も恐ろしい存在だし、狂った魔人であるレッドアイは魔王とは別の意味で恐ろしかった。
ガルティアは自分達にも気さくに接してくれるが、常に何かを食べているし、同じく温厚そうなメガラスに至っては声を聞いた事も無い。
「魔人とて個性を持つ一つの存在だ…カミーラのような者がいれば、メガラスのような者もいる。私もカラーとしてムシには苦労させられてきたからな…」
「ムシ…ですか?」
怪訝な表情をするのは、自分と同じスラルの時代を生きていないシャロン以外の全員だ。
「フフ…信じられないかもしれないが、かつて私がカラーだった時代には今の魔物兵など比べものにならない生き物が跋扈していた。そのムシに我々カラーも脅かされていた。そうか、シャロン以外はムシの事が分からなかったか」
ケッセルリンクがカラーだった頃、自分達がモンスターによって悩まされていた事は話していたが、それがどんな存在なのかはシャロン以外は知らないだろう。
アレからあのムシ達はめっきりと姿を消し、ケッセルリンクも見た事が無い。
「ヴェロキラプトル、というムシが居たのだが…それこそ魔人にも対抗できる存在だ」
「ま、魔人相手に…!?」
それに一番驚くのは、この中では唯一魔人との交戦経験を持つエルシールだ。
魔人レキシントンの力は驚くべきもので、あのランス達でも手も足も出なかったと言っても良かった。
ランス達が生き残っているのは、魔王ナイチサによる魔軍の全軍撤退と、それを伝えに来たのがカミーラとケッセルリンクだったからだ。
「とにかく…魔人は決して万能では無い。ふとしたことで落とし穴に嵌るやもしれぬ…あのザビエルが封印されたように」
未だに魔王領に戻ってこないザビエルはナイチサにも見捨てられた存在だ。
ケッセルリンクもザビエルの事は嫌いだが、それでもあのザビエルが人間に倒されたというのは驚くべき事実だ。
「そして…これは只の私の勘なのだが」
そこでケッセルリンクは薄く笑う。
「ランスが…今の時代に居るような気がしてな」
それは非常に可憐で美しい少女のような笑み。
そんな笑みを見て、バーバラは思わず赤面してしまう程の笑顔だ。
(ランス様が居る…というのはあり得ない話では無いですね)
(そうなんですか? シャロンさん)
(ええ。皆さんが集めてきた情報を精査すると、あの方が関わっているかもしれない集団があるんですよね…)
ケッセルリンクが嬉しそうな笑みを浮かべると共に、シャロンもまた楽しそうな笑みを浮かべる。
彼女もまた、ランスが今の時代にいるかもしれないという感想を持っている。
(今度はどんな滅茶苦茶な事をしてるんでしょうね)
シャロンはそう思いながら、嬉しそうな笑みを浮かべる主を見て微笑んだ。
明けましておめでとうございます
もう少しでランスシリーズが終わって三年ですが、やっぱり繰り返しプレイしても面白いです
そしていきなりの設定ミス…ネクロマンサーの技術ってGI期に出来たんですね…
ちょっと設定を変更しないといけないですね