ランス再び   作:メケネコ

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魔軍との戦い

「リフイート様。あのテンプルナイト達はここに逃げたようです」

「うむ、ここはトルーマンの下級使徒が狙っていた町のようだが…」

 魔物将軍リフイートは周囲を見渡しながら唸る。

「成程、どうやら一筋縄ではいかんようだな」

 だが、それでもリフイートは非常に楽しそうな笑みを浮かべる。

「全くもってその通りで」

「いやいや、それでこそ戦い甲斐があるというもの」

 リフイートの言葉に魔物隊長であるバムニス、ゼンターシュも共に笑う。

「まずは魔物兵だけで様子を見る」

「ハッ! お前達、行け」

 魔物隊長の言葉に無言で30程の魔物兵が歩き始める。

 中身がゾンビのため返事はしないが、その強さは普通の魔物兵と何も変わらない。

「しかし一部補充できたのは僥倖でしたな」

「うむ、それも普通のモンスターだからな。やはり意思疎通出来るというのはそれだけで良いものだ」

 あれから100体ほどの魔物兵の補充が出来た。

 魔人トルーマンの使徒、マッキンリーが持っていた魔物兵スーツを何とか取り出させた。

 最初はゾンビ達に使おうとしていたようだが、リフイート達はそれを密かに阻止していた。

「まったく。魔人といえどもああだと困りものですな。レッドアイと同じくらいに狂っていますよ」

「フン、戦場で好きに振舞うのは魔人の特権とは言え、個人的嗜好を優先し過ぎる魔人というのは軍としては困りモノだ。まあそれが魔人というものではあるのだろうがな」

 魔人は基本的に好き勝手やっているのであって、魔物将軍を纏めようとする魔人の方が稀だ。

 魔物大将軍がいるという事も有るが、魔人は魔物兵など宛にはしていないのだろう。

「しかし戻って来ると思いますか?」

 バムニスの言葉にリフイートは難しい顔をする。

「数を用意出来んのはやはり痛いな…あんな奴等でも貴重な戦力だ。戻ってきて欲しいがな…」

 補充が難しい状況ではあんな連中でも今は貴重な戦力であり、なるべく使い捨てるような真似はしたくは無い。

 しかしある程度は仕方ないと割り切るしかない。

 偵察用の魔物兵も用意できないのだ。

 リフイートは戦いの中の死を望むが、無意味に死ぬのだけは御免だ。

 今ある戦力で人間を倒す、これがこの魔物将軍の方針なのだ。

 異質と言われるかもしれないが、今までこうやって生きてきたのだ、今更自分の生き方を変える事など出来ない。

 魔物兵が人間の町に向かってから1時間ほど経過したが、魔物兵達が戻って来る気配は全く無い。

 それどころか、人間の町が騒ぎになっている様子すら見当たらない。

「…これは殺られましたかね」

「成程、人間共が待ち構えているという訳か。奴等はどうやら逃げなかったようだな」

 バムニスとゼンターシュは不敵な笑みを浮かべる。

 これこそ、彼らが望んでいた光景なのだ。

「あのテンプルナイトの連中は敢えて逃がしたが…どうやら我等と戦う道を選んだか。意外と言えば意外だが…同時に我等が望んでいた展開だ」

 リフイートも楽しそうに笑うと、

「突撃だ。策など今更いらんだろう。どうせこの数だ、下手な策を弄するよりも力で攻めるのが一番だろう」

「その通りですな」

「それでこそ我らの本懐というもの」

 バムニスとゼンターシュも釣られて笑う。

「行け! 我等の力を人間に見せつけよ!」

「「うおおおおおお!!」」

 リフイートの言葉に魔物隊長、そして一部の魔物兵の雄叫びが響き、魔物達は一斉に人間の町に向かって突撃を始めた。

 

 

 

「来ます! ボス!」

「言われなくても分かるわボケ。うるさいぞ」

「す、すいません」

 ランスはゲンバの声に対して煩わしそうに手を振る。

 ランスの目にも既にこちらに向かってくる魔物兵の姿が映っていた。

「ランス様。正面からはぶつからないのですか?」

 ジルはランスの横から不安そうな顔を見せている。

 同時にその顔は非常に心苦しそうだ。

 その顔を見て、ランスはシィルもシーラも自分に同じような視線を向けていた事を思い出す。

(そういやあいつらは何処にいるんだホントに。全く…魔王のせいでホルスの戦艦に行けんのが腹立たしいな)

 残念ながらホルスの戦艦があるヘルマン地方には行く事は今でも叶わない。

 流石のランスも魔王のいる本拠地を横断する気にはなれなかった。

「なんで正面からやらなきゃならんのだ。それにいくら俺様が強くても、足手纏いが多いと本気を出せんからな」

「…ランス様でも無理ですか?」

「魔軍はただの兵士でもまともに相手をすれば疲れるからな。それが400もいると面倒くさい。こういうのは待ち伏せたり頭を狙って一気に潰すのに限る」

「そ、そうですか…」

 ジルは今まで魔軍とは交戦した事は無い。

 聞いた話では魔軍はその兵士1体で人間の戦士3人分の強さを持っていると聞く。

 そうだとすれば、確かにランスの言う通りまともにぶつかるのは止めておいたほうが良いだろう。

「でもランス様。どうしてそんな事を知ってるんですか?」

「俺様は天才だから何でも知ってるんだ。それよりもお前も準備をしてろ」

「はい」

 ジルは緊張した様子で返事をする。

 するのだが、

「あの…それはそうとして、その服と鎧ってランス様の趣味なんですか?」

 ジルはどうしても気になっているランスの服装について口にしてしまう。

 その言葉にランスも憮然とした顔を見せる。

「そんなのはスラルちゃんに言え。俺様の趣味の訳が無いだろうが」

「なによ。使えれば別にいいじゃないのよ」

 スラルはランスの剣の中で不満そうに声を出す。

 どうやら自分のデザインはジルに対してもあまり評価は高くないようだ。

「何と言いますか…凄い悪の組織の幹部感が凄いです」

「やかましい。それよりそろそろ来るぞ」

 ランスは魔軍の兵が町に入ってくるのを捉える。

「まずは一発で奴等をぶちのめす。一匹も逃すな。出来るな」

「当然よ」

「あれくらいなら余裕ね」

「が、頑張ります」

「まーおー!」

「あのー、流石に私は戦力にならないと思います」

 ランスの言葉にレダ達が応える。

 ここはまずはランスの力を見せつけ、士気を高揚させる…というスラルの策をランスは取り入れた。

 ランスとしても自分の力を見せ付けるいい機会でもあると同時に、ランスの得意な奇襲作戦を行いやすいからだ。

 地の利を得ているのならば、あっという間に魔軍を倒す力をランス達は持っているのだ。

「よし、行くぞ」

 ランスの声に合わせてジル達も移動を始める。

 民家の屋根の上からランスは魔軍の動きを注視する。

 魔軍はただ歩いているだけだが、軍隊のように動いている魔物兵を見てジルは唾を飲み込む。

「あれが魔軍兵…一体中身はどうなってるんですか?」

「ああ。アレはモンスターが魔物スーツとかいうのを着ているんだ。ぷりょだろうがデカントだろうがあのスーツの中に入るんだと」

「デ、デカントやぷりょが…」

 デカントは巨人型モンスター、そしてぷりょは軟体系の小さなモンスター。

 そんなのが一律にあのスーツに入っているというのは非常に奇妙な事だ。

「じゃあ強さは…」

「全部一定よ。そうじゃないと魔物は統率を取れないのよ。だからデカントの巨体を活かす事は出来ないし、ハニーも絶対魔法防御も活かせない。一長一短よね」

「そうなんですか…」

 スラルの言葉にジルは頷くが、

(スラルさんってどうしてここまで知ってるんだろう)

 という新たな疑問も沸いてくる。

「来るぞ。俺様の合図で奇襲をかけるぞ。ジルはここから魔法を撃て。加奈代も援護しろ。そして肉壁共は何があってもジル達を守れ。何かあったら俺様がお前達を殺すぞ」

「それは任せてくれ。テンプルナイトとして人を守るのは得意な方さ」

 ランスの言葉にドワイトは苦笑しながら頷く。

 ちなみにその言葉が本気である事をドワイトはまだ知らない。

 ランスは注意深く魔軍の動きを見ながら不意打ちのタイミングを測る。

 所詮は魔物隊長もいない雑兵の群れ、今のランスとっては敵ではない。

「いくぞ!」

「了解」

「さあ、行くわよ」

「まーおー!」

 ランスはそのまま奇襲をかけるべく屋根を飛び降りる。

 それに合わせてレダと大まおーも宙を跳び、

「とーーーーーーっ!」

 ランスの動きに気づいた魔物兵だったが、その時には既に遅い。

 その一撃で魔物兵は真っ二つに斬り裂かれる。

 魔物兵がランスに向けて斧を構える前に、ランスはその剣を横薙ぎにして魔物兵を両断する。

 それを見ていたドワイト達は驚きに目を見開く。

「マジかよ…」

 魔物兵の強さはテンプルナイト達はよく知っている。

 その魔物兵とたったの一撃で倒すなど信じられない事だ。

「消えなさい」

「スノーレーザー!」

 ランスだけでなく、レダとスラルもまた一撃で魔物兵を倒す。

「ライトニングレーザー!」

 そして今自分達が護っているジルもまた、その一撃で魔物兵を倒す力を持っていた。

 ランス達の奇襲は成功し、魔物兵は10体程が一瞬で倒されたが、まだその数は20は残っている。

 そして一部の魔物兵はここから逃げ出そうと踵を返し、一部の魔物兵はランス達に向かっていく。

「今よ! やりなさい!」

 スラルの合図で、魔物兵の背後を絶つように大きな盾を構えた者達が現れる。

 それは少し歪かもしれないが、それでも整列して魔軍を逃がさぬ様に盾を構える。

 そしてその後ろからはクーとドロシーが率いる魔法使い達が現れる。

「今です!」

 そしてクーの合図で一斉に魔法使い達が魔法を放つ。

 それはジルやスラルに比べれば威力は低いが、確実に魔物兵を足止めする。

「エンジェルカッター!」

 そしてレダの魔法が更に魔物兵を蹂躙し、一部の耐えきれない魔物兵達は倒れていく。

「がはははは! 死ねーーーーーッ! ラーンスあたたたたたーーーーっく!」

 更にはランスの必殺の一撃は複数体の魔物兵を一度でバラバラに切裂く。

 それだけでなく、その衝撃波は魔物兵のバランスを崩す。

「電磁結界!」

 そこをジルが放った魔法が更に襲い掛かり、とうとう魔物兵はその動きを沈黙させる。

「フン、雑魚は雑魚だな」

 ランスは動かなくなった魔物兵を踏みつけ、高笑いをする。

 その光景に、ランスの配下達は歓声を上げようとするが、

「ストップ! 喜ぶのは後! こいつらは所詮は斥候よ。次は本隊が来るわ!」

 スラルの言葉に皆が一斉に口を紡ぐ。

 確かに魔軍の兵を不意打ちで倒しはしたが、その数は30程度。

 魔軍の本体の10分の1にも満たないのだ。

「相手の数は500…軍事的な動きをするには少なすぎる数…というか魔物将軍が動かすにしては数が少ない。そこを考えると…」

 スラルはここで一度言葉を区切る。

「今度は全部隊がこっちに殺到してくる可能性があるわ」

 全部隊、という言葉に皆の顔が青くなる。

 今は大よそ30の魔物兵を奇襲によって倒すことが出来たが、まだ相手には300以上の数が居る。

 そしてそれは大よそ人間の兵士の900以上の強さがあるという事だ。

 いかにランスが強くとも、流石にこの数を一人で倒すなんて出来る訳が無いのだ。

「という事で次のプランよ。ゲンバ、相手の動きは!」

「あ、はい! 直ぐに確認します!」

 スラルの言葉に返事をしてゲンバが屋根を伝って消えていく。

「配置につきなさい! 次が来るわよ!」

 その言葉に皆が一斉に慌しく動き出す。

「この辺があの時よりも辛いところね。まだ組織だった動きが出来ていない。あの時のメンバーが居れば、今回の相手も真正面から迎え撃つことも出来るのにね」

「別に正面からぶつかる必要なんて無いだろ。奴らの頭をぶっ殺せばいいだけだ」

「ランスはそれでもいいかもしれないけどね…被害の事を考えれば、やっぱり最小限で済ませたいのよ。町への被害の事を考えれば野戦なんだけど、この数だと厳しいしね…」

「アレを使えば良いだろ。アレなら数が居ても余裕だろ」

 アレ、というのは勿論スラルとランスの合体技だ。

 それならば相手に混乱を与えられる上に、魔物将軍への突破口になるだろう。

「魔人がいなければ使ってもいいんだけどね。問題は魔人なのよ…出来るだけ手の内は隠しておきたいし、何よりも下手に魔人が動いて魔王領に撤退するなんてなったら問題でしょ。魔王が動かない保障なんて無い訳だし」

「むう…確かに俺様が強すぎるせいで魔人が逃げる可能性はあるな。それはいかんな。魔人をぶっ殺さないとジルを美味しく頂く事が出来んからな」

 ランスの言葉にジルは内心でため息を付くと同時に、ランスという人間のとんでもない言葉にわくわくもしてくる。

(全く…魔人が逃げるとか普通の人間の発想じゃないわね。それに優先順位はやっぱりジルなのね)

「だが被害は絶対に出るぞ。こいつらはハッキリ言って雑魚だからな」

 かつてランスが率いていた者達に比べれば、ここの者達は圧倒的に弱い。

 集団行動は上手く取れないし、魔法使いの数も質も悪い。

 魔物大将軍や使徒戯骸、そして魔人レキシントンとの戦いの時はJAPANの猛者達が居たから何とかなった事はランスも分かる。

「分かってるわよ。被害は最小限に、戦果は最大限に。私はそうやって生きてきたからね…体に染み付いてるのよ」

「元魔王のくせに変な事を言うよな、スラルちゃんは」

(ジルちゃんとは大違いだな)、という言葉をランスは飲み込む。

 過去に戦った魔王ジルは、その側近である魔人ノスやアイゼルが死のうとも何の反応も示さなかった。

 あの魔王にとっては、自分に忠義を尽くす魔人であろうとも全ては駒にしか過ぎなかったのだろう。

 そんな冷酷な所がランスをして女を見捨てるという行為に走らせた。

(しかし俺様が倒した魔王と同じ名前というのはややこしいな。しかも結構似てるからな。ジルちゃんが大人になったらジルみたいな体になったのかもしれんな)

「元魔王だろうと何だろうと性格は中々変えられないわよ。それよりも…次は下手したら激戦になるわよ」

 スラルの言葉にランスは詰まらなそうに鼻を鳴らす。

「フン、男がどうなろうと知ったことではないが、俺様の女が死ぬのは許せんからな。まあ奴等をぶっ殺すには変わりは無い。とっとと行くぞ」

「ランスならそう言うと思ったわ。私もランスくらい図太くなれればいいんだけどね。でも私繊細だから」

「いや、スラルちゃんは結構図太いぞ。後でレダに聞いてみろ」

「失礼ねー。一緒にしないでよ」

 尚、レダからはスラルの望む言葉を得る事は出来なかったのは後の話である。

 

 

 

 そして魔物兵の斥候を退けてから少し時間が経過し―――

「魔軍が突っ込んできます! ぜ、全部です!」

「全部が来たか…予想はしていたけどね」

 ゲンバの報告にスラルはため息をつく。

(一番やって欲しくなかった行動を取るわね…思い切りがいいと取るか、無謀と取るかは微妙な線だけど)

 だが現実には魔軍は全軍で攻め込んでくるという方法を選んだ。

 そうなったからには自分達もそれなりの覚悟を決めなければならない。

「ジル。例の場所で待ってなさい。レダ、頼むわよ」

「分かりました」

「構わないわよ」

 ジルとレダの二人はそのまま走っていく。

「後は問題の場所に誘い出せればいいんだけどね。ランス、あなたが囮になるのが一番なんだけど」

「アホか。何で俺様がそんな事をしなければならんのだ。とにかく奴等をぶっ潰すぞ」

「そうね。じゃあ私達も行きましょうか」

 ランスも配下を連れて戦場へと向かう。

 そこには既に魔物隊長を先頭にした魔物兵が暴れていた。

「出て来い人間! このバムニスと戦うものはいないのか!?」

 それを隠れて見ているランスだが、少し微妙な表情をしていた。

「おい、あんな魔物隊長っているのか」

「うーん…魔物隊長も魔物将軍も個性はそれぞれだから。でもああいうタイプは珍しいかな」

 魔物隊長は魔物兵200を率いる兵で、あの魔物隊長のスーツの中にはモンスターが入っている。

 勿論モンスターにも個性があり、その中でも突然変異のモンスターはかなり個性的な者がおおいもスラルは知っている。

 しかし大抵は魔物隊長なんてものはこんな前線に出て来る事なんて滅多に無いことだ。

「でもこれはチャンスよ。ランスがあの魔物隊長を倒せば、ここの魔物兵は一気に崩れるわ」

「そうだな。だったらさっさとぶっ殺すことにするか」

 ランスは不敵に笑うと、

「がはははは! 態々カモが堂々と前に出てくるとはな! 俺様が直々にぶっ殺してやる」

「おお! まさか人間の中にこうも堂々と出てくるものが居るとは思わなかったな! ならばこのバムニスと勝負だ!」

 魔物隊長バムニスは高らかに笑うと、その巨大な剣を構えてランスに向かって斬りかかって来る。

 

 ガンッ!

 

「む」

 鋼と鋼がぶつかり合う音が高らかに響き、ランスはその手に感じた想像以上の衝撃に思わず呻く。

「止めるか! このバムニスの剣を!」

 一方のバムニスは自分の剣を人間があっさりと止めたことに嬉しそうに笑う。

「フン、アホか。お前など俺様の相手にならんわ!」

 ランスは力ずくで相手の剣を弾くと、そのまま魔物隊長に斬りかかる。

 その時ランスは奇妙な感覚に襲われる。

(うーむ…なんだこの感覚は)

 少し前…正確には藤原石丸と斬り合った後から感じていた感覚。

 それまでは少ししか感じることは無かったが、魔人レキシントンとの戦いの後からその感覚がどんどんと冴えて来た。

 最初はランスは鬱陶しく思っていたが、戦っているうちにもそれが慣れてきていた。

 それは自分以外の時間が非常に遅くなって見えるような感覚…それでいて自分は普通に動けてしまうようなとても奇妙な感じだった。

 今も魔物隊長の太刀筋がハッキリとランスには見えている。

 それでいてその相手の隙がランスには感じられていた。

「死ねーーーーっ!」

「!」

 ランスの恐ろしく早い剣に魔物隊長はその一撃を剣を受けるので精一杯だった。

(ランスの剣に耐えるか…こいつは中々強い魔物隊長…そして中々の剣を持っているようね)

 魔物隊長は大抵は黒い大剣を持っているが、この魔物隊長が持っているのはその巨体には似つかわしくない大きさの剣だ。

 しかしそれでもランスの一撃を止めたというのは驚くべき事だ。

「ふ、ふふふふふ! まさかここまでの力を持つとはな! しかし! それで我が剣を止めることは出来ん!」

 魔物隊長は背中に手を伸ばすと、その手にはもう一本の剣が握られていた。

「受けよ! 我が剣を! この名剣ヒデオの剣! 受け止められるか!?」

「二刀流…」

 スラルは思わず口に出す。

 剣を両方の手で使うなど、スラルも見た事が無い。

 いや、見た事くらいはあるかもしれないが、記憶に残らないのだから大した強さを持つ相手では無かったのだろう。

 しかし、この魔物隊長の剣はスラルから見ても中々のものだった。

 一振りが大降りのように見えて、その実かなり鋭い。

(さて…ランスはこれをどう捌くのかしらね)

 だが、それでもスラルはランスの強さに絶対な信頼を寄せている。

 そう、魔人カミーラ、そして魔人レキシントンと渡り合ったランスの力は伊達ではないのだ。

 そしてランスもまた二刀流の戦士と一戦交えている。

(えーと誰だったか…名前も思い出せないなら大した事ないだろ。そいつに比べれば遅いな)

 なので二刀流だろうと意にも介さない。

 ランスは繰り出される一撃を避け、時には弾いているとまたあの奇妙な感覚が襲ってくる。

 だが、ランスはそれを自然のモノとして受け入れた。

 相手の攻撃の先が見えるとでも言えばいいのだろうか、とにかくランスには相手の剣がどういう軌跡を辿るのかおぼろげながら見えていた。

「な、何だ?」

 そしてその奇妙な出来事は魔物隊長をも戦慄させる。

(わ、我が攻撃が当たる気配が無い…こ、こいつには一体何が見えているというのだ!?)

 バムニスが剣を放とうすると、まるでその場所が分かっているかのように剣が切り払われる。

 そしてその剣は魔物隊長であるはずの自分の力を上回っている。

(こ、こいつは一体何なのだ?)

 戦いを楽しむ事こそが全てのはずだった。

 強い人間がいればそれを倒す事が至上の喜びのはずだった。

 しかし目の前にいるのは本当に人間なのか? という錯覚に陥ってしまう。

「こ、こんなバカな事が!」

 己を奮い立たせるように声を放ち、魔物隊長はランスへと突っ込んでいく。

 一方のランスはというと、

「なんか気持ち悪いが何となく慣れて来たな」

 ようやく奇妙な感覚に体が慣れてくる。

 そしてランスと魔物隊長が交錯したかと思うと、

「そ、そんな馬鹿な!?」

 バムニスは己の腕を見て驚愕する。

 そこにはあるはずの自分の腕が存在しなかった。

 地に落ちた剣を握ったままの自分の腕を見て、バムニスは信じられないようにランスを見る。

「き、貴様は一体何なんだ!?」

「うるさい。さっさと死ね」

 バムニスが最後に見たのは、明らかに自分を敵とも認識していない、まるで雑兵でも狩るかのような冷ややかなランスの目だった。

「フン、雑魚だな」

「魔物隊長を雑魚扱いできるランスが異常だと思うんだけど…まあ今更ね」

 ランスはそのまま残った魔物兵を見るが、魔物兵達は既にその足を止めていた。

 魔物兵は魔物隊長がいなければ統率を取る事が出来ない。

 それは中身がゾンビであるこの魔物兵達も同じだ。

 そうすると魔物兵達のやる事は只一つ。

「え…逃げた?」

「ま、魔物兵が逃げていく?」

 魔物兵達は一斉に人間達に背を向けて逃げていく。

 その光景を呆然と見ていた人間達だが、

「何をやってるお前等! 追撃しろ! あいつらを逃がすな!」

「は、はい!」

 ランスの声に我へと帰り、逃げていく魔物兵を追っていく。

「さーて、こっちはいいな」

「そうね。後はもう一体の魔物隊長と、魔物将軍か…っと」

 ランスが剣を収めた時、凄まじい轟音が響き渡る。

「あっちも上手くやってるみたいね。じゃあ私達は仕上げと行きましょうか」

「久々に当たりだといいがな。がはははは!」

 ランスとスラルは魔物将軍を探すべく動き始めた。

 




今月末までは非常に忙しい…この状況なので皺寄せが自分に来てしまう
リアルが厳しい状況がどうしても続いてしまう…

LV3技能って本当に難しい
何しろ魔法や特殊な技能に比べて剣とか格闘とかは何が出来るかという描写が無かったので
魔王ランスは剣LV3だけど魔王のアドバンテージが強すぎるし

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