「行け! 人間共を蹴散らせ!」
魔物隊長ゼンターシュの言葉に魔物兵達が人間に殺到する。
力と体格で勝る魔物兵の前には、人間の防御など意味が無いと言わんばかりに蹴散らされる。
「駄目だ! 退け!」
真正面からぶつかっては勝ち目がないと悟ったらしく、人間達は一目散に逃げていく。
「フン、軟弱な…どうやらこちらは外れのようだな」
ゼンターシュはあまりに脆い人間達を前に詰まらなそうに鼻を鳴らす。
「バムニスの方が当たりだったか…まあいい。ここを制圧してからバムニスと合流するか」
魔物兵30が返ってこなかったのはどうやら別の人間の部隊にやられたらしい。
ゼンターシュはその人間と戦いたかったが、どうやら別の場所にいるようだ。
もしかしたらバムニスやリフイートの所にいるかもしれない。
合流する前に、ここの人間を排除する必要がある。
「フン…魔人の命令とリフイート将軍の最後の頼みとはいえ、こうも手応えが無いのではな…だがあのテンプルナイトとやらがここに逃げ込んだのは分かっている。そいつらを潰すのも良いかもしれん」
ゼンターシュは魔物兵に指示を出し、人間を探させる。
「人間共…ただ逃げるだけだと思っていたが、我等を待ち構えて居るとは思わなかったな。まあその方がやりやすいのだが」
背負った大剣を構え、ゼンターシュは笑みを浮かべる。
やはりこうして戦っている時が一番高揚する。
魔物とは、こうして人間と戦っている時が何よりも楽しみで有るべきだとゼンターシュは考えている。
勿論そんな考えは異端だという自覚はあるし、人間を嬲って楽しみたい他の魔物隊長からも笑われた事も有る。
だが、誰が何と言おうと自分達は何よりも戦いこそが楽しみなのだ。
「追撃だ! 人間共を倒せ!」
「「「オオォォォォ」」」
ゼンターシュの声に魔物兵達から悍ましい声が上がる。
その声にゼンターシュすらも顔を顰める程で、魔物兵達は次の犠牲者を求めて侵攻する。
その後にあるのは惨たらしく食われた人間の死体があるだけだ。
「全く…人間を壊そうとする奴等は多いが、食うというのは気分が悪いな。まあいい、どうせこれが俺にとっても最後の戦いよ」
ゼンターシュは不快感を片隅に追いやると、魔物兵を率いて人間達への追撃を続行する。
人間達は魔物兵が現れるとあっという間に逃げ行くのを見て、つまらなそうに鼻を鳴らす。
「所詮はこの程度か…もう少し骨があると思ったのだがな。いや、甘く見るのは危険か…30の魔物兵が戻ってこなかったのは事実だからな」
戻ってこなかった魔物兵の事を考えれば、甘く見るべきでは無いのは分かっている。
だが、殆どの魔物がそうであるように、ゼンターシュもまた人間を本質的には見下している一人の魔物隊長に過ぎなかった。
ゼンターシュはどんどんと人間を追い詰めていくが、ついに開けた場所に出る。
そこには人間達が集まっており、こちらに向けて武器を構えている。
「ほう。ここで決戦という訳か。ならばここで殺してやろう」
ゼンターシュは剣を構え、
「突撃!」
魔物兵に合図をすると、自らも剣を片手に突っ込んでいく。
すると人間達は自分達を迎えるように二つに割れてゆき、ゼンターシュの目に入ったのは複数の人間だ。
そしてゼンターシュはここに来てようやく理解した。
「ま、まさか!?」
誘い込まれた、の先の言葉をゼンターシュは発することが出来なかった。
「業火炎破!」
「「「火爆破!!!」」」
魔法使い達が一斉に魔法を放つ。
その魔法の威力は、人間が放つ魔法力にしては非常に重く感じる。
魔物隊長であるゼンターシュですら足を止めてしまうほどだ。
が、次の瞬間に待っていたのはそれらの魔法を遥かに凌駕する一撃だった。
「ゼットン!!」
ジルの放った灼熱の業火が魔物兵達を包む。
その威力はまさに圧倒的で、ゼンターシュの周りに居た魔物兵は一瞬のうちに燃え尽きる。
そしてその炎が消えた後、残っているのはゼットンの範囲外に居た魔物兵だけだ。
その魔物兵達も炎に焼かれ辛うじて立っているゼンターシュを見て立ち尽くすだけだ。
「まーおー!!」
立ち尽くす魔物兵に向かって、大まおーが容赦なく炎を吐き出す。
炎に包まれた魔物兵はやはり燃えカスとなって倒れ、残った魔物兵に向かって大まおーが鎌を振るう。
悪魔の鎌で切られた魔物兵は魂を抜かれて倒れる。
それを見た魔物兵達は一斉に逃げ始める。
「残すな! ここで倒せ!」
「「「おおおおおおおぉぉぉぉ!!!」」」
ハンナの言葉に皆が一斉に声を上げ、逃げていく魔物兵に向かって殺到していく。
それを見届けて、ハンナは緊張の糸が切れたように倒れこむ。
「はぁ…」
「ハンナ! 大丈夫!?」
「クー…ちょ、ちょっと緊張の糸が切れただけだから大丈夫よ」
いくら普段から気丈に振舞っていようとも、実戦…それも魔物兵との戦いは初めなので無理もないとクーは思う。
「クーだって震えてるじゃない」
「そ、それはそうだよ。初めての戦いなんだから」
クーも膝が笑っており、ハンナが居なければ彼自身ももうへたり込んでいただろう。
「安心するのはまだ早いぜ。連中には魔物将軍が居る。奴をどうにかしないと本当の意味での勝ちとは言えねえ」
ドワイトが厳しい表情をしながらも、優しく二人の肩をたたく。
「しかし驚きだな。お宅のボスが出来るって言うから信じたが、まさか本当に一撃で魔物隊長を吹っ飛ばすなんてな」
「そうですね…まさかゼットンを使えるなんて。初めて見ました…」
ゼットンという魔法は並の魔法使いに使える魔法ではない。
それこそ一国の将軍クラスでしか使えないレベルの魔法だ。
しかもこの威力…いくら魔方陣を使って威力を上げていたにしても、魔物隊長も含めて魔物兵を数十体も焼き尽くすなど普通では考えられない威力だ。
「ボスもそうですけど…レダさんもスラルさんもジルさんも異常ですね。前にボスを襲ったのは明らかに間違いでしたよね…」
そもそも組織の弱体化を招いたのは、ランス達が持つ不思議なアイテムを奪おうとして返り討ちにあったからだ。
ならばこうなる事も最早運命だったのかもしれない。
「私とジルはランスの所に行くわ」
「ああ、俺も行くぜ。お前達は少し休んでから来ればいい」
レダの言葉にドワイトも頷く。
ドワイトはそのまま笑ってクーの肩を叩きながらレダとジルと共に走り出す。
そのドワイトを追って、テンプルナイト達も走っていく。
残ったのはクーとハンナ、そしてその部下達だ。
「ハンナ」
「分かってるわよ。まだ魔物将軍が残ってる…こんな所で躓いている時間は無いのよ」
ハンナは震える足に活を入れて立ち上がる。
ここで足を止めていては、部下達は自分達については来ない。
ただでさえボスであるランスとその仲間がアレだけ力を示したのだ。
その力には敵わないが、それ以外の所で自分の存在をアピールしなければならないのだ。
「行くわよ! 魔軍をここから追い出すのよ!」
魔物将軍リフイートは凄まじい魔力の放出を感知し足を止める。
「この魔力は…」
リフイートも死滅戦争では常に前線で戦い続けた歴戦の将だ。
殆どの人間は魔王であるナイチサが虐殺していたが、他にも多くの魔人や魔物が人間狩りに参加していた。
勿論その戦い…いや、虐殺に参加しなかった者もいる。
ナイチサも特に魔人に声をかけていた訳でも無く、実際には魔王の虐殺に乗じて他の魔人や魔物が好き勝手していたに等しかった。
人間達も抵抗はしたが、その抵抗はほとんど無意味でしかなかった。
そしてこの感知できた魔力は、死滅戦争に参加していた魔人の一人、レッドアイを思い出させる程だ。
無論魔人であるレッドアイとは比べものにならないだろうが、人間がこれ程の魔力を感じさせることにリフイートは驚いた。
驚くと同時に、自分の中の魔物の血が滾って来るのを感じる。
「フフフ…トルーマン等という下らん魔人の下であろうが、戦って死ねればそれでいいと思っていたが…どうやらそれ以上の大物がいるようだ」
リフイートは真っ直ぐに正面を見据える。
「バムニスも報告に来ない…あの魔力の方向に行ったのはゼンターシュ…フフ、奴等も戦で逝ったか」
今まで自分についてきた魔物隊長の事を思う。
もう会うことは出来ないだろうが、それが戦というものだ。
ならば自分がやる事も一つしかない。
「突撃だ! 遠慮はいらぬ! 全ては敵だ! 行け!」
リフイートの言葉に魔物兵達が行動を始める。
「フフフ…これが最後の舞台になろうが一向に構わん。全ては魔物の本能のままよ!」
そう言いながらリフイート本人も突っ込んでいった。
「がはははは! 後は魔物将軍をぶっ殺すだけだな!」
「そうねー。でもこれだけの混乱があるなら魔物将軍を倒すだけなら出来るでしょ」
ランスとスラルは配下の者達を連れて魔物将軍を探す。
探すと言っても、逃げていく魔物兵を追いかければいいので楽なものだ。
後は魔物将軍をさくっと殺すだけ、それがランスの考えだ。
「…ねえランス。ちょっと聞いていいかしら?」
「なんだ」
スラルは先の魔物隊長と戦っていた時のランスの戦いぶりを思い出す。
「何かあったの? 何て言うか…これまでとは違うような感じがしたから」
「何がだ。スラルちゃんの言う事は相変わらずまどろっこしいぞ」
「それは悪かったわね。性分なのよ。魔物隊長と戦った時だけどね。これまでのランスとの戦い方とは違って見えたから」
「…そんなに違ったか」
「私はランスの剣の中に居たからね。ある意味ランスの剣の動きが身近で見えるのよ。だから分かる、ランスはあの時魔物隊長で試してたって」
スラルの言葉にランスは少し考える。
自分としては当たり前の様に剣を振るっていたつもりでしかなかったが、一番自分の剣を知っているであろうスラルがそう言うのであれば、実際はそうだったのだろう。
「相手の動きが見えただけだ。だから余裕だった。それだけだ」
「…ごめん、何言ってるか分からない」
「動きが分かれば簡単に対処できるだろうが」
「うーん…前々から思ってたけど、ランスの戦闘の理論って本当に分からない。まあでもそれで強いんだからとんでもないんだけどね」
「どういう意味だ」
ランスは憮然とした顔で剣を叩く。
「ランスの剣はランスにしか分からないって事。ねえ、人に物を教えるのが下手だって言われたことない」
「うーむ…」
ランスは誰かに剣を教わったという過去は無い。
自分を育ててくれた女戦士からも一人で生きていく術は教わっても、剣までは教えられてはいない。
基本的な事くらいは習ったかもしれないが、ランスの剣に関しては全てが我流だ。
(そういやへルマンでチルディに剣を教えた事があったが…微妙な顔をしてたな)
チルディが金髪のショタ好きに剣を習っていのが気に食わず、ランスが少し教えたが、チルディは非常に微妙な顔をしていたような気がする。
「まあ天才の俺様の剣が他人が使えるわけが無いという事だな。うむ、俺様が凄いのだ」
「強いのは認めるけどね…まあ確かにランスの剣を学ぶなんて不可能か」
「その通りだ。天才は俺様一人が居ればいいのだ」
何時もの様に笑うランスだが、スラルは別の意味で『不可能』だと言った事に当然ランスは気づかない。
(カミーラのブレスすらも斬れるランスの剣を真似るなんて絶対無理でしょうね。可能性があればそれこそ藤原石丸か…)
ランスと互角の剣術を持っていた藤原石丸…残念ながらランスすらも上回ると思っていた剣の腕の持ち主でも、魔人には勝つ事は出来なかった。
その石丸が居ない今、まともにぶつかってランスに勝てる人間等見つからないだろう。
「まあそれは置いておいて…来るわよ、ランス」
「がはははは! 当たりつきの魔物将軍ならズバッと殺す! 外れでもぶっ殺す!」
逃げている魔物兵を追ってランスが走っていると、
「ランス! 止まって!」
「何だ!?」
スラルの声にランスは足を止める。
「うぎゃああああ!」
その声で足を止めることが出来なかった兵士達は、電撃に包まれて動かなくなる。
「魔法か!?」
「来たわよ、ランス!」
スラルの言葉に対応するかのように、魔物将軍を先頭にして魔物兵がこちらに向かってくる。
「フン…人間か。正面から向かってくるとは無謀だな」
「がはははは! それは俺様の台詞だな。しかし…外れだな」
ランスは魔物将軍を見て露骨にがっかりする。
それは魔物将軍の中にいるはずの女が明らかに外れだったからだ。
そもそも魔物将軍の中にいるのは既に人の形が崩れており、明らかに死んでいるからだ。
「外れとは人間も中々面白い事を言ってくれる。見たところ…貴様がバムニスかゼンターシュを倒した人間だな」
魔物将軍リフイートは一目見てランスが強いという事を見抜く。
長い間人間と争い続けてきたリフイートは、有る程度ではあるが人間の強さをはかることが出来る。
そのリフイートは自分の体が粟立つのを抑えることが出来ないでいた。
「お前の言うのが誰かは知らんが、魔物隊長なら俺様が殺したぞ。あんな雑魚では汗一つかかんがな」
「フッ…人間も中々言うではないか。まあいい、ならばこのリフイートが貴様を殺してやる。行け!」
リフイートの合図で魔物兵達が動き始める。
その動きは魔物将軍が近くに居るためか、非常に機敏な動作となっている。
だがそれでもランスにとっては非常に遅い。
これまでとは違い、今のランスは戦いの連続であったため、レベルが中々下がらずに居る。
それ故に魔物兵程度ではランスを止めることは出来ないのだ。
「むうっ!?」
目にも留まらぬランスの剣筋にリフイートは思わず呻き声を漏らす。
(馬鹿な…この剣の腕、ガルティア様すらも上回るのではないか!?)
リフイートが知る魔人の中では、魔人ガルティアが素晴らしい剣の腕前を持っている。
その腕前を見た事の有るリフイートだからこそ、目の前に居る人間が恐ろしい腕前を持っている事に気づく。
同時に唇が釣りあがっていくのを止める事が出来なかった。
「フフフ…最後にこれほどの大物に出会えるとはな。俺の最後の獲物としてコレほど相応しいものは無い!」
リフイートは手に持った巻物に力が入るのを自覚する。
リフイートは他の魔物将軍とは違い、鉄球ではなく巻物を持っている。
これはリフイートが魔法を得意とする魔物将軍であり、中々珍しい種類の魔物将軍でもある。
「行け! あの人間を殺せ!」
リフイートの号令に魔物兵達がランスに殺到する。
「うげ…流石にこの数は面倒くさいぞ」
「皆動きなさい! ランスを守るのよ!」
スラルの言葉にランスの部下達がランスを守るべく盾を構えて魔物兵の前へと出る。
「よーし、一発ぶちかましてやるか」
その隙にランスは剣を構えてランスアタックへの準備に入るが、
「ランス! 下がって!」
スラルの言葉にいち早く反応して慌てて後ろに下がる。
するとそこに居たランスの部下達と共に魔物兵が電磁結界を浴びせられる。
「な、何だと!?」
味方ごと纏めて電磁結界に巻き込む魔物将軍には流石のランスも驚く。
「フン、勘のいい奴だ。だが逃がさん! 炎の矢!」
「チッ!」
体勢を整える間もなく魔法が放たれるが、その魔法はスラルがバリアで防ぐ。
「む…防ぐだと? 一体何が起きた。まあいい、このまますり潰せ!」
魔物将軍の合図で更に魔物兵がランスに向かってくる。
「まずいわよランス。あいつは部下を使い潰すつもりでランスをやるつもりよ」
「なんつー奴だ。カミーラだってそこまでしなかったぞ」
ランスの愚痴など魔物兵が聞くわけも無く、魔物兵がランスに向かってくる。
その奥では魔物将軍と、灰色の衣装を纏った魔法使いの魔物兵達が魔法の詠唱を始めている。
味方の損害を無視してランスを狙ってくる相手の戦法には、流石のランスも切り込めずに居た。
「スラルちゃん、アレは使えないのか」
「ちょっと難しいわね…手加減が出来ないから、間違いなく被害の方が多くなるもの。間違いなくこの町の人間に多くの犠牲が出るわ」
「ぐぬぬ…俺様が強すぎるのが仇になるとは」
スラルとの合体技は周囲の被害が大きすぎるため使用することが出来ない。
この町の者…男はともなく、女を巻き込むのであれば流石のランスもそれを使用することを躊躇ってしまう。
ランスが魔物兵を叩き斬っている間にも、
「炎の矢!」
「火爆破!」
「雷の矢!」
魔物兵が放つ魔法がランスへと向かっていく。
「フン!」
ランスは向かってくる炎を魔物兵を盾にする事で防ぐ。
魔法は絶対に命中するという特性を持っているが、それは必ずしも向けられた本人に当たるとは限らない。
しかしその魔法の量はランスの想像以上であり、何よりも、
「死ね! 人間! ファイヤーレーザー!」
この魔物将軍が結構厄介な存在だった。
「クッ!」
スラルが何とかファイヤーレーザーを魔法バリアで防ぐが、流石にこの数の魔物兵が相手では持たないだろう。
「ちょっとランス! 先行しすぎよ!」
「フン、余裕だ余裕!」
ランスはあくまでも態度は崩さないが、内心では、
(うーむ、ちょっとまずいぞ)
そんな事を考えていた。
魔物兵程度であれば何とかなるが、流石に魔物将軍クラスが居るのはまずかった。
「詠唱を始めろ! あの人間を殺せば後は烏合の衆よ!」
リフイートの言葉に、魔法魔物兵が再び詠唱を始める。
「一回退くわよ! ランス!」
スラルの言葉に流石にランスも一度下がろうと考えていたとき、
「エンジェルカッター!」
「電磁結界!」
何処からか放たれた魔法が魔軍へと突き刺さる。
「ムッ!?」
自分の後ろで倒れる魔物兵を見て、リフイートは呻き声を漏らす。
「ランス! 突っ込みすぎよ!」
「大丈夫ですか! ランス様!」
「レダ! ジル! それに皆も!」
レダとジルを初めとして、もう一体の魔物隊長に当たっていた仲間たちが駆けつけて来たのを見て、スラルは嬉しそうな声を上げる。
「ボスを守れ! テンプルナイト隊! 壁になるぞ!」
「「「オオオッ!!!」」」
ドワイトの言葉にランスの前に重装備のテンプルナイト達が壁となる。
「バリア!」
そのテンプルナイト達に、レダを始めとした魔法を使えるテンプルナイト達が壁となっている者に魔法をかける。
壁となっているテンプルナイト達に電磁結界を始めとした、火爆破等の魔法が襲い掛かるが、事前に掛けられていた防御魔法のおかげでテンプルナイト達は崩れない。
「回復の雨!」
それで傷は負うのだが、そこにレダが間髪入れずに回復魔法をかける。
「おお…何という神魔法の腕前…」
「まさに天使…」
連続して神魔法を放つレダの姿に、一部のテンプルナイトが思わず見惚れてしまう。
「ぼさっとするな! 今は目の前の敵に集中しなさい!」
「は、はいっ!」
レダの怒声にテンプルナイト達は魔軍へと意識を向ける。
「ドワイト!」
「そっちも無事だったか!」
ドワイトは自分を呼ぶ声に嬉しそうにその方を向く。
「使って!」
そう言われてキャロルから渡されたのは一本の剣だ。
「こいつは…」
「話は後! でも使ってた剣よりも遥かに上質の剣よ!」
ドワイトは渡された剣―――魔物隊長が使っていたヒデオの剣を握り、
「ありがとよ!」
そのまま魔軍へと突っ込んでいく。
そしてそのまま他のテンプルナイトと戦っている魔軍を斬りつける。
「おおっ!」
その切味にドワイトも驚く。
テンプルナイトに押されて疲弊していたとはいえ、魔軍兵を一撃で斬る事が出来た。
それだけでもこの剣が相当な名剣で有る事が伺えた。
「行くぞ! 押し返せ!」
「「「おおっ!!」」」
ドワイトの声でテンプルナイト達は大いに士気を上げて魔軍を押し返し始める。
「ランス様!」
「遅いぞ! 奴隷の分際で主人を待たせるとは何事だ!」
「ご、ごめんなさい」
ランスの声にジルは驚くが、
「まあいい。それよりも俺様の活躍をしっかりと見ていろ」
その言葉に顔を綻ばせる。
「はい!」
「よーし。目標はあのふざけた魔物将軍だ。行くぞ!」
ランスはそのまま真っ直ぐに魔物将軍へと向かっていく。
「人間が! スノーレーザー!」
「甘いわよ!」
リフイートはランスに向かって魔法を放つが、それはスラルが放つ魔法バリアの前に弾かれる。
「ぐううううう! 何という事だ!」
それを見てリフイートは最早呻き声を上げる他無い。
自分の周りの魔物兵達はどんどんと人間達に倒されていく。
(まさか…これほどの強さを持つ連中が集まっていたとは…最高の展開だというのにな!)
これほど上質な相手に巡り合えたにも関わらず、リフイートの頭にあったのはある種の悔しさだった。
(あの時こういう連中と出会えてればな…いや、最早意味の無い事か!)
死滅戦争の時にこれ程の手応えのある人間と戦えていれば、今の自分に魔物将軍の立場に相応しい数の兵がいれば、そう思うが全てはありえない事だ。
(ならば…何としても最後にあの人間を倒す!)
そう決意を固めてリフイートはランスに向かっていく。
「がはははは! 態々俺に殺されに来たか! だったら死ねーーーーっ!」
ランスは勢いよく跳び上がると、
「ラーンスあたたたたーーーーっく!」
何時もの様に必殺の一撃を放つ。
「ぬうううう!」
まともには受けてはくれないが、それでもリフイートはその一撃に背筋を凍らせる。
まともに受ければ、いかに魔物将軍でも一撃で死にそうな一撃を放ってくる人間に脅威と同時に奇妙な興奮を覚える。
「死ね! 人間! 炎の矢!」
リフイートはそのまま魔法を放つ。
今度はまともに人間に魔法が直撃する事に笑みを浮かべる。
(このまま畳みかける!)
リフイートは魔法が得意ではあるが、同時に肉体的にも人間よりも遥かに優れている。
この拳がまともに当たれば人間などひとたまりもない。
(そうだ! 最後は勝利で終わらなければ!)
戦場で死ぬのは本望だが、それでも勝って終わらなければ意味は無い。
そして最後の最後でこれ程の人間と出会えた事を魔王に、そしてあの忌々しい魔人トルーマンに感謝しなければならない。
そう思って拳をランスに打ち付けようとした時―――宙を舞っていたのは自分の腕だった。
「な、何だと!?」
「がはははは! 俺様にそんなちゃちな魔法が効くか! いい加減に死ねーーーーーッ!」
見れば人間には殆ど傷らしき傷は見当たらない。
誘い込まれた、とリフイートが気づいた時には既に遅かった。
「とーーーーーーーっ!」
ランスの強烈な一撃がリフイートの腹を切り裂く。
「ば、バカな!?」
たったの一撃で頑強な魔物将軍の腹を切裂かれた事に驚くと同時に、自分の体から急速に力が抜け落ちていくのを感じる。
リフイートはそのまま立っていられなくなり、とうとう地に膝をつく。
「がはははは! 俺様大勝利!」