「さーて、そろそろ準備は出来たか」
「私達は問題無いわよ。それよりも本当に行くの?」
「当たり前だ。情報収集は基本だろ」
「確かにそうだけどさ…ランスが言うと、凄い違和感があるのよね」
「どういう意味だ、スラルちゃん」
ランスの言葉にスラルはため息をつく。
「前にも言ったでしょ。ランスは無計画で行き当たりばったりだって。まあ不思議と上手くいくのが不思議だけどさ」
ランスと共に旅をしてから、ランスの無茶に付き合わされたのはもう慣れてしまった。
あまり慣れたくは無かったが、正直魔王だった頃よりも刺激的で楽しくも有る。
「直ぐに行くの?」
「こういうのは時間をかけても意味はないからな。俺様が動く時は速攻だ」
「まあランスは待つのは苦手そうだしね。だったら好きに動いた方がいっそ良いのかもしれないわね」
「俺様ならば何も問題は無い。行くぞ」
「ええ」
ランスは剣を腰に下げると、皆との集合場所に向かう。
そこにはスラルが集めた言わば精鋭と呼べる者が集まっていた。
が、その面子を見てランスが目に見えて不機嫌になる。
「おいスラルちゃん」
「苦情は受け付けないわよ。ランスの要望が馬鹿馬鹿しすぎるのよ。全てを満たす人物を用意出来る訳無いでしょ」
「ぐぬぬ…」
スラルの言葉にランスも何も言えなくなる。
レダ、ジル、加奈代はランスの直属のメンバーなので居るのは当然だが、その他の人材が気に入らない。
「おい、何でお前がここに居る」
「俺の元々の仕事は出没するゾンビを何とかする事だからな。ボスが向かうなら渡りに船ってやつさ」
ドワイトはランスに向かって笑いかける。
「あのねランス。先に言っておくけど彼は使えるわよ。それに神魔法も使えるし、ガードも出来る。レダには及ばないけど居て困らないでしょ」
「俺様が困るんだ。何が悲しくてこんなおっさんと一緒に行動しなければならんのだ」
「私は困らないから問題無いわ。言ったでしょ、苦情は受け付けないって」
スラルの言葉にランスは不満げな表情を全く隠さない。
そして大きな体格を持つドワイトの隣にいるのは、小柄な体を持った少女だ。
「ドロシー。お前もこっちに来るのか」
「ボス。私はこう見えても魔法が得意。直接的な攻撃魔法は苦手だけど、情報を集めるのは私をおいて他はいないと自負している」
「彼女は実際に優秀よ。戦いは何も直接戦闘だけが全てじゃないでしょ?」
「まあいい。おいオッサン。何が有ってもドロシーを守れよ。お前の存在意義はそれしか無いんだからな」
「そいつは酷いな。まあハッキリ言ってくれて逆に気持ちが良いけどな」
ランスはそのままドロシーの隣の男を見る。
「誰だお前」
「ちょ、ちょっとボス! 俺ですよ! ゲンバですよ!」
「お前など知らん」
「ひ、ひでぇ…」
「…本気で男の事は覚えてないのね。まあ確かに無個性かもしれないけど」
「スラルの姐さんもひでぇや! 俺は真っ先にボスについたってのに!」
ゲンバの言葉に加奈代が笑う。
「まあいいや。使い捨ての壁くらいにはなるだろ。で、次は…」
そのゲンバの隣に居るのはクーだ。
ランスはクーを見ると、問答無用でその頭を叩く。
「いたっ! な、何をするんですか! ボス!」
「やかましい! 何でお前がここにいるんだ! 梅太郎が俺様の視界の中に入るな!」
「う、梅太郎? あの、ボクはそんな名前じゃ…」
「お前が側に居ると鳥肌が立つんだ! 与一のように本当に女になって来い!」
「そ、それは無理です! ボクは男ですから!」
「おいスラルちゃん! 何でこいつが居るんだ!」
ランスは自分の剣の中に居るスラルに対して怒鳴る。
「そんなの簡単よ。神魔法を使えるのは貴重だし、何よりも優秀だから。ランス、レダを基準にして考えたら駄目よ」
「はぁ…こんなに強くてかっこいい俺様の部下にこんなむさいオッサンや、個性の無い中年や、梅太郎しかいないんだ。俺様は世界一不幸に違いない」
「随分安い不幸ねー。それよりも最後の一人が残ってるわよ」
「こんな調子じゃ期待できんがな…」
スラルが選別した最後の一人がランスの前に現れる。
「あ、あの。私はバーバラと言います。よ、よろしくお願いします」
「ん…お、おお! 何だ、居るではないか!」
ランスは嬉しそうにバーバラへと近づく。
「君のような女の子がまだ居るのに気づかなかったのは俺様の不覚だな」
「待ちなさいよランス。バーバラが脅えてるじゃない」
「む、俺様は今は紳士だからな。がはははは! まあ俺様の力を良く見ているんだな!」
「は、はい…」
バーバラは口元を引き攣らせながら曖昧に笑うだけだ。
(な、何でこんな事に…)
バーバラ―――ケッセルリンクの使徒である彼女が何故こうなってしまったか、それは少し時間が遡る。
シャロン、エルシール、バーバラがこの町に潜入した初日、余所者でありながらも泊る所の確保は簡単だった。
「案外すんなりと潜入できましたね。正直もう少し苦労すると思ってました」
「そうですね…どうやらここは来る者を拒まず…いえ、来る者を拒めない状況だという事でしょうね」
エルシールは元貴族である事と、過去にランスと共に戦争を経験していた所からこの町の状況を理解する。
一通り回ってみたが、やはり魔軍との争いによる被害は大きい。
死者も当然出ているし、町のあちこちも壊れている。
そのためには、他所の人間であろうとも受け入れるしかないのだろう。
まだ魔軍の襲撃が完全に止んだわけでは無いと認識している証拠だ。
「それでこれからどうするんです? 意気込んで来たのはいいですけど…正直どうすればいいか」
バーバラが恥ずかしそうに俯くのを見て、シャロンは苦笑しながらもバーバラに声をかける。
「情報を集めるだけでいいんです。必ずランス様の方からアクションを起こすと思いますから。ただ、私とエルシールはランス様と顔見知りで、特に私は使徒という事を知られています。ランス様は気にはしないでしょうが、周囲の人間はそうではないでしょう」
使徒とは魔人の配下であり、人間からすれば魔物と何も変わらない。
勿論使徒が普通の人間に敗れる訳は無いが、時にはランスのような使徒すらも軽く倒す事が出来る者が現れる事もある。
それにだけは気を付けなければならない。
「ですのでバーバラ。あなたがメインとなりますが…できますね?」
「は、はい! では早速行ってきます!」
バーバラは少し興奮した様子で部屋を出ていく。
その姿を見て、シャロンとエルシールは顔を見合わせて苦笑する。
「よっぽどケッセルリンク様のお役に立ちたいみたいですね」
「気持ちは分かります。でも、気負い過ぎるのも良くないです。それにバーバラは人間に対して敵意を抱いている部分もありますから…」
「そうですね…そこだけは心配です。万が一ランス様に見つかったら…」
「間違いなくランスさんは手を出しますね…無理矢理襲われるなんて事は無いとは思いますが」
この町に潜入して一番恐れているのが、バーバラがランスと接触してしまう事だ。
ケッセルリンクの使徒の中で、彼女だけがランスの事を全く知らない。
自分達はランスとケッセルリンクに助けられ、そして共に冒険し、魔法ハウスの中で共に過ごしてきた。
その中でランスという人間の人となりをある程度は分かっている自信もあるし、そもそも何度も肌を重ねた仲だ。
「多分バーバラはランス様の事が理解出来ないでしょうね」
「正直、私達も一緒に冒険をしてなければ信じられませんよ。それだけランスさんの経歴は馬鹿げています」
「ケッセルリンク様のお言葉でも眉を顰めてしまいますからね…正直現実味がありませんから」
「まあ魔王やら魔人やら神やら怪獣やら…普通ならホラ話だと一笑するだけですし」
バーバラの過去は勿論知っているが、彼女はその過程の中で人間に絶望してしまっている。
そこをケッセルリンクに助けられたのだが、その影響は非常に大きい。
なので人間を信じられなくてもおかしくは無い。
「とにかく、あの子を信じましょう。バーバラは戦闘力は有る方ですから」
「そ、そうですね。とにかく私達は私達で動きましょう」
シャロンとエルシールはバーバラの事を心配しながらも、己に出来る事をする。
しかし、やはりランスという男の『運』を思い知る事になる。
「はぁ…でも本当に魔物隊長と魔物将軍を倒したんだ…」
バーバラは周囲を見渡しながらため息をつく。
魔物隊長、魔物将軍と言えば相当な強者で、特に強い魔物将軍は使徒にも匹敵する存在もいると聞いた事が有る。
自分は人間の頃は…あまり思い出したくは無い。
先天性の病で体が碌に動けなかったのに、自分に体を売らせていた連中。
自分にあんな仕打ちをしながらもなおも笑っていられた人間。
そして何の躊躇いも無く自分をすてた人間。
そんな中、自分を哀れに思い、助けてくれたのは魔人と呼ばれる存在だった。
(おっといけない。今はそういうのは無しにしないと…)
過去を思い出すと人間に対する憎しみが湧きあがって来るが、今はそんな事は二の次だ。
どんなことが有ろうとも、主であるケッセルリンクの役に立たなければならない。
バーバラは気を引き締めて周囲を見渡すと、そこには仲間の死体を悲痛な表情で葬る人間と、魔物の死体を運ぶ人間が見える。
(うわ…すご)
真っ二つに両断された魔物隊長の死体が運ばれるのを見て、バーバラは言葉を失う。
あれほどの切断面で魔物隊長を真っ二つにするなど、主であるケッセルリンクでも難しいかもしれない。
カラーでありながら剣を使える主ではあるが、それでもあそこまで綺麗には斬れないだろう。
バーバラが感心していると、
「うわっ! こ、こいつ生きてるぞ!?」
「こ、こっちもだ!」
突如として人間達の慌てふためく声が響く。
その方向に視線を向けると、そこには呻き声を上げながら立ち上がる魔物兵の姿が有った。
体中から血を流し、腕が片方ないにも関わらずに奇声を上げながら人間に襲い掛かる。
そしてバーバラは気づく。
魔物の死体を運んでいる者の中に、自分がまだ人間であった頃よりも明らかに幼いであろう少女が腰を抜かしている事に。
恐怖で動けないのか、その少女はただ震えるだけだ。
そしてそんな少女に向けて半死半生の魔物兵がその手に握られている斧を向ける。
「伏せなさい! 炎の矢!」
バーバラは反射的のそう言葉を発していた。
それは主であるケッセルリンクの影響があったのだろう、何と躊躇いも無くその少女を助けるために魔法を放っていた。
魔法を受けた魔物兵はそのまま炎の矢に貫かれて動かなくなる。
「もう一体! 炎の矢!」
そして残ったもう一体の魔物兵にも炎の矢が放たれ、その魔物兵も動かなくなる。
「大丈夫?」
バーバラは迷う事無く腰を抜かしている少女に近づく。
「え…あ、はい。有難うございます」
少女は恐怖からか少し反応が鈍かったが、自分が助かった事を認識したのか、バーバラにしがみ付き泣き始める。
バーバラはそんな少女を優しく抱きしめるが、徐々にその背中に冷たい汗が流れてくる。
(しまった…何で私自分から目立ってんの!?)
自分はこの町に情報を集めるために潜入したのに、こうも目立ってしまうのはあまり良くない事だ。
「だ、大丈夫なら良かったわ。それじゃあ私はこれで」
バーバラはさり気なく―――実際は全く怪しいのだが―――その場を離れようとするが、
「待ちなさい」
突如として呼び止められ、足を止める。
「あなた中々…いえ、かなりやるわね。いくら弱っていたとはいえ、魔物兵を一撃で倒すなんて」
「えーと、別に大したことでは…」
バーバラは笑顔を引き攣らせたまま、声の主に向かって頭を下げる。
そこに居たのは、褐色の肌をしたやたらと偉そうに見える女性だった。
「見ない顔ね…あなたくらいの実力があって、私が知らないのだから、他所から来たのね。どう? ここで働いてみる気は無い?」
「え、えーとその。私は実は…」
たまたま旅の途中でこの町にやってきただけ、という言葉をバーバラは飲み込む。
そんな事を言えば間違いなく怪しまれるだろう。
何しろ魔軍と事を構えた町にたまたまやって来た、なんて事が通用するはずが無いのだ。
そしてバーバラは恐ろしく冷たい目で自分を見る二つの視線を感じる。
バーバラはゆっくりとその視線の方向を見ると―――そこには呆れた表情でこちらを見ているエルシールと、何時もの様に微笑んでいるが視線が全く笑っていないシャロンの姿が見える。
(エ、エルシールさん! シャロンさん! 助けて!)
バーバラは目でそう訴えるが、返ってきたのは、
『自分の蒔いた種は自分で何とかしなさい』という無言の圧力だった。
「お、お世話になります…」
結局バーバラはそう言って頭を下げるしかなかった。
そんな回想をしながら、バーバラは目の前に居るランスに大して引き攣った笑みを浮かべていた。
(ううう…こ、こんな奴がシャロンさん達の恩人で、ケッセルリンク様の戦友だなんて…)
最初こそびくついていたバーバラだが、今の状況は人間達の混乱も大きく、直ぐに馴染む事が出来ていた。
使徒としての力を持つバーバラはそこらの人間よりも遥かに強い。
隠密行動はまだ苦手だが、それでも並の人間よりも上回っている自信はある。
だからこそある程度自由に動け、人間達の内情を探っていた。
そして当然の如くバーバラはとんでもないシーンに遭遇してしまった。
それはこの男が大勢の女とセックスをしている場面だ。
(こ、この怖い人も居たし…こっちの女性は私に向ける目が怪しいし…何で使徒の私がこんな目にあうのよ…)
金髪の女性が皆の言っていた『レダ』という女性なのは直ぐに分かった。
が、彼女は異常なまでに迫力があって怖い。
顔を合わせたのは今が初めてではないが、まるで自分を見ていないその視線には恐怖を覚える程だった。
そして使徒になったからこそ嫌でも分かる、この女性の恐るべき強さに背筋が凍ったものだ。
もう一人の黒い髪の少女だが、彼女に関しては自分を見ている視線が非常に妖しい。
レダとは別の意味で恐怖を覚えてしまい、彼女に近づくのも躊躇われた。
(でも一番の問題は間違いなくこの男ね…)
目の前の男はとんでもなく女好き…いや、女しか好きじゃない。
シャロン達、そして主であるケッセルリンクから話は聞いていたが、その何れも言葉では結構辛辣ながらもそこには大きな信頼が宿っていた。
あの魔人であるケッセルリンクですら信頼を寄せる人間なのだから、どこか高潔な部分があるのだろうと勝手に想像していた。
が、その想像は最悪の遭遇にて微塵に打ち砕かれた。
バーバラが想像する、権力を使って女を好き勝手にするゲス…という認識しか抱けなかった。
ただ、皆が無理矢理抱かれていた訳では無いという言葉は聞けたが、怪しいものだ。
「ん、何だ。俺様がいい男だから見惚れていたか」
「そんな馬鹿な事言ってないで、早く行くわよ」
ランスの言葉に呆れたような声が聞こえるが、その声の主の姿は見えない。
バーバラはその声に体が緊張してしまう。
先代魔王スラル…ケッセルリンクを魔人へと変えたこの世界の頂点の存在。
バーバラも現魔王ナイチサには会った事はあるが、その存在の前には恐怖しか覚えなかった。
元魔王であるスラルは、今は違う存在となっていると言っても、やはり魔王という言葉で体が震えるのは仕方のない事だった。
「それよりも本当にこれだけでいいのね? もっと用意する事も出来たけど」
「ああ、十分だ。むしろ数が多かったら多かったで邪魔なだけだ。まずはその魔人トルーマンとかいう奴を見に行くだけだからな」
(魔人を見に行くって…この男、自殺願望でもあるの?)
ランスの言葉にバーバラは呆れてしまう。
普通魔人に向かっていくのは勇気では無く、ただの自殺行為だ。
だがこの男は相手が魔人だというのに全く気負ったところが無い。
それどころかその行為を楽しんでいるような気配さえ感じられる。
(…本当に何でこうなったんだろう)
バーバラは何処までも頭を抱えるしかなかった。
ランス達がうし車へと乗るのを隠れて見ている二つの目がある。
「行きましたね…シャロンさん、本当に良かったんですか?」
「バーバラは少し短気で迂闊な所も有りますから。これも良い経験になると思いますよ。実際に私達もそうだったでしょう?」
「まあ…そうですね。バーバラは経験が少ないですからね。でも心配です」
「大丈夫ですよ。何しろランス様が一緒ですから」
「…信頼しているんですね」
シャロンの言葉にエルシールも微笑む。
彼女の壮絶な過去はエルシールも聞いていた。
エルシール自身も過去は貴族の娘だったが、シャロンはそれを遥かに上回る身の上だ。
そしてその助けられ方も自分の想像を遥かに超えたものだった。
その彼女がランスを今でも信頼し続けているというのはよく分かる話だ。
「では私達も追いましょう。ケッセルリンク様への報告はその後で」
「そうですね。では行きましょうか」
シャロンとエルシールはランス達に見つからないように追跡を開始した。
「で、早速例の町に着いたんだけどさ…ここってどういう所なの? ドロシー」
「ここもまたマフィアが牛耳っていた町。ボスの持っているアイテムを狙っていた所の一つ」
「うーむ、俺様を狙うとはいい度胸だ。まあこれから存分に思い知らせてやるんだがな」
「今は見る影も無いですけどね…」
ランス達の言葉にバーバラも緊張した様子でその町を見る。
何故なら、そこを歩いているのはゾンビだったからだ。
ゾンビたちは時には人間であったであろうものを咀嚼しながら歩いている。
「魔物兵もいるか…」
そして一際目立つのが人間よりも遥かに大きな体躯を持つ魔物兵だ。
一般的な魔物兵である緑魔物兵もいるが、中には灰色の魔物兵や赤い魔物兵も居る。
「だけど数は少ないわね。私とランスとジルで不意打ちすれば一掃する事は出来ると思うけどね」
「何を言っている。ここで目立つ必要は無いだろ。大体相手をするのは面倒だ」
レダの言葉をランスは否定する。
倒すだけなら確かにランス達ならば容易に出来るが、兎に角今は魔人を探す事が先決だ。
「あ、あいつは…!」
突如としてゲンバが緊張した声を出す。
「ボ、ボス…! あいつです! あいつが魔人の使徒です!」
歩いてきたのは、確かにあの時ゲンバが確認した使徒と呼ばれていた存在だ。
「あれが使徒…」
クーとドロシーは魔物将軍よりもさらに巨大な使徒を見て思わず口を押さえる。
それは初めて見る魔人の使徒とという事もそうだが、何よりも感じるのはその生理的な気持ち悪さだ。
緑色の肉体からは異常な臭気が発せられるだけでなく、その巨大な口で恐らくは人間であろうナニカを食べている。
「魔物将軍が死んだね…でも魔物兵はまだまだ出来る。もう一度人間共を神の所におくってやるね…」
不気味な言葉を発しながら、使徒…マッキンリーは人間の体を貪る。
(アレがトルーマンの使徒か…)
バーバラは自分と同じであるはずの使徒を見て思わず口を押える。
勿論異形の使徒に会うのは初めてでは無い。
魔人ガルティアの使徒も異形の姿をしていたし、魔人レキシントンの使徒も全裸の変態だ。
だが、魔人トルーマンの使徒は生理的嫌悪を感じさせる異形の使徒だ。
「アレが使徒か…女じゃないのか。詰まらんな。いや、魔物将軍みたいにあの中に女の子が入ってるとか…」
「有る訳無いでしょそんなの。とにかくアレが使徒なら、ここに魔人が居るのはほぼ確定ね」
ランスの言葉にバーバラはギョッとした顔でランスを見る。
アレを見て尚もこんな言葉を発せる等、やはり並の馬鹿では無い。
「問題は何処に魔人が居るのかですよね」
ジルの言葉にランスは胸を張って答える。
「そういうヤツは大抵一番大きくて豪華な所に居るものだ。という訳でお前探してこい」
「え? お、俺がですか!?」
自分を指さして動揺するゲンバに対し、
「当たり前だ。というかそれくらいしか役に立たんだろ。さっさと行って来い。死んでもいいが、情報だけはしっかりと持って来いよ」
「え、いやその、俺一人じゃ」
「頑張ってねゲンバ。大丈夫あなたならやれるわ」
「頑張ってくださいねー。ほら、こういう時に役に立つのが忍者でしょう?」
スラルと加奈代の言葉にゲンバは項垂れると、
「お願いですからここに居て下さいよ。こんな所で見捨てられたら俺死んじゃいますからね」
そう言いながらも命令に従う。
「あの…いいんですか?」
バーバラは流石にゲンバに対して不憫に思うが、
「いいんだ。大体こういう時に役に立たん忍者などいらん」
ランスはあっさりとそう言い放つ。
「…かなみはいいの?」
「あいつはアレでいいんだ。あいつは俺様のハンデだからな」
レダの言葉にランスは今は自分の隣にいないかなみの事を思い出す。
シィル達の姿が見当たらなくなってから年単位が経過しているが、一向に見つかる気配が無い。
ここが本当に自分の居た世界なのかも怪しくなってくるが、カミーラやザビエル、そして使徒アトランタ等ランスが知っている連中も出て来るために、余計に混乱してくる。
「じゃあ見つからないように隠れとけ。あいつが戻ってきたら乗り込むぞ」
「は、はい…」
「了解」
まるでその辺に出かけるかのように言い放つランスに、クーもドロシーも緊張した様子で答える。
(やっぱりボスって本当に凄い…こんな状況でも全く何時もの通りだし)
(多分ボスは私達よりも遥かに修羅場を経験してる。こういう時はボスに任せるのが安全)
小声で話す二人の声をバーバラは聞き逃さない。
(シャロンさん達やケッセルリンク様の話じゃ確かにもっと凄い経験をしているみたいだけど…そういう気配が伝わってこないのよね)
バーバラがランスの方を見ると、ランスは自分の隣にいるジルの尻を撫でている所だった。
ジルはそれに対して顔を真っ赤に染めてランスを見るが、結局はされるがままになっている。
(傍から見てたらただのスケベな傍若無人の人間なんだけど…)
しかし主であるケッセルリンクが信頼している所を見ると、決してそれだけの人物では無いのだろう。
(…全く分からなくなってきた)
バーバラは頭を悩ませながらも、目の前にいる魔人トルーマンとその使徒の動きに神経を尖らせていた。
そうしている内に、偵察に出ていたゲンバが戻って来る。
「わかりました。魔人はどうやらこの町の一番大きい屋敷…ここのボスのマディソンの屋敷にいるみたいです。そこにあの使徒が入っていくのを見ました」
「ランスの想像通りね。でも問題はどうやって侵入するかね」
何処に居るのかが分かったのは朗報だが、一番の問題は魔人を探す事だ。
「そんなのは簡単だ。俺様の言う通りに動けばいい」
ランスは不敵に笑いながら動き始める。
そしてやっぱりランスと関わったの者は何時もの様に振り回される事になる。
それがこの男の宿命だと言わんばかりに。
なんかアレだ
バーバラが鬼畜王の時のマジックのように感じてきた
やっぱりここはアンケートイベントをやるしか