ランス再び   作:メケネコ

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魔人トルーマン②

 ランスとレダ―――本来はこの世界に居ない二人が並び立つ。

 特にレダはALICEの言葉に関する勘違いがなければ、こうして再びランスと出会う事すら無かっただろう。

 その二人が、今魔人とその使徒の前に立っている。

 そして二人と同じように、本来であればもうこの世界に存在していないはずの者もいる。

「ランス。あなたの計画通りの展開じゃないのはもう分かってるけど、取り敢えずアレを何とかするって事でいいのね?」

 スラルの言葉にランスは不愉快そうに口をへの字に曲げる。

「馬鹿を言うな。俺様の計画に間違いなど無い。レダが遅れたのが悪いんだ」

「私のせいにしないでよ。ランスだって偉そうに言っておきながらこの体たらくでしょ」

「そんな事はどうでもいい。とにかくまずはあいつだけは絶対に潰すぞ」

 ランス達は魔人を前にしているというのに平然としている。

 その姿をジルは少しの間呆然と見ていた。

(…そうだ、この人はこういう人なんだ。本当に魔人だろうが何だろうが関係無い人なんだ)

 相手が誰であろうと、邪魔をするならば容赦はしない。

 目的のためにはどんな事だってやってのける―――自分の主人だ。

 奴隷だと言われようが何と言われ様が、自分はこの人について行こうと決めた人だ。

「ランス様。私もまだやれます」

 ジルも二人の後ろにだが、力強い目で魔人を睨む。

「当たり前だ。奴隷の分際で主人だけを戦わせる奴がいるか」

 ランスは軽くジルの頭を小突く。

「とにかくまずはあのふざけた壷だけは絶対にぶっ殺す。お前も手伝え」

「はいっ!」

 ランスの言葉にジルは嬉しそうに返事をする。

「でも相手も4体いるわね。それに無限にモンスターを湧かせるる壷の使徒か…」

 レダの言葉にジルは改めて相手を見る。

 巨大な壁のような血塗れの体を持つガーター大統領の使徒、そして嬉々として人間を食っている醜悪な使徒、魔物を生み出する壷の使徒、そして魔人。

 何れも強力な敵である事は間違いない。

「でも…コレだけ居てもレキシントンよりは楽よね」

「レキシントン…? 誰だそれ」

「呆れた。少し前に戦った鬼の魔人よ。カミーラとケッセルリンクの介入が無かったらランスでも危なかったでしょ」

「…ああ、そういやあんなのもいたな。男、しかもむさ苦しいおっさんの事など覚えておく必要は無いからな」

「もう、少しは記憶に残しなさいよ。まあこんな気味の悪い奴は残す必要は無いけどね」

 スラルも目の前にいる魔人を見て、ランスの剣の中で目を細くする。

 自分が魔王で無くなってから、随分と性質の悪い魔人が生まれたものだと思う。

 現魔王ナイチサが選んだのか、それとも死んでいた魔人の魔血魂を飲み込んだのかは分からないが、それでもこんな奴が魔人となるとスラルもいい気分はしない。

 自分が魔王になる前にいた魔人も認めていた。

 カミーラは魔王にすら不遜な態度を隠さず、メガラスは殆ど口を聞いた事も無い。

 ケイブリスはケイブリスで確かに最弱ではあったが、その努力する姿勢はスラルにとっても好ましかった。

 ガルティアは仲間である人間に裏切られても、それでも復讐をしようとはしなかった。

 ケッセルリンクは最後まで仲間であるカラーの事を思い、そして魔人となってからは態とカラーとは距離を置くほどだ。

 そして何より自分が魔人として求めていたこの男―――

「ランス、絶対に倒すわよ。こんな相手に苦労しているようじゃ、到底カミーラに対抗できないわよ。私としてはランスにはカミーラの使徒になって欲しくないんだから」

「誰に言っている。こんな奴は大した事無いぞ。さっさと潰すぞ」

「そうね。じゃあ行きましょうか」

 その言葉と同時にランスとレダは同時に動く。

 そしてジルも魔法の詠唱を始める。

 ランスは真っ直ぐにる壷の使徒に向かい、レダは巨大な使徒であるガーター大統領に向かって行く。

 ランスの動きに気づいたトルーマンは真っ直ぐにランスへと向かう。

「がはははは! 死ねーーーーッ!!」

「貴様もまた神の御許へと逝くがいい…」

 トルーマンが指を動かすと、る壷から吐き出された魔物の死体が動き始める。

「馬鹿の一つ覚えが!」

 ランスは向かって来るゾンビ達をあっさりと斬り伏せる。

 その光景にトルーマンは顔を苛立ちを隠さずに顔を歪める。

 数の暴力で押すのがこの魔人の常套句、トルーマン自身、特に戦闘に秀でているという訳では無い。

 だが、それでも人間如きには負けない―――それが魔人の常識だ。

 魔人四天王ザビエルが人間に負けても、魔人の恥として誰も助けに行かない…だが、今まさに無敵結界があるはずの魔人が人間相手に押されている事を、トルーマンは信じられなかった。

 ランスの一撃は早い上に異常に重い。

 無敵結界が衝撃を防げないのは知ってはいたが、まさか人間の一撃で衝撃を感じるなど思ってもいなかった。

 しかし現実には今目の前にそんな事が出来る人間が居るのだ。

(おの…れ…!)

 魔人になってからこんな屈辱を味わったのは初めてだ。

 ザビエルが負けた時も『人間に負けるとはあいつも大したことない』、『魔人の恥だ』と他の魔人と言っていた自分が、今正にその恥をかかされている。

「調子に乗るな…! 人間!」

「調子に乗ってるのは貴様じゃー! お前みたいな気持ちの悪い奴はとっとと死ねーーーーっ!」

 ランスの放つ剣の圧がどんどんと強くなる。

 ここに来るまでランスは強いストレスを感じていた。

 意気揚々と魔人の所に来たのはいいものの、まるでパパイヤのいた塔のように非常に気持ち悪い光景が目に入ってきた。

 しかもそれが延々と続いた上に、更にはあの使徒による気持ちの悪い光景を見せられてしまった。

 さっくり魔人を倒して、ジルとセックス出来ると思っていたのに、予想以上に手間取らされてしまっている。

 更にはレダが居なかったとはいえ、自分がほんのちょっぴり苦戦させられていると感じた事。

 そこからランスの怒りはついに頂点に達し、絶対に魔人を殺すという確固たる決意を持って魔人へと攻撃を加えていた。

「ぐぅ…!」

 そのランスの怒りからの圧力からか、トルーマンがどんどんと押されていく。

 鈍器で殴られるかのような衝撃は、確実にトルーマンの体力を奪っていった。

「人間! それ以上はやらせないね!」

 そんなトルーマンを助けるべく、使徒のマッキンリーがランスに向かって来る。

 その巨体ゆえか速さは無いが、使徒の一撃をまともに受ければ人間はひとたまりも無いだろう。

「ファイヤーレーザー!」

 そんなマッキンリーに向けて、ジルの放った魔法がマッキンリーの体に突き刺さる。

「…人間のくせに生意気ね」

 ジルの魔法を受けて体をぐらつかせたマッキンリーは、怒りの籠った目でジルを睨む。

(使徒には魔法が効く…でも流石に一撃で倒せるほど甘くは無いか)

 怒りからかマッキンリーは真っ直ぐにジルへと向かって行く。

 ただの魔法使いでしかないジルには、動きの鈍いマッキンリーでも十分すぎる程脅威だ。

 だが、それでも生き残るにはこの使徒を何とかするしかないのだ。

(それに…ランス様もレダさんもたった一人で魔人と使徒と戦えている…なら私も)

 ジルはランスに対して明確に憧れを抱いていた。

 自分を助けてくれた事はきっかけにしか過ぎない。

 その後の行動力、判断力、強さ…そしてその中にあるほんの少しの優しさ。

 確かに酷い人ではあると思うし、善人か悪人の二分に分ければ間違いなく悪人だと判断されるだろう。

(それでも…私にとってはあの人は『英雄』なんだ)

 ランスは間違いなく『英雄』と呼ぶに相応しい存在だ。

 伝説として知られている、一度はこの大陸を支配しかけた藤原石丸のような伝聞では無い、リアルに存在を感じられる人間なのだ。

 そんな人間と一緒に居られるというのは、ジルは正直嬉しいのだ。

 そしてそんな人間が、誰のためでも無く自分を手に入れるという事のためだけに魔人と戦っている。

 誰もがランスを馬鹿だと笑うかもしれないが、それでもジルは構わない。

「私は…こんな所で死んでる場合じゃない…!」

 ジルが放つ炎の矢と光の矢に体を削られながらもマッキンリーはジルへと向かって行く。

(凄い再生能力…! 一撃で倒せるくらいの威力が無いと倒せないか…!)

 マッキンリーにはジルの魔法が直撃しているにも関わらず、平気でジルへと攻撃を加える。

 マッキンリーを倒すには、一撃で相手を倒す程のダメージを立て続けに送る必要がある。

 しかし今の自分ではそれは難しい…その事実を感じ取り、ジルもまた内心で苛立ちを覚える。

「炎の矢!」

 その時自分が放ったものでは無い魔法がマッキンリーに突き刺さる。

「無茶はしないでよ! あなたに何かあれば私が皆に怒られるんだから…」

「バーバラさん!」

 後半は何を言っているか分からなかったが、マッキンリーに向かって魔法を放ったのはバーバラだ。

「全く…何でこんな事に!」

 そう言いながらもバーバラはマッキンリーの前に立ち、ジルを庇い続ける。

 バーバラは特段肉体的に優れている使徒という訳でも無いが、それでも人間のジルよりも遥かに高い身体能力を持っている。

 その能力を活かして、バーバラは何とかマッキンリーの攻撃を避け続けていた。

(でも…つ、辛くなってきた…)

 しかしそれでもやはり限界は来る。

 ケッセルリンクの使徒にはなったが、バーバラは特に争いをしてきたという訳では無い。

 主であるケッセルリンクが無用な戦いを好まぬ性格であるという事から、バーバラはこれまで大きな戦いに参加した事は無かった。

 ましてやこの50年近く、魔王ナイチサからは人間への干渉は禁じられてきた。

 魔王から若干疎まれている傾向にあるケッセルリンクならば尚更だ。

 バーバラには圧倒的に戦闘経験が不足していた。

(シャ、シャロンさんもパレロアさんもエルシールさんもこの人間に巻き込まれてたって言うけど…す、凄い納得)

 今更ながら、バーバラはランスと関わった事を少し後悔していた。

(こ、こんなに絶えず動いて戦うのがキツイなんて…)

 自分の倍以上に動き、更に無敵結界を持つ魔人と渡り合ってるランスは本当に人間なのかと疑ってしまう。

 同時に、ケッセルリンクの戦友であるという事も強く理解する。

 相手の攻撃を当たる訳にはいかないという緊張からか、バーバラもだんだんと息が上がってくる。

 自分の魔法と、自分の魔力を上回る威力を持つジルの魔法が当たっているにも関わらず、目の前の使徒は全く倒れる気配は無い。

 いくら肉を焼こうが凍らせようが、その部分は直ぐに再生していってしまう。

 魔人並…いや、もしかしたらそれ以上の再生能力を持つ存在に、二人もだんだんと体力と魔力を消耗させていく。

 その光景を見ながら、ドワイト達は悔しげに顔を歪ませていた。

「クソッタレだ…体が動きやがらねえ…こんな所で膝をついてる暇なんて無いってのによ!」

「無茶ですドワイトさん! あなたの怪我が一番酷いんですよ!」

 何とか体を動かそうとするドワイトだが、既にその体は限界に近い。

 クーもドロシーも最早魔力が枯渇してしまっている。

 今はゲンバと加奈代が何とか皆を守っているという状況だ。

 そんな中、加奈代は何かを決意したようにドワイトの側に駆け寄る。

「ドワイトさん。あなたはまだ戦えますか?」

「当たり前だ。だけどよ…情けない事に体が言う事をきかねえんだ」

 この中で一番戦力になるのは間違いなくドワイトだ。

 だが、そんな彼もレダが合流するまでの激戦で最前線で戦っていたツケが回ってきている。

 そんなドワイトを見て、加奈代は決意を固める。

「…絶対にランスさん達を助けになりますか」

「当たり前だ! 俺はこんな所で倒れている場合じゃないんだ…!」

「ならお願いします。私よりもあなたの方が絶対に力になりますから。あ、でも私も守ってくださいねー」

 最後に何時ものように笑うと、加奈代はそのまま祈り始める。

 すると回復魔法…神魔法とは違った光がドワイト達を覆うと、

「こいつは…」

 ドワイトは自分の体に力が宿っていくのを感じる。

 先程までの疲労感が和らいでいる。

「凄いな! ありがとうよ、嬢ちゃん…!?」

 ドワイトは感謝の言葉を加奈代に投げかけるが、当の本人の加奈代はそのまま倒れてしまう。

「加奈代さん! 大丈夫ですか!?」

「な、何とか意識は有ります…で、でも私には巫女の適性が無いですから、こうして倒れてしまうんですよね…」

 JAPANの名家の出である加奈代も当然のように陰陽術や巫女の適性を確認したが、生憎とどちらの才能も無かった。

 一応使う事が出来るようだが、その時の疲労が大きすぎるため使用する事は無かった。

 だが、今は自分よりも他の皆の方が遥かに戦力がある。

「頼みます…ジルさんを守ってあげて下さい…」

 そのまま加奈代は意識を失う。

「加奈代さん!」

 クーは加奈代を抱き上げるが、加奈代は完全に意識を失っており、全く反応が無い。

「嬢ちゃんを頼むぜ」

 ドワイトは立ち上がると、剣と盾を構えて使徒に突っ込んでいく。

「ドワイト…!」

 ドロシーはまだ本調子では無いにも関わらず、果敢に使徒に向かって行くドワイトに悲痛な顔をする。

 同時に、これが人類の敵である魔人との戦いなのだという事を実感してしまう。

 そう、魔軍との戦いでは多大な犠牲が出てしまう…魔物将軍と戦った時も犠牲者が多数出てしまった。

「ドロシーさん。泣くのは後だ。それよりも俺だけで皆を守れるか正直自信がねえ。逃げる事も考えててくれ」

 ゲンバが前に立つが、彼は特別に戦闘に秀でている訳では無い。

 だからどれだけ守れるかどうかは分からない。

 そしてゾンビは無限に湧いて出て来る。

「クソッ…こいつはやばいな」

 冷や汗が止まらないが、それでも今は何とかするしかない。

 だが、それでも限界は来るのは分かり切っている。

 いくらランス達が凄かろうとも、その周囲の人間はそのレベルには達していない。

 レダもジルも本当に凄いのだが、彼女達も別格の存在だと嫌でも感じ取っていた。

「浄化!」

 クーも何とか迫りくるゾンビ達を何とか消滅させるが、もう魔力が限界を突破しつつある。

 既に体力的にも精神的にも限界だ。

 それでも相手は当然の事ながら待ってはくれない。

 もう駄目かもしれないとクーもドロシーも感じていた時、

「まーおー!」

「え?」

 加奈代の方から奇妙な声が聞こえてくる。

「まーおー! まお!」

 加奈代の懐から、ピンク色の奇妙な物体が出て来たかと思うと、

「まーおー!」

 その口から炎を放ち、襲って来るゾンビ達を燃やし尽くす。

 そしてその鎌が振るわれるとゾンビ達はそのまま砂になって消えていく。

「だ、大まおー…何でここに? それ以前に何処に居たの?」

 大まおーの突然の登場に、ドロシーも思わず目を丸くする。

「まーお! まお!」

 大まおーは自分に任せろと言わんばかりに、襲ってくるゾンビ達を蹴散らしていく。

「た、助かった…?」

「…居たのなら、最初から助けてくれてもいいと思う」

 クーとドロシーはがっくりと肩を落としながらも、その顔には笑みが浮かんでいた。

 

 ランス達と魔人、その使徒達との戦いは続く。

 しかしレダが居るのは大きく、魔人達へと戦いは無敵結界があるにも関わらず、ランスが魔人を押していた。

 その理由は一つ、レダがこの魔人との相性が良かった事に尽きる。

 いくら無尽蔵にゾンビ達を湧き出そうとも、レダがそれを片っ端から砂へと変えていくからだ。

(何故来ない…まさか奴が本当に全てのマスターゾンビを倒したのいうのか!?)

 マスターゾンビはその名の如く、ゾンビ達の纏め役であり、マスターゾンビが居れば自動でゾンビ達が増えていく。

 なのに今この場に新たなゾンビ達が援軍に来ないという事は、この女がマスターゾンビを全て倒してしまったという事だ。

(まさか…これほどの神魔法の使い手が居るとは)

 ゾンビは神魔法の浄化に弱い。

 だとしても、一人でこの屋敷のマスターゾンビを全て消滅させるなど、それこそ人間業では無い。

 そしてトルーマンは見てしまった。

 ガーター大統領の拳を避け、その腕から肩へと走り、その使徒の体を切裂くのを。

 そしてその光景にトルーマンは思わず見とれてしまった。

(あれは…我が神に近い存在…!?)

 それは魔人となっても尚もトルーマンが求め続ける『神』の姿に非常に近い。

 トルーマンはその『神』への敬愛、そして畏怖から『神』の事を忘れた事など一切ない。

 自分が『ムーララルー』になれなかった事も、その『神』からの試練だと考える程に。

(そうだ…神は言ったのだ。命を捧げよと…そして教えられた。AL教に隠されていたモノの存在を)

 その隠されていたモノを見た時、トルーマンは狂喜した。

 これを使えば『神』の言葉を実行できると。

 そう、この世界の全ての人間を神の御許へ捧げる事が出来ると。

 そして今自分の使徒ダウンさせた女性は、間違いなくトルーマンがあの時見た『神』と同じ様な存在だと感じ取った。

 だが、その隙はランスにとっては十分すぎる程の隙だった。

「今よランス!」

「分かっとるわ! こいつでくたばれ! ラーンスあたたたたーーーーーック!」

 それはレダに見惚れていたまさに致命的な隙。

 それを見逃さず、ランスは渾身の一撃をトルーマンへと決める。

 無敵結界の感触をものともせずに、ランスは己の一撃を振り切る。

 トルーマンはその衝撃に耐えきれずに、そのまま壁に向かって吹き飛ばされる。

 そしてそれはこれまでずっと機会を伺っていたスラルには十分すぎる程の時間だった。

「いい加減に消えなさい! 氷柱地獄!」

 スラルの放った魔法がる壷の使徒へと向かって行く。

 生き残ったゾンビ達がる壷を守るべく盾になろうとするが、そんなものではスラルの放った魔法を防ぐことは出来ない。

 氷柱地獄は盾になったゾンビを貫きながら、ついにる壷の使徒へと突き刺さる。

 本来る壷はその名の通り壷なので割れるはずだが、使徒となっているからか、その壷口から勢い良く血が噴き出てくる。

「アアアアアアア!!!」

 そしておぞましい悲鳴が上がると同時に、る壷の体を氷柱が貫く。

 その衝撃に負けるようにして、る壷の使徒が血飛沫を上げながら四散する。

「やったわ!」

「よーしお前等逃げるぞ!」

 ランスはそのまま魔人には目もくれず、マッキンリーと戦いで疲労しているジルを抱える。

「ランス様!?」

「いいからさっさと逃げるぞ。お前等分かってるな!」

「りょ、了解!」

 クーはランスの言葉に急いで懐にしまっていたアイテムを取り出し、そのアイテム―――帰り木を折る。

 するとクーとその周囲にいた者達の姿も消えていく。

 それに合わせるように、他の皆も帰り木を使用して消えていく。

 ランスもそれに合わせてジルの服の中にある帰り木を取り出し、そのまま使用する。

 ランス達が現れたのはトルーマンの使っていた屋敷の外だ。

「全員いるかしら!」

「全員います!」

 スラルの言葉にクーは皆を確認して答える。

「よーしじゃあとっとと逃げるぞ」

 そしてランス達はそのまま一目散にこの地を離れる。

 途中で止めてあったうし車に乗ると、ドワイトはそのまま勢いよくうし車を動かす。

 そしてうし車の中ではランス、レダ、スラル、そして大まおー以外は皆倒れ伏していた。

「ボス…」

 ドロシーは不安そうな顔でランスを見て…そのランスの顔に特大の笑みが浮かんでいる事に言葉を失う。

 この戦いは確かに使徒の一体を倒したが、誰がどう見ても敗北だ。

 結局はランスでも魔人の無敵結界の前にはどうする事も出来ない…そう思っていただけにショックも大きかった。

 だが、そんなドロシーの想い等吹き飛ばすようにランスは豪快に笑う。

「がはははは! あいつの弱点が分かったぞ!」

「「「えっ!!!」」」

 あいつ―――魔人の弱点が分かったという言葉に誰もが驚きの声を上げる。

「その弱点を使えばあいつなど余裕でぶっ殺せるぞ!」

「相手は魔人ですよ? それなのに…弱点があるんですか?」

 ジルの言葉にランスはジルの頬を引っ張る。

「何だお前。ご主人様の言葉を疑うのか。その悪い口はこれか?」

「い、いひゃいれす…ランスひゃま」

「おー。中々いいぞ。がはははは!」

 ジルの頬を両手で引っ張るランスを見て、スラルわざとらしく大きな咳をする。

「ランス。そんな馬鹿な事やってないで、その弱点とやらを教えなさいよ」

「フン、そんなのは簡単だ。奴の弱点はな…」

 ランスの言葉の一挙一動に全員が注目する。

(魔人の弱点って…こいつ本気?)

 魔人の使徒であるバーバラもランスの言葉には正直心臓が激しく鼓動するのを自覚する。

 そんなはずはない…という絶対的な思いがあるが、現実にこの男は過去にカラーだった頃のケッセルリンクと魔人を倒したと聞いている。

 勿論主の言葉は疑わないが、それでもバーバラ本人はランスという存在がやっぱり非常に胡散臭い。

「それは…こいつだ!」

 そしてランスが指を差した先には―――

「え? 私?」

 きょとんとした顔のレダがあった。

 

 

 

 死闘の跡…そこには夥しい血飛沫と同時に大量の砂に塗れていた。

 魔人トルーマンはその中で氷に貫かれてもう動く事が無い、己の使徒を見ていた。

 氷に貫かれた挙句に、爆裂四散した己の使徒を―――トルーマンは躊躇なく踏み潰した。

 その光景を見ても他の使徒達は何も言わない。

 それどころか、マッキンリーに至っては死んだの己の使徒の欠片を拾うと、その欠片を喰い始めた。

「…ククク」

 トルーマンは夥しい血の中で一人狂喜に満ちた笑みを浮かべている。

「ハハハハハ! 見つけたぞ! 私の使徒として本当に相応しい存在を!」

 トルーマンはひたすらに笑い続ける。

 その狂った眼には、先程の光景が何処までも目に焼き付いて離れない。

 己の信じるモノ…魔王などでは無く、トルーマンが絶対的に信じる真なる『神』の使徒を。

「ハハハハハハハハハ!」

 トルーマンの笑い声は、何処までも不気味に木霊し続けた。

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