ランス再び   作:メケネコ

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決戦準備

「がはははは! 急げよー! もうすぐ魔人が来るぞー!」

 ランス達の居る屋敷は人が慌ただしく動いている。

 誰もが必死な顔をしている中、ランスはその両手にジルと加奈代を抱えて笑っている。

「あのー…ランス様、本当にいいんですか? 手伝わなくても…」

「流石に皆さんが忙しく動いている中、こうしているのは気が引けるというか言いいますか…」

 ランスの側で体を弄られている二人はそれぞれ対照的な表情をしながらも、一生懸命に働いている人達に申し訳なくなる。

 ちなみにジルは顔を真っ赤に染めて、そして加奈代は何処か楽しそうにしてランスを見ている。

「いいんだ。大体俺様は魔人と戦うんだぞ。だったら戦わない奴等がやるのは当然だ」

「まあ…それはある意味間違ってないかもしれないわね」

 ランスがジルと加奈代で遊んでいると、ハンナがランスの下へと来る。

「ボス。あなたの言うとおりにしているけど…本当に大丈夫ですか? クーとドロシーに至っては本調子では無いですし」

「軟弱だな。ドロシーはともかくクーの奴は梅太郎だろ。全く、使えん梅太郎なぞ俺様の部下には必要無いぞ」

「…梅太郎が何なのかは分からないけど、二人はよくやってくれているわ。いくらボスでも、部下に対する気遣いが必要なのでは?」

 ハンナの言葉にもランスは顔色一つ変えない。

「フン、だったらもっと役に立て。俺様から言わせればまだまだ使えんぞ。セルさんくらいの力を持ってれば考えてやるがな」

「セル…? それが誰かは分かりませんが、流石にボスの仲間と一緒にされるのは困ります」

 ハンナはボスであるランスの考えにはやっぱりついて行けない。

 そもそもランスの言う『使える』という要求が少し高すぎる気もする。

(周りの人たちがバケモノだから、ボスの目もそれだけ厳しくなると考えれば納得できるけど…)

 ランスは勿論、スラルもレダもジルもハンナから見ればバケモノだ。

 加奈代は実力的には大分劣るだろうが、彼女は冒険の中では家事を引き受けているそうだ。

 それに劣ると言っても、自分達から見れば十分に強い中に入るだろう。

「ランス様…でも本当にあんな作戦で上手くいくんですか?」

 ジルは流石に不安そうな顔でランスを見る。

 その顔にあるのは困惑と、若干の呆れた表情だ。

「絶対に上手く行く。ああいうヤツほどこういう手には引っ掛かるんだ」

 それはランス達が戻ってからすぐの事―――

 

 

 

 ランス達が町に戻ってからは非常に慌ただしく事態は動いた。

 魔人の所へ乗り込んで、誰一人として欠ける事無く皆が生き残ったという事実。

 確かに一部の者は満身創痍といった感じで、町に着くなり緊張の糸が切れたのか、ランスとレダを除いて皆が倒れてしまった。

 それはそれで喜ばしい事だが、ランスという絶対的なボスの力を持ってしても魔人には敵わない…という恐怖が芽生えたのも事実だ。

 だが、それでもランスは不敵な顔で笑っていた。

 それだけがこの町の者にとっては光明だったのかもしれない。

 倒れた者達も次の日には既に起き上っており、こうしてボスであるランスを中心として集まっている。

 尤も、クー、ドロシー、ゲンバ、ドワイトは流石にまだ辛そうな様子ではあるが。

 バーバラもそれを見て、必死で自分も体調が悪いフリをしていた。

「ボス…まずは生きて帰ってくれた事を嬉しく思います。誰も欠ける事が無かったのはまさに僥倖…」

「下らん言葉はいい。それよりも次だ次。魔人をぶっ殺すための準備をするぞ」

 ハンナの言葉を遮ってランスが発した言葉にハンナは驚き、そしてうし車の中で魔人の『弱点』を聞かされた者達は怪訝そうにランスを見る。

 あの時ランスはうし車の中で、魔人トルーマンの弱点をレダだとランスが断言した。

 が、当然の事ながらランス以外の皆はその言葉の意味が全く理解出来ない。

 確かにレダも異常なまでに強いが、それでも魔人の無敵結界がある以上は魔人には勝てないのだ。

「ランス。私が弱点ってどういう意味よ。魔人が特定の誰かに弱いだなんて普通はありえないでしょ」

 なのでレダ自身も困惑している状況だ。

 確かにあの使徒や魔人が生み出したゾンビに対しては、レダは無類の強さを発揮できるだろう。

 だが、それでもあの魔人には決して敵わない。

 例えレダがエンジェルナイトの力を100%発揮していたとしても、流石に1対1では魔人には敵わないだろう。

「がはははは! 俺様はお前達とはココの出来が違うのだ。あの戦いの中で奴は見事なまでに弱点を晒していたぞ」

「弱点って…確かにランスの攻撃は魔人を揺さぶれはしたけど、効果が有ったかと言われれば無しよ。一体どういう事なのよ」

 スラルも不思議そうな声でランスを問いただす。

 あの時スラルが一番あの魔人トルーマンの動きを見ていたという自信がある。

 戦士であるランスとは目の付け所は違うだろうが、それでも長年生きてきた観察眼にかけてはランスよりも上だと自負している。

「スラルちゃんもまだまだ甘いな。まあスラルちゃんは初心者だから分からんだろうな」

「初心者って…そう言うなら、さぞや大層な弱点を見つけたんでしょうね」

 ランスに初心者と言われ、流石のスラルも姿を現し、ムッとした顔でランスを睨む。

 そんな視線を受けて、ランスは自信満々に胸を張る。

「その弱点とは…あいつは間違いなくレダに惚れとる!」

「「「………は?」」」

 ランスの言葉に皆の目が点になる。

「あいつは戦いの途中でレダに見惚れてたんだ。間違いない!」

「………」

「という訳であいつを罠に嵌めるぞ。お前達も準備をしろ」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよランス! ほ、惚れてるって…」

 いち早く再起動したスラルがランスを問い詰める。

「流石のスラルちゃんもそういった経験は無いだろ。俺様はそういった経験は豊富だからな。ああいう態度を取る奴は間違いなく童貞だ」

「そうじゃなくて! 何で魔人がレダに惚れるって事が弱点に繋がるのよ!」

 ランスの言葉はスラルにとっては全く合理的では無い、意味の分からない言葉だ。

 何故そこから魔人の弱点に繋がるのか、スラルにはそれが全く理解出来なかった。

「ああいう面倒臭くこじれた奴は絶対ストーカーになるからな。うむ、あいつは童貞ストーカー魔人だ。だから絶対に俺様からレダを奪おうとやってくるからな。そこで罠にかければいい」

 自信満々に頷くランスに、スラルは余計に混乱してしまう。

「だいたい恋愛ド素人のスラルちゃんに男と女の事がわかるのか。俺様とやるまで500年物の処女だったくせに」

「ご、五百年は関係ないでしょ!? そ、それに私は処女だったのは420年よ420年!」

「俺様からすれば誤差だ誤差。やーい、500年恋愛経験無しの処女ー」

「わ、悪かったわね! えーそうよどうせ私は420年経験ありませんでしたよ! でもランスみたいに万年発情期より遥かにマシよ! この慢性発情男!」

「がはははは! 500年処女だった奴に何を言われても痛くも痒くも無いわ」

 ぎゃーぎゃーと言い争いを始めたランスとスラルに対し、他の皆は呆れたように、そして困惑してランスを見る。

(…そういえばランスはこういう奴だった)

 レダも、一番最初にオウゴンダマの魔人を倒した時の事を思い出し頭を抱える。

 こういった他の人間が全く思い浮かばない方法で相手を嵌め殺すのがランスという人間なのだ。

「という訳でお前達はキリキリ働け! 時間はいくらあっても足らんぞ!」

 そして再び、対魔人戦に向けての対策(?)が始まった。

 

 

 

 魔人対策1 レダ―――

「…こんな感じ?」

「全然ダメですねー。もの凄い安っぽいラブレターレベルです。こんなの貰っても男の人は喜びませんよー」

 レダは紙に文字を書き、それを加奈代が駄目だしする。

 実際に加奈代の目から見ても、レダの書いている文章は非常に拙いと言ってもいいレベルだ。

「レダさんは報告書とかは凄い上手なんですけどねー。こういった事はした事が無いのが見え見えですねー」

「やった事無いんだから当たり前でしょ!」

 レダは下級のエンジェルナイトとして、上司にあげる報告書は完璧にしてきたつもりだ。

 唯一の例外は、ランス…人間に負けて犯された事を報告しなかった事くらいだ。

「ランスさんとはノリノリでエッチできるんですけどねー。レダさんはどういう人生を歩んできたんですか?」

「………それは聞かないで。私も話せないから」

「言いたくないなら聞きませんから大丈夫ですよー。でもこれなら代筆でいいかもしれませんねー」

「だったら最初からそう言いなさいよ! 無駄な時間を過ごしてたじゃない!」

 レダが憤慨するのを見て、加奈代はコロコロと笑う。

「私はレダさんのそういった一面見れて嬉しいですよ。それにランスさんとの出会いはすっごい気になります」

 加奈代から見ても、レダは喜怒哀楽はそんなに激しいタイプでは無い…と感じている。

 どこか他人に線を引いている…そんな感覚があるのだが、ランスに対しては全く別だ。

 レダはランスに対してはストレートに感情をぶつけ、ランスにだけは全く遠慮が無い。

 ランスを守るためにいると常に言っているが、ランスの側にいる彼女は非常に楽しそうに見える。

「ランスとの出会いは聞かないで頂戴。あんまり話したくなる内容じゃないから」

「あー…という事は、もしかして最初はランスさんと敵対してて、ランスさんに倒されてそのまま犯されちゃったとか?」

 加奈代の言葉にレダはもの凄い眼光で加奈代を睨む。

「え? ランスさんだったらあり得そうだという可能性を言っただけなんですど…まさか本当に?」

 自分の言った事が完全に馬鹿らしいと思っていた加奈代だが、レダの視線を受けて思わず真顔になる。

「………誰にも言わないでよ。私も加奈代を行方不明にはしたくないから」

「は、はーい。でも逆にどうしてレダさんがランスさんをそんなに好きか、興味が湧いてきました」

 加奈代の言葉に、一旦口休めに飲み物を飲んでいたレダが、思いっきり吹き出す。

「あ、今拭きますね」

 加奈代は慌てずにテーブルを布巾で拭き始める。

 レダは少しの間咳き込んでいたが、

「な、何いってるのよ!? 私がランスを…人間の事を!?」

「はあ…でもレダさん、ランスさんと居る時は本当に楽しそうですよ。それにエッチしてる時も、本当に気持ちよさそうで」

「そ、それはランスも昔に比べれば上手になったというか、私はランスしか知らないけど…って何言わせるのよ! もうこの話は無し! 後加奈代は私の代わりに魔人に出す手紙を書きなさいよ!」

 レダはそう言って顔を真っ赤に染めて部屋を出ていく。

 加奈代はそんなレダを見て、非常に嬉しそうに笑みを浮かべる。

「レダさん、ああ見えて結構乙女ですねー。流石に言い過ぎちゃいましたから、私が書きますか」

 加奈代はそのままレダが魔人に出すという手紙にペンを走らす。

「さてと…今回だけはおふざけは完全に無しですね」

 そして普段の態度とは打って変わって、真剣な表情でペンを走らせる。

 魔人との戦いでは自分では何の役にも立てない。

 だが、ランスの役に立つ事は出来る。

 加奈代は何時になく真面目に、手紙と格闘を始めた。

 

 

 

 皆が慌ただしく動いている中、バーバラは一人町の空家に入っていく。

 魔物将軍の襲撃の爪痕は大きく、この家も誰かが住んでいたのだろうが、今はもう誰も居ない。

 先の戦いの大きさを伺わせると同時に、今は誰もが魔人の襲撃に向けて動いているため、ここに誰かが住んでいても誰も文句は言わない。

 バーバラは空家へと入ると、ようやくといった感じで大きくため息をつく。

 人間達と行動を共にするのは人間が嫌いなバーバラにとっては苦痛だった。

 だが、これも主であるケッセルリンクのためだと思えば、どんな事でも我慢が出来るとも思っている。

「戻りましたか、バーバラ」

 そんなバーバラを出迎えたのは、同じ使徒であるパレロアだ。

「パレロアさん!? 何であなたがここに…あ、まさか!」

「その通りです。ケッセルリンク様も既にこちらにいらっしゃっています。あなたの事を待っていますよ」

「そ、そんな…ケッセルリンク様が直々に…」

 主であるケッセルリンクが既にこの町に潜入していると聞き、バーバラも驚く。

 同時にそんな主の行動に嬉しさも感じてしまう。

 そしてバーバラが2階の部屋に行くと、自分の主の気配が濃くなっているのが分かる。

 パレロアが扉を開くと、そこには既にシャロンとエルシールが主の隣に立っていた。

「お帰り、バーバラ。無事だった様だね」

「勿体無いお言葉です…ケッセルリンク様」

 ケッセルリンクの労いの言葉に、バーバラは感激のあまり涙を流しそうになる。

 自分に温かさをくれたケッセルリンクは、魔人であろうが何であろうが偉大なる自分の主だからだ。

「だが…事の顛末を聞いて私も少し驚いたよ。いや、これもランスの持つ宿命とでも言うべきかとも思ったがね…何にせよ、まずは君の報告を聞こう」

「あ、は、はい!」

 ケッセルリンクに促され、バーバラは少したどたどしくありながらも説明をする。

 その説明を聞いている内に、明らかにケッセルリンクが嬉しそうな顔をしているのにバーバラは見惚れてしまう。

 その隣にいるシャロンも楽しそうに笑い、逆にエルシールは頭を押さえて苦々しい顔をしている。

「そうか…魔人トルーマンの弱点がレダか。ランスは確かにそう言ったのだね?」

「はい。正直私からすればあの男が何を言っているかさっぱり分からないんですけど…」

 バーバラには未だにあの男…ランスが何を言っているのか全く分からない。

 何をもって弱点というのか、そしてあの女が弱点だというのはどういう意味なのか。

 正直バーバラからすれば、何をトチ狂った事を言っているのだろうかと思っている。

「ランスがそう言ったのであれば…トルーマンは間違いなく倒されるな」

「ええっ!?」

 ケッセルリンクの確信を持った言葉には流石にバーバラも驚く。

「そうですね。ランス様は勝ち目の無い戦いは決してしませんし、確信があるのならば確実に何かあるのだと思います」

「ランスさんは昔パイアール様と協力して魔人を捕獲した過去もあります。ランスさんなら、魔人を何とかする手段が本当に用意出来ているのでしょう」

「行き当たりばったりのようで、実に抜け目のない人ですからね…ランスさんは。あの人がそう言って笑う時は、必ず何とかなってるんですよね…不思議と」

 シャロン、パレロア、エルシールの言葉にバーバラは困惑するが、

「で、でも魔人には無敵結界があるんですよ!? 確かにあの男の強さには驚きました! もし無敵結界が無ければ、トルーマンは死んでいたと思うくらいに…でも無敵結界は敗れていません!」

 無敵結界はその言葉通り、無敵だからこそその名で呼ばれているのだ。

 魔王、魔人がこの世界の支配者でいられるのは、全てはその無敵結界があっての事だ。

「無敵結界は無敵ではあるが万能ではない…私はそれを身を持って知っている。ランスの事だ…またとんでもない事を考えているのだろう」

 ケッセルリンクは自分がカラーであった頃に戦った魔人を思い出し微笑む。

 ランスが『出来る』と言った以上、必ずそれを裏付ける何かが絶対あるのだ。

「バーバラ…君はそのままランスに協力をしてくれ。シャロン、エルシール、バーバラをサポートしてやってくれ」

「はい、ケッセルリンク様」

「分かりました」

「は、はい。ケッセルリンク様」

 主の指示に使徒達は頭を下げて応える。

「ケッセルリンク様…宜しいのですか?」

 唯一主から指示を受けていないパレロアが心配そうな顔でケッセルリンクを見る。

「ランスが心配かね?」

「レキシントン様よりは危険は少ないと思いますが、それでも相手は魔人です。それにケッセルリンク様が魔王様に言われた事を考えると…」

 パレロアが心配するのはランスの事もそうだが、主であるケッセルリンクの事もそうだ。

 ケッセルリンクが魔王ナイチサに言われた事は、魔人トルーマンを連れ戻す事、もしくは魔人トルーマンの粛清だ。

 もしケッセルリンクがトルーマンを対処できなければ…と思ってしまう。

「それこそ問題は無いよ。魔王とて私の全てを把握している訳では無い。それにいざとなれば私が動く」

 ケッセルリンクの言葉に使徒達は一斉に跪く。

 その言葉は魔人四天王ケッセルリンクとしての揺るぎない言葉だったからだ。

「まあ…間違いなく私の出番は無いだろうがね」

 そして最後にケッセルリンクはそう微笑んだ。

 

 

 魔人対策2 ランス―――

 準備は刻々と進んではいるが、スラルには非常に大きな疑問が存在していた。

 ランスは呑気に女の子を口説いたりセックスをしたりと楽しんでいるが、そろそろスラルの我慢の限界に達していた。

 今日も今日で何時もの様にジルの体を弄って遊んでいる中、

「ランス! 目的の物はまだ見つかって無いでしょ!? どうしてそんなに遊んでいられるのよ?」

「あん? 何の話だ?」

「とぼけないでよ! 聖なるアイテムよ聖なるアイテム! それが無いとその封印結界とか使えないんでしょ!?」

 ランスの言葉を信じるならば、聖なるアイテムを使って魔封印結界とやらを使えば魔人すらも封印出来るらしい。

 確かに2つのアイテムまでは見つけたが、まだまだ2つも足りないのだ。

 それもランスがこれまでずっと冒険をしてても見つかる事が無かったのだ。

 それを魔人との戦いの間の短期間で見つけるなど、どう考えても不可能だ。

「そうね。ランスが言うにはもう当てがあるみたいだけど…一体何なのよ」

「ああ、そんな事か」

 レダの言葉にランスは「そういえばそんな事もあったな」と言わんばかりの表情をする。

「そうよ! 一体どうするつもりなのよ!」

「ランスさん、ここに戻ってきてから遊んでばっかりでしたからねー。私もあんまり人の事が言えませんけど」

 スラルの言葉に加奈代も頷く。

 確かにそこは誰もが不安になっている所だ。

 時間はもう無いというのに、ランスに関して言えば余裕綽々の態度を取るものだから、周囲がやきもきするのは当然の事だ。

「フン、お前達もうるさいな。まあいい。俺様のとっておきの秘策を見せてやろう。カモーン! クエルプラン!」

 ランスが指を鳴らすと、眩い光と共にランスのレベル神を担当してるクエルプランが姿を見せる。

「お久しぶりですランス。レベルアップですか?」

「ああ、それもあるが今回は別件だ」

「…別件ですか?」

 クエルプランはランスの言葉に小さく首を傾げる。

 レベル神の役割はその名の如く、担当している人間のレベルを上げる事だ。

 中には色々と人間に便宜を計ったり、賄賂を受け取ってこっそり才能限界をサービスするレベル神もいるが、それはそれで面白いという事で放置される事が多い。

「うむ、クエルプランちゃんは俺様にサービスをすると言っていたな」

「ええ。それもまたレベル神の役割ですから」

 レベル神の中には、担当の人間のレベルが上がると言葉通りサービスする者もいる。

 勿論肉体的に触れる事は許されないが、視覚的には問題無いと判断されている。

 なのでクエルプランも今はその美しい素手と素足をランスに晒している。

「じゃあそのサービスをして貰うぞ。クエルプランちゃんが身に着けている物を何かくれ」

「………え?」

「だからクエルプランちゃんが身に着けている物をくれと言っとるんだ。それくらい別にいいだろ」

「…えーと?」

 ランスの言っている事が一瞬理解出来ずにクエルプランは思考停止する。

 が、その次にはクエルプランから猛烈な光が発せられる。

「うお!? 眩しいぞ!?」

「ちょ、ちょっと眩し過ぎよ!」

「ク、クエルプラン様! 目が明けられません」

 皆がその光に耐えられずに目を閉じたり、手で目を覆ったりする。

「…申し訳ありません。突然の事で驚いてしまいました。しかし…ランス、何故そんな物を欲しがるのですか?」

 クエルプランの頭にあるのは、人間の性癖だ。

 ランスと出会ってから、クエルプランは人間というものに少し興味が出て来た。

 人間という種が出来てから、クエルプランは一歩も己の部屋から出ずに、ただ只管に魂の処理をしてきた。

 つい最近の魔王による人間の虐殺の際には流石のクエルプランも数年間は仕事に掛かりっきりだった。

 ただ、ある程度落ち着くとクエルプランは時折人間の事を見るようになった。

 その時、人間の性癖も色々と見てしまったものだ。

 人間は愚かだと思いつつも、何故このような事をするのか…クエルプランにはそれが全く理解出来ずにいた。

「うむ、クエルプランちゃんの身に着けている物が、これからの俺様の戦いにどうしても必要なのだ」

「戦いに…ですか? 少々お待ちください」

 クエルプランが考えるのは、1級神である自分がここまで人間界に干渉してもいいのかという不安だ。

 人類管理局のALICEや、地獄の管理をしているアマテラスや、この時空の管理をしているシステム神ならともかく、魂管理局である自分が人間に干渉するのはまずいのではないかという疑問が出て来る。

(…しかし今の私はレベル神としてランスと接しています。でしたら、これくらいは構わないのではないでしょうか)

 自分にランスの担当レベル神をしてくれと言ってきたのは、他ならぬシステム神だ。

 そのシステム神が、人間と最も接する事が多いレベル神を頼んできたという事は、こういう事も織り込み済みなのだろう。

「分かりました。ではこれを…」

 クエルプランが自分が身に着けていた腕輪をランスに差し出した時、

「おーっと待った! そういう無機質なものじゃなくて、もっと別の物をくれ」

「…え?」

「そうだな…クエルプランちゃんが直に身に着けていたモノの方が俺様は嬉しいぞ」

「…そっちの方がランスは嬉しいのですか?」

「当然だ」

 ランスの言葉にクエルプランは一瞬考えると、自分が身に着けていた手袋をランスに差し出す。

「どうぞ」

「おおーーーーー! これだこれ! がはははは! グッドだ! うーむ…流石クエルプランちゃんが使っていたモノだな。何だか神々しいな…」

「…それよりも皆さんのレベルアップをしますね」

 クエルプランは凄く喜んでいるランスに対して少し複雑な表情を浮かべると、そのままレベルアップに入る。

「ランス、スラル、レダはレベルに変動はありません」

「何ーーーー!? あんだけ魔物をぶっ殺したのにか!?」

「まあそういう時もあるわね…」

「70以上レベルがあれば当然よね」

「ジルはレベル52になりました」

「あ、私は上がったんですね」

「加奈代はレベル34になりました」

「意外と私レベルが高いんですねー」

「ではレベルアップは完了しました。それでは…」

 そのままクエルプランの姿が光と共に消えていく。

 残ったのはランスの手元にあるクエルプランが身に着けていた手袋だ。

「がははははは! どーだっ! これで聖なるアイテムが手に入ったぞ。これなら問題無いだろう」

「いやランス…どうやって調達するのかと思ったら何て畏れ多い事を! ああ、でもクエルプラン様の手袋は凄い神々しい…」

 ランスが手にしているクエルプランの手袋に対し、レダは複雑な表情をするしかなかった。

「呆れたというか何と言うか…そういう発想が私には無かったわ…」

 スラルもランスの発想にはもう呆れる以外にない。

 確かにレベル神…それもあの神は相当な力を持つ神なので、十分すぎる程の力を持つアイテムとみなされるだろう。

「そ、それで本当にいいのでしょうか…」

 ジルも非常に複雑な表情で考え込んでいる。

 まさかレベル神から聖なるアイテムを調達するなど普通の人間には思い浮かばないだろう。

 改めてジルは自分の主人のとんでもない思考に悩まされる。

「でも手に入ったならそれで良しですねー。でもランスさん、残りの一つはどうするんですか?」

「あ、加奈代の言う通りよ。あんまりな事で忘れてたけど、まだ一つ残ってるじゃない」

 加奈代とスラルの言う通り、これでようやく3つアイテムが揃っただけだ。

 ランスの言う魔封印結界のためにはあと一つ聖なるアイテムが必要になる。

 だが、ランスは「お前達は何を言ってるんだ」と言わんばかりの目で皆を見る。

「何を言っている。これで全部揃っただろ。言っただろ、奴の弱点はレダだと」

「レダ? ………あーーーーーっ!!!」

 ランスの言葉にようやくスラルはランスの言っている事を完全に理解する。

「あんまり身近過ぎて忘れてたわ。確かにレダが弱点ね。何をふざけた事を言ってるのかと思ったけど、そういう事か」

「…そういう事か。聖なるアイテムって言葉に縛られ過ぎてたって事ね」

 レダもスラルの驚きぶりを見て、ようやく納得がいく。

 そう、エンジェルナイトであるレダそのものが、神が作った聖なる存在なのだ。

 そして魔封印結界はその術者すらも触媒として扱う事が出来る。

「がはははは! これで全ての準備は揃ったな! 後はあの童貞ストーカー野郎をぶっ殺すだけだ!」

 ランスの勝利を確信した笑いを浮かべる。

「俺様の邪魔をする奴は魔人だろうと何だろうとぶっ殺す!」

 

 

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