ランス再び   作:メケネコ

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魔人トルーマン 使徒との戦い

「ランス様! 来ました!」

「フフン、カモが葱をしょってやってきたか」

 ジルの報告に、ランスは何時もの様に不敵に笑って答える。

 全ての準備は完了し、後は魔人を迎え撃つだけという、ランスにとっては非常に単純な戦いだ。

 他の者が戦々恐々としている中、ランスだけはまるでこの先の戦いを楽しんでいるかのような顔をしていた。

「あの使徒達も来ているようね…その辺は大丈夫なの? ランス」

「使徒なんぞ知らん。俺様の目的はあの童貞ストーカー魔人だ。死なないように足止めだけをしてればいい」

 スラルの言葉にランスは本当に使徒など眼中に無いと言わんばかりに答える。

 実際に今のランスの目にあるのはあの魔人だけだ。

「だいたいああいう奴等は頭の魔人をぶっ殺せば一気に崩れるんだ。だから何よりも魔人を狙う必要があるのだ」

「間違ってはいないけど…まあ確かにあの使徒は別に厄介という訳でも無いか。る壷の使徒がいれば話は変わったけどね」

 ランスとスラルの言葉にジルは驚くしかない。

 この二人は、使徒など大した脅威では無いと言っているも同然だからだ。

(でも…実際にランス様とスラルさんなら使徒くらい簡単に倒せそう)

 しかし二人もただ口だけでは無い。

 実際に恐ろしく強く、戦闘でも非常に頭が切れる。

 特にランスは魔人…いや、魔軍に対しては対処が適切すぎる。

 まるで何度も魔軍と戦った事があるような、そんな態度で魔軍と接している。

「私達が魔人を倒して、使徒は残りに任せる…口だけなら簡単なんだけどね」

 スラルにとっては魔人は何も問題は無い。

 最早あの魔人は敵では無いとスラルは確信を持っている。

 問題となるのは、あの使徒達の攻撃に他の者達が耐えられるか…という事なのだが、

「大丈夫だろ。何も倒せと言っとる訳じゃ無いんだ。俺様が魔人をぶっ殺すまでの時間を稼げば良いだけだ」

「使徒相手に時間を稼ぐのが普通の人間には難しいんだけどね…結局は皆を信じるしかないのね」

「俺様について来るには実力が足らんが、守るくらいなら出来るだろ」

 既に町からは喧噪の音が聞こえており、あの巨大な使徒が町を薙ぎ倒しながら進撃してくる。

「フン、きやがったな」

「ランス様、私は準備に入ります」

「うむ、絶対に成功させろ。これは命令だ」

「分かりました」

 ジルは緊張した様子で答える。

 いよいよ本格的な魔人の撃破という事に、ジルは普段よりも気負っているのがスラルには丸わかりだ。

 だから少しでも緊張をほぐそうとした時、

 

 ムニッ

 

「きゃあ! ラ、ランス様!?」

 突如としてランスがジルの胸を揉む。

「うーむ、相変わらずいい乳だ。シィルよりも大きいな」

「と、突然何を」

「フン、お前こそ分かってるんだろうな。この魔人をぶっ殺したらいよいよお前は完璧に俺様のモノになるのだ」

「…っ!」

 ランスの言葉にジルは顔を真っ赤にする。

 ランスのモノになる…それがどういう意味を持っているか完全に分からされている。

 今までランスが自分の主人という立場でありながらも手を出してこなかったのは、自分の要望が通った結果だ。

「がはははは! この戦いが終わったら一晩…いや、一日中可愛がってやるからな。だから万が一にも死ぬことはおろか、怪我をする事も許さん。いいな」

 そう言いながらジルの目を覗き込むランスの目は真剣そのものだ。

「は、はい…」

 ジルもそう頷くしか無く、そのまま顔を真っ赤に染めて走っていく。

「がはははは! ようやくジルとセックスが出来るな!」

「呆れた…相も変わらずというか何というか…でもランスは本気でそう思ってるのよね」

 スラルはランスの態度には毎度呆れるしかないが、当の本人は本気の本気である事も嫌という程理解している。

「当たり前だ。スラルちゃんの体を何とかするのもそうだが、俺様は女に対しては何時でも本気だ」

「その本気を少しは別の方向に有効活用したら? まあランスは絶対にしないだろうけど」

「世界がどうなろうが俺様の知った事では無いわ。だが女が傷つくのは許さんな」

「全く…ランスはいっつもそうなんだから。それはそうと、皆頑張ってるようね…あ、トルーマンが凄い速さで向かって来るわね」

 スラルはこの周辺に監視用の魔法の目を配置している。

 その目に魔人トルーマンの姿が入る。

 顔には気色と狂気が彩られており、相当に気持ちが悪い。

 自分が魔王だったら問答無用で初期化するのでは無いかと思うくらいに。

「おかげで予定よりも早く魔人と戦えそうね」

「よーし、じゃあ俺様も行くか。スラルちゃんも準備はしておけよ」

「分かってるわ。私達の力を思い知らせてあげましょ」

 

 

 

「来たぞ! 魔人が来たぞ!」

 そして前線はまさに死闘が繰り広げられていた。

 魔人に関しては手を出さなくていいと言われているので放置しているが、魔人が率いているゾンビ、そして使徒だけはそうもいかない。

 ゾンビに関しては神魔法の使い手であるテンプルナイトが居るから何とかなるが、問題となるのがやはり2体の使徒だ。

 使徒マッキンリー、使徒ウィルソン、魔人のみが作れる使徒は、確かな脅威となって人間達に襲い掛かっていた。

「オー…人間の踊り食いよ」

「う、うぎゃーーーーー!!」

 マッキンリーに捕まった自警団の人間が頭がから貪り食われる。

 その光景を見て誰もが口元を押さえ、恐怖する。

「うわーーーーーーっ!」

 そして一方では巨大なガーター大統領の使徒であるウィルソンが無造作に拳を振るうだけで、人間達は紙切れの様に吹き飛ばされる。

 その巨体ゆえの攻撃力、そして防御力には普通の人間は手も足も出ない。

 そんな中、バーバラは必死に使徒ウィルソンと渡り合っていた。

「炎の矢!」

 バーバラの放った魔法はウィルソンには当たるが、それが効果が有るようには全く見えない。

 その様子にバーバラは悔しそうに唇を歪める。

 同じ使徒同士であるはずなのに、自分の放った魔法は相手には効果が無い。

 それは相性も有るのだろうが、明らかに分かる実力差から来るものだ。

「全く! 図体だけは立派ね!」

 バーバラは魔法を連発するが、その何れもウィルソンにはあまり効果が無いようだ。

(あの赤い粘液…あれが私の魔法を防いでる? 氷の魔法なら効果があるかもしれないけど、そっちはエルシールさんの得意分野なのよね)

 炎の魔法が効果が無い事にバーバラは舌打ちする。

 こんな事なら氷系の魔法も勉強すべきだと思うが、今はそれを言っても仕方がない。

 今出来る手段で何とかするしかないのだ。

「この!」

 手に持った短剣を使ってウィルソンの腕に傷をつけるが、それば非常に奇妙な感触が返って来るだけだ。

 まるで水を突いたかのように手応えが無いのに、あまり深く差すとウィルソンの体を覆う赤い液体に吸い込まれてしまいそうだ。

「う、うわーーーーー!!」

 そして逆の方の手には、逃げ遅れた自警団の者が捕えられたかと思うと、ウィルソンはその腹の中に人間を突っ込む。

 すると悲鳴は一瞬で消えると同時に凄まじい量の血飛沫と共に、その人間の骨らしきモノが吐き出される。

「うげ…なんて奴よ」

 その光景を見てバーバラも顔を顰める。

 人間の使徒である自分達とは違い、相手は完全に男の子モンスターの使徒だ。

 それに加えて、主であるトルーマンの影響が強いのか、非常に生理的嫌悪を感じさせる使徒となっている。

「テンプルナイト隊! 一歩も退くな! これは聖戦だと思え!」

「「「おうっ!!!」」」

 そんな中、ドワイトを中心としたテンプルナイト達は堅実に使徒相手に立ち回る。

 前回あの使徒と戦った事から対策を練っていたのだろう、その動きには迷いが無い。

 相手の攻撃が単純だけに、テンプルナイトの行動も非常に単純だが効果も大きい。

 防御魔法をかけて相手の攻撃をなんとか防ぎ、集団で的を絞らせない。

 そして傷を負っても回復魔法で回復する。

(それよりも…随分とやる気よね。テンプルナイトって)

 何よりもバーバラが驚いているのは、その圧倒的な士気の高さだ。

 勿論ドワイトが優れた指揮官だという事は、気に入らないながらもバーバラも認めている。

 正直言えば、エルシールと比べても遜色が無い…いや、集団を纏めている分、もしかしたら彼女よりも上かもしれない。

 それがあるにしても、AL教のテンプルナイトの動きはバーバラから見ても凄いと感じられた。

「クソッ! こいつの体はどうなってるんだ!?」

 何とかウィルソンと渡り合っていたテンプルナイトの一人が忌々しそうに口にする。

「喚くな! モンスターなんてのはそういうもんだろうが! 使徒となればなお更だ! それにここのボスは魔人とやりあうんだぞ! 使徒の相手を出来ないでどうする!」

「「「はっ!」」」

 ドワイトの檄に皆が威勢よく返事をするが、バーバラはやはり複雑だ。

 何で人間のために…という考えはどうしても捨てる事は出来ない。

 何なら、主であるケッセルリンクの戦友だというランスの事も信じられない。

 自分を売って生活してたあの連中のような薄汚い人間と同じような事をやっている、それがバーバラが感じた印象だ。

 そして何よりも、女と見れば割と見境無く手を出し、毎日毎日引っ切り無しに女に手を出す男。

 そんな奴をどうして主であるケッセルリンクが評価し、そしてあんな顔をするのかがバーバラにはどうしても理解できない。

 だが、戦場でそんな事を考えていたのは、やはり彼女の実戦経験の不足、そして使徒になった人間の傲慢さだったのかもしれない。

「嬢ちゃん! 危ねぇ!」

 ドワイトの言葉にようやくバーバラは目の前に迫る、ウィルソンの手に気づく。

「グゥ!」

 何とかガードをするが、それでもその衝撃はバーバラの体に強烈なダメージを与える。

「カハッ!」

 地面に勢いよく叩きつけられたバーバラに、ウィルソンが止めを刺すべく手を伸ばす。

(私を…取り込む気か)

 冷静になろうとするが、使徒になってから初めて味わう痛みと衝撃にバーバラはパニックになる。

 そしてその痛みが自分が人間だった頃の過去を嫌でも思い出させてしまう。

(違う! もう私は弱くて何も出来なかった頃の私じゃない! 私はケッセルリンク様の使徒なんだ!)

 そう思っても、自分の体は過去のトラウマが過り思うように動かない。

 そうしている内にウィルソンの手が伸び―――

「危ない!」

 その手がバーバラを掴む前に一人のテンプルナイトがバーバラの体を押しのけ、代わりにそのテンプルナイトが捕らわれる。

「あっ…」

「ジョニー!」

 ドワイトの叫びと共に、バーバラを助けたテンプルナイトがウィルソンの体の中に取り込まれ、そして骨と共に吐き出される。

「野郎!」

 ドワイトの怒りがバーバラにもしっかりと伝わってくる。

 だが、次にドワイトが発した言葉は、

「大丈夫か! 嬢ちゃん」

 バーバラの事を心配する言葉だった。

 その言葉を聞いて、バーバラは思わず…激高する。

「い、今更そんな言葉をかけるな! 何もしてくれないくせに!」

 それはバーバラにとっては忘れてしまいたい過去―――自分を誰も助けてくれず、自分に体を売らせることで生活をしていた自分の両親。

 そんな自分を居ないものとして扱い、笑っていた家族。

 そして誰も助けてくれなかった他人―――AL教の人間も結局は自分を助けてはくれなかった。

 それどころか、AL教の司祭すらも自分を買っていた。

 それからバーバラは人を信用しなくなり、全てを憎んだその時に、魔人ケッセルリンクに助けられた。

 自分に初めてぬくもりをくれたのは、人ではなく魔人だったのだ。

 ドワイトはそんなバーバラに対して嫌な顔一つする事無く、

「そんだけ言えれば大丈夫だな! おい! 彼女に回復魔法を!」

 そう指示してウィルソンへと向かっていく。

「大丈夫か!」

 そしてドワイトの指示従い、バーバラに回復魔法がかけられる。

 ヒーリングを受けている内に、バーバラはどんどんとやるせない気持ちと、どうにも抑えきれない怒りに襲われてしまう。

 どうして今なのか―――なんで弱かった自分は助けられずに、今強くなったはずの自分が助けられるのか…そんな気持ちが爆発しそうになるのを必死で抑える。

(そうだ。今は私は戦わないといけない。ケッセルリンク様が望んでいるんだ)

 とにかく今の自分はケッセルリンクのために戦わなければならないのだ。

 そう、彼女の全ては主であるケッセルリンクのためにあるのだ。

 だが、意気込みだけではこの使徒に勝つ事は出来ない。

 この使徒や、魔人と戦えたあの人間が異常なだけなのだ。

「どうにかしてあの装甲を剥さないと…」

 しかしバーバラにはどうすればあの使徒の装甲を剥せるのか、全く良い考えが浮かばない。

 誰もが使徒の強さに苦しんでいた時、

「あれは!?」

 一人のテンプルナイトの視線の先には人影が有る。

 その人影を見て、バーバラは思わず声を出しそうになるのを何とか抑える。

(シャ、シャロンさん!?)

 それは間違いなく、自分の先輩であり、一番最初にケッセルリンクの使徒となったシャロンに間違いなかった。

 メイド服を着ておらず、自分と同じ戦闘用の服へと着替えている彼女が、使徒へと向かって行く。

「ごめんあそばせ」

 短くそう言うと、強烈な一撃をウィルソンへと喰らわせる。

 それだけでウィルソンの体が震え、その動きが止まる。

「あ、あれは!?」

 そしてウィルソンの体を覆っていた血のような粘液が剥がれ、その肉体が露わになる。

「あ、あれがあの使徒の本当の体だというのか…!」

 テンプルナイト達がウィルソンの肉体に顔を歪める。

 そこにあったのは無数の口が蠢いている、不気味な肉の塊だった。

「大丈夫ですか、バーバラ」

「は、はい…シャロンさん…」

 バーバラの隣に着地したシャロンが、優しくバーバラに微笑みかける。

「あんたは?」

 突如として現れたシャロンにドワイトが尋ねるが、

「話は後です。今はあの使徒を何とかしましょう」

「そうだな。よし、お前達! あの使徒を何としてでも倒すぞ!」

 ドワイトは疑問にも思うが、魔人の使徒へと攻撃をした事で味方と判断する。

 バーバラと知り合いのようなので、少なくとも絶対に敵では無い。

「「「おう!!!」」」

 ドワイトの言葉にテンプルナイト達が一斉に武器を構える。

「氷の矢!」

「雷の矢!」

 魔法を使えるテンプルナイト達が、露わになったウィルソンの体に魔法を放つ。

「グゥゥ…」

 ごく初級の魔法にも関わらず、ウィルソンの体がさらに震え、憎々しげにテンプルナイト達を睨んだ―――ような気がする。

 元がガーター大統領なので、外面からはその感情は分からないが、間違いなくこちらに怒りを孕んでいる。

「あの粘液の奥が奴の本当の体か…! そこのスパルタの嬢ちゃん! あんた、一体何をした!」

「ごく簡単に、相手の装甲を削る一撃を。ですが意外にも効果はあったようですね」

 ドワイトの言葉にシャロンが微笑む。

「そうか。俺達の中にはスパルタは居ない…頼んでもいいか」

「ええ。そのために私が居ますから。バーバラ、あなたもしっかりなさいな」

 シャロンの言葉にバーバラの体が震える。

 言葉は優しいが、その実は非常に厳しい言葉だという事にバーバラは気づいたのだ。

(…そうだ。私はケッセルリンク様の使徒だ。そしてケッセルリンク様はあの男を助けるように言ったんだ。なら私もその通りにしなきゃ)

 私情に流され、人間を見下し、激情に駆られるなどケッセルリンクの使徒として論外だ。

「まだやれます!」

 バーバラは傷が癒えた体で起き上り、目の前の使徒を睨む。

「さあ、行きますよ」

「はい!」

 

 

 

 一方のマッキンリーとの戦いでは、人類は使徒の脅威に押されていた。

「クソ! こいつは一体どうなってるんだ!」

 ゲンバは攻撃を当てても当てても一向に怯まず、人間を喰い続ける使徒に対して怒りの視線を向ける。

「何度攻撃しても全く効果がありそうにありませんねー」

 加奈代も何度か矢を放っているが、マッキンリーは全く意にも介さずに襲ってくる。

 魔法使いが魔法を使っても、次の瞬間にはその傷が再生してる。

 恐ろしい程の再生能力を持つ相手に、加奈代達は苦戦を強いられていた。

「ランスさんやスラルさんの火力があれば倒せるんでしょうけどねー」

「流石にボス達程の力は出せないな…あの方たちは別格だ」

 ゲンバは加奈代の言葉に唇を歪める。

 加奈代の言う通り、ランス程の力と速度であの使徒を叩き続ければ、あの再生能力を上回る速度で相手を殺せるだろう。

 しかしランスはまさに規格外、そしてスラル達もゲンバ達から見れば雲の上の存在だ。

 どれだけ集まろうとも、あれ程の火力を出す事は出来ないだろう。

「クーさん、ドロシーさん、何か良い方法は無いですかね」

「あの使徒とは私達は交戦してない。情報に乏しい」

「ゾンビとも違う存在で、浄化の魔法も効果が無いです。多分あれは…人間の使徒だと思います」

「人間…アレがか」

 喜色を浮かべながら人間をその口で貪り、笑う使徒が元人間と聞いて、ゲンバは気分が悪くなる。

 自分達も人に言えない事はしてはいるが、流石にあんな猟奇的な奴は知らない。

「人間を食べる事に強い欲求を持って使徒となった存在…」

 ドロシーも理解出来ないと言わんばかりに吐き捨てるが、使徒の動きは止まらない。

 その動きは確かに遅いが、その攻撃力と再生能力で確実にこちらを追い詰めていた。

(これは時間を稼ぐ以外に方法は無いか…)

 ゲンバは今の状況で出来る事はそれしか無いと判断する。

 出来れば…本当に出来ればであったが、ボスであるランスに来てほしかったが、ランスは自分達以上の存在と戦う事になっている。

 魔人と使徒ではその強さは大きく違うのはゲンバも良く分かっている。

(どうあっても被害が大きくなる…畜生!)

 これ以上人が死ぬのは御免だ。

 確かにギャングの一員という胸を張れない職業をしているが、それでも仲間を思う気持ちは変わらないのだ。

「人間は全て殺して食うね。今度は丸呑みがいいね」

 マッキンリーは醜悪に笑いながらこちらに歩を進めて来た時、

「スノーレーザー!」

 誰かの放った魔法がマッキンリーの体では無く、その足元に突き刺さる。

「…オー」

 足元が凍りつき、マッキンリーは忌々しげに顔を歪める。

「足元よ! 足元を狙いなさい! 氷の矢!」

 そう言いながら、一人の女性の魔法使いが現れる。

「あんたは!?」

 突如として現れた女性にゲンバは驚く。

 この魔法の威力は、ジルには及ばないだろうがそれに近い程の威力が感じられたからだ。

 まだこれ程の魔法を使える存在が、この町にいるという事に驚いたのだ。

「冷静に相手の動きを見れば何とかなります。あの使徒は確かに凄い再生能力を持っているけど、動きは鈍い。だったら相手を動かさないように立ち回ればいい」

「え、えーと。あなたは一体誰ですか?」

「話は後! それよりも魔法使いを集めて! 使徒の動きを止める!」

 女性の言葉に誰もが戸惑うが、それでも彼女の持つ魔力の強さ、そしてその言葉の力強さに誰もが従ってしまう。

「氷の矢!」

「氷雪吹雪!」

 そしてマッキンリーに向けて、無数の魔法がマッキンリーの体では無く、その足元に突き刺さる。

 マッキンリーの足元が凍りつき、マッキンリーは動けなくなる。

「おお!」

「やった!」

 それにマッキンリーと戦っていた者達は喜ぶが、

「喜ぶのは後! 使徒の力を侮っては駄目よ!」

 その言葉の通り、マッキンリーは醜悪に笑うと、その口から赤い液体を吐き出す。

 すると赤い液体がかかった氷から煙が上がり、氷が融け始める。

 高熱の酸を吐き出しているようで、その強烈な臭いに誰もが鼻を押さえる。

「相手を動かしちゃだめよ!」

 それでも女性は尚も魔法を放ち、マッキンリーの動きを封じる。

「あの! あなたは!?」

「私はエルシール。バーバラの知り合いよ。助けに来たただの人間よ」

「バーバラの。それは納得いった」

 バーバラはつい最近、この町に現れた言わば余所者だが、非常に腕は立つ。

 スラルが認める程の実力者の知り合いならば、エルシールという女性も腕が立つのだろう。

 実際、彼女の魔力はバーバラを上回っているだろう。

「近付かないで、遠巻きに攻撃をしてればいい。相手に魔法攻撃は無いから捕まらなければ大丈夫よ」

 エルシールは的確にマッキンリーの足を止めるべく魔法を放つ。

「よし! 魔法を使える奴は奴の動きを止めろ! 残った奴はアイツの口を狙え! 酸を吐かせるな!」

 ゲンバは手裏剣を構えると、マッキンリーの顔目がけて投擲する。

 そのゲンバの動きに合わせて、加奈代もマッキンリーの顔に矢を放つ。

 マッキンリーは忌々しげに自由となっている両手で手裏剣と矢を叩き落す。

「相手を動かすな! このまま釘付けにするんだ!」

 ゲンバの指示に合わせて、自警団やマフィアの兵達はマッキンリーに目がけて石を投げたり、矢を放ったりと攻撃をしかける。

 その攻撃にマッキンリーは忌々しげに呻くと、凍っている足を動かそうとするが、その氷はどんどんと厚くなり、マッキンリーの動きを阻害する。

 マッキンリーの体は腹が魔物将軍よりも大きいが、それとは比例せずに足は短い。

 足腰が強靭である事は間違いないだろうが、明らかに俊敏に動ける体では無い。

「無理に倒す必要は無いわ! 動きを止めていればそれで大丈夫!」

「「「おお!!!」」」

 エルシールの言葉に皆が返事をして、マッキンリーの足止めをするべく攻撃を重ねる。

 自分達の本当の敵は魔人であり、この使徒はあくまでもおまけなのだ。

 勿論倒せるのが一番良いのだが、無理をすれば逆に被害が大きくなる。

 ゲンバ達は慎重に、そして確実にマッキンリーの動きを止めるべく攻撃を仕掛けていた。

 




ランス無しでの使徒戦
正直飛ばしてもいいかなと思いましたが、やっぱり使徒戦なのでキンクリするのもどうかと思いました

使徒は本当に魔人によって強さの差が激しい
ケッセルリンクの使徒はランスには敵わないけど、ザビエルの使徒は非常に強い
アイゼルの使徒も能力は凄いし、アレフガルドに至ってはチートですし
まあケイブリスの使徒があんなのだし、やっぱり個人差は出るのでしょうね

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