ランス再び   作:メケネコ

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魔人は実際問題強すぎるよね
オウゴンダマ君は魔人の中の癒し




新たな脅威

ランスは珍しく少し考え込んでいた。

ここ以外のカラーを探す、その依頼を受けたのはいいが、自分が居た所とはあまりにも違う事に対し少し悩んでいた。

リーザス、ゼス、ヘルマン、コパ帝国からのバックアップは望めないし、自分の城も存在しない。

しかも周辺にはモンスターが当たり前のように歩き回るため、以前の冒険のように快適とはいかないからだ。

この前廃棄迷宮に向かった時も、往復だけでやはり時間がかかってしまった。

その状況で遠出等出来るかどうか、経験豊富なランスにも分からなかった。

 

「悩んでるわね」

 

レダが隣に座り、パンを差し出す。

 

「無理も無いと思うけどね」

「フン」

 

ランスはパンを受け取るとそれを一口食べる。

自分が今まで食べた味とは違うが、これはこれで味わいがあるものだった。

 

「でも…本当にこれからどうする?」

 

レダはこの訳の分からぬ世界に一緒に飛ばされてきた者同士であるため、この状況はランス同様分かっている。

何しろエンジェルナイトである自分の経験も役に立たないのだ。

おまけに自分の力は大分制限され、未だに翼を生やすことも出来ない。

レベルは少しずつ上がってはいるが、それでも以前よりは大分弱まっている。

ランスはそれに輪をかけて大変で、未だにランスの経験値がバグっているため、幸福ポックルでしかレベルが上がらない。

 

「セラクロラスを探すにしても、ちょっと大変だしね」

 

セラクロラスは会おうと思って会える存在ではない。

会おうと思うと逆に会えなくなる…それがセラクロラスという存在。

 

「別にどうもせん。俺は俺のやりたいようにやるだけだ」

 

ランスはそう答えるが、やはりランスも少し不安がある。

(やはりアイテムが無いのは不便だな)

一番感じているのは、自分が当たり前のように使っていたアイテムが無い事。

世色癌、竜角散等といった、当然のように出回っていたアイテムも存在しない。

それに何より、遠出をするのであればやはり魔法ハウスも持っておきたかった。

(全部シィルに持たせてたな…)

以前ヘルマンで戦っていた時はシィルが不在だったため、ビスケッタがランスのために色々なアイテムを用意してくれていたが、シィルが戻ったとなれば彼女にアイテムの管理は任せていたため、今はランスはアイテムを持っていない。

それどころか魔剣カオスすら無い状態だったため、今手に持っている黒い剣を手に入れるまでは武器にすら悩む有様だった。

 

「うむ、まずは目標が決まったな」

「で、どうするの?」

「まずは皆を集めるぞ。レダ、全員を呼んで来い」

「わかったわ」

 

ランスの言葉にレダは主な者を呼ぶべく立ち上がる。

レダが視界から消えた後、

 

「まったく…シィルやかなみ達はどこにいるんだ。ご主人様の手を煩わせおって」

 

この場にいないメンバーに向かって愚痴を言い始める。

だがそれは一瞬。

ランスは直ぐに気持ちを切り替え、自分の目的を達成するべく頭を回転させた。

 

 

 

「ランス、集まったぞ」

 

ケッセルリンクの言葉にランスは満足そうに頷く。

カラーがランスの言葉で動く…それは前には無かった光景なので、ランスもちょっと優越感に浸っていた。

何しろランスが知るカラーの女王はパステルなのだから。

ここに集まったのはカラーの全員ではなく、主な仕事が森の警戒では無い者達だ。

 

「うむ。まずは俺様の質問に答えてもらおう」

「ああ。私達が知る得る範囲であればな」

 

ケッセルリンクの言葉に集まったカラー全員が頷く。

ランスはその言葉に満足すると、

 

「まずは『魔法ハウス』というアイテムを知ってるか?」

 

ランスの言葉にカラー達一斉に首を振る。

ケッセルリンクの方を見るが、その彼女も黙って首を振るだけだ。

 

「悪いが聞いたことが無いな。一体どういうアイテムなのだ?」

「普段は掌サイズのミニチュアのようなものなのだがな。必要な時だけ大きく出来る携帯型の家だ」

 

その言葉にケッセルリンクは驚く。

そのような便利なアイテムなど、今まで生きてきた中で一度も聞いたことが無かった。

 

「流石にそのようなアイテムは知らないな…言葉からするとお前は持っていたようだが」

「まあ持ってはいたがな…残念ながら今は持っていない」

 

ランスの言葉にカラー達が少し残念そうな顔をしていた。

ケッセルリンクも興味があったようで、彼女も少々残念そうな顔をしていた。

 

「無いなら別に構わん。だがこれで方針が一つ固まったな」

「何?」

「まずはこっちの方だな」

 

ランスはカラー達が用意していた地図の一方を指す。

そこは先日ランス達が廃棄迷宮と呼ばれる所の近く…ランスが知る『ゼス』と呼ばれる地方だった。

 

「その方向には何かあるのか?」

「俺の知ってる限りでは魔法のアイテムとかが豊富だったからな…それにモンスターも強くなかったからな」

 

ランスの言葉にケッセルリンクは考え込む。

その方向はランスの言うとおり、それほど強いモンスターは存在していなかった。

それにランスが今持っている剣もまたその地方から見つけた物だ。

(そういえばアナウサも奇妙な壷を持ち帰ってきてたな)

アナウサ・カラーもその際にアイテムを探して来たらしいが、何故か奇妙な壷を持ち帰ってきていた。

『この壷に描かれたキャラって可愛くありません?』

その壷に描かれていたのは、やたらと可愛らしくデフォルメされた、一本角で悪魔の翼を持つ物体だった。

ケッセルリンクは何がいいのかよく分からなかったが、アナウサはそれが大いに気に入ったようだった。

たまに動いていたような気がするが、ケッセルリンクは気のせいという事にしていた。

 

「私としては異存は無いな。だが問題はどれだけ進めるかという事だな」

 

前回は廃棄迷宮という明確な目標があったが、今回はその目標が達成できるかは分からない。

少しずつカラーの領域を増やしていくしかないのだが、やはり現在は数が足りないとう問題がある。

 

「別にそこまで無理をするつもりは無いぞ。まずはその辺の偵察みたいなものだ。人間が住んでる地域が見つかればそれでも構わんだろ」

 

この世界のカラーの事情はランスから見れば変わっている。

ケッセルリンク達には、ランスが知っている人間への嫌悪感が感じられない。

以前の会話で、カラーのクリスタルが狙われていないことを知ったので、ランスも以前のヘルマンの時のようなカラーの森への侵攻も無いと予想していた

それに国というものが存在していないようなので、いざとなればランスとレダ、ケッセルリンクである程度蹴散らすことも可能だとも考えていた。

 

「ふむ…私はその辺は分からないからランスに任せようと思う。皆はどうだ?」

「異議なしでーす」

「ランスさんなら問題ないと思いますよー」

 

真っ先に賛成をしたのは、以前にランスと共に廃棄迷宮に向かった、アナウサ・カラーとメカクレ・カラーだった。

ケッセルリンクと、この二人が賛成をした事で、他の皆の意思も固まったようだった。

 

「ではランス、お前に任せる。必要な物があれば言ってくれ」

「うむ」

 

ランスは一先ずこの会議に満足した。

自分の要求が受け入れられた形になったからだ。

 

「じゃあそれに合わせて用意しましょうか」

 

レダの言葉に皆が頷き、その場は解散となった。

 

 

 

「うーむ…」

「どうしたの、ランス?」

「いや…結局前回と同じだな…」

「仕方ないだろう。現状ではこれが一番だ」

 

ケッセルリンクの言葉は間違っていないのだが、やはりランスとしては新たな出会いを求めていた。

ランスが旅をするのは新たな出会いを求めるためであり、貝の収集等の趣味も兼ねている。

が、一番の理由としてはランスが冒険が好きだからだ。

 

「うーむ…まあ仕方ないか」

「ぶーぶー、ノリが悪いぞランスさーん」

「それに私達の力が必要だと思いますよー」

 

以前に廃棄迷宮に出かけた面子、ランス・レダ・ケッセルリンク・アナウサ・メカクレの5人だ。

ランスも何だかんだ言っても能力に関しては文句は言わない。

 

「それよりも…ランス、どういった計画を立てている? 私はその辺の事はまったく分からないからお前に任せる」

「ランスさんに任せまーす」

「お任せしまーす」

 

ケッセルリンクといえども、以前に廃棄迷宮に向かったのが初めての探索だった。

なので以前もランスに全てを任せていたが、ランスの手際は非常に優秀だった。

ランスはシィル達がいる時はほとんど丸投げだが、やはり一流の冒険者なので非常に手際は良い。

冒険に必要な事は、意外にもランスは殆ど手抜かりは無い。

 

「まあそうだな…お前達は人里が何処にあるかわかるか?」

 

ランスの言葉に全員が首を横に振る。

カラー達は森を出る事は殆ど無い。

人間達も今はモンスターを相手にするのに忙しく、カラーの森へと足を運ぶ事も無い。

LP時代とは別の意味で、人間とカラーの交流は無かった。

 

「そうか…なら行動は一つだな」

 

ランスの言葉にカラー達は息を飲む。

その言葉にカラーの未来がかかっている…そう思うと少し緊張してきていた。

 

「適当」

「ええ…」

 

ランスの言葉に思わずアナウサは声を上げる。

まさかそんな言葉が出てくるとは思ってもいなかったからだ。

 

「ランス。何か意図があるのか?」

「というよりも目的が目的だ。こういう場合は適当に動くほうがいい」

 

ランスの今までの冒険は、キースギルドで依頼を貰うという事がほとんどだった。

目標がハッキリと示されていたが、今回はその目標が曖昧だ。

ならばその場合は適当に動いたほうがいいとランスは判断した。

 

「…そういうものか」

「まあ仕方ないんじゃない? 実際目星も何もついてない訳だし」

 

ケッセルリンクの疑問にレダが応える。

闇雲に探しても仕方が無いのだが、現状況ではランスの言うとおりに適当でもあまり変わらないだろう。

(私が以前のように飛び回れれば解決するんだけどね…)

残念ながら今は自分はその力は無いし、天界に戻る事も出来ないのだが。

 

「でも適当って言うけど…ランスさん、何か考えがあるの?」

「まずは情報を集める事だな。人間の町が見つかれば、そこでカラーの情報が掴めるかもしれん」

「あーなるほどー。私達カラーでは中々そんな事は出来ませんしねー」

 

ランスも冒険の時は色々な情報を収集している。

そのためにキースギルドにも所属していたし、情報は力だと理解もしている。

そして人の集まる所には情報も集まる。

カラーの情報も掴めるかもしれないと思っていた。

この時点ではそう思っていたのだが…

 

 

「…中々進めんな」

「そうねー」

 

ランス達の冒険はあまり進んではいなかった。

 

「ちょっとモンスターの動きが活発ですよね」

「そうだな…意外なほど数が多い」

 

廃棄迷宮に行った時には、これほどモンスターとは遭遇しなかったが、今回は意外なほど多くのモンスターと出会っている。

なので中々進む事が出来ないのにランスも少々イライラしていた。

ハッキリと言えば効率が悪すぎるのだ。

 

「今日もここまでですねー」

 

メカクレはマッピングをしているが、やはりその進行はあまり芳しくない。

 

「あの時の変態仮面から何か情報引き出してればよかったわね」

「「「うーん…」」」

 

レダの言葉にカラー達は嫌そうに首を捻る。

 

「下着を顔に被る変態はちょっと…」

「なんか近づくだけで妊娠させられそう…」

「何と言うか…得体の知れない物を感じさせられる奴だったが…やはり私も近づきたくは無いな」

 

どうやらあの勇者の評価は散々らしく、今からでもあの男に頼ろうという気は微塵も無いらしい

 

「とにかくもう寝ましょう。私が見張ってるから」

 

エンジェルナイトある彼女は多少眠らなくとも問題無い体力を持っている。

だからこうして真っ先に見張りを買って出てくれている。

 

「じゃあ任せたぞ」

「すまないな、レダ」

 

各々レダに礼を言い、それぞれのテントで眠りにつく。

(でもホントココは何処なんだろう…)

まさか異世界…等という事は無いだろうが、それでも彼女は少し不安になっていた。

天界に戻れない事もそうだが、自分が知っている悪魔もモンスターも存在する。

それなのに自分達が何処にいるのかさっぱりわからない。

(でもまあ何とかなってるから不思議よね)

レダはランスが眠っているテントを見る。

この男はとんでもない男だが、不思議と「この男なら何とかしてくれる」という感じがする。

悪魔を利用して自分たちとHをするようなとんでもない男だが、生まれ持った何かを持っているのだろう。

そしてランス自身も訳が分からない状況になっているのにも関わらず、何処までも前向きに物事をとらえている。

(あの精神力の強さは何処からくるのかしらね)

ある意味尊敬するほどの図太さだ。

カラーの尊敬を集め、中心人物であるケッセルリンクにも頼りにされている。

(一体どんな生まれをしたらあんな人間が出来るのかしらね)

レダは思考しながらも辺りを警戒するのは忘れない。

幸いにも、モンスターが動いている気配は無い。

仮に襲ってきたとしても、レダ一人で十分に対処が出来る程度の強さだ。

ぷりょやマグボール、強くてもイモムシDXくらいなので、問題は起きない。

しばらく時間がたつと、

 

「レダ、少しいいだろうか?」

「どうしたの、ケッセルリンク。交代無しでも私は大丈夫だけど」

「いや…少しお前と話したくてな」

 

レダはそういえば…と思い返す。

事務的な話はしているが、こうして面と向かって話した事はあまりなかったなぁと。

常にランスが中心にいたため、ランスを介して話すという事がほとんどだった。

 

「別にいいわよ」

「ああ、すまないな」

 

ケッセルリンクはレダの横に腰を下ろす。

 

「お前は…ランスとの付き合いは長いのか?」

「私? ううん全然。知り合ってまだ一月程度よ」

 

レダの言葉にケッセルリンクは意外そうに目を丸くする。

どうやらもっと長い付き合いだと思っていたようだ。

 

「そうなのか…少し意外だったな」

「まあ顔を合わせたのはもっと前なんだけどね」

 

レダにとってもそれはあまりいい思い出では無い。

まさかエンジェルナイトの自分が、人間に倒されるとは考えてもいなかった時期だ。

 

「ランスと二人で旅をしていたのか?」

「ううん、他にも沢山いたんだけどね…気づいたら私とランスだけだった。その後直ぐにあなた達に捕まったけど」

 

レダの言葉にケッセルリンクは苦笑いを浮かべる。

 

「まああの時はな…色々と立て込んでいたからな」

「分かるわー。私もその後の事を考えたら流石にね」

 

カラーに捕らわれはしたが、その夜にモンスターの襲撃があった。

そしてランスはあっという間にカラーからの人望を集めた。

凶悪なムシを相手にとり、更には魔人すらも退けた。

 

「とにかく色々あった。私が生きてきた中でも一番の濃厚な時間だ。まだランスと出会って少ししかたっていないというのにな」

「そうよね。私だって驚いてるくらい。あいつは一体何者なんだって思うし」

 

2人は顔を合わせて笑いあう。

ランスに振り回されてはいるが、それでもどこかを楽しんでいる自分がいるのに気づいたからだ。

 

「ところで…ケッセルリンク…ランスの事どう思ってるの?」

「…何?」

 

レダからの意外な質問に、ケッセルリンクは思わず固まる。

まさか彼女からそんな事を聞かれるとは完全に予想外だったからだ。

 

「何故そんな事を聞く?」

「いやまあ…やっぱあんな姿を見せられたこともあるし…それにさ、ランスを受け入れたんでしょ?」

 

ケッセルリンクの顔が目に見えて赤くなる。

『あんな姿』とは、悪魔との取引の時の自分の姿だろう。

その後、自分は確かに自分の意志でランスと夜を過ごした。

 

「まあ…面白い奴だな。一緒にいて退屈をまったく感じない。そして…あいつと居ると色々な夢を見れそうな気がしてな」

「へぇ…」

「なんだその顔は…」

 

レダはケッセルリンクの顔を見てにやにやと笑っている。

口ではそう言っているが、ケッセルリンクの気持ちは言葉の端から色々と理解できる。

エンジェルナイトの自分から見ても規格外の人間なのだ、カラーのケッセルリンクがランスの事を想っても不思議でも何でも無い。

 

「そういうレダはどうなのだ」

「私は…まあ人間の中では規格外…いや、ありえない人間だって思うわね。色々とね」

「…随分と曖昧な言い方をするな」

「ケッセルリンクだから話すけど、私はあいつを守るために来てるのよ」

 

レダの言葉にケッセルリンクは眉を顰める。

彼女の言葉だと、まるで仕事でランスと付き合っているという風に感じられた。

 

「でもまあ…今は一緒にいて楽しいかな? 滅茶苦茶な人間だとは思うけどね」

「それは同感だ」

 

2人は笑いあう。

 

「じゃあ私はもう一度休ませてもらおう。後は頼むが…いいか?」

「いいわよ。ゆっくり休みなさいよ」

「分かった。では有難く休ませてもらおう」

 

 

 

「ランスさーん。朝ですよー!」

「むぐぅ…もう時間か」

メカクレに起こされ、ランスが大きな欠伸をしながら起きる。

こと冒険時にはランスも寝坊をしたりはしない。

一瞬の気の緩みが命取りになるのをランスは良く理解していた。

まあこの中では1番遅く起きてはいるのだが。

 

「おはよう、ランス」

「ランスさんおはようございまーす!」

 

レダとアナウサも既に目を覚ましており、ランスに挨拶をする。

 

「うむ」

 

しかしケッセルリンクだけは何故か難しい顔をしていた。

 

「さっきからどうしたんですか? ケッセルリンク様」

「いや…妙な夢を見てな…不思議なことにその夢の内容を全て覚えていてな」

「夢…ですか? でも夢の内容を全部覚えてるなんて珍しいですよねー」

 

ケッセルリンクは不思議と今日見た夢の内容を忘れることが出来ない。

今までの長い生の中でも、このような奇妙な事は初めてだからだ。

それも内容が内容だけに、どうしても気になってしまった。

 

「夢だと? 一体どんな夢だ? エロい夢か?」

「そんな訳は無いだろう。私が見たのは黄色いトリの夢なのだからな」

「えー? 何ですかその夢」

 

ケッセルリンクの夢の内容にアナウサが不思議そうな声を出す。

黄色いトリとは一体何を言っているのか分からなかったからだ。

レダとメカクレも不思議そうな顔をしているが、ただ一人、ランスだけが少し驚いた顔をしていた。

 

「…何? 黄色いトリだと?」

「ああ…黄色いトリに言われたのだ。運命の男と電卓キューブへ向かえ。そこに新しい力が眠っている、とな」

 

その言葉にランスを除く全員が首を捻る。

だが、ランスだけはその意味を正確に理解していた。

 

「がはははは! そうか! お前もそうか!」

 

ランスは嬉しそうに笑う。

 

「急にどうした? 何かを知っているのか?」

「うむ、まあ俺様は知っている。…あ」

 

ランスはその黄色いトリの夢の意味を正確に理解していた。

この黄色いトリの夢の話を聞くのはもう何度目かになるだろうか。

そしてケッセルリンクがその対象になっただけだ、と思ったのだが、ここで一つ重大な事実に気づいた。

『電卓キューブ』

それが何処にあるのかが分からないという事だ。

シィル、かなみ、志津香の時はゼスに居た時にその迷宮が現れ、シーラ、チルディ、戦姫、ミラクルの時はヘルマンで現れた。

だが、ここでは一体どこに行けばその迷宮に行けるのか。

ランスもそれが分からなかった。

 

「ぐぬぬ…何処にあるかわからんぞ」

「えー…」

 

ランスの言葉にアナウサが不満気な声を出す。

彼女は好奇心が強いカラーであり、この冒険をかなり楽しんでいたからだ。

メカクレも声こそは出さないが、不満そうだ。

 

「まあまあ。今の状況じゃ難しいでしょ。ランスも準備するの手伝ってよ」

 

レダはテントを畳み、荷物を纏めている。

ランスは不満そうにしながらも、荷物を纏めようとして、

 

「ん? 何だ?」

「どうした? ランス…!?」

 

ランスを手伝おうと近づいてきたケッセルリンクと共に突如として消える。

 

「え?」

「はれ?」

「ランス!? ケッセルリンク!?」

 

そこにはレダとアナウサ、メカクレの3人だけが残っていた。

 

 

 

―――カラーの森入口―――

 

「ようやくついたな」

「………」

 

カラーの集落に向かう森の入口、そこに二人の魔人が立っていた。

魔人メガラス、ホルスの魔人であり、世界最速の魔人。

魔人ガルティア、人の魔人であり、後世には伝説のムシ使いとして語り継がれる魔人。

 

「で、どうする?」

「………」

 

ガルティアの問にメガラスは答えない。

メガラスは非常に無口な魔人であり、魔王の前であっても喋る事は稀だ。

が、そのメガラスが珍しくガルティアを睨んでいた。

 

「…いや、悪かったよ」

 

ガルティアはメガラスから顔を背ける。

本来であれば、もっと早くにこのカラーの森へ来られていたはずだったのだ。

遅くなった理由はただ一つ、ガルティアが自分に食べさせた料理にあった。

 

「あんなに美味いんだけどな…」

 

事の発端はガルティアが何の気なしにメガラスに勧めた料理のせい。

メガラスがそれを食べた結果、メガラスは少しの間動けなくなってしまった。

そのせいでここに到着するのにも大分時間が掛かってしまったのだ。

 

「………」

 

メガラスが無言で森を進んでいく。

 

「まずは仕事をこなすとするかね」

 

ガルティアもそれを追って森の中に足を踏み込む。

こうしてカラーに新たな危機が迫っていた。

新たな魔人、メガラス、ガルティアという2体の魔人が現れていた。

そしてそれとは別に、新たな脅威もまたカラーへと迫っていたのは、魔人すらも知らぬ事だった。

 




ただ一人ランス10に出番が無かったメガラスですが、どんな戦い方するんでしょうね
やっぱりフォースなのかなぁ…イブニクルの中だけかもしれないけど


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